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国債投資家懇談会(第98回)議事要旨

 

日時 令和71127日(木)10:0012:00

場所 中央合同庁舎第4号館 1208特別会議室

内容   令和8年度国債発行計画の策定に向けた現状と課題について

〇令和8年度国債発行計画の策定に向けた現状と課題について、理財局から以下のように説明を行った。

 

・来年度の予算編成状況については、予断を持って申し上げる段階にはないが、来年度国債発行計画策定に当たっての、現時点における当局としての基本的な認識を申し上げたい。

・まず、超長期ゾーンについては、生保による規制対応の一巡等に伴い需要の減退が見られていることを踏まえ、発行量を調整していく必要があるのではないかと考えており、来年度からの減額も視野に検討していきたいと考えている。

・他方、10年以下の年限については、今後の利上げ見通し等に依存する部分はあるものの、総じて銀行等からの投資需要が期待でき、一定の増額余地があると捉えている。

・流動性供給入札については、日銀買入は減額方向ではあるものの、引き続きオフ・ザ・ラン銘柄の需給が逼迫しているとのご指摘もあり、各ゾーンの規模についてはカレント債とのバランスも踏まえながら、よく検討させていただきたいと考えている。

・その上で、本日は、あわせて、令和7年度補正予算への対応について、現在の検討状況をご共有したい。

・資料2ページ目は先般閣議決定された経済対策の概要であるが、その財政規模は前年度を上回る規模であり、この裏付けとなる補正予算が近いうちに閣議決定される見込み。

・その中では、新規国債等の追加発行が見込まれるが、この令和7年度補正予算への国債発行計画における対応に関し、「前倒債発行予定額の活用や、短期国債の発行により対応可能である」とする市場の見方があることは承知している。

・他方、1年未満の短期債で対応した場合、翌年度の借換ニーズが急激に高まり、来年度の発行計画の額を押し上げる要因となることとなる。また、前倒債の発行は、翌年度に必要な借換債の調達を「前倒し」して行うものであり、この前倒債の減額は翌年度の借換債の発行が必要となるため、こちらも来年度の発行計画の額を押し上げる要因となることとなる。したがって、来年度の新規国債発行額について見通せない現段階において、市場での吸収が見込める分については、借換えが翌々年度以降となる利付債で調達することが適切と考えている。

・なお、仮に利付債の増額を行う場合は、より短めの年限の国債に比較的増額の余地が見られるものと考えている。いずれにしても、補正予算における新規国債の追加発行への対応にあたっては、足元の市場動向を踏まえつつ、総合的に検討しているところ。

・また、この機会を活用して、今月初め、第9回国の債務管理に関する研究会を開催したので、その内容について簡単にご報告したい。

・今回の研究会においては、JPモルガン証券の山脇様、日本経済研究センターの左三川様、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大塚様の御三方より発表いただいた。

・山脇様及び左三川様からは、日本銀行による国債保有減額が見込まれる中、今後、生保の超長期ゾーンに対する投資需要が以前ほど見込まれなくなること、また、銀行等においても規制対応等の影響を受けて投資余力がかつてほどは見込まれなくなる旨の説明をいただいた。

・一方、大塚様からは、そのような中において、「国債の安定消化に向けた課題」と題し、今後、海外投資家や家計の取り込みが、従来以上に重要となってくる旨の説明がなされた。また、加えて、今後の安定消化に向けた国債発行計画の公表頻度と市場とのコミュニケーションの在り方について提案がなされた。具体的には、発行計画の公表頻度については予見可能性と柔軟性のトレードオフの関係にある中、各国の国債管理政策の運営事例等も示しつつ、我が国においても計画策定時点から半年を一つの目安に中間点検を定期的に行う機会を設けてはどうかという旨の提案がなされた。

・この提案については、皆様からもご意見いただければ幸い。

〇出席者から出された意見等の概要は以下のとおり。

 

・国内の超長期ゾーンの状況としては、国内投資家の需要が減っている一方、海外投資家の購入割合が増えており、安定的な需要という観点からするとやや需給バランスが崩れている印象がある。今後、安定的な国債市場にしていくためにも引き続き、需給状況等を基にした発行計画を検討してほしい。

・超長期ゾーンのボラティリティについて、足元、超長期ゾーンを買っている海外投資家は必ずしも日本国債を買わなければいけないわけではないため、高いターム・プレミアムを要求しており、それが現在の超長期ゾーンの高金利に繋がっていると考えている。

・なお、発行増額に関して、国内銀行をはじめ、超長期ゾーンよりも、担保ニーズ等の投資家需要がしっかりしている短めの年限を中心に検討した方が市場の安定性に寄与すると思われる。

・海外の主要な市場と違い、日本は利上げ局面にあるため、慎重な姿勢で投資せざるを得ない。また、超長期ゾーンはボラティリティが高い状況のため、残存期間が10年以下のゾーンを中心に慎重に投資を行っている。

・半年に一度のような、市場とのコミュニケーション頻度を上げることは市場にとってもプラスに働くと思われ、市場の安定性向上にも一定程度寄与すると思料。
 

・メインとなる投資対象は残存10年以下のゾーンだが、そのゾーンも日本銀行の利上げに加え、責任ある積極財政の中で日本国債の増額がどの程度になるかを見極める必要も出てきたことで、市場の見通しが立てづらくなっており、やや慎重姿勢になっている。実際に市場を見ると、日本銀行の利上げが遅れてビハインド・ザ・カーブに陥り、結果として最終的な中立金利の見通しが引き上がるのではないかという見方も出てきており、そのような懸念が足元の5年債の金利上昇に現れているのではと感じている。

・このような流れの中、来年度の発行計画は非常に重要なものになってくるだろう。超長期ゾーンについては、軟調地合いとなっており、値が飛ぶことも多く、毎回の入札がイベント化しているため、減額案を提案した。

