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21世紀の我が国経済の持続的成長を可能とするための金融面の諸課題について(概要)

21世紀の我が国経済の持続的成長を可能とするための
金融面の諸課題について(概要)

~企業金融を中心とした現状分析と検討~



.基本的問題意識

 21世紀の我が国経済が持続的成長を達成するためには、ベンチャー企業に代表される将来の成長力のある企業が積極的に新規投資を行い、成熟企業が経営資源の再構築を進める等、我が国企業が成長段階毎に事業活動の活性化、収益性の向上等を図っていくことが求められる。
 このためには、我が国の金融資産が、企業に対し、その成長段階や資金ニーズ等により異なる資金ニーズやリスクに応じて円滑に供給される必要がある。
 この21世紀の我が国経済の持続的成長を可能とするための「資金の流れ」の構築について、特に企業金融の側面から現状を分析し、検討課題を明らかにする。

2.全体構成

(1)

 承前(現状分析)
~報告書I「家計の資産選択に関する分析」及びII「企業金融を巡る現状分析」~

 金融システム改革法の施行等の累次の制度改正により、我が国の金融システムは、制度的には相当程度整備されたと認識されている。さらに、金融取引を幅広く対象とした横断的法制(いわゆる「日本版金融サービス法」)の整備が行われている。
 こうした制度整備が進みつつある我が国の金融資本市場において、我が国の金融資産が、企業に対し、その成長段階や事業内容等により異なる資金ニーズやリスクに応じて円滑に供給されているのかどうかという観点から、我が国の「資金の流れ」の現状を分析することとする。
 このため、我が国の「資金の流れ」における最大の資金の出し手である家計と受け手の側である企業の各々に関して、現状分析を行う。
 現状分析に際しては、市場関係者等の間で指摘されている以下の2点が、本報告書の基本的問題意識の検討にあたって重要と考えられるので、これらを現状分析の視点として、検討課題等を抽出する。

)家計に関する現状分析の視点
 「日本人には、有価証券等の元本保証性のない金融商品への投資リスクを回避する国民性があるのではないか。そして、そのため、家計が直接・間接に株式・債券等に投資し、企業(特に事業のリスクの高いベンチャー企業)に対し資本市場を通じ資金供給を行うという資金の流れに制約が存在するのではないか」との指摘がある。こうした国民性に関する議論をどう考え、我が国家計の有価証券投資による資本市場を通じた企業への資金供給という「資金の流れ」の現状についてどのように認識すべきか、将来の課題は何か。
)企業に関する現状分析の視点
 「我が国の企業金融は、実態においては、まだまだ過度のメインバンク依存型から脱却できていない。未公開企業に対する『貸し渋り』やベンチャーキャピタルの不足はその現れであるが、企業の側にも金融機関融資への期待が相変わらず強い。また、公開企業においても、株式の持合い解消やM&A等の進展が見られるが、それらも、現下の危機対策としての短期的・表層的な現象にとどまるのではないか」との指摘があるが、我が国の公開企業・未公開企業は、企業金融の現状についてどのように認識しているのか、将来の課題は何か。

(2)

 21世紀の我が国経済の持続的成長を可能とするための企業金融の検討
~報告書III「企業の成長段階、資金ニーズ等に応じた円滑なファイナンスのための課題」~


)21世紀の我が国経済社会においては、少子高齢化、高度情報化等の様々な環境変化により構造変革が進展するものと考えられる。こうした中で、経済活動を支える我が国企業も、経済社会の構造変革に対応し、その事業活動・経営形態等の全般にわたり、多様な見直しを進めていくものと考えられる。
 こうした企業の構造変革に対応した新規事業への進出や経営資源の見直し等が円滑に進展し、事業活動の活性化等を通じて経済の持続的成長を可能とするよう、我が国家計の金融資産が企業毎に異なる資金ニーズやリスクに応じて円滑に供給される必要がある。したがって、経済社会の構造変革の下で、我が国の家計から企業に向けての「資金の流れ」の検討は、企業のニーズ等に対応してきめ細かく行われる必要があるものと考えられる。
 したがって、本報告書のI・IIの現状分析から抽出された諸課題については、構造変化に対応する企業の側を中心的視点として、以下に示すとおり、企業毎に異なる資金ニーズやリスクに応じて分析・検討を行う。

