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地震保険制度等研究会第3回 議事要旨

1.日時 令和2年1月24日(金)15:00~17:00

2.場所 財務省国際会議室(本庁舎4階)

3.出席者
 (委員)佐藤主光(座長)、阿部美雪、荒川進、纐纈一起、清水香、中埜良昭、藤田友敬、堀田一吉、目黒公郎(敬称略)
 (オブザーバー)一般社団法人日本損害保険協会、一般社団法人外国損害保険協会、日本地震再保険株式会社、損害保険料率算出機構、金融庁監督局保険課
 (事務局)神田総括審議官、井口信用機構課長

4.議題
  •  保険料率における立地割増・立地割引について
  •  近年の地震における保険金の支払状況について
5.議事内容
    (保険料率における立地割増・立地割引について)
    •  事務局から地震保険制度について説明を行い、続いて損害保険料率算出機構から地震保険の料率体系の概要について説明を行った。
    •  損害保険料率算出機構から立地条件による地震保険のリスク区分設定に関する研究結果について報告を行い、討議を行った。
    •  討議における委員からの主な発言は次のとおり。
      •  地震保険は、リスクファイナンスにはあるレベルで貢献しているが、リスクコントロールに貢献してこそ、将来の我が国全体の災害リスクを減らし、被害を抑制できる。全国一律のデータには拘らず、データが既に整備されている地域において、先行して立地割増・立地割引を導入することはできるだろうし、それが、データが整備されていない地域における、データ整備のインセンティブになればなお良い。建物の耐震性能を上げるという自助努力を耐震割引によって評価しているように、リスクの低い土地に住むという自助努力についても保険料率において評価し、我が国全体の災害リスクの抑制に貢献することが、地震保険のあるべき姿ではないか。
      •  自助努力により対応が可能な「揺れ」、「地震火災」については、自助努力を割引により評価し、一方、自助努力による対応が困難な「津波」は、公平性の観点から割増で対応するといったように、地震災害の原因によって対応を分けるという考え方もあるのではないか。
      •  保険料率を通じて立地条件によるリスクを契約者に認識してもらうことは重要。しかしながら、人間は色々な環境や制約の中で生活しているため、居住する地域は自由に選べるように見えても実際にはあまり選べず、個人の自助努力によっても転居にまでは及ばないのが現実。
      •  一般の方々と話していると、地震被害のあった地域と保険料率の高い地域が必ずしも一致しないことへの疑問の声もある。データが十分に整備されていない現段階において、立地割増・立地割引を導入することに契約者の納得を得ることは難しいのではないか。
      •  地震保険料について高いと感じている人が多いところ、現行の料率に更に割増を導入すると負担感が大きく、地震保険加入のハードルを上げることになるのではないか。
      •  耐震割引の適用にあたっては契約者から確認書類を提出いただいているが、立地割増・立地割引を導入するとなれば、そうした手続きでは済まず、保険会社側が契約者の立地情報に対応する保険料率を示す大規模なコンピュータシステムを作り、それを用いて契約者に説明する必要があると思われる。これが事務コスト増、保険料の引上げに繋がるのであれば、現段階での導入は難しいのではないか。
      •  従来、居住する地域の自由な選択は困難であるという前提のもとで、都道府県という大ざっぱな地域区分ごとにリスクを連帯する一方で、建物の耐震性能を割引の対象とすることにより、自助努力を評価しているところ。他方、国民は自分自身の居住する地域のリスクに対して非常にセンシティブになってきており、いずれ危険な地域のリスクを危険でない地域に居住する人が負担することへの共感が得られなくなるかもしれない。しかしながら、立地割増・立地割引を導入する場合には、リスク算出の信頼性を高めることができたとしても、それだけで契約者の納得を得られるとは限らない。危険な地域から危険でない地域への移住を促すという立地適正化の大きな流れに乗る形で理解を得ようというのであれば、その理屈を慎重に考える必要があるだろう。
      •  全国一律に立地割増・立地割引を導入するのではなく、政策的な観点から居住すること自体が推奨されない場所に限定して立地割増を導入すれば、リスクコントロール機能を果たしつつ、契約者の納得を得られるかもしれない。
      •  リスク算出の信頼性と契約者の納得感の関係からは、料率設定の技術的な精度を高くすればするほど納得感を得られるとも限らないだろう。細かく設定しすぎると後で不整合が生じることもあり得るため、どの程度の細かさが適当であるかを予め議論しておくことが重要ではないか。
      •  制度の検討にあたっては、リスクの高い地域に住む人だけでなく、リスクの低い地域に住む人も地震保険に加入しやすい制度とする視点が必要だと思う。
    (近年の地震における保険金の支払状況について)
    •  損害保険料率算出機構から近年の地震における保険金の支払状況について報告を行った後、討議を行った。
    •  討議における委員からの主な発言は次のとおり。
      •  構造別、割引別の支払状況に加えて、震度との関係も示した上で議論する必要。
      •  建物の耐震等級が高くなるにつれて、建物自体は固く、揺れやすくなるため、建物の被害は小さくても家財の被害は大きくなることがある。また、同じ耐震性能の建物でも、建物の縦横比等によって家財の倒れやすさは変わりうる。耐震性能による割引を家財にも適用する現行制度が適当かどうかということについては慎重な議論が必要だろう。
      •  建物と家財を別料率にして事務コストを増やすことは適当でないため、建物と家財の保険金額も考慮して検討すべきではないか。
      •  地震対策の効果は、建物よりも家財において如実に表れる。しかしながら、家財の転倒防止といった地震対策を確認して保険料率に反映することは事実上困難だろう。そのため、地震対策にインセンティブを与えるためには、例えば同じ震度の揺れに見舞われた建物に収容される家財について一律に定額の保険金を支払うような制度とすることも検討の余地があるのではないか。
      •  契約者ごとに被害の大きさは様々であるため、保険金の支払を定額とまですることが適切かどうかは疑問であるものの、現状、建物の損害査定に比して家財の損害査定は分かりにくいという声もあることから、損害査定の簡素化・迅速化の観点からも、メリットがあるだろう。
      •  家財に関する今後の検討の際には、震度に応じた定額の保険金を支払うといった簡素化の方向か、家財の被害の出方に基づく精緻化の方向かという議論にもなるだろう。
    •  その他、日本損害保険協会から、次の発言があった。
      •  現行制度において1981年6月以降に新築された建物はすべて、建築年割引の対象になるにも関わらず、割引適用にかかる立証責任は契約者にあるところ、その立証が契約者の負担となっている。
      •  建築年割引については耐震化推進にかかる役割を果たしてきていると認識しており、契約者に負担をかけることなく適用できるよう当局と検討を進めたい。
      •  なお、新たな割引制度を作るのであれば、契約者に負担をかけることなく適用できるという観点で議論いただきたい。
    •  これに対して委員から、建築年割引はその役割を終えており、廃止しても良いのではないかという議論があるほか、デジタルガバメントの観点からは、消費者の利便性のためにも、確認書類のデジタル化や標準化を進める必要があるのではないかという議論がありうるとの発言があった。



以上