国の債務管理に関する研究会(第8回)議事要旨 |
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.日時 令和7年5月8日(木)13:30~15:00 |
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.場所 財務省 国際会議室 |
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.内容 |
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1.当局からの報告 2.国債市場の動向と分析(大和証券株式会社 尾谷俊チーフマーケットストラテジスト) |
まず、理財局から、令和7年度の国債発行計画及び国債の保有促進に向けた取り組みや保有者層の多様化に向けたIR活動について、説明が行われた(資料1(PDF:1531KB))。
▶理財局からの説明概要は以下のとおり。
・昨年、研究会でご議論いただいた内容を踏まえ、年末に令和7年度の国債発行計画を策定し、併せて国債の保有促進に向けた取組を公表した。
・令和7年度国債発行計画においては、新規国債28.6兆円に、復興債、GX債、子ども特例債、財投債10兆円、そして借換債13.6兆円を合わせ、国債発行総額は176.9兆円となっている。
・これをどう消化するかについて、金利水準の上昇に伴い、個人向け国債等の販売が堅調に推移している個人向け販売分で4.6兆円としているほか、172.3兆円をカレンダーベース市中発行額とした。
・具体的な年限構成については、市場のニーズを見極め、需給がかなり逼迫していた短期国債を増額したほか、銀行等による消化余地があると思われた5年債を増額し、40年債、30年債といった超長期債については、主要投資家である生命保険会社からの需要減退を踏まえ、それぞれ減額したところ。
・国債の保有促進に向けた取組としては、令和7年度国債発行計画の公表時に変動利付国債の基本的な商品性や個人向け国債の販売対象を非営利法人、非上場法人等に拡大する旨をあわせて公表した。
・資料2ページ目のとおり、国会での予算修正により、新規国債は19億円の減額となった。発行計画では、カレンダーベース市中発行額は変更せず、年度間調整分で対応したところ。
・変動利付国債の商品性について、市場関係者のヒアリングにおいて示されたニーズを踏まえ、令和6年末に公表した。6か月T-Billを基準金利とし、2年及び5年を年限の候補としている。
・当局においても4月からシステム改修に向けた作業を始めており、当局及び市場関係者によるシステム改修の状況を踏まえると、令和9年1月には発行の開始が可能となる見込みである。具体的な発行開始のタイミングについては、市場の状況や市場関係者との議論を踏まえ、決定していく。
・個人向け国債の販売対象拡大について、個人以外の主体も購入可能な元本割れしない商品性の国債を検討してはどうかという研究会における御議論を踏まえて、検討を進めてきた。
・販売対象の拡大範囲については、資料記載のとおり、資金運用に関する制約や保有の安定性といった点で個人と類似した傾向を有すると見込まれる法人等とすることが適当であり、高度な資金運用体制を備えていると考えられる金融機関、あるいは上場企業等については引き続き販売対象外とすることが適当だと考えている。
・こうした考え方の下、線引きの明確さや販売を担う金融機関にとっての対応しやすさを考慮し、具体的な販売対象の拡大範囲については、金融商品取引法上の特定投資家制度を参考に、資料に記載した一般投資家や法人等を対象にしてはどうかと考えている。
・法人等への販売拡大開始時期については、変動利付国債同様、当局及び取扱金融機関によるシステム改修等に係る対応期間を考慮し、令和9年1月発行分からを予定している。
・国債のIRについては、国内外の投資家を対象とした面談、セミナーのアレンジ等に御協力いただける証券会社12社をJGB・GXプロモーターとすることを決定。
・海外IRについては、JGB・GXプロモーターの御協力もあり、面談件数は、令和5年度の185件から令和6年度は204件に増加している。そのほか、月に一度、英語でのニュースレターを送付するなどして、国債発行の状況をアップデートしている。
・海外投資家の日本国債全般に対する投資スタンスについては、インデックスに合わせた投資や外貨準備の運用、ALMなどのために、日本国債を保有している投資家が見られる。金利上昇を背景に、通貨ベーシス・スワップを活用し、短期債のみならず、幅広い年限の投資を検討する投資家が出てきている一方で、金利上昇リスクに備えて、今は様子見という投資家も存在。
・クライメート・トランジション利付国債について。日本のトランジション戦略に対しては、日本の気候条件や地理的制約、産業構造等を踏まえたアプローチとして関心が示されている。他方、今後公表されるインパクトレポートなどを見て、慎重に評価したいという海外投資家もあった。
・主な質問・関心事項等については、GDPや春闘の動向、財政健全化等、幅広く聞かれているところ。
