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平成15年度予算の編成等に関する建議


平成14年11月20日

財政制度等審議会


平成15年度予算の編成等に関する建議

平成14年11月20日

財務大臣 塩川 正十郎 殿
財政制度等審議会会
   
今井 敬


財政制度等審議会・財政制度分科会は、平成15年度予算の編成等に関する基本的考え方をここに建議として取りまとめた。
政府においては、本建議の趣旨に沿い、今後の財政運営に当たるよう強く要望する。


財政制度等審議会財政制度分科会、
歳出合理化部会及び財政構造改革部会合同会議名簿

(平成14年11月20日現在)
[会長]  今井  敬   新日本製鐵(株)代表取締役会長
[歳出合理化部会長]  西室 泰三   (株)東芝代表取締役会長
[財政構造改革部会長]  本間 正明   大阪大学大学院経済学研究科教授
[委員]  秋山 喜久   関西電力(株)代表取締役会長
 岡部 直明   (株)日本経済新聞社論説副主幹
 奥井  功   積水ハウス(株)代表取締役会長
 貝塚 啓明   中央大学法学部教授
 木村 陽子   地方財政審議会委員
 笹森  清   日本労働組合総連合会会長
 島田 晴雄   慶應義塾大学経済学部教授
 立石 信雄   オムロン(株)代表取締役会長
 田中 豊蔵   元(株)朝日新聞社論説主幹
 寺尾 美子   東京大学大学院法学政治学研究科教授
 野中 ともよ   ジャーナリスト
 林  真理子   作家

 松井 義雄   (株)読売新聞東京本社取締役副社長
 水口 弘一

  (株)野村総合研究所元社長、
(社)経済同友会経済研究所長


<分科会、歳出合理化部会及び財政構造改革部会>
[臨時委員]  岩崎 慶市   (株)産業経済新聞社論説副委員長
 北城 恪太郎   日本アイ・ビー・エム(株)代表取締役会長
 河野 栄子   (株)リクルート代表取締役社長
 小林  実   (財)地方自治情報センター理事長
 佐瀬 守良   東京新聞論説委員

 田近 栄治   一橋大学大学院経済学研究科教授
 玉置 和宏   (株)毎日新聞社特別編集委員・論説委員

 冨田 俊基   (株)野村総合研究所研究理事
   糠谷 真平   国民生活センター理事長
 藤原 作弥   日本銀行副総裁

 水城 武彦   日本放送協会解説委員
   望月 薫雄   住宅金融公庫総裁
 保田  博   関西電力(株)顧問 
 吉川  洋   東京大学大学院経済学研究科教授
 吉田 和男   京都大学大学院経済学研究科教授
 吉冨  勝   アジア開発銀行研究所所長
 吉原 健二   (財)厚生年金事業振興団理事長 

[専門委員]

五十畑 隆

(株)産業経済新聞社客員論説委員
 石  弘光   一橋大学学長
 岩本 康志   一橋大学大学院経済学研究科教授
 北川 正恭   三重県知事
 鈴木 幸夫   麗澤大学名誉教授
 竹中 ナミ   (社福)プロップ・ステーション理事長
 田中 直毅   経済評論家
 俵 孝太郎   評論家
 樋口 廣太郎   アサヒビール(株)相談役名誉会長
 三木谷 浩史   楽天(株)代表取締役社長
 吉野 良彦   (財)トラスト60会長
 渡辺 恒雄   (株)読売新聞グループ本社代表取締役社長
(注1) 上記は五十音順。
(注2) ○は、建議の起草検討委員。

財政制度等審議会・財政制度分科会 並びに
歳出合理化部会及び財政構造改革部会合同部会
審議経過

9月13日(金)
財政制度分科会

○ 平成15年度予算概算要求等について
○ 財政制度分科会の当面の運営について 等

10月2日(水)
合同部会

○ 調査研究報告
〔発生主義を用いた地方自治体サービスのフルコストの分析〕
○ 予算執行調査について

10月9日(水)
合同部会

○ 義務教育(国庫負担)
○ 研究開発プロジェクト 等
○ 米政策の見直し
○ 農業委員会・協同農業普及事業

10月24日(木)
合同部会

○ 司法制度改革
○ 国と地方
- 地方向け補助金等の整理合理化
- 地方財政制度改革
- 調査研究報告〔国財政からみた地方財政改革〕
○ 政府開発援助(ODA)
○ エネルギー・中小企業対策

10月28日(月)
合同部会

○ 調査研究報告〔デフレと経済対策(大恐慌の経験)〕
○ 公共事業関係(長期計画、道路予算、公共工事のコスト縮減)
○ 公共投資の費用対効果に関する研究会報告
○ 海上保安庁予算 等

11月1日(金)
合同部会

○ 社会保障制度(年金・雇用・医療等)
○ 正面装備の抑制 等

11月12日(火)
合同部会

○ 建議(素案)

11月15日(金)
合同部会

○ 建議(素案)

11月20日(水)
合同部会

○ 建議(案)

11月20日(水)
財政制度分科会

○ 建議(案)


目  次

はじめに

I. 総論
1.現下の経済情勢と財政政策の役割
2.財政規律の堅持による財政の持続性の確保
3.歳出の質の改善と予算の重点化・効率化

II. 各論
1.国と地方
2.社会保障
3.公共事業
4.文教・科学技術
5.防衛
6.政府開発援助(ODA)
7.農業
8.エネルギー対策
9.中小企業対策
10.司法制度改革

III. 資料

(別添)
「平成15年度予算の編成等に関する建議」のポイント



はじめに


平成15年度予算は引き続き「改革断行予算」とすべきである。当審議会では、6月に取りまとめた「平成15年度予算編成の基本的考え方について」(平成14年6月3日:以下、「6月建議」)を基本に、平成15年度予算編成が抱える諸課題について更に専門的見地から議論を深め、その審議結果をここに取りまとめた。この建議が、今後の予算編成及び法令改正を含めた制度改革等に活かされるとともに、平成15年度予算並びに「負担に値する質の高い小さな政府」の実現に向けた国民的論議を一層深めるための一助となることを期待する。


I.総論


.現下の経済情勢と財政政策の役割

我が国の現下の経済情勢を見ると、景気は、年初来、輸出や生産などに持ち直しの動きがみられたものの、構造調整圧力が加わっていることもあり、全体としては厳しい状況が続いている。また、消費者物価は引き続き弱含んでおり、依然として緩やかなデフレとなっている。
景気の自律的回復を阻害する構造要因を取り除くために、我が国は現在、「改革なくして成長なし」「民間でできることは民間に、地方でできることは地方に」との考え方の下、経済社会の様々な分野において構造改革を推進しており、これによりデフレを克服しながら民間需要主導の持続的な経済成長につなげ、活力ある経済社会を構築することを目指している。
我が国経済を本格的に再生させるためには、不良債権処理の加速を含む金融システム改革や税制改革などの構造改革を加速させることによって民間部門を活性化させ、民需主導の経済成長につなげることが重要であり、このため政府は10月30日に、「改革加速のための総合対応策」を取りまとめた。この総合対応策は、不良債権処理の加速を含む金融システム安定化策、規制改革や都市再生、税制改革などの構造改革加速策のほか、雇用や中小企業のセーフティネット拡充策が中心となっており、平成14年度予算の執行、平成15年度予算編成等と一体的かつ整合的に実施していく必要がある。
景気に対する財政政策の役割については、幅広い議論・研究がなされており、特に90年代後半の我が国における財政出動の有効性については、様々な議論があるところである。公共投資の量的拡大は、生産性が低く効率性の劣る部門を温存してしまった面があり、結果的に持続的な経済成長につながらなかった。また、社会保障においては、負担を先送りにした結果、国民の将来不安を払拭できずにいる。「財政構造改革部会中間報告」(平成13年6月)でも指摘したとおり、欧米諸国においても、景気対策・経済安定化政策としての財政政策の役割は低下しており、金融政策による対応が中心となっている。特に現在の我が国のように、多額の国債残高が累増し財政赤字が大きく膨らんでいる状況においては、財政は自動安定化装置(ビルト・イン・スタビライザー)(注1)を通じて景気変動の緩和に寄与しているが、量的拡大による景気下支えは限界に達している。デフレかつゼロ金利という金融政策の運営上非常に難しい状況にはあるものの、我が国においても、金融政策が経済安定化機能の主役を担い、財政政策はセーフティネットの拡充等で一定の役割を果たしつつ、歳出構造の改革を通じて民間活力を引き出し、同時に財政の持続性を回復させることにより国民の安心を確保することをその任とすべきことを再度強調しておきたい。


