国の債務管理に関する研究会(第6回)議事要旨 |
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.日時 令和6年6月21日(金)16:00~17:15 |
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.場所 財務省 国際会議室 / オンライン |
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.内容 |
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1.報告 |
まず、理財局より「諸外国の債務管理政策」(資料1(PDF:524KB))及び「御指摘事項について」(資料2(PDF:503KB)
)について、説明が行われた。
▶ 理財局からの説明概要は以下のとおり。
・ まず、諸外国の債務管理政策について、制度や債務管理の基本方針、近年のトピックス等をまとめたので、近年のトピックスを中心に紹介する。
・ アメリカは、低コストでの資金調達・投資家層の拡大・平均償還年限の長期化を目的に、2014年1月から変動利付債を発行している。また、強い投資家需要があり、長期的な資金調達能力の向上に資するとして、2020年5月には20年債の発行を再開した。
・ イギリスは、「国民の長期貯蓄を奨励する」という目的の下、2024年4月から個人向け国債の新銘柄を発行している。毎月利息を受け取れる“Guaranteed Income Bonds”と、満期時に複利で計算された利息を受け取れる“Guaranteed Growth Bonds”があり、いずれも固定金利型で年限は1年及び3年である。
・ ドイツは、近年multi-ISIN auctionの対象範囲を拡大している。また、2023年11月には、2024年以降の物価連動債の発行を停止することを公表した。
・ フランスは、グリーンボンドを2017年1月以降継続的に発行しており、発行残高は2024年3月末時点で世界最大となっている。また、世界初の物価連動型のグリーンボンドをシンジケーション方式で発行した。
・ 次に、これまでの会合で御指摘いただいた事項に関連して報告する。
・ まず、第5回研究会において、市場に大きなショックや一時的な変動が発生した場合の国債発行当局の対応として、財務省が国債の買入れを行う又はそうしたことが可能な枠組みをあらかじめ作ることが考えられるのではないかとの御指摘をいただいたところ、現行の買入消却制度について、米国と比較する形で整理した。
・ 現在、日本では、需給改善や流動性向上を目的とし、物価連動債のみを対象として買入消却を行っている。米国ではオフザランの固定利付債及び物価連動債を対象に買入消却が実施されているが、日本においても、過去には利付債等の買入消却を実施していた。また、買入消却の目的もその時々で異なっており、状況に応じて買入消却を実施してきたと言える。
・ 次に、第5回研究会において、非営利法人等の国債保有を促進しようとする場合、どの程度のマーケット規模が見込めるのかを考える必要があるとの御指摘をいただいた。改めて資金循環統計を確認するに、2023年度末の現金・預金額は、家計で1,127.5兆円、民間非金融法人企業で336.0兆円である。こうした資産の状況を背景に、どの程度の国債保有ニーズを喚起し得るのかを考えていく必要がある。
・ 最後に、第2回研究会で御意見を頂戴したコスト・アット・リスク分析について、その後の取組を報告する。改めてとなるが、コスト・アット・リスク分析は、将来金利の時系列推移を確率金利モデルで表現し、国債残高と国債発行計画から生じる将来の利払費の分布を推計して、その特徴の把握を行うものである。確率金利モデルにはHJMモデルを採用している。
・ 第2回研究会において、将来金利の推移を表現するモデルとして、HJMモデルのほかにカナダで用いられているような金融関連変数とマクロ経済変数を用いた時系列モデルの一種であるVARモデルを構築して試算を行ってみてはどうかとの御意見をいただいた。
・ これを踏まえ、日本のデータを用いてVARモデルを構築し、試算を実施した。まず、10年金利の推移を見ると、観測金利とVARモデルによる推計金利との間には大きな乖離は見られず、ある程度の金利の変動を表現できていると言える。一方、将来金利については、VARモデルから得られる将来金利は、現行のHJMモデルに比べて低い結果となった。
