このページの本文へ移動

【公会計に関する基本的考え方】4.財務報告に関する基本的考え方/財政制度等審議会

4.財務報告に関する基本的考え方

 次に、財務報告に関する基本的考え方については、次の通り整理される。


(1)財務報告に関する基本的考え方

 予算や決算の参考情報として、国の行政や財務の透明性を高めることを目的とした財務報告については、必要に応じて発生主義等の企業会計的手法を活用しつつ、「国の貸借対照表(試案)」や「新たな特別会計財務書類」といったこれまでの取組みを更に強化し、その充実を図るべきである。特に、作成される財務情報は、単なる開示の目的に止まらず、財政の効率化、適正化に資する財務情報の提供が重要となっており、予算におけるチェック・アクションをプラン・ドゥーに反映させる環を形成する重要な要素となるものと考えられる。

 また、公会計においては、制度の異なる様々な主体を包含し、取り扱う財務情報も膨大な種類と数に及ぶ一方、開示される情報は、多様なニーズを持った多くの情報利用者を対象とする。このため、財務報告の対象範囲について、また、開示に当たっての留意すべき一般的事項について、公会計基本小委員会では次の通り整理を行った。


(2)財務報告の範囲

 

財務報告の基本的な範囲

 国の財務報告がカバーすべき範囲については、国の財政状況を明らかにする観点から、国の会計である一般会計及び特別会計に加え、独立の法人形態が採られている主体として、特殊法人、認可法人及び独立行政法人に加え、郵政公社や国立大学法人等が対象となるものと考えられる。具体的な財務書類の作成に当たっては、このような基本的な範囲を元に、作成される書類毎の個別の目的に応じて、対象とすべき範囲が決められるべきである。


国全体の財政状況を開示する場合の対象範囲

 国の財政状況を開示する場合、特に、国の財政に重大な影響を与えうる要素を網羅的に捉えるという点において意味のある開示を行うためには、国が財政的に責任を負うべき範囲を明確化する必要があり、そのためには、個々の主体について、国との間の財政的依存関係に着目して、十分かつ慎重な検討を加える必要がある。


イ)特殊法人、認可法人、独立行政法人等

 特殊法人及び認可法人については、「特殊法人等会計処理基準」(昭和62年10月、財政制度審議会公企業会計小委員会)に準拠して財務諸表が作成され、また、平成12年度決算より、行政コスト計算財務書類が作成されている。また、独立行政法人については、独立行政法人通則法において財務諸表の作成が義務付けられ、その会計は原則として企業会計原則によるものとされている。

 国全体の財政状況を開示する際のこれらの法人の扱いについては、国が責任を負うべき範囲を考慮し、法人との主体的関係に応じて国との間の連結を行うことが考えられる。


ロ)公益法人をはじめとする民間法人

 公益法人については、「公益法人会計基準」に従い、財務報告が行われている。

 公益法人の扱いについては、実質的に国の重大な影響下にある法人が存在する一方で、国と資本関係のない民間法人を連結して開示することの是非の問題や民間法人と公的部門の会計処理の整合性の問題も考慮される必要がある。

 なお、現在、行政委託型公益法人の見直しや「公益法人会計基準」の改訂が行われているほか、公益法人制度の抜本改革が進められている。


ハ)地方公共団体

 地方公共団体については、地方自治法等により、その予算、決算、財政状況等の公表が義務付けられている。

 地方公共団体の扱いについては、一般政府レベルで国の財政状況を把握するため、地方公共団体を国の財務書類の連結対象とすべきとの議論がある。他方で、国と連結して開示することが地方自治のあり方との関係でそもそも問題ないのかとの疑問もあり、また、国との連結を根拠として地方に対する財源保障をすべきであるとの誤解を生じるおそれがあるとの議論がある。

 いずれにせよ、地方公共団体向けの支出は、国の財政支出の相当割合を占めることから、国の財政状況の開示において地方公共団体をどのように扱うかについては、十分かつ慎重な検討が必要である。


(3)財務報告に関する留意点


目的に応じた分かりやすい情報開示


イ)比較可能性の確保

 公会計においては、多様な主体の存在に鑑み、異なる主体間の基準の整合性に可能な限り配慮するなど、比較可能性(一覧性)の確保が必要である。他方で、制度の異なる会計主体間の相互比較性の確保には限界があり得ることから、その場合には、前提となる条件等、各主体の特性に応じた基準を明瞭にした上で、会計処理を行うことが必要となる。


ロ)適度の情報量の確保

 公共部門の活動は広範囲かつ多種多様であることから、例えば、連結の活用等により、重大な影響を与えうる要素に関する情報の欠落を回避することが求められる。他方、扱うべき財務情報は膨大かつ詳細なものとなると考えられるが、目的が明確でない詳細な情報は却って分かりやすさを阻害する面もあることから、財務書類の作成にあたっては、まずは簡潔な基準を構築し、その上で、主体の特性や開示の目的に応じ、必要な情報を付加していく手法が望ましい。


ハ)表示科目のあり方

 財務書類の作成に当たっては、分かりやすい表示科目の設定に配慮するとともに、例えば、予算情報と決算情報の表示科目を統一し、前後の比較可能性を確保することなども必要である。


情報ユーザーのミスリードの回避

 公共部門の情報開示のあり方として、高い正確性がそもそも求められる。このため、公会計において、不確実性に対する将来予測、裁量的な会計処理、見積りや仮定計算等がどこまで認められるのかについては、十分かつ慎重な検討が必要であり、また、それを認める場合には、前提となる条件、仮定等について明瞭にすることが求められる。

 発生主義に基づく現行の企業会計原則は、企業の置かれれている環境に応じて、その会計処理に選択の余地を認めている。公会計において企業会計と同様の考え方を活用する場合には、情報の透明性や信頼性を却って損なう面があるため、企業会計原則で認められる減価償却方法や引当基準等における選択性の余地を極力排除するための客観的な会計処理基準に関する十分な検討が必要である。


非財務情報の扱い

 公共部門の活動には、企業の経済活動とは異なり貨幣額で測定することが難しい分野が多く存在することから、非財務情報の役割が重要であると考えられる。このため、どのような非財務情報の開示が必要となるか、また、どのような開示の方法が適切であるか、財務報告の目的に則して検討を進める必要がある。


情報作成コスト

 作成される財務書類がどのように活用されるのかという便益との比較において、作成に係るコストも考慮されるべきである。このため、低いコストでできるだけ早期に情報開示する努力が必要である。