国の債務管理の在り方に関する懇談会(第50回)議事要旨 | ||
1 | .日時 令和元年6月12日(水)9:55~12:00 | |
2 | .場所 財務省 第3特別会議室 | |
3 | .内容 | |
1.前回・前々回の議論のフォローアップ 2.主要諸外国の国債管理政策の動向について 3.海外投資家から見た日本の国債市場 (1)国債の海外IR等について (2)JGB市場を取り巻く環境 (ソシエテ・ジェネラル証券 島本 幸治委員) |
まず、理財局より、前回・前々回の議論のフォローアップ (資料1(PDF:1454KB))、および主要諸外国の国債管理政策の動向について(資料2(PDF:737KB))説明が行われ、その後、自由に意見交換が行われた。
▶ 当局からの説明概要は以下の通り。
(前回・前々回の議論のフォローアップ)
・ 前回会合において、「業態ごとの需要分析については、これまでも行われてきたが、今後はリスク分析やコスト検証も幅広く行い、バランスの良い国債発行を行っていくことが必要」という問題提起を頂いた。
・ 国債発行当局の使命である「中長期的な調達コストの抑制」を実現するには、金利変動のリスクを把握し、コストとリスクのバランスをとった発行を行っていくことが重要。このため、我が国を含め、各国当局は様々な手法でコストとリスクの分析を行っている。
・ 我が国では、「コスト・アット・リスク分析」として、確率金利モデルを用いて将来の金利変動をシミュレーションし、それに伴う利払費の変動を計測しており、国債発行計画の部内検討に役立てている。分析期間は10年間で、その間の利払費率の平均をコストと捉え、リスクについては、平均値と信頼水準99%値の差、すなわち、テールリスク発生時に利払費率がどの程度上振れるかを指標として分析を行っている。
・ 具体的な分析結果として、平成30年度国債発行計画の年限別シェアから、20年債を増やし調達を長期化するとリスク減・コスト増、逆に5年債を増やし短期化するとコスト減・リスク増となり、コストとリスクはトレードオフの関係にある。
・ この枠組で、直近6年間の国債発行計画の年限別シェアで据え置いた場合のコストとリスクを評価すると、同分析枠組みにおいて26年度から28年度にかけて平均償還年限は7.8年から8.8年に長期化したが、この結果、コストが増加する一方、リスクは改善した。一方、29年度以降は、平均償還年限が9年前後であまり動いておらず、コスト・リスクも結果として大きく動いていない状況。
・ 次に、米国のTBAC(借入諮問委員会)の分析では、マクロ計量経済モデルを用いており、20年間の経済変数とイールドカーブをシミュレーションしている。コストは国債費/GDPの平均値で捉え、リスクについては、国債費/GDPの標準偏差と財政収支/GDPの標準偏差という2つの指標で分析。これは、景気拡大に伴う金利上昇で国債費が上振れても、税収増で財政収支は改善することもあるため、財政収支でリスクを分析することも有意義という考えによるもの。
・ 単一の年限で資金調達した場合、米国のモデルでは、3年債まではそれほどコストが上がらない一方、7年債以上はコストが大きく増加する結果になる。また、金利を急騰させるようなショックが発生した場合、長期ゾーンのタームプレミアムの変動が大きいため、10年を超える長期債で調達すると、リスクが上昇してしまうという分析結果になっている。特に、財政収支/GDPの標準偏差でリスクを捉えた場合、FEDの利下げの影響でより短い年限の調達が有利という分析結果になっている。
・ 年限別の発行シェアを20年間固定して調達した場合、短期債・中期債を増やせば、コスト減・リスク増となる一方、長期債を増加させてもリスクは改善せずコストのみが増加する結果になる。また、当局のリスク許容度に一定の前提を置けば、最適な年限構成が導き出されるが、一定のリスク回避を図る場合、現状よりやや短期化させることが適当という分析結果になっている。
・ 経済状況に応じて年限別シェアを変動させた場合、リスクを国債費/GDPの標準偏差で捉えると、シェアを固定化させた場合に比べ有利な発行となっているとの分析結果になっている。
・ 2007年から2015年にかけて行われた平均償還年限の長期化について、コスト・リスク面で評価すると、コストは微増だが、特にリスクのうち国債費/GDPの標準偏差が大きく低下しており、長期化に一定の効果があったという分析結果となっている。ただし、更に長期化を行っても、コストが増加するが、あまりリスク抑制効果はないという分析結果になっている。
・ 昨年の10月会合では、国債発行計画について、27年度から29年度の3年間の当初見積もりと実績を比較し、前倒債の増加要因を分析したが、今般30年度の実績見込みが出たところ。30年度計画では、当初段階では年度間調整が1.4兆円で前倒債を取り崩す想定だったが、個人向け販売分やオーバーパー発行による超過収入が上振れたこと等により、30年度末時点の前倒債発行額は、前年度末比約3兆円増の52.5兆円となった。
