(補論) |
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ワーキンググループにおいて議論を行った個別論点等 |
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公企業会計ワーキンググループにおける議論の結果は、できる限り本行政コスト計算書の作成指針に盛り込んだところであるが、個別具体的な問題であること等から作成指針に盛り込むことが適当ではないと認められる検討項目も存在する。このような検討項目のうち、特殊法人等における行政コスト計算書作成の参考に供する必要があると認められる項目について、以下に記すこととする。 |
(1 | ) 備蓄石油の貸借対照表価額 石油公団が保有する備蓄石油は、同公団の備蓄勘定の総資産額の約50%を占める重要な資産であり、時価評価が必要かについて検討を行ったが、以下の理由から、取得原価をもって仮定貸借対照表価額とすることが適当との結論を得た。 |
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| なお、上述のとおり、備蓄石油は、石油公団備蓄勘定の重要な資産であり、金額的にも1兆円を超えており、国民に対する説明責任の確保、透明性の向上の観点からは、時価情報の開示が必要であり、注記又は附属明細書において時価情報を開示することが適当との結論を得た。 |
(2 | ) 販売用不動産等の貸借対照表価額 都市基盤整備公団や地域振興整備公団では、区画整理事業等の民間企業では困難な大規模開発事業を実施しており、その財産は開発事業の実施後において販売されることとなっている。このような不動産について時価評価が必要かについて検討を行った。 都市基盤整備公団や地域振興整備公団が保有する販売用不動産等は、不動産業者等の民間企業が保有する販売用不動産とその会計上の実質が変わることがなく、時価評価が必要との結論を得た。ただし、適用すべき基準については、「企業会計原則」に定める時価が著しく下落した場合の強制評価減か、低価法の適用かで議論が分れた。 更に議論を深め、多くの民間企業においても時価が著しく下落した場合の強制評価減が適用されているという民間企業における時価評価の実態及び評価に要する特殊法人等の事務負担や経費等を考慮して、最終的には、本指針第2章の1の(2)に規定しているように、時価が著しく下落した場合の強制評価減の弾力適用を行うこととなった。 なお、国民負担に帰するコストを明らかにするという行政コスト計算書の趣旨・目的に照らせば、将来的には低価法の適用がより望ましいところであり、民間企業における動向、特殊法人等における事務処理体制の状況等を踏まえつつ、低価法の適用について検討を行うことが必要である。 |
(3 | ) 分収造林勘定の貸借対照表価額 緑資源公団では、森林の水源かん養機能を高める目的で分収造林事業を実施しており、当該事業に関し同公団が支出した経費(支払利子等を除く。)を分収造林勘定として資産に計上している。この資産について時価評価が必要かについて検討を行った。 分収造林勘定は、植林から伐採までの長期間の保有を経て販売されることとなる資産であり、通常の営業循環過程が極めて長期間であり、かつ、現実の資産は成長途上の立木であることから、その時価評価は技術的に困難な面が多いと想定される。 しかし、当該資産は、将来販売する目的で保有されていると認められることから、販売用不動産等に適用される強制評価減と同様に、企業会計原則第三貸借対照表原則5Aただし書の規定を適用し、時価が取得原価より著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって仮定貸借対照表価額とすることが適当である。また、強制評価減の適用の要否の判断については、本指針第2章の1の(2)の の規定に準じ、強制評価減の弾力適用を行うことが適当であるとの結論を得た。 なお、分収造林勘定に適用すべき時価については、例えば、将来の販売見込み額から今後の育林経費見込み額及び販売経費見込み額を控除した正味実現可能額とすることが考えられるが、本資産の実態に照らし合理的な方法により評価する必要がある。 |
(4 | ) 道路資産の減価償却 道路資産については、本指針に定めているように、投資実績額をもとに資産価額の推計を行い、償却資産については、定額法による減価償却を実施することとしたところであるが、企業会計の減価償却を行った場合、以下のような問題が生じるとの指摘が行われた。 この問題については、認可された償還期間を耐用年数として、土地を含め減価償却を行う方法や、無料開放時に想定される土地及び償却資産の未償却残高に相当する額を「企業会計原則」注解18に定める負債性の引当金として適当な科目を設け引き当てる会計処理等の検討も行ったが、適切な減価償却の方法についての結論を得られなかった。 一方、行政コスト計算書は、特殊法人等が民間企業として活動を行っていると仮定した場合の財務書類であり、かつ、現行の財務諸表も並行して作成されることから、本指針においては、民間企業と同様な減価償却を実施することとしたものである。 |
