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平成16年度予算の編成等に関する建議


平成15年11月26日

財政制度等審議会


平成16年度予算の編成等に関する建議

平成15年11月26日

財務大臣 谷垣 禎一 殿
財政制度等審議会 会長
   
貝塚 啓明


 財政制度等審議会・財政制度分科会は、平成16年度予算の編成等に関する基本的考え方をここに建議として取りまとめた。
 政府においては、本建議の趣旨に沿い、今後の財政運営に当たるよう強く要望する。
   


財政制度等審議会財政制度分科会、
歳出合理化部会及び財政構造改革部会合同会議名簿

(平成15年11月26日現在)

[財政制度等審議会会長]

貝塚 啓明

  中央大学法学部教授

[財政制度分科会長
 兼 歳出合理化部会長]

西室 泰三

  (株)東芝取締役会長

[財政構造改革部会長]

本間 正明

  大阪大学大学院経済学研究科教授

[委 員]
 
井上 礼之

  ダイキン工業(株)代表取締役会長兼CEO
岡部 直明   (株)日本経済新聞社取締役論説主幹
幸田 真音   作家
笹森  清   日本労働組合総連合会会長
佐瀬 守良   (株)中日新聞社(東京新聞)論説委員
柴田 昌治   日本ガイシ(株)代表取締役会長
島田 晴雄   慶応義塾大学経済学部教授
田近 栄治   一橋大学大学院経済学研究科長
立石 信雄   オムロン(株)相談役
寺尾 美子   東京大学大学院法学政治学研究科教授
中村 桂子   (株)JT生命誌研究館館長
野中 ともよ   ジャーナリスト
松井 義雄   (株)読売新聞東京本社取締役副社長

<分科会、歳出合理化部会及び財政構造改革部会>
[臨時委員]   井堀 利宏   東京大学大学院経済学研究科教授
岩崎 慶市   (株)産業経済新聞社論説副委員長
岩田 一政   日本銀行副総裁
奥田  碩   トヨタ自動車(株)取締役会長
北城 恪太郎   日本アイ・ビー・エム(株)代表取締役会長
木村 陽子   地方財政審議会委員
河野 栄子   (株)リクルート代表取締役会長兼CEO
小林  実   (財)地域活性化センター理事長
玉置 和宏   (株)毎日新聞社特別編集委員・論説委員
富田 俊基   (株)野村総合研究所研究理事
糠谷 真平   独立行政法人国民生活センター理事長
水城 武彦   日本放送協会解説委員
宮本 勝浩   大阪府立大学経済学部長
望月 薫雄   住宅金融公庫総裁
保田  博   関西電力(株)顧問
山口 剛彦   独立行政法人福祉医療機構理事長
吉川  洋   東京大学大学院経済学研究科教授
吉田 和男   京都大学大学院経済学研究科教授

[専門委員]

秋山 喜久

  関西電力(株)代表取締役会長
五十畑 隆   (株)産業経済新聞社客員論説委員
石  弘光   一橋大学学長
今井  敬   新日本製鐵(株)相談役名誉会長
岩本 康志   一橋大学大学院経済学研究科教授
鈴木 幸夫   麗澤大学名誉教授
竹中 ナミ   (社福)プロップ・ステーション理事長
田中 豊蔵   元(株)朝日新聞社論説主幹
田中 直毅   経済評論家
俵 孝太郎   評論家
三木谷 浩史   楽天(株)代表取締役社長
水口 弘一   中小企業金融公庫総裁
吉野 良彦   (財)トラスト60会長
渡辺 恒雄   (株)読売新聞グループ本社代表取締役社長

(注1)上記は五十音順。
(注2)○は建議の起草検討委員。
   

 

財政制度等審議会・財政制度分科会 並びに
歳出合理化部会及び財政構造改革部会合同部会
審議経過

9月12日(金)
財政制度分科会
合同部会合同会議

○ 平成16年度概算要求等について
○ 最近の経済情勢について
○ 地方公聴会について
○ 年金改革について
○ 財政制度分科会の当面の運営について

9月26日(金)
合同部会

○ 国の貸借対照表(試案)等について
○ 地方公聴会について
○ モデル事業・政策群について

10月9日(木)
合同部会

○ 文教・科学技術関係
○ 公共事業関係

10月21日(火)
合同部会

○ 国と地方
○ 農林水産関係予算

11月10日(月)
合同部会

○ 政府開発援助(ODA)
○ エネルギー対策・中小企業対策
○ 防衛関係
○ 司法警察関係予算・司法制度改革

11月13日(木)
合同部会

○ 社会保障制度改革
○ 特別会計小委員会からの報告・とりまとめ

11月20日(木)
合同部会

○ 建議(素案)審議

11月25日(火)
合同部会

○ 建議(素案)審議

11月26日(水)
財政制度分科会
合同部会合同会議

○ 建議(案)について
○ 特別会計の見直しについて


目  次

はじめに



.総 論

1.

現下の情勢と財政運営の考え方について

2.

歳出の合理化・効率化・重点化

3.

予算の透明性・説明責任の強化


II


.各 論

1.

国と地方

2.

社会保障

3.

公共事業

4.

文教・科学技術

5.

防 衛

6.

政府開発援助(ODA)

7.

農林水産

8.

エネルギー対策

9.

中小企業対策

10.

治安対策・司法制度改革


(参 考)

 

1.

資 料

2.

「平成16年度予算の編成等に関する建議」のポイント
   




じめに

 平成16年度予算は、我が国財政の将来を占う上で大きな意味を持つものであり、一層の改革を断行する予算とすべきである。
 即ち、我が国財政はますます悪化の度を増している。一般会計歳出総額に占める公債金収入の割合(公債依存度)は44.6%となっており、債務残高についても、普通国債残高は450兆円、国と地方の長期債務残高は686兆円、GDP比で137.6%の巨額に上っている。翻って、財政を取り巻く状況を見ると、少子高齢化が急速に進行しつつある一方、従来のような右肩上がりの経済成長はもはや望めない。また、高い水準を誇ってきた貯蓄率も近年大きく低下している。このような状況を踏まえれば、戦後の永きにわたって温存されてきた諸制度・政策を維持した場合、財政の持続可能性が脅かされるおそれがある。
 従って、年金をはじめとした社会保障や、国と地方のあり方といった、国のすがたを形づくる諸制度について、「6月建議」でも述べたように、『保護・救済型』から『自立支援型』の制度への転換を進め、少子高齢化、低成長という状況の下でも維持可能な諸制度とすべく、根本に立ち返った改革が喫緊の課題である。これらの改革を速やかに実現するとともに、歳出改革路線を引き続き堅持する必要がある。子や孫の世代に負担を先送りせずに済む持続可能な財政を構築し、簡素で効率的な政府と活力のある社会を実現することは、現在の世代の責務である。
 このような認識のもと、当審議会は、平成16年度予算の編成等に係る諸問題を議論し、その審議結果をここにとりまとめた。本建議が平成16年度予算の編成及び今後の財政運営に活かされるとともに、国民的な議論に資するものとなることを期待したい。



.総 論

 



.現下の情勢と財政運営の考え方について

 我が国の現下の経済情勢を見ると、平成14年第1四半期以降、7四半期連続でプラスの実質成長率を達成するなど、曙光が射している。一方、財政状況を見ると、国と地方のプライマリーバランスは▲5.3%まで悪化している。今後は、構造改革の流れを一層強化し、民間需要主導の持続的な経済成長を確かなものとすることが求められており、経済活性化のために、財政出動による景気刺激策に安易に依存すべきでない。
 財政出動による景気刺激は、短期的には需要創出を実現するとしても、その結果、財政赤字が累積すれば、「6月建議」でも述べたように、財政の硬直化、世代間不公平の拡大、将来に対する不安の増大等を引き起こし、結局は経済社会の活力を損なうこととなりかねない。とりわけ、我が国の財政状況の悪化は深刻なものとなっており、それに伴う将来不安が家計の消費を冷え込ませる一因であるとの指摘もなされている。また、国債の発行額の増加は、貯蓄率の低下ともあいまって、国債の信認を脅かし、経済実態から乖離した金利上昇を招くおそれもある。我が国経済が持続的な成長を遂げるためには、諸制度を持続可能なものとし、財政の健全化を進めることにより、財政に対する国民の信頼を回復するとともに、規制改革・構造改革を推進し、民間活力を引き出すことが急務である。
 このため、政府は、「2010年代初頭における(国と地方の)プライマリーバランスの黒字化を目指す」(「改革と展望-2002年度改定」(平成15年1月20日閣議決定))など財政健全化に向け、民間需要主導の持続的な経済成長を実現すると同時に、政府全体の歳出を国・地方が歩調を合わせつつ抑制することにより、例えば潜在的国民負担率で見て、その目途を50%程度としつつ、政府の規模の上昇を抑制することとしている。この実現に向け、16年度予算においては、一般会計歳出及び一般歳出について実質的に平成15年度の水準以下に抑制するとともに、国債発行額についても極力抑制するべきである。

