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「平成17年度予算編成の基本的考え方について」(平成16年5月17日)

平成17年度予算編成の基本的考え方について


平成16年5月17日

財政制度等審議会


平成17年度予算編成の基本的考え方について

平成16年5月17日


財務大臣 谷垣 禎一 殿

財政制度等審議会

会長

 

 
貝塚 啓明


財政制度等審議会・財政制度分科会は、平成17年度予算編成の基本的考え方について、ここに建議として取りまとめた。
政府においては、本建議の趣旨に沿い、今後の財政運営に当たるよう強く要望する。


財政制度等審議会財政制度分科会、
歳出合理化部会及び財政構造改革部会合同会議名簿

                                (平成16年5月17日現在)

 

[財政制度等審議会会長]

 

貝塚 啓明

 

中央大学研究開発機構教授・東京大学名誉教授



[財政制度分科会長
  兼 歳出合理化部会長]

 


西室 泰三

 


(株)東芝取締役会長

 

[財政構造改革部会長]

 

本間 正明

 

国立大学法人大阪大学大学院経済学研究科教授

 

[委員]

 

井上 礼之

 

ダイキン工業(株)代表取締役会長兼CEO

 

 

 

岡部 直明

 

(株)日本経済新聞社上席執行役員論説主幹

 

 

 

幸田 真音

 

作家

 

 

 

笹森  清

 

日本労働組合総連合会会長

 

 

 

佐瀬 守良

 

(株)中日新聞社(東京新聞)論説委員

 

 

 

柴田 昌治

 

日本ガイシ(株)代表取締役会長

 

 

 

島田 晴雄

 

慶應義塾大学経済学部教授

 

 

田近 栄治

 

国立大学法人一橋大学大学院経済学研究科長

 

 

 

立石 信雄

 

オムロン(株)相談役

 

 

 

寺尾 美子

 

国立大学法人東京大学大学院法学政治学研究科教授

 

 

 

中村 桂子

 

(株)JT生命誌研究館館長

 

 

 

野中 ともよ

 

ジャーナリスト

 

 

 

松井 義雄

 

(株)読売新聞東京本社代表取締役会長


<分科会、歳出合理化部会及び財政構造改革部会>

 

[臨時委員]

 

井堀 利宏

 

国立大学法人東京大学大学院経済学研究科教授

 

 

岩崎 慶市

 

(株)産業経済新聞社論説副委員長

 

 

 

岩田 一政

 

日本銀行副総裁

 

 

 

奥田  碩

 

トヨタ自動車(株)取締役会長

 

 

 

北城 恪太郎

 

日本アイ・ビー・エム(株)代表取締役会長

 

 

 

木村 陽子

 

地方財政審議会委員

 

 

 

河野 栄子

 

(株)リクルート取締役会長兼取締役会議長

 

 

 

小林  実

 

(財)地域活性化センター理事長

 

 

 

玉置 和宏

 

(株)毎日新聞社論説委員室顧問

 

 

富田 俊基

 

(株)野村総合研究所研究理事

 

 

 

糠谷 真平

 

独立行政法人国民生活センター理事長

 

 

水城 武彦

 

日本放送協会解説委員

 

 

 

宮本 勝浩

 

大阪府立大学経済学部長

 

 

 

望月 薫雄

 

住宅金融公庫総裁

 

 

 

保田  博

 

関西電力(株)顧問

 

 

 

山口 剛彦

 

独立行政法人福祉医療機構理事長

 

 

 

吉川  洋

 

国立大学法人東京大学大学院経済学研究科教授

 

 

 

吉田 和男

 

国立大学法人京都大学大学院経済学研究科教授

 


[専門委員]

 


秋山 喜久

 


関西電力(株)代表取締役会長

 

 

 

五十畑 隆

 

(株)産業経済新聞社客員論説委員

 

 

 

石  弘光

 

国立大学法人一橋大学学長

 

 

 

今井  敬

 

新日本製鐵(株)相談役名誉会長

 

 

 

岩本 康志

 

国立大学法人一橋大学大学院経済学研究科教授

 

 

 

鈴木 幸夫

 

麗澤大学名誉教授

 

 

 

竹中 ナミ

 

(社福)プロップ・ステーション理事長

 

 

 

田中 豊蔵

 

元(株)朝日新聞社論説主幹

 

 

 

田中 直毅

 

経済評論家

 

 

 

俵 孝太郎

 

評論家

 

 

 

水口 弘一

 

中小企業金融公庫総裁

 

 

 

吉野 良彦

 

(財)トラスト60会長

 

 

 

渡辺 恒雄

 

(株)読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆


(注1) 上記は五十音順。

(注2) ○は建議の起草検討委員。


 

財政制度等審議会・財政制度分科会 並びに
歳出合理化部会及び財政構造改革部会合同部会
審議経過

平成16年
1月30日(金)
財政制度分科会

平成16年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算等について

国民負担率について

平成16年度特別会計予算について

国会提出法案について

当面の運営方針について

4月7日(水)
合同部会

フリーディスカッション

我が国財政の現状と課題

17年度予算編成に向けての課題(防衛、農林水産)

公会計の充実への取組み

予算執行調査について

4月13日(火)
合同部会

17年度予算編成に向けての課題(社会保障、ODA、

 

エネルギー対策・中小企業対策、治安・司法制度改革)

4月21日(水)
合同部会

17年度予算編成に向けての課題

 

 (国と地方、文教・科学技術、公共事業)

5月11日(火)
合同部会

建議(素案)審議

"

5月13日(木)
合同部会

建議(素案)審議

5月17日(月)
財政制度分科会
合同部会
合同会議

建議(案)について



目  次




じめに

17年度の予算編成においても、徹底した歳出改革を推し進める必要がある。これまでの構造改革の成果もあいまって、財政出動なき景気回復が実現しており、16年度予算で基礎的財政収支(プライマリーバランス)も若干の改善を見ている。しかしながら、我が国の財政は、平成16年度末の公債発行残高が約483兆円、公債依存度が約44.6%と見込まれるなど、昭和40年度の公債発行以降最悪の状況が継続している。
今後、少子高齢化が急速に進行する中、現行の諸制度・政策を維持した場合、歳出がますます拡大することが予想される。おびただしい国債の累増とともに、金利上昇に対するリスクを強めており、近年の貯蓄率の低下ともあいまって、財政の持続可能性が脅かされるおそれがある。
政府は、「我が国の人口が2007年頃には減少に転じること、2010年~2015年頃にかけ、これまで労働力人口の中核であったベビーブーム世代が年金受給者となることなどを考慮」し、「2010年代初頭におけるプライマリーバランスの黒字化を目指す」
[1]としているところである。あわせて、少子高齢化が進む中でも社会の活力を維持するため、「政府全体の歳出を国・地方が歩調を合わせつつ抑制することにより、例えば潜在的国民負担率で見て、その目途を50%程度としつつ、政府の規模の上昇を抑制する」[2]との方針が示されている。
こうした中期的な展望を確固たるものとするために、財政制度等審議会財政制度分科会は、平成17年度予算編成についての基本的な問題を審議し、その考え方をここにとりまとめた。厳しい歳出改革を推し進めるにあたり、財政の政策決定と執行に携わる者全てに厳しい反省と自覚を求め、平成17年度予算編成に向けて、本建議が活かされることを期待したい。