 第一に、企業の成長段階、株式の公開・非公開等に応じて、企業金融の課題は異なり、各々のグループ毎に検討課題を分析する必要がある。
 すなわち、事業の勃興期で事業内容のリスクが大きい未公開企業の場合には、資金の出し手と企業の間における情報の非対称性が大きく、これを如何に克服していくかという観点から、金融機関の融資やベンチャーキャピタルの役割等が検討される必要がある。 
 これに対し、公開企業の場合には、既に資金の出し手に対し資本市場等において情報が開示されており、確立された資金調達手段の効率性を如何に高めていくかという観点から、金融資本市場の役割等が検討される必要がある。

 第二に、企業の期待成長力に応じて、企業金融の課題は異なり、各々のグループ毎に検討課題を分析することが適当である。
 経済の様々の構造変化の中で、企業の期待成長力には大きな差異があり、未公開企業においても、IT関連企業などは、将来の期待成長力が大きく資金需要が強い。こうした企業の事業内容については、単一の金融機関が成長性やリスクを判断することには限界があり、資本市場を通じ多数の者がリスク審査を行い、リスク負担を分散しつつ資金供給を行うための課題を検討することが求められる。これに対し、将来の期待成長力の小さい企業については、事業の効率化のインセンティブを与えつつ、将来のキャッシュフローに応じた事業資金を供給することが企業金融の役割であり、金融機関のリスク審査のあり方や企業の資金調達手段の多様化に向けての課題の検討が求められる。
 また、公開企業においても、企業の成長段階として成熟期に入り期待成長力が小さい企業の金融機関・仲介業者に対するニーズは、新規資金の供給から、経営資源の再構築等を進めるための金融サービスの提供に移行するものと考えられる。したがって、期待成長力が引き続き大きく、強い資金需要を有する企業とは異なる課題の検討が求められる。



)このため、「企業の成長段階、資金ニーズ等に応じた円滑なファイナンスのための課題」については、
 期待成長力が小さく資金調達の拡大を求めていない未公開企業に対するファイナンスの論点
 期待成長力が大きく資金調達需要が強い未公開企業に対するファイナンスの論点
 成長期の公開企業に対するファイナンスの論点
 成熟企業における新たな金融手法の活用に関する論点
の4つの区分で検討を行うこととする。


