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国の債務管理に関する研究会(第3回)議事要旨


国の債務管理に関する研究会(第3回)議事要旨

.日時 令和5年6月2日(金)14:00~15:30

.場所 財務省 国際会議室 / オンライン

.内容

1.国債の安定消化

  (株式会社三菱UFJ銀行 関 浩之 取締役常務執行役員 市場部門長)

2.自然利子率から考える、長期金利の適正水準

  (野村證券株式会社 中島 武信 チーフ金利ストラテジスト)


まず、株式会社三菱UFJ銀行 関取締役常務執行役員 市場部門長より「国債の安定消化」(資料1)について説明が行われた。その後、意見交換が行われた。

 

 メンバーから出された意見等の概要は以下のとおり。 

・ 日銀のバランスシート縮小というのはまだかなり先の話かというイメージがありつつも、現実に今後数年というようなスパンで見れば、いずれ想定すべき事態。そして、主に銀行を中心に保有されていた国債を日銀が吸収したのだから、銀行に戻せばいいというような安直な発想ではいけないということを非常に精緻に説明いただいたところであり、この点が今後の大きな課題だと思う。

 

・ 当然、日銀は独立して金融政策を運営しており、日銀がどうするかを市場や財務省が何か言う立場にないのかもしれないが、一層この三者のコミュニケーションが重要であるということを改めて感想として持った。

 

・ 格下げの影響について、銀行ごとにそれなりにインパクトの違いがあるかと思う。当然、イタリアのようなレベルになってしまうと厳しい影響があるだろう、といった話もあると思うが、そこまでは行かないものの格下げが進んできた場合、資金調達コスト等において、事業会社も含めて格下げの影響が出始めるレベル感はどの程度か。

 

・ 慢性的な経常赤字を防ぐということが大変重要。教科書的に言えば、通常、経常赤字の大きな原因の一つは財政赤字であるので、その点は我が国として今後留意していくべき。

・ 政府全体について申し上げると、経常赤字を防ぐ上で、政府が政策目標を掲げるときに、TFPや生産性などの国際貿易から遠くて分かりにくい用語よりも、外貨を稼いでいくとか、貿易黒字を再び目指すというような、より直接的で分かりやすい言葉の使い方のほうがよいのではないかという感想を抱いた。

 

・ 金融機関の国債購入余力について、今後、日銀は、量的緩和の出口で、国債を期落ちさせてバランスシートから落としていくことになるのだと思う。そして、期落ちした国債に対しては、財務省が借換債を発行していくのだと思うが、金融機関の国債購入余力が足りなくなるような懸念はないのか。

 

・ 金融機関の国債購入余地について、資産運用が今後多様化していく中で、家計の貯蓄の形態が多様化していくと考えられることにも留意。

 

・ 金利リスク量を考える際に少し気になったのが、アメリカの地銀の破綻のきっかけとなった、大口の預金でデジタル・バンク・ランが発生したという点。こういったケースは日本においてはなかなか起こりにくいかもしれないが、今後デジタル化が進んでいくことによって、今まで金利リスク量の想定でコア預金というふうに考えていた預金の期間が少しずつ短くなってくる可能性がある。あるいは高齢化・長寿化が進む中で、相続の発生による地方から都市部への預金シフトが考えられるほか、金利上昇に伴う預金移動なども考えられる。今までは超低金利の期間が長く、また、資産の年限を長くしても、負債である預金側もコア預金という形で長いので、それほど大きく問題にならないという面もあったかと思うが、今後はその点がリスクになってくると問題意識を抱いている。

 

・ また、国債の発行年限を短期化することで、発行量対比において金利リスク量をより小さくするなどの工夫も考えられるという話があった。短期債の発行が増えるときに、諸外国が外貨準備として日本国債を持っている場合、この短期国債を選択するということかと思う。経済安全保障の議論との関連にもなるが、各国が外貨準備を増やして日本国債を保有する、あるいは海外の投資家の短期国債の保有が増える場合に、何かの拍子にその資金が国内外で移動し、為替レートに影響してしまうということが頻繁に起こりうるのではないかという懸念がある。

 

・ 国債発行が短期化することによって、国債の格付けにも影響がありうるのではないか。

 

・ 今回説明していただいたことの一番大きなポイントは、日銀の異次元緩和が正常化していく中での民間金融機関の国債消化余力ということだと思うが、その観点はもちろん重要である。一方で、正常化の過程について、インフレ率が上がる背後には、ファンダメンタルズの改善があるのだと思う。

 

・ また、インフレとは別の何か大きなショックの観点から申し上げると、コロナの場合には、今のタイミングにおいて、国債ファイナンスに関連するネガティブな影響をもたらしている訳ではないと思うが、今後、震災や自然災害などの何か大きな供給ショックが発生し、インフレ、通貨安、経常赤字が深刻になった場合、中央銀行が国債を買う余地がなく、ファイナンス面に大きな制約が生じる可能性があることは気にしないといけないかと思う。