・補正予算に絡む報道では2年債・5年債が増額されるという話が出ていたが、中立金利の見通しが定めにくく積極的に投資していくのが難しい足元の状況からすると、5年債の増額分は概ね市場で吸収はできるとは思うが金利上昇はするだろう。T-Bill等のより短い年限で増額した方が、市場としてもより吸収しやすく買いやすい。

・発行計画については予見可能性を重視した方がよいため、半年に一回程度で検討するのはよいかもしれないが、さらに短いスパンで見直しをすることは予見可能性の低下につながり、国債投資がしづらくなるだろう。

・超長期ゾーンについて、需要が減っているのであれば、減額しか対処法はないと思われる。

・新しい投資家需要については、当社の一部の若年層が30年債の投資信託を買っているという話を聞いている。利回りが3%で、かつ、将来設計もしやすいということもあり、ある程度需要はある模様。

・評価損益については非常に重要な点で、満期保有もしくはその他有価証券のいずれかで買っても、二つを合わせた評価損の合計額が純資産を超過してしまうと早期是正措置に基づいて業務停止命令が出されるという状況において、評価損益を無視しては買えない。株はボラティリティが高いため、銀行業としてはやはり日本国債を中心に運用していきたいと思っており、足元の水準であれば、投資妙味はあると考えているが、評価損益の問題もあり、なかなか積極的には行きづらい状況。

・コロナ禍で一時的に増えていた預金量が若干減少しているが、預け金等の滞留資金は潤沢にあり国債投資に関しては十分余資がある状況だと思っている。

 

・預金取扱金融機関について、2013年から長く続いたマイナス金利下において、国債投資のボリュームを落とし、それ以外の流動性の低い投資信託や外貨建資産などの比率を大きく上げていたが、今は日本国債に回帰している状況にある。その間に、金利上昇が想定を超える速さで進んでおり、評価損を大きく抱える状況にあるため、その代償によって今年度上期に積極的に買う銀行が少し減ったように感じられる。預金金融機関としては、ALM上、購入するのは中期ゾーンの2年債から5年債中心になるが、政策金利が変わっていく中で買い向かうという非常に難しいオペレーションになると認識している。

・この中で、超長期ゾーンの需給に関して、ボラティリティが高い状況では国債マーケットとして安定しないということがあり、また、それを捌いている証券会社の体力も少し落ちるといったこともある。超長期ゾーンが安定して初めて中・短期ゾーンも安定してくるという部分もあろうかと思うため、超長期ゾーンの減額は、マーケットとして必要なのかもしれない。

・新しい投資家について、やはり個人の方にお持ちいただくのがかなり有力な手段と認識している。現状、年間5兆円程度という認識であるが、具体的にどういう形をとったらよいのかはよく分からないが、金利がよいなど、もう少し保有しやすい施策があればよいのではないかと思う。

・日本国債の評価損について、当社はバイ・アンド・ホールドでずっと保有するというつもりはなく、売買していくことも必要であり、その際に一番大事なのは先物等によるヘッジオペレーションが出来るかどうかだと思っている。現状は、残念ながら流動性があるのは残存7年に付随する国債先物になっているが、新たに上場しなければいけない銘柄もあるものの、米国またはドイツのように、残存2年、5年、10年、20年という年限の先物が使えるような状態になれば、金融機関がアクティブに利用して国債を買っていくということが出来るのではないかと考えている。

・マーケットとのコミュニケーションについて、予見可能であるということが市場にとって非常に大事だと思っているため、今後どのような発行計画で、マーケットとしてどのような需給があるということについては、やはり早めに知っておきたい。ただ、最終的には需給というよりは、結局ファンダメンタルズや外部環境によって金利は決定されていくものと考えているため、2年債・5年債が発行増額となって、一時的に需給が悪いということはあるかと思うが、今後日銀が保有している分の日本国債を預金取扱金融機関が保有・購入していかなければならないという前提に立つと、やはり中・短期ゾーンに需要があると考えている。


・規模は小さいながら、各地域で地場産業への支援を行いつつ各業種での収益を上げていくという体制になっているが、金利がある世界となり、預金について金利競争になっており、負債のデュレーションがマイナス金利下よりも少し短くなってきている。そういった意味では、ALM上長くても10年までが投資対象となっており、日本国債は非常に流動性があり、最上の投資対象である一方、現状は先行きの評価損の問題もある中で投資計画を一部抑制しながら状況を見ている。その中で、国債発行に伴う価格の意図しない変動はなかなか許容出来ない部分もあるため、市場との対話は続けることで、ある程度の変動に備えられる体制を非常に望んでいる。

・相続に絡んで預金は親から子供へ繋がるが、地方から都会の方に移住している方も多くいる現状。地方銀行として預金を地域に留めることを施策としているものの、都会に流れてしまうことに危惧を感じている。人口減少もあるため、預金量は少し減ってしまうのではないかという意味において、足元のALM管理に繋がっている。

・超長期ゾーンについて、海外投資家の行動によるボラティリティの高さというところはあるとは思うが、当局の発行市場へのインパクトに対する配慮や柔軟な発行計画の変更は、確実に投資家から評価される部分だと考えている。また、超長期ゾーンのバリューについて、日本国債を例えば米国債やフランス国債などと比べた場合に、十分に信用力のある国債という評価を海外からは受けていると当社では思っている。利回りが高く、また、海外からの信用力が十分にある中で安心して買いやすい状況になっている一方で、利上げが後ろ倒しされ、ターミナルレートが引き上がりカーブ全体が持ち上がっていることが、投資しにくい一番の要因と考えている。

・当社の現状の運用方針という点では、負債について、当社は個人の顧客からの25年の定期預金が中心となっていて、この金利リスクコントロールについて、以前は金利スワップを使っていたが、足元は金利スワップより利回りが高い日本国債へ投資している。また、流動性規制がある中で余剰資金を大量に当座預金に抱えている部分についても、現状残存10年超のゾーンでアセットスワップ等を利用し金利リスクヘッジしながら日本国債を保有することがしやすくなっている。

