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財政融資資金の貸付金の証券化等についての検討会 報告書

財政融資資金の貸付金の証券化等についての検討会
報告書

平成18年7月
財政融資資金の貸付金の証券化等についての検討会


財政融資資金の貸付金の証券化等についての検討会 委員名簿

(平成18年7月3日現在)
 

 

 高木 勇三  日本公認会計士協会常務理事

 富田 俊基  中央大学法学部教授

 広田 真一  早稲田大学商学部助教授

 前川 聡子  関西大学経済学部助教授



 吉野 直行  慶應義塾大学経済学部教授



注)○は座長

(50音順、敬称略)

目  次

1.資産・債務改革と財政融資資金の取組について

(1) 国の資産・債務の圧縮の必要性、財政健全化との関係について

(2) これまでの財政融資資金の取組

(3) 本検討会における検討課題

2.民間における証券化と財政融資資金貸付金の証券化について

(1) 財政融資資金の役割について

(2) 貸付金の証券化のメリット

(3) 貸付金の証券化のコスト

(4) 借り手に対するガバナンス

(5) 証券化商品市場の現状と今後の見通し

3.財政融資資金貸付金の証券化の検討

(1) 財政融資資金の貸付金の証券化について

(2) その他留意点


財政融資資金の貸付金の証券化等についての検討会報告書

1.資産・債務改革と財政融資資金の取組について

(1) 国の資産・債務の圧縮の必要性、財政健全化との関係について

先般、国会で成立した「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(以下、「行革推進法」という。)においては、国の資産規模の圧縮を進めることにより、国の財政に寄与するとともに、内在する金利変動等のリスクも軽減されるとの考え方に基づき、国の資産の大幅な圧縮を進めることを内容とする国の資産・債務改革を推進することとしている。

同法においては、国の資産の圧縮について、「政府は、平成二十七年度以降の各年度末における国の資産の額の当該年度の国内総生産の額に占める割合が、平成十七年度末における当該割合の二分の一にできる限り近づくことを長期的な目安」(第59条)とすることとされ、政府として、こうした長期的な目安を念頭に置きながら資産規模の圧縮を進めることが求められている。

本検討会の検討対象である財政融資資金貸付金は、財政融資資金特別会計が財投債の発行等により調達した資金を独立行政法人等に貸し付けているものであり、これを圧縮した場合には、財投債の償還や発行減額に充てられることになる。したがって、財政融資資金貸付金を圧縮したとしても、国有財産等の資産売却の場合と異なり、一般会計の歳入増や普通国債残高の圧縮といった形で財政健全化に寄与するものではない。また、利払費についても、財投債の場合には、貸付金からの利息や回収金で賄われていることから、貸付金を圧縮し、財投債残高を縮減したとしても、一般会計の利払費には影響を与えない。

(注) 仮に、財政融資資金貸付金の回収金を一般会計の歳入等に充てるとすれば、その貸付金からの回収金を償還財源とする財投債の償還に支障を来たすこととなるため、別途償還財源を求めざるを得ず、採り得ない方策である。

しかしながら、財政融資資金貸付金は、国の貸借対照表(平成15年度末)においては、国の資産約696兆円のうち約275兆円に達しており、上記の目安の実現のためには、その縮減を図ることが不可欠の課題である。

(2) これまでの財政融資資金の取組

財政融資資金については、これまで対象事業の重点化・効率化を進めてきた結果、貸付金残高の大幅な圧縮が進められてきた。また、財政融資資金に内在する金利変動に伴うリスクの管理についても、多様な年限の財投債の発行及びALMの充実を通じて、大幅な改善が図られてきているなど、国の資産・債務改革の考え方を先取りする形で改革が進められてきている。

1 規模のスリム化
 財政融資資金については、平成13年度の財政投融資改革により、それまでの郵便貯金・年金の預託義務を廃止し、財投債を発行して市場の規律の下、真に必要な資金だけを調達する仕組みとするとともに、民業補完性や償還確実性等を精査し、対象事業の重点化・効率化を図ってきている。