)本報告書の諸課題の検討は、上記の4つの企業区分毎に行われるが、本報告書は、21世紀の我が国経済の持続的成長を維持するため、企業に対する「資金の流れ」がいかにあるべきかを基本的問題意識としている。
 この企業に対する「資金の流れ」は、根源的には、資金の出し手と受け手との間において、透明で公正な枠組みの下で、どのように、「キャッシュフローに対する請求権」と「資金の受け手の行動に関与する権利」を組み合わせて構築していくかという点に帰着していくものと考えられる。
 したがって、本報告書においては、全体を通じ、以下の視点をもって「資金の流れ」の基礎的研究を行うこととする。
i) 第一の視点:既存の手法の枠にとらわれない「キャッシュフローに対する請求権」と「資金の受け手の行動に関与する権利」の組み合わせに対する問題意識
 企業の成長段階や事業内容により、そのリスクが多様化するとともに、機関投資家等の資産運用手法も高度化する中で、単純に「金融機関の融資中心の金融システムから、金融機関の融資と株式・債券による資金調達が両立したシステムへ」といった既存の金融手法を比較するのみでは有効な分析は困難となりつつある。すなわち、発達しつつある投資信託やABS等の「市場型間接金融」を含めた分析が求められるとともに、ベンチャーキャピタル等については単に出資を行うだけでなく人的資源・経営ノウハウ等の貢献を含めた金融手法としてこれを検討していく必要がある。
 したがって、本報告書では、既存の枠組みにとどまらず、「キャッシュフローに対する請求権」と「資金の受け手の行動に関与する権利」の組み合わせの在り方として、各々の金融手法に更なる課題はないのか、という問題意識を持って検討を行うこととする。例えば、期待成長力の大きい未公開企業のリスクに対応した資金供給にあたっては、多数の者がリスク資産・リスク負担を分散する資本市場を通じたファイナンスが有効であるが、さらに、そのファイナンスの手法についても、「普通株」といった「キャッシュフローに対する請求権」と「資金の受け手の行動に関与する権利」の既存の組み合わせの枠にとらわれず、何が資金の出し手と受け手にとって最適であるかという根源的な観点も含めて検討していくこととしたい。
ii) 第二の視点:ファイナンスと一体としてのコーポレートガバナンスのあり方
 ファイナンスは、単に相手方にキャッシュを供給するだけでなく、相手方の行動にどう関与していくかという問題を含んでいる。企業の成長段階、資金ニーズ毎にきめ細かく企業金融のあり方を検討すると、各々の企業毎に資金調達者とのコーポレートガバナンス上の関係をどう考えるかという視点は多岐にわたる。例えば、ベンチャーキャピタルにあっては、ベンチャー企業のオーナー性にかんがみ、どのような支配権の分配が適切なのか、また、成熟企業の経営資源再構築のための金融手法の活用にあたり、コーポレートガバナンス上の枠組みが制約になることはないか、といった点である。
 第一の視点に基づき、「キャッシュフローに対する請求権」と「資金の受け手の行動に関与する権利」の最適な組み合わせを構築する観点から、企業金融を検討することは、コーポレートガバナンスのあり方も視野に入れることとなる。
iii) 第三の視点:公的な主体に期待される役割
 i)、ii)の視点を含め、我が国経済の持続的発展を可能とするための金融面の課題を検討するにあたり、公的主体に何が期待されているかを視点として持ち続けることが適当である。


.分析の概要
 今回の分析は、21世紀の我が国経済の持続的成長を可能とするための、我が国の金融資産が企業に供給される「資金の流れ」の構築について、特に、企業金融の側面から現状を分析し、検討課題を明らかにした。

(1)

 全体として、事務局の行った各種調査を含め、以下の課題が指摘された。


.我が国家計の資産選択に関する分析
 [調査1]において、我が国家計の金融資産構成について、戦前には有価証券の割合が低くなかったと考えられることや、家計の実物資産を含めた資産保有状況・資産の価格変動等の日米比較等を考慮すれば、「日本人には、有価証券等の元本保証性のない金融商品の保有を回避する国民性がある。それが、家計からの資本市場を通じた資金供給チャネルの拡大の制約となる」と捉えることは必ずしも適当ではなく、種々の制度改正等により、これまで我が国家計の有価証券等の保有を抑制してきた要因が緩和される方向に変化しつつあるとの分析が示された。
 さらに、今後とも、投資家が企業の事業内容等に基づくリターンの不確実性を正確に把握したうえで有価証券等への投資を行い得るよう、個人投資家保護のための所要の法制度の整備、リテール販売の一層の活性化、金融商品のみならず市場経済の基本原則にさかのぼった個人投資家等の教育充実が重要である。また、企業金融の問題としては、本質的に、投資対象として株式・債券等そのものの魅力が増すことが重要であり、企業側の投資価値の向上及び透明性の確保とコーポレートガバナンスの充実に向けて、企業側の実態分析により課題の抽出を行う必要性があるとされた。