・ 見積もりの精緻化に向けた取組を今後とも継続していくとともに、カレンダーベース市中発行額を抑制すること等により、引き続き前倒債の減額を図っていくことが必要と考えている。
(主要諸外国の国債管理政策の動向)
・ 「平均償還年限の長期化」について、各国とも、2000年代後半以降、長期化を進めてきたが、足下ではその動きが一服している状況が窺える。
・ 米国の足元の発行方針としては、発行増額は中期債中心に行い、平均償還年限は現在のレベルで安定化させるという方針が示されており、資料①のコスト・リスク分析の結果に即した内容となっている。
・ 「国債発行の予見可能性の確保」について、国債発行の透明性・予見可能性を確保する必要があることは、発行当局の共通認識。しかし、具体的な年限別の発行額等について事前にどの程度公表するか、また、その後、市場環境や財政需要が変化した場合にどこまで機動的に見直しを行うか、といった具体的な運営は国によって大きく異なっている。
・ 米国では、「regular and predictable」を債務管理の基本目標として掲げているが、発行計画は、3か月ごとに、その時点の「国の借入需要見込み」、「四半期末の国庫のキャッシュバランス」、「国債償還額」に基づいて策定される仕組み。
・ イギリスでは、発行計画が作られるのは年に1度だが、前年度の「新規資金必要額」の実績が出る4月と当年度の経済財政見通しが公表される11月に見直しを実施。また、発行計画では、日本のように年限別の発行額は示さず、短期債・中期債・長期債・物価連動債というゾーンごとの合計額だけを公表。
・ ドイツは、発行計画で年限別の発行額や発行スケジュールが示されており、比較的日本に近い運用となっているが、政府の資金需要や市場の状況を踏まえ、必要があれば、四半期ごとに見直される仕組み。
・ フランスでは、発行計画は、12月に公表された後、当年度の財政収支見通しを基に9月に見直される。発行計画で示されるのは中長期債の総額のみで、年限別の発行額は、発行の直前に複数年限の合計額として示され、個別年限の発行額は入札参加者の応札状況を踏まえて決める仕組みで、当局の裁量の余地が大きい。
・ このように予見可能性・透明性と機動性・柔軟性のバランスをどう執るかは、国によって大きく異なっている状況。日本では、債券市場や経済の規模に比して国債の発行額が相対的に大きいこともあり、諸外国と比べ市場参加者の予見可能性の確保に重点を置いた運営となっていると考えている。
・ 昨年11月にOECDが「流動性バッファー」(債務管理や資金繰りにおける不測の事態への備えとして債務管理当局が保有する一定規模の流動資産)に関するサーベイ結果をとりまとめたワーキングペーパーを公表しているので紹介したい。
・ OECDによれば、調査対象となった35か国のうち29か国がこうした仕組みを持っており、多くの国では財政需要を上回る「超過借入れ」を行うことにより積み立てている。
・ 流動性バッファーの積立て水準について、各国の積立額は明らかにされていないが、OECDは、「市場の成熟度や市場アクセスの制約度合いに応じ、国によって様々」であり、1か月程度の支出に耐えられる程度を蓄えている国が多いという分析を行っている。なお、ワーキングペーパーでは、デンマーク・ポルトガルの具体的な運用が紹介されており、デンマークではGDP比4~5%、ポルトガルでは1年間の要調達額の40%程度を目途に積み立てているとのこと。
▶ メンバーから出された意見等の概要(当局においてとりまとめ)は以下のとおり。
・ コスト・アット・リスク分析に関して、金融機関においても、アーニング・アット・リスク分析というリスクとリターンの関係の分析によってリスク管理を行っている。発行体と金融機関がそれぞれの分析を共有することにより、市場全体のリスクバランスをより明らかにすることができるのではないか。
・ 現状の超低金利環境が構造的に続く局面と将来的に金利が急上昇する局面ではリスクとコストのバランスが全く異なる。定量的な分析を進める一方で、様々なシナリオの下での検証を行い、それをもとに年限構成を議論することで、より安定的かつ機動的な対応が可能になるのではないか。
・ 金融政策の緩和の時期と引き締めの時期でコスト・アット・リスク分析の結果は大きく異なるため、金融政策の変化を考慮に入れた分析を行うべき。
・ コスト・アット・リスク分析では発行年限を変えることによるイールドカーブ変化が考慮されていないと思うが、基軸通貨国で常に旺盛な需要があるアメリカと異なり、それ以外の国では、国債の需給の変化が金利に与える影響についても考慮する必要があるのではないか。