・また、アウトライトで金利リスクを取ることについても、例えば10年先10年の金利水準から分かる通り長期債の魅力がかなり高い一方、評価損のことも考えると、残存10年超のゾーンを大量に買うのは難しいのが正直なところ。名目ベースで中立金利の上限を超えてきているような水準に差し掛かっており、逆ザヤリスクを十分抑制した形で購入できるようになっていると考えているため、段階的に購入する運用方針で進めている。

・信託勘定の資金については、基本的に銀行勘定で借り入れる形でやっている部分が大きく、国債保有の大半は銀行勘定で行っている状況。

 

・発行計画に関して、上期に需給状況に応じて機動的かつ柔軟に超長期ゾーンが減額されたが、足元の需給動向を鑑みると、超長期ゾーンのもう一段の減額と10年以下での増額という発行計画の大きな方向性としては全く違和感ない。加えて、マーケットが新たな金利がある世界で動いてきているため、提案のあった年1回ではなくて一定程度予見可能性を持たせる形で年に複数回、発行計画を見直す、ないしは検討する機会を設けることには賛成である。

・超長期ゾーンについて、海外の様々な投資家が入ってきていると聞いているが、基本的には他国の国債のイールドカーブ対比、または絶対水準も含めて割安であることを一定程度前提として購入していると認識している。そのため、割安でなければ購入しないということからすると、なかなか安定消化の新たな主体としてみるのは難しいのではないかと考えている。安定消化ということを考えると、もう一段の減額が足元の環境下では求められるのではないかと思っている。

・減額見合いの増額について、短い年限の利付債の増額という話があったが、預金取扱金融機関としては、510年あたりにコア預金を持っており、かつ今後の借換頻度、リスク等を考えた時に10年債の増額余地も一部あろうかと考えている。

・新しい国債の保有主体については、個人の保有をもう少し広げていくのではないかと思っている。例えば、30年債金利の3%超の水準というのは魅力的な利回りだと思うし、米国と比べると日本のクレジットマーケットが大きくはないため、NISA等を使ってアメリカのハイ・イールド債を購入する等の投資行動になっており、円の債券を購入する機会が少ないように思う。国債という一定程度信認が高い債券で、ある程度利回りが出るということであれば日本国債の個人向けの品揃えを増やしてもよいのではないかと考えている。

・その際には、例えば税制面含めた様々な措置が考えられるのかと思う。例えば、日本国債を相続する際には税制面で何らかの措置があるとか、30年債を購入した際には償還の時には何らかの措置があるとか、様々考えられうるため、国債そのものの商品の設計および税制面での措置とのパッケージで、日本国債の安定消化につなげられる余地が個人に対してあろうかと思っている。

・様々な規制が強化されていく中で預金取扱金融機関として、今後日本国債の保有を増やしていくのに過去と比べて一定程度限度があるのも間違いない。そう考えると個人に対しての保有促進も必要になってくると考えている。

・評価損のコントロールについては非常に重要な課題である。金利上昇局面で評価損の拡大をできるだけ抑えながら、債券の購入等で預金の価値を少しずつ確定していっている。これに関しては金融機関、金融システムの健全性という観点が当然あるが、規制当局、発行当局、中央銀行を含めて何らかの調和性がもう少しあってもよいのかもしれないと思う。

・日本の財政懸念については金融界も産業界も、もう少し声を出していくことしかないと考えている。新政権になってからマーケットが反応しているように財政拡張への懸念はあると思う。マーケットからきちんとシグナルを発していくことで伝わる部分もあろうかと思う。例えば、為替が足元の水準になることによって、日本国にとって、本当にこれがよい状況なのかと考えることが少しずつ少しずつ浸透していっているように思える。

・投資スタンスについて、足元は10年債を軸に考えている。ターミナルレートを幾らと見るかによるが、現時点では1.5%までと見ているため、1.5%を上回ってくる金利水準であれば一定程度購入しながら預金の価値を固めていくというオペレーションをしたいと考えていたので、10年債を中心に購入を始めている。財政拡張に対して少し懸念がある状況でもあり、その他有価証券での購入は抑制しつつ、満期保有目的債券での購入並びに金利スワップ固定の受けを含めてポートフォリオの再構築に入っている。

0.75%、1%超へと足元の政策金利が上がっていくと仮定すれば、今までにない新たな世界に入っていくということで、改めてマーケット自身の育成をしていく必要もあると考えている。引き続き国債市場の流動性はまだまだ改善が見られていない状況にあると思っている。

・そういう観点からすると、マーケットとの対話の中で機動的な発行減額や、前回の本懇談会やマーケットでも言われているが、例えば買入消却の検討も発行体として考えられることだと思う一方で、発行当局・日本銀行にマーケットが頼りすぎている部分もあろうかと思う。新しい世界が来る中で、バランス・シートや短期マーケットでも過去に見られた動きに回帰している部分もあれば、過去に見られなかった動きが見られる部分もあるため、この辺りを良く見ながら市場関係者間で知恵を出し合ってマーケットを育成していく必要もあろう。

・マーケットとの対話は引き続き、絶やさずにぜひお願いしたい。

・当社は、普段超長期ゾーンについてほとんど投資しない訳だが、軸になる投資家が見えにくいところもあり、当該ゾーンを少し抑えて中・長期ゾーンで増額をするという方向性は、まさに方針のとおりかと思っている。

・当社としては、いわゆる担保玉ニーズもあまり追加的なものはないため、短期ゾーンの発行額のボリュームに関しては、特に発言する立場ではないと考えている。

・当社は、長らく続いた低金利・マイナス金利環境から金利が正常化していく中、時間を掛けてゆっくりとポートフォリオの年限構成を平準化していこうという段階にあり、単にALM上のニーズにとどまらず、リスクリターンの観点からも収益資産として日本国債を戦略的に積み上げていくという向き合い方に変わってきたところであり、現下のマーケットでも、一定の規模を毎月平準的に買っている状況である。引き続き10年債を中心に一定の投資需要があるが、これから25bpsずつなのかどうか含めて利上げが進んでいき、いつかはターミナルレートが見えてくると思われるため、その際は今行っている戦略を微調整し、もう少し投資対象を少し短めなゾーンに変更していくことが、近い将来に起こりうると考えている。

