主要な公的債務の現状とその管理を巡る課題について
~より効率的な公的デット・マネージメントの確立を目指して~
21世紀の資金の流れの構造変革に関する研究会
平成12年6月
目 次
はじめに (1)国債の現状 (2)特別会計と特殊法人の債務 (3)信用保証 (4)国と地方の債務とその関係 (5)公的年金 (1)公的債務の総合的把握 (2)総合的把握の困難性 (3)資金の流れを把握する視点 |
90年代において、我が国の資金の流れには大きな構造変化が生じ、伝統的な資金不足主体であった法人企業部門が資金余剰主体に転じる一方で、これに代わり、公共部門が最大の資金不足主体となっている。これは、言うまでもなくバブル崩壊後の景気の低迷の中、設備投資抑制やバランスシート調整に伴う企業需資の減退の一方で、政府が累次の経済対策や税収の落込みに伴う資金の調達を進めた結果である。この結果、既に平成11年末において一般政府ベースで見た負債残高は600兆円超と名目GDPを上回るものとなっている。
もとより、このような言わば緊急避難的な経済財政運営を何時までも続けることは許されず、構造改革の推進等により経済が民需主導の本格的な回復軌道に乗った段階で、速やかに、我が国財政構造を総合的に改革していくことが必要である。しかしながら、経済の回復と厳しい財政改革努力を前提としても、ここ当面、公的部門の負債残高が急減すると考えることは、余りに楽観的に過ぎると言えよう。また、今後は財政投融資改革に伴う財投債の発行など従来なかった形の公的債務が登場する一方、少子・高齢化の進展に伴い、公的年金の将来債務の問題も視野に入れて考える必要性は従来以上に高まっている。
このように、来るべき21世紀の初頭においては、巨額の公的債務を抱えた経済財政運営を想定せざるを得ず、フローの資金調達はもとより、ストックとしての公的債務残高を、全体としての資金の流れの動向、マクロ、ミクロの経済政策等と整合性をとりつつ、如何に効率的に管理していくかが大きな課題となっている。
本報告書においては、このような観点から、まず第1部において、公的部門の債務としてどこまでを視野に入れておくべきかについて、やや体系性を欠くことを恐れず、公的債務をなるべく広げて考えるとの立場に立って、いわば鳥瞰図的に現状をまとめる作業を行っている。第2部においては、このうち中核をなす国債について議論を集中し、効率的な国債管理政策を展開していくに当たっての基本的な方向性について検討を行っている。第3部においては、再び広義の公的債務全体について今後総合的な管理を確立していくに当たっての基本的な考え方について述べている。
(1)国債の現状
公債残高の累増 我が国では、戦後復興から高度成長期にかけて、非募債主義のもと、公債発行は行われていなかったが、昭和40年度に、不況を契機として0.2兆円の公債が発行されて以来、連年の公債発行により、公債残高は増加の一途を辿っている。また、昭和54年度に50兆円、昭和58年度に100兆円を超過した公債残高は、バブル期の税収増加等を背景に、その増加スピードが緩やかになることもあったが、平成6年度には200兆円を超過し、平成11年度には300兆円を超過する見込みであるなど、このところ公債残高の増加スピードも加速傾向にあり、平成12年度末の公債残高は364兆円程度になるものと見込まれている。 また、借換債発行額53.3兆円を含めて平成12年度の国債発行額も、合計85.9兆円と過去最高になっている。 |
公債残高 | 利払費 | ||
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昭和54年度 | 56.3兆円 | (50兆円を超過) | 3.3兆円 |
昭和58年度 | 109.7兆円 | (100兆円を超過) | 7.7兆円 |
昭和62年度 | 151.8兆円 | (150兆円を超過) | 10.4兆円 |
平成 6年度 | 206.6兆円 | (200兆円を超過) | 10.7兆円 |
平成 9年度 | 258.0兆円 | (250兆円を超過) | 10.6兆円 |
平成11年度 | 334.6兆円 | (300兆円を超過) | 10.9兆円 |
平成12年度 | 364兆円程度 | (350兆円を超過) | 10.7兆円 |
(注) | 平成9年度までは実績、平成11年度は2次補正後見込み、平成12年度は当初予算における見込み。 |