 



.歳出の合理化・効率化・重点化

   


(1


)財政の健全化のためには、先述したとおり、年金をはじめとした社会保障制度改革や国と地方の改革など、各種の制度・政策の抜本的な見直しが必要である。平成16年度予算編成においても、このような改革が積極的に進められるべきである。
 同時に、「6月建議」でも述べたように、予算の量を厳しく抑制する中で、予算の質を向上させるため、予算配分の重点化、効率化に取り組み、歳出の合理化を図るべきである。このため、平成16年度予算編成においては、各経費間の優先順位を明確化し、重点化対象においても真にふさわしい施策・事業への絞込みを積極的に進める(ハリ)とともに、優先順位の低い施策・事業に対する予算を大胆に削減する(メリ)ことを通じて、例年にも増して思い切ったメリハリづけを進めるべきである。また、コスト・単価の縮減等を通じて、公的支出の無駄を省くことも重要であり、その際、PFIによる民間活力の活用等、様々な行政手法が検討されるべきである。物価下落の影響についても、予算に適切に反映すべきである。併せて、組織のスリム化、業務の効率化を図り、徹底した増員の抑制と一層の定員削減などを通じて、総人件費を縮減していくことが必要である。

   


(2


)特別会計については、固有の財源等をもって不要不急の事業が行われているのではないか等の様々な指摘があることから、財政制度分科会歳出合理化部会の下に設置された特別会計小委員会において総ざらい的な検討が実施され、今般、「特別会計の見直しについて-基本的考え方と具体的方策-」(財政制度等審議会報告平成15年11月26日:以下「特別会計の見直しについて」)として、重要な提言が行われている。本報告においては、見直しの基本的考え方として、

     

 事務事業等の見直し

     

 歳入・歳出を通じた構造の見直し

     

 説明責任(アカウンタビリティー)の強化

     

 特別会計として区分経理する必要性の点検

     

を行うことが必要であるとし、全ての特別会計を対象として50項目を上回る具体的方策が提言されている。特別会計については、国全体としての歳出の合理化・効率化に向けて着実な見直しを進めるべきであり、本報告に盛り込まれた具体的方策について16年度予算編成から速やかに着手することを求める。

   


(3


)16年度予算編成においては、「モデル事業」及び「政策群」が新たに取り組まれているところである。
 モデル事業は、

     

 国民に対して行政サービスの質の向上に係る具体的な政策目標を明確かつ定量的に示し、

     

 厳格な事後評価を行う

     

ものについて、事業の性格に応じて予算執行の弾力化を行うものであり、財政民主主義の原則の下で、限られた財政資金を効率的に活用し、予算の成果について国民への説明責任を果たすものとすべきである。
 政策群については、「少子化の流れを変えるための次世代育成支援」等の10群が提案されているところであるが、

     

 規制改革・制度改革等と予算措置を組み合わせ、構造改革と予算との連携を強め歳出の合理化を図る、

     

 府省横断的に対応することで、府省間の施策の連携を強化し、重複を排除する、

     

 より少ない財政負担で、民間活力を最大限に引き出す、

     

との趣旨に真に沿ったものとすることが求められる。また、事後評価を厳格に実施し、規制改革・制度改革の進展や民間活力の誘発等の達成状況を検証すべきである。

   


(4


)なお、本年10月1日、これまで特殊法人等であった34法人が新たに独立行政法人に移行した。その結果、法人の設立目的を効率的に達成するにあたり、業務運営に自主性が付与されることとなったが、独立行政法人制度の趣旨を踏まえれば、明確な中期目標・中期計画のもと効率的な業務運営の徹底が求められるべきである。また、厳格かつ客観的な業績評価を確保し、それを組織・事業の見直しに的確に反映させていくことは、独立行政法人制度の根幹であるとともに、財政統制の観点からも極めて重要である。

 



.予算の透明性・説明責任の強化

 政府支出の効率性・効果の改善を担保するためにも、予算とその執行について、透明性及び説明責任(アカウンタビリティー)を確保していくことが必要である。
 このような観点から、これまでに「国の貸借対照表(試案)」や特別会計についての企業会計的手法を活用した財務書類の作成などの取り組みが行われてきているところである。また、一般会計及び特別会計を通じた省庁別財務書類についても、財政制度分科会法制・公会計部会で検討が進められている。このような取り組みを引き続き推進していくことが望ましい。
 予算が実際にどのように使われたかを説明し、その効果を検証することも、説明責任を果たす観点からも重要である。このような結果重視のアプローチとして、引き続き、「PLAN(編成)-DO(執行)-SEE(評価・検証)」のプロセスを強化していくべきである。このため、主計局においては、本年度、18の特別会計の20事業を含む51事業を対象に調査を行うなど予算執行調査の充実・強化に努めており、その調査結果を16年度予算に適切に反映させるなど、チェック・アクションの強化が重要である。
 歳出改革を進めていくにあたっては、国民各層からの理解と支持を得ることが重要である。そのためには、財政の状況について積極的かつ能動的に国民各層に説明していくことが重要であり、今後とも広報活動に積極的に取り組むべきである。



II



.各 論

 



.国と地方

   


(1


)地方財政

   



.地方の自立のための改革に向けて

     


1


 「地方にできることは地方で」の原則の下、地方の自立を確立するためには、地方公共団体の自己決定の下に自助努力と自己責任による行財政運営を実現する必要があり、地域住民によって地方公共団体の行政について受益と負担の関係が明確に認識される中で、住民のチェックが働くようにしていくことが求められる。
 このようなあるべき地方行財政運営の実現のためには、補助金改革等を通じて国の関与の縮減と地方の権限・責任の拡大を図るとともに、国への財政的依存の状況を招いている地方交付税について「自立支援型」の改革を行っていく必要がある。

     


2


 また、国と地方の問題を考えるにあたっては、国と地方それぞれの財政事情を十分に踏まえる必要がある。現状では、以下に述べる通り、国の財政事情は地方に比べ厳しいものとなっている〔資料1-1参照〕
 まず、国・地方それぞれのフローの状況に関して、

       

 平成15年度のプライマリーバランスは、国が約19.6兆円の赤字に対して、地方は約9,000億円の黒字となっている

       

 15年度の公債依存度(歳出に占める公債金収入の割合)は、国の44.6%に対して、地方は17.5%となっている。

       

 税収については、15年度の国税収が62年度の水準を約1割下回っているのに対して、地方税収は62年度より高い水準にある。
次に、ストックの状況は、

       

 国は約200兆円の「債務超過」状態であるに対して、地方は統計のある都道府県及び政令指定都市だけでも約100兆円を超える「資産超過」状態となっている。

       

 債務の残高とその償還財源である税収の比率を見ても、国の長期債務残高は税収(地方交付税等移転後)の15.9倍、地方については4.5倍となっている。

     


