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第78回世界銀行・IMF年次総会 鈴木財務大臣総務演説(令和5年10月13日 於:モロッコ・マラケシュ)

 まず、モロッコ中部及びアフガニスタン西部で発生した地震並びにリビア東部において発生した洪水によりお亡くなりになられた方々並びにその御家族に心からの哀悼の意を表するとともに、負傷者の方々にお見舞いを申し上げます。また、震災後間もない中、年次総会をホストしたモロッコ政府及びマラケシュ市民の皆さまの温かい歓迎に心より深く感謝を表したいと思います。

 我々は、ロシアのウクライナに対する不法かつ、不当で、いわれのない侵略戦争を引き続き非難します。ロシアの戦争は、悲劇的な人命の損失と財産及びインフラの破壊を引き起こし、世界経済の課題を悪化させています。ロシアのウクライナに対する不法な戦争の即時の終結を求めます。これは、世界経済の見通しに対する最大の不確実性の1つを解消するものです。

1.世界経済・日本経済

 世界経済については、ロシアの戦争や、エネルギー・食料不安などにより、その回復は緩やかなものにとどまっています。加えて、インフレはピークを越えたものの根強く、多くの国々がインフレ対応のため金融政策の引締めを続ける中、低所得国・中所得国の債務状況はより厳しくなっています。

 こうした中、財政政策については、財政支援を平時に戻し、財政の持続可能性を確保することが重要であり、脆弱層への支援は一時的で的を絞ったものとする必要があります。

 世界的に金融引締めが継続される中、為替市場を含め、金融市場の変動が高まるリスクに留意すべきです。為替相場については、ファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが重要であり、過度な変動は望ましくありません。場合によっては、適切な対応が求められることもあります。

 また、新型コロナウイルスやロシアの戦争等の影響により、国境を越えた経済活動において、経済の効率性と強靭性の両方を達成することが一層重視されるようになっています。今後のIMFによる分析は、こうした点を踏まえるべきです。

 日本経済は、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待されます。他方で、海外景気の下振れが日本の景気を下押しするリスクのほか、物価上昇、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要があります。こうした中、日本は、足元の急激な物価高への対策や持続的賃上げ・国内投資の促進等の観点から、総合経済対策の策定に取り組んでいるところです。

2.IMF及び世銀グループへの期待

 まず、IMF及び世銀グループ両機関に対する期待を申し上げます。

 債務の脆弱性が、低所得国に加え一部の中所得国でも一層高まっています。途上国が中長期的に開発課題を解決していくためには、債務の持続可能性を回復することが喫緊の課題です。

 低所得国については、「共通枠組」の下、債権者委員会による債務措置を迅速かつ予見可能な形で実施することが必要です。中所得国の債務再編については、スリランカの債権国会合が発足してから半年間で大きな進展があったことを歓迎するとともに、一刻も早い債務再編合意に期待します。

  債務危機を未然に防ぐには、平時から債務データの透明性・正確性を高める取組が不可欠です。日本と世銀の協調により実現した、債権者が世銀に共有した貸付データと世銀の保有する債務データとを突合する取組に係る、世銀の作業を高く評価するとともに、更なる分析作業の進展を求め、他の債権国にも参加を呼びかけます 。この分野で高い専門性を持つ世銀とIMFが、公的債務に係るグローバルラウンドテーブル(GSDR)等の議論も踏まえ、債務透明性に係る分析や債務国に対する能力構築支援をより一層強化することを求めます。併せて、IMFが債務の透明性を高めるために必要な改革オプションを推進することを期待します。また、これらの取組が、民間債権者による債務透明性向上に係る取組を促進することを期待します。

 さらに、低所得国の債務持続可能性分析の見直しが、世銀とIMFの緊密な意思疎通を通じて行われることを期待します。

 次に、IMFに対する期待を申し上げます。

 世界経済が複合的な危機に直面する中、加盟国が直面する課題への対応に一層貢献できるよう、IMFをその資金規模や機能、ガバナンスの観点から一層強化すべきです。

 IMFの資金規模については、第16次クォータ一般見直しの下で、本年12月の期限までに増資に合意することが不可欠です。期限が迫る中、比例増資が合意に至るための唯一の現実的な選択肢であり、日本は50%の比例増資を支持します。

 IMFの機能面の強化も重要です。加盟国の危機予防能力の向上につながる、予防的アレンジメントの改善を歓迎します。また、一般資金勘定(GRA)及び貧困削減・成長トラスト(PRGT)のアクセスリミットの引上げを検討する必要があります。サーチャージの閾値の時限的な引上げによる借入国の負担軽減なども、検討対象になりうると考えます。

 クォータ増資の実現によるIMF融資能力の拡大には、低所得国支援を実施するPRGTの資金基盤強化も一層重要となります。日本は、既にコミットしたSDRチャネリング40%の残額を全て預金・投資勘定(DIA)へ提供すること等により、追加的に約4.1億ドル(約3.1億SDR)をPRGT利子補給金へ貢献します。これにより、日本の貢献は合計約6.3億ドル(約4.8億SDR)となり、2021年7月に設定された、世界全体の利子補給金調達目標の総額の20%を超えるシェアとなります。PRGTの持続可能性確保のため、IMFに対して、加盟国からの資金貢献に向けた働きかけを一層強化するとともに、内部資金活用に向けたあらゆる検討を早期に開始することを求めます。また、外貨準備としての安全性・流動性が満たされる等の条件が満たされれば、日本は、MDBsを通じたチャネリングも選択肢として検討します。

 IMFのガバナンス改革については、途上国の声をIMFにおける意思決定によりよく反映させるため、25人目の理事をサブサハラ・アフリカから追加することを支持します。また、5人目の副専務理事の追加も検討する用意があります。