・また、日本国内でのIRについて、昨年のクライメート・トランジション利付国債の発行を見据え、令和5年度から本格的に取り組んでいるところ、日本銀行の国債買入れの減額の開始に伴い、その重要性というのが一層高まっていると認識。
・令和6年度に実施した国内での面談、セミナーの件数は令和5年度の52件から70件に増加している。内容面でも、これまであまり対象になっていなかった公益法人や学校法人等も含めて幅広い国内投資家層へのIRも新たに行ってきているところ。引き続きしっかり取り組んでいく。
次に、大和証券株式会社の尾谷俊チーフマーケットストラテジストより、「国債市場の動向と分析」(資料3(PDF:2140KB))について説明が行われた。その後、意見交換が行われた。
▶ メンバーからの意見の概要は以下のとおり。
・日銀の国債保有減額の受け皿として、国債の種類の多様化を行うというのは非常に重要。変動利付国債について、発行時に需要がどれだけあるか、その時の市場環境やイールドカーブの形状にもよるだろう。中長期的には、需要がなく売れないという形になっては恰好がつかない部分もある一方で、商品のバリエーションを増やすことも検討の余地があるだろう。
・個人向け国債について、マンションの管理組合の中には、組合としての法人格を持たない自治会もある。権利能力なき社団といわれるものなどにおいて、会長の個人名とマンション名で定期預金を持っているような実態もあり、そうした主体も個人向け国債の保有を可能とするのか。
・個人向け国債の販売対象拡大について、新しい名称として例えばNISAのような耳なじみのよいものがあると広告効果もあり良いのではないか。
・個人向け国債販売拡大対象に含まれる適格法人について、おおむね定期預金の需要動向からニーズを推し量ることができるだろう。現在の商品性では金利の下限があるため、再びゼロ金利になった際に裁定取引の機会が発生し得る。合名会社等、広い範囲の非上場法人に個人向け国債の販売を拡大する場合、当局が予期しない形で個人向け国債に対するニーズが発生する可能性がある。
・マンションの自治会や管理組合等は合意形成が難しい側面があり、こういった主体の保有を促すには、金融機関による販売促進活動も重要だろう。
・個人向け国債について、マーケットの裾野を広げる観点から商品設計のさらなる改善を行うことは考えているのか。例えばイギリスのような毎月分配型の商品設計であれば日本でも需要が期待できると思う。再投資分を毎月分配してしまうという欠点を補う点でも固定利付型の商品であればよりリーズナブルであると思う。
・クライメート・トランジション利付国債については、発行額が前年度の1.4兆円から1.2兆円に減額されている。報道等では、今回の減額は需給環境を勘案した結果と報じられている。発行環境にとっては、需給が引き締まるため良いと思うが、発行初期には、流動性プレミアムが発生することはやむを得ない部分がある。グリーンな要素に対して非金銭的な効用を持つような投資家の裾野がどれだけ広がっているかということが重要だと思うので、市場育成という観点からも淡々と発行し、情報公開を行うことを継続的に続けることが重要だろう。
・不透明な市場環境ではあるが、4月までは、日銀がもう一段階の利上げを行うとの見方があった。今後仮に金利が上昇し、銀行券の市場からの還流が生じた際の受け皿として個人向け国債が機能すると国債管理政策にとって良いのではないか。
・タームプレミアムの変動要因分析として国債発行残高の増加による影響をあげているが、これはまさしく財務省の責務。財務省と日銀がうまく連携していかなければいけないということも尾谷氏の分析では示唆されており、重要な示唆と認識している。
・尾谷氏からの説明において、日銀保有国債の減少がタームプレミアムに与える影響の図をみると、同じ量(例えば1目盛50兆円分)の減少に対し、タームプレミアム押し上げ効果が逓増する姿となっている。このようなタームプレミアムへの非線形な効果は、市場参加者が持つ先行きのイメージと整合的なものなのか、あるいは単に対数をとったことによる結果にすぎないのか。
・タームプレミアムの要因について、日銀保有分、民間保有分それぞれの年限構成に関しても検討の余地があると考えている。異次元緩和においては、日本銀行が長期国債の買入を進め、民間保有分の年限構成は短期化すると想像された一方、データを見ると、日銀以外が保有する国債の年限も長期化していた。日銀保有分、民間保有分それぞれの年限構成がどのように変化し、どのようにタームプレミアムに影響を与えてきたか、という点に関心を持っている。
・超長期債の動向について、市場は目先の話で動いているが、この研究会ではかなり前から投資家動向について分析し、昨年6月には「議論の整理」をまとめたところ。発行当局としても、このような市場構造の変化を認識した上で昨年末の国債発行計画を策定したはずであり、以前から準備し、対応してきたということをアピールしてもよいのではないか。
