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国の債務管理に関する研究会(第1回)議事要旨


国の債務管理に関する研究会(第1回)議事要旨

.日時 令和4年6月13日(月)13:00~14:00

.場所 財務省 国際会議室 / オンライン

.内容

1.国債発行を取り巻く現状と課題



まず、理財局より「国債発行を取り巻く現状と課題」 (資料(PDF:1495KB))について、説明が行われた。その後、自由に意見交換が行われた。



 ▶ 当局からの説明概要は以下のとおり。
・  国債管理政策は、確実かつ円滑な発行により必要とされる財政資金を確実に調達することと、中長期的な調達コストを抑制していくことによって、円滑な財政運営の基盤を確保することという基本的な考え方に基づき運営しており、こうした目標を達成するため、国債発行計画の策定・運営に当たっては、「市場との対話」を丁寧に実施し、市場のニーズを十分に踏まえた国債発行に努めてきたところ。

・  一方で、一時的・短期的な需要の変化に過度に対応すれば、結果として市場参加者にとっての透明性・予見可能性が損なわれ、国債投資に対するリスクが高まり、中長期的な調達コストの上昇につながる場合もあることから、今後とも大量の国債発行が見込まれる日本においては、中長期的な需要動向を見極め、より安定的で透明性の高い国債発行を行っていくことが重要と考えている。

・  現在の国債発行の全体について、令和4年度の予算の枠組みから、新規国債39.6兆円、復興債0.2兆円、借換債152.9兆円の調達が必要で、合計で普通国債として192.7兆円、これに令和4年度の財投計画に必要な財投債25兆円を合わせた217.7兆円が発行総額となる。この額から個人向け等の19.1兆円を除いた198.6兆円をカレンダーベースの市中発行で調達することとしており、満期40年のものから6ケ月のものまで幅広い年限に割り振って発行することとしている。

・  国債発行総額の推移について、コロナ前までは、概ね減少傾向であり150兆円前後まで減少してきたところ、令和2年度に新規国債が大幅に増加したことで発行額も大きく増加している。その後は高い水準での国債発行が続いているが、概ね減少傾向にある。内訳をみると、令和2年度までは借換債が100兆円程度で推移していたが、令和3年度当初で147.2兆円と約40兆円増加している状況。

・  借換債の増加の背景にあるものが、短期債の増額である。カレンダーベース市中発行額について、令和2年度(3次補正後)は、コロナでの増発に伴い、満期が2年以上の中期債・長期債・超長期債等の発行額も増加したが、全体としては短期債の発行割合が大きく増加することとなっている。短期債は翌年度には満期が来るため借換債の発行が必要となり、国債発行総額の高止まりの要因となることから、直近2年間は短期債の発行割合の減少に努めている。令和2年度3次補正後では38.8%と4割弱あったところから足元では30.4%まで減少し、コロナ前との比較では依然として高い水準ではあるが、正常化に向けて一歩ずつ進んでいる。

・  令和4年度の国債発行計画では、3年度補正後に比べて、2年度に増発した2年債が償還を迎えるため、借換債等が増加する一方、新規国債が大きく減少するため、国債発行総額は▲9.3兆円、カレンダーベース市中発行額は▲13.6兆円減少した。こうした中、カレンダーベース市中発行額は短期債に大きく依存しており、金利変動に対して脆弱な資金調達構造となっていたことから、短期債の発行減額に努めるとともに、市場からのニーズが強い、40年債・10年債・流動性供給入札を増額するとともに、市場からのニーズが低く償還期限の短い2年債を減額するなど市場のニーズを踏まえた国債発行を行うことで、新型コロナ対応で短期化した平均償還年限を是正することとした。

・  こうした取組の結果、日本国債の平均償還年限はフローで見ると、令和2年度に大きく短期化して6年8カ月となったところから、2年間で7年9カ月に1年強平均償還年限を戻すことができている。また、ストックで見ると、超長期債の発行額が増加していること等に伴って、平均償還年限は9年3か月と過去最長となっている。