.総論

 



当面の財政運営の考え方について

平成16年度予算は、歳出改革路線を引き続き堅持し、一般会計歳出及び一般歳出について、実質的に前年度の水準以下に抑制した。国・地方を通じた基礎的財政収支のGDP比をみても、内閣府の試算によれば、15年度の▲5.2%から0.6ポイント改善し、16年度は▲4.6%と見込まれている。しかしながら、先述したとおり、我が国の財政状況が極めて深刻であることに変わりはない。
現下の経済情勢を見ると、構造改革の成果もあり、国主導の財政出動に頼らなくても、民需が主導する形で着実に回復しているところである。一方、景気回復に伴い、仮に今後金利水準が急激に上昇することとなれば、景気への悪影響が懸念されるだけではなく、現在低く抑えられている利払費が大幅に増加し、財政の急速な悪化を招くことともなりかねない。例えば、金利が1%上昇した場合、国債費は1.2兆円増加(16年度予算ベース)し、その後も累積的に増大していく。こうした状況の下、財政健全化は一層の急務となっている。平成17年度予算編成においても、引き続き歳出改革路線を堅持し、国債発行額を極力抑制するとともに、財政を持続可能なものとするための制度改革を強力に推進すべきである。



.持続可能な財政構造の確立に向けて

   


 当審議会がこれまでの建議でも述べてきたように、財政を将来にわたって持続可能なものとしていくためには、社会保障、国と地方をはじめとした諸制度について、少子高齢化が進行しても維持可能なものとすることが極めて重要である。
例えば、過去10年程度の一般会計歳出の推移を見ると、国債費を除けば、公共事業関係費、文教及び科学振興費、防衛関係費及びその他歳出が横ばいか減少傾向である。これに対し、社会保障関係費及び地方交付税交付金等が大幅に伸びている。更に長い期間をとってみても、社会保障関係費及び地方交付税交付金等の伸び率は、国債費を除く他の歳出を上回っている。制度改革を通じてこれらの経費を抑制していくことが、財政の持続可能性にとって極めて重要であることは論をまたない(資料I-1参照)
他の主要先進国においても、90年代初頭の財政悪化を受けて、その後財政健全化に取り組んだところである。その中でもとりわけ大幅な財政健全化を達成したイタリア・カナダの歳出面に着目すると、これら2カ国では、社会保障制度改革等の結果、高齢化率が上昇しているにもかかわらず、社会保障給付額の対GDP比が減少している。これに対し、我が国では、高齢化率の伸びと軌を一にして社会保障給付額が増加している(資料I-2参照)。こうした施策と歳入面での改善等の結果、イタリア・カナダでは大幅な財政健全化が実現されたのに対し、我が国では財政の著しい悪化がもたらされており、財政健全化に向けて、社会保障給付の伸びの抑制の必要性を示している。
今般、年金改革がとりまとめられたが、引き続き、医療、介護を含め、社会保障全体の改革を進めていくべきである。また、国と地方の改革についても、行政全体のスリム化という観点も踏まえつつ、今後とも推進する必要がある。



歳出改革の方向性について

   


(1


財政健全化に当たっては、上述したような制度改革とあわせ、歳出の量を厳しく抑制することが必要である。その中で、真に必要な行政サービスの水準を維持するため、予算配分の重点化、効率化を通して、歳出の質を向上させることが求められる。このためには、まずは施策間のメリハリを明確にし、国として真に必要で効果の高い施策への絞込みを行うべきである。また、限られた財源の中での重点化を可能とするためにも、その他の分野については、大胆な削減を行うべきである。その際には、単価見直し・コスト縮減、無駄の排除等、行政経費の見直しと削減を徹底して行うべきである。
また、人件費についても、極めて深刻な財政事情、民間における厳しい情勢等に鑑み、業務の効率化・人員配置の適正化を図るとともに、総人件費の抑制に努めるべきである。さらに、公務員給与の在り方について、地域における民間給与の実情等がより一層反映できる仕組みとなるよう、早急に見直しを行うべきである。

   


(2


また、予算とその執行について、透明性及び説明責任(アカウンタビリティー)の確保をさらに図るべきである。このため、一般会計、特別会計から、特殊法人、独立行政法人に至るまで、公的部門全般を対象とする企業会計的手法を活用した省庁別財務書類の作成・公表、予算書・決算書の表示区分の検討など、引き続き公会計の整備に努めるべきである。
また、予算が実際にどのように使われたかを説明し、その効果を検証することも重要である。このような結果重視のアプローチとして、引き続き、「PLAN(編成)-DO(執行)-SEE(評価・検証)」のプロセスを強化していくべきである。このため、財務省においては、本年度、特別会計の15事業を含む53事業を対象とするなど予算執行調査の充実に努めているところであるが、その調査結果を17年度予算に適切に反映させるなど、チェック・アクションの強化が重要である。
なお、一部において不適正な予算執行事例が明らかとなったことは極めて遺憾である。各省庁における厳正な予算執行の確保を強く求めたい。

   


(3


)歳出改革の取組みは、一般会計のみならず特別会計も対象とすることは当然である。当審議会としては、全ての特別会計を対象とする総ざらい的な検討を実施し、昨年11月、見直しの基本的考え方と50項目を上回る具体的方策を提言
[3]したところである。
政府においては、この提言等を踏まえ、平成16年度予算において、事務事業の見直しによる歳出の合理化・効率化や、一般会計繰入や借入金の縮減等の歳入面の見直し等を行うとともに、特別会計の説明責任の向上のため、歳出の内容等について新たな説明資料を作成・公表するなど、様々な取組みを進めている。
こうした取組みは、国全体としての歳出の合理化・効率化に向けた大きな一歩であると評価できるが、特別会計については昨年度の提言に沿った不断の見直しと国民的視点からの執行に対する厳正なチェックが必要であり、引き続き、改革努力を継続するよう求めるとともに、当審議会としても財務省の行う予算執行調査結果等を踏まえつつ、特別会計に関する改革の履行状況について注視していくこととしたい。


II


.各論

 