| | (指摘された問題点) 有料道路事業は、建設資金の回収後本来の道路管理者に道路資産を引き継ぐこととなっており、償還期間満了日には資産価額がゼロとなるような会計処理が必要であるが、企業会計における会計処理では、非償却資産である土地については、減価償却が実施されないほか、償却資産についても残存価額(10%)部分については償却が実施されない。このため、投下資金の回収状況が分らないほか、本来の道路管理者への道路資産引継時に土地及び償却資産の残存価額について損失を計上することとなる。 |
(5 | ) 繰延資産 日本育英会の返還免除繰延資産や都市基盤整備公団の利子収支差額繰延等の繰延資産は、後日、国から予算措置等が行われる蓋然性が強く、特殊法人等における損失の認識時期と国からの予算措置等の時期のズレを調整するために繰延資産として計上されているものである。 このため、特殊法人等単独で考えれば、資産性が認められるとの議論もあるが、国と特殊法人等を連結して考えれば、特殊法人等で損失を認識できる時点において、行政コストは発生していると考えるのが適当であり、繰延資産としての計上を認めない取扱いとしたものである。 このような繰延資産と同様に、日本道路公団の政府補給金調整勘定についても、資産性を認めない取扱いとするのが適当であるとの結論を得た。 なお、これらについては、後日国からの財源措置等が行われる蓋然性が強いことから、注記等において適切に説明することが必要である。 |
(6 | ) 貸倒引当金 貸倒引当金については、本基準において、「預金等受入機関に係る検査マニュアル」又は「金融商品に係る会計基準」に準拠して、適切な額の引当金計上を求めているところであるが、以下のような場合に、これらの簡便法の適用が認められるかの検討を行ったが、以下のような見積り方法は、「預金等受入機関に係る検査マニュアル」及び「金融商品に係る会計基準」が認めている範囲内での対応であるとの結論を得た。 いずれにせよ、「預金等受入機関に係る検査マニュアル」又は「金融商品に係る会計基準」に準拠するほか、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣習に従い、貸倒れのリスクが認められる債権については、合理的な額の引当金を計上する必要がある。 |
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(7 | ) 投融資損失引当金 石油公団においては、海外及び本邦周辺の海域における石油等の探鉱等に対し、出資又は貸付けにより資金を供給する業務を実施している。このような投融資については、石油等の探鉱期間中は引当金を計上しない取扱いとし、探鉱の結果が判明した時点において将来キャッシュ・フローに基づき所要の引当金を計上する会計処理を行っているとの説明を受けた。 一般に石油等の探鉱プロジェクトは極めてリスクの高い事業であり、当該プロジェクトに投下された資金は、「研究開発費に係る会計基準」に準拠して費用処理を行う必要はないかの観点から検討を行った。 石油公団の投融資先であるプロジェクト会社では、投下した事業費を探鉱の結果が判明する時点まで資産計上し、生産に至った場合は生産高比例法等による償却、あるいは不成功の場合はその期の損失金として処理する会計処理が行われている。 また、石油公団における実務処理の状況について詳細に聴取したところ、 プロジェクト会社の財務処理については会計監査人の監査を受けていること、 探鉱期間は長くても5年程度であり、その中でもいくつかの段階に区分し、次の段階に進むべきかどうかの審査を実施していること、 探鉱段階であっても、終結を視野に入れた査定を行っており、11年度決算においては、探鉱中の4社について投融資損失引当金の計上を行っているとのことであった。 以上の諸点を踏まえ検討した結果、現行の石油公団の会計処理は妥当であろうとの結論に到達した。ただし、探鉱期間中を条件として一律に取り扱うのではなく、石油公団の実際の会計処理にも見られるように、探鉱期間中であってもリスク評価を行い、毀損のおそれが強いものについては、引当金の計上を行う必要があるとの結論を得た。 |
