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財政制度分科会(平成31年4月17日開催)議事録

財政制度等審議会 財政制度分科会
議事録

平成31年4月17日
財政制度等審議会


財政制度等審議会 財政制度分科会 議事次第

平成31年4月17日(水)15:30~17:40
第3特別会議室(本庁舎4階 中-412)

1.開会

2.わが国財政の現状等について

3.閉会

出席者

分科会長

榊原定征

伊佐大臣政務官

太田主計局長

神田次長

阪田次長

宇波次長

奥総務課長

安出司計課長

阿久澤法規課長

中澤給与共済課長

一松調査課長

西山官房参事官

寺岡主計官

日室主計官

北尾主計官

斎須主計官

前田主計官

中島主計官

吉野主計官

関口主計官

森田主計官

岩佐主計官

内野主計官

渡邉主計企画官

佐藤主計企画官

分科会長代理

増田寛也

遠藤典子

大槻奈那

黒川行治

神 津 里季生

佐藤主光

角 和夫

十 河 ひろ美

武田洋子

中空麻奈

宮島香澄

臨時委員

秋池玲子

上村敏之

河 村 小百合

木村 旬

小 林 慶一郎

小林 毅

末澤豪謙

田近栄治

伊 達 美和子

田中弥生

田中里沙

土居丈朗

冨田俊基

広瀬道明

堀   真奈美

村岡彰敏

横田響子


午後3時30分開会

〔 増田分科会長代理 〕 ただいまから財政制度等審議会財政制度分科会を開催いたします。

御多用中のところ御出席いただきまして、ありがとうございます。

本日は、我が国財政の状況等を議題としております。

伊佐政務官にも御出席をいただいております。誠にありがとうございます。

〔 伊佐大臣政務官 〕 ありがとうございます。

〔 増田分科会長代理 〕 それでは、ここで報道関係の方は御退室をお願いします。

(報道カメラ退室)

〔 増田分科会長代理 〕 初めに議題について、一松課長から説明をお願いします。

それでは、よろしくお願いします。

〔 一松調査課長 〕 調査課長の一松でございます。

資料の説明に入ります前に、事務方といたしまして、本日の資料の狙いを御説明させていただきたいと思います。

前体制におきまして、榊原会長の御指示のもと、委員の皆様方から御意見を募らせていただいた際に多かった御意見が、財政の状況について、国民全体に広く浸透し、国民が十分に自らの問題として受け止めているとまでは決して言えないのではないか、というものでございました。そして、本年2月の「委員の意見の整理」におきましては、財政状況等に対する正しい理解の更なる浸透を図るには、エビデンスに基づき、偏りのないファクトを公正な姿勢で伝えるべき、また、国民の間でより良い議論が行われる素地をつくっていかねばなければならないとの御指摘をいただいたところでございます。

これから御説明いたしますように、我が国の財政状況は容易ならざる状況があります。しかし、深刻さを言い募るだけの説明では、国民の御理解を得られると思っておりません。財政問題の解決に向けて、どこかに奇策や近道があるのではないか、とりわけ給付減、負担増以外にも道があるのではないか、そもそも財政が深刻だという説明自体に何か隠されている点があるのではないか、そのような様々な御疑問を国民の皆様が抱かれることは、我が国の債務残高がこれだけ積み上がった状況のもとでは、かえってあり得ることだと受け止めております。

そうした様々な御疑問、御指摘が存在することは認識しつつも、我が国財政が抱えるリスクを国民の皆様方に御理解いただきまして、将来世代のためにこれをマネジメントしていくという揺るぎない道をともに歩んでいくためには、財政問題の御説明に際しましては、これまで以上に慎重さと柔軟性、そして何より芯の強さを持っていなければならないと思っております。

これからの御説明は、甚だ微力ながら、今、申し上げた点を念頭に行っていきたいと思っていますが、財政を巡る様々な角度からの御指摘にもお答えできるよう、エビデンスに基づきましてファクトを示していこうと思いますと、どうしても資料の枚数は増えざるを得なかったという実情がございます。ただし、国民の皆様方の間でより良い議論が行われる素地となる資料になればと、今回の資料の6割強がこれまでの公表資料にはない新たな資料とさせていただいたところでございます。なお、国民の皆様方の共感を得させていただくためにも、ホラーストーリー的な説明は極力、採用していないつもりでございます。