国債費の増大 以上のように公債残高が累増する中で、近年、利払費の増加は抑制されている。例えば、昭和54年度から昭和62年度にかけて、公債残高が56.3兆円から151.8兆円に増加(3倍弱)する中で、利払費は3.3兆円から10.4兆円に増加(3倍強)したが、昭和62年度から平成11年度にかけては、公債残高が2倍以上(平成11年度末の公債残高見込みは334.6兆円)となる一方で、利払費はほぼ同額(平成11年度の利払費は10.9兆円)となっている。このように、利払費が抑制されている背景には、近年、景気の低迷等を背景として金利が低下局面にあったことや、中短期債の増発等により国債の償還期間が中期的に見れば短期化していること(平成12年度の市中発行分(79.1兆円)の平均償還期間は4年11ヶ月)があると考えられる。 ただし、今後、金利の動向等によっては、状況が一変し、利払費及び国債費が急速に増加する恐れがあることに留意する必要がある。このような金利面からの国債費増加圧力は、公債残高の急増と相まって、一般会計に占める一般歳出の割合が抑制される中、一般会計を圧迫し、財政の硬直化を一層深刻化させる要因となる。 急速に進展する人口の少子・高齢化等、今後の社会経済情勢の変化に財政が弾力的に対応していくためには、引き続き健全な財政運営を確保しつつ、国債費が他の政策的経費を圧迫しないような財政体質をつくりあげていくことが基本的な課題である。 |
一層効率的な国債管理政策の必要性 以上のように公債残高が累増していることを踏まえれば、今後当面の間は、毎年度、借換債を含め、相当程度の国債発行が続く可能性が高いものと考えられる。また、財政投融資改革に伴い、平成13年度からは、財政投融資の財源調達のために発行される国債である、いわゆる「財投債」の発行がこれに加わってくる予定であることにも留意する必要がある。従って、今後は、財投債が発行されることも踏まえ、国債の大量発行時代の中で、より一層効率的な国債管理政策を実施していくことが重要な課題となっている。 |
特別会計についての概観
(ア) | 制度的側面 特別会計は、財政法により、国が、 | |
(A) | 特定の事業を行う場合 | |
(B) | 特定の資金を保有してその運用を行う場合 | |
(C) | その他特定の歳入をもって特定の歳出に充て、一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合 | |
に限り、法律をもって設置することとされている。 このように、特別会計は、その創設に際して、もともと歳入及び歳出の範囲が限定されているため、結果的に、会計外から何らかの資金調達を行うことが必要となることが多い。 そのため、各特別会計の性格や事情などを踏まえ、その必要性に応じて、外部からの資金調達手段としての公債発行あるいは借入れを行うことができる旨の規定が、各特別会計法などに置かれている。 当該規定がある場合に限り、公債発行あるいは借入れといった会計外からの資金調達が可能となるが、その場合でも、外部調達する資金の使途については、各特別会計の性格や事情に応じ、それぞれの法律において何らかの制限が加えられているのが通常である。 例えば、 | ||
(A) | 事業を実施する特別会計において行う施設整備など、資産性のあるものの財源に充当する | |
(B) | 保険を行う特別会計において長期的には収支均衡が予定されているものの、不測の事故等によって一時的に生ずる保険給付の財源不足に対応する | |
などが、これにあたる。 また、一時的な資金不足が生じた場合における資金繰りの必要性の観点から、政府短期証券(融通証券)の発行あるいは一時借入れを行うことができる旨の規定が置かれている特別会計もある。 政府短期証券(融通証券)の発行あるいは一時借入れについては、償還期限について、年度内あるいは1年内という制約が加えられており、それをもって借入金と法制上の区別が行われている。 現在、総数38の特別会計のうち、公債発行の可能な特別会計は6会計、借入金が可能な特別会計は31会計、政府短期証券(融通証券)の発行が可能な特別会計は7会計、一時借入れが可能な特別会計は31会計となっている。 なお、国が特別会計により行っている事業の中には、郵便貯金や簡易生命保険のように、貯金の払戻しや利子・保険金等の支払いについて、国が保証することを法律上明記し、貸借対照表においては、貯金や責任準備金という項目で負債に区分している事例があるが、そのような明文の規定の有無にかかわらず、負担する会計の違いはあっても、特別会計の債務も国の債務であるのは論を俟たないところである。そのような意味からも今後全面的に自主運用に移行する郵便貯金等について、国全体としての経済政策等と整合性が確保されるとともに、安全・確実な運用がなされるよう透明性の確保等が図られる必要がある。 |
(注) | 特別会計を創設する際の制度設計において、公債発行あるいは借入れといった資金調達を想定していない会計もある。その場合には、当然のことながら、関係法律に公債発行等の規定は置かれていない。 |
