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第79回IMF・世界銀行年次総会 加藤財務大臣総務演説(令和6年10月25日 於:ワシントンD.C.)

1.世界経済・日本経済

 世界経済は全体として持ち直していますが、地政学的な緊張が重大な下方リスクとなっています。低所得国を含む多くの国での債務コストの増加や、為替市場を含む金融市場における高いボラティリティにも留意が必要です。ロシアによるウクライナ侵攻は、世界経済の不確実性を高める最大の要因であり、改めて、最も強い言葉で非難します。その上で、IMF及び世銀グループ(WBG)によるウクライナ支援の進展を歓迎します。

 日本経済は、春闘における33年ぶりの高水準の賃上げ、史上最高水準の設備投資などを実現し、デフレ脱却のチャンスを迎えています。賃上げと投資が牽引する成長型経済を実現しつつ、財政状況の改善を進めることで、力強く発展する、危機に強靭な経済・財政をつくります。

2.IMF及びWBGへの期待

 米国ニューハンプシャー州ブレトンウッズにてIMF及び世界銀行(国際復興開発銀行(IBRD))の設立が合意されてから今年で80周年を迎えます。二度目の世界大戦へと至る過程から得られた教訓を踏まえて創設された両機関の当初のミッションは、加盟国の戦後復興を支えることでした。即ち、IMFは、ドルを中心とする固定相場制を維持することで、世界経済の安定と貿易の拡大を促し、世銀は、インフラ等の再構築に必要な長期資金を低利で貸し付けることで、加盟国の経済復興を後押しする役割を果たしました。その後、変化する国際経済・金融情勢の中で、IMF及び世銀は適切にその役割を変遷させてきました。

 IMFについては、国際通貨体制が変動相場制に移行する中、各国の外貨準備の融通を通じた短期的な国際収支問題への対応を担うようになりました。その後も、IMFの機能は、低所得国支援や気候変動の影響等に対する加盟国の強靭性を高める支援も含む形へと拡大しています。

 世銀については、加盟国の異なる発展段階や多様な資金需要に応じるため、中所得国への支援を中心とするIBRDに加え、国際開発協会(IDA)を通じて低所得国への支援を強化するとともに、国際金融公社(IFC)及び多数国間投資保証機関(MIGA)を通じて途上国における民間資金動員の促進にも貢献してきました。近年は、気候変動や感染症等、国境を越えて広がる地球規模課題の解決にも重要な役割を果たしています。

 現在、世界経済は、気候変動に伴う災害の頻度と規模の激化、パンデミックの発生、地政学的緊張の深刻化、人口動態の変化、そして劇的な技術革新等による大きな構造変容に直面しています。こうした中、ブレトンウッズ80周年にあたる本年は、両機関の今後の役割や在り方の議論を深める好機です。このような問題意識の下、以下では、IMF、WBG、それぞれへの期待について述べた上で、両機関が連携して取り組むべき課題について我が国の考えを示します。

① IMFへの期待

 まず、各国の国際収支に大きな影響を与える課題への対応というIMFのコアマンデートや、他の機関からの関与を引き出すIMFの触媒機能の重要性は今後とも変わらないものと考えます。

 その上で、世界金融危機を契機に創設され、パンデミックの影響に対応すべく拡大された「貧困削減・成長トラスト(PRGT)」を通じた低所得国支援の役割は、今後より一層重要性が高まることが予想され、IMFのコア業務と位置付けるべきです。

 日本も長年にわたりPRGTへの貢献を通じて低所得国を支援してきましたが、今後、コア業務として、その財源を円滑かつ確実に確保できる仕組みを整える必要があります。まずは先般の理事会の合意に基づき、全加盟国が協力すべきです。その上で、一般融資勘定の純益をPRGT利子補給金に安定的に移転可能とすべく、協定改正も含めた議論が必要と考えます。

 IMFの能力開発は、融資・サーベイランスと並ぶ重要な業務であり、「能力開発戦略レビュー」を踏まえた更なる強化が必要です。その際、融資、サーベイランス及び能力開発を関連付け、より一層統合的に提供することが必要です。

 日本は、IMFの能力開発活動の重要性に鑑み、長年にわたり最大のドナーとして貢献してきました。今後、能力開発がより一層重要となっていくことを踏まえれば、コア業務として、メンバー国からの自発的な財政貢献の位置付けも含め、財源の在り方について改めて議論すべきです。

 技術革新への対応も重要です。特に、途上国を含め、様々な国で中央銀行デジタル通貨(CBDC)導入に向けた検討が進展する中、金融安定性や資本フロー、金融政策や国際通貨システムに及ぼし得る影響も念頭においた CBDCの制度設計や規制の実施が重要です。

 この点、IMFの進めている「CBDCハンドブック」が最新の知見を取り入れながら充実・更新され、各国の政策当局者のCBDC導入に係る適切な判断とリスク対応に資するものとなるよう、日本は引き続き支援していく方針です。

 国際金融システムの強靱性と十全性の保持に向けて、規模の大きな加盟国の構造問題が、貿易や投資を通じて、他の加盟国や世界経済に負の波及効果を与え得るリスクにも留意が必要です。加盟国が建設的な対話を通じてこの問題を解決できるよう、IMFには、他の国際機関とも連携しつつ、サーベイランス機能等を活用して、客観的な議論の土台を提供することを期待します。

 最後に、クォータの見直しについて申し上げます。クォータはIMFの在り方を体現する、組織の基盤です。だからこそ、第16次増資を着実に実施すべきです。

 そして、第17次増資のアプローチについて議論をする際には、上述のとおり、IMFのコア業務と位置付けるべき低所得国支援や能力開発等への加盟国からの財政貢献も勘案すべきであり、その扱いも含め、IMFの役割の議論と併せて、包括的な検討をすべきです。

