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国の債務管理に関する研究会(第9回)議事要旨


国の債務管理に関する研究会(第9回)議事要旨

.日時 令和7年11月4日(火)16:00~17:30

.場所 財務省 国際会議室

.内容

1.当局からの報告

2.超長期国債市場アップデート 超長期債の需給構造を分析
  (JPモルガン証券株式会社 山脇貴史債券調査部長

3.タームプレミアムの上昇と金融機関の国債の買い入れ余力
  (日本経済研究センター 左三川郁子金融研究室長)
4.国債の安定消化に向けた課題
  (三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 大塚崇広シニア債券ストラテジスト)



まず、理財局から、令和7年度国債発行計画の変更、保有者層の多様化に向けたIR活動の取り組み及び諸外国における債務管理政策の動向等について、説明が行われた(資料1(PDF:1793KB))。

▶理財局からの説明概要は以下のとおり。

・6月20日に国債市場特別参加者会合、6月23日に国債投資家懇談会を開催した上で、令和7年度国債発行計画を変更した。具体的には、市場の状況等を踏まえ、7月から超長期債を減額し、中短期債等を増額した。

・海外IRに関して、令和7年4月から現在までの総括としては、金利上昇等を受けて、海外投資家からのJGBへの興味・関心を感じられる一方、厳しいコメントも多く寄せられている。こうしたことも踏まえ、海外IRに関する基本的な方針を確認し、これに沿って取組を進めている。

・具体的には、従前より日本国債に関心を持っていた主要投資家については、個別訪問に加えて、オンラインも活用したタイムリーで継続的なコミュニケーションを行っている。

・これまで接触が乏しかったような新規先についても、スモールミーティングやオンラインの活用等により基本的な情報を適切に提供し、効率的かつ積極的な関係構築に取り組んでいる。

 

・海外投資家からの関心事項については、6月の発行計画の変更までは、超長期ゾーンを中心とした金利上昇の影響やその対応方針について強い関心が寄せられていた。

 

・国債発行計画の変更後は、発行計画の変更を前向きに捉えたうえで、引き続き、今後の債務管理政策の在り方や経済・財政・金融政策の方向性と、その国債市場への影響等について、高い関心が寄せられている。

・各国の対GDP比の国債発行残高は、パンデミック対応や財政拡張により増加傾向にある。フローの発行額でみると、パンデミック対応による大幅な発行増加の後、一旦落ち着きが見られたものの、防衛費の増額等により、コロナ禍前の2019年対比で増加しているというのが似通った傾向。

・各国の主なトピックを紹介すると、まず米国では、7月の四半期声明において、利付債発行額は維持、T-Bill発行額は段階的に増額、買入消却額は増額となった。金融政策においては、先週のFOMCでQTの停止が決定された。また、レバレッジ比率規制については、今後見直され、国債が保有しやすくなる規制緩和が見込まれている。

・イギリスでは、2025年度の発行計画が4月の段階で既に変更されており、超長期ゾーンの需要減退や金利上昇を踏まえた年限短期化が実施された。また、BOEにおいては、超長期債に配慮したQTの運用見直しが行われたほか、ヘッジファンド等を意識した過剰レバレッジ抑制策も議論されている。

・フランスでは、歳出削減の提案が内閣不信任につながり、新内閣の予算案では年金改革が一時停止される等、政治・財政状況に混乱が見られた。これに伴い、ソブリン格付の引下げや見通しの変更、長期金利の上昇、イタリアとの金利逆転等が発生している。

・ドイツでは、3月の憲法改正で、一部の防衛・安全保障関連支出が債務ブレーキの適用除外となったことから、年度後半に中長期債を中心とした発行増額が予定されている。

・各国の債務管理当局者との面談や会合では、国債発行戦略における市場との対話の重要性、発行計画の柔軟性の持たせ方、シンジケーション等の発行方法の工夫、急激な市場変化への対応等が共通の関心事となっており、意見交換が行われている。

・投資家の動向に関しては、海外投資家の存在感の高まりや超長期債需要の減退を感じている当局が多く、投資家動向の的確な把握の重要性が改めて認識されている。特に海外投資家の属性把握については正確な把握が困難であるため、どのような工夫が可能か、各国とも悩みつつ、意見交換をしている状況。

 

続いて、JPモルガン証券株式会社の山脇貴史債券調査部長より、「超長期国債市場アップデート 超長期債の需給構造を分析」(資料2(PDF:2122KB))について説明が行われた。次に、日本経済研究センターの左三川郁子金融研究室長より、「タームプレミアムの上昇と金融機関の国債の買い入れ余力」(資料3(PDF:1004KB))について説明が行われた。最後に、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社の大塚崇広シニア債券ストラテジストより、「国債の安定消化に向けた課題」(資料4(PDF:743KB))について説明が行われた。その後、意見交換が行われた。

 

