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国の債務管理に関する研究会(第2回)議事要旨


国の債務管理に関する研究会(第2回)議事要旨

.日時 令和4年11月10日(木)9:00~10:30

.場所 財務省 国際会議室

.内容

1.国債発行を取り巻く現状と課題

2.円金利市場の動向 ~グローバルな金利上昇圧力の波及~

  (SMBC日興証券 森田 長太郎チーフ金利ストラテジスト)

3.コスト・アット・リスク分析について


まず、理財局より「国債発行を取り巻く現状と課題」 (資料1(PDF:2085KB))について、説明が行われた。

 ▶ 当局からの説明概要は以下のとおり。

・ 11月8日に令和4年度第2次補正予算が閣議決定された。令和4年度2次補正後の国債発行計画について、新規国債は22.9兆円の増額となった。国債発行総額としては、財投債の減額等により、9.7兆円の増となっている。その調達方法について、カレンダーベース市中発行額の増は、2年債が0.3兆円、T-Bill・6ヶ月物が4.2兆円で、計4.5兆円となっている。令和4年度2次補正後の国債発行総額は、227.5兆円となる。

 

・ カレンダーベース市中発行額を年限別にみると、短期債の発行割合について、令和元年度は2割以下であったところ、コロナでの国債増発に伴い、令和2年度3次補正後には約4割まで増加したが、足元では約3割まで減少している。令和4年度第2次補正予算に伴う変更では、短期債中心の増額を行ったが、概ねのトレンドとしては短期債の発行割合を縮めてきている状況。

 

・ 国債発行残高については、令和4年度末の普通国債残高の見込みは、1,042.4兆円となっており、令和3年度末は991兆円程度であったので、令和4年度末に初めて1,000兆円を超えるという見通しである。

 

・ 平均償還年限については、フローベースでみると、2次補正後は7年7ヶ月となっており、1次補正後の7年9ヶ月と比べると若干短くなっているが、令和3年度の7年3ヶ月に比べれば長い状況がまだ続いている。ストックベースでも同じような状況で、9年台を保っている。

 

・ 資料8ページでは将来推計をお示ししているが、1次補正後時点であることに留意。2次補正の影響で上振れするかもしれず、また、あくまで推計ではあるが、財投債及び復興債を除く国債発行額について、概ね170から150兆円台の発行が続く。

 

・ 国債管理政策の基本的な考え方は、(1)確実かつ円滑な発行により資金を確実に調達すること、(2)中長期的な調達コストを抑制すること、であり、こうした基本的な考え方は、今後も維持していく予定。

 

・ 足元の金利動向について、本研究会の第1回が開催された6月と比べると、超長期ゾーンを中心に上昇してきている。イールドカーブをみても、10年までは抑えられているものの、超長期ゾーンを中心に金利が上昇し、カーブがスティープニングしていることが見て取れる。諸外国の長期金利をみると、各国の金融政策の影響等もあり、かなり上昇してきているところ。

 

・ 市場関係者の見方をみると、今後の債券価格変動要因として、海外金利に着目している割合が多くなっている。

 

・ 日銀による国債買入比率について、1年超10年以下のゾーン中心に買われており、場合によっては発行額に対して100%を超えるような買入がなされている。

 

・ 市場流動性については、やはり量的・質的緩和、マイナス金利、YCCなどの導入以降、低い水準となっているのが現状かと思う。

 

・ 国債の保有者別割合をみると、国債(T-Billを除く)では、日本銀行が最も多く、全体の半分近くを保有している。T-Billについては、海外投資家の保有が多く、全体の5割を超えている。国債及びT-Billの保有者別割合の推移をみると、以前は銀行等が5割近くを保有していたが、日本銀行の保有割合が増加する一方で、銀行等の保有割合が減少し、また、海外の保有割合が少しずつ増えてきたところ。

 

・ 銀行の国債保有割合の減少について、今後の見通しはどうなのかという議論もよくある。銀行のバランスシートを見ると、2013年には約44兆円であった預け金は、2022年には約373兆円となっており、金融資産を買っていない資金がバランスシート上これだけあるということは、見てとれるかと思う。