(イ) | 債務の現状 平成11年3月末時点で、総数38の全特別会計について、借入金等の会計外からの資金調達の状況を概観すると、次の通りとなっている。 | ||||
(A) | 1年以上の長期の借入金について残高を有する特別会計は11会計、1年未満の短期の借入金について残高を有する特別会計は6会計となっている。このうち2会計については、1年以上の長期及び1年未満の短期の借入金の双方について残高を有する。 | ||||
(B) | 借入先は、資金運用部特別会計、簡易生命保険特別会計、民間金融機関の3種類。 | ||||
(C) | 国債整理基金特別会計が行っている公債発行は、一般会計の負担により発行した公債等の借換債のみであり、統計等においても一般会計負担に区分される普通国債の残高に含まれているため、特別会計の債務としてここで考える必要はない。政府短期証券(融通証券)については2会計が残高を有している。 | ||||
(D) | 借入金以外に、貯金・預託金などの負債を有する特別会計があるが、公的部門全体で見れば、部門間の連結で相殺されるので、ここでは借入金等の残高として整理することとする。 | ||||
(E) | 以上について、平成11年3月末の残高ベースでの計数は、次のように整理される。
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特殊法人についての概観
(ア) | 制度的側面 現在、我が国では、公団、事業団、公庫など、いわゆる特殊法人が、政府の政策遂行機関として、それぞれの法律に基づいてその業務を実施している。 特殊法人とは、総務庁によれば、「法律により直接に設立される法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立すべきものとされる法人」とされており、平成11年3月末現在、12公団、14事業団、9公庫、3金庫・特殊銀行、1営団、11特殊会社、その他31に分類され、合計81法人が特殊法人に該当する。 各特殊法人は、業務の運営、資金調達などについて、所管官庁の監督を受けているが、各特殊法人の業務やその実施の形態等の特性を踏まえ、監督官庁の関与の度合いは、必ずしも一様なものとはなっていない。 債券発行や借入れなどについても、関係法律に当該規定がある機関及び当該規定のない機関の両様があり、個別の債券発行等について主務大臣の認可の必要な機関もあれば、基本方針の認可後においては個別の債券発行等の主務大臣認可は不要である機関、債券発行の総額について国会の議決が必要となる機関など、その取扱いについては、各機関によって異なったものとなっている。 しかしながら、あえて全体を概括すれば、特殊法人が借入れ等を行う場合には、主務大臣の認可等が必要となるなど、負債の形成には相応のチェックが働くような制度となっているとの整理が可能である。 |
(イ) | 財務状況のディスクロージャー 特殊法人等の財政状況及び経営状況を明らかにするため、企業会計原則も踏まえ、特殊法人等の会計処理についての原則が、特殊法人等会計処理基準として定められている。 また、特殊法人の財務内容の公開を一層推進する観点から、財務諸表等の作成及び公開に関する所要の規定を整備するため、平成9年に「特殊法人の財務諸表等の作成及び公開の推進に関する法律」が制定された。 各特殊法人は、これらに基づき、財務諸表等の作成及び公開を行っている。 また、特殊法人の中には、法令等で定められた以上の情報公開を、自主的に行っている機関もあるなど、個別に見れば、特殊法人の財務情報のディスクロージャーは相当程度進んできている。 他方、この点に関連し、特殊法人全体を通じ、横断的にその債務を把握した公的な資料がないという問題がある。 |
(ウ) | 債務の現状 各特殊法人の財務諸表を概観すると、その資金調達方法は各特殊法人ごとに異なっており、実に多様なものとなっている。 その多様性を具体的に示すと、例えば、次のように整理できる。 | ||||
(A) | 償還期間という観点からは、1年あるいは年度を超えるような長期の資金調達と、1年以内あるいは年度内に償還する短期の資金調達、といった違いがある | ||||
(B) | 資金調達の形態という観点からは、債券の発行、借入金、といった違いがある | ||||
(C) | 債券発行については、公募債、私募債、国内債、国外債、当該発行債券に対する政府保証の有無、といった違いがある | ||||
(D) | 借入先については、民間金融機関、一般会計、特別会計、他の特殊法人、といった違いがある | ||||