3


 昭和29年度に構築された現行の地方交付税制度は、平成16年度に制度創設50周年を迎える。地方交付税制度は、かつて高度成長期には、経済成長に伴う果実を全国に配分することを通じて、国土の均衡ある発展に寄与してきた。しかし、多くの分野でナショナル・ミニマムが達成されたと考えられる今日では、むしろ、地方公共団体のコスト感覚を弱め、地方歳出増加の原因となり、増加した地方交付税総額が国の財政の大きな圧迫要因となっている。国が地方に事務事業の実施を求める一方、国がその財源を保障するとの発想は改めるべき時期に来ていると考えられる。
 特に、地方交付税が地方財政計画歳出の財源を保障する仕組みは、増加する地方歳出の裏付けとなり、地方公共団体が国に依存する状況を作り出し地方の自主性・自立性が生まれにくい状況を作り出している。したがって、上記1の基本的考え方を踏まえ、地方交付税の改革を進めていく必要がある。
 地方交付税の総額は、地方財政計画を通じて地方の歳入歳出の差額を補てん(財源保障)する形で決定される〔資料1-2参照〕。これが、地方が負担感希薄なままに歳出を増やす原因となっている〔資料1-3参照〕。したがって、財源保障機能の見直しにあたっては、まず、国の歳出の見直しと歩調を合わせつつ、地方財政計画における歳出を徹底して見直し、その規模を縮小することによって地方交付税の総額を抑制すべきである。
 さらに、地方交付税については、地方の財政運営にモラルハザードをもたらしている財源保障機能を将来的に廃止し、税収の偏在に伴う財政力較差を是正する機能(財政調整機能)に限る仕組みとするべきである。これにより、地方公共団体における受益と負担の関係を明確化することが重要である。
 このような観点を踏まえ、当面は、地方交付税の総額抑制に加えて、地方行政改革への取組み等による歳出削減、課税自主権発揮による歳入確保といった地方公共団体の自助努力を促すための工夫が求められる。

     


4


 税源移譲を含む税源配分の見直しは、いわゆる三位一体の改革の中で、国庫補助負担金及び地方交付税の抜本的改革とともに検討していくこととなるが、その際には、国と地方それぞれの財政事情、債務残高の取扱い、地方の課税自主権発揮の状況、国税が巨額の国債の貴重な償還財源であり、国債への信認の担保となっていることなどを踏まえて検討すべき問題である。
 また、税源移譲を含む税源配分の見直しを行う場合、地域間の税収の偏在がさらに拡大することになるが、地域間の税収の偏在を如何なる方法で調整するのか、今後、富裕団体からの財政調整を含め、検討が必要と考えられる。

   



.平成16年度予算編成
 平成16年度の地方財政事情は、なお厳しいと考えられるが、地方交付税については、国と地方の健全な財政運営を目指しつつ、地方の自立に向けた改革の観点から、原点に立ち返って新たな第一歩となるような見直しを行っていくべきである。

     


1


 地方財政計画の見直しによる地方交付税総額の抑制〔資料1-4参照〕
 16年度の地方財政計画の策定にあたっては、以下の点を踏まえ、その規模を厳しく抑制するべきである。また、交付税総額の抑制を通じて、不交付団体の数を増やしていくことも重要である。

       


i)


 「標準的」水準の精査
 地方財政計画は「標準的な歳出」を計上するとされている。計画額が過大に計上されれば、地方交付税総額が過大となることに留意しつつ、歳出各項目の水準を精査し、歳出全体の規模を抑制する必要がある。
 まず、投資的経費の単独事業のように、近年、計画額が実態の額を大幅に上回っているものがある。このような項目は計画額を実態に合わせて削減する必要がある。
また、給与関係経費は、地方公務員給与の実態について国家公務員の給与水準を踏まえた調整を行った上で、地方財政計画に計上することが原則である。しかし、地方の技能労務職員(運転手、清掃職員等)の給与等については、このような調整が不十分なまま、高い水準が是正されずに地方財政計画に計上されている。このような部分については、所要の調整を行った上で計上するべきである。

       


ii)


 財源保障の範囲の見直しと地方公共団体の自助努力
 補助事業に係る地方負担分(いわゆる補助裏)は、事業の性格に関わらず、地方財政計画に計上され、全額が財源保障の対象となっている。しかし、地方公共団体の補助金依存体質を改善する観点も踏まえ、事業の性格を踏まえながら、補助事業に係る地方負担の財源保障の範囲の絞り込みを検討すべきである。
 また、過去に発行した地方債の元利償還費である公債費についても、その全額を財源保障の対象とすることが適当か議論する必要がある。
 さらに、地方財政計画の策定に当たっては、行革などの歳出削減や課税自主権発揮といった歳入確保に関する標準的な自助努力を求める形とすることも念頭に取り組むべきである。

     


2


 地方交付税の算定方法の見直し
 地方交付税の算定方法については、国民や地方公共団体に分かり易い基準で配分額を決定する、客観的で単純・簡素な仕組みとするよう引き続き取り組むことが必要である。

     


3


 平成16年度以降の地方財政対策について
 平成15年度からの地方財政対策では、地方の財源不足を交付税特別会計の借入金で補てんせず、一般会計からの交付税特例加算と地方の臨時財政対策債発行により賄うこととしている。これは、財源不足対策の責任を明確化し、かつ各地方公共団体の財政健全化・効率化を促すものと評価できる。
 平成16年度以降も、当面は大幅な財源不足が継続するものと予想されるが、引き続き現行ルールの基本的な考え方の下で、地方歳出の一層の効率化を図る方向で対策を講ずるべきである。

   


(2


)地方向け補助金等

   



.地方向け補助金等の総額は、平成15年度予算で約20.4兆円(一般会計ベースで約17.5兆円)であり、国の政策遂行手段の一つとして一般歳出の約37%を占めるものとなっている。また、その交付先別の内訳は都道府県向けが約10.4兆円、市町村向けが約10.0兆円であり、内容別に見ると社会保障分野が約11.1兆円と半分以上を占め、公共事業分野が約5.1兆円、文教・科学振興分野が約3.2兆円となっている。

   



.これまで国庫補助負担金の整理合理化については、地方財政の自主性強化や財政資金の効率性向上等の観点から公共事業分野を中心に進められてきたが、一方で、国庫補助負担金の過半を占める社会保障分野については、自然増が続く状況となっている。

   



.「基本方針2003」の「国庫補助負担金等整理合理化方針」では、「改革と展望」の期間において、概ね4兆円程度を目途に国庫補助負担金の廃止、縮減等の改革を行うこととしており、各分野にわたる「重点項目」を中心に改革の方向性やスケジュールを示している〔資料1-5参照〕。平成15年度では約5,600億円の改革を行ったが、引き続き、各年度の予算編成を通じてその実現に向けた取り組みを進める必要がある。

   



.その際、自主・自立の地域社会の形成という地方自治本来の姿を実現していくためには、国庫補助負担事業のあり方について、1国の関与を縮減して地方の権限と責任を拡大する、2国・地方を通じた行政のスリム化を実現するという観点から、個々の事業内容ごとに見直しを行うことが重要である。特に国庫補助負担金の廃止、縮減を行うに際しては、行政の担うべきサービスの範囲・水準を見直し、引き続き地方が主体となって実施する必要性について十分に精査を行うことが適当である。

   



.平成16年度予算においては、上記の考え方を踏まえつつ、義務教育費国庫負担制度の交付金化などをはじめ、「国庫補助負担金等整理合理化方針」において平成16年度予算の課題とされた事項に関し、廃止、縮減、交付金化等の改革に全力で取り組むべきである。更に、国庫補助金については原則廃止、縮減を図るとともに、地方公共団体の事務として同化、定着、定型化しているものに係る補助金等については、原則として一般財源化に取り組むべきである。統合補助金の対象事業についても、地方公共団体の裁量を高める観点から一層の拡充を図るべきである。
 また、国庫補助負担金の過半を占める社会保障分野については、今後、その増大の抑制に取り組んでいく必要があり、医療・介護のほか、生活保護その他福祉の各分野においても、制度・執行の両面から改革に取り組むことが適当である。

 



.社会保障

   