 

・ 生命保険会社については、2025年のICS導入に向けて、資産と負債のデュレーション・ギャップを埋める観点から、超長期の国債を購入するという状況が続いており、国債保有の状況を見ると、残存10年超の国債が増えてきている。生損保の超長期国債購入額について、足元の状況をみると、グロスベースでは、年度前半に過去2年を上回るようなペースで購入している。一方で、ネットベースでみると、年度前半の購入は過去2年を下回るようなペースとなっている。生保の運用資産のデュレーションをみると、14年に達しており、各社の対応の進捗に留意する必要がある。

 

・ 銀行の運用資産のデュレーションについては、運用益を確保するため、地銀などを中心に20年債等を買っているところも出てきており、伸びてきている状況。

 

・ 個人による国債保有の動向をみると、国債発行残高に占める家計の保有割合は近年1%前後となっている。金利が高い時はもっと高い水準となっていたが、現在はそこまで伸びていない。

 

・ 海外投資家の動向について、取引所における海外投資家売買シェア(先物)は非常に高く約72%、店頭売買における海外投資家売買シェア(現物)も約40%ということで、保有割合に比して、取引割合が高くなっている。

 

・ テールについて、9月の20年債入札においてはテールが長くなり、そこまでではないが10月の30年債入札においても同様となったものの、どちらも足元は落ち着いている。

 

・ 債務残高対GDP比の国際比較を行うと、主要国では日本が一番高くなっている。

 

・ 利払費は、近年、大体7~8兆円程度となっているが、金利水準が高くなれば、さらに必要になるということである。

 

・ 国債の平均償還年限(ストックベース)の国際比較を行うと、英、仏、独、米との比較においては、日本は2番目に長いということになる。

 

・ 格付は、A+又はAとなっており、ここ数年変わっていない。


 続いて、SMBC日興証券 森田チーフ金利ストラテジストより「円金利市場の動向 ~グローバルな金利上昇圧力の波及~」(資料2(PDF:7068KB))について説明が行われた。その後、意見交換が行われた。 

 ▶ メンバーから出された意見等の概要は以下のとおり。

・ 昨今の現物JGB市場は、ボラティリティが高まり、金利も上昇基調にある。各国中銀がインフレ抑制の観点から政策金利を想定よりも速いスピードで上げているなか、本邦CPIも日本銀行が一つの節目として示してきた2%を超えたことで、我が国の金融政策も変化がみられるだろうとの思惑から国内金利は上昇し、足元落ち着きどころを探している。

 

・ こうしたなか、先物市場では、金利上昇への警戒感からヘッジ売りがみられており、短期的なスペキュレーションも相俟って金利上昇圧力が高まる一方、現物市場では、日銀のYCCオペレーションで値動きが乏しく、足元では先物と現物の関係に歪みが生じている。現物のヘッジツールの一つである先物市場が以前ほど機能しなくなったことで、足元では国内投資家も様子見姿勢を強めるなどJGB市場の流動性は以前ほどの厚みを持っていない状況にある。

 

・ しかし、アメリカでは既に4%近くまで政策金利を上げ、ターミナルがどこなのかという議論が始まっている。いよいよ利上げも終盤戦ではないかという見方もある。日本の投資家にとっては、外貨のファンディングコストが上昇し外国債券に対する投資妙味が徐々に薄れており、円債投資を選好する動きが期待される。海外金利の上昇が一服すれば、国内投資家の投資意欲が活発化し、JGB市場の流動性は徐々に改善していくだろう。引き続き、国内投資家の動向の変化をきめ細かく捉えていくことが重要。

 

・ 銀行の足元の動きでは、銀行預金が有価証券ではなく日銀当座預金に向かっている点に注目している。背景には幾つか理由があると思うが、バランスシートの収益力を維持したいものの、金利上昇懸念があるなかで有価証券に投資するという決断に至らないのだろう。YCC環境下、銀行は長期ゾーン中心の投資スタイルから、その主戦場を超長期ゾーンに移していた。これまではボラティリティの低下や金利の低位安定によってバランスシートを保っていたが、足元金利が上昇するなど状況が変わったことで、リスクコントロールの観点から保守的な運営をしているのではないだろうか。