前述した通り、平成11年3月末現在、全81の特殊法人の債務の状況を、横断的・総合的に把握した公的な資料はない。財政投融資計画の対象となっている特殊法人(平成11年度当初計画ベースで37特殊法人、平成11年3月末残高ベースで47特殊法人)については、財政投融資計画を通じた借入れ等(期間5年以上の資金運用部特別会計及び簡易生命保険特別会計からの借入れ等、政府保証国内債・政府保証借入金による期間5年以上の資金調達)の把握は可能となっている。 ただし、これについても、該当する特殊法人の債務の総額ではないことに留意が必要である。 平成11年3月末現在、財政投融資計画に残高を有する47特殊法人の財政投融資を通じた借入れ等の残高は、次の通り整理できる。
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政府関係金融機関について
(ア) | 制度的側面 ここでは、特殊法人のうち、金融活動を専業とするもの、すなわち国際協力銀行(平成11年10月に日本輸出入銀行と海外経済協力基金とが統合)、日本政策投資銀行(平成11年10月に日本開発銀行と北海道東北開発公庫とが統合)、国民生活金融公庫(平成11年10月に国民金融公庫と環境衛生金融公庫とが統合)、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫、住宅金融公庫、沖縄振興開発金融公庫、公営企業金融公庫、中小企業総合事業団(平成11年7月に中小企業事業団、中小企業信用保険公庫及び繊維産業構造改善事業協会が統合)の信用保険部門の2銀行、6公庫、1事業団について、政府関係金融機関として特に取り出して見ることとしたい。 政府関係金融機関は、業務の運営、資金調達などについて所管官庁の監督を受けている。監督官庁の関与の度合いは必ずしも一様なものとはなっていないものの、借入れ等を行う場合には主務大臣の認可等が要請され、負債の形成には相応のチェックが働くような制度となっていると言える。 |
(イ) | 債務の現状 各政府関係金融機関の財務諸表を概観すると、その資金調達手法は機関ごとに異なってはいるものの、ごく一部の機関を除けば、資金運用部等公的部門からの借入金がその負債科目の大半を占めている。これは、政策金融を担う政府関係金融機関が、民間金融の補完の見地から、国民経済的にみて重要で市場原理に基づく民間金融のみでは適切に対応することが困難な分野に、長期安定的な資金を適正かつ有効なコストで供給することにより、民間部門の自主性を尊重しながら経済活動を促進・奨励するという役割を担っていることによるものと言えよう。また、債券の発行や寄託金等により資金を調達している機関もある。 また、財務諸表中には、貸付金のうち将来貸倒れると見込まれるものに対する引当金が負債科目に計上されており、政府関係金融機関の場合、期末の貸付金残高の6/1000(日本政策投資銀行及び国際協力銀行(旧輸銀部分)については3/1000)以内を一括引当する手法で計上されている。今日の信用取引において貸付金の一部が貸倒れになることは経験上明らかであり、民間金融機関の動向や過去の貸倒れ実績等も参考としつつ適宜適切な引当に努めて行く必要がある。 |
(ウ) | 不良債権のディスクロージャー 政府関係金融機関の財務状況については、「特殊法人の財務諸表等の作成及び公開の推進に関する法律」に基づき、各機関において財務諸表等の作成及び公開を行っている。政府関係金融機関においては、これに加え、財務諸表では資産科目として計上している貸付金のうち、破綻先債権、延滞債権等の不良債権を「リスク管理債権」として別途公表している。 「リスク管理債権」は、現在貸付けている貸付金を延滞状況等に応じて分類したものであり、貸付金の健全性を判断し貸倒れのリスク管理を行う際の参考となる指標であることに異論はない。しかし、「リスク管理債権」は、債務者の返済能力に応じて、あるいはその他の政策的観点から返済期限を延長しているもの等(貸出条件緩和債権)も含んでいること、また、延滞に陥っていても担保等から回収を図れる債権も含むことなどから、全てが回収不能になると見込まれるわけではないことに留意が必要である。 なお、現実に貸倒れた貸付金は、貸付金償却費として損益計算書の損失科目に計上されている。 |
(エ) | 信用保証 政府関係金融機関のうち、中小企業総合事業団、日本政策投資銀行及び国際協力銀行は信用保証(債務保証)業務を行っており、債務の発生が将来の一定の条件にかかっているという意味で偶発債務と位置付けられる。中小企業総合事業団では、事故率等から算出された保険金支払いのために必要な額を中小企業信用保険準備基金として積み立てている。平成10年には、貸し渋り対策の一環として、保証要件を緩和し、かつ、保証料率が引き下げられた臨時特別の保証制度が創設された。(後述「(3)信用保証」参照)また、日本政策投資銀行、国際協力銀行については、貸付業務が大宗を占めており保証業務はごく僅かとなっている。 |
