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第76回IMF・世界銀行年次総会鈴木財務大臣総務演説(令和3年10月15日 於:ワシントンD.C.)

1.世界経済・日本経済

 世界経済は、異例の政策対応や、新型コロナウイルス(COVID-19)のワクチンの普及により、危機脱却に向け確実に進んでいます。しかし、変異株の拡大やワクチン接種の遅れ、蓄積した政府債務といった様々なリスクや不確実性が大きく残っています。また、ワクチン接種の進捗状況の違いなどにより、グローバルな経済・社会状況のばらつきは一層拡大しています。
 安定的な回復と持続的な成長のためには、足下において、必要とされる間は、取りうる全ての政策措置を動員しつつ、ポストコロナを見据えた、潜在成長を引き上げる各種施策や、構造改革を通じた生産性の加速に取り組むことが不可欠です。また、回復が確かなものとなれば、財政の長期的な持続可能性を確保していく必要があります。加盟国には、こうした中長期的な視点も踏まえた上で、焦点を絞った包括的な政策に取り組んでいくことが求められます。

 日本経済は、引き続き厳しい状況にはあるものの、輸出や設備投資を中心に、持ち直しの動きが続いています。先行きとしても、内外の感染状況の動向や、金融資本市場の変動等の影響を注視する必要はありますが、ワクチン接種の進展や海外経済の改善を受けて、回復していくことが期待されます。政府としても、財政や金融セクターの健全性にも目を配りながら、10月4日に発足した新政権の下、新たな経済政策によって、成長と分配の好循環を実現し、ポストコロナの新しい社会を開拓してまいります。 

2.IMF及び世銀グループへの期待

 まず、両機関に対する期待を申し上げます。

 途上国の持続的な成長のためには、健全なマクロ経済運営に加え、債務の透明性・持続可能性の確保も不可欠です。

 昨年のG20・パリクラブによる「共通枠組」の合意以後、まだ一件も債務措置を実施していません。2021年末に債務支払猶予イニシアティブ(Debt Service Suspension Initiative:DSSI)が失効します。こうした中、G20は、「共通枠組」を適時かつ秩序だった方法で連携して実施することにコミットしました。G20が、この枠組の下で、予見可能な時間の枠内で、期限を区切って、途上国の債務脆弱性に効率的に対処することを期待します。既に「共通枠組」を要請した3か国に債務措置を早急に実施することが必要です。今後債務脆弱性を抱えた国を幅広く支援するにあたり、「共通枠組」が有効に機能することを期待します。

 将来の危機を未然に防ぐ観点から、世銀・IMFによる債務透明性に係る分析や債務分野の技術支援の一層の強化に期待します。加えて、世銀・IMFによる債務国のデータ突合(Debt Data Reconciliation:DDR)の進展を求めます。DDRを通して、債務国が正確に債務データを把握し、適切に債務を管理する能力が向上することが重要です。また、突合済みの債務データに基づき正確な債務持続可能性分析が実施されることは、債務国・債権国双方にとって重要なことです。

 次に、IMFに対する期待を申し上げます。

 途上国は、今般の危機の影響を特に大きく受けており、そうした国々への支援においてIMFが極めて重要な役割を果たしてきたことを、日本は高く評価します。

 6,500億ドルのSDR新規配分が8月に実施され、併せて、SDRの使用における透明性・説明責任向上のための手当が導入されたことを歓迎します。今般の新規配分は、危機によって生じた資金ニーズに迅速に対応したものであり、日本は高く評価します。

 新規配分されたSDRを活用し、低所得国をはじめ脆弱国を支援するためのSDRの融通(チャネリング)に、日本は貢献してまいります。提示されている選択肢においては、貧困削減・成長トラスト(PRGT)の強化が日本にとっての優先事項です。IMFからの要請を踏まえ、この度、日本はPRGTに対して、昨年4月に将来行うと位置づけていた18億SDR(26億ドル)を含めて融資原資に28億SDR(40億ドル)、利子補給金に5,600万SDR(8,000万ドル)を新たに貢献することを表明します。これらにより、我が国は、引き続き、PRGTのトップドナーとしての責任を果たしてまいります。

 強靭性・持続可能性トラスト(RST)については、気候変動やパンデミックへの備えを含めた中長期の構造的課題にマンデートの範囲内で対応するものであり、新設に向けたIMFの検討を歓迎します。多くの加盟国がこの重要な取組に対し貢献するためには、加盟国の外貨準備であるSDRの流動性・安全性がしっかりと確保されることが不可欠です。この点、RST債権が債務再編の対象とならないPreferred Creditor Statusを保持することに加え、融通したSDRが信用リスクから適切に保護されることが極めて重要です。これらの点について、IMFが具体化に取り組むことを求めます。

 また、SDRの取引需要は、SDRチャネリングの影響を受けて増加することが予想されます。SDRを融通した加盟国は、任意交換取極を通したSDR取引にも公平に貢献するべきであり、この実現に向けたIMFの取組に期待します。

 大災害抑制・救済基金(CCRT)は、これまでCOVID-19の影響を受けた低所得国のIMFへの債務返済を猶予する重要な役割を果たしており、CCRTが来年4月までの支援を実施することが重要です。このため日本は、CCRTに対する昨年の1億ドルの貢献に加え、新たに5,000万ドルの追加貢献を行いました。他のドナーも続くことを期待します。