・  フローで見ると国債発行額は減少傾向にある一方、ストックで見た国債発行残高は増加しており、普通国債残高は、令和4年度末に1029.2兆円となる見込みとなっている。

・  長期金利は、近年は日銀の金融緩和の影響もあり、低位で安定して推移しているところ、足元では、米長期金利の上昇の影響等もあり、0.2%近辺で推移している。

・  国債市場の流動性については様々な指標があるところ、国債金利のボラティリティが低下していることもあり、月間平均買入高を残高で割った回転率でみると、2016年頃から低い水準で推移している。

・  国債市場の流動性を維持・向上させる観点から、理財局では、過去に発行した国債を追加発行することにより、市場における需給の不均衡を解消し、市場機能を向上させることを目的とする仕組みである流動性供給入札を実施している。

・  制度導入当初は1ゾーンのみであったところ、順次拡大し現在では、残存1-5年、5-15.5年、15.5-39年の3ゾーンで、月平均1兆円、年間12兆円の規模で発行している。なお、令和4年度は、残存1-5年のゾーンを市場のニーズを踏まえて隔月1,000億円増額したところ。

・  国債等の保有者別内訳をみると、国債では、日本銀行が最も多く48.1%と全体の半分程度を保有している。T‐Billでは、海外が61.4%と最も多くなっており、これは通貨ベーシス・スワップで、ドルを円転して運用することで海外の投資家がプレミアムを得られること等が影響していると考えられる。国債とT-Billの合計で見ると、日本銀行は43.4%、海外は14.3%国債を保有している。

・  国債とT-Billの保有者割合の推移をみると、日銀が金融緩和に伴って保有シェアを大きく増加させてきた一方、銀行等の保有シェアが大きく減少している。また海外も徐々にその保有シェアを増加させてきている状況。

・  海外投資家の国内債券の保有状況については、国際収支統計で国・地域別の投資残高を公表している。ただし、国内債券には、国債以外にも、地方債、社債など居住者が発行するすべての債券が含まれており、また、国際収支統計上の国の分類は、投資家に代わって債券等の保管・管理を行う金融機関であるカストディアンを含む保有者の国籍に基づく分類であり、最終投資家の国籍とは必ずしも一致しないことに留意が必要。

・  昨年6月に開催した第54回国の債務管理の在り方に関する懇談会では、ポストコロナを見据えた国債管理政策の留意点として、(1)短期化した平均償還年限の是正、(2)日銀の金融政策が国債市場に与える影響、(3)市場の流動性・機能度の維持・向上、に加え(4)より多角的な議論の必要性として、自然災害リスクや地政学リスクといったより長期的に国債管理政策上リスクと考えるべきことについても、今後は検討していくことが必要である、としているところ。

・  こうした点を踏まえ、本研究会では、「1.将来の国債の利払費に関する定量的な分析(コスト・アット・リスク分析)」として、現在当局ではコスト・アット・リスク分析を行っているところ、自然災害リスクや地政学リスクを含め、様々なリスクを分析するためにどのようなツールが必要か、諸外国の状況等を踏まえて検討しておく必要があるのではないかと考えている。

・  「2.国債市場の流動性の分析」について、国債の安定的な消化のためには、国債の売買が活発に行われる流動性の高い国債市場であることが必要であるところ、発行当局としては、金融政策を所管する日本銀行・市場参加者等と連携しつつ、国債市場の状況等を注視していくことが必要なのではないかと考えている。

・  「3.国債市場のインフラ整備(BCP対応を含む)」について、新型コロナ発生時、出勤制限やリスク回避的な保有資産の現金化等により、一時、市場において不確実性が高まった経験等を踏まえ、今後、こうした状況下においても着実に国債を発行・消化できるような体制を強化していく必要があるのではないかと考えている。