その結果、平成18年度財投計画(フロー)の規模は、ピーク時(平成8年度)の約4割を切る水準まで縮減してきており、17年度末の財投計画残高(ストック)の規模も、ピーク時(平成12年度)の約7割の規模となっているなど大幅なスリム化が進んでいる。また、財政投融資の大宗を占める財政融資資金貸付金(含む財政融資資金引受債)の残高をみても、ピーク時(平成11年度)から約100兆円、約3割の縮減が図られてきているなど、既に大幅な縮減が図られている。
(参考)財政融資資金貸付金の残高の変化
平成11年度末(ピーク時):360.8兆円 ⇒ 平成17年度末:265.5兆円

しかしながら、財政融資資金の貸付けについて、今後とも財投改革を継続し、フローの貸付額を現在と同規模程度に抑制していくのみでは、上記の国の資産の対名目GDP比半減との長期的な目安の実現は必ずしも確実とは言えないと考えられるところであり、政府としては対象事業の一層の重点化・効率化を図る等の一層の努力を行うことにより、上記の目安を実現していくことが求められる。

2 金利変動に伴うリスクへの対応
 財政融資資金は、財投債を発行して政策遂行上必要な資金を調達し、これを財投機関への超長期の貸付けに充てている。こうした財政融資資金が抱える金利変動に伴うリスクは、貸付金等の回収期と財投債等の償還期との違いによる各年度の回収金額と要償還額との差(マチュリティー・ギャップ)に起因して、将来の金利変動時において借換時や再運用時に逆ざやとなり、財政融資資金の損益に悪影響を及ぼす可能性があるというものである。

(注)この財政融資資金の金利変動に伴うリスクについては、上記の通り、マチュリティー・ギャップに起因するものであることから、財政融資資金の規模自体に直接比例するものではないことに留意が必要である。

財政融資資金の資産は政策的要請に基づいて行われる貸付金であることから、資産側の年限や金額を調整することはできない。また、調達側については、財投改革以前において、郵便貯金・年金からの預託(期間7年)に依存する受動的な仕組みとなっていたことから、超長期の貸付金等の回収期と償還期のギャップの調整は困難であり、非常に大きな金利変動に伴うリスクを抱えていた。

財投改革以降、資金調達は財投債へと移行し、2年から30年にわたる多様な年限の財投債の発行が可能となり、主として財投債の年限や発行額を調整することにより、マチュリティー・ギャップを調整するよう努めている。このように、財政融資資金の資産(貸付金等)と負債(財投債等)のバランスを総合的に管理するALM(資産負債管理)を充実させていることから、金利変動準備金の積立てとあいまって、財政融資資金の金利変動に伴うリスクは大幅に縮小している。

しかしながら、財政融資資金の貸付けが主として均等償還型のキャッシュ・フローであるのに対して、調達は財投債による満期一括型であるため、財投債の発行額の調整のみでマチュリティーを完全に一致させ、完全にリスクを排することは難しい。特に、今後1~5年先には大きなマチュリティー・ギャップが生じているが、その調整の機会は、負債側における2年債発行額の調整による1回限りであるなど、きめ細やかな調整が難しいという問題がある。さらに、財投債の引受けにかかる経過措置が終了する平成20年度以降は、財投債発行額が、現在の市中発行額程度にまで縮小するため、毎年度の調整可能額も縮小し、大幅な調整が困難となるという問題もある。

(3) 本検討会における検討課題

このように財政融資資金においては、これまでも貸付金残高の縮減や内在する金利変動に伴うリスクの軽減を図ってきているが、今般の行革推進法に基づき一層の資産規模の縮減を行う必要があるほか、金利変動に伴うリスクの軽減についても更に改善する余地が残されていると考えられる。

行革推進法において、国の貸付金について、幅広い観点からその証券化の適否を検討することとされており、本検討会は、国の貸付金の大宗を占める財政融資資金の貸付金の証券化について、幅広い観点からその適否の検討を行った。

