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地震保険制度に関するプロジェクトチームにおけるこれまでの議論の中間的整理

平成24年7月

平成23年3月11日、東日本大震災が発災した。この未曾有の災害に際し、地震保険制度において、78万件、1兆2千億円を超える巨額かつ膨大な件数の保険金が被災された保険契約者の方々に迅速に支払われた。

このことは、地震保険に関する法律(以下「地震保険法」という。)第1条に規定する「被災者の生活の安定に寄与すること」との目的を一定程度達成できたと評価し得るものであるが、他方で、かかる巨額の保険金支払いにより、民間準備金は激減し、民間負担力が低下するとともに、今後も首都直下地震や南海トラフの巨大地震等の発生が懸念され、地震保険制度の強靭性向上が求められることとなった。また、震災後、被災された保険契約者等から地震保険の商品性等に対する様々な意見が寄せられている。

こうした状況の中、平成24年1月24日に閣議決定された「特別会計改革の基本方針」において、地震保険制度について、「今回の震災を踏まえ、総支払限度額及び官民保険責任額について早急に改訂を行うとともに、地震保険の商品性についても検討を行うものとする。」とされたところである。これを受け、本年4月、財務省に「地震保険制度に関するプロジェクトチーム」(以下「PT」という。)を設置し、東日本大震災を踏まえた地震保険制度の見直しについて検討を開始し、本年4月23日以降6回の議論を行った。

本資料は、地震保険制度の見直しが国民の関心の高いことを踏まえ、PTにおけるこれまでの議論の概要を国民に示すため、これまで出された意見を検討課題ごとに中間的に整理したものである。なお、この中間的整理では、異なる意見については、特にウェイトを付けずに列記している。今後、PTにおいて、引き続き検討を重ね、地震保険制度の見直しについて議論を深めていくこととしたい。

I.総論

1.地震保険制度の趣旨・目的

  • 1地震保険制度の見直しに当たっては、「被災者の生活の安定に寄与すること」との現行地震保険法の目的を前提とするのか、これを見直すのかについて、まず整理する必要がある。この場合において、地震保険を「被災者の生活の安定に寄与する」ための資金を支給する費用保険と捉えるのか、損壊した財産の回復を目的とする財物保険と捉えるのかについて明確にする必要がある。

  • 2地震保険本来の趣旨は、生活再建資金を支給する費用保険であり、その周知徹底を図ることが重要。

  • 3東日本大震災でも現行制度はきちんと機能しているので、目的を含め制度の根幹は変えない方がよいのではないか。

  • 4制度創設以来、住宅ローン債務等、消費者の抱えるリスク状況も変化しており、これを踏まえて「被災者の生活の安定に寄与すること」の内容も見直していく必要がある。

  • 5地震保険には純粋な「保険」という側面と相互扶助としての「連帯」という側面があるが、どちらに軸足を置くのかについて、まず明確にする必要がある。

  • 6地震保険は純粋な「保険」としては仕組めないので、「連帯」の観点からも政府関与の下で地震リスクに対する事前の自助努力を支える制度を提供しているということを考慮する必要がある。

2.地震保険制度の位置付け・役割

  • 1地震保険制度の見直しに当たっては、被災者生活再建支援制度や災害復興公営住宅、耐震化、防災・減災のための施策や民間独自の上乗せ商品との役割分担について整理する必要がある。

  • 2地震保険は、地震等により被災した加入者に対して、加入者が納めた保険料を財源とする保険金を支払う「保険」として仕組むことによって、災害時の財政負担に対する防波堤の役割も果たしている。

  • 3保険には、リスクを担保するリスクファイナンスの機能と保険料率等のインセンティブ効果により社会全体のリスク量(被害額)を低下させるリスクコントロールの機能があるが、地震保険については、リスクコントロール機能の向上を図るとの視点が特に重要。

  • 4地震保険は、被災からの再建に際して、「加入者の生活の安定に寄与すること」により消費を底支えするが、これが復興需要につながれば、震災に伴うマクロ経済全体の消費の落ち込みを防ぐ効果を持つ。このようなマクロ経済政策の一つのツールとして、地震保険をどのように活用していくのか、という視点も必要。

  • 5巨大地震に際し、財政赤字が膨張すれば、国債金利の急騰等、ソブリンリスクの顕在化という国家的危機に直面する。そのような危機を最小限にとどめるには、巨大災害時における財政リスクの抑制と地震保険制度の強靭性の確保が重要な課題となる。

  • 6災害発生時の被害を可能な限り抑えるように事前に対応しておくことが、巨大地震発生時の財政負担の軽減と復旧復興資金の効率的・効果的活用に資するので、リスクコントロール機能の向上が重要。

3.官民負担のあり方

  • 1東日本大震災により民間準備金が激減した状況下で、次の巨大地震に備えて国民が安心して加入できる制度設計は何かという観点から、官民負担のあり方を議論する必要がある。

(ノーロス・ノープロフィット)

    • 2民間保険会社は、地震リスクが元来保険に馴染まないことから、地震保険の取扱いに積極的であるというよりはむしろ、国策に協力しているという点を考慮する必要がある。ノープロフィットの事業から巨額債務を負う可能性があることは株主に対して説明が難しい。