社会保障

社会保障の給付と負担は、今後、急速な少子高齢化の進展に伴い、経済の伸びを大きく上回って増大していくことが見込まれている。今般、年金制度について、将来の保険料上限を固定し、給付を自動的に調整する方策を講じるなど、長期的な給付と負担の均衡を図ることを目的とした改革を行うこととしている。これにより給付を抑制してもなお、2025年度の国民負担率(財政赤字を含む。)は50%を大きく超えるものと見込まれる。特に、給付の伸びは高齢者向けにおいて著しく、国民負担の増は現役世代に偏って圧し掛かり、世代間の不公平が拡大する(資料II-1-1参照)
このように現行制度は、現役世代を中心とする国民負担が大幅かつ急激に増大していくことを前提とした給付設計となっている。このような公的給付の水準を将来世代が持続的に支え得るかについて重大な懸念があり、このまま政府の規模の拡大を放置すれば国民の将来不安を惹起し、我が国の経済社会に重大な影響を及ぼしかねない。
今後の社会保障制度改革に当たっては、年金、医療、介護等を総合的に捉え、負担の総量の抑制について、明確な目標と時間軸を国民に明らかにして改革に取り組む必要がある。具体的には、「今後の一層の少子高齢化の進行の下で、政府の規模を抑制するとの方針」(「基本方針2003」)を踏まえ、社会保障給付費の水準について中期的な目標を定め、それと整合的な形で制度改革を推進し、毎年度の歳出規模を抑制していくべきである。
とりわけ、社会保障分野においては施設の設置運営・資金運用・事務の効率性・保険料の未納・未加入問題等をめぐる国民の厳しい批判があり、制度に対する信頼を回復するため、厳正な業務執行を求めたい。
改革に当たっては、世代間・世代内の公平を図り、個々人がその能力に応じて制度の支え手に回るようにする必要がある。特に、高齢者の給付と負担については、高齢者像の転換を踏まえ、年金、医療、介護その他の福祉について制度横断的かつ一体的に、その在り方を見直し、高齢者に対して制度の持続性回復に積極的な貢献を求めていく必要がある。また、社会福祉の役割について、『保護・救済型』から、『自立支援型』への転換を進め、人々の自立と誇りの精神に立脚した制度とする必要がある。
また、公的給付を抑制する一方で、社会保障分野における国民の多様なニーズに的確に対応した、質の高いサービスを効率的に実現し、併せて経済活性化、雇用創出にも資するという観点から、保育、介護、医療等の分野における規制改革の推進、民間保険の思い切った活用等を図っていく必要がある。
平成17年度の社会保障関係費は、「平成16年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」(平成16年2月財務省)によれば、対前年度1.1兆円の増が見込まれている。一般歳出の約4割を占め、年々増加する社会保障関係費の抑制を図ることは、我が国財政上、最大の構造問題である。平成17年度の具体的な予算編成に当たっては、現行の制度、給付水準、単価などを前提とした社会保障関係の自然増を放置することは許されず、概算要求段階から制度改革による公的給付の抑制により削減を図ることが必要である。以下、17年度に向けて、介護、生活保護、医療、雇用について具体的な改革の方向性を述べる。

   


(1


)介護

介護保険制度については、これまで給付費が10%を超えて伸びており、これを支える保険料・公費負担も急増している。保険料についてみれば、65歳以上の高齢者が支払う1号保険料月額について、全国平均で、第1期(12~14年度)から第2期(15~17年度)の間に、2,911円から3,293円と13%増加するとともに、40歳から64歳までの者が支払う第2号保険料の1人当たり平均月額が、2,264円(12年度確定額)から3,472円(16年度概算額)へと53%も増加している。現行制度のままでは、当面この傾向が続くものと見込まれている。
更に、厚生労働省の長期推計においては、給付費が2025(平成37)年度までに、金額で約4倍(5兆円⇒19兆円)、対国民所得比で2倍強に増加(平成16年5月厚生労働省長期推計)し、国民経済の伸びと大きく乖離していくものと見込まれている。
介護保険法附則を踏まえ、17年度において制度改革が予定されている。当審議会は、昨年の「6月建議」
[4]及び「11月建議」[5]において、主に以下のような改革の方向性を提示してきたが、17年度の改革に向けてその実現を図るべきである。

     



自己負担割合の見直し

利用者の自己負担率の2~3割への引上げによりコスト意識を喚起すべきである。既に高齢者医療における負担水準の方が高いだけでなく、もともと、介護保険制度が若年者の医療保険制度に依存した仕組みであることを踏まえれば、介護保険においても若年者の医療保険の自己負担率の水準まで引き上げることにより均衡を図るべきである。

     

.給付範囲の見直し

在宅と施設のバランスを踏まえ、施設におけるホテルコスト、食費等を公的保険の給付対象から除外するとともに、軽度の者については重度化の防止を重視し、給付を見直すほか、一定額までの保険免責制度を導入することを検討すべきである。

     

負担の公平

現在の制度では、負担軽減措置を受けることの出来る低所得者の判定基準を住民税に拠っているため、対象者の割合が相当に高くなっているが、世代内の公平を確保する等の観点から、今後は、その範囲を低収入で低資産の者に限定することが適当である。また、受給者の死後、残された資産により費用を回収する仕組みも検討すべきである。

     

.保険者機能の強化、民間参入の更なる促進

公正で効率的な運営を行うため、要介護認定や、不正請求の防止等について保険者機能を強化するとともに、給付と負担に関して保険者責任を徹底することが必要である。また、介護施設を含め更なる民間株式会社の参入促進を図るべきである。

     

 更に、介護保険事業計画の策定時に、公的保険の給付対象については、全国的に標準的な給付量あるいは給付の伸び率を設定する総額管理あるいは伸び率管理方式を導入することも検討すべきである。また、地方公共団体での事業計画策定の際に、施設だけでなく、在宅サービスについても、計画値を超える分について、公的保険の給付対象としては供給調整させることも検討すべきである。
給付費の増大を抑制し、国民経済・財政と均衡のとれた制度に切り替えるため、公的保険としては、その支え手が負担可能な水準の範囲内で効率的かつ公正に給付を行う仕組みとなるよう、抜本的に制度を再設計すべきである。

   


(2


)生活保護

近年、高齢化の進展や経済活動の低迷等を受けて生活保護受給者が急増してきている。
生活保護は国民生活の最後のセーフティネットとしての機能を有するものであり、真に困窮した自立不可能な者に最低限度の生活を保障することを目的とするものである。しかしながら、1受給者に一定の収入を保障するものであるが故に、保障水準やその執行状況によっては、モラルハザードが生じかねず、かえって被保護者の自立を阻害しかねない、2一般の低所得者層との間で可処分所得に逆転現象を生じている、等の点が指摘されてきた。
また、生活保護の認定等に当たって、資産、能力等すべてを活用した上でも、生活に困窮する者との要件が徹底していないとの指摘もある。更に言えば、被保護者に対しては、生活保護制度及び他制度・他施策を活用して、その自立を推進していくことが重要であるが、各種の福祉施策が却って本人の福祉依存の意識を助長し、能力の活用・就労に向けた意欲を阻害している例もあるとの指摘もある。
更に、地域における保護率については、地域経済・雇用情勢に差異があるものの、1.7‰から31.3‰(ともに平成14年度平均保護率)と20倍近い差も生じている。
なお、予算執行調査の際にも、地方公共団体の担当者から、制度見直しに関する様々な意見
[6]が寄せられたところである。
このため、制度・運営面について、

     

 生活扶助基準・加算の適正な引下げ・廃止

     