 

・ 生保は、主に超長期の債券を保有するという観点で、一つはアウトライトで買い増すということ、もう一つは入替でデュレーション長期化を図っている。グロスベースの超長期国債購入額から推測するに、現時点では、いわゆるアウトライトベースの購入ではなく、入替ベースでデュレーションを長期化しているのではないか。規制対応の観点もあるが、水準によっては超長期セクターの需要はあるというのは間違いなさそうだ。

 

・ IMFの最近のフィスカルモニターを読んでいると、世界的にはコロナ後、高いインフレとなり、経済回復は結構早く、あるいはフィスカル・コンソリデーションが進んで、債務残高対GDP比という面では先進国では落ち着いているという印象を受けたが、日本だけ状況が全く違う。超低金利が長期化すると財政規律が緩むと言う方が多いが、令和4年度第2次補正予算に鑑みるに、やはりそうなのではないかと思っている。

 

・ 10年以下のところで金利がもう少しプラスで変動すれば、財政規律も少し引き締まるとも言えるのではないか。日本は高齢化社会で潜在成長率も抑えられてきたという指摘が多く、ファンダメンタルズ的には金利はそんなに高くならないだろうと思うし、超長期のところの金利が上がっている理由としても、裁定取引をするような人、外国の方の売買などが入ってきて少し高くなっているということなので、10年以下のところがもう少しプラスで変動していったほうが、裁定取引もそちらに行き、財政規律も少し戻り、よいのではないかと個人的には思い始めている。

 

・ 流動性の指標については、回転率はボリュームベースの指標である。一方で、海外、特にアメリカで国債の流動性が落ちているということが金融機関向け財務規制絡みの話で話題になっているが、そこで出てくる流動性の指標にはビッド・アスク・スプレッドとか、マーケットデプスなど、国債の流通価格の情報を利用した指標もある。現状が問題だとは思わないが、ディーラーサイドが今後どうやって日本の国債市場で動いていくかというのは一定程度の不確実性が常にあり、流動性の指標を市場取引のボリュームとプライスの両面からの情報を活かす形で今後もう少し整備してもよいのかなと思う。

 

・ 生保等の機関投資家の投資動向について、この研究会は発行体としての財務省、政府をどう考えるかということが中心だとは思う。一方で、政府である以上、金融システムの安定性も考えざるを得ない。例えば今、長めの年限の債券の発行が多くなっているが、それはすなわち、民間サイドでは金利リスクがたまりがちとなる。最近のイギリスでは、思わぬ形だったと思うが、年金がレバレッジを取り、金利を上げたら破綻しそうになってしまったということもあるので、金融システムの安定性を維持する観点からどれだけ民間サイドが金利リスクを取れるかも考えながら、政府は発行国債の年限を考える必要がある。民間金融機関の債券保有のデュレーションが伸びているということについて、生保などがデュレーション・ギャップを縮める形でやっていて問題ないということであればよいが、YCCで10年債の利回りが低く、どうしても取引の主戦場となる国債の年限が長期化してしまうということになると、それは金利リスクを取っているということになるので、配慮が必要なポイントではないかと思う。

 

・ 日本国債の格付は非常に重要だと思っている。今後の日本は人口減少が続くので、資金循環ベースでいうと、対外証券投資の継続化が見込まれると思うが、その裏では日本円建て資産を外貨建て資産と交換することになる。よって、海外投資家は日本円建ての債券、とくに日本国債を持つこととなる。今後、日本が続けるであろう対外投資のコスト、つまり、日本の企業や金融機関が対外資産を持つときに、円建ての資産をどれだけ差し出さなければいけないのかということも含めたコストについて、円建て資産の格付が高いと利回りが低いものを出せばよいが、格付が低くなるにつれて、利回りが高いものを差し出さないと取引が成立しないとなるので、円建て資産、特に日本国債の格付の維持は非常に大事。この観点で、日本の公的債務のボリュームはやはり無視できず、この研究会はファイナンス中心の研究会ではあるが、プライマリーバランスなど政府のアセットサイドの状況もどうしてもリンクしてくるので、留意が必要。この研究会というよりは国全体として考えていかねばならない。