.財政規律の堅持による財政の持続性の確保

上記1.で述べた財政政策の役割という観点も含め、財政規律の堅持の必要性については、当審議会から再三指摘しているところである。中期的な財政運営については、「構造改革と経済財政の中期展望」(平成14年1月25日閣議決定:以下、「改革と展望」)において、「2010年代初頭に(国と地方を合わせた)プライマリー・バランスを黒字化することが望まれる」との方針が示されたところである。この方針については、引き続き堅持し、必ずその実現を図るべきである。そして更に、財政赤字の縮減に全力を傾注して取り組み、将来世代への負担の先送りに歯止めをかけなければならない。その場合、例えばアメリカの「Pay-as-you-go原則」(注2)など、諸外国における財政規律確保のための取り組みについても参考にしていくことが考えられる。
また平成15年度予算に関しては、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(平成14年6月25日閣議決定:以下、「基本方針2002」)において、「一般歳出及び一般会計歳出全体について実質的に平成14年度の水準以下に抑制することを目標とする。また、国債発行額についても、平成14年度の『国債発行30兆円以下』の基本精神を受け継ぎ、『30兆円』からの乖離をできる限り小さくする。」とされている。
国債発行額については、国債の大量発行が国民の将来に対する不安を増幅することに加え、国債の格付けに見られるように、我が国財政に対する信認への対外的な影響が大きいことにも十分に考慮し、可能な限りの抑制を図る必要がある。このため、予定されている税制改革についても、我が国財政の現状を踏まえ、財政規律に十分配慮することが望まれる。歳出削減を財源に減税すべきとの議論も一部に見られるが、大量に国債発行を行っている状況の下では、歳出削減は、新規国債発行額の縮減に充てるべきである。歳出総額に占める税収の割合が低下してきている中で、平成15年度予算の編成に当たっては、歳出の各分野について思い切った見直し・削減を行うことが不可欠である。
また、平成15年度予算の在り方について審議する過程で、当審議会は、様々な構造的な諸課題に直面した。地方交付税制度、義務教育制度、社会保障制度、公共事業長期計画、特定財源制度、米政策など、長年にわたり我が国の発展に寄与してきた諸制度は、今や新しい時代の要請に応えることが難しくなってきている。過去においてはそれぞれの時代背景等の中で機能していた諸制度は、結果的に「ぼた餅が落ちてくるのを待つ人たち」を増やし、財政の規律が失われてしまった。構造改革とは、これら諸制度を21世紀という新しい時代に相応しい制度に再構築するものであり、「保護・救済型」の制度から「自立支援型」の制度へと転換していく作業である。とりわけ、国の財源保障を通じて、過度に国に依存している地方の自立を高め、真の地方分権を確立するということが求められている。現在、経済財政諮問会議や地方分権改革推進会議での審議などを通じて、これら諸制度の抜本的な見直しにようやく着手したところであるが、平成15年度予算編成においては、このような観点から思い切った見直しを図り、改革の方向性を先取りしていかなければならない。


.歳出の質の改善と予算の重点化・効率化

「基本方針2002」においては、平成15年度予算について、「経済の活性化を念頭に置きつつ、これまで以上に無駄を大胆に排除し、効率的な財政を実現しなければならない。」とされ、いわゆる「新重点4分野」(注3)に施策を集中することとされている。
これを踏まえ、平成15年度予算の概算要求基準においては、公共投資関係費及び裁量的経費について2割増しまでの要望を受け付け、所管を越えた予算配分の重点化・効率化を実施することとされたところである。
平成15年度予算編成においては、この概算要求基準の新しい仕組みを最大限に活用し、所管を越えた予算配分の大胆な見直し・重点化を図らなければならない。この場合、どのような施策が「新重点4分野」に該当し、経済の活性化に真に資するかについて厳しく精査するとともに、最小の費用で最大の効果が上がるよう効率性についても厳しく追求していく必要がある。
その一方で、予算配分に「メリハリ」をつけるためには、「どのような分野の歳出を削減すべきか」についてもきちんと議論することが必要不可欠である。従来以上に無駄を排除して予算編成を行うことはもちろんであるが、それだけでは予算配分を重点化するための大きな財源を生み出すことは困難である。当審議会においては、歳出の各分野について、こうした観点からの審議も行ったところであり、その結果が本建議のII.各論の部分に反映されている。これをベースに、歳出削減対象についての国民的な議論が高まることにも期待したい。
また、予算の効率化に関連して、上記1.で述べたような経済情勢を踏まえれば、物価や民間賃金の下落について的確に予算に反映させることが必要であり、加えて、徹底した増員の抑制と一層の定員削減や、電子政府化による事務の効率化、アウトソーシングの推進、NPOとの連携などにより、組織のスリム化を図ることも重要である。こうした点を踏まえ、価格実勢を反映した単価の見直しや総人件費の抑制などを行い、適切に予算に織り込む必要がある。
更に、予算の効率化という観点からは、予算執行の効率化、適正化も重要な課題である。財政当局では、本年より「予算執行調査」を行い、予算化された事業について、事業の効果が実際に発現しているか、事業の進捗状況、事業の効果がコストに見合っているか等の観点から、43事業につき調査したところである。これは、これまで必ずしも十分ではなかった予算の執行状況の把握を反映した効率的な予算編成について、財政当局が新たな取り組みをしたものとして高く評価できる。今回の調査結果を見ても、歳出の各分野にわたり、執行面における効率化の余地があるものと考えられ、今後は、会計検査院との連携強化等によりその内容を更に充実させるとともに、その結果について、例えば類似の他の事業にも応用するなど最大限活用し、予算編成に的確に反映させていくことが必要である。
以上のように、歳出の質を改善していくためには、様々な取り組みを総合的に行っていくことが必要であり、「基本方針2002」で示された、「負担に値する質の高い小さな政府」の実現に向け、今後とも一層努力していかなければならない。


II.各論

1.国と地方

(1)地方財政


.地方の自立のための改革に向けて
 
1

「地方にできることは地方で」の原則の下、地方の自立を確立するためには、地方の自己決定の下に自助努力と自己責任による行財政運営を目指すことが基本的な考え方である。具体的な取り組みとしては、まず、地方歳出の徹底した見直し、行政コストの削減といった行財政効率化のための一層の努力が求められる。
 
2

昭和29年度に作られた現行の地方交付税制度は、かつて高度成長期においては、国土の均衡ある発展に寄与してきた。しかしながら、多くの分野でナショナル・ミニマムが達成されたと考えられる今日、地方歳出に対する国の関与や国庫支出金とともに、地方交付税の仕組みは、地方歳出の財源保障を通じ、地方のコスト感覚を弱め、歳出を増加させる(注4)とともに、国に財政的に依存する状況を作り出すという問題を生んできた。
翻って、主要国に目を向けても、我が国のように地方への財源保障を行っているものは見られない。〔資料1-3~4参照〕いずれの国でも、最終的な収支尻を地方団体自身が税によって調整するなど、地方に何らかの自助努力を求め、効率的な行財政運営を促す仕組みとなっている。
以上を踏まえれば、地方財政制度について、「自立支援型」へと改革を進めていく視点が求められる。国が地方歳出に関与する一方で、地方交付税が、地方財政計画の歳出の財源を保障する仕組みは、増加する地方歳出の裏付けとなり、地方の自主性を弱めている。このように、地方の財政運営にモラルハザードをもたらしている地方交付税の財源保障機能(地方の歳出面をも考慮し、歳入と歳出の差額を補てんする機能(注5))を廃止し、税収の偏在に伴う財政格差を是正する機能(財政調整機能)に限る仕組みとすることにより、地方財政における受益と負担の関係を明確化していくことが必要である。
その際、財政格差の是正については、住民一人当たりの税収を基準としての調整、地方団体間で行う調整(水平的調整)、国の関与の在り方等について検討が必要である。
 