今、申し上げた趣旨について御理解を賜りながら、資料1、わが国の財政の現状等に関する資料の説明に入らせていただければと存じます。

まず、冒頭で平成の財政を振り返らせていただいています。最初のページ1でございますが、昨秋にいただきました当審議会の建議におきます平成財政の総括でございます。消費税の導入や、特例公債脱却という積年の課題の解決から始まったはずの平成時代の財政が、巨額の債務残高で終わってしまったことへの厳しい反省が込められているものと受けとめております。

中ほどには「共有地の悲劇」という言葉もございまして、報道等でも大きく取り扱われました。改めて、後ほど御紹介させていただきたいと思います。

2ページ目でございますけれども、歳出と歳入の差額、歳出が赤の折れ線グラフ、歳入が青の折れ線グラフでございます。いわゆるワニの口の変遷でございます。ワニの口が閉まらない公債頼りの財政が続きまして、公債残高の累増につながったということでございます。

3ページ目でございますけれども、ワニの口を閉じようとしたけれども、なかなか閉じられなかったという歴史の変遷になります。かつては、特例公債脱却という目標を掲げまして、15年の歳月をかけて平成2年にたどり着いたわけですが、今やひとときの夢であったかのようでございまして、平成14年からは、薄い水色の国と地方を合わせたPBの黒字化という後退した目標に切り替えて取り組んでおりますが、15年以上が過ぎても達成されないまま令和の時代を迎えるということになります。

4ページ目でございます。公債残高の数字を確認させていただきますと、平成2年と比較すると約5.4倍の897兆円に積み上がりました。これは国だけの債務残高でございます。

5ページ目になりますと、地方も含めた数字が出てまいりまして、地方を加えると1,122兆円になるという数字が出てきます。

6ページ目になりますと、諸外国と比較する際には、拾う政府のベースが広くなりますので、対GDP比で230%を超え、突出しているという御説明になります。平成の初期には60%台だったところでございます。

このように、平成財政の悪化の状況を振り返らせていただいた上で、まずは我が国の巨額の債務残高について少し掘り下げて御説明を差し上げたいと思います。

7ページでございます。これは、新たな資料でございますが、これまで国・地方の債務残高/GDP比について御説明するときに、G7諸国、あるいは先進国で最高と申し上げてきたのですが、分かる範囲で、188カ国中、最高の水準ということでございます。順位表の中には、G7諸国のほか、かつて債務危機に陥った国、あるいは、最近、債務危機が取り沙汰されている国などを取り上げている次第でございます。

今まで4ページから7ページまで、債務残高の数字が若干、飛び交ったと思っております。我々が、どの数字を財政健全化のターゲットにしていくのかを示しているのが8ページでございます。

我々が本当に問題にしたいのは、将来、税財源で賄わなければならない可能性がある債務残高、すなわち真ん中の赤囲いした楕円の借金でございまして、平成29年度末で申し上げますと1,034兆円、対GDP比189%という数字になります。

この赤囲いの楕円の外側にある債務は、それぞれ見合いの資産があったり、保険料や料金収入で賄ったり、税財源で賄う必要は必ずしもなかったりするものと認識しております。

このように、財政健全化のターゲットを特定いたしますと、いたずらな議論に巻き込まれないということにもなります。例えば、一番外側にあります財投債や公的年金債務でございますが、見合いの資産として財投貸付けとか、年金積立金がございます。こうした資産を売却すべき云々の議論は、政策的見地からも様々な議論があると思っておりますが、そうした議論を幾らしていただいたとしても、我々が問題にすべき赤囲いした楕円の債務残高、すなわち財政健全化の議論とは直接関係しないということになります。

我が国の政府が保有する資産を巡っては、様々な御指摘がございます。9ページを御覧いただきたいと思います。

財務省は、毎年、バランスシートを公表しておりますが、資産・負債差額で申し上げますと、平成29年度末、568兆円という数字になっておりまして、この数字をもって、先ほどの1,034兆円というのは誇張なのではないかという議論を、時々、耳にいたします。しかし、この568兆円というのは、資産・負債差額でございますので、対応する資産のない負債で、特例公債の残高に概ね該当することになります。

となると、我が国の債務問題は、1,034兆円の議論ではなくて568兆円の議論なのだという御主張がありますが、そうした御主張は、特例公債残高以外の債務残高は、捨象してもいいと主張していることに等しいことになります。しかし、地方債も含まれるわけでございまして、地方財政の健全性は考慮しなくてよい、と568兆円の議論に債務問題を矮小化させるのは不適当だということになろうかと思います。

