・今後、エネルギー価格や原材料費等の高騰によってインフレが高進しつつも、賃金水準が十分に上昇しない場合、低所得層及び中間所得層の負担感が増加することが懸念される。インフレが高進する場合には、低所得者層への配慮は当然必要となるが、中間所得層への配慮も必要となろう。もし仮に消費者物価指数が上昇する局面においても日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)を継続する判断をした場合に、中間所得層が子供の教育資金や自身の老後の糧のために蓄えている生活上必要な預貯金の実質価値が減少することが懸念される。そこで、YCC下におけるインフレ対策の観点から「個人向け物価連動債」を導入することも検討に値するのではないだろうか。 なお、現在でも投資信託等を通じて物価連動債への投資は個人でも可能であるが、他の国内債券インデックスファンドと比較して、信託報酬の水準が相対的に高いため、利用しづらい商品となっている点、物価連動部分への課税によってインフレリスクが再導入される点など懸念点もある。そこで、①指標の継続的算出の観点から機関投資家向けに従来の物価連動国債市場を維持・育成しつつ、②アメリカのSeries I Savings Bondsのように(一定の条件を付して)個人向け物価連動債を発行することで中間層の現在及び将来の購買力の低下を緩和する施策等が考えられるところ、各種施策の利害得失について多角的に検討を深める時期が到来しているのではないかと考える。