・ VARモデルに基づき将来10年間の利払費の平均値(コスト)を試算すると、HJMモデルによる試算に比べ、概ね3.6兆円程度コストが低い結果となった。
・ こうした違いは、推計に用いた金利データの傾向とモデルの特性から生じているものであると考えられる。将来の利払費の試算にあたっては、より保守的な見通し・結果が求められることから、基本的にHJMモデルにより推計を行うこととするが、今回構築したVARモデルも補完的に活用してまいりたい。
次に、大和証券株式会社金融市場調査部 岩下チーフマーケットエコノミストより、「金融政策変更後の市場と投資家動向」(資料3(PDF:2495KB))について、説明が行われた。その後、意見交換が行われた。
▶ メンバーから出された意見等の概要は以下のとおり。
・ イギリスの毎月利息を受け取れる個人向け国債について、国債保有者層の裾野を広げる観点で興味深く感じた。日本では毎月分配型の投資信託に需要があるので、毎月分配型に類する個人向け国債に対する需要もあるように思う。その際、毎月分配型の投資信託の欠点は運用リターンを再投資せず分配してしまうことであるので、例えば、投資信託は長期保有しリターンも再投資、毎月分配へのニーズは個人向け国債で満たす、といった棲み分けもでき得るのではないかと思った。
・ コスト・アット・リスク分析について、理財局が用いているHJMモデルは、金利のボラティリティーが上がると長期金利上昇の方向に作用するモデルであり、結果としてこのモデルに基づく将来金利は上昇傾向になっていると理解している。他方、VARモデルも、構築方法次第でボラティリティーの評価を調整することができ、またリスクプレミアム等も金利パスを左右し得るので、HJMモデルを軸としつつ、引き続き様々なモデルを比較するとよいかと思う。
・ VARモデルは過去の標本平均に金利が回帰するようなシナリオ、一方でHJMモデルは足元の傾向を強く拾うシナリオのモデルであって、それぞれが有用である。また、VARモデルにも、過去の標本平均の影響が弱くなる時変VARモデルのほか様々なバリエーションが存在し、深掘りの余地がある。いずれにせよ、推計に用いるデータの傾向とモデルの特性を踏まえ推計結果をどう解釈するのかが重要であり、柔軟に活用していくとよいと思う。
・ 投資家の動向は、景気、株式市場、海外市場等も含めた経済全体の環境に左右される。国債市場のみならず、様々な経済環境が投資行動に与える影響を注視し、国債発行を行っていくことが重要である。
・ 預金取扱金融機関について、資本等に関する規制やリスク管理の枠組みによる制約はあるが、現状その国債保有比率が低いのは事実である。他方、今後、その国債保有を増やすとしてもその増加は漸次的なものであり、相応の時間がかかることを念頭に置く必要がある。
・ 今後、日本銀行が保有している国債の残存年数は、時間経過により自然体で短期化していくだろうと考えると、国債全体の年限構成が一定であれば、市中保有分の国債の残存年数は長期化していくと考えられる。そのため、市場の需要動向を注視しながら、発行年限を中期方向にシフトさせることは一つの選択肢だと思う。
・ 危機的なショックが発生した場合に当局としてどのように対応するのかは、平時から検討しておく必要がある。
・ 今後、日本銀行による国債買入れが減額されていく中で、これまでも議論してきたことだが中長期的な視点として、仮に市場に大きなショックや一時的な変動が発生した場合に、国債発行当局としてどういった対応が可能なのかについては、あらかじめ整理をしていくことが重要である。その際、イールドカーブ・コントロールを経て蓄積された政策当局による長期金利操作についての知見も踏まえ、考えていくのがよいのではないかと思う。
・ 市中保有分の国債のデュレーションは、国債市場の機能度にどういった影響を及ぼしているのか。タームプレミアムを計算する際には、民間部門が保有している国債のデュレーションが非常に重要な要素となってきている。
・ 国債の売買における海外投資家のシェアは累増している一方で、保有残高ベースでの海外投資家のシェアは減少している。この点について、どのように解釈すればよいか。