政府保証
(ア) | 政府保証の基本的考え方 現行の政府の法人に対する債務保証の実態は、極めて限定的な措置として、政府の信用を供与することにより、公共性、公益性の高い業務を行っている特殊法人等の資金調達を、低コストで行うことができるようにサポートしていると考えることができる。 「法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律」は、財政援助を制限して国庫負担の累増を防止するとともに、企業の自主的活動を促進する趣旨から、政府の債務保証を原則として禁止している。同法第3条は、「政府又は地方公共団体は、会社その他の法人の債務については、保証契約をすることができない。(以下略)」としており、この禁止の解除は、制限的でなければならないと考えられている。 このような法律の趣旨を踏まえ、政府の債務保証については、極めて限定的に行われている。具体的には、国の施策の一端を担うものとして公共性、公益性の高い業務を行うとともに、業務の執行、予算会計等について政府の監督が十分行き渡っている特殊法人等に対して、第一に、特殊法人の設置法等の法律において政府保証の根拠規定が置かれていること、第二に、各年度予算の一般会計予算総則において保証限度額についての国会の議決を得ていること、を条件に政府の債務保証が行われている。
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(イ) | 政府保証の履行 上記のように、政府の特殊法人等に対する債務保証については、債務の履行が確実に行われるよう、当該特殊法人等に対する国の監督等種々の制度的担保が置かれており、また別の見方をすれば、当該債務の履行を確保し得る場合に限って政府保証が認められていると考えることができる。このため、我が国においては、戦後付された債務保証が履行された事例はない。 |
(参考 | 1)米国においては、連邦信用計画において、連邦政府が中小企業等の民間債務者に対する債務保証を広範に行っている。その際、保証者である連邦政府は、被保証者である民間債務者から保証料を徴収しており、実際に、債務保証は履行されている。 |
(参考 | 2)旧国鉄の長期債務等の処理に際し、他の債務とともに、旧国鉄の政府保証付債務は日本国有鉄道清算事業団に承継され、さらに「日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律」に基づき、同事業団の政府保証付債務は一般会計に承継された。なお、同事業団の政府保証付債務については、昭和63年1月の閣議決定において、「事業団の債務等について本格的な処理を行うまでの間(中略)資金繰りの円滑化を図るため、事業団の長期借入金又は債券に係る債務について必要な政府保証を行う等所要の措置を講ずる」とされたため政府保証が付され、その後一般会計に承継されたと考えることができる。 |
(ウ) | 政府保証の現状 政府保証は、次のように特殊法人等の発行する債券に付されている場合(政府保証債券)と、民間金融機関からの借入金に付されている場合(政府保証借入金)がある。
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なお、特殊法人等が、政府保証が付されない形での債券発行や金融機関等からの借入れを行うことがある。このような場合には、市場においては、特殊法人等に対する国の監督等の関与の深さから、当該債務を実質的に国が保証しているのと同様であると認識され、いわゆる「暗黙の政府保証」が存在しているとの指摘もある。これに対し、このような考え方は法律的には論拠を欠いており、国民負担の増大を防ぐためにも、公法人の破産能力について法律上明文の規定を設けることにより「暗黙の政府保証」を明確に否定するとともに、債権者等を保護すべきとの意見もある。今後、特殊法人の破産能力等について検討するに当たっては、各法人の持つ公共性にも配慮すべきであって、その際には、存在意義まで踏み込んだ検討を法人ごとに行うべきとの指摘もある。 |
(注) | Fannie Mae等、米国の連邦関連機関(GSEs:government sponsored enterprises)は法律上一定の連邦政府の関与(役員の選任等)はあるものの、私的企業との位置付けであるが、その発行するAgency債は市場において米国債に次ぐ信用力を有しており、その要因として「暗黙の政府保証」をあげる市場関係者は多い。これに対し、最近、米財務省、議会からは連邦関連機関の特権(象徴的な緊急融資枠、銀行の保有額規制の不適用)を見直そうとの提案がなされている。 |