II

.企業金融を巡る現状分析
 [調査2]において、我が国公開企業のファイナンスシステムとコーポレートガバナンスに関するアンケート調査を基に現状分析が明らかにされた。
 その結果、各企業とも、一般論として問われた場合には、資本市場からの資金調達の拡大、メインバンクの役割の縮小、株式持合いの解消等を推進し、併せて、これらを踏まえた金融資本市場における自企業の投資価値重視の経営姿勢への転換を図るといった認識が多数を占める。しかし、各社ベースの認識や対応としては、問題意識等は広範に有しつつも、現時点では、具体的な資金調達構造の多様化等の経営実態の改革には必ずしも至っていないとの指摘がなされた。
 さらに、今後の各企業の具体的な資金調達構造の多様化等の経営改革の推進に関しては、市場インフラの問題の分析が求められるとともに、各企業が実際に経営改革を行うに当たっての制度上の課題の有無について検討すべきとの指摘がなされた。
 [調査3]において、店頭登録企業の中で社歴・公開歴の短い企業等のアンケート調査を基に現状分析が明らかにされた。その結果、これらの企業は社歴も短く成長性が高いことから、資金調達の多様化、特に資本市場からの資金調達の拡大に向けて強いニーズが示されたが、金融機関のリスク審査機能等が不十分との認識も示された。
 さらに、今後の課題としては、ベンチャーキャピタル等の充実のほか、ベンチャーキャピタルの出資や早期公開を実のあるものにするための企業側のディスクロージャーの充実、ガバナンスのあり方の検討等が指摘された。

III

.企業の成長段階、資金ニーズ等に応じた円滑なファイナンスのための課題
 I、IIの分析を基に、以下の4つの企業区分毎に、企業の成長段階等と期待成長力に応じてきめ細かく課題を検討した。

1

 期待成長力が小さく資金調達の拡大を求めていない未公開企業
 中小企業全般の財務体質について民間金融機関の借入金に対する依存度合が極めて高く財務基盤の改善が求められること、また、[調査4]において、中小企業へのアンケートにより、「私募債」等の認知度の低さが示された。
 そして、今後の課題としては、ミドルリスクの審査機能を有する金融機関の育成、私募債等による資金調達のための仲介者等の育成(特に地方)、インターネットファイナンスなどのインフラ整備、ビジネスプログラムの適正化のためのレビュー制度の確立、会計士の裾野の拡大等が重要な課題として指摘された。
 また、本質的に、こうした企業に対するファイナンスは、資金供給の観点のみならず、企業側の財務構造の改革、ひいてはガバナンスの充実という観点を含めて整備していく必要性が指摘された。

2

 期待成長力が大きく資本市場からの資金需要の強い未公開企業
 これら企業へのファイナンスは、金融機関による融資のみではリスク審査・リスク負担の上で限界があり、多数の者がリスク審査・リスク負担を行う資本市場からのファイナンス、特に人的資源、ノウハウ等の供給も含めたベンチャーキャピタルが重要な位置づけを担うことが指摘され、ベンチャーキャピタルのファイナンスが資金面に加え、人的資源等も含めて好循環を生むための環境整備が重要とされた。
 そして、公開を可能とする市場の整備にとどまらず、[調査5]では市場関係者より、四半期ディスクロージャーの実効性確保(レビュー制度の確立等)、ベンチャーキャピタリスト育成のための教育プログラム、未公開公募引受証券会社育成のための規制緩和、未公開株式市場の流動性を確保するためのインフラ整備、株式の最低額面価額の引下げ等が課題として指摘された。
 さらに、本質的な課題として、創業者の自らの技術力・オーナー性へのこだわりと公開へのインセンティブをどうバランスさせるかに関し、個々の創業者のニーズを満たすことができるようなオーダーメイドな投資契約(ガバナンス上の関係の多様性等)を可能とする金融技術、会社法制の本質的な検討等が重要な課題として指摘された。
 また、この点に関し、現下のベンチャー企業投資にあっては、こうした本質的な投資契約関係を構築する以前に、ベンチャーキャピタルや市場関係者がベンチャー企業の財務・経営を見極め選別していくという基本が欠けているのではないかとの指摘があった。市場関係者の間からも、ベンチャーキャピタルそのもののガバナンスの向上、投資にあたってベンチャー企業にレビューや任意監査を受けさせる自主規制を求める意見が寄せられている点に留意する必要がある。

3

 成長期の公開企業
 [調査6]において、公開企業は、直接の資金調達コストのみならず、機会費用面の資金調達コストを市場インフラに関する問題として指摘しているとのアンケート調査分析が示された。
 このため、機会費用を含めた資金調達コスト低減の観点から、現在進められている上場・店頭公開手続きの見直しを踏まえ、流動性の程度に応じた売買システムの充実、幅広い資本市場の決済システムの国際的競争力の確保等が重要な課題として指摘された。