・当社の負債サイドについて、個人預金が中心となっており、足元はやはり少し減少トレンドが続いている状況である。要因はいくつかあるが、日本国債の販売は当社の店頭でもかなり好調と見えており、投資信託の販売についても、中身を見ると、国債以外の債券も含めたようなフィックストインカム系の投資信託に対しても、一定の需要が確認出来ている。個人の資産形成マインドがかなり醸成されていて、引き続き、基本的には株式パッシブ投信が非常に好調ではあるが、このような状況を踏まえると、新しい投資家層とまでは言えないが、日本国債に対しては個人に一定の追加的な需要があると思われる。

・ソブリン格付について、投資家としては非常に気になるところ。単に保有有価証券の信用力評価という観点もさることながら、外貨調達市場での資金調達主体として、リスクとして認識している。勿論、日本のソブリン格付が必ずしも個別金融機関の格付にそのまま繋がるということではなく、また、足元の報道ベースの情報も含めて、やや拡張的な財政方針が実は主要格付機関の考え方とも一定程度は調和的であるということも理解しているが、やはり格付変更、もしくはそれに関するヘッドラインが悪い方向に出てしまうと、特に日本の金融機関や金融システムとして少し危険な状態になるということは、常々リスクとして認識しており、投資家として気になっている。

ALM運用を基本として、国債を中心に投資を行っている。超長期ゾーンを安定的に取得する方向性は変わらないと認識している。

・評価損について、入替取引によるポートフォリオの改善を実施していく必要性は、近年高まっている。急な金利上昇の影響が大きく、特にマクロ経済で説明できないレベルでの急激な市場変動は望ましくない。当局が今年度に実施した発行額の機動的な調整等は市場の安定化に有効であり、今後も必要に応じ実施してほしい。

・超長期ゾーンについて、生命保険会社の規制対応もかなり進捗したこと等により、市場参加者からの要望が強いのであれば、減額の方向性については賛同したいと考えている。ただし、発行額は短期的な動きではなく、長期的な視点で考えるべきと思う。現状では、短期的な需給の変化に急激に合わせるよりは、必要に応じて市場参加者とコミュニケーションをとりながら、機動的な対応を行うことで市場も落ち着き、投資家の安心感にもつながると考える。

・新たな投資家の発掘については、個人は拡大余地があると考える。最近、超長期債に容易にアクセスできる商品も販売され、裾野を広げるうえで有効と考える。ただし、超長期ゾーンは価格変動が比較的大きいため、販路拡大に際しては、丁寧な説明も必要と考える。

・一方で、海外投資家について、国債市場のボラティリティ上昇といったマイナス面が挙げられることがあるが、今年度のように金利が急上昇しても継続保有している投資家も存在し、国債市場を支えている面もあると認識している。様々な運用スタイルの海外投資家がいるが、そのような長期的な保有が期待できる投資家に販路を広げていくことが、国債の安定消化、市場の安定につながると考える。

・生命保険会社に関しては規制対応を進めており、新規で超長期債ゾーンを購入するニーズが非常に少ない。また、生命保険に関する人々の考え方も少しずつ変わってきており、人口減少のほか、新規で終身保険などに入るニーズが少し減っていることも構造的な理由として挙げられる。当社に関しては新規で超長期ゾーンをどんどん買っていくような状況ではないと考えている。そういった中で資産と負債のデュレーションはほぼ合わせたが、キャッシュフローがあまり合っていないグリッドもあるため、ここ数年はキャッシュフロー・マッチングを進めていきたいと考えており、当社としては国債の売買がストレスなくできる状況を保ってほしい、つまり、流動性を是非維持してほしいといったことが一番のニーズだと思っている。そういった中で超長期ゾーンは依然ボラタイルな状況が続いており、20年以上のゾーンに関しては発行減額を希望する。

40年債に関しては、年6回の発行を毎月発行にしてはどうかと考えている。年6回発行だと、株式等の金融市場の状況に応じて需要動向が大きく変わる可能性も十分にあるが、毎月発行とした場合、その需要をならすことで安定的な消化が見込まれるのではないかと思っている。また、40年債の発行取り止めに関する声もあるとは聞いているが、当該ゾーンのニーズは依然としてあるため、発行取り止めは避けてほしい。

・評価損については、規制対応の中でロークーポンの状態の時に国債を買ってしまったこともあり、金利上昇局面において大きな問題として捉えている。その中で、日本の機関投資家として日本円の負債に対応するために日本国債を購入し責任準備金対応債券として保有しているにも関わらず、減損認識をすべきといった話もあり、なかなか対応が難しいと思っている。それに先んじて満期保有宣言をすれば問題ないが、オペレーションの柔軟性が極めて制限されてしまうため、なるべく避けたいジレンマがある。

・新しい商品について、人口減少、特に若年労働者層の減少により、賃金上昇プレッシャーが継続すると思っており、ある程度インフレに対して強い国債を保有しておきたいが、物価連動債の現状を見ていると、流動性という面で大規模な投資は難しいと思っている。イタリア等では、個人向け国債を相当量発行し重宝されており、そういった事例を研究する余地もあるのではと思っている。

・海外投資家と話す中で、30年債は絶対金利水準も良く、イールドカーブが他国対比スティープニングしているという観点からも日本国債は相対的に魅力的という声をよく聞く。しかし、政策金利の最終的な着地点や財政政策の不透明感がある中で、腰を据えて超長期ゾーンを買うことは少し躊躇するという声がより強く、そのあたりの不透明感が晴れてくれば、ある程度の投資が見込めると思っている。

・国債発行計画の見直しや中間点検を行うご提案については、強く賛成する。アメリカの解放の日以来、非常に金融市場のボラティリティが高まった際に、6月に国債発行計画の変更を行われたように、当局が国債市場を注視していることが投資家の安心感に繋がったところは非常に大きかったと思うため、引き続き市場を注視しているというサインを送っていただけると大変ありがたい。