    • 3民間保険会社は、火災保険の販売上地震保険を取り扱うとの経営判断をしていると考えられるので、地震保険がノーロス・ノープロフィットでも、火災保険を含めた全体収支で考える必要があり、火災保険と地震保険の契約状況・収支状況の分析が必要。

    • 4民間保険会社は、中小規模のリスクファイナンスに対する責任に特化することとし、利潤を得ることができるようにすればよいのではないか。利潤を得ることができれば、普及促進にもつながるのではないか。

    • 5地震保険は純粋な「保険」には馴染まないので、政府関与の下で提供するという公共性を持ったものであり、利潤を得るということはあり得ないのではないか。利潤を得るということは損失のリスクを負うことと表裏一体であるが、地震リスクは民間で負いきれないのでノーロスにする必要があり、その結果ノープロフィットになっている。制度に対する信頼性の観点からも利潤を得るようにすべきではない。

 

  • 6地震保険は災害に対する自助による備えであり、その普及拡大は、災害時の被災者救済に係る財政負担の軽減につながる。官の負担についても、全体の財政負担の中で考える必要がある。

(官民保険責任)

    • 7民間保険会社には地震リスクの負担能力はないので、保険責任は国に一元化し、民間は販売・査定・支払を担当するのが本来望ましい。

    • 8保険責任の国への一元化など現行の超過損害再保険方式(一定額を超える損害を国が再保険する方式)に基づく官民保険責任額(レイヤー)の抜本的見直しには長期間の議論を要する。強靭性の確保は喫緊の課題であり、現行制度がこれまでのところうまく機能している以上、基本的枠組みは維持した上で見直しを検討することが適当。

    • 9民間活力が発揮できる部分は可能な限り民間に担わせ、政府の関与は民間の限界を超えたところに集中させるべき。

    • 10巨大地震のリスクについては、民間は負担できないので全て政府が引き受けることとし、3rdレイヤーの民間負担はなくすべきではないか。また、津波リスクも極めて異質なリスクであり、民間は免責とし、全て政府が引き受けることも考えられる。

    • 11巨大地震のリスクについては、現行の官民保険責任額(レイヤー)においても、基本的に国の責任とされている。3rdレイヤーの民間負担は、損害査定を行う民間保険会社のモラルハザード防止の観点から設けられているものであり、これをなくすことは適当ではない。

 

  • 12世代をまたぐ相互扶助に使われる地震保険の準備金は、公共的な利益に関わる公共財的性格を帯びたものであるので、その民間管理は一定限度とし、巨大地震への備えとなる超長期の準備金は政府管理とすべき。

  • 13リスクコントロールとしての防災は政府中心に、リスクファイナンスとしての補償は民間中心に対応すべき。

4.東日本大震災を踏まえた見直し

  • 1地震保険は巨大地震が起こる度に少しずつ拡充されてきた。東日本大震災後、地震保険が後退したとの印象を消費者に与えてはいけない。

  • 2これまでの拡充が、地震保険制度に過度な負担を強いていないか検証が必要であり、見直しに当たっては、制度に与える負担について慎重に見極める必要がある。

  • 3東日本大震災では消費者からの苦情も少なく、地震保険制度に対する信頼度を高めた。基本的に好感を持って受けとめられている現行制度を基本として、更なる改善点があれば議論すべき。

  • 4東日本大震災でうまく機能した現行地震保険制度をいたずらに変更して、次の巨大地震が来たときに混乱があってはいけない。現行制度は国民の安心の拠り所であり、この制度の根幹は変えない方がよい。

  • 5喫緊の課題に対応する短期的課題と、地震保険制度のそもそも論に関わる中期的課題に分けて議論する必要がある。

II.各論

1.強靭性

(1)強靭性一般

  • 1東日本大震災後、多くの国民が安心の拠り所を求めて地震保険への加入を強く望んでいると考えられるが、他方、首都直下地震や南海トラフの巨大地震等が懸念される中、いざというとき確実に保険金が支払われるのか、という不安の声もある。制度の強靭性を高め、そのような声に応えていくことが重要。

  • 2首都直下地震や南海トラフの巨大地震が連続発生するような場合は、地震保険制度の強靭性の問題を超えて、国家的有事として対応すべき問題にもなり得るが、その場合であっても地震保険制度の重要性に変わりはなく、それがどこまで耐えられるか、そのための制度設計はどうあるべきかについて議論する必要がある。

  • 3首都直下地震や南海トラフの巨大地震がもたらす被害状況を正確に捉えることができない現状において、それらに対する対応を前提として大きな制度変更を行うと、現実が想定と異なった場合のリスクが大きいので、制度の見直しは慎重に行う必要がある。

  • 4今後、仮に保険料率が上がるのであれば、保険料負担は地震リスクに対応したものであることについて、国民によく説明する必要がある。他方、保険料負担の増加を回避するのであれば、補償水準の見直しが必要になる。