2.民間における証券化と財政融資資金貸付金の証券化について

 財政融資資金の貸付金の証券化の適否を考えるに当たっては、財政融資資金の貸付けが果たしている役割を踏まえた上で、民間における証券化の活用方法等に照らして検討を行うことが有益である。

(1) 財政融資資金の役割について

財政融資資金の貸付けは、国会の議決に基づいて、政策的に支援すべき事業を行っている独立行政法人等(財投機関)に対して、財投債(国債)により調達した低利の資金を利ざやを取らずに長期・固定の貸付けを行う財政政策である。

国の財政上の関与の方法としては、1補助金等の予算措置や税の優遇措置による方法と2有償資金(返済を前提とした資金)の貸付けなど金融的手段を用いる方法の2つの方法がある。

このうち有償資金を活用して、効率的、効果的に事業が推進できる分野としては、受益者負担を求めるべき分野、自助努力が認められる分野等があると考えられ、有償資金を活用することにより、財政負担(国民の租税負担)を抑制しながら、様々な政策(有利子奨学金による学生の就学活動の支援、低利融資による中小零細企業の創業支援等)を遂行することが可能となっている。

すなわち、財政融資資金は、政策遂行上必要となる貸付金からのキャッシュ・フローを償還・利払財源としながら、これら機関へのガバナンスを確保しつつ、国の信用力を背景とした信用力・流動性の高い債券(財投債)を発行することで低利な資金調達を行うものであり、コストを抑制しながら必要な資金調達を行う仕組みであるといえる。

以下、民間証券会社等へのヒアリングに基づく民間における証券化の活用方法等に照らして、こうした役割を有する財政融資資金の証券化の可能性について検討する。

(2) 貸付金の証券化のメリット

1 民間の場合
 民間証券会社等へのヒアリングによれば、民間において貸付金を証券化する際の目的は様々であるが、具体的には以下のような目的が一般的である、とのことであった。

(i) 低コストでの資金調達
 証券化する資産の信用力が自身の信用力よりも高い場合、より低利な調達を行うことが可能となる。

(ii) 諸リスクの転嫁
 ALM上の諸リスク(金利リスク、繰上償還リスク、信用リスクなど)を投資家に転嫁することが可能となる。

(iii) バランスシート・コントロール
 資産規模を圧縮し、ROA(総資産利益率)や自己資本比率等の経営指標の改善につなげることが可能となる。

(iv) 資産の現金化
 証券化により、保有資産から生じるキャッシュ・フローを早期に実現することが可能となる。

(v) 資金調達手段の多様化
 銀行借入、社債発行など自身の信用力に基づく調達手法に加え、証券化により、資産による調達手段を確保することが可能となる。

(vi) 新たなビジネスモデルの展開
 銀行においては、自己資本比率という規制の中で、アセットを回転させ期間収益性を高めるなどの新たなビジネスモデルを展開することが可能となる。

2 財政融資資金の場合
 民間が証券化を行う場合の考え方は、財政融資資金にとっては直接当てはまりにくく、下記のとおり、メリットを見出せる局面は限定的と考えられる。これは、民間の場合には信用力が様々であり、また利潤の獲得を目的としているのに対し、財政融資資金の場合には、国内において最も有利な資金調達手段を有しており、また利ざやを取らずに貸付けを行っているとの違いに基づくものであると考えられる。

(i) 低コストでの資金調達
 財投債による資金調達は、国内における資金調達手法としては最も有利(最も低コスト)な資金調達手段であり、証券化商品を活用したとしても、財投債を上回る資金調達は不可能であり、メリットとはなりえない。