 各種扶助の在り方の見直し

     

 扶助の実施についての定期的な見直し・期限の設定

     

 国・地方の適切な役割分担による地方公共団体の執行の適正化に向けた取組みの促進

     

の観点から、多角的かつ抜本的な見直しが必要である。

     

生活扶助基準の見直し

生活扶助基準については、一般の低所得者層と生活保護受給世帯との間で消費可能額に逆転現象を生じているとみられることから、適正な引下げを行うことが必要である(資料II-1-2、II-1-3参照)

     



.母子加算等の見直し

被保護者の属性に着目して、一律に適用される加算については、一般世帯との均衡がとれていないことから、必要性について検証した上で、見直すことが必要である。特に、母子家庭に認められる母子加算については、生活保護を受給する母子世帯の生活扶助基準額が一般の低所得の母子世帯でのそれに相当する消費支出を大きく上回り、中位の所得水準の母子世帯(第III-5分位)よりもなお高いことを踏まえると、廃止することが適当である(II-1-4参照)

     

地方公共団体における取り組み等

生活保護制度や関連する諸施策においては、直接住民と接する地方公共団体が、執行の適正化や自立・就労支援の推進の観点から、一体的かつ積極的に取り組むこと-例えば、生活保護費の半分を占める医療扶助について、長期入院患者等の入院解消やレセプト点検等により適正化を図る等-が期待されるところである。
こうした生活保護の現状に鑑みれば、三位一体の改革に関する政府・与党協議会の合意(平成15年12月)
[7]を踏まえ、生活保護費負担金について所要の見直しを行い、平成17年度に実施することが必要である。

   


(3


)医療

公的医療費の伸びの抑制を図り、経済・財政と均衡のとれた、将来にわたり持続可能な医療保険制度への改革を早期に実現する必要がある。特に、高齢者医療費は、現在の水準・伸びを放置した場合、2025年度には国民医療費の6割
[8]を占め、これを支える現役世代の負担が過重なものとなることから、その伸びの抑制と、世代間・世代内の負担の公平を図ることが重要である。
次期医療制度改革においては、

     

 「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針」(平成15年3月28日閣議決定)の具体化、

     

 「基本方針2003」に盛り込まれた「基本方針」以外の課題(公的保険の内容及び範囲の見直し、高齢者医療費の伸びの適正化方策等)

   


について、以下のような観点から、早期に実施する必要がある。

     

.公的保険がカバーする疾病、医薬品等の範囲の抜本的見直し

医療需要の増大と多様化に対応しつつ、公的保険を持続的に保つため、公的保険がカバーする範囲を根本的に見直し、保険診療と自由診療の組み合わせを拡大する。

       

 いわゆる混合診療、差額ベッド等限定的に認められている特定療養費の抜本的拡充(先発薬の使用等)

       

 医薬品等に係る保険適用の見直し(市販類似医薬品等)

       

 医療・介護を通じた入院入所者に係る日常生活費用(食事、ホテルコスト等)に対する保険適用の在り方の見直し

       

 一定金額までの医療費を全額自己負担とする保険免責制度の導入 等

     



高齢者医療コスト等の縮減

医療コスト(特に高齢者医療コスト)を縮減し、公的医療費の伸びを経済・財政とバランスのとれたものに抑制する。
このため、入院医療全般の診療報酬の包括払い化
[9]を進めるとともに、高齢者医療費の伸びと経済の伸びの整合性を確保するための仕組みを検討する。包括払い化に当たっては、社会的入院や過剰診療の解消につながる仕組みとする必要がある。

     

.地域・保険者の医療費適正化への取り組み

保険者の再編・統合を推進するとともに、都道府県単位での自立的な保険財政運営を確立し、医療費の地域差部分の適正化を促す仕組みの導入、保険者機能の抜本的強化(レセプト点検の強化、保険者と医療機関の直接契約の推進等)、医療のIT化(電子カルテ、レセプト電算化等)の推進など、地域・保険者の医療費適正化への取り組みを強化する。

     

.世代間・世代内の保険料負担の適正化 

高齢者医療制度の見直しとあわせて、若年者との保険料負担の均衡の確保、所得や資産等に応じた負担の観点から、高齢者の保険料の具体的水準や賦課方法を見直す。

     

.医療提供体制の再構築・効率化

診療所のかかりつけ医機能の強化、地域における病院と診療所の機能分担の明確化・連携強化を図る。特に、病院について、過剰病床の削減など提供体制の効率化を図るとともに、その機能を急性期・高度医療に特化し、外来患者の大病院シフトを是正する必要がある。

   


(4


)雇用

雇用情勢については、依然として厳しいものの、持ち直しの動きが見られる。また、改善状況には地域間で格差が生じている。このため、地域経済の活性化や地域雇用の創出に地域が主体的に取り組む地域再生を推進するとともに、規制改革や行政サービスの民間開放を積極的に実施することにより、新たな雇用創出を図っていく必要がある。
雇用対策については、多様な働き方や円滑な労働移動等の実現による就業機会の確保を図るため、引き続き、1雇用維持支援から労働移動支援へ、2雇入れ助成からミスマッチ解消へ、3生活支援から早期再就職支援(自立支援)への観点から重点化を進めるなど、メリハリのある見直しを行うべきである。その際、厳格な事前チェックに加えて、効率的・効果的な事業運営を確保するため、事業の性格を踏まえ、事業ごとに定量的な成果目標を設定するとともに、実績について厳格な事後評価を行った上で、事業の見直しを行う必要がある。
また、再就職支援や能力開発等に係るサービス水準の向上・多様化、施策の効果的・効率的実施の観点から、民間のノウハウの積極的活用(官から民へ)、地域の実態を踏まえた施策の実施(国から地方へ)に取り組む必要がある。



.国と地方

   


(1


)基本的考え方

「地方にできることは地方で」の原則の下、地方の自立を実現するためには、地方公共団体が行う行政について受益と負担の関係がその地域の住民に明確に認識される中で、できる限り住民の自由な選好に委ねて地域の特性を活かし、地方公共団体の自身の努力と責任による行財政運営を行う必要がある。この地方分権に向けた改革のプロセスにおける各地方公共団体の創意工夫が地域の活性化につながる。
そのため、補助金改革等を通じて国の関与を縮減し地方の権限・責任の拡大を図るとともに、地方公共団体が国への財政的依存の状況から脱却するため、引き続き地方交付税について「自立支援型」の改革を行うことが求められている。この場合、あらゆる行政分野において、国が地方に事務事業の実施を求めた上で補助金や地方交付税により財源を保障する、というこれまでのやり方を転換する必要がある。
また、国と地方を通じた行財政改革を強力に推進していくに当たっては、国と地方が共通の認識に立ち互いに協力していくことが重要である。このため、国と地方公共団体の間の意思疎通を図るとともに、国民(住民)への分かり易い説明に努めることが求められる。

国と地方の問題を考えるに当たっては、基礎的財政収支(プライマリーバランス)など、国と地方それぞれの財政事情を十分踏まえる必要がある(資料II-2-1参照)