・  「4.国債の需要動向・保有構造の分析」について、直近10年間で、国債の保有構造は銀行等の保有シェアが大きく減少するなど大きく変化しているところ、今後国債の需要動向がどのように変化し、それが発行市場にどのような影響を与えるか、海外投資家の保有シェアが徐々に増加してきているところ、どのような属性の海外投資家が国債を保有しているのか、分析していく必要があると考えている。

・  「1.将来の国債の利払費に関する定量的な分析」について、日本のコスト・アット・リスク分析では、現在のイールドカーブと過去20年間の金利の変動を基に、将来金利の水準と変動幅を試算する「確率金利モデル」を採用しており、このモデルから3,000本の将来10年間の金利パスを生成し、今後の国債発行計画の年限構成割合を仮定し、3,000本の金利パスと掛け合わせて利払費を計算することで、利払費の平均値(コスト)と、上振れ幅に当たる、99%値と平均値との差(リスク)を推計している。

・  令和4年度国債発行計画の検討にあたり、コスト・アット・リスク分析で、令和3年度当初計画の年限構成割合を基準に、ランダムに2,000パターンの利付債の年限構成を生成し、コスト・リスクの関係性について分析を行ったところ、令和3年度の当初計画を横置きした場合と比較して、20年債、2年債については、発行割合を減少させた場合、コスト・リスクともに減少する傾向、10年債については、発行割合を増加させた場合、コスト・リスクともに減少する傾向が見られた。こうした点も踏まえ、令和4年度の国債発行計画では、2年債を減額、10年債を増額したところ。

・  米国でもコスト・アット・リスク分析を行っているが、米国ではTBAC(借入諮問委員会)が米国財務省に確率金利モデルとは異なる、マクロ計量経済モデルに基づく分析を行ってその結果を提供している。マクロ計量経済モデルは、現在のイールドカーブと過去の金利変動に加え、マクロ経済のファンダメンタルズなどを基に、将来金利の水準と変動幅を試算するもの。

・  TBACにおいても、米国の国債発行計画の年限構成割合を変化させた場合のコスト・リスクの関係性について分析を行っており、例えば国債費対GDP比の標準偏差をリスクにとった例では、2~5年債のBellyを増加させると、コストが減少する一方、リスクが増加することから、コスト・リスクの間にトレードオフがあることが示されている。

・  なお、日本のコスト・アット・リスク分析は2003年に導入したもので、当時は確率金利モデルを用いたリスク分析を行っている諸外国もあったものの、現状、主要国においては、マクロ計量経済モデルを用いた分析も増加しており、海外の事例も調査した上で、我が国に適した国債に関する中長期的リスクの分析手法を検討してまいりたい。

・ 本日はこうした点も踏まえながら、今後当研究会でどのような議論を行っていくべきか、メンバーの方々からご意見をいただければ幸い。


▶ メンバーから出された意見等の概要(当局においてとりまとめ)は以下のとおり。
・  「1.将来の国債の利払費に関する定量的な分析(コスト・アット・リスク分析)」について、イールドカーブの決定メカニズムをモデル化するという方向性に関しては、幅広いクラスが存在していると考えている。非常に単純なモデルから何らかの構造によって国債市場のみをモデル化したもの、その他の金融市場・実物経済を取り込んだものまで幅広く存在している。こうしたモデルは現状の理解を助ける一方で、予測というタスクについての効果には自ずと限界がある。しかし、機械学習手法を中心とする予測モデルの構築に力を入れたとしても、予測モデルの構造変化に対してどこまで迅速に対応できるのかという問題があると思う。

・  したがって、分析の結果を何に使おうとしているのかが重要である。仮に何か重大なリスクシナリオの顕在化に伴う財政運営上の問題の顕在化をシミュレートしたいということであれば、最も親和性の高い試みとしては、日本銀行が行っている金融マクロ計量モデル、FMMだと思う。このモデルは、複数セクターを線形モデルで表現しながら、マクロ変数の変動をシミュレートするためのものと理解しており、こうした試みは財務省が今後備えておくべきツールを検討する上で有用になるかと思う。