(1


)総論
 今後、急速な少子高齢化が進展し、社会保障関係の給付と負担が、経済の伸びを大きく上回って増大することが見込まれる中、現在の公的社会保障給付の水準は持続可能ではなく、このまま放置すれば国民の将来不安を惹起し、我が国の経済社会に重大な影響を及ぼしかねない。厚生労働省の長期推計(「社会保障の給付と負担の見通し」(平成14年5月))で見ても、現行制度のままでは、2025年度において既に、国民負担率(財政赤字を含む。)が60%を超える見込みとなっている〔資料2-1参照〕
 したがって、社会保障制度については、経済の伸びと均衡がとれ、プライマリーバランスの黒字化や政府の規模の抑制についての方針達成といった財政規律とも整合性のとれたものに再構築する必要がある。このため、公的給付の伸びを抑制することが最重要の課題である。
 また、社会保障制度が今後ともセーフティネットとしての役割を担い続けるためには、『保護・救済型』から『自立支援型』の制度への転換を進め、人々の自立と誇りの精神に立脚した制度とする必要がある。そのためには、納税者であり拠出者である国民の理解と信頼を得ることが必要であり、収入や資産等を可能な限り把握し、公平・適正な費用徴収・給付を行うことが重要である。
 特に、給付の伸びは高齢者向けにおいて著しく、これを支える現役世代・将来世代の負担が過重なものとなっている。健康寿命が伸張し、働き続ける人も多くなり、また、経済実態も平均的には現役世代と遜色のないものになるなど今日の高齢者像が転換している中で、給付と負担の関係における世代間の不公平は制度に対する信頼を揺るがしかねない社会保障制度共通の構造問題である。改革に当たっては、年金、医療、介護その他の福祉について制度横断的かつ一体的に、高齢者の給付と負担の在り方を見直し、高齢者に対して制度の持続性回復に積極的な貢献を求めていく必要がある。
 社会保障関係費は年々増加し、一般歳出の約4割を占めるに至っており、その抑制を図ることは、我が国財政上、最大の構造問題である。このため、平成16年度の具体的な予算編成にあたっては、現行の制度、給付水準、単価などを前提とした社会保障関係の自然増を放置することは許されず、年金をはじめ医療・介護・その他の分野の制度改革等や近年の物価・賃金動向等を踏まえた給付・コストの引下げを行うことにより、削減を図ることが必要である。
 改革の内容は厳しいものとならざるを得ないが、社会保障制度は、国民の生涯設計の基礎となるものである。したがって、頻繁な制度改正を必要としない、将来にわたり持続可能な制度を再構築すること、即ち改革の先送りは許されず言わば最終改革とする決意で行うことが国民の信頼を取り戻す途であると考える。

   


(2


)年金
 年金改革についての基本的な検討課題は、本年6月の建議において指摘したところであるが、改革案を得るにあたって重要と考えられる点を改めて明確にする。

   



.今般の改革においては、給付と負担の総合的な見直しを行い、将来世代が支え得る持続可能な制度を構築することが最重要課題である。このため、

     


1


 社会保障制度全体について、経済・財政と整合性がとれた制度に再構築するという総合的な取組みの一環として、年金の給付と負担の問題を考える。同時に、国民負担率の上昇を抑制するとの方針と整合性がとれた改革を行う。

     


2


 将来にわたり給付と負担についてバランスを確保する。はじめに給付水準ありきという考え方はとらずに、保険料と税をあわせた負担水準について、国民的なコンセンサスを得た上で、その水準にあわせて給付水準を設定する。

     


3


 これまで頻繁に見直しを繰り返してきたことが、制度に対する信頼を損ねてきた。これを厳しく受け止め、将来にわたり持続可能な制度の構築を目指す。このため、経済前提等が大幅に下方に振れても持続できる制度とする。

     


4


 これまでの施設の設置・運営や資金運用等の業務のあり方に対する厳しい批判を踏まえ、抜本的に見直すべきである。

   



.前回の年金財政再計算で示された給付債務(平成11年末)を見ると、過去の保険料納付期間に応じた給付債務については、将来の保険料引上げにより賄うこととされている部分が、厚生年金では455兆円、国民年金では40兆円となっており、加えて将来の保険料納付期間に応じた給付債務について、それぞれ83兆円、20兆円を現役世代の負担増により賄われることになっている〔資料2-2参照〕
 つまり、現役世代が「二重の負担」を負うことが前提となった制度であり、世代間の不公平が著しく大きくなっている。このような膨大な年金債務が生じている状況のもとで、制度改革に対する国民全体の理解を得るためには、

     


1


 若者及び高齢者が制度を支え、年金財政を均衡させるという観点から、給付水準の抑制にあたって「団塊」の世代の受給が始まる前に早期の抑制を行い、また、現在の年金受給者についても、合理的な範囲内で引下げを行う。これによって、世代間の給付と負担の公平を図る。

     


2


 制度の実行性に対する信頼を確保するため、既に制度に組み込まれている自動物価スライドについては、本来水準までの引下げを実施する(過去の特例停止分▲1.7%の解消)。

     


3


 「概念上の拠出建て」により今後の部分は保険料納付額に見合った給付額を支給する。一方、これまでの保険料納付期間に応じた給付については、年金財政を均衡させる水準にまで抑制することを目指す。給付の抑制にあたっては、こういう発想も踏まえ、大胆に取り組むことが必要である。

     


4


 高齢者は、全体としてみると健康で活動的であり、経済的にも豊かになっており、こうした高齢者像の変化を踏まえ、高齢者が生きがいをもって活躍できる社会の実現を目指し、それに応じた年金制度を設計する必要がある。支給開始年齢のあり方についても検討すると同時に、今後受給者となる世代の将来の生活設計にも役立つよう、長期の給付と負担の関係を明示すべきである。

   



.国庫負担問題については、平成12年年金改正法附則における「基礎年金については、給付水準及び財政方式を含めてその在り方を幅広く検討し、当面平成16年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担割合の2分の1への引き上げを図るものとする。」という規定に沿って検討を進める。

     


1


 税(国庫負担)も保険料も国民の負担である。今般の改革では、給付と負担について総合的な改革を行い、持続可能な制度を構築することが必要であり、その中で、引上げの要否について検証する。はじめに国庫負担引上げありきではないと考える。

     


2


 社会保険方式をとる年金制度における国庫負担のあり方については、財政の役割に照らし、現行制度のように基礎年金給付に一律に一定割合を投入するのではなく、真に必要なところに限定すべきである。その結果、高収入の者に対する引下げも必要となろう。なお、給付に対して一律に一定割合の国庫負担を投入する制度は、諸外国でも例が少ない。

     


3


 国庫負担引き上げに関しては、具体的な安定財源(税財源)の確保なしに引き上げることは許されない。
 また、財源確保にあたっては、現行制度のままでも、高齢者の増加などに伴い、社会保障全体で公費負担は毎年約1兆円ずつ増加し、財政上の大きな構造問題となっていることに留意する必要がある。

   


(3


)医療
 医療費は14年度改革後も年平均約4%(14~22年度平均)で伸びる見込みである。医療の質を確保しつつ、皆保険制度を持続可能な形で運営するためには、公的医療保険でカバーすべき範囲を見直すとともに、増大する公的医療費の伸びを経済の伸び(およそ保険料収入の伸び)と均衡させていくことが必要である。
 特に、保険料収入の低迷等により、政府管掌健康保険の15年度末積立金残高が300億円にとどまるなど、現下の医療保険各制度の収支状況は極めて悪くなっており、こうした中で、16年度に公的医療費の伸びを抑制しないと各制度の財政状況がさらに悪化し、保険財政の維持が困難になるおそれがある。
 医療制度改革の基本的な検討課題については、本年6月の建議において指摘したところである。本年3月には医療保険制度体系及び診療報酬体系の見直しの「基本方針」が閣議決定され、また、増大する高齢者医療費の伸びの適正化方策や公的保険の範囲の見直し等の「基本方針」以外の課題について早期に検討・実施すること等が6月に閣議決定されている。医療保険財政の現状等に鑑み、これら改革の課題の検討を加速し、早期に実施に移すことを強く求めたい。
 診療報酬・薬価等改定については、16年度の歳出改革・社会保障制度改革の柱として、以下の観点から診療報酬及び薬価等の引下げに取り組み、医療費の増の抑制、国民負担の軽減を図る必要がある。

     


1


 診療報酬本体の改定率は、総体として医療機関の人件費・物件費の単価水準を決めるものであり、近年の賃金・物価動向を適切に反映させるとともに、一層の合理化を進め、相当規模の引下げを行う。

     


2


 薬価等について、市場実勢価格に応じた引下げを行うほか、長期収載先発品価格の引下げなど更なる見直しを進める。

     


3


 診療報酬・薬価等の引下げに当たっては、3月に閣議決定した診療報酬体系の見直しの「基本方針」に沿って、配分のメリハリづけ、公的保険の範囲の見直しを行い、効率的で質の高い医療を確保する。

   