   


(2


)地方財政

     



.地方財政計画を通じて地方歳出の財源を保障する現行の地方交付税の仕組み(財源保障機能)については、これまでの建議でも指摘してきたように、多くの分野でナショナル・ミニマムが達成されたと考えられる今日では、地方公共団体の負担感が希薄なままに歳出増加を招いている。また、交付税による財源保障は、地方公共団体が国へ財政的に依存し、地方の自主性・自立性が生まれにくい状況を作り出している。その結果、増加した地方交付税が国の財政の大きな圧迫要因となっている(資料II-2-2参照)
地方交付税の財源保障機能の見直しに当たっては、まず、地方財政計画の歳出を徹底して見直し、その規模を縮小し、地方交付税の総額を抑制すべきである。
さらに、地方の財政運営にモラルハザードをもたらしている財源保障機能を将来的に廃止し、税収の偏在に伴う財政力格差を是正する機能(財政調整機能)に限る仕組みとするべきである。これにより、地方公共団体における受益と負担の関係を明確化することが重要である。

このような観点から、当面は、地方交付税の総額抑制に加えて、地方行革への取組み等による歳出削減、課税自主権発揮による歳入確保といった、地方分権に向けた地方公共団体の自助努力を促すための工夫が求められる。また、地方交付税総額の抑制を通じて、地方交付税に依存しない不交付団体の数を増やしていくことも重要である。

     



.平成17年度の地方の財政事情は、引き続き厳しいと考えられ、地方の健全な財政運営を目指して、地方財政計画の歳出各項目を引き続き見直し、地方財政計画の規模を厳しく抑制することが重要である(資料II-2-3参照)
まず、平成16年度の地方財政計画策定に当たり、投資的経費(単独)は実態に一歩近づけられたが、計画計上額が地方公共団体の実際の執行額を大幅に上回る項目については、計画への計上額を実態に合わせて削減する必要がある。投資的経費(単独)の執行額は、13年度決算において、計画額をなお6兆円余りも下回っており、引き続き徹底した見直しが必要である。
また、投資的経費(単独)等の歳出の額は、地方財政計画の中で「標準的な」水準として決定される。しかし、現実には、既に述べたように、投資的経費(単独)の執行額は計画額を大幅に下回っており、その分は財源が過大に付与されていたことになる。つまり、この投資的経費(単独)について過大に計上された財源は、「標準的な」水準を超える給与関係経費や一般行政経費(単独)といった他の支出に充てられている。
しかも、投資的経費(単独)とは逆に、実態の額が計画額を大幅に上回っている給与関係経費と一般行政経費(単独)については、その内容のデータが乏しく、地方財政計画において付与された財源が実際にどのように使われているのかがよく分からない。今後、地方財政計画の策定に当たっては、国民に対する説明責任の観点から、これらの支出をはじめ、地方の歳入歳出の内訳等の実態を明らかにすべきである。更に、個々の地方公共団体においても、歳入歳出の透明性を高めるべきである。

     



.また、給与関係経費については、まず、地方公務員給与の実態を国家公務員の給与水準を踏まえて調整した上で、地方財政計画に計上することが原則である。地方の技能労務職員(運転手、清掃職員等)の給与等については、16年度の地方財政計画において、国家公務員(行(二)適用職員)の給与水準を踏まえた調整を一部行っており、あるべき姿に向けた第一歩と言える。
しかし、地方公務員給与については、各地域における民間給与の水準との比較が適正に行われていないこと(資料II-2-4参照)や、退職手当について国の水準を上回って支給されていること等、種々の問題が指摘されており、厳しく見直して地方財政計画の策定に反映させていくべきである。

     



.さらに、補助事業に係る地方負担(いわゆる補助裏)や地方債の元利償還費等について財源保障の範囲を見直すこと、地方財政計画の策定に当たって行革などの歳出削減や課税自主権発揮等による歳入確保に関する自助努力を求める形とすることといった課題に引き続き取り組むべきである。

     



.地方交付税の算定方法については、国民や地方公共団体に分かり易い客観的な基準で配分額を決定する単純・簡素な仕組みとするよう引き続き取り組むことが必要である。
また、地方債の元利償還費に対する交付税措置は、地方歳出を安易に増加させる原因となっており、地方公共団体の効率的な財政運営を促進する観点から、引き続き見直しを進めることが必要である。

     



.地方向け補助金等については、(3)に述べる通り、「基本方針2003」等を踏まえて、国の関与を縮減して地方の自主性と裁量性を拡大するとともに、国・地方を通じた行政のスリム化を図る観点から、引き続き改革を推進するべきである。

     



.税源移譲については、「基本方針2003」において、補助金改革の結果、廃止される補助金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについて、個別事業の見直し・精査を行った上で、実施することとされている。また、三位一体の改革に関する政府・与党協議会の合意(平成15年12月)を踏まえ、平成18年度までに、所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実現することとされている。
税源移譲については、地方分権と地方行財政改革を目指すいわゆる三位一体の改革の中で、国庫補助負担金及び地方交付税の改革とともに一体として進められるべきである。
税源移譲を行う場合、地域間の税収の偏在が更に拡大することになるが、地域間の税収の偏在を如何なる方法で調整するのか、今後、富裕団体からの財政調整を含め、検討が必要である。
また、国と地方それぞれの財政事情、債務残高の取扱い、地方の課税自主権発揮の状況、国税が巨額の国債の貴重な償還財源であり国債への信認の担保となっていること等を踏まえるべきである。

   


(3


地方向け補助金等

     



.平成16年度予算においては、「基本方針2003」及び総理指示(平成15年11月21日閣僚懇談会)等を受け、地方向け補助金等について「1兆円」の改革が実施された(資料II-2-5参照)
その際、補助対象事業の見直しについて地方の自主性・裁量性を拡大する方向が基本とされたほか、公共事業関係補助金や奨励的補助金をはじめ国庫補助負担金の大幅な量的縮減が実施されており、引き続き、こうした方向での見直しを更に推進していく必要がある。

       

 例えば、義務教育費国庫負担制度に関し、教職員の給与水準等について「総額裁量制」が導入されたほか、農業委員会の設置に係る必置基準面積の引き上げなど、「基本方針2003」における「重点項目」を中心に見直しが実施されたが、これらを含め、地方の自由度を拡大するための改革を更に推進していく必要がある。

       

 また、公共事業関係補助金の削減や奨励的補助金の削減等が実施されたが、納税者の視点に立って、引き続き、改革の成果をあげていく必要がある。

     



.平成16年度予算において「1兆円」(1兆313億円)の改革が実施された一方、医療・介護・福祉等の社会保障関係の補助金の大幅な増加等により、地方向け補助金等の総額は、15年度と比較して368億円増加した(総額約20.4兆円。一般会計17.6兆円、特別会計2.8兆円)。
地方向け補助金等を内容別に見た場合の増減を15年度と比較すると、公共事業関係、文教・科学振興関係の補助金が減少したにもかかわらず、社会保障関係の増加(約11.1兆円→約11.7兆円)により総額が微増する結果となっている(資料II-2-6参照)。地方向け補助金等全体の中で社会保障関係の補助金は約6割を占めており、その改革は財政全体のみならず、国と地方の改革を進めていく上でも不可欠の課題である。