(2)政府による資金支援

  • 1巨大地震発生時に、民間準備金を超える保険金支払いが生じたり、市場の混乱により国債等で運用している民間準備金の換価が著しく困難になれば、保険金支払いに支障が生じる懸念がある。今後も巨大地震の発生が懸念される中、政府による資金の融通・あっせんに係る現行努力規定(地震保険法第8条)を義務規定化し、有事の際に即時対応できるよう、具体的なスキームを予め整備しておく必要がある。その場合において、巨額の債務を超長期にわたり返済していく中で金利状況によっては返済不能に陥る可能性が生じることのないよう、無利子とする必要がある。

  • 2政府による資金支援が手当てされれば資金繰りはつくが、日本地震再保険株式会社(以下「地再社」という。)が債務超過に陥る可能性があることに変わりはなく、有事の際の対応として十分ではない面があることに留意が必要。

  • 3政府の資金支援がなく、仮に元受保険会社が直接融資や債務保証で支援するとした場合、直接融資においては貸付資産の評価の問題が生じ、債務保証においては地再社の財政状態によっては引当金計上が求められ、元受保険会社の経営に重大な影響が及ぶ恐れがある。他方、元受保険会社からの支援がなく地再社が破綻すれば、元受保険会社が民間保険責任を全額負うことになる。このように、政府による資金支援は、地再社のみならず元受保険会社の経営にとっても極めて重要と考えられる。

  • 4民間準備金枯渇後の官民保険責任額(レイヤー)が自動的に改訂される仕組みが導入されれば、政府による支援融資の必要性は薄れるのではないか。

(3)民間準備金枯渇後の民間保険責任のあり方

  • 1巨大地震により民間準備金が枯渇した後、補正予算で民間保険責任を減額する前に次の巨大地震が来ると、保険金支払いに支障が生じたり、民間保険会社の経営に重大な影響が及ぶ恐れがある。このような場合に備え、補正予算を待たずにレイヤーを自動的に改訂する仕組みを導入し、民間保険責任そのものを減ずる手当が必要。

  • 2東日本大震災では補正予算で弾力的にレイヤー改訂が行われたが、市場は巨大地震の連続発生など最悪の事態を想定するため、レイヤー改訂が制度的に仕組まれず、その時々の政策判断によるということでは、今後、民間保険会社に対し、市場から厳しい評価が下されることになりかねない。

  • 3予算は、財政民主主義の観点から、財政事情・経済情勢等、時々の状況に応じて適時適切に編成し、国会の議決を受けるというのが本来のあり方である。民間準備金枯渇後のレイヤーについてまで予算総則に盛り込んで予め国会の議決を得ておくということが、こうした観点に照らして問題がないか検討する必要がある。

  • 4レイヤー改訂により民の負担を減らせば、その分、官の負担が増える。官の側の負担のあり方についても検討する必要がある。

  • 5保険料収入は責任額に応じて官民に配分されるが、民間準備金枯渇後に民間保険責任額を大幅に減額すると配分される保険料収入も激減し、民間準備金の積み上がりペースが落ち、民間責任額も増えず、民間保険料収入も増えないという悪循環に陥る。民間準備金枯渇後の保険料収入の官民配分のあり方についても検討が必要。

(4)総支払限度額

  • 1総支払限度額は、文部科学省の下の地震調査研究推進本部(以下「地震本部」という。)が作成する震源モデルにおいて単発地震として最大の被害地震と想定されている関東大震災再来を前提として設定されている。このように、制度上その発生が想定されている地震が実際に発生した場合に削減払いが生じるような形で総支払限度額を設定すると、消費者の安心感を大きく損ないかねず、また、削減払いの実施方法等の実務的課題もあることから、総支払限度額の前提は変更すべきでない。

  • 2総支払限度額が関東大震災再来を前提としている旨を、民間保険会社が契約者に対し既に説明しているとすれば、今後、その前提を変更して総支払限度額を引下げることには、契約者の理解は得られないのではないか。

  • 3首都直下地震と南海トラフの巨大地震が連続発生すると地震保険制度に大きな負担がかかることになる。制度の強靭性を確保する観点からは、総支払限度額を引下げるということも考えられる。

  • 4首都直下地震と南海トラフの巨大地震が72時間以内に起きるという最悪の場合を想定して、総支払限度額を引上げることも考えられる。

  • 5総支払限度額設定の前提となる震源モデルの想定通りであれば、総支払限度額を超える保険金支払いが実際に生じることは考えにくく、総支払限度額を引き上げたとしても、保険財政に実態的に影響を与えることはないのではないか。

  • 6民間保険責任に限度額を設け、残余の責任は全て政府が引き受けることとした上で、総支払限度額を無制限にした方が地震保険制度に対する信頼性が確保できるのではないか。

  • 7総支払限度額を無制限にすると、超長期にわたる世代間のリスク分担も無制限になり、世代間の公平性の観点からの問題が生じるため、一定の総支払限度額は設けるべき。また、想定外の巨大地震が発生した場合には、保険財政の強靱性を損ないかねない。この点からも一定の総支払限度額は必要ではないか。

(5)「1回の地震等」の定義

  • 1現行法は72時間以内に発生した地震等をまとめて「1回の地震等」とする旨定義しているが、巨大地震ほど査定着手に時間を要する一方、大規模余震が起こりやすく、本震の損害か、72時間経過後の余震の損害か判別困難で、公平な保険金支払いに支障が生じる懸念がある。このため、本震と余震の損害をまとめて査定できるよう、現行の72時間基準を、例えば30日間などに一定程度拡大することが考えられる。