 

・ 格下げといったときに、そのシナリオが重要だと思う。これまでの格下げは、例えば消費税の引上げを延長したときや、震災の直後にあった。また、その時の政権の財政運営に対する懸念のようなことで格下げになったこともある。もちろん格下げそのものがネガティブな影響を与えると思うが、現時点において、特にどういったシナリオを気にする必要があるのか。

 

・ 今後、国のファイナンスについては、地政学的なリスクも考えていく必要。経済安全保障をはじめとする安全保障の問題に、国家財政の問題もリンクし始めているのではないかと私自身思っており、若い世代はもっと敏感に感じているとも思う。

 

・ 格付けがトリプルBとなったときに何が起きるのかということについての見方は、各金融機関において異なるのだと思うが、格付けがトリプルBとなれば、各国中央銀行の中にはその債券を保有しなくなるところも出てくると思う。

 

・ 仮に金利が上昇した場合、利払費が増え、利払費の増がリスクファクターになって国債が売られて、円が売られる、ということが十分にあり得るので、金融政策正常化のプロセスがなかなか進まないのだろうと思っている。金利を低く抑えなければいけない、金利のほうが成長率よりも低くなければいけないという状態が常態化した場合、常に日本の金利は低金利となり、円キャリーが続くので、何もせずとも円安になるのではないか。円安が続き、ドル円が220円位になり、USドル建てでの1人当たりGDPがどんどん下がることも考えられる。仮にPPPベースで見たときのドル円が220円位となった場合、1人当たりGDPはウルグアイやメキシコと同じぐらいになる。

 

・ 格付けが下落して円安になるケースと、金利を上げられないままの状態で円安が起きるケースのどちらもありうると考えている。金融政策の正常化は可能だと思うか。



続いて、野村證券株式会社 中島チーフ金利ストラテジストより「自然利子率から考える、長期金利の適正水準」(資料2)について説明が行われた。その後、意見交換が行われた。

 

 メンバーから出された意見等の概要は以下のとおり。

・ 潜在成長率が今後の金融の動向には重要だと思う。財政赤字、あるいは国債残高の積み上がりと成長の関連を指摘した、ハーバード大のRogoffやReinhartの意見があったが、私も同様に、国債残高の積み上がりが潜在成長率を低下させるのではないかという懸念を持っている。

 

・ 今後労働供給が逼迫することで賃金が上昇し、インフレが起こりやすくなるとか、グローバルサプライチェーンが地政学リスクによって分断されて、インフレ圧力が高まるといった意見もある。

 

・ 自然利子率は長期国債の利回りの目安を測る上で有効であるとのことだが、このことは恐らく、自然利子率は均衡的な概念であるため、トレンドというものが長期金利を考える上でも大事であるというように解釈もできるのではないかと思いながら、説明を伺っていた。トレンドは確かに長期金利を考える上で大事ではあるが、一時的な要因で長期金利が振れるというところも、引き続き大事なことかと考えている。

 

・ 自然利子率の分解について、恐らくスタンダードなモデルにおいては潜在成長率や、最近では人口統計学的な要因等がモデルに組み込まれてきていると思う。他方、財政要因が、自然利子率という均衡的、トレンド的な概念にまで影響があるというのは、あまり確立されていない考え方のように思うが、資料2 P.8のIMFの推計ではどのように組み込まれているのか。

 

・ 昨年、海外を中心に日銀の政策修正期待が盛り上がっていた際に、自分としては、なかなか日銀は動けないであろうと考えていたところ、なぜ日本だけ物価が上がらないと考えているのかとの厳しい質問を海外勢から受けたことがあった。今回の資料では、インフレが上昇トレンド入りするリスクがしっかり丁寧に説明されており、大変参考になった。

 

・ 昨年を振り返ってみても、アメリカも相当物価の見通しを間違っており、インフレ率が上がっていったことを考えると、日本だけ物価が上がらないという前提で物事を考えていくことは危険ではないかと思っている。日銀が物価は2%を下回るというふうに言い過ぎていることも気になるところであり、また、実際に海外の方々からは、日本も物価が上がっただろうという声も聞こえてきている。

 

・ 経験上、こんなに賃上げ機運が高まったのは初めてであり、この機運をうまく継続できるようにする必要があると思う。今が日本を変えられるチャンスの年だと思っており、そういったところをもっと国として、日銀だけでできることではないので、ぜひとも手と手を取り合ってうまくやっていただきたいと思う。

 

 

(以上)



連絡・問合せ先:
 財務省 理財局 国債企画課 企画係
 電話 代表 03(3581)4111 内線 2565