・  「1.将来の国債の利払費に関する定量的な分析(コスト・アット・リスク分析)」について、恐らくここでは、金利確率モデルを所与として、発行年限の構成割合を変化させた時に何が起こっているかということを分析していると理解した。これはこれで大変重要なことだと思うが、より長い目で考えた時に、将来、こういうショックが起こった時には何パーセントの割合で大きなコストが生じるという分析、すなわち、将来におけるストレスを色々かけたときに何が起こるかという枠組みを、追加的に今後このモデルで入れられるかどうか検討できるのではないか。中長期的に持続可能な財政の健全性という意味で、1つ良いツールになるのではないかと考える。

・  国の債務管理の在り方に関する懇談会の議論の中でもあったが、国債管理政策は非常に重要である。その上で、主な検討課題の案について4点とも、非常に重要と考えている。特に「1.将来の国債の利払費に関する定量的な分析(コスト・アット・リスク分析)」については、調達コストと借換リスクのトレードオフを定量化して、国債発行計画の策定に取り入れ、活用するということは、透明性、アカウンタビリティーを向上させることに大きく寄与していると考えており、意義があると思う。

・  これに加え、諸外国の事例、主に先進国だと思うが、今の流れとしてはマクロ経済、この辺の数値を取り入れていくことも検討するに値すると思うし、我々自身の債務管理の高度化にも寄与するのではないか。こうした理論がベースにあって、日々起こり得る突発的な事象、いわゆるテールリスクも含めて、現状をしっかり把握し、更には市場参加者、国債の購入者、購入側の立場の者とも、密にコミュニケーションを取りながらやっていく、ハイブリッド方式のやり方が好ましいと思っている。この1番の部分では、こうした点を一つのポイントとして、まずは議論していくことは違和感がない。

・  発行当局は、市場との対話として、毎年12月に詳細な発行計画を公表し、どの年限でどれだけ出すということも含めて公表している。それはregular and predictableという原則を考えた上では大事なことだと思っている。他方で、海外投資家の保有が増えていることや、カストディアンベースの情報しかなく、最終的に誰が保有しているのか分かりづらいという状況の中、この枠組みが今後も持続可能なのかという点は、個人的に疑問に思うところもある。

・  こうした状況下では、やはり分析を深めていくことは大事だと思っている。「1.将来の国債の利払費に関する定量的な分析(コスト・アット・リスク分析)」について言えば、例えば、金利パスを生成するときの分布を変えたり、ストックベースの年限構成の割合も分析の中に組み込んでみる、といったことも考えられる。

・  また、マクロ計量経済モデルという言葉が出ていたが、論文を見ると、マクロの状況が国債費に効いてくる経路としては、タームプレミアムの変化を通じて効いてくるというモデルだと理解した。タームプレミアムがどのようにマクロ変数から影響を受けているのかという点は、学術的な研究はかなり積み上がってきているため、それらも丁寧に見ながら分析を深めていくことや、リーマンショックやコロナショックのときにタームプレミアムが上がると考えられ、短期化が進んだと理解しているため、そういったことも分析することが必要である。特に日本は危機時に経済成長率がマイナスになり、タームプレミアムが跳ね上がるリスクがあることも踏まえると、そうした分析を深めていくことは有意義だと考える。

・  「1.将来の国債の利払費に関する定量的な分析(コスト・アット・リスク分析)」については、今後新しい時代に入って、マーケットの構造も変わっていき、市場参加者の行動も変わっていくと思うので、過去の行動を使って統計分析せざるを得ないのだが、ある程度の裁量的な判断として、行動が変わっていくという可能性も考慮に入れて、統計分析の結果を見ていく必要があると思う。


・  「2.国債市場の流動性の分析」について、例えば先行研究では、流動性が枯渇すると信用リスクまで響いてくるという結果も出ているので、引き続き大事な分野だと考えている。