また、この1,034兆円と568兆円という数字の差の中には、建設公債、それから地方債の中にも建設地方債の残高がかなりあります。これらの負債と対比される有形固定資産、河川、道路、港湾といったものでございますが、社会的便益という意味では意義あるものでございますが、基本的にはキャッシュフローの流入をもたらしません。市場性もなければ、売るときの流動性もなく、仮に売れるとしても、債務危機のようなときには買い叩かれ、どん底まで価格が落ちるおそれがあります。こういったものは当てにはせず、あくまでも債務残高で財政を評価すべきというのが国際機関でも一致した見解だと受け止めておりまして、関連するIMFやOECDの指摘につきましては、資料に記載しているところでございます。

11ページでございますが、資産の見方は今、申し上げたとおりなのですが、国際比較をする際に、有形固定資産はそういうことだとしても、有形固定資産以外で相対的に流動性がある金融資産については、ネットアウトして比較してもいいではないかという考え方のもと、そうした比較が行われることがあります。このような比較をしたとしても、比較できる国の中で89カ国中89位という形で、最高の水準になっているというのが我が国の財政の実情でございます。

12ページでございます。昨秋に出されましたIMFの財政モニターにつきまして取り上げて、IMFが日本の財政について問題なしとしたという風説が一部で流布されております。確かに、この財政モニターでは、日本のネット負債が小さいことが示唆されております。負債も大きいのですが、資産のほうも、地方の有形固定資産なども加わって、かなり大きい数字になっております。地方政府が有するこのような有形固定資産まで資産に計上した、機械的な試算結果のグラフでございまして、このような資産まで含めて考える問題点は先ほど申し上げたとおりだと思っています。いずれにせよ、この財政モニターの本文に、日本の財政に関する記述は基本的にございません。日本の財政を主題としたものではないことは明らかだと思っています。

他方、日本の財政についてのIMFの評価は、4条審査報告書における厳しい御指摘で確定していると受け止めているところでございます。

しかし、様々な解釈が一部で流布されていることを踏まえまして、この報告書の位置づけ等につきまして、当分科会の先生方の御協力も得て、IMFにさらに確認することを予定しております。確認次第、改めて報告させていただきたいと思っている次第でございます。

13ページでございます。政府と日銀を連結して統合政府ベースで見れば、日本銀行が国債を保有しているのと、政府が国債という負債を抱えているのは、内部取引という形になりますので帳消しになる、したがって債務が減るという御主張がございます。しかし、連結しても、連結先の負債、すなわち日本銀行の負債、右の日本銀行のバランスシートで申し上げますと、薄いピンクの部分の発行銀行券や当座預金などを抱えることになるだけでございまして、債務超過という財政状況の見方が変わることはないと考えております。

さらに、根強い御主張といたしまして、我が国の国債は国内でファイナンスされているから問題ないという主張がございます。14ページから16ページにかけまして、我が国の国債の海外投資家による保有や売買が、一時的な事象も含めまして活発化しているということを、数字をもって示させていただいている資料でございます。16ページの格付会社を含めまして、海外投資家からの信認を保つ必要性があると考えております。グローバル市場の中にありまして、内国債だから問題ないという主張は、そもそも妥当する余地が限られていく議論ではないかということを申し上げたいと思っております。

17ページでございます。今、申し上げたこととは別に、内国債は将来にツケを残さないという議論自体が成り立たないということを申し上げたいと思います。

昨秋の建議では厳しい平成財政の総括をいただきましたが、その中で、2点御指摘をいただきました。1点目は、税財政運営はフリーライダーの圧力にさらされているということでございまして、2点目は、共有地の悲劇でございます。

これを絵にしてみました。現在の世代は、国債を発行して便益を享受することとなりますと、受益と負担が見合っていないもとでは、フリーライダー的傾向がますます強まると言わざるを得ないと思っています。将来世代の経済成長に資するような財政支出が行われる可能性はますます狭まると考えられます。

結果として、将来世代は、経済成長のパイが縮小した状況に追い込まれかねません。しかも、利払い費や償還費に他の政策経費が圧迫されまして、予算配分の自由度がありません。経済危機時や自然災害時などの機動的な対応の余地も狭められます。比較的、所得等に恵まれていると思われます国債保有層と、他方で他の政策経費、例えば社会保障費の抑制、あるいは税負担を被らされる国債を保有していない層との間で、望ましくない逆再分配が生じる蓋然性も高まると思っております。