3

税源配分の見直しは、国庫補助負担金及び交付税の抜本的改革とともに検討していくこととなるが、その際には、国と地方それぞれの財政事情、税源移譲に伴う債務残高の調整、地方の課税自主権発揮の状況、国税が巨額の国債の貴重な償還財源であること、税源移譲に伴う税収偏在の拡大傾向、財政構造改革との整合性などを踏まえ真摯に検討すべき問題である。


.平成15年度予算編成

平成15年度の地方財政事情については、平成14年度にも増して厳しいものと考えられるが、現下の国の財政事情は、大量の国債発行の結果、極めて危機的な状況に立ち至っている。プライマリー・バランスでは、国(一般会計ベース)の大幅な赤字に対して、地方(地方財政計画ベース)が黒字となっていることに留意すべきである。(注6)
 平成15年度における予算編成及び地方財政計画の策定に当たっては、このような国と地方それぞれの財政事情を踏まえつつ、両者が共に健全な財政運営を目指していくことが必要である。
 
1

地方財政計画歳出の抑制〔資料1-8参照〕

平成15年度においては、引き続き国の歳出の見直しと歩調を合わせつつ地方歳出を徹底して見直し、その抑制を図るべきである。その際には、国の関与の縮減や行政サービスの水準の見直しに応じて、補助金や地方交付税により財源を手当てする歳出の範囲・水準を見直すこと等により、地方歳出の効率化・合理化を促進し、地方歳出拡大のインセンティブを抑制することが重要である。また、国家公務員や民間の給与水準の動向を踏まえた地方公務員の給与関係費の抑制、地方単独事業の削減を図るとともに、民間委託の活用による地方行政コストの削減といった努力により地方財政計画の規模をできる限り抑制する。
 
2

地方交付税総額の抑制

平成15年度における地方交付税の財源保障機能の見直しに関しては、地方歳出の徹底した見直しによる地方財政計画の規模の抑制に加え、地方財政の効率化を制度的に位置付ける観点から、地方公共団体に自助努力のインセンティブが働く仕組みにすることが考えられる。そのためには、まず、GDPの伸び率以上に増加している基準財政需要についても背景となる国の施策の見直しと併せて精査し、抑制していくことが必要である。
今後、更に、地方交付税の総額決定方法について、新たな仕組みを導入することにより、地方交付税のもたらすモラルハザードをある程度解消することも考えられる。これらの改革により、交付税の不交付団体の数を増やしていくことが重要である。〔資料1-9参照〕
 
3

地方交付税の算定方法の見直し

地方交付税の算定方法については、客観的かつ単純な基準で交付額を決定する簡素な仕組みとするよう取り組むことが必要である。また、事業費補正、段階補正を含め、引き続き地方の自主的・効率的な財政運営を促す方向で見直しを進め、これらを地方交付税総額の抑制につなげていくことが重要である。
 
4

交付税特別会計借入金の取扱い
更に、地方財政の通常収支財源不足の補てん措置については、平成13年度、14年度に引き続き、国と地方を通ずる財政の更なる透明化を推進することとし、国の一般会計及び地方公共団体それぞれの財政負担の明確化を図り、交付税及び譲与税配付金特別会計おける新規借入金の解消を図ることとする。

(2

)補助金等〔資料1-10~11参照〕
 
1

補助金等については、社会経済情勢の変化、国と地方及び官と民の役割分担等の在り方を踏まえ、その整理合理化を積極的に進める必要があり、特に、補助金等の大宗を占める地方公共団体向けの補助金等については、国と地方の役割を見直し、国の関与を縮減しつつ地方の財政規律を高めていく観点から、既存の制度や事業について聖域なく見直しを行うべきである。
 
2

政府においては、地方分権改革推進会議の調査審議も踏まえつつ、国庫補助負担事業の廃止・縮減について、年内を目途に結論を出すこととされているが、その際には、必置規制等の地方への義務付けの縮減と併せて、行政の担うべきサービスの範囲・水準を見直すことにより、国・地方を通じた行政のスリム化を実現していくことが重要である。即ち、「負担に値する質の高い小さな政府」の実現の観点から、国庫補助負担事業の廃止・縮減に際しては、引き続き地方が主体となって実施する必要性について十分精査するとともに、交付税等に安易に依存しないことによって、地方歳出の効率化を進めていくことが肝要である。(注7)
 
3

平成15年度予算においては、上記の国と地方の役割の見直しや国が関与している事務及び事業の見直しに応じた補助金等の整理合理化を進めることを基本として、国庫負担金については補助負担対象の抜本的見直しを行うとともに、国庫補助金については原則廃止・縮減を図るとの方針の下、量的縮減を進めることが求められる。また、統合補助金については、地方公共団体の裁量を高める観点から、対象事業の一層の拡充を図る必要がある。


.社会保障

社会保障については、急速な少子高齢化の進展に伴い、経済の伸びを大きく上回って給付と負担が増大していくことが見込まれている。〔資料2-1参照〕他方、経済基調の変化、深刻な財政状況、高齢者を巡る経済状況の変化等、社会保障を巡る状況は大きく変化しており、これらの変化に的確に対応し、将来にわたり持続可能で安定的・効率的な制度を構築するため、社会保障の構造改革に取り組んでいく必要がある。改革なしでは、国民の将来不安を惹起し、中長期的に見て、我が国の経済社会に重大な影響を及ぼしかねないと考えられる。
したがって、社会保障制度について、セーフティネットとしての機能を確保し、世代間・世代内の公平を図りつつ、経済の伸びと均衡がとれ、プライマリー・バランスの黒字化達成といった財政規律とも整合性がとれたものに再構築し、国民負担率の上昇を極力抑制していくことが最重要の課題である。
その際、社会保障制度は、国民の生涯設計の基礎となるものであり、頻繁な制度改正は、かえって国民の将来不安を煽る結果となるので、厳しい内容であっても、これにより制度が将来にわたって持続可能なものとなるような抜本改革を行う必要がある。また、改革に当たっては、年金・医療・介護等の各制度を一体的にとらえ、効率的な運営を図ることにより、国民の合意と理解を得るよう努めるべきである。
更に、社会保障分野における国民の様々なニーズに的確に対応できるよう、多様で質の高いサービスを効率的に実現し、あわせて経済活性化・雇用創出にも資するとの観点から、保育・介護・医療等の分野における徹底した規制改革による民間企業参入の促進、民間保険の思い切った活用等を図っていく必要がある。
また、物価・賃金等の下落等を適正に給付額や単価に反映される社会保障予算としていくことが歳出構造の改革の観点から必要である。
こうした考え方を前提として、社会保障制度全般にわたり、制度の合理化・効率化に向けた具体的な取り組みが進められることを期待したい。〔資料2-2参照〕
 