・ 現在はイールド・カーブ・コントロール下で、いわば固定相場的な市場環境にあるが、これが元の変動相場的な市場環境に戻る際には、非連続的な動きが生じやすくなる。大きくレジームが変わるような状況になった場合にどのように対応していくかを考えることは重要。
・ すでに40年ぐらいにわたってグローバルに見て構造的な金利低下局面にあるとも考えられる中で、超長期債も含めた年限構成の議論については従来と違った発想が求められるようになってきているのではないか。
・ 資料によれば、近年の長期化は788億円のコストをかけて1,586億円のテールリスクに備えていることになるが、リスクとコストが見合っているのかを考える必要がある。
・ 超低金利が続くことを前提にした意見があったが、逆に今後中国が経常赤字に転ずることによって世界の金利水準が今後上昇することが考えられることにも留意すべき。
・ 中期債を中心に増額するという米TBACの提言は、政権交代直後に50年債の発行が主張されたことへの反証という意味合いもあるのではないか。その意味では、少し割り引いて考えた方がよいかもしれない。
・ 財務省に予算権限がなく資金繰りの観点からしか発行計画を考えられない米国や、EUの財政規律の影響を受ける欧州と異なり、日本は国債管理政策の自由度が大きく、その分知見も多いという面もあるのではないか。
・ 近年の金利水準で分析を行うとゼロ近傍の金利を基にすることになるので、中長期的な分析を行うためには、30~50年タームの金利をベースにした分析も必要ではないか。
・ TBACの分析は、マクロ変数等をモデルに組み込みつつ、それらがタームプレミアムや財政収支、ボラティリティ等に影響を与えるというチャネルが入っている点で非常に興味深い。令和の時代に入ったので、日本でもリスクやコストに関する分析の層をますます厚くしていって頂きたい。
・ 借換債の区別や減債基金制度、60年償還ルールといった日本特有の制度が、リスクやコストにどのような影響を与えているのか、また、各国の制度の実態がどうなっているのか、といった点についても分析するとよいのではないか。
・ 将来の予測を入れて分析すると、その予測自体の妥当性について様々な議論が生じ得ることから、まずは客観的に得られるデータを基に、リスクとコストのバランスについて定量的に示したことは、アカウンタビリティを高める上で重要であり意義がある。
・ そのうえで、金融市場の不確実性が高まっているという足元の短期的なシナリオをはじめ、金融政策を含めた今後の政策変化や、人口構造の変化に伴う国債保有構造の変化等の複数の異なる要素を考慮したシミュレーションを行っていくことも大切。
次に、理財局より、国債の海外IR等について (資料3(PDF:810KB))説明が行われ、続いてソシエテ・ジェネラル証券 島本委員よりJGB市場を取り巻く環境(資料4(PDF:945KB))について、説明が行われた。その後、自由に意見交換が行われた。
▶ 当局からの説明概要は以下の通り。
・ 海外IRについては、日本国債の確実かつ円滑な発行、国債市場の安定という観点から、多様なニーズを持つ投資家の方々に日本国債を保有していただくべく、平成30年度も行ってきた。
・ 海外投資家による国債保有割合(ストック)は徐々に増加しており、昨年末時点で約12%になっているが、国債流通市場での売買シェアを見てみると、現物で3割強、先物では6割強と、高いプレゼンスを示している。また、月別売買高で見ても、海外投資家が買い越している月が非常に多くなっており、その額も銀行や生保と比べて大きなものとなっている。
・ 海外投資家が保有する割合(昨年末時点)について、T-Billを含む全体では約12%だが、T-Billだけで見た場合は7割を超えて保有している。その理由として引き続き指摘されているのが、ドル円ベーシス・スワップを活用した取引である。
・ 地域別の保有内訳を見てみると、これは国債以外も含めた円債のデータではあるが、ヨーロッパや北米が増えている。
・ このように海外投資家のプレゼンスは高まってきており、こうした投資家の方々に、日本に関する情報を正確かつタイムリーに提供していくことは引き続き重要であると考えている。
・ こうした海外投資家の方々に対するIRについて、平成30年度は19か国を訪れ、139件の面談を実施した。 また、債務管理当局との面談や、海外投資家が参加するセミナーでの講演なども行っている。
・ こうした海外IRを、より効果的・効率的に行うため、PDCAサイクルを回して取り組んでいるところ。
・ 平成30年度に海外IRを行う中で把握した投資動向について、それぞれの投資スタンスは様々であるが、主なものとして、インデックス投資によるリスク分散を目的とするもの、ドル円ベーシス・スワップ等を活用した短期債への投資、流動性規制への対応を目的とした保有などが見られる。
・ インデックス投資については、ベンチマーク対比でアンダーウェイトとする先が多い。なお、世界経済の不確実性を背景として債券投資を増加させるなか、長期ゾーンを中心に日本国債を購入する投資家も一部に見られる。