4

 成熟企業における新たな金融手法の活用
 成熟企業においては、M&A手法の組み合わせ等により、経営資源の再構築を図るニーズが高まりつつあり、[調査7]において我が国のM&A件数の増加等が示された。
 さらに、M&A等の手法を活用した経営資源の再構築による成長性ある事業への資源(資金)の配分のための課題の抽出のため、[調査8]において東証上場企業の実態分析を行った。その結果、近時のM&A等が外国人持株比率が高い企業で多く行われており、実施企業のROEも高いとの調査が明らかにされ、資本市場における投資価値の向上の観点からM&A等の手法を活用した経営資源の再構築が進展している可能性が指摘された。さらに、個別企業のヒアリングを通じ、今後の成熟企業の経営資源再構築のためのM&A手法の活用にあたっては、投資銀行等の仲介業者の裾野の拡大、社員の移動を円滑にするための雇用・年金制度等の検討といった課題に加え、経営改革にあたっての企業のガバナンス面の法制度のあり方を検討する必要があるとの指摘があった。
 特に、M&A等に不可欠の株主総会特別決議運営について、[調査9]において、海外機関投資家の議決権行使の物理的制約等が示され、制度面の検討課題として、決議対象事項の在り方、定足数の在り方、総会招集通知早期送付のための制度面の検討とノンアクションレターの活用、無議決権株式の活用といった指摘がなされ、その他にも、企業の経営改革にあたっての商法、企業会計及び税法上の取扱いの予測可能性の確保、郵便貯金・年金積立金の株式運用受託機関における議決権行使の在り方等が重要な課題として指摘された。

(2)

1

 事務局調査は、4つの企業区分毎に、企業金融の観点を中心に、機能面に着目した実態分析を展開した。
 しかしながら、こうした企業区分毎に抽出された課題は、当然のことながら、他の企業区分においても程度の差はあれ問題となるものである。例えば、M&A等の活用に係るガバナンスの問題は、未公開企業のIPOにおいても生じるものであり、ミドルリスクの融資機能は成熟企業が資源再配分を行った新規企業の立上げに際しても期待される。
 本報告書の分析は、企業金融の機能面において求められる課題の分析にあたり、各機能の必要性の高い領域を中心に検討を行ったものであり、企業区分毎に実態として課題が不連続になることを意味しているものではない。
2 他方、本報告書で取り上げた諸課題を金融市場の機能、特に間接金融の機能という側面から考えれば、我が国の金融市場において、企業のリスクとリターンに対応した資金仲介機能等が十分に発揮されているかどうかという視点からも考察される。
 本報告書で抽出された課題について、間接金融の機能という側面から問題を捉えれば、
 融資対象のリスクに対応した融資が行われ、期待されるリスクとリターンの関係が実現しているのか。(成熟企業に対しローリスクに対応した融資が行われているか。→期待成長力の小さい未公開企業に対しミドルリスクに対応した融資機能が整備されているか。→期待成長力の大きい未公開企業に対し企業のリスクに対応した融資はモニタリングのコスト・インセンティブとの関係でどこまで可能か。)
 金融機関の融資という資金仲介手段が機能するか否かの限界的な局面において他の金融サービスによるファイナンスが有効な資金仲介機能を果たしているか。(成熟企業:資本市場の制約のために機動的な資金調達が困難となり、機会費用が高くなっていないか。それにより、間接金融に引き続き依拠していないか。→期待成長力の小さい未公開企業:財務基盤を整備する観点から資本市場からの資金調達との両立が図られているのか。→期待成長力の大きい未公開企業:リスクに対応したガバナンスを伴う金融サービスを提供するノウハウ・体制は整っているのか。)
という金融市場における資金仲介機能という一つの視点からの検討が行われることとなる。今回の分析では、4つの企業区分毎に、企業の側からこれらの課題を分析したが、金融市場、とりわけ間接金融の機能という側面からは、金融市場におけるリスクとリターンに対応した資金仲介機能等の有効な発揮という点が中心的課題であるとも考えられる。
3 しかし、こうした21世紀の金融市場の機能について、あり得べき姿の構築という観点からの調査分析が本研究会の基本テーマであるとしても、現実との乖離についても留意が必要である。
 研究会では、一つの視点として、現状の金融機関の融資にあたって、リスクとリターンの関係は、リスクに対しリターンが「寝た姿になっている」(リスクに対応したリターンが実現されていない)のではないかという指摘があった。
 更に、金融機関の融資において正常なリスクとリターンの関係が実現していないことにより、
 本来資本市場においてリスクに対応したリターンを求められるべき企業に対して、適切なリターンを求められない結果として、これら企業のビジネスプランの未成熟等を招いていないか。
 金融機関による適切な資源配分を阻害していないか、ひいては、家計の資産選択にも影響を与えていないか。
といった指摘も見られた。
 そして、この問題は、
i) 企業の側がリスクとリターンの関係を正常化し、これに対応したファイナンスが切れ目なく行われるような金融市場、企業金融の構造を構築すべきというのが本質であり、具体的には、企業の側では投資価値の向上、金融資本市場については、ミドルリスクの審査機能を有する金融機関やベンチャーキャピタルの育成及びガバナンスと一体となった基本インフラの検討等が求められるのであるとしても、
ii) 現実のリスクとリターンの関係を可能としている要因として、
 金融システム不安に対応した金融機関に対する種々の施策
 ローリターンでもファイナンスを可能とする流動性の存在
という現下の緊急避難的な対応があるのではないか、そしてその点について留意が必要ではないか、との指摘があった。
4 このように、今回の事務局分析は、あるべき姿に関する企業金融の側面からの調査が中心であるが、その中でも、金融市場、特に金融機関の機能に対し、種々の問題提起があったところである。
 これらについては、上記のように、政府によるリスク負担の代行の拡大により、歪められている金融のリスク配分・価格機能を回復するという課題が改めて認識される必要がある。