 この他、IMFが取り組むべき課題について申し上げます。

 一般資金勘定(GRA)の資金基盤のあり方について、日本として以下の点が重要と考えます。
 はじめに、IMFが対応すべき資金ギャップは、危機の有無や規模によって大きく変動します。そうした中、全てをクォータで賄おうとすると、加盟国は自らのセーフティネットを平時からクォータに振り分ける必要があり、これは効率性が高いとは言えません。したがって、テイル・リスクに対しては、新規借入取極(NAB)や二国間融資取極(BBAs)といった借入資金で対応すべきであり、これらの借入資金を恒久的なリソースとして位置づけるべきと考えます。また、テイル・リスクに遅滞なく対応していくために、借入資金は柔軟かつ迅速に発動されるべきであり、こうした点についての議論を求めます。併せて、SDR新規配分の迅速性、及びSDRチャネリングの影響を含めた国際流動性の増加の両面についても、IMFの資金基盤の議論において、しっかり分析・考慮することを求めます。
 次に、クォータの見直しに当たっては、借入資金及びPRGT・能力開発等の財源が加盟国からの自発的な資金貢献で賄われていることから、クォータ計算式にこうした自発的資金貢献を組み込むことで、貢献へのインセンティブを十分に確保することを求めます。その際、2020年以降のデータはCOVID-19危機の影響を大きく受けることとなるため、議論の基礎となるデータが、各国経済の状況をしっかりと反映し、信頼性の高いものとなるよう、データの扱いについての議論を求めます。

 中央銀行デジタル通貨(CBDC)やその他のデジタルマネーについて、国際通貨システムに影響を与え得るとの観点から、IMFがコア・マンデートとして取り組むことを強く支持します。IMFのサーベイランスや能力開発は、加盟国がCBDCやその他のデジタルマネーを適切に開発し、あるいは受け入れるにあたって、極めて重要な支援となります。デジタルマネーは日進月歩の分野であり、その利用が短期間で国境を越えて拡大する可能性もあることから、IMFがこれらの取組を速やかに実施・強化していくことを要請します。日本は、IMFの能力開発に対する長きにわたるリーディング・ドナーとして、積極的に支援する用意があります。

 IMFの対外バランス評価(EBA)の手法は、為替レートの評価を経常収支の評価と結び付けることを基本的な考え方としています。しかし、
 ・先進国を中心に、経常収支のうち、為替レートによる調整が機能しない所得収支の占める割合が大きい国が増えていること
 ・経常取引と無関係の資本取引が拡大し、為替レートに大きな影響を与えるようになっていること
 から、こうした考え方の妥当性は失われています。EBAの手法の見直しにおいて、所得収支や資本取引の影響を適切に踏まえた改訂を行い、その上で、為替レートと経常収支の評価と結び付ける考え方を再考するよう、IMFに強く要請します。

 次に、世銀グループに対する期待を申し上げます。

 世銀グループが、迅速にCOVID-19対策支援を実施してきたことを高く評価します。そのうえで、危機からの脱却とともに、将来の保健危機の予防・備えも重要であり、かねてより日本が推進してきたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成に向けた国際保健の取組みを世銀グループが一層深化させることを求めます。さらに、Global Health and Finance Board for Pandemic Prevention, Preparedness and Response設立に向け、世銀グループが中核的な事務局機能を果たすことを期待します。

 人的資本の強化の観点からは、栄養の側面も考慮したUHCの推進が重要です。本年12月に日本が主催する栄養サミットに向け、栄養分野において世銀グループと連携して途上国支援に貢献していきます。

 気候変動問題について、途上国、とりわけ主要排出国においても、温室効果ガスの最大限の排出削減を進めることが不可欠です。この点、世銀グループのClimate Change Action Plan 2021-2025 (CCAP)を歓迎します。世銀グループには、エネルギー計画の策定及び実施の支援と、継続的なモニタリングを行うことを期待します。その上で、個別プロジェクトについては、累積的な温室効果ガスの排出を抑制する観点から最良と思われる方策が採られるべきです。日本は、こうした考え方の下、今般「MDBsのエネルギー支援に係る日本の提案」(PDF:259KB)を取り纏めました。これに沿った世銀グループの支援と連携し、信託基金への拠出等を通じて途上国の気候変動問題への対応を支援していきます。

 重要基幹インフラや社会サービスの整備等、あらゆる場面でデジタル開発が重要になっています。こうしたデジタル開発の利点が適切に発揮され、その成果が失われることがないよう、サイバーセキュリティー・データプライバシーの確保が必要不可欠です。世銀グループの支援において、この観点を主流化することが重要です。

 最後に、特にCOVID-19の影響が大きい低所得国について、世銀グループによる継続的な支援は極めて重要です。本年12月に東京でホスト予定のプレッジ会合に向け、国際社会が連携して取り組むことが重要です。

3.結び

 IMF及び世銀グループがこれまで果たしてきた大きな役割と国際社会に対する多大な貢献に敬意と感謝を表すとともに、今後とも、それぞれの比較優位を踏まえつつ適切に役割分担した上で連携しながら、増え続けるであろう困難な世界的諸課題に対処し、強固で持続可能かつ均衡ある包摂的な成長や貧困の削減の実現に尽力していくことを期待して、結びの言葉とさせていただきます。


(以上)