(4


)介護
 介護保険制度においては、給付費が2025(平成37)年度までに、金額で4倍(5兆円⇒20兆円)、対国民所得比で3.5倍に増加(厚生労働省長期推計)し、国民経済の伸びとのギャップが拡大するものと見込まれている。
 介護保険法附則では法施行後5年を目途とした見直しを行うこととされているが、本年6月の建議において、現行制度の存続は、今後の保険料・税負担の増大により持続困難であることを踏まえた見直しが必要である旨指摘し、改革の方向性を提示したところである。
 給付費の増大を抑制し、国民経済・財政と均衡のとれたものとするため、個々の高齢者の多様なニーズに応えつつ、公的保険としての限られた資源を効率的に使うというモメンタムを制度に組み込むことが求められている。このため、

     


1


 利用者の自己負担率を2~3割に引き上げ、コスト意識を喚起することが必要である。介護保険は高齢者医療に先駆けて1割定率負担を導入したが、現在では、医療保険よりも負担率が低く、見直しが必要である。

     


2


 在宅と施設のバランスを踏まえ、施設におけるホテルコスト、食費等を公的保険の給付対象から除外することも必要であるほか、一定額までの保険免責制度を導入することも考えられる。

     


3


 現在の制度では、原則として低所得者の判定基準を住民税に拠っていて、年金収入も資産の存在も考慮されていない。このため、特養入所者の8割以上、また、介護保険料(1号)についても3分の1超の者が低所得者とされ、負担軽減措置を受けている。今後、世代内の公平を図る観点から、負担軽減措置を行う対象者の範囲を低収入で低資産の者に限定することが適当である。また、受給者の死後、残された資産により費用を回収する仕組みも検討すべきである。

     


4


 保険者機能を強化するとともに、給付と負担に関して保険者責任を徹底することが必要である。

     


 その際、介護保険事業計画の策定時に、公的保険の給付対象については、全国的に標準的な給付量あるいは給付の伸び率を設定する総額管理あるいは伸び率管理方式を導入することが考えられる。また、地方公共団体での事業計画策定の際に、施設だけでなく在宅サービスについても計画値を超える分について、公的保険の給付対象としては供給調整させることも考えられる。

   


(5


)生活保護
 生活保護制度は、真に困窮した自立不可能な者に最低限度の生活を保障することにより、国民生活の最後のセーフティネットとしての機能を果たすものである。しかしながら、受給者に一定の収入を保障するが故に、保障水準や執行状況によってはモラルハザードが生じ、かえって被保護者の自立を阻害しかねないという面も指摘されてきた。また、地域における保護率については、地域経済・雇用情勢に差異があるものの、20倍近い差が生じている。
 予算執行調査の際に地方公共団体の担当者から出された制度見直しに関する意見も参考にしながら、物価・賃金動向、社会経済情勢の変化等を踏まえて、

     


1


 生活扶助基準・加算の適正な引下げ・廃止

     


2


 各種扶助の在り方の見直し

     


3


 扶助の実施についての定期的な見直し・期限の設定

     


4


 国・地方の適切な役割分担による地方公共団体の執行の適正化に向けた取組みの促進

     


 等の制度・運営の両面にわたる多角的かつ抜本的な改革が必要である。
 まず、被保護者の属性に着目して一律に適用される加算については、一般世帯との均衡がとれていないことから、必要性について検証した上で、見直すことが必要である。
 特に、原則70歳以上の高齢者に上乗せされる老齢加算(17,930円 1級地ー1)は福祉年金創設との関係から昭和35年に創設されたが、70歳未満受給者との公平性、加齢に伴い減少する高齢者の消費実態等からみて、廃止することが適当である。母子家庭に認められる母子加算(23,310円 1級地)も、一般の母子世帯の所得の平均額(21.1万円)と被保護母子世帯の最低生活費の平均額(22.1万円)を比較すれば、廃止することが適当である〔資料2-3参照〕
 また、一般の低所得層との間に逆転現象が生じることのないよう、扶助基準の水準を適正に引き下げることが必要である。
 さらに医療保険と同様、長期入院患者等の入院解消やレセプト点検等により医療扶助の適正化を図ることが重要である。

   


(6


)子育て支援
 都市部を中心に、引き続き待機児童ゼロ作戦、放課後児童受入れ体制の整備等を進めるとともに、育児休業の取得率の向上をはじめとして、子供を安心して産み育てられるような勤務体制・職場づくりに努めるなど、少子化の流れを変えるための実効性のある対策を推進していくことが重要な課題である。
 その際、公営保育所の高コスト構造や多様な保育サービスの展開の遅れ等を踏まえ、規制改革の推進による保育所運営への株式会社の本格的な参入の促進、公立保育所の民間への移管、利用者と保育所との直接契約の実現を含めた制度の見直し等により、質を確保しつつ、効率的で多様なニーズに適切に対応する保育サービスの実現を図っていく必要がある。
 また、保育料の徴収基準額については、平成10年度以降、据え置かれている。これまで、費用徴収額に比して保育単価の高い低年齢児の受入れを拡大してきたこと等により、保育所運営費における公費負担率が5割を超えて上昇を続けてきている(7年度5,440億円 49.41%⇒15年度8,440億円 55.22%)。受益の程度や負担能力を勘案して応分の負担を求める観点から、保育料の在り方についても見直しを行っていく必要がある。

   


(7


)雇用
 雇用については、現下の厳しい雇用失業情勢を克服するため、経済構造改革を推進するとともに、過剰な規制の除去、公的部門の民間への開放等によりサービス分野を中心に新たな雇用創出を図っていく必要がある。
 また、若年者雇用については、高い失業率、フリーター・無業者の増加、高い離職率を背景に、若者の能力蓄積の不足、不安定就労の増大が問題となっており、若者の働く意欲を喚起しつつ、やる気のある若年者の職業的自立を促進することが重要な課題となっている。
 更に、障害者も自らの選択により社会の支え手として働き、納税者にもなりうるように多様な働き方を実現することが重要である。
 雇用対策については、経済・産業構造の変化、ライフスタイルに対する国民の意識の変化、雇用慣行の変化等を踏まえ、多様な働き方や円滑な労働移動等の実現による就業機会の確保を図るため、1雇用維持支援から労働移動支援へ、2雇入れ助成からミスマッチ解消へ、3生活支援から早期再就職支援(自立支援)への方向で重点化を進めるべきである。
 また、再就職支援や能力開発等に係るサービス水準の向上・多様化、施策の効果的・効率的実施の観点から、民間のノウハウの積極的活用(官から民へ)、地域の実態を踏まえた施策の実施(国から地方へ)に取り組む必要がある。
 その際、「特別会計の見直しについて」においても指摘されているとおり、特殊法人等の業務のあり方や施設の設置・運営に対する厳しい批判があることを踏まえ、抜本的な見直しを行う必要がある。また、既存の施策の実績・効果を十分に検証し、その結果を踏まえ、モラルハザードの防止、費用対効果に配慮し、自助努力を求めつつ、公的な支援が真に必要な者への適切な施策となるよう、引き続きメリハリのある見直しに取り組み、施策の重点化・合理化を図るべきである。

 



.公共事業

   


(1


)公共事業の重点化
 公共事業については、引き続き事業量を縮減すべきである。同時に、これまで配分の硬直性が指摘されてきており、予算総額を削減する中で、投資効果の高い事業への一層の重点化を図るべきである。

   



.重点化の現状〔資料3-1、3-2参照〕
 平成15年度においては、公共事業関係費の重点化を図った結果、事業別に対前年度の伸率を見ると、一般公共事業の▲3.9%に対し、都市環境整備は+5.6%から工業用水道の▲18.8%までとなっている。
 さらに、事業別配分の内訳を見ると、例えば空港整備は全体として+4.9%であるが、その中で大都市圏拠点空港が+34.7%と高く、その他の地方空港等は▲16.6%となっている。廃棄物処理についても、ダイオキシン対策が山を越えたことから全体としては▲12.0%となっているが、その中で浄化槽は、農業集落排水(▲30.3%)等との役割分担を踏まえ+33.9%と伸びている。

   



.伸ばすべき分野と抑制すべき分野の明示
 我が国の社会資本は概ね整備されつつあり、特定の公共施設が著しく不足しているという状況にはない。このため、空港・廃棄物など大括りの事業別のメリハリだけではなく、それぞれの事業の目的・機能にまで踏み込んで、よりきめ細かくメリハリを付けていく必要がある。このことは、公共事業の成果重視への転換という観点からも意味のあることである。
 また、最近の予算編成では、横断的な重点分野(重点4分野)を示し、施策の集中を図っているが、既に公共事業関係費の8割弱が重点分野に該当するものと整理されており、4分野の中での重点化が必要である。
 従って、重点分野を補完しつつメリハリをつけていくためには、「平成14年度予算編成の基本方針」(平成13年12月4日閣議決定)におけるように、きめ細かく抑制すべき分野を打ち出して、これを予算に反映させていく必要がある〔資料3-3参照〕