 

・ マクロ面をどう見るかについて、個人的な見解ではあるが、今後のインフレの動向を考えるときに、サプライチェーンの観点がある。90年代から中国が西側の経済と融合し、グローバルサプライチェーンの伸長で物不足が起きにくくなり、国内のインフレもあまり変動しなくなる、というのがインフレの動向だったと思う。もう一つ、西側の先進国をみると、インフレーション・ターゲティングについて、ニュージランドが90年に導入して、カナダなどが1990年代の初めに追随して、実務で実行され始めた時期とも重なるので、今後、各国のマクロ経済が90年代以前のような状況に戻るかどうかという問いについては、インフレーション・ターゲティングがどれだけ効くのかというのが1つの論点になるのではないか。インフレーション・ターゲティングについては、主流派の経済学者は結構効果があると思っているが、経済学者でありつつも実務に近い人は案外懐疑的な人もいる。


 続いて、理財局より「コスト・アット・リスク分析について」(資料3(PDF:1110KB))について説明が行われた。その後、意見交換が行われた。

 ▶ 当局からの説明概要は以下のとおり。

・ まず、内閣府の中長期試算に基づく国債発行額の将来推計について、コスト・アット・リスク分析に関係するため、改めて前提等を踏まえて説明する。

 

・ この分析の前提として、令和4年度の新規国債については、令和4年度1次補正後の計数となっている。令和5年度以降の新規国債については、令和4年7月に公表されている内閣府の中長期試算の「成長実現ケース」「ベースラインケース」の計数を用いて分析を行っている。また、令和4年度1次補正後の年限構成割合を将来にわたって横置きする形としている。

 

・ 以上の前提のもとシミュレーションすると、令和6年度にかけて国債発行額が徐々に低下し、その後、比較的安定して推移するような見込みとなる。このようになるのは、令和4年度1次補正後における短期債の年限構成に占める割合がそれほど大きくないことから、毎年度生じる借換がある程度抑えられていることなどが主な要因であると考えている。

 

・ 令和4年度1次補正後の前提に基づくコスト・アット・リスク分析について、新規国債等の前提条件は、内閣府中長期試算に基づく国債発行額の将来推計と同様となっており、これに将来の金利パスを描いた形でコストとリスクの計算をする。将来の金利パスの生成については、確率金利モデルであるHJMモデルを用いており、令和3年度末のイールドカーブを基準に、過去20年間のボラティリティに基づいて3,000本の金利パスを生成し、分析を行っている。

 

・ 令和4年度1次補正後の分析結果では、令和3年度当初の分析結果と比較して、コスト増、リスク減という結果が示されている。コスト増の主な要因としては、金利パスを生成する際、3,000本の金利パスの期待値について、内閣府の中長期試算の名目長期金利の水準に合致するような形で調整を行っているところ、令和3年度当初の分析で用いた令和3年7月の内閣府中長期試算の名目長期金利の計数と比較して、令和4年7月の内閣府中長期試算の計数が一定程度上昇しており、コストを上側に押し上げる効果がでたのかと考えている。リスクについては、令和3年度当初対比で若干のリスク減となっているが、この主な要因としては、令和4年度1次補正後においては、短期債の年限構成割合が、令和3年度当初計画と比較して減少していることから、将来発生する借換がある程度抑えられ、リスクを押し下げているのではないかと考えている。

 

・ 次に、同じくコスト・アット・リスク分析であるが、ランダムに年限構成を2,000パターン生成し、コストとリスクの関係性を分析すると、20年債と2年債については令和4年度1次補正後から発行割合を減少させた場合、10年債については発行割合を増加させた場合に、コスト、リスクともに減少する傾向が見られた。逆にその増減を逆転させた場合は、コスト、リスクともに増加する傾向が見られる。