・この数週間の超長期債市場の動きは、長年マーケットを見てきた人間からしても少し異常感がある。米国債市場を発端として、市場の安定性を前提として膨らんできたキャリー取引によるポジションが巻き戻される動きが日本でも観測されたと認識していた。他方、この数週間を見ると、米国市場は少し落ち着きを見せてきた一方、JGB市場だけが更に悪化してきている状況もあり、これだけを見ると、何か大きな構造的な問題があると思われる。その1つは、日銀の国債買入減額があると思うが、もう1点は生保の超長期債需要の減少が想定を上回っているという市場の認識にあると考える。発行計画を機動的に動かすことは難しく、また、足元の国債市場の状況ついてはPD会合で議論されるものということは理解しているが、このような構造変化を当局が認識しているのであれば、中長期的な観点からの対応も必要となるかもしれない。
・今後も市場の混乱が続くと想定され、30年債や40年債の市場状況がいつ元に戻るか、仮に戻らないとしても治癒できる時間がどれぐらいあるかという状況の下では、目先は日銀による6月の国債買入れ減額計画中間評価が非常に重要だと認識。マーケットが混乱すると日銀への期待が出てしまうが、金利形成は市場に委ねるべきであり、市場が混乱しないよう、丁寧に情報発信していくべき。
・これまでグローバルに見て、日本の金利水準は低く、ボラティリティは非常に低く安定していたが、足元、超長期ゾーンのカーブは各国に比してもスティープ化しており、ボラティリティも上昇傾向が継続している。通常の利上げ局面では、イールドカーブはある一定の水準まで先行してスティープ化し、以降超長期にかけてフラット化することが一般的ではあるが、今回の利上げ局面では、相応の水準になっても、未だ超長期ゾーンにかけて、イールドカーブのスティープ化が継続している点に、問題があると認識している。
・日本銀行の国債買入れ減額と、ボラティリティ上昇に伴う超長期債の流動性の低下のなかで、足元は証券会社もうまく超長期債の金利リスクをコントロールしきれず、市場機能が低下している状況と言える。すなわち、イールドカーブの変動がパラレルに上昇・下落すれば、市場参加者は他の年限の債券、スワップでヘッジし、超長期債をそれなりに安定して保有することも可能であるが、短中期ゾーンの金利変動が乏しく、超長期ゾーンの金利だけが激しく動くという現在の金利変動の分断が、超長期債の安定消化を阻害してしまっている。
・今後も日本銀行の国債買入れ減額は進むと思われるが、市場機能度維持の観点からは、短期から長期ゾーンの流通量を増加させつつ、超長期ゾーンの需給バランスを注視していく必要がある。金利リスクという観点では、目先の環境は超長期ゾーンの方が供給される金利リスク量は大きいが、これを保有する最終投資家の購入余力が落ちてきており、超長期ゾーンの金利リスクのサポート要因が減っていることが背景にある。同ゾーンの動きを抑えながら、短期から長期ゾーンの金利が、景況感に合わせて変動するような市場環境が望ましい。
・超長期ゾーンをより細かく考察すると、日本の20年債・30年債・40年債を繋いだイールドカーブが、相対的に各国と比しても、超長期内でスティープ化しているように見える。本事象は見方によっては将来的に債務をコントロールできなくなることへの懸念を示唆していると言われてもおかしくはない。仮に今後債務のコントロールが難しくなり、国債の消化懸念が生じる場合、格下げにつながる可能性もあるため、この超長期ゾーンのイールドカーブの形状は注視しておくべき。
・金利上昇が良いものか悪いものということについて、同時に為替レートを推計する形で分析をしたことがある。1980年代の論文に依拠したものだが、その論文においては、金利の上昇がリスクプレミアムの上昇であれば、海外投資家は特に反応せず、資金流入はしないはずであり、為替の変動は生じないという議論がなされていた。
・前回の研究会において、金利リスク規制の観点から預金取扱金融機関の国債保有余力は一定程度に限られるため、投資信託やMMF、個人向け国債等、企業や家計による直接的な国債保有を促進するという議論があった。金融危機が起きた場合、投資信託やMMFから資金が流出し、その際にディーラーに国債の保有余力がないとマーケットのボラティリティーが大きくなってしまい、その傾向が市場で予期されると、更に資金流出が広がるという悪循環が起こりうる。そのため、ディーラーの国債保有余力は論点として残るということを念頭に置くべきであり、金融規制の見直しの余地があるかについても継続して考えるべきだろう。
・今後、日銀の動向が金利へも大きく影響すると考えられるが、財務省としては、日銀のコミュニケーションが外部からどう見えるのかというフィードバックをできればよいのではないか。日銀も金融機関の方々あるいは機関投資家とコミュニケーションしていると思うが、日銀は流通市場の参加者なので、市場参加者にとっての裁定機会となる日銀の認知誤差についてのフィードバックはどうしても受けにくい。一方で、財務省は発行体なので、日銀ほどは市場参加者として利害対立がない、あるいは違う立場で対話できるので、日銀が取れない情報もとれる。
(以上)
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