② WBGへの期待

 世銀改革について、まず、日本は、業務モデル及び財務モデルの見直しを含む、より良くより大きな銀行(better and bigger Bank)に向けた取組が進展していることを高く評価します。

 業務面では、危機対応ツールキットの円滑な導入を歓迎し、特に脆弱性の高い低所得国においてその活用が進むことを期待します。また、地球規模課題プログラム(GCP)の進捗及びWBGアカデミーの開始を支持するとともに、こうした取組を通じてOne WBGアプローチが一層推進されることを期待します。また、WBGが進める初のデジタルアカデミーの本年末までの日本開催等を通じ、デジタル分野で取組が強化されることを期待します。

 財務面では、まず自己資本の十分性に関する枠組み(CAF)レビューの提言に沿った取組の継続が重要であり、WBGによるこれまでの取組を評価します。また、日本が拠出を表明したポートフォリオ保証プラットフォーム(PGP)や「居住可能な地球基金(LPF)」を含む「資金インセンティブのための枠組み(FFI)」に関して、その進捗を歓迎します。加えて、日本は、IDAについて、その低所得国支援に果たす役割の重要性に鑑み、引き続き、相応の貢献をしてまいります。

 途上国による持続的な成長を後押しするには、民間資金動員の強化も不可欠です。IFCが新しいビジョンの下、IDA国及び脆弱・紛争国への支援を強化すること、及びMIGAが人材増強を通じてWBG保証プラットフォームを主導することを期待します。

 次に、国際保健については、次なるパンデミックへの予防・備え・対応の強化のための継続的な取組と、その基盤となる保健システム強化やユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けた取組を両輪で進めることが必要です。来年東京に設立予定の「UHCナレッジハブ」は、UHC達成のための国際的な拠点として、特に保健財政に重点を置き途上国の財務・保健当局の人材育成を支援するものであり、早期設立に向けて、WBGと世界保健機関(WHO)が連携して取り組むことを期待します。

 最後に、気候変動については、開発との両立を図りつつ、緩和と適応の両面から各国の事情を踏まえた野心的かつ現実的な移行の道筋を構築することが必要です。緩和においては、日本は、ネット・ゼロ実現に向けて、RISEパートナーシップを通じ、低・中所得国がクリーン・エネルギー製品のサプライチェーンにおける役割を強化することを期待します。また、適応においては、防災の主流化や自然災害に強いインフラの整備が重要です。日本は、世界銀行東京防災ハブや「質の高いインフラパートナーシップ基金」を通じ、WBGのこうした取組を支援していきます。

③ IMF・WBG間の連携強化

 最後に、両機関が連携して取り組むべき課題として、債務問題への対応、流動性の問題に直面する途上国への支援、及び国内資金動員(DRM)の強化について、日本の考えを示します。

 まず、途上国が中長期的に開発課題を解決していくためには、債務の持続可能性の回復が喫緊の課題です。低所得国については、「共通枠組」の予測可能で、適時の、秩序立った、連携した方法での実施が重要です。中所得国の債務再編については、日仏印の主導の下、パリクラブ・非パリクラブの垣根を越えた協調枠組みの下で迅速に合意に至ったスリランカのケースでの経験と教訓を、今後発生し得る他のケースに適用すべきです。

 また、データ共有の取組等を通じた債務透明性の向上も解決すべき重要な課題です。この点、日本とWBGの協調による、債務関連データを共有する取組について、定例化と他の債権国への参加を呼びかけます。

 こうした足元の努力に加え、債務問題の再発防止に向け、今後、債務持続可能性に配慮した貸付慣行の定着に向けて、IMFとWBGには、公的債務にかかるグローバルラウンドテーブル(GSDR)等を通じた加盟国間の対話や政策協調の促進を期待します。

 また、外部環境が激変する中、健全なマクロ政策にコミットしつつも流動性の問題に直面する国に向けた、IMF・WBGによる「三本柱のアプローチ」の提案を評価し、議論の前進を期待します。今後、具体的なケースへの対応を検討する際は、債務持続可能性分析をベースとすること、安易な資金提供が構造改革の意欲を損ねるモラルハザードに留意すること、及びチェンマイイニシアティブの下に創設された「緊急融資ファシリティ」等の地域金融取極との連携も考慮することが重要です。

 最後に、構造問題を解決し、持続的な成長を実現する上で、DRMは、特に重点を置くべき分野です。日本は、IMFとWBGが行う「共同国内資金動員イニシアティブ」を評価するとともに、IMF・WBGを中心に、関係国際機関から成る「税に関する協働のためのプラットフォーム」の役割を発展させ、技術支援の戦略を共有し、その実効性及び効率性を更に高めることを期待します。

 各国が直面する税分野の課題を把握し、的確な技術支援のニーズを特定するため、メンバー国・非国家地域の税の専門家が一堂に会して、国際機関と共に定期的な対話を行うことを慫慂します。

3.結び

 日本は、1952年のIMF及び世銀への加盟以来、多国間主義の精神をもって両機関を支えてきました。

 今後も、両機関が、世界経済の構造変容に適応し、加盟国の抱える問題やグローバル課題により一層効果的に対応できるよう、日本は、両機関の改革に関わる議論を主導し、そのミッションの実現に貢献してまいります。また、日本は、IMF及びWBGにおける人的貢献にも引き続き取り組みます。

(以 上)