  • 2現行の72時間基準では、巨大地震が72時間を超えて連続発生したとき、補正予算によるレイヤー改訂が間に合わない恐れがある。

  • 3現行の72時間基準を、例えば30日間に拡大すると、これまで3日で1回請求できたところが30日で1回しか請求できないことになったり、30日経つまで保険金の支払いを待たなければならなくなったりするなど、契約者に不利になるのではないか。

  • 4総支払限度額は、現行72時間基準を基に、単発地震として最大の被害地震と想定されている関東大震災再来を前提として算定しているが、現行基準を拡大すると連続発生する巨大地震が1回の地震とみなされる可能性が増し、総支払限度額算定の前提の見直しに波及する。

  • 5巨大地震の連続発生に備え、政府の資金支援や民間準備金枯渇後のレイヤー自動改訂など何らかの制度的手当てがなされれば、現行の72時間基準のままでも不都合はないのではないか。

  • 6東日本大震災でも現行制度はきちんと機能しており、「1回の地震等」の定義など制度の根幹は変えない方がよいのではないか。

  • 7「1回の地震等」に係る定義規定においては、72時間基準に対する但書として、「ただし、被災地域が全く重複しない場合は、この限りでない」と規定されているが、予めその内容の明確化を図っておく必要がある。

  • 8「被災地域が全く重複しない場合」について、予め網羅的に列挙しておくのは実際には極めて困難であり、ケース・バイ・ケースで判断せざるを得ないのではないか。

(6)加入制限

  • 1巨大地震発生後の駆込加入等、リスク増大時の契約急増は保険収支の均衡を損ない、長く保険料を払ってきた加入者との公平性の問題を惹起する。このため、現行地震保険法において加入制限の適用を東海地震警戒宣言発令時に限定しているところ、その適用範囲の拡大について検討する必要がある。

  • 2加入制限の適用範囲の拡大は、事前の加入促進につながる面もあるものの、これを行う場合には、加入制限の可能性について国民に対し予め周知徹底する必要がある。

  • 3地震リスクが高まったので地震保険に加入しようとするのは消費者として当然の行動であり、これを排除して加入の機会を奪うのは消費者保護に反する。民間保険の原理に立てば逆選択は回避すべきかもしれないが、国策として国民に安心の拠り所を提供するという制度本来の趣旨からすれば、加入制限は極めて限定的にすべき。例えば、加入制限の要件を、閣議決定で発令される警戒宣言から気象庁が出す注意情報に緩和すると、消費者にとって明らかな制度後退と受けとめられる。

  • 4加入制限により加入の機会を奪うことになれば、結局のところ被災者救済のための財政負担に跳ね返ることとなる。

  • 5現行加入制限は大規模地震対策特別措置法に基づく国の防災措置の一環として発動される仕組みになっているが、地震保険において更に加入制限を拡充する場合には、そのような国全体の防災に係る法体系が先に整備されている必要があるのではないか。

(7)地震保険制度の安定性・持続可能性を確保するための保険料率

  • 1地震保険は超長期で収支相償を図るものであり、準備金を超える保険金支払いのために巨額の立替払いが生じることは制度上想定されているが、制度に対する信頼性の維持の観点からは、しっかりと準備金の確保を図ることが何よりも重要。このため、保険料率に地震の切迫性や不確実性を加味する等、料率算定方法の見直しを検討する必要がある。

  • 2保険料率については、東日本大震災に伴う準備金の減少等財政制約の観点から、及び、今後、首都直下地震や南海トラフの巨大地震等が懸念される中で切迫性や不確実性を反映すべきとの観点から、その見直しを行うことが必要。ただし、保険である以上、準備金が不足することを理由に料率を上げるというのでは理屈が成り立たない。料率は保険数理に基づく合理的方法で収支相償に決められる必要がある。

  • 3巨大地震の切迫性が懸念される中、保険料率改訂に当たっては、地震の切迫性を加味することについても検討が必要だが、切迫性を加味した場合、実際に巨大地震が発生した後は逆に切迫性が下がり、料率水準が大きく変動することになるなど安定性に問題が生じる点にも留意が必要。

  • 4科学にも限界があり、保険料率に加味できるほどの信頼性を持って巨大地震の切迫性の評価を行うことは困難。

  • 5巨大地震の発生について、定量的な予測には限界があるとしても、定性的に一定のシナリオを設定し、シナリオごとに問題点を整理しつつ選択肢を絞っていくというアプローチの仕方も可能ではないか。

  • 6地震リスクは、その発生確率や規模、被害の程度を高い精度で予測することが困難な、大数の法則に乗りにくいリスクであり、制度の強靱性向上のためには、そのような不確実性に係るプレミアムを一定額保険料率に織り込むことも考えられるのではないか。