     



.補助金改革については、平成17年度及び18年度に3兆円程度を目指し改革を行うため、今後、その取り組みを更に推進していく必要がある。
その際、「基本方針2003」で示された視点を踏まえ、個々の補助金等に係る事務事業の見直しを行い、国の関与を縮減して地方の自主性・裁量性を拡大するとともに、国・地方を通じた行政のスリム化を図るべきである。
このため、平成16年度予算において「まちづくり交付金」が創設されたように、今後、補助対象事業そのものや補助金交付に伴う種々の義務付けを出来る限り廃止・縮減する方向で見直しを進め、個別地域の実情に即した事業実施が可能となるよう、地域の視点を重視した見直しを行うことが望まれる。
また、新規の補助金創設については、これを厳に抑制するとともに、「国庫補助負担金等整理合理化方針」に沿った見直しを引き続き推進すべきである。

     



.また、三位一体の改革に関する政府・与党協議会の合意(平成15年12月。資料II-2-7参照)においては、生活保護費負担金の見直しを平成17年度に実施することとされているほか、義務教育費国庫負担金については、平成18年度末までに全額の一般財源化について所要の検討を行うこととされ、学校事務職員分に係る取り扱いについては、その所要の検討を行う中で結論を得ることとされている。
従って、平成17年度以降の補助金改革を推進していくに当たっては、「基本方針2003」に加え、これらの合意事項も踏まえて改革内容を検討していく必要がある。

     



.更に、社会保障関係の補助金の大幅な増加を踏まえれば、今後、社会保障制度改革を通じて、国・地方を通じた国民負担の伸びの抑制を図り、持続可能な負担で将来も安定的に運営できるセーフティネットを構築するとともに、地方向け補助金等の増加を抑制していく必要がある。その際、社会保険の事務事業のあり方やその財源構成のあり方についても検討を行う必要があると考えられる。



公共事業

   


(1


我が国の社会資本整備は、戦後一貫して高水準の公共事業が行われ、特に90年代に景気対策としての公共投資の追加が繰り返し行われたこともあって、格段に進捗し、社会資本は概ね整備されつつある。また、我が国の社会・経済を見ると、人口が今後減少傾向になり、高齢化の一層の進展が見込まれるほか、潜在成長率が低下し、産業構造が変化するなど、大きく変化してきている。今後は既存ストックの有効活用がさらに重要な課題になる。

   


(2


我が国の公共投資の総額は、このような社会資本整備の進捗等を踏まえ、厳しい財政事情の下で、平成14年度以降、縮減されてきたところであるが、公共投資の対GDP比は、諸外国と比較すると依然として高い水準にあり、今後とも、主要先進国の水準も参考としつつ、中期的に引き下げていく必要がある(資料II-3-1、II-3-2参照)。「改革と展望」においても、平成18年度までの間に景気対策のための大幅な追加が行われていた以前の水準を目安に、公共投資の重点化・効率化を図っていくとの方針が示されているところである。

   


(3


また、公共投資については、社会資本整備の着実な進捗や社会・経済の変化を踏まえ、投資効果の高い事業への重点化を図ってきているが、平成17年度においても、引き続き着実に重点化を推進するとともに、コスト縮減や事業評価の徹底により、一層の効率化を図る必要がある。

   


(4


公共投資の重点化については、具体的には、以下の観点を踏まえた重点化を行う必要がある。

     



国の役割の重点化

国と地方を通じた投資のスリム化を図る中で、国の役割は、国家的・広域的な政策課題への対応に重点化すべきである。地方が自主性・裁量性を持って、地域に見合った社会資本整備を進めるとの観点からも、公共事業の分野においても補助金のスリム化や交付金化等を着実に進めていく必要がある。

     



.事業の目的・成果に踏み込んだ重点化

引き続き、事業の目的・成果に踏み込んできめ細かく重点化を図る必要がある。「平成16年度予算編成の基本方針」(平成15年12月5日閣議決定)にあるように、上下水道、大規模ダム、都市公園、地方道、地方港湾、地方空港等の事業は引き続き抑制する。他方で、三大都市圏環状道路、中枢国際港湾、大都市圏拠点空港等の競争力の向上に直結する投資、民需を誘発するような投資や地方の自主性・裁量性を尊重する事業については、重点的に取り組むべきである。
また、農林水産関係の公共事業については、構造改革の推進の観点から、関連するソフト施策との連携を重視し、産業基盤の整備に着目した公共事業から公共事業以外の政策手段への転換を一層進めるべきである。

     



.投資箇所の重点化

公共投資の投資効果を上げるためには、各事業の事業箇所についても、事業評価の活用等により、より効果の高い箇所に対象を絞り込む必要がある。また、公共事業の地域計上に係る事業についても、国と地方の役割分担や投資効果の観点を踏まえる必要がある。

   


(5


公共事業については、依然として、無駄が多い、コストが高い、透明性が低いといった批判が強く、国民の間に不信感が強い。引き続き、効率化・透明化のため、公共事業コスト構造改革、事業評価等の取り組みを徹底する必要がある。また、事業評価については、予算編成への活用の在り方について、更に検討を進めるべきである。



.文教・科学技術

   


(1


)文教予算

     



.初等中等教育
(資料II-4-1、II-4-2参照)

初等中等教育については、近年、少子化が進展する中で、現行の義務教育費国庫負担制度の下、児童・生徒一人当たりの公教育予算が拡大してきた
[10]。それにもかかわらず、学力低下への懸念、全国画一的な教育への批判等の問題は依然として解決されていない。このような状況を踏まえると、児童・生徒一人当たりの公教育予算の量的拡大を目指すのではなく、地方の自由度拡大により、国、地方公共団体など義務教育に関与する者の創意工夫を幅広く活用して、公教育の質の向上を図ることが重要である。
このような観点から、義務教育費国庫負担金については「基本方針2003」や三位一体の改革に関する政府・与党協議会の合意(平成15年12月。資料II-2-7参照)において、全額の一般財源化について所要の検討を行うこととされており、引き続き、地方の自由度をさらに拡大するための改革を進めていくべきである。そのような改革を進めるためにも、教員給与の優遇措置(「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」)や教職員定数の在り方(「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」、「第7次定数改善計画」)について、関連法の廃止も含めた抜本的見直しが不可欠である。
また、これまでの建議で長年にわたり提言されてきた義務教育教科書無償給付制度について、受益者負担等の観点から、貸与制の導入も含め有償化の実現に向けた検討を進めるべきである。

     



.高等教育
(資料II-4-3参照)