(1

)年金

平成15年度予算において、消費者物価の下落に応じて法律どおりのマイナス改定を実施する必要がある。何故ならば、過去3年間の消費者物価下落分(▲1.7%)に応じたマイナス改定を停止した場合、完全実施の場合と比べ給付費が約0.6兆円増加すると見込まれ、特段の措置を講じなければ、将来にわたって、保険料等の負担増につながることになるからである。また、年金制度について、後述のとおり、世代間の公平、給付と負担のバランスを確保し、持続可能な制度を構築することが最重要課題となっており、現在の収支を見ても既に保険料収入等でその年の給付額を賄えないほど悪化していることを踏まえれば、物価スライドについて、制度が予定しているとおりの運用をしないで年金財政を更に悪化させ、現役世代が抱く不公平感を一層増大させることは問題である。
平成16年に予定されている今度の年金改革においては、経済の成熟化や、予測を超えた速度での少子高齢化の進展等、年金制度が前提としていた経済・社会構造が大きく変化していることに対応して、制度改正を繰り返す必要のない、将来にわたり持続可能な制度を構築することが課題である。〔資料2-3参照〕
支え手である現役の賃金の伸びが鈍化し、現役の人口が減少する一方、年金受給期間が延び、年金受給者数が増加を続けることから、現行の給付設計のままでは、将来世代の大幅な負担増を前提にしないと年金財政を均衡させることができない状況となっている。平成11年の財政再計算では、給付債務総額(厚生年金:2,160兆円、国民年金:270兆円)のうち、現行の保険料等で賄えず、今後の保険料の引上げ分により賄わなければならない部分は、厚生年金で540兆円、国民年金で60兆円と巨額のもの(年金債務総額の4分の1程度)となっている。〔資料2-4参照〕
したがって、年金制度を持続可能なものとするためには、将来の現役世代が制度を支えられるよう、年金債務を縮減し、将来世代の負担増を抑制することが必要である。このため、給付と負担のバランス、世代間の公平に配意しつつ、現役が負担できる保険料等で賄える範囲内に給付水準を限定するという考え方を基本とし、給付水準を抑制することが必要である。給付の抑制に当たっては、世代間の不公平を拡大させないためにも、将来の給付を調整するということに力点を置くのではなく、既裁定年金や今後早い時期に支給が始まる年金を見直していくことが強く求められる。その際、保険料については、その上限について国民のコンセンサスを得た上で、その水準までの法定化を図る必要がある。また、将来にわたり持続可能な制度を設計する上で、積立金の在り方をどうするかについても、マクロ経済との関係や賦課方式における意義等を踏まえ、十分検討する必要がある。
また、従来のように人口推計や経済条件等の前提に関する予測が外れる度に制度の見直しを繰り返すということにならないよう、厳しい前提の下で年金改革を議論することが必要であり、また、人口推計等の基礎データの情報公開も積極的に行うことが求められる。更に、改革後の制度が想定する前提が変化した場合に対応するため、スウェーデンの改革を参考としつつ、保険料を上限で固定し給付で調整する自動財政均衡メカニズムを創設する必要がある。これは、将来、前提が変化した場合の給付と負担のバランスを図るルールを国民に予め示すという意味でも重要である。
今度の年金改革において、給付と負担の見直しを行う中で、社会の変化に対応した制度の見直しを折り込んでいくことも当然必要である。
健康寿命の伸長や就業形態の多様化等により高齢者世帯が多様化していること、高齢者世帯は平均的には現役と遜色のない経済実態であること等を勘案すれば、国民年金(基礎年金)について、消費水準の下落を踏まえた給付水準の見直しに加え、平均的な世帯ではなく、低収入階級の世帯の消費支出を考慮して給付水準を考えることが適当である。同時に、高収入の者に対する年金給付の縮減を図る必要がある。また、個人の自助努力の受け皿として企業年金等の普及を図り、これを公的年金と適切に組み合わせることや、リバースモーゲージの活用等を通じて、老後生活の設計に関する国民の選択の幅を広げる必要がある。
更に、女性のライフスタイルの多様化や就業形態の多様化等を踏まえ、厚生年金の標準モデルの設計において配偶者の就業期間を考慮するとともに、短時間労働者への社会保険(厚生年金・健康保険)の適用拡大、第三号被保険者制度の見直しなどが求められる。
基礎年金国庫負担については、平成12年改正法附則において、「当面平成16年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担割合の2分の1への引上げを図るものとする。」とされている。この問題については、規定のとおり、安定した財源確保(平成14年度で2.5兆円)の具体策と一体で検討する必要があり、その際、年金制度における国庫負担の在り方について、薄く広く調達する税財源を年金給付に対して一律に一定割合投入するのがよいのか、低所得者に対する給付や低額となる給付に重点化するのがよいのかといった点を含め(注8)、年金制度そのものの在り方の問題をも踏まえつつ、様々な観点から十分に議論する必要がある。
制度に対する信頼を確保する観点から、国民年金の未納・未加入者には厳格な対応が必要であり、国民年金の保険料の滞納者に対して、法律が予定しているとおり滞納処分を速やかに実施する必要がある。
平均寿命を超えた長生きは誰にも現役時代には予測できないものであることから、給付額が現行制度よりも厳しくなったとしても、将来にわたり年金制度が持続すると示すことができれば、将来の老後生活に一定の安定感をもたらすと考えられる。このように年金制度は国民の将来の生活設計に係わる重要なものであるので、持続可能な制度を構築するためには、将来の年金の姿がどのようになるのかを国民に明示した上で、国民的な幅広い議論をしっかりと行う必要がある。
 
(2

)雇用

雇用関係の平成15年度予算における最重要課題は、雇用のセーフティネットの中核である雇用保険制度を再構築する雇用保険制度改革である。近年の雇用保険財政の状況は、給付は平均して毎年1,000~2,000億円程度増加する一方で保険料収入の伸びはそれに対応したものとなっていないことから、10年近くにわたり単年度収支は赤字の状況が続いている。〔資料2-6参照〕このため、ピーク時には5兆円近くあった積立金も年々減少し続け、仮に制度改正等の対応を行わずに、現状のような赤字構造のままで推移した場合、平成15年度には積立金が枯渇し、失業等給付の支給に著しい支障が生じる可能性が高い。今後の雇用失業情勢について楽観はできない状況の中で、公的セーフティネットにより真に支援が必要な者に対する給付を確実に行えるようにするためにも、雇用保険制度の抜本的な見直しは不可避である。また、制度改正に当たっては、上記のような短期的な観点に加え、労働移動の増加、雇用形態の多様化等中長期的な労働市場の構造変化にも対応しつつ、雇用保険制度が将来にわたり雇用のセーフティネットの中核としての役割を安定的に果たしていけるよう、現在のような赤字構造を解消する改革案とすることにより、制度に対する国民の信頼を確保することが求められる。
雇用保険制度改革に当たっては、一部には国庫負担を引き上げるべきとの議論も伝えられているが、ア)雇用保険制度は労使の共同連帯を基本とするものであること、イ)諸外国の雇用保険制度に比しても既に高水準の国庫負担となっていること〔資料2-7参照〕、ウ)国庫負担は給付の伸びに応じた応分の負担は既に行っていること等から、国庫負担を引き上げることは適切ではない。むしろ、「6月建議」でも指摘したとおり、現行の給付体系には様々な問題点があり、これを解消するための給付の徹底した見直しを制度改正の基本とすべきである。
給付の見直しに当たっては、

1

漫然と失業等給付を受け続けるのではなく、早期に再就職しようとする意欲を喚起するような給付体系とする

2

給付の無駄を省くことにより、雇用保険の収支状況の改善を図り、公的なセーフティネットにより真に支援が必要な者に対する給付を確実なものにしていく

等を基本に据え、給付の効率化・重点化を図っていく必要がある。
具体的には、現在の給付の内容に対しては、

1

基本手当日額の高い層において、基本手当日額が再就職時賃金を上回る例が見られ、再就職へのインセンティブをむしろ阻害しているのではないか

2

離職前から予め再就職の準備ができるような自発的な失業者に対しては、自己責任の観点も踏まえ、公的な支援の程度は低くても良いのではないか

3

就業形態が多様化する中、現行のように常用雇用者とパート労働者という働き方により給付内容を異ならせる仕組みは見直す必要があるのではないか

4

現在の給付には、教育訓練給付など公的なセーフティネットによる支援としては相対的に手厚過ぎるもの、モラルハザードを惹起しかねないもの等があるのではないか

5

定年退職者や結婚退職者等について、再就職の意思が低い者に対しても手厚い給付が行われており、再就職への支援という制度の趣旨とは異なる事態も生じているのではないか
   
等の指摘があることも踏まえ、早期再就職を促進する観点からの給付水準の見直し、自発的失業者に対する所定給付日数の短縮化、教育訓練給付や高年齢雇用継続給付等の給付率の引下げ、失業認定の厳格化等の給付の合理化を図る一方で、常用雇用以外の再就職も促進する給付体系とするとともに、非自発的失業者のうち、現在の雇用失業情勢下にあっては比較的給付内容が手薄であると考えられるパート労働者や35~45歳層に対する給付日数の延長を図る、訓練延長の特例的拡充措置の年齢要件を緩和するなど「メリハリ」のきいた給付の見直しを行うべきである。
また、上記のような雇用保険の本体給付の見直しとあわせ、早期再就職をより強力に促進する観点から、雇用保険三事業についても見直しを行い、雇用保険全体として現在の雇用失業情勢に適切に対応できるセーフティネットを構築していくべきである。
なお、今後頻繁な制度改正を回避し、雇用保険制度に対する国民の信頼を確保することが何より求められることから、上記のような給付の徹底した重点化・効率化を行うことを前提に、将来にわたり雇用保険制度の安定的な運営を確保する上での必要最小限の保険料の引上げはやむを得ないものと考える。
最後に、上記のような雇用のセーフティネットの構築とあわせて、多様な働き方の実現や円滑な労働移動を可能とするための労働市場の構造改革も重要である。このため、民間職業紹介業や労働者派遣業、有期労働契約にかかる規制改革等を促進していく必要がある。
 