信用保証制度の概要 信用保証協会は、中小企業者が銀行等の金融機関から貸付等を受ける場合に、当該貸付金等の債務を保証することを主たる業務とする認可法人であり、現在、全国に52協会(各都道府県を単位に47協会、市を単位に5協会)存在する。信用保証協会は、地方公共団体の出捐金と金融機関等負担金等からなる基金、及び、協会の収支差額の繰り入れからなる基金準備金を基本財産として管理しており、この基本財産に、国(中小企業総合事業団)、地方公共団体等からの借入金を加えたものが、協会の資金を構成する。 また、中小企業総合事業団は、政府から出資を受け、中小企業者の債務の保証等について保険を行うとともに、信用保証協会に対し業務に必要な資金を融通する。「包括保証保険制度」により、信用保証協会による債務保証については、原則として、中小企業信用保険法等に基づき、中小企業総合事業団による「信用保険」(信用保証協会に対する再保険)に付保される(信用保証協会は中小企業総合事業団に対して信用保険料を支払う)こととなっている。 信用保証協会が保証した中小企業者の債務について、債務不履行が発生した場合、信用保証協会は、金融機関に対し、中小企業者に代わり保証債務を全額弁済(「代位弁済」)し、その後、金融機関に代わり、当該中小企業者から返済を受けていく。その際、中小企業総合事業団から信用保証協会に対し、代位弁済額(保証債務価額)の一定割合をカバーする保険金が支払われるが、残余部分は信用保証協会の負担となり、地方公共団体がこれに対し必要な財政支援を行うこととなる場合も想定される。 |
中小企業金融安定化特別保証制度の内容 中小企業等貸し渋り対策大綱(平成10年8月28日閣議決定)に基づき、平成10年10月、一般の保証に加えて、臨時異例の措置として「貸し渋り」対策のための特別の信用保証制度(「中小企業金融安定化特別保証制度」)が創設され、20兆円の信用保証枠が設けられた。この特別保証制度においては、保証要件が緩和され、制度の対象となる貸し渋りを受けている中小企業等については、いわゆる「ネガティブリスト方式」により、破産状態にある企業等一定の場合を除き、原則として保証が承諾されることとなった。また、信用保証料率も引き下げられ、例えば、普通保証の信用保証料率は0.75%以下(一般保証では平均0.95%)、無担保保証の信用保証料率は0.65%以下(一般保証では平均0.8%)とされた。 なお、20兆円の保証枠の設定に当たっては、通常の保証とは異なった事故率・代位弁済率(代位弁済額/保証承諾額)及び回収率(回収額/代位弁済額)に対する一定の前提(事故率10%、回収率50%)のもと、1兆円(=20兆円×10%×50%)の財源措置が必要になると見込んでいる。このうち8000億円が中小企業総合事業団により負担(国からの事業団出資金として手当て)、2000億円が信用保証協会により負担(国から地方に対する協会基金補助金として手当て)される。 さらに、平成11年11月の「経済新生対策」において、「建設的努力」の計画を有することを要件として、期限が平成12年3月末から1年間延長され、保証枠も10兆円(平成11年度5兆円、平成12年度5兆円)追加されることとなった。この10兆円の追加保証枠についても、一定の事故率(8%・10%)及び回収率を想定し、必要な財源措置として約4500億円を見込み、中小企業総合事業団(3600億円)及び信用保証協会(900億円)がそれぞれ負担することとされている。 特別保証制度については、上記の制度設計を前提に、協会基金補助金及び事業団出資金について、平成10年度3次補正予算及び平成11年度2次補正予算において逐次必要な財源措置を講じてきているところである。 なお、特別保証にかかる審査が不十分であり、今後、代位弁済及び信用保証協会に対する損失補填額が大幅に増加するのではないかとの懸念も存在するが、特別保証を承諾された企業の多くは信用保証の既利用先であることや、事故率の実績(制度発足後1年7ヶ月間(平成10年10月から平成12年4月)の特別保証(保証債務累計15.8兆円)の事故率は1.10%、平成10年度における信用保証協会の総保証債務残高(42.0兆円)の事故率は2.06%)等を踏まえれば、必要な財源措置を見積もる際に用いられた想定事故率(8%・10%)を実際の事故率が上回る可能性は低いと考えられること等から、現在のところ、特別保証に必要な財源措置を追加する状況にないと考えられるが、引き続き景気の動向、中小企業の経営状況等を注視していく必要がある。 |