(ii) 諸リスクの転嫁
 財政融資資金は、政策的必要性に基づき、利ざやを取らずに貸付けを行うことをその役割としており、そのリスクを顕在化させ、市場に移転することは証券化の目的とはなりえない。
 また、財政融資資金の主たるリスクである金利変動に伴うリスクは、マチュリティー・ギャップに起因するものであることから、単にその規模を縮小したとしても、金利変動によるリスクは縮小しない。
 なお、前述の通り、現状において財政融資資金のマチュリティー・ギャップを完全に解消することは困難であることに鑑みれば、きめ細やかなALMの手法として、この点に限定して証券化を活用することを検討する余地はあるのではないか。
 ただし、この場合であっても、どの程度のマチュリティー・ギャップを解消することが必要なのか、シミュレーション等によって検証する必要がある。

(iii) バランスシート・コントロール
 政策的必要性に基づき、利ざやを取らずに貸付けを行う財政融資資金は、ROA等の指標による評価になじむものではなく、その改善といった議論には意味がない。
 なお、財政融資資金の貸付金を証券化し、国の資産規模が縮小したとしても、前述の通り、普通国債残高の減少につながるものではない。また、資産見合いの財投債は圧縮されるものの、同額の証券化商品が市中に発行されるのであれば、投資家全体のポートフォリオをみれば、単に財投債が証券化商品に置き換わるだけで、投資家の国債保有余力が高まるとは考えにくく、国債発行環境が好転するとも考えにくいことから、一般会計の国債利払費の改善にはつながらず、こうした点はメリットとは考えにくい。

(iv) 資産の現金化
 財政融資資金の場合には、利潤の獲得を目的としていないことから、貸付金を早期に現金化することで、貸付金からの売却益を期待することはメリットとは考えにくい。また、たとえ、売却益が実現できたとしても、それは将来の利益の前倒しに過ぎず、財政融資資金のメリットとは考えにくい。

(v) 資金調達手段の多様化
 財政融資資金の場合には、貸付金を担保とした資金調達を行っても、財投債による資金調達と比較して、より有利に資金調達が可能となる局面は想定しがたく、資金調達手段を多様化するメリットは考えにくい。

(vi) 新たなビジネスモデルの展開
 財政融資資金の場合には、利潤の獲得を目的としていないことから、貸付金の現金化を図り、そこで得た資金を更に次の貸付けに回し、手数料等の収入を増加させるといったことはメリットとは考えにくい。

(3) 貸付金の証券化のコスト

1 民間の場合
 民間証券会社等へのヒアリングによれば、証券化のコストは、投資家に対して支払う金利と証券会社等に支払う仕組上の一定費用に分けられ、各々の現状は以下の通りである、とのことであった。

(i) 投資家に対して支払う金利
 投資家に対して支払う金利については、信用リスクプレミアム、流動性プレミアム、仕組プレミアム、イベント・プレミアム、金利リスク・プレミアム等が織り込まれる。この結果、AAA格の証券化商品であっても、一般に同格付、同年限のコーポレート型の公社債よりも高い利回りが投資家から要求され、国債を下回るコストでの調達は難しく、国債対比調達コストは増加せざるをえない。

 特に、貸付債権をパススルーの形で証券化する場合には、アモチゼーション型のキャッシュ・フローをそのまま投資家に持ってもらうこととなるが、アモチゼーション型のキャッシュ・フローへの需要が低いことと、再運用リスクが発生することから、そのプレミアムは比較的高いものとなる。

 例えば、日本の証券化市場におけるRMBSのスプレッドは、AAAを取得している場合であっても、スワップレートに対して、およそ20~30bp程度(対国債スプレッドでは40~50bp程度)の上乗せとなっている。(住宅金融公庫のRMBSの対国債スプレッドは概ね40bp程度)。

(注1)RMBSとは、住宅ローンを担保として発行される証券のことであり、Residential Mortgage-Backed Securitiesの略。

(注2)スワップレートは、金融市場において、変動金利レートでの支払いと固定金利レートでの支払いとを交換する際の交換レートのことを言う。一般的には、6ヶ月LIBOR(ユーロ市場における、ロンドン銀行間出し手レート(London Inter Bank Offered Rate))金利と交換可能な特定期間の固定金利の水準で表されることが多い。