(8 | ) 特別法上の引当金等 特殊法人等の本来の貸借対照表には、特殊法人等の設立法や財務会計省令等の規定に基づき、特別法上の引当金等を計上しているものがあり、このような特殊法人等に特有な特別法上の引当金等の計上の適否について検討を行った。全ての特殊法人等について検討を行うことは困難なため、行政コスト計算書の試作を依頼した4法人を中心に検討を行ったところ、特殊法人等の業務の特性等から、当該引当金等の計上の必要性も認められるところであるが、当該引当金への繰入額は、多くの場合収益の一定割合の繰入れや利益の範囲内での繰入れとなっており、企業会計上の引当金の要件である負債性が認められないものであった。 一方、行政コスト計算書は、特殊法人等が民間企業として活動を行っていると仮定した場合の財務書類であり、かつ、現行の財務諸表も並行して作成されることから、本指針においては、民間企業と同様に、負債性が認められる場合に限って、このような特殊法人等に特有な引当金等の計上を認めることとし、負債性が認められない場合は、計上しない取扱いとした。 |
(9 | ) 研究開発法人への政府出資 研究開発法人では、政府からの出資金を用いて、研究開発の業務を実施している。そして、研究開発の成果は、無形のノウハウ等であり、企業会計原則が研究開発費を繰延資産として計上することを認めないこともあり、貸借対照表に資産として計上することが困難となっている。 このため、研究開発法人の多くは、累積欠損金を抱えている状況にあり、研究開発費として使用された出資金については、貸借対照表上見合いの資産科目が存在しないこと、及び研究開発費として支出された部分は、支出された時点で既に行政コストとして認識されていることから、行政コスト計算の政府出資金等に係る機会費用の計算において、累積欠損額を控除した後の資本金とすべきではないかとの観点から検討を行った。 また、研究開発法人とは逆に利益を内部留保している法人について、当該内部留保利益は本来は国民に配当されるべき性格のものであり、一旦配当が行われ再度出資されたとの考え方の整理を行い、内部留保利益を資本金とみなして機会費用の計算基礎に含める必要がないかについても検討を行った。 議論の結果、研究開発法人の会計上の実態に着目すれば累積欠損金を控除した後の資本金を基準として機会費用を計算することにも一定の合理性が認められるが、研究開発法人についてのみ特別な取扱いとする合理的な説明が困難であること、また内部留保額を加えることとなれば、経営努力を行った特殊法人等が経営努力を行わなかった特殊法人等に比して行政コストが増大する結果になるという問題が生ずること等から、累積欠損金の控除又は内部留保額の加算はいずれも行わないこととした。 なお、このような会計処理の結果、「研究開発費に充てる資金供給を出資金により行っていること等についての議論を喚起するきっかけにもなろう。」との観点から、累積欠損金を控除しない処理としたものである。 |
(1 | 0) 非課税とされている固定資産税の取扱い 特殊法人等においては、公共性の高い業務を担っているため、業務用の固定資産について、固定資産税が非課税とされている場合がある。このような非課税とされている固定資産税については、行政コスト計算の機会費用に加算する必要があるかについて検討を行った。 非課税とされている固定資産税の取扱いについては、固定資産の利用目的から公共性が高いと認められる場合に限って非課税とされており、特殊法人等が保有する固定資産が網羅的に非課税とされているものではないこと、民間企業においても非課税とされている場合があること等から、機会費用に加算する必要はないとの意見があったが、他方、固定資産税は個々の客体に着目して非課税の整理が行われており、特殊法人等の間でも、統一的な固定資産税の負担とはなっていないことから、行政コストとして認識することが必要との意見もあった。 このような意見を踏まえ検討を深めたが、現行の制度を前提としたコスト認識が適当との整理を行い、非課税とされている固定資産税については、機会費用に加算しない取扱いとした。 |
(1 | 1) 貸付受入金の科目 公庫は、貸付実行(金銭消費貸借契約締結)をもって貸付金の全額を借入者に資金交付することはせず、借入対象事業等の進捗に応じて、その都度貸付資金を交付する方式を採っている。このため、公庫の現行の貸借対照表においては、貸付実行額を貸付金として資産の部に計上するとともに、貸付資金の未交付額については、貸付受入金として負債の部に計上されている。 これは、金銭消費貸借契約が要物契約であり、その成立には金銭の引渡しが必要となるが、公庫においては資金使途の確認や債権保全上の必要から、貸付実行と同時に貸付資金の全額を借入者に交付しない場合があり、その際、貸付金の全部又は一部を借入者名義の貸付受入金として受け入れる形を採ることにより金銭消費貸借契約の成立について問題が生じないようにしているためである。 民間企業の財務諸表には貸付受入金の科目は見られないことから、仮定貸借対照表における表示方法について検討を行った。議論の結果、公庫の貸付業務の実態を踏まえ、貸付受入金については、未貸付額の科目により資産の部に貸付金の控除項目として表示するとともに、その旨を注記において説明することが適当との結論を得た。 |