資金の流れを把握する観点からの検討 信用保証協会が保証した債務について、債務不履行が発生した場合には、中小企業総合事業団から信用保証協会に対して保険金が支払われ(特別保証の場合、保証債務価額の80%をカバー)、残余部分は信用保証協会の損失として地方公共団体の損失補填の対象となることから、信用保証協会の保証債務の一部は、最終的には国・地方の負担になるという意味で、国・地方の債務であると考えることができる。その際、保証債務のうち最終的に国・地方が負担することとなる額は、将来の景気の動向、中小企業の経営状況等のほか、保証料率・保険料率の水準等により左右されることに留意する必要があるが、上記の通り、信用保証協会の保証については、一定の事故率及び回収率を想定し、財源措置を行ってきているところである。 なお、信用保証協会による代位弁済額のうち、中小企業総合事業団による保険金でカバーされない部分は、地方公共団体の損失補填の対象となるが、この場合国から地方に対する補助金(「協会基金補助金」)の積増し要求等につながりかねないことから、資金の流れの把握という観点からは、信用保証協会の保証債務のうち、「地方の債務」を「国の債務」と区別することは困難である、という考え方も存在する。ただし、この点に関し、1年間延長された新特別保証に係る協会基金補助金については、定額補助的な考え方に基づき、国の負担は既に交付した補助金(400億円)に限られることとされている。 |
地方債 地方債は、地方公共団体の行う借入金(平成12年度における地方債総額16.3兆円(地方債計画ベース))で、債務の償還が会計年度を越えて行われるものをいう。地方債は、証券発行又は証書借入のいずれかの形態をとり(証券発行は約3割)、銀行等の資金(「民間等資金」)のほか、資金運用部資金・簡保資金(「政府資金」)や、主に政府保証債により資金を調達している公営企業金融公庫の資金(「公営公庫資金」)によって引き受けられている。 また、地方債は、地方公共団体の普通会計に充てられ、地方公共団体の一般財源を主たる償還財源とする「普通会計債」と、地方公営企業の資金調達等に充てられ、地方公営企業の収入を主たる償還財源とする「公営企業債」に区分される。毎年度、国の予算編成作業と併せて、地方公共団体の普通会計の歳出・歳入に関する見積もりとして「地方財政計画」が策定されるが、普通会計債はこの地方財政計画における「地方債」に対応している。また、同時に普通会計債と公営企業会計債を合計した「地方債計画」が策定されている。平成12年度末の普通会計債の残高は約132兆円、公営企業債の残高は約61兆円になるものと見込まれている。 なお、地方債の発行については、現在、法令により起債対象となる経費が定められているとともに、起債にあたり自治大臣又は都道府県知事の許可を受ける等の一定の手続が設けられている(平成18年度以降、この地方債の許可制度は廃止され、地方債の発行は、原則として事前協議制に移行する予定である)。 |
地方交付税 地方交付税は、国税5税の一定割合(平成12年度においては、所得税・酒税の32%、消費税の29.5%、たばこ税の25%、法人税の35.8%)を基本として、地方(普通会計)における歳出・歳入の見積もりに基づき、その総額が決定され、国から地方公共団体に対して、各団体の「基準財政需要額」が「基準財政収入額」を超える額を基礎として、一般財源として交付される。「基準財政需要額」は、各団体が標準的な水準の行政を行うために必要な、一般財源としての財政需要を算定したものであり、「基準財政収入額」は、各団体の標準的な地方税収入等を算定したものである。地方債の元利償還財源の一部は、「基準財政需要額」に算入される。 なお、地方交付税の総額は、毎年度、「地方財政計画」が策定される際に、地方財政の収支が均衡するよう決定されるが、その際、地方交付税の総額を国税5税の一定割合から特別に増額させるため、交付税特会による借入等が行われることがある(これを「地方財政対策」という)。従来、交付税特会は、資金運用部から当該借入を行ってきたが、平成12年度においては、資金運用部の原資の状況等を踏まえ、資金運用部からの借入に加え、金利入札による民間金融機関からの借入を導入し、約8.1兆円の新規借入を行う予定である。この交付税特会の借入金については、国と地方がそれぞれ負担する(例えば、平成12年度の借入金約8.1兆円については、国と地方で折半する)こととされている。平成12年度末の交付税特会の借入金残高は、約38兆円になるものと見込まれている。 |