▶ メンバーからの意見の概要は以下のとおり。

・山脇氏の資料7ページに機関投資家別のタームプレミアムの指摘があり、大変クリティカルなポイントだと感じた。また、左三川氏の資料の3ページにある超長期債の主要国のタームプレミアム20年の推移を見ると、2008年ごろは各国の差が大きいが、22年以降のグローバルな利上げの局面以降、収束している。これらをあわせて考えると、クロスボーダーの債券取引が進んで、各国の超長期債市場で似たようなタームプレミアムを持つプレーヤーが増えたと考えられる。

・そうすると、日本で超長期債のバイバックを実施して金利を抑えようとしても、グローバルなファクターがはたらき、日本の取組みがあまり超長期債に効かないということもあり得るのではないか。

・大塚氏が指摘された予見可能性は非常に重要。アメリカが昔の孤立主義に戻っていくと、基軸通貨国としてどんどん国債を発行して安全資産をグローバルに供給してきた流れが止まることになる。そういうときに、G7という老舗先進国の国債が代替的な安全資産として使わる余地があり、その中で日本国債も使われるようになれば良いことだと思う。

・海外の機関投資家にも様々な年限の国債を買ってもらえるとよいが、日本は英語あるいは欧米系の言語を使う国ではないので、特に海外からの参入障壁が高い側面があるのではないか。この意味でも、予見可能性を高めることが大事。

・最近、拡張財政的な世論が国全体で増えていることが気になっている。国が掲げる金融立国の中には、国内でのトレードを増やすこと以外に、海外で日系の金融機関がサービスを展開していくことも含まれると認識している。日系の金融機関が海外で事業を行う際に一番基礎になるのは、国債の格付から来る邦銀あるいは日系金融機関の信頼度の高さ。金融立国というものを掲げるときに政府あるいは国全体で、日本国債の格付は落とさないという意識ができればよいと思う。


・本研究会でも積み重ねてきた議論の中で、論点が大分絞られてきたのではないか。1つ目は、超長期債の発行。これまでいろいろな経緯があったものであり、今年6月にも見直したところだが、もう少し長いスパンでどのようにしていくのか。

・2つ目は、国債の消化先としての個人。預金取扱金融機関ももちろん重要だが、特にIRRBB等の制限で銀行の保有に限界があるのであれば、個人投資家が非常に大きなボリュームゾーンになってくる。既に財務省も取組みを始めているが、今後より進めていくべき。

・これは1つの意見だが、この研究会でいろいろと論点にしてきた海外の税制優遇等について、もう少し踏み込んで、いろいろな議論をしていくべきだと考える。

・3点目は、発行計画の柔軟性。今年、非常に大きな市場のトピックにもなったと思う。これを何らかの形で制度化していくのか、それとも、制度化はしないが実務的にある程度の回数で見直しをやっていくのか。そろそろ議論をしっかりと詰めていく段階に来ているだろう。

・山脇氏の資料で、ここ1~2年は外国人が超長期債を圧倒的に買っているということだが、外国人のなかには年金・ヘッジファンド・中央銀行と色々ある。今一番主力になっているのは、どういうところなのか。


・ここ数年で、随分市場の空気が変わったと感じている。本当にぴりぴりした空気になってしまっていて、数年前とは打って変わってシビアな話がすごく増えたと思う。

・その理由は単純に国債に対する需要が足りないということに尽きる。本当は需要が足りないときには、発行を減らす。これが本筋ということは言っておきたい。

・投資家として日本という国を評価いただくのは大変ありがたいことだが、海外保有割合が20%を超えると国債市場は不安定になるというような研究論文もある。今、日本は12%程度なのでまだ余力はあるという見方もできるが、いつまでも海外に頼るというのもいかがなものかと思う。

・個人への保有促進については、インフレ連動の個人向け国債を検討すべきだ。多くの人が今恐れていることは、貯めてきた老後の資産がインフレで無くなること。国がリスクをとってインフレ連動の個人向け国債を出せば、国民としてもかなり納得感があるのではないか。併せてNISAにそれを入れていただければ、なお良いのではないか。


・海外保有比率が20%を超えてくると国債市場が不安定になるという計測結果があるのだとすれば、それは国債市場のみならず、外為市場のボラティリティも高めてしまうので、為替政策との関連性についても考えなければいけないだろう。

・予見可能性と柔軟性のトレードオフの問題も非常に重要だと思う。柔軟性を優先させるという意味での国債発行計画の見直しについては賛成だが、その際にやはり考えなければいけないのは、為替市場等への影響だろう。

・一方、現時点での国債市場・金利のボラティリティへの影響という点では、むしろ柔軟性を優先したほうがボラティリティを抑えるという方向に作用するのではないか。こうした点も、定量的な分析の下で、どのぐらいの頻度で見直すのが有益なのかという議論の材料になり得る。

・アメリカでレバレッジ比率規制を緩和した結果、アメリカの国債が持ちやすくなるという話があったが、日本あるいはグローバルな規制で、緩和すると金融機関の国債保有が増えるものは何かあるのか。

・例えば、今は少し期間が長めに設定されている標準的なコア預金のモデルの想定が多少短くなることで預金取扱金融機関が国債を持ちやすくなるのであれば、1つの選択肢になるだろう。