今、申し上げたとおり、経済成長というパイの意味でも、分配の意味でも、将来世代にツケが回ります上に、公債残高累増に伴う様々なリスクが増大すると考えております。もちろん、現在の世代でも、こうしたリスクが顕在化しつつあり、今後も顕在化する可能性はありますが、将来世代ほどそのリスクは高まります。それゆえに、昨年の建議で、悲劇の主人公はツケを回される将来世代であると指摘をいただいたのだと受け止めております。私たちは、現在を生きる納税者のためはもちろん、令和の時代を生きる方たちのために、今、ここにいるということだと再確認させていただければと存じます。

ここまで、ストックの話をしてまいりました。18ページから、フローの話にも入っていきたいと思っております。

18、19ページでは、現在の政府の財政健全化目標を再確認させていただいておりまして、フローの収支改善目標は2025年度のPB黒字化を目指しているということ、それからストックにつきましては債務残高/GDP比の安定的引下げを目指しているということでございます。PBの2025年度という目標年次は、昨年6月に2020年度から5年後ろ倒しになったということでございます。

20ページに移らせていただきますが、この2つの目標、ストックの債務残高/GDP比の目標と、フローの目標の関係を整理させていただいております。ストックの債務残高/GDP比を安定的に引き下げていこうと思いますと、分子が債務残高、分母がGDPということでありますので、一番手堅くやろうと思いますと、分子の債務残高を小さくすることを目指すことになります。その場合は、過去の借金を返す額が借金する額を上回らないといけません。そのような場合におきましては、税収等が利払い費を含む政策的経費を上回らなければならない、これが通常の財政収支黒字という概念だと思っております。

他方、PBのほうですが、これは一段緩い概念だと思っております。まず、分子の債務残高を減らすことは、ある意味、諦めておりまして、利払い費分は債務残高が増えるということ、許容したとしても分母のGDPが増えれば、これを打ち消すことができるということでございます。本当に打ち消すことができるかは、分母のGDPが大きくなる分の経済成長率と、分子の債務残高が増える分、利払い費分ですけれども、金利の大小関係によりますが、仮に等しい、または成長率のほうが金利を上回るとすれば打ち消せると。このように、利払い費分の財政赤字を許容する、ある意味柔らかい考え方がPB均衡ということだと理解しております。

21ページは、財政収支のこれまでの推移でございます。平成時代は、バブル絶頂期も含めまして、我が国は一度も財政収支が黒字になったことはないということでございます。債務残高を減らすという意味での借金返しをしたことはないということでございます。

22ページは、この財政収支についての国際比較でございます。債務残高/GDP比について、どの国にとってもある程度の水準に収れんしていくことが望ましいという前提に立ちますと、債務残高/GDP比が高い国ほど、フローの収支改善はしていかなければならないはずでありますが、我が国の立ち位置は必ずしもそうなってはいないということでございます。

PBにつきまして、改めて算式で確認させていただきたいと思います。債務残高/GDP比でございますけれども、分母のGDPは名目成長率、gで増えていきます。分子は、利払い費分が金利の利率、rによって増えていきます。そこに、PB赤字分の債務がさらに分子に乗るという構造でございます。したがって、成長率と金利、gとrが同じであるとすれば、薄緑のPBのところが赤字だとすると、左側の黄色くなっている債務残高/GDP比が上がることになります。PBが赤字、緑の部分が赤字だとしても、債務残高/GDP比を下げようとしますと、名目成長率が金利を上回らなければならなくなります。つまり、オレンジ色の点線で囲まれた部分の名目成長率と金利の大小関係に期待することになりまして、例えば高い経済成長率と、それでも低い金利に期待するということになります。

24ページを御覧ください。債務残高/GDP比の変動要素は、成長率と金利の大小関係という要素と、PB/GDP比の動向の2つの要素によって左右されるということになりますが、どちらの寄与が大きいのかという考察になります。成長率が金利を上回って、それが債務残高/GDP比の減少に寄与している国はG7でアメリカのみでございまして、財政の楽観論がアメリカで出てくる要因の一つだと思っております。そして、日本では、PB/GDP比の悪化要因の寄与が大変大きく、やはりPBの改善が重要であるということなのかと思います。

25ページは、過去の金利と成長率の関係をプロットしたといたしましても、やはり同様の傾向でありまして、財政を考える上では、少なくとも名目成長率=金利と考えておいたほうがよさそうだということになります。つまり、名目成長率と金利の大小関係には期待できませんで、PB黒字化を図らないと債務残高/GDP比は引き下がらないということになります。

26及び27ページは、このPBの推移と国際比較になります。時々、我が国の財政運営を緊縮財政だと評価する方がいるのですが、あまりそういうことではなさそうだと思っております。