  • 7保険料率改訂に当たり、これまでの保険料率に織り込まれていなかった東日本大震災の支払保険金を将来世代から回収するために料率を引上げることは、世代間の負担の公平性の観点から問題であり、制度に対する信頼性を損なうことにもなる。仮に保険収支の回復のために保険料率を上げるとしても、その算定根拠を明確にするとともに、国民に対して、納得のいく説明をしていく必要がある。

  • 8総支払限度額を低めに設定するとともに、保険料率の算定において、料率算定の基礎となる震源モデル上の各地震の予想支払保険金額について総支払限度額を頭打ちとすることによって、保険料の負担増を抑制しつつ強靭性の向上を図ることも考えられるのではないか。

2.商品性

(1)商品性一般

  • 1商品性の見直しに当たっては、普及拡大への貢献(商品魅力の向上、納得感ある保険料)、損害査定・保険金支払いの迅速性、制度全体のリスク量、給付と負担のバランス(過度な保険料負担増の回避)、耐震化推進、非加入者とのバランス、といった点に留意する必要がある。

  • 2単に商品性を改善して普及拡大を図ればよいということではなく、官民とも負担に耐えられるものにする必要がある。

  • 3地震保険制度は、持続可能で、真に「被災者の生活の安定に寄与する」制度であることが重要。被災時に深刻なダメージを負う世帯の損害を重点的に補償することが望ましく、それが被災地の復興と国の財政負担の軽減にもつながる。

(2)対象物件

  • 1地震保険は「被災者の生活の安定に寄与すること」を目的としていることから、生活の基盤となる住宅及びそれに付随する家財を対象としていると考えられる。政府の関与により成り立っている保険である以上、その対象範囲については、生活基盤を基本として、ある程度限定的に考える必要がある。

  • 2車両や中小企業物件への対象範囲の拡大は、地震リスクに対する備えを拡充するものである一方、地震保険制度のリスク量や保険料負担の増大を招くことから、他の制度・施策や民間商品等による対応も視野に入れつつ、慎重な検討が必要。

  • 3東日本大震災を受け、民間保険会社は、民間独自の保険商品として、地震リスクをカバーする車両保険を開発・販売しており、このような民間保険商品の存在についても念頭に置く必要がある。

(3)付保割合

  • 1付保割合の引上げは、商品魅力の向上にはなるが、リスク量や保険料負担の増大を招くので、慎重な検討が必要。

  • 2付保割合の制限があるので住宅再建ができないとの声に対しては、地震保険は財物保険ではなく「被災者の生活の安定に寄与すること」を目的とした費用保険であることの周知徹底を図ることにより対応すべき。

  • 3付保割合の制限があるので住宅を失ってもローンは残るという最悪の事態に対応できていない。政府関与の制度である以上、深刻な事態に陥った人を手厚く救済すべきであり、「付保割合100%、全損のみ」というオプションを導入してはどうか。全損のみに限定すれば、リスク量の大幅な増大は避けられる。

  • 4地震保険制度のリスクコントロール機能向上の観点から、耐震性や津波危険等、リスクの程度に応じた付保割合を設定することが考えられる。

  • 5火災保険金額は新価(再調達価額)が主流となっており、対象物件の新価が時価(経年劣化による減価償却後の価額)を相当程度上回っている場合、地震保険金額が時価の50%を超える可能性がある(約款上、時価が上限)。このような実態を踏まえれば、付保割合が低いという批判は当たらないのではないか。

(4)保険金限度額

  • 1地震保険契約における住宅の保険金額は、平均で約1,000万円という実態にある。このため、「被災者の生活の安定に寄与すること」という目的を損なわない範囲で、付保割合の引上げとのセットで、現行の住宅に係る保険金限度額(5,000万円)の引下げについて検討することも考えられる。

  • 2保険金限度額の引下げについては、高額契約が少ないことから、そのリスク量削減効果が限定的であるのに対し、付保割合の引上げはリスク量の増大に直結するので、両者をセットにしても制度全体のリスク量の増大は回避できない。また、保険金限度額の引下げは、消費者にとって商品魅力の後退と受けとめられ、理解を得にくい。

(5)損害区分(全損・半損・一部損)

  • 1現行の損害区分については、一部損(5%払)と半損(50%払)の間に10倍の格差があることや一部損の保険金では修理費が不足することについて改善して欲しいとの声が寄せられている。

  • 2現行の損害区分は、被災者が一刻も早く保険金を受取れるよう損害査定を迅速に行うとの観点から、3区分に大括りにされており、これが東日本大震災における迅速な支払いに寄与したことを踏まえる必要がある。

  • 3首都直下地震の損害調査件数は東日本大震災の2.5~3.5倍程度との試算がある。調査難度の高い非木造建物も圧倒的に多い。また、津波被害の大きかった東日本大震災では、航空写真により全損一括認定を行うことができたが、首都直下地震では倒壊被害が多いと見込まれ、実地調査が必要になると考えられる。現行損害区分のもとでも、首都直下地震では、損害調査に要する時間は東日本大震災を相当上回ると想定される。首都直下地震の切迫が懸念される中、損害区分の見直しに当たっては、このような実態を十分踏まえる必要がある。

  • 4損害区分の見直しに当たっては、保険金支払いの迅速性・適正性・公平性3つの連立が重要。契約者にとって迅速性も大事だが、適正性・公平性はもっと大事ではないか。3つ全てを満足させることは困難だが、3つの最適バランスを考えることが重要。