 なお、大数プールで高度に分散した貸付債権を証券化する場合に比べ、少数プールで相関が高い貸付債権の証券化を行う場合には、裏付資産を上回る格付けの取得はハードルが高く、プレミアムの縮小が難しい。

(ii) 証券化に伴う諸費用
 証券化を行う場合には、弁護士費用、格付取得費用、SPCの設立及び維持、信託費用、引受手数料、証券化対象資産管理費用等の証券化特有のコストが必要となる。

 また、この他、金銭的コスト以外に勘案すべき負担として、システム開発を伴う貸付債権の分別管理、サービサー業務に伴う報告体制の整備、債務者との合意形成等がある。

(iii) 証券化の目的とコストとの関係
 民間において自己の貸付金の証券化を実施する目的は上記の通り様々であるが、その場合のコストとの関係については、証券化を実施する目的に照らしてコストが合理的な水準であると判断できる場合に行っている。

2 財政融資資金の場合
 こうしたヒアリング結果を踏まえれば、財政融資資金貸付金を証券化し、一般の投資家に販売すれば、たとえ、優先劣後構造を設け、当該証券化商品についてAAAとの格付けを取得したとしても、通常は、投資家への相当程度のプレミアムの支払いが必要となり、一定のディスカウントが求められることになる。また、証券化等により証券会社等に対して一定の手数料の支払いも必要となる。

 こうした諸コストは、政策的に必要な事業に対し利ざやを取らずに貸付けを行う財政融資資金が、引き続き貸付けを維持していれば発生しないものである。換言すれば、財政融資資金の貸付金を証券化することは、財政融資資金が抑制してきたコストの支払いを求められるものであり、本来必要のない財政負担の増大を招くものである。

 このため、財政融資資金の貸付金の証券化については、仮にこれを実施するとしても、こうした諸コストを上回るメリットが存在する必要がある。

(4)借り手に対するガバナンス

1 民間の場合
 民間証券会社等へのヒアリングによれば、証券化の実施前後の原債権者(オリジネーター)と債務者との関係については、そもそも我が国における証券化の多くの事例においては、債務者に通知せずに債権譲渡がなされることが一般的であり、引き続きサービシングを原債権者が行うことにより、表面上は証券化の前後で両者の関係に変化は生じていないのが実情、とのことであった。また、劣後部分の引受けを行うこと等により一定のガバナンスを働かせている、とのことであった。

 ただし、サービシングを行い、劣後部分の引受けを行うことのみで十分なガバナンスを働かせることができるのか、たとえば、債務者に通知した上で譲渡するような場合などにおいては、原債権者のガバナンスは若干落ちてくるのではないか、との意見もあった。

2 財政融資資金の場合
 財政融資資金による貸付けは、民間金融機関の貸付けと異なり、国が財投機関への有償資金の長期貸付を通じて、政策的に長期事業を推進する財政政策である。したがって、国は借り手の財投機関に対し、貸し付けた資金が公共の利益のために使用され、事業が適切に推進されているかどうかについて、貸し手としてガバナンスを効かせると同時に、新規の編成にフィードバックしていくことが適切な財政政策の遂行上必要である。その必要性は、証券化の後においても変わることはなく、財政政策の遂行上必要なガバナンスは十分に維持されている必要がある。

 財政政策の遂行上必要となるガバナンスの程度は、財投機関ごとに異なりうると考えられるものの、証券化に当たっては、財政政策の遂行上必要となるガバナンスが実質的に維持されるよう十分配慮することが必要である。

(5) 証券化商品市場の現状と今後の見通し

1 証券化商品市場の現状
 民間証券会社等へのヒアリングによれば、我が国における証券化商品市場(公開案件)は、近年急速に発展してきており、平成17年については概ね8~9兆円程度であったが、今後についても着実に発展していくとの見方が多かった。

 ただし、これまでの証券化市場における証券化1回あたりの規模としては、キャッシュ型については数千億円が最大の規模となっており、大規模な証券化の実施に当たっては、マーケットに与えるインパクトを見極めながら、市場に無用の混乱を与えずに消化できる規模が上限になるのではないか、とのことであった。

