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主要な公的債務の現状とその管理を巡る課題について(ポイント)

「21世紀の資金の流れの構造変革に関する研究会」研究報告

主要な公的債務の現状とその管理を巡る課題について
~より効率的な公的デット・マネージメントの確立を目指して~
<ポイント>

1.はじめに
 90年代において、我が国の資金の流れには大きな構造変化が生じ、企業需資減退の一方で、政府が累次の経済対策や税収の落ち込みに伴う資金の調達を進めた結果、公共部門が最大の資金不足主体となっている。平成11年末において一般政府ベースで見た負債残高は600兆円超と名目GDPを上回るものとなっている。また、今後は財投債の発行など従来なかった形の公的債務が登場する一方、少子高齢化の進展に伴い、公的年金の将来債務の問題も視野に入れて考える必要性が高まっている。
 このように、21世紀の初頭においては、巨額の公的債務を抱えた経済財政運営を想定せざるを得ず、フローの資金調達はもとより、ストックとしての公的債務を、全体としての資金の流れの動向、マクロ、ミクロの経済政策等と整合性をとりつつ、如何に効率的に管理していくかが大きな課題となっている。

2.主要な公的債務の現状
 公的債務をなるべく広げて考えるとの立場に立って、体系性を欠くことを恐れずに、いわば鳥瞰図的に現状をまとめると次のとおり。

(1) 国債の現状
 このところ国債残高は急速に増加しており、平成12年度末の国債残高は364兆円になるものと見込まれている。公債残高が累増する中で、近年、利払費は、金利低下などにより、増加が抑制されているが、今後、金利の動向等によっては、急速に増加する恐れがある。
 今後、当面の間は、借換債を含め、相当程度の国債発行が続く可能性が高い。また、平成13年度からは、いわゆる財投債の発行が加わる予定である。従って、今後は、より一層効率的な国債管理政策を実施していくことが重要な課題となっている。

(2)

 特別会計と特殊法人の債務
1 特別会計についての概観
 特別会計は、法律の規定がある場合に限り、会計外からの資金調達が可能となるが、その場合でも、外部調達する資金の使途などについて、何らかの制限が加えられているのが通常である。
 特別会計の長期の借入金(1年以上)の平成11年3月末の残高は61.9兆円である。
2 特殊法人についての概観
 特殊法人(平成11年3月末現在、全81法人)が借入れ等を行う場合には、主務大臣の認可等が必要となるなど、負債の形成には相応のチェックが働くような制度となっている。
 個別に見れば、特殊法人の財務情報のディスクロージャーは、関係法令により、相当程度進んできているが、特殊法人全体の債務を横断的に把握した公的資料はない。但し、財政投融資計画に残高を有する47特殊法人の財政投融資を通じた借入れ等については把握が可能であり、平成11年3月末現在、その残高は、249.2兆円である。
3 政府関係金融機関について
 特殊法人のうち、政府関係金融機関については、さらに、貸付金のうち将来貸倒れると見込まれるものに対する引当金が負債科目に計上されているとともに、不良債権の額を別途公表している。
4 政府保証
 政府の特殊法人等に対する債務保証は、原則禁止されており、法律の規定があることと、各年度予算において保証限度額についての国会の議決を得ていることを条件に、極めて限定的に行われており、戦後付された債務保証が履行された事例はない。
 政府保証の平成11年度末残高(実績見込み)は、52.1兆円である。
 なお、特殊法人等が、政府保証なしでの資金調達を行う場合に、市場においては、いわゆる「暗黙の政府保証」が存在しているとの指摘もある。これに対し、公法人の破産能力について法律上明文の規定を設けることにより「暗黙の政府保証」を明確に否定すべきとの意見、今後、特殊法人の破産能力等について検討するに当たっては、その公共性にも配慮し、その存在意義まで踏み込んだ検討を行うべきとの指摘もある。

(3)

 信用保証
 信用保証協会(全国に52協会)は、中小企業者が銀行等の金融機関から貸付等を受ける場合に、当該貸付金等の債務を保証する。
 信用保証協会が保証した債務に不履行が発生した場合、国(中小企業総合事業団)から信用保証協会に保険金が支払われ、残余部分は地方公共団体の損失補填の対象となることから、信用保証協会の保証債務の一部は、国・地方の債務であると考えることができる。その際、国・地方の最終的な負担額は、将来の景気の動向等により左右されるが、一定の事故率及び回収率を想定し、財源措置を行ってきているところである。