高等教育に対する公的支援に関し、諸外国との比較により量的拡大が必要との議論も一部に見られるが、これについては、我が国における高等教育の位置付けや教育分野別の資源配分、受益と負担の在り方等に関する慎重な検討が必要である。また、教育・研究の質的向上を図るには、既存の機関補助による支援策から、国立大学間、国公私を通じた競争原理に基づく支援へのシフトを促進することが重要である。
また、平成16年4月に法人化された国立大学への財政支援については、各大学の自主的・自律的経営判断に基づく効率的な運営を求めつつ、客観的かつ厳格な事後評価により支援の重点化を図るとともに、運営費交付金の算定基礎となる学生納付金標準額の水準に関しては、受益者負担の徹底、自己収入確保の努力を踏まえて設定する必要がある。

     



文化予算

文化芸術活動への支援については、国の取組みだけではなく、個人や企業、自治体等の多様な主体による支援活動が求められる。国は近年重点的な予算配分を行ってきているが、限られた資源のより一層の有効活用を図る観点から、個々の施策の特性に応じて、厳正な評価の実施や施策の有効性・費用対効果の分析等を行い、国民への説明責任を果たしていく必要がある。

   


(2


) 科学技術予算

我が国の科学技術予算は、近年の厳しい財政事情の中でも大幅に拡充されてきており、政府による研究開発投資の総額については、第2期科学技術基本計画にある対GDP比で欧米主要国並の水準を確保するとの目標は達成されつつある(資料II-4-4参照)。我が国においては民間企業の自発的な研究開発投資が活発であることを踏まえ(資料II-4-5参照)、政府の研究開発投資については、単に諸外国との量的な比較に基づくのではなく、民間による研究開発投資が期待できない分野を厳選し措置すべきである。
科学技術予算の一層の質的向上を図っていく必要があり、そのため、総合科学技術会議による科学技術関係施策の優先順位付けを踏まえつつ、質の高い研究開発プロジェクトを厳選し、科学技術の重点4分野
[11]に対する資金配分の重点化とその他の分野[12]における効率化・合理化を一層推進する必要がある。この際、優先順位付けが分野間、省庁間等の資源配分の重点化・効率化にどのような効果があったかを検証し、優先順位付けの改善等更なる対応を行っていく必要がある。
科学技術予算の拡充に伴い、研究資金が果たして質の高いプロジェクトや研究者に的確に配分されているのかという課題がある。また、不正経理問題など、研究費の不適切な使用事例が散見される。エフォート(時間)管理の強化を通じた特定の研究者への資金集中の排除、研究者の実績ではなく研究計画をより重視した審査の徹底などを積極的に推進していく必要がある。
更に、評価の充実・強化を通じた既存の研究開発プロジェクトの見直しや中止を積極的に行っていく必要があり、こうした評価を着実に実施し、その結果を資源配分に反映させていく具体的制度作りが急務となっている。なお、納税者への説明責任(アカウンタビリティー)を果たすため、事前の明確な目標設定と評価の客観性の確保が求められる。



防衛

   


(1


我が国の安全保障をめぐる環境は、近年、以下に見られるように、大きな変革期を迎えている。

     



我が国に対する本格的侵略事態生起の可能性は低下する一方で、弾道ミサイルの拡散の進展や国際テロ組織の活動など、新たな脅威等への対応が我が国を含む国際社会の差し迫った課題となっている。

     



インド洋やイラクへの自衛隊派遣など、我が国を含む国際社会の平和と安定のために主体的・積極的な取り組みが求められている。

     



有事関連法制の整備及び弾道ミサイル防衛(BMD)システム整備の決定等を踏まえ、将来を展望した防衛力の整備を目指す必要がある(資料II-5参照)

   


(2


こうした環境変化に適切に対応していくためには、我が国の防衛力全般について見直しが必要であり、政府として、今年末までに、新たな防衛大綱及び中期防衛力整備計画を策定することとしている。
その際、我が国の厳しい経済財政事情等を勘案し、自衛隊の既存の組織・装備等の抜本的な見直し・効率化を行い、防衛関係費を抑制していく必要がある。

   


(3


17年度予算は、新たな防衛大綱及び中期防衛力整備計画の初年度の予算として、自衛隊の組織・装備等の見直し・効率化を適切に反映したものとする必要がある。
また、引き続き、正面契約の抑制、装備品の調達等に際しての単価の見直し、発注の適正性・透明性の向上、コスト低減等の課題に積極的に取り組み、防衛関係費の合理化・効率化を図っていく必要がある。



政府開発援助(ODA)
(資料II-6-1、II-6-2参照)

   


(1


昨年8月に閣議決定された新ODA大綱では、ODAの目的として「国際社会の平和と発展に貢献し、我が国の安全と繁栄の確保に資すること」が掲げられるとともに、ODAの戦略性、機動性、透明性、効率性を高める必要性が強調されている。かかる観点を踏まえ、ODAについては、引き続き国益重視の理念を実現すべく、国民の理解を得つつ、国際情勢に機動的に対応するとともに、援助対象の重点化、評価の充実、関係者間の連携強化等を通じて徹底した戦略性、透明性、効率性の向上に努めていく必要がある。

   


(2


ODA予算については、我が国の極めて深刻な財政事情や国民のODAの効果、効率性に対する厳しい見方に鑑み、これまで縮減を図ってきたところである。平成17年度予算においても、量重視の考え方から質重視への転換を進めつつ、地域・形態を問わず、徹底した効率化・援助効果の最大化を図り、国際機関への拠出金を見直す等、その内容を厳しく精査し、引き続き予算規模の縮減を図っていくべきである。

   


(3


また、ODA予算が減少する一方、国連分担金(一部ODA)やイラクへの自衛隊派遣費用等、国際貢献に関する財政支出は年々増大しており、厳しい財政状況に鑑みれば、引き続きODAを含むこれら経費全体の圧縮を図る必要がある。



.農林水産

   


(1


)農業の構造改革 

     



農業分野においては、特に土地利用型農業において依然として零細な生産構造が残されたままとなっている。農業の競争力強化を図るためには、効率的かつ安定的な経営体(「担い手」)が農業生産の相当部分を担う生産構造の確立が必要であり、農業者全体を対象とした一律的な施策について見直しを行い、施策を担い手へ集中させることを基本とした農政改革を着実に進展させていくべきである。また、農業における多様な担い手の参入・活動を促すため、助成措置の見直しのみならず、農地制度といった規制措置についても積極的に改革を進めるべきである。

     



WTOやFTA交渉が進展する中、貿易自由化は政府全体として推進する必要がある。このため、農業分野においては内外の生産コストの格差を縮小することが必要であり、構造改革をさらに進めることによる農業の競争力の強化を図るべきである。

     



他方、「貿易自由化の代償として農家への直接支払を導入すべき」という議論があるが、これについては、そもそも農業者のみ国が所得の補償を行う必要性や有用性があるのか、また、現状の零細な農業構造を固定化させたり、農家の経営努力を阻害したりするのではないか、等の慎重に検討すべき問題があることにも留意する必要がある。

   