   



.国の役割の重点化
 国民生活の質の向上等の観点から重点的に実施すべきものであっても、受益者負担の観点、官・民及び国・地方の役割分担の観点から、国費の投入を抑制すべき分野があることに留意する必要がある。

   


(2


)公共事業における国庫補助負担金の見直し
 公共事業の国庫補助負担金については、国の役割は国家的・広域的な政策課題への対応に重点化し、その他の生活関連社会資本のように受益の範囲が狭い事業などは、原則として地方に委ねていくべきである。従って、平成16年度予算においても、国庫補助負担金を大幅に削減するほか、交付金化、統合補助金化や採択基準の引き上げを実施すべきである。
 このような観点から、現行の補助金制度のうち、都市中心部の再開発等のまちづくりを支援する事業のように複数の公共事業によって面的整備を行うものについては、国の関与は事後評価に重点を移し、地方公共団体の自主的な計画策定、事業内容の選択・変更を可能とする制度に移行すべきである。

   


(3


)公共事業の効率化、透明化
 公共事業については、依然として、「コストが高いのではないか」、「既得権益化しているのではないか」といった批判がある。財政制度分科会では、国土交通省、農林水産省の両省から、公共事業のコスト縮減及び事業評価についてヒアリングを実施した。これまでに政府の取り組みが進められてきているが、今後も、コスト縮減、事業評価手法の精緻化などに積極的に取り組み、国民の理解を得るための努力を続けていく必要がある。また、予算執行調査にあたっては、これらの観点にも着目して調査を行い、予算に結び付けていく必要がある。

   



.コスト縮減
 政府は、現在、コスト構造改革の取り組みとして、平成15年度から5年間で、物価下落を除いて15%の総合コスト縮減を行うとしている。中部国際空港では、民間手法を取り入れた交渉方式によりコスト縮減を達成していることや、一部の地方公共団体では、入札運用の改善により落札率の下落等の効果を上げていることを考えると、更なるコスト縮減を図るべきである。平成16年度においては、このような事例を踏まえ、特に、積算や入札などについて、大口取引価格の資材単価への反映、入札・契約段階での交渉方式の試行的実施など、新たな施策を実施すべきである。
 なお、公共事業の入札における競争を高めていくと同時に、不良不適格業者の排除の取り組みが必要となると考えられる。

   



.事業評価の徹底
 公共投資の事業評価については、技術的限界を踏まえつつも、便益計算の基礎となる時間価値などの原単位10の設定の考え方を精査し、前提となる需要予測の精度向上を図るとともに、感度分析11等により、不確実性を考慮した事業評価を実施すべきである。
 また、類似した目的を有する事業については、事業評価を足切りに使うだけでなく、費用対効果の大きい事業への投資を促進するために活用することが重要である。さらに、採択後の社会経済情勢の変化に適切に対応するため、事業着手後の再評価を積極的に実施し、事業の中止・縮小など必要な見直しを行うとともに、事前の見通しとの乖離の原因や、改善策を公表すべきである。

   


 なお、空港事業においては、これまでも建設コストの見積もりや、需要予測等に問題があることが多かったことに鑑み、羽田空港の再拡張事業については、民間の手法を活用するなど、コスト縮減を十分に図るとともに、事業評価を活用して、事業の透明性を高めるための取り組みを十分に行うべきである。

 



.文教・科学技術

   


(1


)文教予算

   



.義務教育〔資料4-1、4-2参照〕
 義務教育については、近年、少子化が進展する中で、児童生徒一人当たりの公教育予算を大きく拡大させてきているが、それにもかかわらず、学力低下への懸念や全国画一的な教育への批判が年々高まっている。
 こうした現状を踏まえれば、今後においては、児童生徒一人当たりの公教育予算の拡大ではなく、地方の自由度を大幅に拡大し、国や地方公共団体など義務教育に関与する者の創意工夫を幅広く活用することにより、公教育の質の向上を目指すとの観点に立脚することが何よりも重要である。
 このような観点から、教職員の給与や配置に関する地方の裁量が極めて乏しい現行の国庫負担制度を改め、平成16年度予算編成において、「基本方針2003」を踏まえ、負担金の交付金化を実現すべきである。
 その際、教職員の給与や配置に関する地方の裁量を真に拡大させるためには、現在の法体系、すなわち「人材確保法(学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法)」や「義務標準法(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律)」の在り方について、法制定当初からの社会経済情勢の変化も十分に踏まえた抜本的見直しを図ることが不可欠である。
 これらと併せ、自立した地方が多様な個性と創造性を発揮できるようにするため、国庫負担対象経費の整理合理化を進めるとともに、児童生徒数が減少している状況下にあって教職員定数の維持・拡大を惹き起こしている現在の教職員定数改善計画についても見直しを行う必要がある。
 また、義務教育教科書無償給付制度については、これまでの建議においても長年にわたって提言を行ってきた。受益者負担の原則や教科書に対する国民的な意識と関心を高める観点から、「無償」という考え方自体を見直すべき時期に至っている。要保護世帯等に対する適切な配慮を行いつつ、貸与制の導入も含め、有償化の実現に向けた検討を進めるべきである。

   



.国立大学法人
 平成16年4月の国立大学の法人化にあたっては、大学における教育・研究活動の質の向上という国民の求める成果を達成することが重要である。現在、国立大学の運営には多額の財政資金が投入されているが、新しい予算制度の構築にあたっては、客観的かつ厳格な事後評価を重視するとともに、大学運営の自主性・自律性を高めることに伴う合理化・効率化を促すような制度設計とすべきである。
 さらに、運営費交付金算定の基礎となる学生納付金の水準に関しては、これまでの建議においても再三提言を行ってきたように、受益者負担の徹底及び私立大学との格差是正の観点から、各大学が適時適切に改定を行い得るような仕組みとすることが必要である。

   



.その他
 その他の文教予算については、「平成15年度予算の編成等に関する建議」(平成14年11月20日)においても述べた通り、受益者負担の徹底と資源配分の重点化を図り、施策の効率的・効果的な実施を徹底すべきである。
 具体的には、高等教育に関し、上記の国立大学法人に対する予算措置の改革と合わせ、私学助成等について機関支援という形での支援の在り方を見直し、公募方式により教育・研究上の優れた取組みに対して支援を行う等の国公私を通じた競争原理に基づく支援へと思い切った重点化を図るべきである12。また、予算の透明性向上の観点から、学校法人会計基準について、企業会計原則を取り入れた見直しを推進すべきである。
 育英奨学事業については、無利子奨学金を縮減するなど適正な受益者負担を求めるとともに、平成16年4月から事業実施主体が独立行政法人化される機会に合わせ、事務・事業の抜本的見直しによる合理化・効率化や、債権回収率の向上など事業運営の健全化を図るべきである。
 文化予算については、官と民、国と地方の役割分担を明確にするとともに、費用対効果を吟味し、優先順位の高いものに支援を重点化すべきである。

   


(2


)科学技術
 我が国の科学技術予算は、近年の厳しい財政事情の中で大幅に拡充されてきており〔資料4-3参照〕、政府研究開発投資の対GDP比でみても、「第2期科学技術基本計画」(平成13年3月30日閣議決定)の目指す欧米主要国並の水準は既に達成されている〔資料4-4参照〕。我が国の財政状況が引き続き厳しい中においては、今後は量的拡大よりも一層の質的向上に軸足が置かれるべきである。
 そのためには、科学技術予算の一層のメリハリ付けを進める必要があり、総合科学技術会議による科学技術関係施策の優先順位付け(平成15年10月17日)を踏まえ、重点4分野13に対する資金配分の更なる重点化を図る一方で、その他の分野14における一層の効率化・合理化を行う必要がある。また、複数の省庁や独立行政法人が関わる研究開発プロジェクトについては、役割分担の明確化・重複の排除を徹底し、効率的な実施体制を構築する必要がある。
 その際、資金の効率的利用を一層促進するため、「PLAN(編成)-DO(執行)-SEE(評価・検証)」の考え方を踏まえ、厳正な評価を実施し、スクラップ・アンド・ビルドの原則に基づく新規プロジェクトの厳選と既存プロジェクトの見直しや中止を行っていく(チェック・アクション)必要がある。特に、従来より取組みが遅れている中間評価・事後評価を適切に実施すること、そのために定量的なものも含めた明確な目標設定を行うことが必要である。また、いわゆるビッグプロジェクトについては、後年度負担が大きいこと等に鑑み、真に優先順位の高いプロジェクトのみを厳選し、重点的な資金配分を行う必要がある。
 更に、科学技術システム改革の一層の推進のために、競争的資金については、制度メニューの大括り化や不正経理問題の再発を防ぐための制度改革を行うこと、研究開発型の独立行政法人については、限られた予算の中で中期目標・中期計画に基づき効率的に業務運営を行うことが求められる。