・国際比較や信認の観点からは、タームプレミアムが上昇すると、公的な投資や人的資本形成といった長期的な投資の評価基準にも影響を及ぼすのではないか。この意味でも、国債市場の透明性と流動性の確保は非常に重要であり、柔軟性を高める一方で市場の予見性をどう確保していくのかが重要な課題となる。

・海外では、透明性を損なわずに柔軟運用しているという報告があったと思うが、日本の場合、どのような枠組みが考えられるのか。今後、専門家を含めて分析を進めていく必要があるだろう。

・データ基盤の観点からは、流動性に関する情報の非対称性が大きい市場では、価格の発見機能が弱まってタームプレミアムが上昇するので、投資家の属性の可視化は、国債市場の流動性の確保に重要であると考える。

・日本でも、匿名ベースのデータの利用やDMO方式の年次サーベイ等の導入ということを検討していく必要があるのではないか。


・この半年間、短期的な海外金利の動きや財政懸念が材料になったこともあると思うが、発行当局として超長期債の需給について考える際は、保険商品に対する需要がどうなってくるかが根本的には重要。

・この半年程度を振り返ってみて、超長期のマーケットがやや荒れたことの背景として、保険の需要が意外と弱かったという感触はあったのか。

・左三川氏の資料11ページや12ページで、定期性預金へのシフトが生じると満期が短期化すると記載されているが、これは定期預金であるから短期化するというメカニズムがあるのか、それとも、単に金利感応度が低い人たちが、金利が上がっていってもずっと流動性預金にとどまっているから、結果的に平均満期が長くなっているのか。

・YCCの下での指し値オペの期間だけかなり濃い赤色が増えているというのは、結局、日銀がたくさん現物を買ったからだということのように見えるが、買ったことだけではなく、アナウンスメント効果もあったと考えてよいか。

・これまでも繰り返し申し上げてきたが、個人の金融資産として、毎月分配型の株式投資信託などには根強い需要がある。そういったニーズを掘り起こす上でも、国債をベースにした毎月分配型の金融商品というのはニーズを掘り起こす余地が大きいと考えている。


・今年度の国債発行計画に関しては、4月から超長期債の発行を減らしていたが、想定以上に超長期債市場のボラティリティが高まったため、6月・7月に緊急対応として発行計画をさらに機動的に変更する必要が生じたと理解している。

・PD会合は四半期ごとに開催されているが、今回は迅速かつ柔軟な対応が求められる局面であった。一方で、こうした緊急対応は予見可能性を低下させ、市場がオーバーショートするまで攻めてくる傾向を助長し、さらなる対応を迫られる懸念が残る。

・以上を踏まえると、発行計画決定後、年間の折り返し時点で一度点検の機会を設け、そこで毅然とした対応を行うことが、機動性と規律を両立した運営として望ましいと考える。

・また、約30年続いたデフレ環境からインフレ環境に移行して2~3年が経過し、国債消化は大きな転換点を迎えている。日銀が利上げとQTを進める中、国債消化の課題は一層重要性を増している。

・マイナス金利導入以降の10年間で、預金取扱金融機関のバランスシートは大幅に拡大した。日銀が国債保有額を減らす局面では、代替資金を保有するのも預金取扱金融機関である。しかし、当時に比べ規制は厳格化され、保有制限が課されている。さらに、投資家のリスク許容度低下の背景には、有価証券評価損がある。株式評価益でオフセットできる場合もあるが、単年度決算で苦慮する投資家が多い状況となっている。

・こうした点を踏まえると、今後の金利環境下では、預金取扱金融機関の投資余力は限られ、中短期国債への投資が主流になると考えられる。

・その中で安定消化の観点では、個人向け国債が重要となる。金融機関の預金残高とのトレードオフはあるものの、相応の発行量を支えるには、国が国債発行を通じて個人から直接資金を吸収し、責任ある積極財政を支える方法が最も現実的であろう。

・また、国債の格付維持が最も重要であることを強調したい。海外との金融連関を維持するためにも、格付低下は財政の持続性に疑義を生じさせるため、この点は極めて重要である。


・これまで何度も国債の安定消化について話し合ってきている中で、預金取扱金融機関が以前のように買えなくなっているというのは十分理解しているが、絶対的な金額を考えると、やはり預金取扱金融機関にある程度、安定消化を担ってもらう必要があるのではないか。

・その方々が買える商品という意味で、来年度の国債発行計画で発行されるだろう変動利付債と年限の短期化という取り組みは、譲らず続けていくべきだろう。

・地方金融機関の中には、個人向け国債が売れるために預金が集まらなくなったという話もある。こうした実態も踏まえた上で、買いやすい個人向け国債をつくってほしい。

・発行計画の柔軟性に関しては、やはり今年の4月から6月というのは本当に振り回されて、業者であればコントロールするのが大変だという場面だった。PD会合があれば対応をしてくれるということを今年度の上期にマーケットが味をしめてしまったような気もする。そうではない、マーケット全体のためにしっかりとやっていくというところも含めて、定期的に中間評価のようなものを実施することには賛成だ。

 

(以上)



連絡・問合せ先:
 財務省 理財局 国債企画課 企画係
 電話 代表 03(3581)4111 内線 2565