・ 日本銀行の国債買入れの減額の見通しが立つことと、中立金利についてのコンセンサスが作られることでは、どちらが市場における不確実性を減らす上で重要か。
続いて、「今後の国債の安定的な発行・消化に向けた取組について(案)」(資料4(PDF:265KB))について、説明が行われた。
▶ 理財局からの説明概要は以下のとおり。
・ 国債市場を取り巻く環境が今後大きく変わっていくことも想定される中、国債発行当局としてどのような取組が求められるのかについて、ご議論いただいており感謝申し上げる。今般の議論の整理について、お手元の案をご確認いただき、改めてコメント等あれば頂戴したい。
▶ メンバーから出された意見等の概要は以下のとおり。
・ 「議論の整理(案)」の内容は、この研究会での様々な意見が適切にまとめられていると思う。コメントとして申し上げると、10年超の実験的な金融政策の見直しに伴いどのような市場環境の変化が起こるかは予測し難いが、そうした中での財務省の大きなスタンスとして、丁寧かつ多角的な検討を実施しながら対応していく、ということを内外に継続的に示していくことが非常に重要である。
・ 本研究会に関する報道だけを見ていると、日本銀行が先日「7月の金融政策決定会合において、今後1~2年程度の具体的な減額計画を決定する」ことを示したことを受け、財務省が具体的な対応を検討しているかのように受け取られかねないが、実際にはそうではなく、本研究会での議論は中長期的な国債管理政策運営のためのものだと理解している。市場とのミスコミュニケーションとならぬよう、正確な情報発信が重要である。また、国債発行に当たっては、短期的な需要の変化に過度に対応するのではなく、中長期的な需要動向を見極め予見可能性のある形で対応していると承知しているが、同時に、市場環境が大きく変化する局面においては適時適切な対応が必要であると考える。
・ 今後、日本銀行の国債の買入れが縮減していく中で、市場の流動性・機能度を高めていくことが重要であり、国債発行当局としてこれまで以上に情報発信に努めてほしい。同時に、国債先物取引における受渡適格銘柄の最割安銘柄について、その大半を日本銀行が保有していることが市場流動性に大きく影響していると思われるので、国債発行当局としてどういった対応ができるのか、重点的に検討する必要があると思う。
・ 「議論の整理(案)」の中で言及のある「各投資家の行動は変化し得るとの認識の下」という点が非常に重要であり、中長期的な国債管理政策を考える上では、投資家別の選好が時間を通じて変化し得ることがポイントだと思う。特定満期の債券の需要の利回りに対する弾力性や、他の年限債に対する交差弾力性といった点を、時変で推定していくような取組が重要になってくるのではないか。
・ 「議論の整理(案)」はよくまとまっており、内容にコメントはない。国債の保有者構成について、国債の安定保有が期待される投資家の開拓が重要であるのと同時に、アービトラージャーの投資動向を注視することも求められる。例えば、銀行においては、金融規制もある中で日銀当座預金と国債のどちらを資産の形態として選択するのか、といった論点がある。
・ 「諸外国の債務管理政策」の説明において、ドイツの物価連動債の発行停止について言及があったが、ドイツは物価連動債をそれなりの規模で発行していたと承知している。一方、日本では、物価連動債の発行残高は非常に少なく、また今後、変動利付債ほか新たな商品を出すこともあり得ると思うが、そうした商品の市場をどう作っていくのかという視点は引き続き論点となると思う。
・ 個人投資家の動向について、非伝統的金融政策下でマイナスであったリスクプレミアムが正常化し、長期金利が上昇する状況では、安全資産である国債への資金シフトも考えられると思う。
・ 「議論の整理(案)」の文面について異存はないが、コメントとして、新NISAを活用した家計の投資が進んでいるが、外貨建て資産の投資には為替リスクもあり、仮に今後円高に転じキャピタルロスが生じることとなれば、個人の投資機運が後退してしまうおそれがある。そういった事態の一つの防止策は、国債が組み入れられた投資信託等も購入するなど、バランスのとれたポートフォリオを組むことだと思うので、個人にとってもそうした形での国債保有は重要だと考える。
(以上)
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