我が国の財政運営を緊縮だとおっしゃる方は、特に1995年以降の公共投資の抑制を指しておっしゃいます。それが28ページになりますけれども、政府のバランスシートを見るとかなり有形固定資産が積み上がっておりまして、我が国の公的資本ストックの整備は進んでいると評価せざるを得ないと思っています。したがって、追加的な公共投資による効用は薄れていると言わざるを得ないと思っております。

29ページでございます。公共投資が減ったと言われる期間の歳出の動向でございます。この間の日本の歳出でございますが、OECD諸国の中で第3位の伸びでございます。中でも、高齢化もありまして、社会保障は第1位の伸びでございます。非社会保障の支出は確かに減らしてはおりますが、順位で見ると真ん中程度で、大きく減らしているというほどではないと認識しております。したがいまして、緊縮財政と言われることはないのではないかと思っております。

ここから、財政の今後の見通しになります。

30ページは、本年1月に内閣府が出した中長期試算でございます。経済成長率が、今後、名目3.2%程度で推移する成長実現ケースでは、2025年度のPB赤字は1.1兆円ということになっております。一定の歳出改革を行いさえすれば、国・地方PB黒字化は可能という説明になります。ただし、経済成長がそこまで行かず、名目1.7%といったベースラインケースの成長率で推移する場合には、国・地方PB、2025年度は6.8兆円の赤字になるという試算になっています。

このような試算結果につきましては、幾つか留意すべき点があると思っております。1つは、経済成長率の前提でございます。

まず、31ページでございますが、これまでの日本のマクロの成長率の低迷には、やはり人口動態の変化の寄与が大きいという分析が国際的にも出ております。31ページのBISの分析でございますが、人口1人当たりや生産年齢人口1人当たりで見ると、2000年以降の日本の成長は、アメリカとも遜色ないというものでございます。

これをもとに、平成全体に期間を引き延ばしたのが32ページでございまして、やはりバブルの絶頂期から足元を見た場合でも、確かに実質GDP成長率で見ると他の先進諸国と比べてやや低いですが、生産年齢人口1人当たりや1人当たりを見ますとそんなに低くはないと言えるのではないかと思っております。

他方、今後の経済成長については33ページになります。そもそも足元で1%、ないし1%弱とされる成長率に、今後とも人口減少、高齢化による下押し要因が加わります。

明るい材料といたしまして、就業者数の動き、足元で高齢者や女性の就業が増えているというものがありますが、高齢者、女性の就業ということですと、非正規雇用労働者の増加、平均労働時間の短縮で、支える力としては弱くなる面があると思っております。

そうしますと、内閣府の経済成長率の前提、名目経済成長率3.2%、あるいは1.7%といったものは、経済政策の目標として高い目標を掲げることには意義があると考えておりますが、それをそのまま財政の在り方を考えていく前提にしていくべきかは、一つの論点となり得ると思っております。

内閣府の試算には、もう1つ留意点があります。34ページを御覧いただきたいと思います。左下の赤線のグラフは、2025年度まで水面下、すなわちPB赤字でございます。それにもかかわらず、右側のグラフでは債務残高/GDP比が下がる。先ほど算式で御説明したことでは、実現しないはずのことが起きているということでございます。中長期試算という名称ではありますが、この試算は2028年度までの短い試算となっております。赤の成長実現ケースで申し上げますと、2028年度には新発債の金利が成長率に追いつく前提になっていますが、それまでは成長率よりも低い金利で国債が発行されまして、その金利が残存します。これによりまして、高い成長率と、それより低い利率というのがこの試算の対象期間、実現してしまっているということでございます。このため、PBが赤字の状態でも債務残高/GDP比が下がっていく試算となっております。

既発債の借換えが進むにつれて利払い費が増加していくことは明らかでございまして、借換えが一巡するまでの一時的な効果を示すにすぎないこのような試算をもって、中長期的な財政の見通しを楽観視することは必ずしもできないのではないかと思っております。

さらに注意すべきは、2021年度に様々な中間指標が設けられていますが、このようなある意味ボーナス期間中に進捗評価がなされることになっておりますので、相当割り引いて考える必要があるのではないかと思っております。

35ページでございますが、内閣府自身が過去の自らの試算を検証したことが2度ほどあります。1度目は、2018年度の中期目標が未達成だったとき、2度目は、右側のPB黒字化目標達成年次を5年先送りしたことを踏まえて直近に振り返っています。いずれも、PB改善の進捗の遅れの要因といたしまして、経済前提にかかわる要因による見込み違いが大きかったということでございますので、やはり堅実な経済前提で財政を考えていくことが重要ではないかと思っています。

