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「IT革命の金融・経済面への影響」に関する蔵相報告書の概要

「IT革命の金融・経済面への影響」に関する蔵相報告書の概要
(2000年7月8日 福岡)

 

(1) マクロ経済への影響と政策にもたらす意義
ITの影響は、まだ初期の段階にあり、その正確な時期、性格及び強さを予想することは難しいものの、IT革命は生産性の上昇、資本の増加率の向上などを通じ各国の潜在成長力を上昇させる可能性を有する。一方、IT関連投資の拡大や電子商取引などによる消費者向けの新たなサービスの発達を通じて、需要面における拡大効果も有している。
このように、供給面における潜在成長力の上昇と需要の拡大がともに進展する結果、ITは各国におけるより強い成長に貢献し得る。雇用についても、全体としてはプラスの影響が期待できる。
IT革命の果実を最大化するための政府の最も重要な役割は、民間部門の創造性を生かすような環境の整備にある。この観点から、健全なマクロ経済政策は引き続き、あるいは一層不可欠なものとなっている。成長及び安定を重視したマクロ経済環境は、投資を刺激し、企業や消費者が将来の計画を確信を持って行い、ITの提供する機会を生かすことに資する。
IT革命は、マクロ経済政策が行われる環境をより複雑かつ不確実なものにするという面もある。IT革命は、初期の段階では、その生産性向上の効果は見極めにくく、投資のリターンとリスクの判断も難しくなる。また、グローバルな資本移動の活発化を背景に、IT革命の進捗の違いから来る経済パフォーマンスの相違が各国間の資金フローにより増幅され得る。
より長期的には、電子金融取引や電子マネーが各国経済の主要な要素になるにしたがって、貨幣総量とその金融政策上の役割、より一般的に金融システム全体の安定性への影響もあり得る。
構造政策分野では、障害となっている規制の撤廃、労働市場の適応性の強化、適切な競争政策等の整備、開放的な貿易システムの維持、効率的な金融システムの整備が引き続き重要である。必要な構造改革に資するとの観点から、公的資源の配分にあたっては、効率性と質の確保が重要である。

 

(2) 金融分野へのインプリケーション
金融分野は、IT、特にインターネットにより、飛躍的な取引コストの削減と消費者利便の向上が可能になっている。また、越境取引の容易化、「仮想総合金融モール」など新たな金融サービスの提供、デリバティブ取引の発達や異業種から金融業への参入などの革新的な動き、が生じている。
他方、電子金融取引において、取引の安全確保、消費者保護、プライバシー保護を確保していくという課題が生じる。
金融の規制・監督は、利用される技術に対して中立的であることを旨としつつ、電子金融取引の特性に応じ、上記のような課題に対応していくことが必要である。
電子金融取引の規制・監督に関し国際的な協力を促進していくべきであり、バーゼル銀行監督委員会やIOSCO(証券監督者国際機構)等における作業を歓迎、慫慂する。作業にあたっては、以下の理念を基本とする。
a)電子金融取引などの取引の態様を問わない、一貫性のある監督・規制
b)より複雑なビジネス環境における透明な監督・規制と、新たな展開の実情に不断に適応していく柔軟性
c)健全性に関するリスクを生じさせない範囲内で、技術革新を不当に抑制することなく、電子金融取引の潜在的可能性を促進
d)電子金融取引の特性に即した取引の安全と利用者保護
e)越境取引等の増加に応じた監督当局間の連携の強化
各国が電子金融取引の発展に伴うリスクや課題を理解している監督官を育成することを慫慂する。十分な監督資源がこの問題に用いられることが必要である。
重要性を増しつつある金融ビジネス特許についての政策が、今後の金融市場における革新や競争に影響を持ち得る。ビジネスモデル特許の取扱いについての共通の理解を促進するとの観点から、現在行われている特許専門家による共同作業を歓迎し、更なる発展を期待する。各国の金融専門家が特許当局と会合し、お互いに関心を有する問題等について議論するよう要請する。

 

(3) 税及び税関手続き
電子商取引の発達は、取引のデジタル化、取引仲介者の減少、国際化の更なる進展等により、税制や税務行政に影響を及ぼす。
電子商取引にも、中立、公平、簡素といった課税原則が当てはまる。既存のルールについて何らかの調整が必要とされる場合があるかもしれないが、それは電子商取引と従来の取引とを取引形態によって差別するものであってはならない。
OECDにおいて、効率的な税務行政をいかに確保するか、所得課税にかかる既存の国際ルールを電子商取引にいかに適用すべきか、越境のオンライン取引への消費課税をどうすべきかを中心に民間等からの参加も得て検討が行われており、更なる進展を奨励する。
税関手続きに関し、電子的な税関申告の標準化及び簡素化への取組みに関する税関業務の専門家の報告を了承する。

 

(以 上)