 

・ 現状のストックと将来のフロー見込みを前提として、将来の金利変動にストレスを与えたシナリオを設定した場合、リスクがどのように変動するのかについても分析を実施した。運用部ショック時、VaRショック時及びリーマンショック時というボラティリティが比較的大きかったと思われる期間の金利変動のボラティリティを用いて将来金利パスを生成し、シミュレーションを行った結果を示している。各シナリオで用いるボラティリティに比例してリスクが増加する結果となり、最もボラティリティの高い運用部ショック時のシナリオが最も大きくなった。水準としては、ベースシナリオよりもリスクが7.5兆円程度増加する結果である。

 

・ マクロ計量経済モデルを用いた分析について、公表資料を基に諸外国の例をみる。前回の研究会でも紹介した米国TBACのモデルは、実体経済を4つのブロックに分割し、そのブロック間、ブロック内の関係を簡潔な関係式で表現したうえで、分析期間20年間でコストとリスクの関係性などの分析を行っているものである。

 

・ 英国とカナダでは、マクロ経済変数間の関係を、時系列モデルの一種であるベクトル自己回帰モデルで表現し、将来のコストとリスクの関係性の分析などを行っているようである。

 

・ TBACの分析の概要と、2022年第3四半期の分析結果を紹介する。当該モデルでは、実体経済を「Macroeconomic Block」「Rates Block」「Fiscal Block」「Debt Dynamics Block」の4つのブロックに分割し、ブロック間を簡潔な関係式で表現したモデルを構築、将来の経済変数等の推移を推計し、国債費等に係る分析を行っている。

 

・ 2022年第3四半期のTBACの分析は、2022年の第1四半期末時点のデータを用いて、単一債券で調達額全額を調達するとなった場合にそのコストとリスクがどう変動するのかという推計を行うもの。単一債券のみの発行による資金調達は非現実的ではあるが、各債券がコストとリスクの関係性に与える特性を知るためには有用な分析とされている。結果として、年限を短期化するほどコスト減、リスク増の傾向、長期化するほどコスト増、リスク減の傾向となるが、10年を超えた年限ではリスクが増加に転じることが示された。コストとリスクのトレードオフの関係性がある種示されていると言える。

 

・ また、同じ時点のデータを用いた、各年限の債券の発行割合を変動させた場合のコストとリスクの関係性についての分析では、TB、2~5年債、物価連動国債、変動利付国債の発行を増やし、長期の債券の発行を減らす戦略が選好される結果が示されている。

 

・ カナダの分析の概要を紹介する。カナダの分析でも安定的かつ低コストの資金調達を行うという目標の下、コストの指標である平均債務コストと、分散リスクとテールリスクを分析している。具体的には、指標の分布のイメージを資料中の図表で示しているが、信頼区間として90%、95%及び99%を採用しつつ、信頼区間における利払費を分析する(1)絶対的コスト・アット・リスク、利払費の平均値であるコストからの上振れ幅をリスク指標として分析する(2)相対的コスト・アット・リスク、信頼区間外における利払費の平均値をテールとして分析する(3)テール コスト・アット・リスク、をそれぞれ分析している。

 

・ カナダのモデルでは、金利の期間構造を表す3つの変数と、GDPギャップ、政策金利、インフレ率の3つのマクロ経済変数の関係性をベクトル自己回帰モデルによって表し、将来金利の時系列推移などを分析する手法を取っている。このモデルによって得られる将来金利の時系列推移、マクロ経済変数から推計した将来の資金調達額、国債発行計画などの情報をインプットした上で、利払費の分布や、リスク・テールリスクの10年間の推移などを分析している。

 