 



.防 衛〔資料5参照〕

   


(1


)防衛関係費については、現在の国際情勢に鑑み、国民の安全・安心の確保に対する重要性を増しているが、歳出化経費及び人件・糧食費が約8割を占めるなど、極めて硬直的な構造となっている。特に新規の正面装備は、長期にわたり歳出化による後年度負担を招き、関連する後方経費の増加をもたらすという性格を有している。
 このため、本審議会でも累次にわたり指摘してきたように、平成16年度においても、正面契約の抑制を図る等、防衛関係費の合理化・効率化を進めていく必要がある。

   


(2


)現在の我が国を取り巻く情勢を見ると、我が国に対する大規模な着上陸侵攻が行われる可能性は低下する一方、テロや弾道ミサイル等の新たな脅威や、国際貢献、災害派遣など多様な事態への対応が求められている。
 厳しい財政事情の下、こうした情勢変化に適切に対応していくためには、従来からの合理化努力に加え、今後の防衛力のあり方についての検討を進め、自衛隊の多様な事態への対応能力の充実を図りつつ、現在の組織や装備を思い切って見直し、効率化を行っていく必要がある。
 特に新規の正面装備については、費用対効果も勘案しつつ、その必要性、優先度を十分に精査するとともに、我が国の防衛のためその導入が真に必要かつ有効と判断される場合であっても、既存の装備のうち必要性の低下しているものについて縮減を図ることを基本とすべきである。

   


(3


)人件・糧食費については、組織定員の抑制、諸手当等の人件費の基礎となる諸制度の見直しに取り組むことが必要である。
 また、装備品の修理費、燃料代や訓練経費等、自衛隊の活動経費を含む一般物件費については、予算執行調査(生活物品の単価、装備品における民生品・汎用品の活用等)の結果も踏まえつつ、物価下落や賃金動向を適正に反映する等により、合理化・効率化を行っていく必要がある。
 特に、装備品の調達にあたっては、海外発注を含めその適正性・透明性の向上とコストの低減を図るため、調達状況の厳格なフォローアップを行うとともに、引き続き競争原理の強化、ライフサイクル・コストの低減、コスト低減に向けたインセンティブ向上などの改革に取り組むべきである。

 



.政府開発援助(ODA)〔資料6参照〕

   


(1


)我が国の政府開発援助(ODA)については、国内の極めて厳しい経済・財政状況の下、平成10年度以降減額してきたところであるが、その規模は国際的にみて依然として大きい。

   


(2


)こうした中で、ODAの意義や効果、効率性、規模について国民から厳しい見方がなされており、ODAに対する国民の理解・支持を得るためには、新たなODA大綱の下、我が国の国益を重視しつつ、援助対象国・地域の再検討・重点化、評価の充実、監査の強化、関係者間の連携等を推進するほか、国別援助計画に沿った戦略的な援助を実施するなど、徹底した効率化及び透明性の向上に努めていく必要がある。併せて、ODAが年々増加していた時代に見られた量重視の考え方から質重視への転換を進め、引き続きODA予算の量的縮減と効率化を進めていく必要がある。

   


(3


)このような考え方の下で、平成16年度の各形態別のODA予算については、極めて厳しい我が国の経済・財政事情に鑑み、以下の通りその内容を厳しく見直し、平成15年度予算同様、ODA予算全体の規模の縮減を図るべきである。

   



.有償資金協力については、「特殊法人等整理合理化計画」(平成13年12月19日閣議決定)で円借款の「事業規模の抑制を図る」とされたことを踏まえ、引き続き円借款の新規承諾の圧縮・重点化により事業規模(貸付実行額)を抑制するとともに、事業規模や財務状況に応じて国際協力銀行への出資金を縮減する必要がある。

   



.二国間無償については、イラクの復興支援等への対応を念頭に置く必要性があることに留意しつつも、執行状況の精査や援助対象分野等の重点化を通じ、コストや政策効果面での無駄を排除し、全体として量的縮減を図るべきである。

   



.二国間技術協力については、事業単価を徹底して見直すとともに、事業間の重複排除・連携強化等の観点から精査し、予算を縮減しつつ効果的な施策に重点化すべきである。また、独立行政法人となった国際協力機構(JICA)等については、かかる点を踏まえつつ、中期目標・中期計画に基づき、その事業の効率的実施に努めるべきである。

   



.国際機関拠出金等は、任意拠出金について、その事業内容や執行状況等を見極めるとともに拠出先の重点化・効率化を図り、予算規模の抑制に努めるべきである。また、義務的分担金等についても、近年著しい増加傾向にあり他の経費を圧迫している状況にあることに鑑み、適切な分担率の設定に向けた交渉や各国際機関の予算の効率化に向けた取組みを通じ、増加に歯止めをかけるよう努めるべきである。

 



.農林水産

   


(1


)農業の構造改革
 農業分野においては、FTA(自由貿易協定)やWTO農業交渉へ我が国として主体的に取り組むためにも、効率的かつ安定的な経営体(「担い手」)が生産の相当部分を担う農業構造の確立、農地制度・土地利用規制の見直し等農業の更なる構造改革が必要である。平成16年度においては、施策の対象を認定農業者等に限定する等、「担い手」への施策の集中化・重点化を一層推進すべきである。

   


(2


)食糧管理特別会計の健全化〔資料7-1参照〕
 食糧管理特別会計は、米の売買損失や助成金の増加等により平成13年度より3年連続で繰越損失を計上しており、「特別会計の見直しについて」においても指摘されているとおり、健全化を図ることが喫緊の課題である。
 平成16年度においては、先般の米政策改革を踏まえ、米に係る助成措置については、市場重視、担い手重視の視点から効率化・重点化を図ることが必要である。また、米の備蓄については、効率的な運営に努めるべきである。
 麦政策については、コストプール方式の観点から、内麦への助成措置、外麦の管理について早急に改革を図ることが必要である。

   


(3


)農業委員会・協同農業普及事業〔資料7-2参照〕
 農業委員会・協同農業普及事業については、必置規制の廃止ないし大幅な緩和等を内容とする制度改正が予定されているところであるが(次期通常国会に法律改正案を提出予定)、国の関与の縮減、組織のスリム化に向けた大胆な改革につなげ、これに沿った交付金の大幅な縮減を行っていくべきである。さらに、地方の自主性の拡大の視点に立ち、交付金の一般財源化等の検討を行っていく必要がある。
 平成16年度においては、こうした制度改正への取り組みとあわせ、大幅な交付金の削減を行うべきである。

 



.エネルギー対策〔資料8参照〕
 今後のエネルギー対策においては、「エネルギー基本計画」(平成15年10月7日閣議決定)にも述べられているとおり、1安定供給の確保、2地球環境問題への対応、3市場原理の活用による効率性の確保が重要な課題である。
 エネルギーの安定供給や環境保全のためには、省エネルギー・新エネルギー対策や原子力、天然ガス等のエネルギー源の多様化を進める必要があるが、その際、施策の効率化・重点化を更に推進する観点から、予算執行調査や外部評価の結果等も踏まえつつ、既存事業の徹底的な見直し等を行うことが必要である。石油の開発・備蓄関係の予算についても、開発業務が独立行政法人に移管されるとともに、備蓄業務が国の直轄となることを踏まえつつ、一層の効率化・縮減に取り組む必要がある。
 エネルギー関係予算の中心を占める石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計と電源開発促進対策特別会計については、毎年多額の不用、剰余金が発生している等の批判も見られるが、上記のような取組みを通じて、「特別会計の見直しについて」においても指摘されているとおり、歳出の合理化や一般会計から石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計への繰入れの減額等を進め、不用、剰余金の削減を進めていくべきである。