36ページは、シンクタンクや民間団体等による財政試算では、当面も債務残高/GDP比は安定的に引き下がらず、中長期的にはむしろ上昇する姿が示されているという資料でございます。

今、御説明した経済成長率という予想とは別に、物価上昇によって財政の負担を軽くできるのではないかと考えられがちだと認識しております。既存の債務につきましては、物価が上がれば債務の負担は軽くなるのは分かりますが、果たして財政全体としてよくなっていくのかという点について、整理させていただいています。

37ページですが、物価が上がっても、その分、もちろん金利が上がるということもございます。それ以外にも、ワニの口が開いている我が国の一般会計におきましては、歳出増の影響額が歳入増を上回るので、財政収支はむしろ悪化すると整理されている次第でございます。

実際の例といたしまして、38ページで第1次石油ショックの狂乱物価時の例を御用意いたしました。消費者物価が2年で33%上がりまして、税収は3%上がりましたが、それ以上に歳出は大きく増え、フローの収支は悪化いたしました。この中身は、当然、こういった経済情勢を踏まえた経済対策的な補正予算も数字としては入り込んでおります。GDPは、物価のおかげで31%も上がっておりますが、それで分母が大きくなってもフローの収支の悪化が大き過ぎて、国債残高/GDP比は、8.5%から12.3%という形で増加しております。

なかなか、ちょっとやそっとの物価上昇では財政の負担を軽くすることはできない。一方、過去を見ますと、ハイパーインフレのようなことが生じますと債務残高/GDP比が下がっているというのが歴史的事実ですが、当然、それは大変な苦しみを国民が被ることになります。

それが39ページ、40ページの資料ですが、インフレによって損をするのは富裕層、あるいは高齢者であって、若者や中間層は損しないなどという言説もまま見られますが、そんなことはないと思っております。39ページの第1次世界大戦後のドイツの例で、いかにインフレが中産階級を痛めつけたかが克明に記されております。

もう1つ、我が国で起きたハイパーインフレが40ページに示されておりまして、第2次世界大戦後の日本でございます。巨額の軍事費調達のために国債を発行し、日銀に引き受けさせた結果、インフレに見舞われ、政府は様々な苛烈な措置に踏み切らざるを得なかったわけでございますが、この場合も、先ほどのドイツの例と同様の国民生活への影響が出てまいりました。こうした教訓から、現在の財政法が生まれているということも忘れてはならないことだと思っています。

これが物価上昇の現実でございますが、2年半ほど前に一世を風靡したのが42ページのシムズ理論というものでございます。簡単に申し上げれば、金融政策でなかなか物価上昇が実現しない中で、物価の決め手は財政政策であるとの考え方でございました。

真ん中左側の式を御覧いただきたいのですが、普通の考え方は、左辺の青字の債務残高が積み上がりますと、それを取り戻すために緑の部分、例えば増税や歳出削減を行いまして、緑字のフロー収支の改善を行って取り戻していくというのが従来の考え方だったと理解しています。それは、歳出拡大や減税を行っても、将来は増税や歳出削減が行われることを意味しておりまして、したがって家計が萎縮して、なかなか歳出拡大や減税の効果が出ないということになりかねません。

そこでシムズ理論では、むしろ財政規律を放棄してしまい、増税や歳出削減を行わないということにコミットいたしまして、歳出拡大や減税をしたほうが家計には必ず余剰が生じることになるので、家計は安心して消費に向かい、物価は上がると。左側の式でいいますと、赤の物価水準のほうが上昇していって、左辺が右辺と等しくなるように調整されるという考え方でございます。

詳しくは申し述べませんが、実務上の問題点等がございまして、これを実施に移そうとすると現実的ではなく、最近では耳にすることも大分少なくなったように感じております。財政健全化に向けて、奇策や近道はないかという探究は尽きることがないように思いますが、その都度、正しいことを伝えていくことが重要だと考えております。

最後は、海外の事例を紹介させていただいております。

まず、海外の事例から、財政危機が生じてから財政再建を行うことは、かなり苛烈な財政再建を行うことになるということを御説明させていただきたいと思っております。

44ページにありますとおり、IMFは、財政危機を左下の図表にある4類型で整理しております。1がデフォルト、2がIMFの財政支援、3がハイパーインフレ、4が市場からの信認の喪失でございます。財政危機というのは、デフォルトだけではないということでございます。

その上で、1995年以降、財政悪化が原因でこうした財政危機に陥った先進国ないしG20諸国を整理すると、6カ国が該当するということでございます。それぞれの国の経緯で、どのように財政危機に至ったかは様々でありまして、45、46ページでまとめております。