(3

)医療

医療費は平成14年度改革後も年平均4%(15~19年度平均)で伸びる見込みである。医療の質を確保しつつ、皆保険制度を持続可能な形で運営するためには、公的医療保険でカバーすべき範囲を見直すとともに、増大する公的医療費の伸びを経済の伸び(およそ保険料収入の伸び)と均衡させていくことが必要である。
健保法附則に規定された医療保険制度の抜本改革の課題(医療保険制度の体系の在り方、診療報酬体系の見直し等)については、本年度中に政府の基本方針を策定することとなっている。先般示された「坂口厚生労働大臣私案」における保険者の統合・再編と都道府県単位の保険運営は、あるべき方向として支持するが、保険料負担の公平化、すなわち財政調整だけでは同じパイの分け方が変わるだけであり、公的医療費全体の伸びの抑制にはつながらない。基本方針の策定に当たっては、これらに加え、


都道府県単位の保険者機能の強化(レセプト審査の強化、給付・保険料率設定に係る自律的な財政運営等)


一人当たり医療費の地域間格差の是正


公的医療保険の守備範囲の見直し(一定金額までの免責制度の導入、特定療養費制度の拡充・運用弾力化を含む保険診療・自由診療の組み合わせの拡大、民間保険の活用等)


診療報酬の包括払いの推進
   
をはじめとする、公的医療費の伸びの抑制策を大胆に盛り込むことを求めたい。
また、平成15年度に向けて、改正老人保健法に盛り込まれた老人医療費の伸び率適正化指針の内容を真に効果的なものとし、その実施を徹底するとともに、患者への情報提供や医療安全対策、病床の機能分化と病床数の削減など、医療の質の向上と医療提供体制の効率化に一層努めるべきである。更に、医療費の抑制のためには、健康づくりや疾病予防の推進といった視点も重要である。
 
(4

)介護

平成12年4月から実施された介護保険制度については、平成15年度から第2期の事業計画(15~17年度)が開始される予定である。本年6月時点での見込みによれば、要介護高齢者数の増加やサービス利用量の増加により、11.3%の保険料引上げが見込まれている。
介護保険においても、財政規律を保ち、持続可能な制度運営を図るためには、適正な保険料の引上げが求められるが、その前にまず、

1事業計画の精査(在宅ニーズを踏まえ、施設サービス量を精査)

2保険者の統合、広域化による保険財政の安定化

3介護報酬の引下げ

が必要である。
このうち、介護報酬の引下げに当たっては、賃金・物価の動向、事業収入の伸び、事業者の経営状況等を踏まえ、報酬水準全体を適正に引下げる必要がある。これにより、介護保険料の増加水準の抑制などの高齢者世帯等の負担増の抑制に資することができると考えられる。その上で、個別サービスごとの具体的な報酬設定に当たっては、サービスの効率化・質の向上を促すように設定していく必要がある。
また、構造改革特別区域法案において、特別養護老人ホームの設置主体及び経営主体として公設民営方式又はPFI方式による株式会社の参入を認めることとしているが、民間参入の拡大に向けて、施設介護について更に規制改革を進めていく必要がある。更に、補助金なしで整備される「安心ハウス」等の民間のケア付住宅の普及も重要である。
 
(5

)生活保護等

近年、高齢化の進展や経済活動の低迷等を受けて生活保護受給者が増えてきている。
生活保護制度は、国民生活の最後のセーフティネットとしての機能を有するものであるが、受給者に一定の収入を保障するものであるが故に、その執行が安易に流れると、モラルハザードが生じかねないので、執行の一層の適正化にしっかりと取り組んでいく必要がある。
また、年金額の物価スライドの実施を踏まえ、生活保護基準及びその他の受給額基準等について、引下げを行っていく必要がある。
 
(6

)少子化対策等

都市部を中心に、引き続き、待機児童ゼロ作戦、放課後児童受入れ体制の整備等を進めるとともに、育児休業の取得や看護休暇制度の普及をはじめとして、子どもを安心して産み育てられるような勤務体制・職場づくりに努めるなど、少子化の流れを変えるための実効性のある対策を推進していくことが重要な課題である。
その際、多様な働き方の実現に資する制度改革を進めるとともに、公営保育所の高コスト構造を踏まえ、規制改革の推進による保育所運営への株式会社参入を促進するほか、保育所整備における学校の余裕教室等の活用、利用者と保育所との直接契約の実現を含めた制度の見直し等により、効率的で多様なニーズに適切に対応する保育サービスの実現を図っていく必要がある。
更に、地方分権改革推進会議「事務・事業の在り方に関する意見」(平成14年10月30日:以下、「地方分権改革推進会議の意見」)では、保育所運営についての国の関与の見直しによる幼保一元化の推進に向けた検討と併せた保育所運営費負担金等の一般財源化、保育所における調理施設の必置規制の廃止等と併せた保育所等の社会福祉施設に対する施設整備費補助負担金等についての一般財源化の検討等が指摘されている。こうした指摘を踏まえ、社会保障の分野においても、国庫補助負担事業の廃止・縮減、必置規制の見直しを検討していくことが必要である。


.公共事業
 
(1

)長期計画の見直しについて〔資料3-1参照〕

公共事業に係る長期計画については、社会資本の整備水準が一定のレベルに達したことを踏まえ、計画の必要性や「緊急措置法」に基づく計画という手法について見直す必要がある。また、長期計画が歳出の効率化を阻害しているとの指摘も踏まえ、計画策定が必要と判断される場合も、計画の重点を従来の「事業量」から計画によって達成することを目指す「成果」へと転換し、原則として事業費の記述を行わないこととすべきである。計画の内容については、整備水準の向上だけでなく既存ストックの有効活用や今後増大すると見込まれる維持更新費用も踏まえたものとするほか、関連の深い事業間の計画の整合性確保、国から地方へ、官から民への改革の方向性を踏まえることとするなど、「基本方針2002」で指摘された事項に沿った見直しを行う必要がある。
 
(2

)本四連絡橋公団の債務処理について

日本道路公団等については、民営化後の組織及びその採算性の確保に関する事項に関し、現在、道路関係四公団民営化推進委員会で調査審議が行われているところであるので、当審議会においては、有料道路整備の基本的考え方及び本四連絡橋公団の債務処理を中心に議論を行った。
有料道路制度は、道路の早期整備の観点から、借入金によって整備資金を調達し、利用者からの料金収入によってこの債務を返済するものである。したがって、建設段階において、料金で確実に債務を償還できる範囲に投資を抑制することがまずもって重要であるとともに、逆に、現行料金で賄える範囲内であれば、出来る限り税金に依存せずに、利用者に負担を求めつつ道路整備を進めることが合理的である。
他方、本四架橋のように、既に建設が終了し、整備費用に係る債務が料金収入によって完済できないことが明らかとなっている場合には、国民負担の膨張を避けるために、早い段階で税金を投入し、料金収入により償還可能な範囲に債務を圧縮することが必要になる。
一方、道路整備に伴う債務とはいえ、いやしくも不測の国民負担を招くこととなったのであるから、税金の投入に国民の理解を得るため、プロジェクトの決定過程などの経緯を検証するとともに、その結果を他の大規模プロジェクトの透明性の確保に役立てていくことが重要である。また、こうした観点も踏まえ、関係地方公共団体に対しても、現行の償還計画に基づく出資に加え、債務の確実な償還を確保するために必要な負担を求めるべきである。
 
