このページの本文へ移動

国の債務管理に関する研究会(第4回)議事要旨


国の債務管理に関する研究会(第4回)議事要旨

.日時 令和5年11月21日(火)16:30~18:20

.場所 財務省 国際会議室 / オンライン

.内容

1.国債発行を取り巻く現状と課題

2.国債市場の現状について
(1)国債市場の流動性と課題について~金利がある世界への備え~
 (三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 上山 毅弘 執行役員 フィクストインカムグループ長)
(2)大阪取引所における国債証券先物取引の状況
(株式会社大阪取引所 金融リテラシーサポート・市場企画・デリバティブ市場営業・総合取引所推進担当 垣﨑 和久 執行役員)



まず、理財局より「国債発行を取り巻く現状と課題」(資料1(PDF:6525KB))について、説明が行われた。


▶ 当局からの説明概要は以下のとおり。
・ 本年9月26日に岸田総理が総合経済対策の策定を指示し、11月2日に総合経済対策が取りまとめられ、11月10日に令和5年度補正予算案が閣議決定された。

・ 令和5年度国債発行計画の変更については、令和5年度補正予算に伴い新規国債(建設・特例国債)は8.9兆円増加したが、財投債や借換債等の減少により、令和5年度の国債発行総額の増加は0.4兆円となった。これに対し、令和5年度のカレンダーベース市中発行額は変更せず、翌年度の歳入となる前倒債の発行減によって調整することとした。

・ 令和5年度補正予算に伴う国債発行総額の増加は0.4兆円にとどまったが、コロナ対応以降、年間の国債発行総額が非常に大きくなっていることには変わりない。

・ カレンダーベース市中発行額の推移について、令和2年度には、新型コロナへの対応のため国債発行額が急増し、その増加分を円滑に発行するため、市場への影響が相対的に小さい短期国債の発行割合が高まった。令和3年度以降は増発した短期国債を中心に減額しており、令和5年度国債発行計画においては、短期国債の割合はカレンダーベース市中発行額の3割以下にまで減少している。

・ 国債発行残高の推移について、例年多額の国債発行が続く中で、令和5年度末の残高見通しは約1,172兆円と極めて大きな数字となっている。

・ 日本国債の平均償還年限については、新型コロナへの対応で令和2年度に短期国債を増発した結果、平均償還年限が短期化した。その後、短期国債を中心に減額してきたことにより、平均償還年限は少しずつ長くなっており、令和5年度の推計においては、ストックベースではコロナ前の水準に回復している。

・ 次に、GX経済移行債について、国際的にカーボンニュートラル達成に向けた機運が高まる中、昨年5月、岸田総理が英国での演説において官民150兆円の関連投資を実現していくと表明された。脱炭素化と経済成長、エネルギー安定供給を同時に実現していくことをグリーントランスフォーメーション=GXと位置づけ、GX実行会議において、今後10年を見据えた取組の方針(ロードマップ)が取りまとめられた。

・ 本年2月には、「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、今後10年間で150兆円を超えるGX投資を官民で実現していくため、GX経済移行債を活用し、国として20兆円規模の先行投資支援を実行することが示された。

・ その後5月に成立したGX推進法において、GX経済移行債の発行根拠が法的に整備された。なお、その償還については、2050年度(令和32年度)までに、化石燃料の輸入事業者等に対する化石燃料賦課金、発電事業者に対する特定事業者負担金によって行われることとされている。

・ これまでの国債は、建設国債、復興債などの発行根拠法別の区分にかかわらず、金融商品としては同一のものとして統合して発行されてきた。GX経済移行債については、こうした「統合発行」に限らず、資金使途等をまとめた「フレームワーク」を策定した新たな金融商品「クライメート・トランジション利付国債」として発行する方向である。

・ クライメート・トランジション利付国債の発行は、今年度内、具体的には令和6年2月目途で開始すべく、現在準備中。フレームワークは11月7日のGX実行会議を経て公表されており、外部評価機関から国際基準に準拠している旨の認証(セカンド・パーティ・オピニオン)も取得している。

・ 国としてトランジション・ボンドを発行することで、民間事業者・金融機関によるトランジション・ファイナンスを含めたGX投資を活性化させていくことも狙いである。

・ 「クライメート・トランジション利付国債」の商品設計については、理財局が基本的設計案を本年11月8日に公表している。今年度中の発行年限は、2年、5年、10年、20年のうち2つの年限を検討中であり、償還日・利払日などの基本的な商品性は通常の利付国債と同じとする予定である。

・ 「クライメート・トランジション利付国債」のフレームワークでは、今後の移行戦略、調達資金の使途、レポーティングの考え方などが整理されている。

・ 最後に「国債発行を取り巻く現状と課題」について、改めての御説明となるが、(1)確実かつ円滑な発行、(2)中長期的な調達コストの抑制、の2つを国債管理政策の基本的目標としている。

・ 当局としては、その実現のため、市場のニーズを十分に踏まえることは当然として、中長期的な需要動向も見極めながら、より安定的で透明性の高い国債発行を行っていくことが重要と考えている。