 

・当社は生命保険会社であるため、基本的にはALMを重視した運用を行っている。20263月からの新資本規制が導入されるにあたり、過去数年間にかけてマッチングを進めてきた状況の中で、当社も含め、現状業界全体でデュレーションマッチングのニーズが大幅に少なくなっていると認識している。また、当社において一時払終身保険の販売をしている中で、過去の契約が流出している状況。一時払終身保険についてはキャッシュフロー・マッチングを意識するような運用を行っているため、主に10年債・20年債・30年債を中心にニューマネーに応じて購入している一方、残りの過去の契約の部分はキャッシュフロー・マッチングが完全にできていないため、入替えをしながらデュレーションをコントロールするような運用を行っている。そういった中、来年度国債発行計画に関する当局の提案は生保業態の要望を汲み取ったものとして感謝している。

・金利上昇による含み損に関しては、実際に当社のオペレーションにも影響しており、低金利環境下で買ったロークーポンの債券がかなり含み損を抱えており、結果的に収益性を低下させる状況である。幸いにも現在、株価が堅調であり、かなりの含み益を形成できたため、この含み益を使って入替えを行い、収益性を高めるオペレーションを行っている。恐らくこのオペレーションは、マーケット次第であるが、来年度まで継続することになるため、当局の提案は当社の方向性と整合しており、その点からも感謝をしている。

・発行計画の関係で予見性を高めるという話について、マーケットの参加者としてはコミュニケーション自体を増やすことが望ましい。特にマーケットの環境が大きく変化する中でコミュニケーションの活発化は、結果的にマーケットに対してプラスに寄与するのではと個人的に思っている。

・新しい投資家については、やはり家計(個人)に期待している。資産運用立国として国が投資を推奨しているが、株一辺倒のような印象である。我々が実際にポートフォリオを構築する上では、様々な資産を入れて、その結果、長期的にリスクリターンの効率性を高めていくといった運用をしているが、これを個人投資家にやっていただくというのは難しいとは思うが、時間をかけてリテラシーを高めていくことが非常に重要になってくると思っている。

 

・国債運用について、基本的には保険負債に沿ってキャッシュフロー・マッチングするようにしている。当社は損害保険会社であり、災害時には、保有している国債をその時の相場や金利水準に関係なく売却しなければならないため、マーケットに流動性がないと非常に困る。また、事故が起こった時は売却タイミングを選べず、投資的観点から見ると買い時のような局面でも売却せざるを得ないため、含み損が大きいことは非常に問題。保険負債を超える額の超長期債についてはほとんど購入できず、現在も購入していない。

・新しい投資家について、貯蓄主体である家計がターゲットになると考える。個人の意見だが、CPIに連動するような変動利付債は5年程度ならば高齢者、2030年ならば若年層にも年金としてのニーズが出てくると考えられる。

・財政面について、利払費が今後増えていくことは避けられないため、そこについて政治・国民へ説明すると良いのではないか。現在は平均金利が1%で利払費が10兆円強と記憶しているが、仮にインフレ率が2%となった場合、政策金利は1.25%や1.5%となり、超長期債が名目成長率と同じく3%半ばを超えていてもおかしくない。仮に10年債が2%強なると、全銘柄のクーポンの平均が2%強となり、足元の平均償還年限からすると10年後に現在発行されている国債がおおよそ全て入れ替わるため、現在の利払費10兆円が30兆円弱、1年に2兆円程度増加するような試算になる。

 

・当社は年金資金を運用しており、キャッシュフローのバランスは長らく掛金収入より給付が多くなっている状況だが、ここ10年程度、株高・円安により資産額は横ばいであった。最近は株売り・債券買いのリバランスをしている。基本的には国内外株・債券の比率を予め決めて、基本ポートフォリオに基づき時価評価で運用をしている。

・決められたウェイトの範囲内でマーケット平均のリターンに勝つアクティブのベンチマーク運用をしている。円債については、デュレーションは市場と同じ8年強に近い状態を保ちながら、割高なゾーンはアンダーウェイトし、割安なゾーンはオーバーウェイトするという投資を行っている。ただし、2020年以降、金融緩和が強力だったことの反動や想定以上のインフレ上昇により、過去6年間の日本国債を中心としたリターンが累積で15%のマイナスになっている。当社としては株価上昇と相殺され、全体で収益はプラスとなっているため問題はないものの、円債に対する懸念は議論されている。

・超長期ゾーンについて、利回りは妥当な水準まで上昇しているが、財政拡張懸念や円安進行に由来するインフレ率の高止まりが懸念されており、日本国債の金利が平均1.8%を超えてきたことで運用している一部のポートフォリオの予定利率より高くなっているが、長らくマイナスが続いてきたため、円債投資を拡大する方向にはなっていない。

・足元の市場予想について、マーケットではコア・インフレ率が来年以降2%を下回り、経済成長も1%弱に留まる見込みとなっている。長期的にイールドカーブに織り込まれるべきフォワード金利は3%前半と考えているが、現在超長期ゾーンのフォワード金利は4%と過度にプレミアムが付いているように見えるため、もう一段階超長期ゾーンの減額が必要と考える。ただ、財政政策の不透明感やインフレ率の落ち着きがデータで確認できるようになれば、過度なプレミアムは剥落して落ち着くか。

・発行計画の発表頻度については、半年に1回が予見可能性と柔軟性のバランスがとれてよい。

 

・当社でスポンサーへ運用報告をする中でも、主な話題として、超長期ゾーンの需給に懸念があるという質問を受ける。日々マーケットの状況を見ている中で、超長期ゾーンの投資家層について、以前のデフレ対応からインフレ対応に向かっていく中で、投資は慎重化していると捉えている。現在、アロケーションによる株から債券へのフローが出てきているが、足元金利が上昇している中で、国債のラダー運用、もしくは日銀の利上げがある程度見通せるところまでは絶対収益のファンドの運用を検討されている顧客が増えている状況にある。