・ また、通貨スワップを活用した短期債投資については、ユーロ円ベーシス・スワップを活用して短期債投資を行う投資家も見られる。
・ 海外投資家との個別面談に加え、平成30年度も様々な国際会議に参加し、日本の債務管理政策に関する説明を行っている。
・ 最後に、海外IR等の今後の方向性については、引き続き、継続的な投資や長期安定保有が見込める投資家の方々を重視しながら、長期的で緊密な関係を構築してまいりたい。同時に、将来的な保有や市場の活性化に向けて、現在の保有状況に関わらず、大手運用会社等に対しても定期的な接触を図る。加えて、債務管理当局や国際機関との連携強化にも引き続き取り組んでまいりたい。
▶ メンバーから出された意見等の概要(当局においてとりまとめ)は以下のとおり。
・ 世界的な運用難を受けて、日本の証券に対する需要が増えており、今までは短期債が中心だったが、最近では長期債のニーズも増えている。
・ ベーシス・スワップのスプレッド拡大によって海外投資家から日本国債が魅力的に見えている状況の裏で、日本の事業会社や金融機関が海外に投資する際に非常に大きなコストを払っている現状がある。その意味では、海外からの旺盛な国債投資はドルの調達コストの低下を通じて日本企業を助けているという側面もある。
・ 国債先物の海外投資家シェアが増えている理由としては、HFTが増えていることも挙げられる。フラッシュクラッシュなどのリスクもあるが、さまざまな価値観の投資家を市場に呼び込むことは重要であり、現物市場においても市場環境の整備を進めていくことが必要。
・ 日本の株式市場では、海外投資家の保有比率が30%以上になったことで、海外投資家の影響を大きく受けるようになってきたと感じている。その意味では、国債市場が安定を保てる海外投資家の保有割合というのは30%が一つのメルクマークになるかもしれない。
・ 日本が格付けを維持できているのは、経常収支が黒字であり、政治が安定していて、歳出のコントロールや増税余地など政策のアフォーダビリティがあるため。
・ 金利環境は変わっていないが、国債の消化構造や経常収支のバランス、人口動態等は変化してきており、今後、国債管理政策を議論する上ではそれらの点もよく注視していく必要がある。
・ 国内投資家のアクティビティが落ちている一方、マーケットにおける海外投資家のプレゼンスが高まっており、海外投資家の動向分析の重要性が高まっているのではないか。また、現下の市場環境は、海外投資家の国債保有比率を高めやすい状況でもあり、IRを通して海外投資家に情報を発信していくことが重要。
・ 安定的な国債消化の観点からは、ベーシス・スワップを通した需要よりも、長期保有を目的としている投資家にアプローチしていくことが重要。
・ 10年以下の金利がほとんど動かない現在の市場環境が続くと市場機能自体が壊れてしまうリスクがあると懸念している。コスト抑制の観点から平均償還年限を短期化してコストを抑えようとしても、それによって市場機能が損なわれるようなことになれば、結果としてより大きなコストとなって返ってくることも考えられる。
・ 海外投資家は必ずしも日本国債に魅力を感じて投資をしているわけではなく、日本の投資家の為替ヘッジ投資の相手方となって得た円の運用先として国債を購入している場合も多く、本来の最終投資家と言えるかは疑問。スワップで超過リターンが得られなくなれば一挙にポジションを解消する可能性もある。
・ 足元の海外投資家の投資は現時点における日銀の金融政策とリンクしている面があるため、金融政策の転換時には海外投資家の保有が減る可能性があることにも留意が必要。
・ 個人投資家による国債保有は実際にはほとんど増えていないため、保有者層の多様化という意味では、むしろ個人投資家にアピールしていくことが重要。
・ 世界的な低金利環境により、リスクフリー資産に対する投資意欲が減退しており、クレジット市場や株、プライベートアセットへの投資に流れている。何らかのきっかけでこうしたアセットが崩れだすと景気に対してマイナスの影響があるが、その場合、中央銀行にも緩和余地がほとんど残されておらず、財政政策への期待が高まりやすい環境。こうした状況を念頭に、国債管理政策を考える必要がある。
・ 海外投資家による国債保有が増えており、T-Billでは7割に達しているという説明があったが、長期債投資もかなり増えている。ベーシス・スワップの影響も大きいが、最近では米国債のイールドカーブがフラット化している影響の方が大きい。
・ こうした市場環境の時こそ、市場の流動性の維持・向上を図ったり、インフラ整備を行ったりすることで、海外投資家を呼び込むことが必要ではないか。
(以上)
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