(損害区分の細分化)

  • 5損害区分の見直しについては、○付きa3区分のまま一部損の支払割合を引上げる、○付きb一部損を分割して4区分とする、○付きc半損を分割して4区分とする、等の案が考えられる。

  • 6損害区分を増やすと、上位区分の認定を得るために再調査を求める契約者が増加するとともに、かかる契約者の納得感を得るため鑑定人の派遣が必要となるケースが増加し、多くの鑑定人がその対応にとられることから、全体の処理スピードに大きく影響する結果になりかねない。

  • 7損害区分の細分化については、それが普及拡大のためというのであれば、細分化によって商品魅力の向上を図るのではなく、制度の強靭性の向上を図り、いざというときの保険金支払いの確実性を高めた方が効果的。また、保険金支払いに係る不公平感解消のためというのであれば、制度をわかりやすくシンプルにすることが重要であり、損害区分の細分化は、却って不満を募らせるだけと考えられる。

  • 8契約者の不満は損害区分の境界周辺で起こるので、損害区分を追加すると、却って不満を増幅させかねない。

  • 9損害区分の追加は、制度の抱えるリスク量や査定に要するコストと時間を増加させることとなり、却って制度の強靭性を損なうことになりかねない。

  • 10損害区分を追加すると、商品設計次第では、損害区分の異なる新旧の契約が混在することとなる可能性があり、損害査定の現場が混乱しないか懸念される。

  • 11半損と一部損とで、僅かな損害割合の差で保険金に10倍もの開きが出るのは、消費者にとって納得し難い面がある。査定実務との調整を図りつつ、損害の程度に応じてもう少しきめ細かく保険金が支払われるような工夫も検討すべき。

  • 12損害区分については、迅速性の観点のみ重視するのではなく、適正性・公平性の観点からの検討も必要。首都直下地震等、最悪の事態を想定して査定実務への影響を検証することも大事だが、その検証結果を他の大多数の地震についても、同列に考えることはバランスを欠く。巨大地震以外の地震については、より適正性・公正性を重視した損害区分に見直すことも考えられる。

(一部損の見直し)

  • 13一部損については、家計でやりくりできる程度の損害であり、保険でカバーする必要性のあるリスクか疑問。また膨大な件数の一部損の査定に多大なコストがかかる。このため、一部損については、廃止又は定額の「見舞金」に簡素化してはどうか。「見舞金」とする場合、その支給要件について損害の程度によらない一律簡便な基準とすることも考えられる。

  • 14「見舞金」とすることについては、それが、損害の有無に関わらず支給するものであれば、地震保険という性格上、これは困難。また、損害の有無を確認することにするのであれば、「見舞金」と一部損で査定の手間に大きな違いは生じない。

  • 15保険契約者にとって一部損の廃止は商品の魅力を後退させるものであり、一度導入したものを廃止することは現実的には困難ではないか。今、加入を検討している人の期待に応え、制度の強靭性と保険金支払いへの安心感を与えるためにも、現行区分を維持することが適当。

(損害査定方法)

  • 16損害査定の方法については、首都直下地震や南海トラフの巨大地震においては従来の手法では対応困難と考えられ、新たな手法の導入を検討する必要がある。例えば、東日本大震災においては、被災地支援対策研究の一環として、地元消防団員等の協力を仰ぎ、被災家屋等の写真を撮影して画像を後方のオフィスに送信してもらい、それを専門家が評価するという方法を実験的に実施した。この方法ならば、膨大な件数を極めて効率的に処理できるし、撮影時間が記録されるので、本震被害か余震被害かの判別も可能となる。フェイス・トゥ・フェイスが必要な部分は後で個別に対応すればよい。契約者自身が写真撮影することも考えられる。

  • 17写真撮影による損害査定については、損害査定は契約者の納得感を得るため丁寧にやる必要があり、写真だけで一部損と判定されて契約者が納得するのか、また、消防団員等、地元の第三者が写真撮影することについて法的なトラブルやオペレーション上の支障が生じないか、といった点について検討する必要がある。

  • 18巨大地震と中小規模地震は異質な災害であり、損害査定に要する時間と労力は全く異なる。巨大地震については、中小規模地震と区別して、損害区分や損害査定方法について特別な取扱い(例えば、巨大地震については全損のみ補償)とする可能性についても検討する必要がある。

  • 19巨大地震と中小規模地震を区別して対応するといっても、現実的には、どこで線引きできるのか難しい。

  • 20巨大地震と中小規模地震の区別を義務づけるのではなく、通常の取扱いでは対応できないような事態が生じた場合のオプションとして、例えば、写真で損害状況を概略確認するなどの簡便な損害査定に基づいて一定額の保険金を仮払いしておき、最終的な保険金額は精査の上確定するという「仮払い」の制度を用意しておくことも考えられる。