(3

)道路特定財源について〔資料3-2参照〕

特定財源制度については、「財政構造改革部会中間報告」(平成13年6月)でも述べたとおり、一般に緊要性の高い分野に比較的安定的な財政資金を確保するという機能を有する一方で、資源の適正な配分を歪め、財政の硬直化を招くおそれがある。したがって、公共投資を抑制し、その重点化を推進していく際には、現行の道路特定財源についても、危機的な財政事情の下で財政資金の有効な活用を図る観点を踏まえ、見直しを行うべきである。
平成15年度予算においては、現行の道路整備五箇年計画及び道路特定財源の暫定税率の期限が切れることから、その延長を求める要望が提出されているところであり、この機会に、道路特定財源の在り方について考え方を整理しておく必要がある。
道路特定財源については、財政の硬直化を避ける観点から、将来的に一般財源化していくことが正しい方向である。すなわち、今後、公共投資が大幅に抑制されることとなれば、道路との関係によって負担を求めることは難しくなり、その段階では、酒税やたばこ税と同様に、一般財源として位置付けることが必要である。
道路歳出については、公共投資全体の抑制を図るなかで着実に重点化・効率化を進めていくのは当然であるが、ただちに現行の道路特定財源の規模を大幅に下回る水準に抑制することが国民的コンセンサスであるとまでは言いがたい。他方、当面の平成15年度予算においては、現下の厳しい財政事情を踏まえ、納税者の理解を得つつ、引き続き税収を確保する必要がある。当面必要な歳出規模が特定財源の収入にほぼ見合っている現状を踏まえれば、厳しい財政事情の下、引き続き受益と負担の関係に基づき、使途(受益)を納税者に示した上で暫定税率の延長に理解を求めることもやむを得ない。その際、道路特定財源の使途については、すべて道路整備に充てるのではなく、納税者の理解の得られる範囲で出来る限り柔軟に対応していく必要がある。
 
(4

)コスト縮減・事業評価(注9)について
   
公共投資のコストについては、民間事業に比べ割高であるとの批判もあり、限られた財源を有効に活用する観点からも、引き続き縮減努力が必要である。このため、従来から実施している工事コストの縮減に加え、規格の見直しや事業のスピードアップ、ライフサイクルコストの低減など総合的なコスト縮減に取り組むほか、PFIの活用等民間活力の活用を図る必要がある。入札・契約手続きについても引き続き改善を図る必要があるが、特に中小建設業者を活用するための分離・分割発注や、いわゆる地域要件の設定は、過度に競争性を低下させるような運用とならないようにすべきである。また、コスト縮減の実績を挙げた事業については、翌年度以降の予算において重点配分を行うことにより効果の早期発現を目指すなど、事業実施主体にコスト縮減へのインセンティブを付与する仕組みも検討すべきである。
公共投資の事業評価については、その技術的限界を踏まえつつも、納税者の視点に立って不断に改善・有効活用を図る必要があり、その内容について第三者の検証を可能とするよう、関連情報について整合性を持った形でインターネット等に情報公開を図るべきである。また、GDP成長率、人口動態等の需要予測の前提条件について事業間で整合性を確保し、評価の基礎となる費用・便益等の妥当性について検証(注10)する必要がある。更に、便益計測の基礎となる時間価値などの原単位(注11)の精査による統一的な考え方による設定を目指し、更に、将来の不確実性を考慮に入れた感度分析(注12)の導入を検討すべきである。

4.文教・科学技術

(1

)文教予算
 

.義務教育〔資料4-1参照〕
   
1

義務教育は国の礎であり、その重要性に鑑みれば、国がその基盤の整備について相応の責任を負うべきことは言うまでもない。このため、戦後の復興期や高度成長期を通じて、国は教育機会の均等やその水準の向上に主導的な役割を果たしてきた。少子化が進展している現在でも、児童・生徒一人当たりの公教育投資を大きく拡大させてきている。(注13)しかし、他方で、学力低下への懸念や全国画一的な教育への批判が年々高まってきているのも事実である。今や義務教育については、全国画一的な発想を改め、地域がその教育力を発揮し、それぞれの地域社会の個性や特色を活かした教育を実現することが喫緊の課題であると言わざるをえない。このような現状を踏まえ、今日的視点に立って、義務教育に関する行財政制度の抜本的な見直しを行う必要がある。
   
2

「地方分権改革推進会議の意見」においても、こうした観点から、義務教育に関する中心的制度である義務教育費国庫負担制度について、(1)負担対象経費の見直し、(2)客観的指標に基づく定額化、交付金化への移行、(3)一般財源化の検討等により、その抜本的見直しを着実に進めるべき旨提言されている。
学校教育を実施するのは地方であるという原則の下、地方が自らの責任に基づく自由な判断で創意工夫を行うことを本制度が事実上制約することがないよう、「地方分権改革推進会議の意見」を踏まえ、負担対象経費の整理合理化を図るとともに、定額化・交付金化等に早急に着手すべきである。これにより、教員の採用や配置を大幅に自由化し、多様な経験や能力を持つ社会人や地域の様々な人材を学校の現場で活用することが可能になるものと期待される。あわせて、教員給与の一律優遇制度を改め、能力と実績に応じ、創意工夫とやる気を持つ教員を高く評価するシステムに転換していく必要がある。
   
3

同時に、自立した地方が多様な個性と創造性を発揮して、学校教育の質的な向上を図るためには、限られた予算を最大限活用し、教育投資の効果をより高めていくとの視点が重要である。こうした視点から、義務教育関連の予算について、現在の硬直的な負担金制度の下で教職員定数の拡大を目的とする教職員定数改善計画など既存施策の徹底的な見直しを行うとともに、重要度等に応じた施策の優先順位付けを明確にし、重点化を図っていく必要がある。
   
4

また、義務教育教科書無償給付制度については、これまでの建議でも再三にわたり、受益者負担の観点からその有償化等について提言を行ってきた。この問題については、教科書に対する国民的な意識と関心を高めるとの観点から、「無償」という考え方自体を見直すべき時期に来ており、その有償化を実現すべきである。その際、要保護世帯等に対しては別途適切な配慮を行うことが必要である。
 

.義務教育以外の文教予算
義務教育以外の文教予算については、「6月建議」でも述べたとおり、受益者負担の徹底と資源配分の重点化を図り、施策の効率的、効果的実施を徹底すべきである。
具体的には、高等教育について、国立学校特別会計や私学助成を通ずる機関支援を見直し、国公私を通じた競争原理に基づく支援へ重点化を図る必要がある。これと関連して、国立大学の法人化にあたっては、市場原理・競争原理の下で第三者評価に基づく支援に重点化するような制度設計が必要であり、平成16年度からの円滑な移行に向けて、早急にその具体像を明らかにしていくべきである。
また、育英奨学事業について、適正な受益者負担を求めるとともに、事業の一層の効率化、合理化を図っていく必要がある。
このほか、高等学校等や生涯学習・社会教育等に関する補助金等の縮減を進めるとともに、文化予算について、費用対効果、官民の役割分担の観点から施策の厳格な絞り込みを行う必要がある。

(2

)科学技術〔資料4-3~4参照〕
   
1

我が国の科学技術予算は、ここ数年、重点分野として大幅に伸びてきた。この結果、現在では、政府研究開発投資の対GDP比率で見ても、 「第2期科学技術基本計画」(平成13年3月30日閣議決定)の目指す欧米主要国の水準は既に達成されているといえよう。厳しい財政事情の下、科学技術といえども聖域ではないことも踏まえれば、量的拡大よりも、一層の質的向上に軸足が置かれるべきである。
   