資金の流れを把握するという観点からの検討 地方の債務に関しては、資金の流れを把握するという観点からは、現行制度のもとでは、地方の債務の範囲や国と地方の負担関係が必ずしも確定していないことに留意する必要があると考えられる。例えば、地方債については、地方公共団体の一般財源を主たる償還財源とする「普通会計債」だけでなく、「公営企業債」も、最終的には地方公共団体の一般財源により償還が担保されたものであるのではないか、という指摘がある。また、現在の地方交付税制度等のもとでは、毎年の地方財政計画の作成を通じ、国が地方の財源を実質的に保障しており、「地方の債務」を「国の債務」と切り離して把握することは実質的に困難である、という考え方も可能ではないかとの指摘がある。さらに、これに関連して、交付税特会の借入金については国と地方がそれぞれ負担することとされているが、個々の地方公共団体は、この交付税特会の借入を債務と認識しておらず、負担意識の欠如が歳出の非効率化を招いているのではないか、またそのことは、結果的に、国と地方の債務を必要以上に増大させているのではないか、という批判も存在するところである。 このような問題意識を背景として、受益と負担の関係を明確にし、真の地方自治を確立する観点から、国と地方の役割分担のあり方及びそれを踏まえた国と地方の財政・税制全体の見直しについて議論する中で、地方におけるモラルハザードによって国・地方の債務が膨張しないメカニズムを確立する必要があるとの意見がある。さらに、このため国と地方の債務負担関係及び「国の債務」と「地方の債務」の区分をより明確化し、地方公共団体をはじめとする各主体が債務負担を正確に認識するよう、例えば、地方公共団体の破産能力について法律で規定する必要があるのではないか、といった意見もある。 |
公的年金制度の概要 | ||
(ア) | 日本の年金制度は、全国民に共通した「国民年金(基礎年金)(1階部分)」を基礎に、「被用者年金(2階部分)」「企業年金(3階部分)」の3階建ての体系となっており、(A)国民皆年金、(B)社会保険方式、(C)世代間扶養という特徴を持っている。 | |
(イ) | 国民年金・厚生年金の現状 | |
(A) | 国民年金 国民年金は、平成11年3月末現在、被保険者数約7,050万人、受給権者数1,909万人となっている。また、平成10年度において10兆円の給付を行っている。 | |
(B) | 厚生年金 厚生年金は、平成11年3月末現在、被保険者数約3,296万人、受給権者数は、老齢年金で約822万人となっている。また、平成10年度においては19.8兆円の給付が行われている。 | |
現行制度の基本的考え方 国民年金・厚生年金は、国や制度の永続性を前提に、積立方式と賦課方式を組み合わせた財政方式を選択している。さらに、国民年金・厚生年金の保険料拠出計画は、現在の現役世代と将来の現役世代の負担の公平を図るとともに、積立金の運用収入の活用を通じて、将来の保険料負担を軽減するとの観点に立って、保険料の段階的な引上げ(段階保険料方式)を行うこととしている。したがって、国民年金・厚生年金の収支は将来にわたり、均衡するよう制度設計されていると考えられる。 |
(参考)保険料拠出計画
(i) | 改正前の制度の場合 平成11年の財政再計算においては、現行制度の場合、国民年金では引き上げ幅につき、平成11年度の13,300円から以降毎年度500円(平成11年度価格)とし、平成37年度以降、一定の保険料としている。厚生年金では、平成11年10月の19.5%から以後5年ごとに2.5%引上げ、平成37年度以降、一定の保険料率としてその水準を示している。 |
(ii) | 改正後の制度の場合 改正後の制度の場合、国民年金では、当面、平成11年度の13,300円で据え置き、平成17年度に13,200円(平成11年度価格)とし、平成18年度以降、毎年度800円づつ引上げ、平成32年度以降、一定の保険料としている。厚生年金では、当面、据え置き、平成16年10月に19.85%とし、以降5年ごとに2.5%引上げ、平成37年度以降、一定の保険料率としている。 |
資金の流れを把握する観点からの検討 以上のような前提のもと、財政再計算等において、厚生年金の給付現価及び国民年金・厚生年金の財政見通しが示されている。これらによって、各年金制度の保険料収入・運用収入に加え、積立金残高等についての見通しも示されている。 資金の流れを把握する観点からは、このような財政見通し等に基づいて、年金制度改正や人口変動等により年金の将来給付がどのように変動するのか、資金が毎年度どのように国民から保険料として支払われ、給付を受けていくことになるのかということを考察することが重要と考えられる。また、給付現価の状況を分析することにより、例えば、「国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げることは、厚生年金の将来給付の国庫負担を現在価値で120兆円増加させる意思決定である」ことが分かるので、長期的視点からの政策決定に資するという意義がある。 (参考) |