(3)

 今回の事務局調査では、全体の分析の承前として、これまで我が国家計の金融資産選択にあたり、有価証券等への投資を抑制してきた構造的要因が減少してきているとの分析が示されたが、今後の21世紀における我が国家計の金融資産選択にあたっては、
i) 年金・社会保障制度と若年層の年金勘定の動向
ii) 一層魅力ある商品としての国債の在り方
iii) ペイオフ解禁等のセーフティーネットの在り方の変化
等の重要な環境変化が予想される。
 こうしたことから、21世紀における我が国家計の金融資産選択に関し、我が国経済の持続的成長を可能とする「資金の流れ」の観点からの今後の考察が望まれる。
 また、本報告書において明らかにされた現状認識と課題の中には、ミドルリスクの審査機能を有する金融機関の育成、企業の技術力を評価できるM&A等仲介業者の育成、地方企業や未公開企業の公募債引受等を行い得る引受業者の育成といった、金融機関・仲介者等に係る論点も抽出された。これら金融機関そのものに対する課題は、資金仲介機能のみならず、リスク審査機能、流動性管理機能、情報提供機能といった多様な機能が、今後の金融機関に期待されることを示している。すなわち今後の金融業務の担い手については、既存の業態毎の業務や機能を前提とするのではなく、金融の機能面に着目しつつ、人材育成を含めた我が国金融サービス業はどうあるべきかという視点の下で、その充実が求められているものと考えられる。

(4)