・そのような環境下において、発行計画の見直しのタイミングは、半期もしくは四半期に1回の案に賛成する。新発債に関しても一定程度の需要はあるため、マーケットの状況を鑑みて、柔軟に変更していくことがリーズナブルではないか。

・新たな投資家については、個人投資家が望ましいと考えている。足元は日経平均も上がっており、株への注目度が高く株を検討する顧客がいる現状である。一方で、株に関する商品開発も一巡感が出てきている中、差別化という意味で、従来になかった金利のある世界になるということで、国債に関する商品開発も検討しているほか、バランス運用の人気が足元で出てきているため、その中での組み入れを検討している状況。間接的になるのかもしれないが、個人の顧客への需要が見込まれると考えている。


・当社では、上場企業の顧客や年金基金などの機関投資家からお預かりした資産を、時価評価を基本として適切に運用している。運用にあたっては、イールドカーブ上で生じる価格の歪みや、現物とスワップの相対的な価格差を適切に評価し、市場の価格形成がより円滑になるような取引を行っている。また、金融政策や市場動向の分析を踏まえて運用判断を行い、安定的な収益の獲得に努めている。

・国債発行計画に関して、10年以下のゾーンに増額余地があると考えており、特に2年債や5年債、10年債は引き続きニーズがあると考えている。一方で、超長期ゾーンは生保の規制対応需要が一巡している現状を踏まえると、現状維持もしくは減額方向が望ましいと考える。

・超長期ゾーンの需給は転換点にあり、市場参加者の安定需要が弱まっている中で、特に現状の買い手を見ると海外投資家と年金勢の比率が高まっております。こうした需給構造の変化を踏まえると、現行の発行額を維持するよりは抑制的な発行が市場の安定性に寄与すると考える。

・一方で、流動性供給入札については、国債市場の円滑な価格形成のために極めて重要な仕組みであり、現状の需給環境を踏まえると、複数のゾーンで増額余地があると考える。まず、残存15.5-39年ゾーンは、先日発行が減額され、今後も超長期ゾーンの発行は減額方向になると思うが、その中でも残存30年超のゾーンでイールドカーブの大幅な乖離、特に40年債のオフ・ザ・ランと30年債とで価格の乖離が見られるなど、流動性の低下が見られている。オフ・ザ・ランには安定的な需要が見られており、証券会社がショートカバーを行う先が流動性供給入札しかないため、明確に発行増額の余地があると考える。

・残存5-15.5年ゾーンにおいても、日銀買入オペによるストック効果が依然として大きく、市場においてもショートカバーニーズの強い銘柄が多数あるため、需給のタイト感を考えると発行増額の余地はある。残存1-5年ゾーンについても、既に増額はされているが、入札結果自体は毎回良好で、恒常的にマーケットでニーズが強いことから増額余地があると考える。

・今後の運用環境について、物価動向が重要なポイントになると考えている。足元3%程度で推移しているが、エネルギー関連市場の変動が一服しつつあることや、一部補助金措置が既に縮小・終了していることを踏まえると、先行きは物価上昇率が鈍化していく余地があると思っている。

・一方で、金融政策について、段階的な金利引き上げが中心となるのではないかと予想している。ただ、来年度の予算をめぐる財政政策の方向性も金利や需給に対して重要な影響を及ぼすと考えているため、非常に注視している。

・発行計画の公表頻度についても、半年に1回に賛成。特に45月に見られたようにイールドカーブの過度な変動が生じた際には、発行の見直しがあり得るという予見可能性が高まるので、マーケットのボラティリティの抑制が期待できるのではないか。

・新しい投資家については、貯蓄主体である家計に最も消化余地があると思っている。税制優遇等、経済合理的に考えて国債への投資を選好するような仕組みを作ることが大事と考える。

・海外投資家から見て、日本国債がドイツ国債や米国債と比べて割安に見える局面では買いが入りやすい一方、海外金利が上昇した際には一気にフローが引く傾向があり、結果としてボラティリティを高める要因になりやすい。



・超長期ゾーンの需給状況について、やはり4月にマーケットのボラティリティが高まった結果、カーブがスティープ化して需給が悪くなったと記憶している。規制対応の一巡による生保の需要減退を代替する形で海外投資家が買いに来てはいたが、これは今年4月にマーケットのボラティリティが高まった際までに、海外と比較した割安感からHF・年金含めほぼ全員がフラットナーという理由で購入していたもの。その後の当局による機動的な減額対応により多少なりとも需給が改善した結果、現状は小康状態が続いている。

・個人的な感想として、HF業界におけるフラットニングのポジションは、例えば4月の時点が「10」だとすると、今は「2」程度に減っていると思う。そういった中でも、今年度以降、海外投資家による超長期ゾーンの買いが比較的多いのは、HFのような足の速い資金ではなく、年金や海外中銀によるものだと思われる。ただ、そういった意味においても、海外勢の買いはそろそろ臨界点に近づいていると思っており、来年度の発行計画については超長期ゾーンの減額が望ましい。

・超長期ゾーンにおける海外投資家頼りの現状について、海外投資家の日本国債保有を増やすという観点からは好ましいかもしれないが、あくまでも日本国債が他国よりも割安だから購入している方がほとんどであるという点は考えなければならない。特に昨今、海外各国においても財政拡張の懸念からスティープという考え方が増えている中、高市政権における財政拡張不安といった声が非常に増えており、今後、海外勢による買いが継続するとは言い難いと思う。

・これまでにも国債金利が急騰する場面はあったが、今回もしそういったショックが起きた場合、10年債までは国内投資家によって支えられるため、金利上昇はストップすると思う一方で、超長期ゾーンに関しては絶対的な買い手が不足している状態。国債の安定消化という観点からマーケットのボラティリティは非常に重要であり、そういった事態を避けるためにも早急に超長期ゾーンの減額、ある程度国内勢で需要を賄えるように、現状の海外保有を国内に戻していくことが重要だと考える。