 



.中小企業対策
 中小企業対策については、これまでも、平成11年に改正された中小企業基本法の理念(「やる気と能力のある中小企業の自助努力への支援」)に則り取り進められてきたところである。16年度予算編成にあたっても、創業や経営革新に取組む企業に対する支援や、企業の再生支援等に重点化を図りつつ、歳出内容の見直しを進めていく必要がある。
 中小企業信用保険制度〔資料9参照〕については、本年4月より保険料を引き上げる等、収益改善に取り組んでいるところであるが、特別保証(平成10年~13年3月実施)に係る赤字の影響等により収支は依然として極めて厳しい状況にある。持続可能な保険財政基盤の構築のためには、国・債務者・金融機関等の間で適切なリスク分担を図り、モラルハザードを回避することが必要であり、部分保証の全面的な導入や保険料の一層の引上げも視野に制度改善を図っていくことが重要である。また、これらの制度改善が効果を発揮するまでの間においても、「平成15年度予算の編成等に関する建議」でも述べているように、安易に財政に依存することなく、回収の強化や融資基金の活用等あらゆる方策を講じ、保険財政基盤の強化を図るべきである。
 政府系金融機関による中小企業金融は、中小企業に対する円滑な資金供給を確保する上で重要な機能を有しているが、リスクに見合った適切な金利が設定されているか、民業圧迫となっていないか等の観点も踏まえつつ、制度の設計や改善を図っていくことが重要である。

 


10


.治安対策・司法制度改革

   


(1


)治安対策〔資料10-1、10-2参照〕
 最近の治安の状況に対応し、関係職員の増員など治安対策を講ずる場合には、増員がもたらす財政負担を極力抑える観点から、民間委託の積極的な導入、事務処理の効率化等を通じて、今後の増員を抑制し得る体質作りを行うことが必要である。例えば、違法駐車取締の民間委託の推進、刑務所運営におけるPFI事業の活用などの取組みを着実に進めるべきである。
 地方警察官については、平成14年度から実施している1万人増員計画に加えて、平成16年度から3年度間で更に1万人増員することが検討されている。警察内部における合理化を一層進めつつ、地方警察官の一定の増員は必要である。「基本方針2003」における「地方財政計画上人員を4万人以上純減」との方針を達成する中で、地方公共団体職員全体としての合理化を促進すべきである。
 刑務所などの行刑施設は収容人員が定員を上回るなど過剰収容状態にあるが、この問題に対処するためには、施設建設のみならず、収容方法の見直しの徹底、既存の空き施設の活用など、低コストかつ迅速な収容増対策も併せて工夫する必要がある。また、行刑施設建設につきPFI事業の活用が検討されているが、PFI事業の活用にあたっては、施設建設のみならず運営面における民間活力の活用についても積極的に取り組むことにより、運営の効率化を図るとともに、将来の増員を抑制し得るものとする必要がある。

   


(2


)司法制度改革
 司法制度改革については、「6月建議」でも述べたとおり、限られた財政資金の効率的使用の観点に留意する必要がある。
 裁判迅速化については、法曹人口の増加や裁判所等の人的体制の充実とともに、訴訟手続等に関する制度・運用面の改善、平成16年度より導入される専門委員制度の効率的な活用、最高裁判所による検証結果の適切な反映などの取組みも必要である。また、公的刑事弁護の拡充や、司法ネットの構築にあたっては、隣接法律専門職種、関係機関との連携等に配意し、効率的かつ機動的な制度作りを検討すべきである。
 また、司法制度改革を進める中で、司法修習生の給費制は早期に廃止し貸与制への切替を行うべきであり〔資料10-3参照〕、公務員給与の在り方についての見直しも踏まえ、裁判官・検察官の給与の在り方についても見直しに取り組んでいくべきである。

   
(以 上)
   

 「平成16年度予算編成の基本的考え方について」(平成15年6月9日)

 平成15年度における国と地方のプライマリーバランスは、以下の通り。

   国 (一般会計)
   地方(地方財政計画)

   ▲19.6兆円
+ 0.9兆円

 上記では、地方財政計画における公営企業繰出金のうちの企業債償還費(2.2兆円)を各年度の国民生活に必要な財政支出と取り扱わず、公債費と同様に取り扱っている。この点について議論はあるが、仮にこれを国民生活に必要な財政支出と考えた場合でも、地方財政計画におけるプライマリーバランスは▲1.3兆円で、国の一般会計に比べてかなり小さくなっている。
 なお、「改革と展望」における2002年度の国と地方のプライマリーバランス(SNAベース)の対GDP比は、国▲5.2%、地方▲0.1%となっている。

 国税収(一般会計)決算額は以下のとおり。 62年度 46.8兆円、63年度 50.8兆円、2年度 60.1兆円、14年度 43.8兆円

 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(平成15年6月27日閣議決定)

 「概念上の拠出建て」とは、保険料納付額を賃金上昇率で運用したとみなして年金原資を計算し、平均余命までの期間で除して年金額を計算する。財政方式は賦課方式。

 医療費▲1%当たりの国民負担軽減額は、13年度ベースで▲2,850億円(うち患者▲450億円、保険料▲1,500億円、国庫▲700億円、地方▲200億円(初年度効果、50億円単位)

 「6月建議」において提示した改革の方向性

1

適正かつ公正で利用者本位の介護サービスの提供

適正な要介護認定の実施

適正なケアマネジメントを通じた的確なサービス提供

情報開示、苦情対応の改善による適正かつ良質なサービス提供

2

在宅重視、地域ケア重視のサービス体系の再構築

希望する高齢者が在宅での生活を続けられるような自立を維持・促進するための地域ケアの提供

在宅の延長としての民間の新たなサービスの提供(在宅・施設の中間的なサービスの提供)

介護施設の在宅サービスへの活用・転換

3

保険者の在り方の見直し

保険者の再編・統合など広域化の推進

保険者機能の強化(不正請求の防止、不適正な事業者に対する迅速な指定の取消など)

4

介護サービスの効率化

規制緩和の推進(施設サービスを含む更なる株式会社の参入の推進等)

民間事業者の収益状況を的確に反映した介護報酬の改定

医療サービスとの適正な連携

5

公的保険給付の在り方の見直し

公的保険給付の範囲の見直し(居住費用や食費などの日常生活に要する費用に係る保険適用の見直し、一定金額までの保険免責制度の導入など)

給付率など給付の在り方の見直し

 予算執行調査の際に地方公共団体の担当者から出された意見

保護基準が高過ぎるため、受給者の勤労意欲を阻害させており、また、生活保護を受けていない低所得層との間で可処分所得の逆転現象が生じており、不公平感が強い。

老齢加算、母子加算については、「老齢」「母子」というだけで一律に計上されており、必要性が乏しい。また、一般世帯との均衡がとれていないため廃止すべきである。

多人数世帯においては、保護費が高額になり過ぎているため、被保護世帯の自立を阻害している。

稼働年齢層に対しては保護期間を設定する等の対応が必要であり、また自立助長にも繋がる。

 重点4分野:1人間力の向上・発揮-教育・文化、科学技術、IT、2魅力ある都市・個性と工夫に満ちた地域社会、3公平で安心な高齢化社会・少子化対策、4循環型社会の構築・地球環境問題への対応。(「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(平成14年6月25日閣議決定)

10

 原単位:費用対効果分析の便益計測の基礎となる単位。例えば道路事業では走行時間の短縮を便益と考え、時間当たり人件費(原単位)に短縮時間を乗ずることにより便益を計算。

11

 感度分析:需要量など一定の前提条件が変動した場合に便益がどれだけ増減するかについての分析。

12

 例えば、21世紀COEプログラムは、大学が各々の強みや独自性に基づき策定する世界的な研究教育拠点の形成プロジェクトについて、全国の国公私立大学から広く公募し、大学関係者や民間研究者・経営者などによって構成される21世紀COEプログラム委員会によって審査、その中で優れているものを採択し助成を行っている。

13

 ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の4分野。

14

 エネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティア等。