1

 本報告書は、基本的視点として、「既存の手法の枠にとらわれない『キャッシュフローに対する請求権』と『資金の受け手の行動に関与する権利』の組合せに対する問題意識」の下に、「ファイナンスと一体としてのコーポレートガバナンスの在り方」を検討してきた。この視点については、実態分析から抽出された企業の問題意識において、企業の成長段階等に応じて「キャッシュフローに対する請求権」と「資金の受け手の行動に関与する権利」の柔軟な組み合わせが求められる必要がある、という一つの切り口が種々の側面で散見された、具体的には、
 公開歴の短い企業の「ガバナンス諸制度の機能の十分性とコスト間のトレードオフ」に対する問題意識([調査3])
 ベンチャーキャピタル出資に際してのガバナンスの在り方の検討の必要性、特に、オーダーメイドの投資契約の開発と会社法制の在り方([調査5])
 急成長を遂げる企業の株式流動性の確保のための株式最低額面価額引下げの必要性([調査5])
 成熟企業のM&A等に際しての株主総会システムの在り方の検討の必要性([調査8・9])
といった問題提起があった。
 これらの問題提起については、我が国金融機関が、2つの権利の柔軟な組み合わせを可能とする金融手法の開発能力をまずもって向上させるべきであるが、さらに、この問題は、本質的には、我が国企業が内外からの出資者の下において経営変革を行っていくうえで我が国会社法制が果たして使いやすいものであるのか、という問いかけが行われているものと理解できよう。
2 我が国企業の事業活動や資金調達等が一層国際化する中で、我が国の会社法制、ひいてはコーポレートガバナンスは、これまで、ともすれば軽視されてきたと言われる株主価値を重視する方向で見直されていくとの認識については研究会で一致が見られた。
 しかし、会社法制、ひいてはコーポレートガバナンスの枠組みは社会的経済的基盤であり、単純に他の異なる枠組みを採用すればよいというものでなく、株主等の投資価値といった側面の他、労働市場の問題や人的資源等の問題も含め、その在り方について考察される必要がある。
 このため、今後のコーポレートガバナンスの枠組みに関しては、
i) コーポレートガバナンスに関しては、株主総会や取締役会・監査役等の様々の機能が相互に補完しあい、株主、従業員、経営者、取引者といったさまざまなステークホルダーのバランスにおいて、最適の枠組みが構築されるものである。今後の我が国においては、企業の業種や発展段階等に応じて、最適なコーポレートガバナンスの枠組みも多様なものが求められるのではないか
ii) 最適な資源配分を達成する観点から、資本市場における資金移動のみならず、労働市場において雇用の円滑な移動が可能となるよう、これら市場の整備、社内教育・人材育成の再検討がまずもって必要ではないか。そうした基盤の下に、最適なコーポレートガバナンスが構築されていくのではないか。
といった指摘がなされた。
 こうした様々の視点の中で、我が国として、21世紀に向けてこれまでの基本法制、コーポレートガバナンスの枠組みを所与のものとするのではなく、自ら自律的に変革に向けた解答を探していくことが求められ、本報告書において中心とした企業の実態分析の中で、「海外の焼き直しでなく、内外投資家の意識の高まりの中で、より広いガバナンスの在り方を模索したい」という企業自らの問題意識が、先に述べた「キャッシュフローに対する請求権」と「資金の受け手の行動に関与する権利」の柔軟な組合せという論点につながっていることは、自律的な枠組みの構築に向けて論議が始まっていることを示していると考える。例えば、事務局のヒアリングに際してのMBO実施企業担当者の「単純に経営指標重視で人員削減を行うためにM&Aを行っている訳ではない。ただ、優れた技術力と人材を有する分野でも、当社にあっては十分な資源を投入できないのでMBOを進めることはプラスであるはず。しかし、その際、社員の中には、当社の肩書を外すこと、年金の受給額が減少することに大きな抵抗がある。この点は当社も日本企業として長い間培った経営資源・人的資源であり、安易に切り捨てるのではなく、どういうやり方がベストなのか探求したい」との発言は、こうした問題意識を如実に示すものと考えられる。

(5)

 このように、本報告書は、投資家を企業につなぐうえでの全てのインフラが国際的に見ても使いやすく、かつ、単なる外国の焼き直しでなく、我が国の社会経済環境、基本法制等の在り方を自律的に探求した結果として、21世紀の投資家と企業のニーズに合致したものである必要性を様々な側面から抽出したことに意義を有するものと考える。この金融資本市場、基本法制等の全てのインフラに対し、ファイナンスとコーポレートガバナンスの一体となった総合的な検討が求められていることが、公的主体の金融制度に対する関与の在り方として重要である。すなわち、ファイナンスとコーポレートガバナンスに関する我が国の基本制度については、現下の危機対応を終えた後の21世紀に向けた資金の流れの構築において、個々の緊急対応的対処でない総合的な検討が求められているものと考えられる。