(6)契約方法・契約構造

  • 1地震保険は火災保険に付帯して販売されているが、このことが本来費用保険である地震保険が火災保険同様、財物保険と受けとめられることにつながっているのではないか。
    また、営利の火災保険とノーロス・ノープロフィットの地震保険を一緒に扱うことが、民間保険会社の合理的経営の支障となっているのではないか。このため、地震リスクを火災保険の中に取り込むか、逆に分離して単独の保険にするという考え方もあり得るのではないか。

  • 2地震保険は利潤を生まないことから、火災保険に付帯させることで、民間保険会社にとって販売するインセンティブになっている。また、地震保険は火災保険に付帯して販売するので付加保険料が低く抑えられているが、火災保険から切り離せば料率上昇につながると考えられる。

  • 3政府関与の費用保険という地震保険制度の趣旨を踏まえると、対象物件の価額に対応した保険金を支払う現行方式ではなく、一定の事象に対して一律の保険金を支払う方式に改めるということもあり得るのではないか。定額補償を提供する保険デリバティブとして仕組んだ方が合理的かもしれない。

  • 4二重債務問題解消のため、地震で家が全壊した時に住宅ローン残高に連動する保険金が支払われ、これにより住宅ローンを完済するという「地震団信」を創設し、住宅ローンに付帯するものとして、債務者が地震保険に必ず加入するような形にすることも一案である。

  • 5分譲マンション等共同住宅の再建には、マンション管理組合が共用部分について地震保険に入っている必要がある。共用部分の地震保険加入率は低く、首都直下地震等に備え、共用部分の地震保険加入促進について検討する必要がある。

  • 6共同住宅の再建は、区分所有部分、共用部分、基礎構造部分全体が一体として再建される必要があり、地震保険が共同住宅の再建に資するためには、共同住宅固有の問題に対応した契約のあり方について検討する必要がある。

(7)保険料率

(i)保険料率一般
  • 1地震保険料率は、「地震本部」が作成する震源モデルを基礎として算出されている。現在、「地震本部」で震源モデルの改訂中であり、改訂後の震源モデルに基づき、今後、損害保険料率算出機構において、地震保険料率が改訂されることとなるが、料率改訂に当たっては、統計数値等のデータ更新や東日本大震災の被害実績などの知見に基づく改良はもとより、東日本大震災の特徴である甚大な津波被害や液状化被害の保険料率への反映等、今回の震災を踏まえた可能な限りの改善が図られることが重要。

  • 2保険料率改訂において、全体の料率水準を考える際には、今回の震源モデル改訂により東日本大震災の震源モデルが新たに追加されるので、これが料率を押し上げる一つの要因になるということを考慮に入れておく必要がある。

  • 3保険料率の信頼性にとって、保険数理に基づく合理的算出方法とノーロス・ノープロフィットの原則は重要。

  • 4地震保険料は高いと言われるが、地震リスクを適正に評価すれば決して高くない。地震リスクを正しく認識し、具体的な備えに結びつける啓蒙活動が必要。

  • 5保険料率については、地震リスクに対して合理的に算出されるとともに、将来世代の負担も含め公平に設定される必要があり、このようにして算出された保険料負担について、国民に説明していく必要がある。

(ii)等地区分・立地誘導
  • 1地震保険料率は、危険度に応じて都道府県別に現行4区分の等地が設けられている。これをより細分化するか、あるいは平準化するかは、リスクに応じた料率にすべきという「保険」の考え方と、相互扶助だから負担は一律でよいという「連帯」の考え方のどちらに軸足を置くか、という地震保険の性格論に関わってくる問題である。

  • 2料率改訂に当たっては、現在最大3倍以上ある料率格差が震源モデル改訂により更に拡大する可能性があることや、東日本大震災のように料率の低い地域で実際に大規模地震が発生している現実を踏まえる必要がある。このため、等地区分については、日本全国どこにおいても地震リスクは相当程度高いという現状を鑑みるとともに、「連帯」の観点から、現行の4区分をある程度統合して、平準化する方向で見直すことが考えられる。

  • 3等地区分は都道府県別に定めているので、例えば、北海道では東と西で危険度は大きく異なるのに料率が同じである一方、静岡県と長野県では、その県境において2.46倍もの格差が生じる等の不都合が起こっている。このような点についても適正化を検討すべき。

  • 4市区郡別に細分化して保険料率を算出することは技術的には可能だが、大元となる「地震本部」の震源モデルの精度に限界がある中で保険料率だけ細分化しても意味がない。むしろ等地区分については、「連帯」の観点から、全国一律とするか、2~3区分に統合して、保険料率を平準化した方がよいのではないか。

  • 5地震保険制度については、リスクコントロール機能の向上が重要である。保険料率には地震リスクに関する情報伝達機能があり、料率格差により、例えば、津波危険度の高い地域から安全な地域に立地誘導するように制度設計することが望ましい。保険料率を一律にするとリスクコントロール機能が失われ、危険度の高い地域の加入率が偏在的に上がりかねず(逆選択)、制度の強靭性を損なうことにもなりかねない。

  • 6危険度が高いから保険に加入するというのは合理的選択に基づく行動である。逆選択は情報の非対称性を前提とするが、地震リスクについては加入者と保険会社で情報量に大差はないことから、保険料率を平準化することについては、これを逆選択の問題として捉えるのは適当ではない。