・  「2.国債市場の流動性の分析」について、既に日本銀行の金融市場局が、国債の流動性について、例えばボリュームやタイトネスについて分析を行っていると思うが、課題としては計測した結果をどのような意思決定に繋げるかという点だと考える。綿密にモデルを組み立てても、意思決定上役に立たなければ資源を非効率に使っているだけであるため、何が目的という点が重要だと考える。例えば、国債の安定消化を目的として、価格を下げるという場合、消化という目的は達成できるが、最適化問題のセットアップとしては不十分なように思う。個人的には、財政支出に関して社会保障を含む幅広い巨額のニーズがあり、発行分の償還と利払いに加え、税収の見積もりも踏まえた上で策定した国債の発行計画を、一定の国債残高の軌跡をトレースするという形で実行していくということだと思う。必然的に動学的な最適化問題になると考えるため、最適化問題を閉じるための制約条件が必要と考える。

・  「2.国債市場の流動性の分析」については、今回一つ指標を挙げられているが、それ以外にも例えば板の厚みや、ベストアスクなど、色々な指標があると思う。流動性については、様々な人が分析をしており、この指標さえ見れば、流動性を完全に測れるということはないと思うので、総合的に見ていくことが必要かと思う。

・  流動性を考える際に、市場流動性(market liquidity)と資金流動性(funding liquidity)の2つがあるが、いわゆるマーケット参加者が見る流動性は、恐らくmarket liquidity、すなわち、売れるときにどれだけ売りやすいかという点を中心に見ていると思っている。他方で、お互いの流動性は関連しており、market liquidityがないと、投資家は売りづらく引き受けるものはないということになってしまうため、基本的に双方は重なり合う概念かと思う。しかし、一度概念的に二つを区切った上で、まず国債を発行するときの、funding liquidityについてどういうことを発行当局としてモニターできるのかということは、海外での事例も踏まえつつ、検討することは大変重要かと思う。


・  時代というものを考えた時、1989年のベルリンの壁の崩壊で冷戦後の時代が始まったが、昨今ではロシアによるウクライナ侵略が始まり、米中対立も深まっており、次の新しい時代の入口に立っているという意識がある。そういう観点から、今後国債市場をどうしていくのかということを考えることも大事だと思う。

・  具体的には、今まではなかなか国債の国際化、海外の投資家に米国債に準ずるような、流動資産として円建ての国債が広く保有されるということは、ある程度あったもののそれほどではなかったが、今後そういうこともあり得るかもしれない。また、もしかすると「3.国債市場のインフラ整備(BCP対応を含む)」にある海外投資家関係のインフラをどのように整備するかということにも関連するテーマかと思う。そういう意味で、いろんな可能性を考慮して、議論することが大事だと思っている。

・  「3.国債市場のインフラ整備(BCP対応を含む)」については、そもそも証券会社において債券担当の人材がどの程度存在するのか。人的資源の蓄積が減少するのは当然良くないと思う。

・  「3.国債市場のインフラ整備(BCP対応を含む)」については、議論するとかなり深くて長い議論になりうると思う。過去10年で見ると、東日本大震災があり、直近で言えばコロナがあり日本国自体にとっての有事という状況があった。そういうものに応じて各企業、金融機関も含めてBCP体制の強化を図っているが、一つ一つ、優先順位をつけて、丁寧に対応するのが良いと考えている。金融機関や一般企業にとって一番大事なのは、企業それぞれの資金繰りという観点だと思う。これを踏まえ、国債市場のインフラ整備という観点から、BCPはどうあるべきかということをじっくりと議論していくのが良いのではないか。

・  「3.国債市場のインフラ整備(BCP対応を含む)」については、今のところ、特段の意見はないが、BCPを含むリスク管理に対する見方として、個人的に興味があるのが、事前のリスク管理と、事後のリスク管理という概念的整理である。例えば、プルーデンス政策について、事前には、金融システムをきちんとモニターしてなるべくリスクを減らし、何かリスクが顕現化した時に、例えば最後の貸し手といった機能をどうやって使っていくのかといった話がある。これを国債管理政策で見たときに、事前と事後のリスク管理にはどういう手段があるのか、私自身そういった視点を持ちながら、この勉強会に臨もうと思う。