(4)

 国と地方の債務とその関係
 地方債は、普通会計債と公営企業債に区分される(平成12年度末残高見込みは約132兆円、約61兆円)。また、地方交付税の総額を特別に増額させるため、交付税特会が借入等を行うことがある(国と地方がそれぞれ負担、平成12年度末借入金残高見込みは約38兆円)。
 現行制度のもとでは、地方の債務の範囲や国と地方の負担関係が必ずしも確定していない。これに関連して、個々の地方公共団体は交付税特会の借入を債務と認識しておらず、負担意識の欠如が歳出の非効率化等を招いているのではないか、という批判も存在する。受益と負担の関係を明確にし、真の地方自治を確立する観点から、地方のモラルハザードにより国・地方の債務が膨張しないメカニズムが必要、との意見、さらには、地方公共団体の破産能力を法律で規定する必要があるのではないか、との意見もある。

(5)

 公的年金
 国民年金・厚生年金等の財政状況については、財政再計算等において、その将来債務及び財政見通しが示されている。資金の流れを把握する観点からは、これらの資料に基づいて、年金制度改正や人口変動等により年金の将来給付がどのように変動するのか、資金が毎年度どのように国民から保険料として支払われ、また給付を受けていくことになるのかということを考察することが重要である。

3.国債管理政策

(1) 基本的考え方
 国債管理政策の具体的目的としては、1国債の確実かつ円滑な消化を図ること、2long-runで国債調達コスト(財政負担)を最小化すること、3財政金融政策など他の関連する政策との協調を図ること、の3点が重要。

(2)

 国債管理政策の方策
 財投債を含む国債の確実かつ円滑な発行を行っていくため、次のような基本的考え方に沿った施策を展開していくことが望ましい。
1 日本国債に対する内外の信認を維持する。
2 国債発行に際して、市場のニーズを適確に把握し、多様化を進めつつ、各年限の発行規模を適切に配分する。
3 国債発行における透明性の確保・向上を図る。
4 流動性のより一層高い国債流通市場を実現する。
5 国債発行・流通市場及び短期金融市場など国債関連市場について、適正・公平な課税の確保等との調和を図りつつ、決済制度などのインフラを整備する。
6 個人投資家層の拡大など、多様で厚みのある投資家層を形成する。

(3)

 今後の課題
 より一層効果的な国債管理政策を打ち出していくためには、これからの国債管理政策の基本的視座として、次のような見方に基づいて検討を深めていくことが適切である。
1 市場に対して、国債管理政策の原則及び優先課題を明確に提示する。
2 国債市場の整備に向けて、国債発行当局が市場参加者と幅広く対話を行い、市場の改善に向け関係者に対して積極的に働きかけていく。
3 グローバル市場時代の投資家にとって、欧米主要国の発行する国債に比べて、日本国債を十分魅力あるものにする。

4.総合的な国の債務管理・リスク管理のあり方

(1) 公的債務の総合的把握
 総合的な国の債務管理のあり方について、主に以下の2点から、検討していくことが必要である。
1 国債その他の公的債務の総合的把握に努め、情報開示を進めることにより、我が国の財政状況についてより国民に説明責任を果たしていく。
2 債務を総合的に把握した後に、さらに情報を集約することにより、資金調達の費用最小化・安定的な資金調達の維持を図るとともに、金利リスクやインフレリスクなどのリスクを総合的に把握するシステムを工夫していく。

(2)

 総合的な債務把握の困難性
 総合的な債務把握については、これまでの制度がそれを前提として構築されていないため、種々の困難な点が存在する。
1 公的部門において債務自体の帰属は明らかである場合でも、誰が最終的な負担主体であるのか認識することが困難な場合がある。
2 制度的に負担することになっているもの(commitment)、偶発債務(contingent liability)をどこまで債務と認識するかについても、慎重に検討する必要がある。
3 債務の種類は千差万別であり、総合把握するとしても、それぞれの債務の計数を単純に足し上げることができないことに留意が必要である。

(3)

 資金の流れを把握する視点
 これらの債務が、「債務」として具体的な計数を以って統一的に把握することが困難だとしても、それぞれの分析目的あるいは政策目的に沿って重要性の高いものを選択し、フローの状況等を含め把握することが重要である。