・来年度の国債発行計画については、40年債に最も減額余地があると考える。イールドカーブの右端である40年債金利が不安定だとイールドカーブ全体が安定しないと思う。特に40年カレント債はあまり需要がなく、イールドカーブを見てもオフ・ザ・ラン対比非常に割安に推移している。なお、40年債については、昨今の超長期ゾーンの入札がリスクイベントになっていることから、現状の4,000億円×6回から、四半期発行の4,000億円×4回として発行回数を減らすことが望ましい。

・国債発行計画の発表頻度について、金利のある世界となり、投資行動がその時の環境に応じて変化するようになった中、期中に発行計画を見直さなければ、証券会社も投資家も当初で策定された計画を前提に投資行動を決めてしまうと思う。ボラティリティを抑えるためにも半期に一度の見直しは有効と考える。

・新たな投資家について、海外投資家は安定的な保有主体としては期待できない中、個人投資家に保有されるような商品設計、例えば30年債の投資信託といった商品を増やすなどの検討をすべきと考える。現状、そのような投資信託の残高は少ないが、個人的には何百憶円、何千億円というポテンシャルのある商品だと思うので、そういった商品が増えて個人の方々が買っていけるようになればよいと思う。

・昨今の財政拡張については非常に危惧している。特に防衛費対GDP2%まで増額という話もある中で、海外投資家の財源に関する問題意識はよく耳にする。国全体で日本の財政事情をもう少し真剣に考えていくことが望ましい。

・議論の内容が非常に具体的であり、また、外部から見て懸念していたものや数字で見ていたものについて、投資家の方々がどこに問題を感じているのかがよく分かり、大変参考になった。また、吉野座長が方向性を示された当局への提案について具体的に様々出てきたので、当局がどういう形で取り入れていくのか、ぜひとも前向きに検討ほしい。おそらく当局の部門間、他省庁との連携も必要な課題も相当多く寄せられたかと思うので、前向きに進めて欲しいと思う。

 

・これまでも本懇談会では、何らかの潜在的な課題があるのではないかといった指摘がなされ、それらが匿名ではあるものの、議事要旨として関係者に公開されてきており、コミュニケーションの一つとして、とても重要である。国債発行計画の頻度を今後見直すことは、マーケットの関係者が客観的に閲覧できる資料が増え、透明性が高まるという観点からとても望ましい。

・新しい投資家向けのアイデアに関して、コロナ直後あたりにアメリカのインフレが上昇し始めた頃から、物価連動型の個人向け貯蓄国債(Series I Savings Bonds)に改めて注目している。

・インフレは上昇したものの緩和的な金融政策が継続している状況の中、株式投資が盛り上がっているのも、低金利で運用してもインフレに負けてしまうという懸念が後押ししている側面もあろう。一方で、資産の実質価値を守りたいという要望も高齢者層を中心に根強いと思われるので、個人が買いやすい物価連動債について、一定のニーズがあるかどうかの調査も含めて、視野に入れてもよいのではないか。イギリスとアメリカで商品設計が異なっており、元本を物価連動させるのか、利子を連動させる形とするのかなど、色々な商品設計の仕方があり、また、課税の方式も国によって若干異なっている。それらについて、少し時間をかけて考えていく時期になってきているのではないか。

・超長期ゾーンよりも10年以下のゾーンの国債の方が買いやすいということであれば、需要がない超長期ゾーンを減らした上で、需要がある年限を増額していくことは合理的と感じている。

・「責任ある積極財政」という号令の下に財政規律が緩むということは、あってはならない。もちろん成長戦略は大変重要である。一方で、国債及び円の信認が低下しないように、政府として短期・中期・長期の財政フレームを提示していくことが肝要ではないか。

・従来から単年度のプライマリーバランスの達成を目標としてきたところ、データとして引き続き重要な指標である。また、当該目標を放棄することはせず、政権の方針によって少し積極財政の方に踏み切るということであれば、中長期では財政規律を適切に維持するということをマーケットに対して発信することが、国債及び円の信認に繋がると考えられる。

・もし仮に政府の債務残高対GDP比という指標もあわせて考えたいということであれば、財政規律維持のために、財政決定に関する法整備も重要となってくる。例えばアメリカであれば、5年ないし10年というbudget windowを採用し、所謂ペイ・アズ・ユー・ゴー原則の併用によって、仮に減税の財源を今年捻出することが出来ない場合、5年後ないし10年後に均衡するという見通しがないと予算を通せないという仕組みを導入している。

・日本では憲法86条に予算単年度主義が規律されており、改憲しない限り予算単年度主義を放棄することはできない。予算は単年度で議論しつつ、財政フレームワークについて、何か新たな指標を安易に採用するのではなく、減税によって5年後ないし10年後に成長することによる返済見込みとセットで考えるようなフレームを提示することが、円と国債の信認に繋がるのではないかと考えている。信認が重要である点について、国民や政治家の方々にご理解いただくとことを地道にやっていくしかない。

・政府債務の対GDP比について、総債務なのか純債務なのか様々な議論があるが、その1つに公的年金をどう計上するかがあげられる。通常、公的年金の規模が大き過ぎて、状況を把握しづらくなってしまうため、従来は対象外としている。IMFの資料を見ると、年金基金が運用している資産を純資産に含める場合もあり、一方で、将来の公的年金支払債務はインプリッシト・ライアビリティとして計上しない場合がある。

・将来の政府債務について、エクスプリシット・ライアビリティとインプリッシト・ライアビリティ(明示的な債務と黙示的な債務)、ダイレクト・ライアビリティとコンティンジェント・ライアビリティ(確定債務と偶発債務)の2つの軸で分類することができる。ダイレクト・ライアビリティは確定債務であり、例えば国債の元利支払が含まれる。一方でコンティジェント・ライアビリティの例としては、公的な債務保証が該当する。また、エクスプレシット・ライアビリティは法律上又は契約上の支払義務があるカテゴリーであり、国債の元利支払が該当する。一方、インプリシット・ライアビリティは、法律上又は契約上の義務ではないが、国民や政治的圧力によって支出の可能性が高いカテゴリーである。