2

平成15年度予算においては、「6月建議」でも述べたとおり、スクラップ・アンド・ビルドの原則に基づきつつ、「重点4分野」(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)への更なる絞り込みと合わせて、既存プロジェクトの徹底的な見直しを実施すべきである。これに関連して、科学技術政策担当大臣及び総合科学技術会議有識者議員により「科学技術関係概算要求の優先順位付け」(平成14年10月 18日公表)が取りまとめられており、予算編成においては、これを十分に活かしていくことが重要である。
経済活性化のための研究開発プロジェクトについては、経済的効果、官民の負担の分担等の観点からの精査が必要である。また、大規模プロジェクトについては、必要性、緊急性、費用対効果、後年度負担等について十分に検討し、一層厳格な絞り込みを行う必要がある。
   
3

優れた成果の創出と、その活用を可能とする研究環境の構築のため、科学技術システム改革の更なる推進が不可欠である。具体的には、競争的環境を強化すべく、基盤的経費の削減を通じて競争的資金への一層のシフトを図るべきである。競争的資金についても、近年急速に量的に  拡大し、制度が多様化していることを踏まえ、制度メニューの大括り化や事後評価の徹底等の改善が求められる。産学官連携及び地方における科学技術振興については、適切な官民の役割分担、施策の有効性といった観点から、既存の施策の評価も踏まえて検討するとともに、所要のルール作りも必要である。
   
4

本年のノーベル物理学賞及び化学賞の同時受賞は、我が国の科学技術の水準の高さを明らかにしたものではあるが、このような水準を維持・向上させるための科学技術に対する国の支援は、国民の理解と支持があって初めて成り立つものである。このため、各研究開発プロジェクトについて、費用対効果分析をはじめとする評価を厳正に実施し、評価結果を国民にわかりやすい形で開示することが必要不可欠である。

5.

防衛
 
1

防衛関係費は、現下の我が国を取り巻く国際情勢に鑑み、国民の安全、安心の確保に極めて重要であるが、人件・糧食費及び歳出化経費の占める割合が8割を越えており、予算の硬直化という構造問題を抱えている。〔資料5参照〕しかしながら、これまでも各種事態への対応や国際貢献といった多様な役割にも対応するため、防衛関係費の合理化・効率化の努力を続けてきた結果、防衛関係費の総額は抑制的に推移しており、平成15年度予算については、深刻な財政事情等を踏まえ、これまでにも増して、極力、その合理化・効率化に取り組むべきである。
 
2

特に、予算の弾力性を回復するためには、長期にわたって歳出化による後年度負担を招き、関連する後方経費の増加をもたらす新規の正面装備について、厳しい財政事情や国際情勢等を勘案しつつ、必要性、優先度等を十分に検討し、その抑制を図る必要がある。
具体的には、冷戦の終結等の国際情勢を踏まえ、現防衛大綱(平成8年度以降)の主要装備の整備水準が設定され、これを充足するため、中期防衛力整備計画(平成13年度から平成17年度)が策定されているが、中期防は策定から3年後(平成16年度編成時)には、その時点における国際情勢、経済財政事情等を勘案し、必要に応じて見直しを行うこととされており、これも見据えつつ正面装備等の抑制を図るべきである。
 
3

その際、各主要装備品等の使用年数については、使用実績を勘案し、その延伸に努めることにより、損耗更新を抑制するとともに、現有装備の改善・改良で対応できるものは、そうした方向で対応することとし、新規装備の購入は抑えるべきである。
装備品の単価については、物価下落及び慣熟効果等を適正に反映すること等により、単価の低減を図ることとする。また、ライフサイクルコスト(取得価格及び維持費)にも着目し、特に、維持費の中で主要部分を占めるオーバーホールコストについて、修理の所要及び間隔を精査するとともに、材料費については物価下落を、役務費については賃金動向を適正に反映させることなどにより、維持費全体を低減させていく必要がある。
 
4

更に、正面装備等の新規契約のみならず、人件費については、組織定員や実員について抑制を図るとともに、諸手当等の人件費の基礎となる諸制度の見直しに取り組むこととし、施設整備等については、予算執行調査等を踏まえ、稼動状況等を精査する中で、その合理化・効率化を図ることにより、防衛関係費の抑制を図るべきである。

6.

政府開発援助(ODA)〔資料6参照〕
 
1

我が国の政府開発援助(ODA)は、国内経済が低迷し、財政赤字が主要先進国中最悪となる中で高水準を持続しており、平成10年度以降規模の抑制が図られているものの、その量的規模は依然として国際的に顕著となっている。
他方、会計検査院の検査報告等においては、ODA事業が十分な援助効果を挙げていない事例が多々指摘されている。
 
2

こうした中で、ODAについては、その意義や効果、効率性、規模について国民から批判的な議論が行われるようになっており、ODAの戦略性向上等の観点からODA大綱の見直しが迫られている。
ODAへの国民の支持を回復するためには、相手国のニーズだけではなく我が国にとっての政策目的を明らかにした上で、政策評価の充実や監査の強化、援助計画に基づく戦略的援助の実施等を通じて事業の無駄を排除するとともに、透明性の向上に努め、ODAが年々増加していた時代に見られた量重視の考え方を質重視へと転換していくことが不可欠である。
 
3

また、ODAの資金形態別配分についても、歳出の質の改善と予算の重点化・効率化を目指して、以下のとおり見直すべきである。

i)

有償資金協力については、「特殊法人等整理合理化計画」(平成13年12月19日閣議決定)で円借款の「事業規模の縮減を図る」とされたことを踏まえ、引き続き円借款の新規承諾の圧縮・重点化により事業規模(貸付実行額)を抑制するとともに、国際協力銀行出資金を縮減する必要がある。

ii)

二国間無償については、平成14年度はアフガニスタン及び周辺国の復興支援等に留意した予算配分が行われたところであるが、平成15年度においては、過去の国際公約の誠実な実行に配慮しつつも、コストや政策効果面で無駄がないかを精査し、更なる量的縮減と重点化を図る必要がある。

iii)

二国間技術協力については、研修員受入れ、専門家派遣、留学生支援など様々な形で途上国の人造りに対する支援を行っているが、事業単価を徹底して見直すとともに、事業間の重複排除・連携強化等の観点から精査し、予算を縮減しつつ効果的な施策に重点化を行う必要がある。

iv)

国際機関拠出金等は、特に任意拠出金について、その事業内容や執行状況等を見極めるとともに拠出先の重点化・戦略化を図り、予算規模の抑制に努めるべきである。
 
4

以上のような取り組みを通じてODAの質を向上させれば、より少ないODA予算でより大きな国際貢献を行うことが可能となる。
そこで、平成15年度予算においては、量的制約の中での効果の最大化に努め、また、人的貢献や政策提言型貢献の重視へと軸足を移していくという「6月建議」で示した方針の下、引き続きODAの量的規模の縮減を図っていくこととし、我が国の国際的責任は、援助対象分野や対象国・地域の一層の重点化・戦略化によって果たしていくべきである。

7.