・ 近年の市場の動向としては、海外の主要中央銀行が政策金利を引き上げたことから海外金利が急速に上昇し、円債市場でも金利が上昇傾向となっている。足元、海外中央銀行による金利引上げには一服感があるものの、日本では金融政策の更なる修正観測が根強く、引き続き金利動向を注視していく必要があると認識している。

・ 国債の保有者については、T-Billを除く国債においては、日本銀行が半分を超える53.2%を保有している。また、ドル需給の逼迫を背景として円の調達コストが低いことなどから、海外投資家による国債保有がT-Billを中心に増加しており、その保有割合は、T-Billを除く国債では7.3%にとどまるものの、T-Billでは68.0%と大きなシェアを占めている。

・ 令和3年6月開催の「第54回国の債務管理の在り方に関する懇談会」では、「ポストコロナを見据えた国債管理政策の検討」における論点の一つとして「市場の流動性・機能度の維持・向上」が挙げられており、「国債市場の流動性・機能度も低下しており(略)こうした状況が続けば、市場の価格形成機能が弱まり、財政運営等に対する市場のチェック機能が低下する懸念があるほか、将来的な外部環境の変化等に対して市場が不安定化しやすくなり、資金調達コストの増加につながる可能性がある」と指摘されていた。

・ 円債市場でも金利が上昇傾向となる中で、市場の現状や課題について適切に把握することが必要であり、本研究会での議論が重要になると考えている。


 続いて、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社 上山執行役員 フィクストインカムグループ長より「国債市場の流動性と課題について~金利がある世界への備え~」(資料2(PDF:627KB))について、株式会社大阪取引所 垣﨑執行役員より「大阪取引所における国債証券先物取引の状況」(資料3(PDF:1347KB))について説明が行われた。その後、意見交換が行われた。

▶ メンバーから出された意見等の概要は以下のとおり。
・ GX経済移行債について、他国は環境債の発行に先立って、炭素税や排出量取引等のカーボンプライシングを導入している国も多い。日本の債務残高は既に突出した水準にあり、将来世代への負担の観点には留意すべきと考える。

・ 流動性供給入札について、上山氏の資料に関連する内容があったが、日本銀行の国債補完供給オペなど他の流動性を供給するツールとの相互の関係を今後考えていく必要があるのではないか。また、同じく流動性の観点から、デフレ時は物価連動債の流動性が低下している状況だったと思うが、足元ではインフレ率はプラスになっており、物価連動債の市場の育成を検討してもよい状況であると考えている。

・ 国債格付けについて、財政構造改革には時間がかかるため、格下げとなったらどのような影響が見込まれるのかを国民向けに情報発信し、財政の健全性を確保していくのがよいのではないか。

・ クライメート・トランジション利付国債の発行について、懸念の一つは、調達した資金が適切に使われるのかという点。使途のモニタリングは重要であり、予算を執行する省庁もそうした意識を持って対応するよう、政府内で改めて認識を確認するべきである。

・ クライメート・トランジション利付国債の想定保有者に関して、海外投資家も参加できるような形でインフラ面を整え、流通市場を形成していくのか。ESG投資としての投資インセンティブが働き、通常の国債対比で金利が低くなる可能性もある一方で、流動性が通常の国債対比で低いために金利が低くならないということも考えられる。そのような場合には、通常の国債で資金を調達した方がよいという考え方もあるかと思う。

・クライメート・トランジション利付国債について、発行体が国であるという点は通常の国債と同じだが償還財源等が異なっており、そうした違いが流通市場でのスプレッドにどう影響するか精査するのは興味深いように思った。ただし、仮に同国債が日本銀行の気候変動対応オペの対象となり、金融機関が利率0%で資金調達をして同国債に投資できる状況となった場合には、プライシングや民間部門への資源配分に歪みが生じてしまうかもしれないと気になった。また、発行に当たっては、調達資金が適切な使途に充てられることを担保するため、しっかりとした情報開示を実施いただきたい。

・ 最近、GC-SCスプレッドや日銀による国債補完供給(SLF)の落札実績が跳ね上がっていることに驚いた。国内投資家に比べ足が速い傾向にある海外投資家など、短期で投資を行う者の国債保有割合が高まると急激な資金流出のリスクが高まるというのはこれまで考えられてきたことかと思うが、これに加え、足元でショートセルの制約になっている要因の今後の変化についても留意が必要。具体的には、足元、日本銀行が多くの国債を保有している中で、GC-SCスプレッドやSLF落札実績が上昇しており、国債を借りられないことがショートセルの一つの大きな制約となっていると考えられる。しかし、今後、金融政策が正常化していく際には、国債保有者も一般の機関投資家等に移ることが想定される。そうなると、ショートセルのため借りることができる国債が増加し、ショートセル制約が徐々に緩和していくと考えられる。アカデミックにも、ショートセル制約の程度は債券価格形成に大きな影響を及ぼすと従来から指摘されているように、ショートセル制約が緩和されていく過程では、ファンダメンタルズに基づく価格に急激に戻っていきスピード感のある金利変動が発生し得ると考えられるので、こうした金利への波及経路もしっかりと注視した方がよいと考える。

