・物価連動債について、長期的な視点で市場を育成していくことがまずは肝要だと考える。その上で、個人に目を向けると、個人の資産は、人的資本から生じる賃金等の人的資産と、ストックである住宅や金融資産などの物的資産に大別できる。まず人的資産の観点からは、米国と異なり日本の所得税法は自動的にタックス・ブラケットが物価連動する設計になっていないため、安定的にインフレが発生する局面では、名目賃金が上昇することで限界税率が上昇するブラケットクリープにより、その分だけ実質的な購買力が減少する可能性もある。次に、物的資産の観点からは、教育、住宅、そして老後の費用が個人の主な資金需要だと思う。インフレのもとで預金金利等が十分に上がらない場合、現状、個人はインフレリスクのヘッジのためには株式や外貨建資産に投資せざるを得ないが、大多数の者、特に中間所得層にとっては、教育費等のための資金を全てハイリスクな外貨建資産等に振り分けることが適切なのかという問題がある。社会全体として考えた時に、株式や外貨建資産以外のインフレリスクのヘッジ手段があってもよいのではないかと思われ、例えば、米国も物価連動型の個人向け貯蓄国債であるIボンド(Series I Savings Bonds)を発行している。低所得者には給付等で対応するという前提では、インフレで苦しむと想定されるのは中間所得層であり、インフレが安定的に持続する局面においてどう対処するかを早期に検討することは社会的に重要だと考えている。