 この他、IMFが取り組むべき課題について申し上げます。

 CBDCの導入が多くの国で初期段階・検討段階にある中、政策当局者にとっての実務的な指針として、IMFのCBDCハンドブックは極めて重要な取組であり、その基礎となるIMFのFintech notesの公表等、作業が着実に進展していることを歓迎します。CBDCハンドブックの速やかな公表を期待するとともに、今後の更なる分析や実際の導入例も踏まえ、他の国際機関や各国当局とも連携しつつ、IMFがハンドブックを発展させていくことを期待します。

 また、IMFは、脆弱国・紛争被害国(FCS)や低所得国を中心とした国々の高いニーズに応え、債務管理や歳入動員といった伝統的分野に対する能力開発支援を引き続き実施すべきです。日本は、ウクライナの経済安定化及び戦後の復興を支援していくため、ウクライナマルチドナーファンドへの貢献を通じ、国内歳入動員に関する能力開発を支援していきます。日本は、IMFの能力開発分野における長きにわたるリーディング・パートナーとして、今後とも積極的にIMFの取組を支援していきます。

 次に、世銀グループに対する期待を申し上げます。

 まず、世銀改革について申し上げます。

 日本は、ビジョンとミッション、業務モデル、財務モデルの見直しを含む、世銀グループでのこれまでの作業の進捗を高く評価し、春総会に向けて残る課題について更に議論を深めることを期待します。

 日本は、新しいビジョンとミッションにおいて、「極度の貧困の撲滅」と「繁栄の共有」という二大目標を維持しつつ、地球規模の課題への対応との相互補完関係が明確化されることを歓迎します。

 新しいビジョンとミッションを実現するため、日本は、世銀グループに対し、One World Bankアプローチの推進、国内資金や民間資金の動員強化、コーポレートスコアカードを通じた開発効果の向上を求めます。途上国が国内資金動員を強化するためには、その基盤となる税制度の整備や税務執行能力の向上が不可欠です。日本は、世銀グループに対して、受益国の実情に合わせたPublic Finance Reviewの実施やIMF・ADB・OECD等との連携強化を求めます。

 地球規模の課題への対応には、巨額の開発資金が必要であり、世銀グループ自身が融資余力を拡大していくことも不可欠です。そのためには、まず自己資本の十分性に関する枠組み(CAF)レビューの提言に沿って既存資金の効率的な活用に取り組むことが重要です。日本は、世銀グループの融資余力の拡大を後押しすべく、今後ポートフォリオ保証プラットフォームへの拠出を通じて、数十億ドル規模の融資余力の拡大に貢献する用意があります。

 国際公共財への対応を各国が強化するにあたり、その財務負担を軽減するための譲許的資金の提供も求められます。有限の譲許的資金を効果的に活用するには、真に支援を必要とする低所得国や、所得水準が低く市場アクセスの限られる脆弱な中所得国に対象を絞って支援していくことが重要です。こうした観点から、日本は譲許性原則の議論を支持するとともに、譲許的資金の配分枠組みについて理事会が更に議論を深めることを期待します。また、日本は、低所得国支援に果たす国際開発協会(IDA)の重要性に鑑み、引き続き相応の貢献をする考えです。

 膨大な開発ニーズに対応するには民間資金の動員が不可欠であり、IFCやMIGAが果たす役割はますます大きくなっています。MIGAが新しく設立された民間セクター投資ラボとも連携し、効果的な保証プログラムを開発していくことを期待します。

 次に、国際保健について申し上げます。我々は、次のパンデミックに備えて平時から「予防」、「備え」に取り組むとともに、パンデミックが発生した場合の「対応」の強化を図っていく必要があります。日本は、今年8月に「G20財務・保健合同タスクフォース」が世銀及びWHOとともに作成した「パンデミックの対応のためのファイナンスの選択肢及びギャップのマッピングに関する報告書」を歓迎し、年内の最終化を期待します。当報告書が特定した既存の資金メカニズムのギャップを解決するため、パンデミック発生時に迅速かつ効率的に必要な資金を供給する革新的なメカニズムの構築は喫緊の課題であり、日本として更なる作業を世銀グループ等と連携して進めていく所存です。加えて、今後保健システム全体の強靭性の強化を目的とした新基金が設立された際には、10百万ドルの拠出を行う用意があります。

 三点目に、気候変動問題について申し上げます。日本は世銀とともに、新たなパートナーシップであるRISEの策定を主導し、11日にその立ち上げイベントを世銀と共同で開催することができました。クリーン・エネルギー分野で、低・中所得国の自国産業の多様化・高付加価値化を通じた持続可能な発展や、関連製品の安定供給を通じたネットゼロに向けた取組を支えるため、引き続き世銀や関係機関、同志国と協力して取組を進めていきます。

 最後に、デジタル化についてです。デジタル化は、世界経済の成長の源泉であると同時に、社会サービスの普及等を通じ成長をより包摂的にし得るものです。世銀グループには、①データへの信頼性向上やデジタル技術の活用を促進するためのガバナンスの構築に係る支援、②デジタル技術の保健、防災、教育、交通分野等への活用に係る支援、③デジタル格差への対処に係る支援を期待します。

3.結び

 世銀グループ及びIMFがこれまで果たしてきた大きな役割と国際社会に対する多大な貢献に敬意と感謝を表すとともに、今後とも、両機関がそれぞれの比較優位を踏まえつつ適切に役割分担した上で連携しながら、困難な世界的諸課題に対処し、強固で持続可能かつ均衡ある包摂的な成長や貧困の削減の実現に尽力していくことを期待して、結びの言葉とさせていただきます。

(以 上)