・ 長期国債先物について、建玉が20兆円に近い規模というのはかなり高い水準かと思うが、何年ぶりの水準なのか。また、長期国債先物の投資部門別売越買越状況について、売り買い共に落ち着いている状況にあると思うが、主体別の取引を全体としてどう解釈すればよいか。

・ 令和5年度補正後の国債発行計画において、財投債が7兆円も減額されているが、コロナ禍以降、多額の予算が計上されるものの執行されないという歳入歳出構造となってしまっているのではないか。国債発行の観点からは、コロナ禍で発行額が増加した短期国債の発行額が現在も高い水準となっており、借換債発行額、ひいては国債発行総額のぶれの要因になっていると思うが、今後の国債発行総額の見通しはどうなっているのか。

・ 国債の平均償還年限は、フローベースではコロナ前の水準にかなり近づいており、また、ストックベースではコロナ対応によってもそれほど短くなっていない。コロナ対応前には、ストックベースの平均償還年限の適正な水準を見極めつつ、フローベースの平均償還年限の長期化には必ずしもとらわれずに国債発行計画を策定する、といった整理もされていたと思うが、今後コロナの影響も終息に向かう中で、フローベースの平均償還年限をどう考えていくのか。

・ 国債発行計画の策定は当初予算にあわせて前年末に行われているのが通例だが、実際に発行額が増減する年度開始時点までにはラグがあるほか、翌年度の期中に需給環境が大きく変化してしまう可能性もある。金融政策の正常化が進み債券需給が大きく変動していく可能性もある中で、もう少しタイムリーに、フレキシブルに国債発行予定を動かしていく方法も考えられるのではないか。制度を大きく変えることは現実的に難しいと思うが、市場とのコミュニケーションも含めて、そうした対応ができたらよいと考えている。

・ クライメート・トランジション利付国債の発行について、ヨーロッパ等ではグリーニアムが確認される一方、日本の社債市場においてはグリーニアムが生じていないと認識している。国としてトランジション債を発行する以上、通常の国債に比べグリーニアムが生じるような形で発行すべきであり、そのためにはセカンダリーマーケットの整備が喫緊の課題だと考えている。

・ この1年間ほどでグリーンウォッシュ批判が非常に強くなったという印象を持っている。クライメート・トランジション利付国債を発行するに当たっては、資金使途をしっかりと選定・管理しないとグリーンウォッシュ批判を免れないと思われ、資金使途面での準備の進捗が気になった。

・ クライメート・トランジション利付国債はトランジションボンドであるので、移行が完了した段階ではグリーンボンドを発行することになるのだろうかと思った。現在、当局として、そうしたことまで考えているわけではないと思うが、「トランジション」はどこかの段階では完了するものという点は意識すべきである。

・ GX経済移行債の発行については、世界的に産業政策が活性化する中で、成長志向型カーボンプライシング構想の一環として議論されてきたと認識している。日本は、過去30年間投資が停滞しており、GX経済移行債の発行は実物経済への働きかけとして重要な取組である。成熟した先進国として、このような環境に配慮した取組を実施していくことは、多様な投資を促進するという面で有用だと思う。ただし、資金使途をどのような基準で優先順位づけしていくかなどについて、慎重に検討を重ねていく必要がある。

・ 金融市場を対象にした最近の実証研究では、伝統的なアセットプライシングの理論が想定していたファンダメンタルズのみに基づく価格付けではなく、資金需給により重きを置いた分析が進められていると認識している。日本国債に関しても今後こうした視点に基づく分析が重要になるのではないかと考えている。

・ 名古屋大学の齊藤誠教授の最近の理論では、過去数十年間の日本国債を巡る環境として、政府部門への継続的な資金貸出を許容する家計部門の存在により、拡張的な財政施策が行われてきたにもかかわらず金利の急騰が避けられていると指摘されている。こうした状況が崩れる一例として、大規模な自然災害の発生やそれに伴う大規模な財政出動が挙げられているが、こうした一種のショック以外にも、高齢化の進展によって徐々に政府部門への貸出の姿勢が転換する可能性もあると考えられる。   
 マクロ金融に関しては、実証的な分析の余地はあまり大きくないと思われるが、こうした理論的な想定を突き詰めることで、実務的に意味のある政策的検討が可能になるのではないかと思う。

・ 世界初のトランジションボンドを発行するということなので、ぜひ海外に向けて、世界初であるという点をアピールしていただきたい。その過程で流通市場の整備も進め、日本がこの分野で先進的な立場にあるということを国内外のマーケット関係者に向けてアピールしていただくことを期待している。

・ グリーニアムが付くか、ソブリンシーリングの考え方の観点から民間企業のトランジションボンド発行にどう影響するか、格付けをどう考えればよいか、といった点が気になっており、当局から引き続き詳細な情報を提供いただけると魅力的なマーケットに育っていくと考えている。



(以上)



連絡・問合せ先:
 財務省 理財局 国債企画課 企画係
 電話 代表 03(3581)4111 内線 2565