  • 7津波や液状化等、立地による危険度の差異を料率に反映させる場合、等地区分に織り込むだけでは都道府県域全体に平均化されて立地誘導効果が期待できないので、これらの危険度の高い地域のみを対象として割増をすることも考えられる。

  • 8危険度に応じた料率は合理的だが、政府関与の制度の公共性に照らし、選択の自由に制約のある居住地について大きな料率格差があることに納得感が得られるか疑問。津波危険度の高い地域の料率に割増をかけると、負担可能な保険料水準を超え、沿岸部の国民を地震保険から実質的に排除することにもなりかねない。「連帯」としての側面を重視し、居住地の態様によって地震保険への加入が排除されることのないような配慮が必要である。

  • 9津波等の危険度の高い地域から安全な地域への立地誘導については、地震保険制度のリスクコントロール機能の向上と国・自治体による防災・減災対策との効果的なポリシーミックスが重要である。

  • 10津波リスクは、現行等地区分の保険料率に織り込まれているとはいえ、その比重はかなり低く、今後それをどう見直すかが一つの焦点となる。

  • 11建物の倒壊は、等地による危険度の相違よりも、地盤や建物の強度に左右されるところが大きい。このような要素を保険料率に的確に織り込むことについても検討が必要。

(iii)構造区分(非木造・木造)・耐震割引
  • 1現行の構造区分は、建物の耐震性に基づくリスク格差に応じたものであり、現行区分の維持が望ましい。

  • 2耐震化のメリットは地震が起きないと分からないので積極的に耐震化しようとする人は多くないが、保険料率の割引という形で現在の利益に還元されれば大きな促進要因になる。現行の保険料率には耐震性が的確に反映されていないので、地震保険制度のリスクコントロール機能向上の観点から、耐震化インセンティブに資するものだけに絞って耐震割引率を拡大し、政策誘導効果を高める必要がある。

  • 3耐震化には多額の費用がかかるので、保険料の割引程度で耐震化が促進されるか疑問。耐震割引については、むしろ廃止又は簡素化してもよいのではないか。

  • 4耐震性の判定や、耐震性と損害の因果関係の分析を精緻に行うことは困難であり、耐震性の判定基準や割引率の設定については、かなり簡素なものにならざるを得ない。

  • 5耐震割引による耐震化促進効果は限定的かもしれないが、耐震性の高い住宅に住む人に対する加入促進効果が期待できるので、ひいては保険財政の健全化に貢献できる。

  • 6割引率の合理性を加入者に説明できるよう、耐震性と損害の因果関係を分析しておく必要がある。そうでなければ、割引し過ぎて保険財政が却って悪化することにもなりかねない。

  • 7耐震性の高い住宅は増えており、耐震性に係る統計的評価もある程度可能になってきた。耐震性の料率への反映について若干の改善が図れるのではないか。

  • 8現状、耐震割引はあまり活用されていないが、その原因の一つとして、割引の適用に必要な性能評価書の取得に費用や手間がかかるということが考えられる。割引適用手続の簡素化について検討する必要がある。

  • 9仮に危険度の確率が正確に算定できるとの立場に立った場合、それを保険料率に忠実に反映させようとすると極めて大きな料率格差がつき、既契約者には更新時に更新を断念する動きすら出る可能性が否定できない。そのような事情に鑑みれば、耐震化促進のインセンティブを地震保険に求めるとすれば、保険料率よりも付保割合の方が現実的ではないか。


(参考)

地震保険制度に関するプロジェクトチーム

1.構成メンバー(五十音順)

市川 眞一 クレディ・スイス証券(株)チーフ・マーケット・ストラテジスト
大谷 孝一 早稲田大学名誉教授
纐纈 一起 東京大学地震研究所教授
佐藤 主光 一橋大学経済学研究科教授(座長)
清水 香 ファイナンシャルプランナー((株)生活設計塾クルー取締役)
清水 涼子 関西大学大学院会計研究科教授
高梨 晃一 東京大学名誉教授
丹野 美絵子 公益社団法人全国消費生活相談員協会理事長
畠中 誠二郎 中央大学総合政策学部教授
堀田 一吉 慶應義塾大学商学部教授
目黒 公郎 東京大学教授(都市震災軽減工学、防災マネジメント)
山下 友信 東京大学大学院法学政治学研究科教授
若泉 征三 財務大臣政務官

(オブザーバー)

日本損害保険協会、外国損害保険協会、日本地震再保険(株)、損害保険料率算出機構

金融庁

2.これまでの開催実績

第1回(平成24年4月23日) プロジェクトチームの検討課題、討議
第2回(平成24年5月25日)

業界ヒアリング、討議

  • 日本損害保険協会
  • 日本地震再保険(株)
  • 外国損害保険協会
  • 損害保険料率算出機構
第3回(平成24年6月1日)

有識者ヒアリング、討議

  • 清水香取締役(PTメンバー)
  • 堀田一吉教授(PTメンバー)
  • 田中淳東京大学総合防災情報研究センター教授(外部有識者)
第4回(平成24年6月15日) 検討課題別討議
第5回(平成24年6月22日) 検討課題別討議
第6回(平成24年7月6日) これまでの議論の中間的整理