(2


)食糧管理特別会計の健全化

食糧管理特別会計は、平成16年度予算において、単年度の収支均衡を実現したものの、依然として多額の繰越損失を計上しており、米の備蓄の効率的な運用、麦政策の見直しなどを進め、引き続き健全化を図る必要がある。
特に、麦政策については、生産構造の改革の推進、需要と生産のミスマッチの解消を図るためにも、国内産麦に対する現行の一律的な助成を早急に見直すべきである(資料II-7-1参照)

   


(3


中山間地域等直接支払制度の見直し

中山間部における耕作放棄地の発生防止等を目的とした中山間地域等直接支払制度は、平成16年度に対策期間が終了する。自律的な農業生産活動によって農用地の維持・保全が行われる姿を基本に、廃止を含め抜本的な見直しを行うべきである(資料II-7-2参照)



.エネルギー対策
(資料II-8参照)

 



平成17年度予算においては、引き続き、エネルギーの安定供給の確保や温室効果ガスの排出抑制等に向けて適切に対応していくとともに、施策の効率化・重点化により、特別会計の不用・剰余金の縮減を図ることが重要である。
具体的には、1省エネルギー・新エネルギー対策については、予算執行調査等により事業の効果を検証し、公的支援の必要性やその水準・範囲等を精査して、徹底的な見直しを行うべきである。また、2石油対策については、備蓄関係予算の更なる効率化を進めるとともに、開発関係予算について真に必要なプロジェクトに支援を限定するなど、全体的な縮減を図ることが重要である。



.中小企業対策
(資料II-9-1、II-9-2参照)

 


 
中小企業対策については、17年度予算においても、公的関与の必要性を吟味しつつ、やる気と能力のある中小企業の自助努力への支援の重点化を図ることが重要である。
特に、16年7月に設立される中小企業基盤整備機構は、健全な財務運営を行いつつ、事業を効率的に実施するために移行した独立行政法人の特徴を活かし、地域の実状に応じたきめ細やかな対応を行うことで、創業・経営革新・地域再生などの中小企業の自助努力への支援を、一層効率的かつ効果的に行う必要がある。

中小企業金融のうち中小企業信用保険制度については、その財務状況に鑑み持続可能な制度とすることが重要であり、部分保証の一層の拡充等の制度改善に取り組むべきである。また、政府系金融機関による中小企業金融については、リスクに見合った金利設定の一層の促進等の制度改善を図っていくべきである。


10


.治安対策・司法制度改革

   


(1


治安対策(資料II-10参照)

治安関係部局における所要の体制整備等の要請に対応するに当っては、厳しい財政事情とともに、治安情勢は時々の諸情勢に影響されるものであることを踏まえ、「11月建議」でも指摘したように、民間活力の活用などを通じた効率的かつ機動的な体制作りを目指すべきである。
引き続き治安関係以外の部局において合理化を徹底するとともに、治安関係部局においても、機械化等により業務の効率化を徹底し、併せて、治安対策の現場においても民間活力の活用に努めるなど民間委託の抜本的な拡充等を図るべきである。また、治安関係要員の確保についても、過去の増員効果の検証を行い、その結果を踏まえた対応が必要である。例えば、地方警察官についても、引き続き厳しい犯罪情勢に配意する必要がある一方で、過去に増員された警察官がどのように配置され、治安回復に寄与しているかなどについての検証が求められる。
また、過剰収容状態の継続が見込まれる行刑施設の整備に当っては、収容方法の見直しを徹底するとともに、既存施設の増築整備等の安価かつ迅速な整備を優先し、また、施設整備のみならず運営面においてもPFI事業を活用するなどの対応を図るべきである。

   


(2


司法制度改革

新たな被疑者国選弁護や司法過疎地域対策などを含めた総合法律支援制度に関しては、その主たる担い手となる日本司法支援センターについて、効果的かつ効率的な体制・運営の在り方を検討する必要がある。具体的には、常勤弁護士の活用などによる効率的な弁護士供給体制の構築、地域毎のニーズに応じた極め細かな対応、関連法律職種、地方公共団体との密接な連携等を実現することが重要である。
また、裁判員制度の導入、法曹人口の拡大等に伴い、中期的にも財政負担の拡大が見込まれるところである。「11月建議」でも指摘したように、司法修習生の給費制は早期に廃止し貸与制への切替を行うべきであり、また、裁判官・検察官の給与についても、一定の明確な目安を踏まえた昇給の在り方について検討するなど、その在り方について見直しを行うべきである。

   


(以上)


[1]

 「改革と展望-2002年度改定」(平成15年1月20日閣議決定)
基礎的財政収支(プライマリーバランス)の均衡とは、毎年度の税収等によって、過去の借入に対する元利払を除いた毎年度の歳出をまかなうことである。その時点で、現世代の受益と負担が均衡し、名目金利と名目成長率が等しい場合には上昇を続けてきた経済規模に対する国債残高、利払の比率がようやく一定となる意味では、財政構造改革の一里塚といえる。

[2]

 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(平成15年6月27日閣議決定:以下「基本方針2003」)

[3]

 「特別会計の見直しについて-基本的考え方と具体的方策-」(平成15年11月26日財政制度等審議会報告)

[4]

 「平成16年度予算編成の基本的考え方について」(平成15年6月9日)

[5]

 「平成16年度予算の編成等に関する建議」(平成15年11月26日)

[6]

 予算執行調査の際に地方公共団体の担当者から出された意見

 保護基準が高過ぎるため、受給者の勤労意欲を阻害させており、また、生活保護を受けていない低所得層との間で可処分所得の逆転現象が生じており、不公平感が強い。

 老齢加算、母子加算については、「老齢」「母子」というだけで一律に計上されており、必要性が乏しい。また、一般世帯との均衡がとれていないため廃止すべきである。

 多人数世帯においては、保護費が高額になり過ぎているため、被保護世帯の自立を阻害している。

 稼働年齢層に対しては保護期間を設定する等の対応が必要であり、また自立助長にも繋がる。

[7]

 「生活保護費負担金の見直しについては、自治体の自主性、独自性を生かし、民間の力も活用した自立・就労支援の推進、事務執行体制の整備、給付の在り方、国と地方の役割・費用負担等について、地方団体関係者等と協議しつつ、検討を行い、その結果に基づいて平成17年度に実施する。」(三位一体の改革に関する政府・与党協議会の合意(平成15年12月)) 

[8]

70歳以上医療費で見た場合。

[9]

検査、投薬、処置等を行う毎に診療報酬を積み上げる現行方式(出来高払い方式)から、診断群分類に応じて定額を支払う方式(包括払い方式)への診療報酬体系の見直し

[10]

 小中学校の児童生徒一人当たり公教育費
平成元年度 62万円   ⇒ 平成13年度 95万円(+53%増)
公立小中学校児童生徒一人当たり義務教育費国庫負担金予算額
    平成元年度 14.8万円 ⇒ 平成15年度 26.3万円(+78%増)

[11]

ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の4分野。

[12]

エネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティア等。