47ページから、財政危機が起きた際に、各国が講じた財政健全化策を紹介しております。例えば、ブラジルでは、社会保険負担金の事業主負担が売上げの2%から3%へと1.5倍引き上げられたとか、連邦職員年金の被保険者負担も引き上げられたということでございます。

48ページ、ギリシャでは、年金給付のカット、年金支給開始年齢の引上げなどが行われました。ポルトガルでは、やはり同じく年金給付額の7分の1の減額に加えまして、医療費の個人負担の増額が従来の3倍程度といったものまで行われております。

まとめたのが49ページになりますが、財政危機が起こると苛烈な緊縮財政を講じざるを得ないということになります。しかも、並行してインフレが起きていたり、国債を保有する金融機関をはじめとする金融危機が起きていたりします。また、緊縮財政は失業者を生み出したりしますので、これに対する国民の鬱積から、治安、社会情勢、政治情勢が不安定化します。こうしたことになる前に、リスクマネジメントとして手を打っていかねばならないということだと思っております。

50ページからは、海外における財政規律でございます。我が国では安定的引下げとのみされている債務残高/GDP比につきまして、引下げ後の数値目標まで持っている国が73カ国あるという御紹介でございます。その多くは、債務残高/GDP比60%という目標になっているということでございます。

51ページ、EUなど先進諸国では、フロー目標として、利払い費を含む財政収支、債務残高そのものの減少を目指す傾向が強いように思っています。ただし、EUのフローを御覧いただくと分かりますように、多少の幅は認めておりまして、構造的財政収支赤字0.5%以下までなら許容するといったことも認められているところでございます。

こうした新しい概念を出しますと、PBとの間でどちらがきついのかというような議論がよく取り沙汰されますので、52ページを御用意しているということでございます。この構造的財政収支というのは、簡単に言いますと、経済が潜在GDPの水準に達している場合に実現する財政収支でございまして、景気によって浮動する歳出・歳入要素、失業給付だとか、税収を除外して計算します。潜在GDPは推計方法によってばらつきがありますので、かちっとした財政規律になりにくいという弱点があります。もし我が国がEUに加盟して、この構造的財政収支赤字0.5%以下の目標を満たそうとしたら、決してPB黒字目標に比べて楽になることはないという試算を書いております。

53ページからは、カナダを除きますG7諸国の最近のエピソードを、財政状況が悪い国から紹介してございます。

まず、イタリアでございます。53ページでございますけれども、財政規律をめぐってEUとの間で生じた対立について簡単に御紹介したいと思います。EUでは、債務残高/GDP比が60%を超える場合は、EDPという過剰財政赤字手続がありまして、今までイタリアは適用を免除されてきました。ところが、昨年10月に、イタリア政府が提出した2019年予算案が膨脹的である一方、楽観的な経済前提を前提にいたしまして、債務残高/GDP比は低下するとの見通しを示していたところ、欧州委員会はEDPの適用が正当との報告書をまとめた次第でございます。そこで、イタリア政府は、一部歳出の延期を行うとともに、経済見通しをより保守的に見直した予算案を12月に再提出いたしまして、結果として欧州委員会はEDPの発動を見送ったということになっております。

次に、フランスにおけるいわゆる黄色いベスト運動についてでございます。マクロン大統領が打ち出した燃料税引上げに対する反発をきっかけといたしまして、大規模なデモが昨年秋から発生しております。マクロン大統領は昨年12月に、燃料税引上げの撤回に加えまして、最低賃金引上げなどの歳出拡張を表明いたしましたが、これにより財政赤字/GDP比の見込みが悪化いたしまして、EU基準との抵触が問題となりました。フランス政府は、単年度の特殊要因を除けば、EU基準を満たしていると説明しているところでございます。

続きまして、イギリスでございます。もちろんブレグジットという話題もあるわけでございますが、我々がよく議論しますのは、フロー収支の財政規律におきまして公共投資を除外していた時期があるため、時々、日本も真似すべきではないかという議論をされます。確かに、イギリスで、リーマン・ショック後、財政状況が悪化するという状況がございまして、構造的経常財政収支の算式において公共投資が除かれております。しかし、その後、構造的経常財政収支均衡ということでは、債務残高の低下に不十分と選挙で訴えた保守党が勝ちまして、単独政権になりました。

そこで、2015年に目標は、それまでの構造的経常財政収支から財政収支黒字化に切り替わりまして、債務残高の減を目指していくということになりまして、公共投資の除外もなくなりました。