・ 最後に、現状と今後の検討課題をまとめる。現状、当局では、将来リスクの定量的な把握・分析に必要な将来金利の時系列推移を、HJMモデルにより推計しているところだが、マクロのショック等を将来金利に反映させるような分析は行っていない。一方、諸外国では、マクロ経済の関係性を示すマクロ計量経済モデルを使用して、リスクの把握分析を行っている例もある。こうした状況を考慮し、マクロ計量経済モデルを用いた分析が日本においても有用であるか、まず検討したいと考えている。また、マクロ計量経済モデルを用いた分析を行う場合でも、必要なデータの取得や、その更新の容易さ、分析の背景となる理論なども精査した上で、どのようなモデルを活用するかなどの検討を進めてまいりたいと考えている。現状の分析指標の改善点や、マクロ計量経済モデルの適用にあたってのメリット、デメリットも含め、先生方から御意見をいただきたい。

 ▶ メンバーから出された意見等の概要は以下のとおり。

・ 日本においてもマクロ計量経済モデルを用いた分析を行うべきか、という点について、TBAC型の分析は少々実行が難しいかと思っている。やるのであれば、VARモデルを作ってもよいかもしれない。ただ、それでもHJMモデルを基礎にすることは続けたほうがよいのではないかと考えている。HJMモデルは、金利の期間構造に基づいた無裁定条件で、イールドカーブをモデルにして、シミュレーションする枠組みだと思うが、シンプルなモデルなのでシナリオ分析をしやすいという強みがある。一方で、欠点としては、金利の期間構造なので、タームプレミアムの動きが一切入らない点がある。流動性プレミアムなど様々な要因で国債の金利は動くと思うが、そうしたタームプレミアムに入ってくる要因がHJMモデルではモデル化されていないので、そこをシナリオ分析で補う必要がある。

 

・  TBACのモデル及びVARモデルは、両方ともマクロ変数が入っているので、マクロ経済由来の流動性プレミアムなどのタームプレミアム要因もモデル化できるが、それでもTBACのモデルを推さないのは、TBACのモデルは、日本銀行が運用しているフィナンシャルマクロモデル(FMM)に似た、いわゆる構造計量経済モデルというべきものだと思うが、それぞれの変数の因果関係を定式化する際に結構裁量的な形で決めないといけないので、モデルを作るのに時間がかかるのではないかと思うためである。

 

・ 日銀のFMMを流用することもあり得るかと思うが、私の理解では、日銀のFMMにはまだイールドカーブが組み込まれておらず、また、マクロストレステスト目的でつくったものであって国債のコスト・アット・リスク用のモデルではないので、改造するのは時間がかかると思う。

 

・ TBACのモデルの強みは、FMMと同様に、外生変数と内生変数が分かれていて、外生変数についてはシナリオ分析上の仮定を入れられるので、シナリオ分析がやりやすい点。今、我々は、次の時代への転換点、つまり、過去のデータがあまり参考にならないという難しい状況におり、こうした不確実な時代には、データから出てくる統計的なモーメントではなく人間が直感的な理解で置くシナリオのほうが予測には資するという面もあるので、シナリオ分析のやりやすさは強みになる。しかし、TBACのモデルはつくりにくく、VARモデルのほうがオートマチックなフレームワークなのでつくりやすい。

 

・ VARモデルの欠点は、シナリオ分析がしにくい点。例えばカナダの分析は、おそらく6変数のモデルであり、6変数の誤差項の同時分布からモンテカルロ・シミュレーションをやる形になると思うが、特定のシナリオに従って人間がシミュレーションの一部の設定だけを任意に変えるということがやりにくい。カナダのフレームワークでシナリオ分析をする場合、レジームスイッチングモデルというような、もう少し大きい統計モデルを推計して、それぞれのレジームを一つのシナリオとした上で、あるレジームが実現したらどうなるか等、ややこしい分析をすることになるが、そうしたことをしても予測力の向上はあまり期待できず、シナリオ分析の面ではVARモデルはあまり使えない。よって、現状ではVARモデルの予測力はそこまで期待できるものではないが、もしヒューマンリソースに余裕があるのであれば、HJMモデルを補完する形で使うのはよいと思う。カナダのモデルは、Nelson-Siegelモデルの3変数にマクロ変数として、アウトプットギャップ、インフレーションレート、短期金利を入れたモデルであるが、専門家にアドバイスを受けつつ、つくれるとよいのではないか。