・  「4.国債の需要動向・保有構造の分析」について、資金循環統計のグラフを改めて見てみると、日銀の保有比率が上がってきた裏で銀行等しか保有比率を減らしていない。なぜ銀行等の保有比率だけが減っているのか、どういうモデルで考えれば良いか分からないが、銀行の国債需要に何か、質的な変化が起こっているのかどうかという点は、考えた方が良いのではないか。すなわち、もし日本銀行の保有比率が今後長い目で見て減少していった場合に、日本銀行以外の国債保有者の分布のパターンが考えられるのか、頭の体操をしておくことは、一つ意義のあることではないかと思う。

・  「4.国債の需要動向・保有構造の分析」については、最近の研究において、超長期債には生保や年金という大口投資家がいるため安定的に発行できるという従来の常識が通用するのかどうかという分析があった。先行研究は売買行動を分析した研究だったが、各投資家の行動パターンがある程度の期間の中で変わっていたという印象がある。したがって、このような時間を通じた投資家動向の変化をモニタリングしていくということも今後重要になってくると考えている。


・  「2.国債市場の流動性の分析」と「4.国債の需要動向・保有構造の分析」について、2000年代の初頭以来、資金循環統計を見ると、日本から海外に投資が増え、その見合いとして、海外から日本への投資も増えてきている。この傾向が続くと、海外から日本に流入する資金の行き先の大部分の一つが国債であるため、海外投資家が長期債を今後保有していく傾向が強まっていく。すなわち、日本人がその対外資産を持つ見合いとして、海外投資家は、日本の資産を持つようになるため、海外投資家が長期国債を持つ傾向は強まっていくと思っている。そうすると、2020年3月にアメリカの国債市場でパニックがあったが、海外投資家が何らかのショックを契機にして大量に日本国債を市場で売却する可能性も今後は考えられる。2020年3月のパニックの要因の一つとして、米国債のディーラーのバランスシート上の資本が少なかったためにディーラーが機関投資家からのオーダーを受けきれなかったことが指摘されているが、日本の国債市場において同様の脆弱性がないのか、国債の需要動向、保有構造、仲介構造といった点について、同様のストレスがかかったときに耐えうるのか意識していく必要がある。

・  「2.国債市場の流動性の分析」と、「4.国債の需要動向・保有構造の分析」について、非常に関係性が高いと考えている。2番と4番は、少し時間をかけて同時に議論していくのが良いのではないかと考えている。流動性自体は、超低金利の金融政策が続いており、それに伴い債券市場自体の価格変動が非常に少ないという局面が長らく続いている。今、諸外国の影響を受けて少し金利が動き始めている状況にあるが、流動性を逐次適切に分析することで、その後何が起きるのかということをしっかり予測し、議論するということは非常に重要だと考えている。財務省におかれては、常に市場の方と密に連携し、例えば、流動性供給入札等で、市場の需要をしっかり理解の上で対応いただいていると思うが、長らく続いている低金利環境も永遠に続くわけではないので、そういうことも踏まえた上で議論していくのが良いと考えている。


→(理財局から説明)
・  例えば、分析の中で様々なリスクを組み込んでいくという指摘については、現在のモデルでどこまで分析ができるのかという点や、99%値より先のテールリスクの分析をどのように進めるかといった点について、我々も知見がまだ足りない部分が多々あるため、今回はアメリカの例だけ少し紹介したが、アメリカだけではなく諸外国の状況を調査してどういうことができるのか相談したいと考えている。

・  今回、様々な事例を教えていただいたが、その部分について我々も勉強していければと考えている。本日多岐にわたる示唆をいただいたため、まずは我々の方で整理したいと考えている。

(以上)



連絡・問合せ先:
 財務省 理財局 国債企画課 企画係
 電話 代表 03(3581)4111 内線 2565