2 財政融資資金の場合
 仮に財政融資資金貸付金を証券化するような場合には、証券化商品市場に与える影響にも十分配慮しながら実施することが必要である。

 また、財投機関の多くは、現在、財投機関債を発行していることから、財政融資資金貸付金の証券化が財投機関債市場等に与える影響についても十分に配慮する必要がある。

3.財政融資資金貸付金の証券化の検討

(1)財政融資資金の貸付金の証券化について

財政融資資金は、国内において最も有利な資金調達手段を有しており、また、財政政策の一環として貸付けを行っている。このため、財政融資資金の証券化に際しては、財政融資資金にコストが発生せざるをえないという問題があり、証券化を行うメリットを見出せる局面は限定的と考えられる。

したがって、その規模の縮減については、財政融資資金による財政的な支援の対象とするべきか否かという観点から議論がなされることが基本であり、今般の資産・債務改革における国の資産の対名目GDP比を半減させるとの目安の実現に当たっても、これまでの財投改革を継続し、対象事業の一層の重点化・効率化等による新規貸付額の圧縮により、規模縮減を実現することを基本とするべきである。

また、資産圧縮の観点からは、今後の新規貸付けにかかる貸付金については、今後の財投編成において対象事業の一層の重点化・効率化を図ることにより規模の縮小を図ることができることに鑑みれば、証券化を行うとした場合には、その対象を既往の貸付金に限定することが必要である。

その上で、限定的ではあっても、コストを上回るメリットが存在する場合には、証券化を実施しうる余地があるのではないか。例えば、メリットがコストを上回るとの前提で、財政融資資金の金利変動に伴うリスクの管理を一層高度化するために証券化を実施することも考えられるのではないか。

具体的には、財政融資資金の金利変動に伴うリスクを軽減する観点から、マチュリティー・ギャップの解消に焦点をあて、財投債の発行額の調整によってもなお調整しきれないマチュリティー・ギャップについて、証券化を活用することで解消できる等、きめ細やかなALMを可能とし、財政融資資金の金利変動に伴うリスクを軽減できるようなメリットがあり、そのメリットがコストを上回るような場合には、実施しうる余地があるものと考えられる。

証券化に伴い発生するコストは国である財政融資資金において発生するものであり、また、このメリットがコストを上回るものとするためには、証券化に伴い発生するコストを、極力最小化することが条件となる。

(注) 財政融資資金貸付金を証券化した場合の証券化商品の利回りについては、財投機関が政府保証なしで市場から調達している金利水準(財投機関債の利回り)程度が下限であると考えられ、具体的な実施に際しては、極力このレベルまで近付けることが求められる。

なお、極力コストを最小化しつつ、上記のメリットを実現していくとの観点からは、その手法について、財政融資資金の貸付金の証券化に限定する必要はなく、メリットがコストを上回るとの前提で、単純な売却(債権譲渡)を含むオフバランス化を検討の対象とするべきである。

このほか、財政融資資金の貸付けは財政政策として行われていることに鑑み、財政政策の遂行上必要となるガバナンスが実質的に維持されるよう十分配慮することが必要である。

また、オフバランス化に際しては、その実施が証券化商品市場や財投機関債市場等に与える影響についても十分に配慮し、その規模や方法等を判断する必要がある。

(2) その他留意点

証券化のみならず、単純な売却を含む既往の貸付金のオフバランス化の具体的な実施に際しては、コストを上回るメリットが存在する場合に実施しうると考えられるが、オフバランス化によるメリットやコストについては、技術的・専門的観点から、今後更に民間専門家による検討を深める必要がある。

また、マチュリティー・ギャップを解消し、財政融資資金に内在する金利変動に伴うリスクを縮減させるための手段として、オフバランス化以外の他の手法(スワップ等)の活用の可能性についても、十分検討するべきである。


(以上)