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   6月24日付けの貴書簡等によっても、残念ながら我々が従来から抱いていた貴社のソブリン債の格付けとその方法論に対する疑問点を解消するにいたっていない。

 まず第一に、各国間の格付けの差の客観的な理由が引き続き説明されていない。デフォルト・リスクを反映しているというが、それなら各国についてどういうタイム・スパンで、どういうシナリオを想定しているのかを明確に説明すべきである。また、貴社の回答や公表資料では、各国政府の政策の方向性に関する記述はみられるが、それがどのように各国間の客観的な格付けの差につながるのかという説明が欠落している。

 第二に、貴社も、ソブリン債の格付けに当たっては、財政指標だけではなく、経済のファンダメンタルズも考慮しているとしているが、貴社の回答や公表資料は、結局は単純に政府債務のGDP比率等を引き合いにして特定の格付け水準の結論を出している。格付けの説明変数は、財政指標のみでないはずである。国債の格付けに当たって、なぜ、財政指標がほとんど常に経済のファンダメンタルズに比し、圧倒的に重要であるのか、明確に説明されたい。

   ところで貴社は、日本の政府債務が「未踏の領域」に入ると主張しているが、巨額の国内貯蓄の存在という強みを過小評価しており、また、戦後初期の米国はGDP120%超の債務を抱えていたし、1950年代初期の英国は、同200%近くの債務を抱えていたという事実を無視している。また、貴社の格付けは、日本政府の債務支払い能力に対する市場の信頼を反映した低い実質金利とどのようにして整合性をとっているのか説明がされていない。貴社の分析がマクロバランスを十分反映させていないことについては、市場関係者、エコノミストからも批判がある。     

   第三に、我々は、格付けは市場で重視されており、客観的で数量的な説明がないと市場をミスリードすることになると考えているからこそ、こだわっている。貴社の5月の格付け引下げを市場は無視したが、将来影響を受けることもあり得る。ある国の政府や企業が不当にダメージを受けたときには損害賠償の対象になりうる。

   第四に、各国間の格付けの水準の差を決定する方法論について、財政指標以外の経済のファンダメンタルズをどう考慮したか、具体的な例を用いて敷衍していただきたい。貴社は、1970年代の英国の格付けが間違いであったことを認めたが、1980年代半ばの米国をはじめとする多くの国と日本の格付けが明らかに釣り合いがとれていないことについて、説明する義務があることは確かである。
最後に、私から2、3の点を付け加えておきたい。

   まず、貴社は日本の強い対外セクターは外貨建て格付けに反映されるとするが、それならば格付けはAAAでなければならない。
   また、貴社は、ソブリンの格付けは、標本数が少ないこともあって、その要素を統計的に有意な形で示すのは困難であると主張する。この主張は、ソブリン債の格付けの信頼性を著しく低下させるものである。それならば、デフォルトの前例のない先進国の格付けを行うのは無意味であり、格付けという形で示すのは、市場を無用に混乱させることになる。これを市場をはじめとして対外的に明確に公表すべきである。

   我々は、貴社と意見交換を継続することを有意義と考えている。その際には、各国間の格付けの水準の差に関係する要素をより明確に評価することが不可欠であろう。