農業

(1

)米政策の見直し
米政策については、平成16年産からの見直しが議論されているところであるが、改革の目指すべき方向性は以下のとおりと考えられる。
 
1

生産調整に係る国の関与の縮減〔資料7-1参照〕
平成7年度の旧食糧管理法の廃止により、米の生産者に対して課されていた政府への売渡義務は廃止され、米は民間流通が基本となるとともに、米の政府買入れは備蓄目的に特化されることとなった。
今般の改革により、国の関与縮減の流れを一層押し進め、米の生産調整は、価格の安定を通じてメリットを受ける農業者・農業者団体の自主的な取り組みに委ねていく方向を目指すべきである。また、仮に、生産が需要を上回り過剰が発生した場合にも、農業者の自己責任で対応することを基本とすべきである。
 
2

食糧管理特別会計の健全化
米を管理している食糧管理特別会計は、米の売買損失や助成金の増加等により平成13年度より繰越損失を計上しており、平成14年度は損失幅が大きく拡大する見込みである。
今般の改革を通じて、国の備蓄水準の適正化に道筋をつけるとともに、米に係る助成について国の関与縮減の方向性を踏まえた見直しを行い、食管特会の繰越損失の縮小につなげていくことが必要である。

(2

)農業委員会・協同農業普及事業
農業委員会、協同農業普及事業については、農業を取り巻く環境が大きく変化する中、数万人の規模の組織が維持されており(注14)、これをスリム化することが必要である。また、地方の自主的な取り組みによってスリム化を実現するためにも、「地方分権改革推進会議の意見」においても提言されているように、必置規制の廃止ないし大幅緩和、交付金の一般財源化の検討を行うべきであり、平成15年度においては、その第一歩を踏み出し、必置規制の見直しと交付金の削減等を行うべきである。


.エネルギー対策

今後のエネルギー対策については、「6月建議」でも述べたとおり、1エネルギーの安定供給の確保〔資料8参照〕2温室効果ガスの排出抑制等による環境保全の2つの課題に的確に対応していくことが中心になると考えられる。
エネルギーの安定供給の確保は、我が国にとっての重要な政策課題であり、引き続き開発・備蓄関係予算の効率化と縮減を図るとともに、国際的なエネルギー需給動向に配意し、原子力、天然ガス等のエネルギー源の多様化に施策の効果を見極めながら取り組むべきである。
温室効果ガスの排出抑制等による環境保全に関しては、これまで石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計と電源開発促進対策特別会計を中心に行ってきたところであるが、今後の取り組みに当たっては、石油等のエネルギーへの課税を財源とする両特別会計における受益と負担の関係に十分留意しつつ、引き続き施策の必要性及び効果を精査するべきである。


.中小企業対策

中小企業対策については、平成11年の中小企業基本法の改正により、その基本理念が、「格差の是正」から、「やる気と能力のある中小企業の自助努力の支援」へと転換した。
平成15年度予算編成に当たっても、引き続き、施策の内容が改正中小企業基本法の理念に沿ったものとなっているかどうか、政策手段が政策目的を実現する上で真に効率的なものとなっているかどうか等、施策の在り方を十分吟味することにより、中小企業対策予算をより質の高いものとするよう努めるべきである。また、現下の経済情勢に鑑み、中小企業金融におけるセーフティネットとしての機能が十分に発揮されるよう配慮すべきである。
中小企業信用保証制度〔資料9参照〕については、近時、中小企業総合事業団信用保険部門の収支が貸し渋り対策として実施された特別保証(平成10年10月~13年3月実施)に係る赤字の増大もあり極めて悪化しており、確固たる保険財政基盤の確立が喫緊の課題となっている。特別保証については、淘汰されるべき企業を温存し我が国経済の構造改革を遅らせたほか、債務者のモラルハザードを招いたという問題も指摘されている。今後は、このようなモラルハザードを招かぬよう厳格な運用に努めるとともに、「平成14年度予算の編成等に関する建議」(平成13年11月15日)でも述べたように、官民の適切なリスク分担(部分保証)やリスクに応じた料率の設定等により効果的、効率的な制度の構築を図ることが重要である。保険財政基盤の強化については、安易に財政に依存することなく、まずは融資基金の取り崩し、中小企業総合事業団の剰余金の活用や信用保証に係る保険料の引上げ等あらゆる方策を検討すべきである。

10

.司法制度改革〔資料10参照〕

司法機能の充実・強化に当たっては、法曹人口の増大や迅速な紛争解決を実現する司法制度改革に係る国民の負担を軽減するため、訴訟手続等に関して制度・運用面の改善を可能な限り行うこと、弁護士報酬の透明化・合理化を図ることなどとともに、既定の予算の見直しを行うことが必要である。
既定の予算の見直しについては、例えば、司法修習生手当に関して、各種の公的給与・給付の見直し等を踏まえ、受益と負担の観点等から、早期に給費制は廃止し、貸与制への切替えを行うべきである。
 
(以上)


(注

1)景気の自動安定化機能(ビルト・イン・スタビライザー)とは、社会保障制度や税制等を通じて(例えば、不況による税収減や失業給付の増加により)、制度改定等を伴わず自動的に景気変動を緩和する仕組みのことを言う。

(注

2)新たに義務的経費を設ける、または歳入を削減(減税など)する立法を行う場合には、それによる財政赤字の増加を相殺するような措置(増税など)をともなわなければならない、というルール。

(注

3)1人間力の向上・発揮-教育・文化、科学技術、IT、2魅力ある都市・個性と工夫に満ちた地域社会、3公平で安心な高齢化社会・少子化対策、4循環型社会の構築・地球環境問題への対応、の4分野。

(注

4)GDP、国の一般歳出、地方財政計画歳出及び地方交付税の算定基準とされる基準財政需要の伸びを比較すると、基準財政需要の伸びが著しい(昭和59年度=100とすると、平成14年度でGDP=160.3、国の一般歳出=145.9、地方財政計画歳出=181.3、基準財政需要額総額=206.8。)。〔資料1-1~2参照〕

(注

5)財源保障機能は、マクロ的には地方財政計画における歳入と歳出の差額を補てんすること、ミクロ的には各地方自治体の基準財政需要額と基準財政収入額の差額を補てんすることであり、制度的には、地方交付税法第6条の3第2項により担保されている。〔資料1-5~6参照〕

(注

6)平成14年度における国と地方のプライマリー・バランスは、以下の通り。〔資料1-7参照〕
国(一般会計ベース)    ▲13.3兆円
地方(地方財政計画ベース) + 3.0兆円
(なお、地方財政計画における公営企業繰出金のうちの企業債償還費(2.2兆円)の取扱いについては議論があるが、仮にこれを各年度の国民生活に必要な財政支出と考えることとしても地方の地方財政計画ベースのプライマリー・バランスは黒字となっている。)
なお、「改革と展望」における2001年度の国と地方のプライマリー・バランス(SNAベース)のGDP比は、それぞれ以下の通り。
国    ▲4.6%
地方   +0.3%

(注

7)地方財政において国庫支出金の割合は低下しているが、地方交付税交付金等の割合は増大している。
・ 国庫支出金(決算ベース)/国民所得:4.5%(昭和49年)→3.8%(平成12年)
・ 地方交付税交付金等(決算ベース)/国民所得:3.7%(昭和49年)→6.0%(平成12年)

(注

8)スウェーデンの改革では、2階建ての体系(基礎年金+付加年金)から基礎年金が廃止され、所得比例年金に一本化された。これとあわせ、旧制度の基礎年金の収支差を補填していた国庫負担は、新制度では年金本体である所得比例年金には投入されず、生涯所得が低く年金額が低くなる者に対して給付される最低保証年金に重点化された。〔資料2-5参照〕

(注

9)事業評価:公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の向上を図るため、各事業実施主体が事業の各段階(事前、実施中、事後)において費用対効果分析等の客観的手法を用いて行う評価。事前評価は平成11年度から原則として全事業について実施。

(注

10)費用対効果分析:その事業によって生じると考えられる便益(社会的便益)と、将来にわたる事業費等の現在価値(社会的費用)とを比較分析する手法。

(注

11)原単位:費用対効果分析の便益計測の基礎となる単位。例えば道路事業では走行時間の短縮を便益と考え、時間当たり人件費(原単位)に短縮時間を乗ずることにより便益を計算。

(注

12)感度分析:需要量など一定の前提条件が変動した場合に便益がどれだけ増減するかについての分析。

(注

13)児童生徒数が減少する中で、一人当たりの公教育費及び義務教育費国庫負担金は大幅に拡大。 〔資料4-2参照〕
(小中学校児童生徒一人当たり公教育費)
平成元年61万円→平成12年90万円(+47%増)
(公立小中学校児童生徒一人当たり義務教育費国庫負担金予算額)
平成元年度15.4万円→平成14年度28.5万円(+85%増)

(注

14)専業農家が約122万戸(昭和40年)から約44万戸(平成14年)に減少する中、農業委員会委員は約7.5万人から約6万人、同職員は約1.4万人から約1万人、農業改良普及員は約1.4万人から約1万人への減少に止まっている。〔資料7-2参照〕