・将来における年金給付は、エクスプリシットのダイレクト・ライアビリティなのか、インプリシットのダイレクト・ライアビリティなのか。公的年金制度が積立方式か賦課方式かで分類が変わるが、日本の場合、統計上はインプリシットのダイレクト・ライアビリティに分類されると思料する。仮に純債務残高対GDP比を追加的な指標として用いるのであれば、ライアビリティの種類、あり方、計上方法等について、内容をしっかりと確認しないといけない。

・財政の状況について、認識を歪めないように、数値の在り方、統計のとり方も含めて、知見を共有していくことが、遠回りのようで一番大事なことと考える。


・積極財政について一言。財政政策の中には4つの種類があり、1番目は給付金、2番目が政府の消費的支出、3番目が政府の公共投資のような投資的支出、4番目が構造変化や技術を喚起するような財政支出である。最も効果がないのは給付金であり、本当に短期間しか効かず、政府の消費的支出も効果が薄い。また、公共投資も高度成長期は効果があったが、公共事業を実施するところがあまりないのが現状。最も実施しないといけないのは、生産性向上のための財政支出であり、これが一番効果を持っている。今の状態であれば、総供給曲線を下方シフトさせるので、円安によってインフレになる部分を相殺するようになる。積極財政でやらないといけないのは、生産性向上のための歳出をしていくということであり、これらの実証分析は終わっている。

・また、運用部ショック頃から本懇談会で勉強したことを基に、利子率と成長率を比べるドーマー条件に関する論文を書くことができた。ドーマー条件は国債の供給曲線から導出されるものであり、国債の需要について考慮していない。アメリカの場合は、いつでも国債の需要が強く、特に危機になればなるほど需要が増加するため、アメリカに関しては国債の供給だけを考えればよい一方、その他の国に関しては、国債の需要も考えて条件を作らないといけない。そうすると各国でドーマー条件は異なり、国債の残高と利子弾力性が重要であるという内容の論文である。

・ヨーロッパのマーストリヒト条約における債務残高対GDP60%、財政赤字対GDP3%については全く根拠がなく、各国によって需要の構造、貯蓄率、国債の購入の仕方などが異なっていることから、国ごとのモデルをきちんと作ると、適正な比率は当然異なってくる。そのモデル中に年金基金を含めるかどうかについては、また一つ議論があるところと思う。

・本懇談会は、日本国債の供給側と購入側の対話の場ということで、ますます重要になってくると思っている。市場が安定し、また、マーケットに対してよいシグナルができるように期待している。

・我々はどこからきてどこに行くのか、歴史をさかのぼり、海を渡り、国債市場を調べ、最近、大変興味深い文献を見つけた。それは2020年にBOEのワーキングペーパーとして登場した、8世紀にもわたる実質長期金利の傾向的下落という、Paul Schmelzingの論文である。1311年イタリアの都市国家以降、国債を発行してきた8つの国々のGDP加重平均の実質長期金利を対象としており、この論文に関心を示したケネス・ロゴフたちが、さまざまな統計検定を追加して、20248月のAERなどの幾つかの学術誌にも掲載された。

・これらの論文は次の三点に要約できる。第一に、世界の実質長期金利のデータは様々な検定を用いても非定常性が棄却でき、100年で1.6%、1年で1.6bpという緩やかな直線的下降トレンドを辿ってきた。もちろん、この傾向は一時的な金利の変動を排除するものではない。このトレンド定常(Trend Stationary)は、8か国のGDP加重平均についてであるが、最近になって仲間入りした1790年からのアメリカと1870年からの日本を含め、各国ごとのデータについても当てはまる。

・第二は、実質長期金利の時系列データに、構造的な変化はあったか、についてである。その候補として、多くの研究を踏まえて、1349年黒死病、1557年フッガー家も債務不履行の瀬戸際に陥ったトリニティ・デフォルト、1694BOE設立及び1914FRB設立、1981年物価と金利の構造変化の5件が抽出された。これらのイベントが発生した年のそれぞれがチョウテストされ、1349年と1557年だけが構造の断層として確認され、他のショック後はいずれ元のトレンドラインに戻った。国際的な通貨制度、政治体制、ノースとワインガストが強調する制度的革命である中央銀行の創設、そして金融政策の大きな転換などに、長期実質金利の長期的な動きは無関心で、影響を受けなかった。

・そして、第三は、国際金融危機とパンデミック後についての評価である。過去に低い実質長期金利が長期間続いた時期があったが、いずれも終焉を迎えた。1311年~1353年の黒死病前、1483年~1541年の金塊飢餓後、1732年~1810年の景気拡大期、1937年~1985年国際通貨体制の移行期、今回は10TIPSの金利がマイナスになり、長期停滞論が台頭し、非伝統的金融政策が展開されたが、Paul Schmelzing達の分析からは、国債市場の黎明期から存在してきた緩やかな下降トレンドへの回帰が常態であり、国際金融危機とパンデミックの直後の急激な低下は一時的であったことを示唆している。

 

(参考)Rogoff, Kenneth S., Barbara Rossi, and Paul Schmelzing. 2024a. Long-Run Trends in Long-Maturity Real Rates, 1311-2022. American Economic Review 114(8): 22712307.

vol. 114, no. 8, August 2024 (pp. 22712307)

 

・もう一点申し上げたい。国債発行方式についてである。今月12日ベッセント財務長官は、Treasury Market Conferenceでのスピーチで、「定期的かつ予測可能」なトレジャリーの発行枠組みの維持が重要と指摘した。その多くのメリットを強調しつつ、投資家の需要の変化が構造的かどうか、ステーブルコインを例に挙げて、それが構造的となれば、発行配分を調整すると述べた。われわれの国債発行計画が「定期的かつ予測可能」なかたちで行われ、マーケットの透明性と投資家からの信頼を高めてきたことから、その維持が必要なことは言うまでもない。その前提となっているのは、国債の公募入札発行である。

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問い合わせ先

財務省 理財局 国債業務課 市場総括係
電話 代表 03-3581-4111 内線 5700