 

・ 日本特有のVARモデルの難しさとして、過去の日本のデータは、インフレ率が高くならず、金利がゼロに貼り付いているなど、結構特殊な状況が続いていたので、今後の予測のためにVARモデルを推計するためのデータとして役に立つかどうかという点がある。

 

・ 現状、ある程度制約を置きながら、機械的に生成した年限構成と過去のデータから利払費の平均値とばらつきを試算し、年限構成の変化がもたらす帰結を評価しようとしているものと理解しているが、ナイーブであるように思う。この分析では、政府サイドの資金需要など、いろいろなものが捨象されており、また、イールドカーブのシミュレーションにあたっては、運用部ショックなどのリスクのサイズ感としては適切なものが取り込まれているが、日本における現在の緩和的な金融政策からのイグジットを明示的に検討していない点もある。

 

・ マクロ計量経済モデルは使うべきだと考えるが、万能ではなく、現在捨象されている事象を取り込んだ場合に評価にどういった変化が生じるかを考えるための材料として役立つにすぎない。特にマクロ変数間の連動性について、過去のデータを参考にしつつ一定のモデル化を行うことで、現在のアプローチで見逃しているポイントをクリアに示すことができると思う。

 

・ ほかの国が既にモデルを用いた分析を行っているという点も重要である。各国が、若干の違いはありつつも、共通したスピリットに基づき、モデルを運用している背景には、当局間のコミュニケーション上で有用という面があると理解している。

 

・ どのようなモデルを使うべきか、という点に関しては、現行の分析は維持した上で、他国のアプローチを踏襲するのが分かりやすいのではないかと思う。日本に特殊的な状況である金融政策の変更可能性については注意して取り扱う必要があるが、ほかの国の議論に平仄を合わせた検討が行われるべきかと思う。

 

・ ヒューマンリソースがあれば全部やらねばならない、というのが正直な思いだが、HJMモデルのよさは、ボラティリティが上がるとイールドカーブに跳ね上がる、という点が入っているところだと思う。バンク・オブ・カナダのNelson-Siegelモデルのものは扱いやすいとは思うが、ボラティリティはコンスタントなのでないか。バンク・オブ・カナダのものは、おそらく、普通のNelson-Siegelモデルで、水準、傾き、曲率とマクロ変数でVARモデルを構築し将来を予測するという感じで、すぐできると思うが、今のHJMモデルよりもよいとは一概には言えないと個人的には思う。


・ TBACのモデルは、無裁定条件など、HJMモデル同様に前提とされていて、かつ、推計がしやすい。ただ、少し気になるのは、マクロブロックがあまりにも簡素である点。日本銀行のモデルは、多くの構造が入れ込まれており、むしろそちらに注目して分析を実施したほうがよいかもしれないと思った。TBACやカナダのモデルを採用するのであれば、日本の状況に合わせて開発、改良をしていく覚悟が必要となる。ただ、TBACのモデルもやはりボラティリティはコンスタントだと思うので、やはりHJMモデルのよさはそれなりにあるのかと思う。

 

・ 定量分析を高度化する意味は当然あることに加え、それを発行計画等の作成に活用すると、やはりアカウンタビリティーの向上につながると思う。ただ、何がいいかという中身については、専門家の意見や継続性の観点などを踏まえて対応すべきと思う。

 

・ 定量理論の世界とは別に、実際の生の経済情勢、あるいは市場参加者のニーズ等の動向も、非常に重要なパートの一つであり、定量の部分と定性の部分のバランスが最終的には重要。それがひいては、国債管理政策の基本的な目標にも通じていくと思う。理論と市場との対話の2つの要素に丁寧に対応し続けることで、安定的な国債発行、あるいは償還に努めていく必要があると考える。


(以上)



連絡・問合せ先:
 財務省 理財局 国債企画課 企画係
 電話 代表 03(3581)4111 内線 2565