ところが、同じキャメロン政権が国民投票でブレグジットということになりましたので、経済の不確実性が増すことになりました。したがいまして、メイ政権では構造的財政収支の概念に若干戻りまして、赤字の対GDP比も2%以内ならよいという形で財政規律が弾力化されましたが、このときに公共投資の除外扱いという方向に戻すことはしませんで、現在は公共投資の除外はないということでございます。

56ページのアメリカでございますけれども、トランプ政権につきましては、個人所得税や法人税減税を柱とする税制改革法による歳入減、あるいは国境との壁の建設費用による歳出増など財政悪化につながる政策も見られますが、今年3月に公表された2020年会計年度の大統領予算教書におきましては今後の見通しも示されるなど、財政健全化に向けた姿勢も一定程度示されたところと了解しております。

こうした中で、57ページ以下になりますが、ここ2カ月ほどアメリカで「Modern Monetary Theory(MMT)」という考え方が脚光を浴びております。アレクサンドリア・オカシオ-コルテス氏という若い女性の人気の議員が支持したこと、あるいはMMTの主唱者であるニューヨーク州立大学のケルトン教授が、民主党・サンダース議員の顧問を務めていたことなどから脚光を浴びているものと承知しています。

その基本的考え方につきましては、自国通貨建て政府債務はデフォルトしないため、財政政策は、財政赤字や債務残高などを考慮せずに、景気安定化に専念すべきということでございます。

これに対しましては、欧米の学者、実務関係者、市場関係者が押しなべて批判しているものと理解しております。批判者の中には、57ページの冒頭に出てきますポール・クルーグマン氏や、59ページ中ほどより下に出てくるアデア・ターナー氏といった財政拡張論者も含まれていると承知しております。

大半の批判は、MMTはインフレにつながる、閉鎖経済的に考え過ぎているというものだと理解しておりまして、例えばピーター・プラート氏というECBのチーフエコノミストは、過去、そうした取組はハイパーインフレを生んできた、だからこそ中央銀行は独立性を持っているのだと述べております。

次に、59ページの上から御覧いただきますと、投資家として有名なバフェット氏は、危険な領域に踏み込む必要はないのだと、そうした領域はどこにあるのか正確には分からないのだと述べております。

そのほか、これは間接引用になりますけれども、MMTは現代的でもなければ、貨幣の問題でもなく、理論でもない(MMT is neither Modern,nor Monetary nor a Theory)という批判があったり、あるいは、この理論で正しいことは新しくなく、新しいことは正しくはないという批判も引用されている次第でございます。

60ページは、国会質疑、参議院決算委員会での麻生大臣、黒田総裁の答弁ぶりでございまして、基本的には市場から受け入れてもらえないような極端な議論は、そもそも俎上に載せられないという趣旨の答弁だと理解しているところでございます。

最後、61ページからは、G7諸国の中で最も債務残高/GDP比が低いドイツでございます。左上のグラフが指し示すとおり、日本と同様に生産年齢人口の減少をはじめとする少子高齢化が進展している中、左下にありますように相対的に高い経済成長を実現しております。

61ページの右の部門別収支を御覧いただきますと、財政収支が黒字になっている期間は2000年、さらには2014年以降でございます。この2つの時期に注目してみますと、2000年のときには、ITバブルの中、非金融法人企業の投資が促進されておりまして、2014年以降は、企業の税・社会保障保険料負担の抑制などによりまして競争力が強化された結果として、経常収支の黒字が拡大しております。いずれも、財政収支の黒字とともに、好調な経済が維持され、経済成長と財政健全化の双方を実現していると考えております。

もう少し中身を見ていきますと、62ページになります。再び財政収支で恐縮でございますけれども、右上に財政収支と債務残高の推移がございます。90年代後半、ドイツにおきましては、マーストリヒト基準をクリアするため財政再建の取組を行いまして、2000年には財政収支黒字化ということで、この折れ線グラフは頭が飛び出ているということでございます。その後、同時多発テロ、ITバブルの崩壊などによりまして、失業率が10%前後で推移する、失業者が増加する、さらには少子高齢化で社会保障支出の増加なども相まって、経済・財政状況は基本的に低迷していたと認識しております。また、ドイツでは、企業への税負担が重く、企業の国際競争力を高めることが大きな課題となっておりました。

そうした中で、シュレーダー政権やメルケル政権におきまして、労働市場改革、社会保障改革など包括的な改革を実施いたしまして、具体的には、社会保障分野につきましては、失業給付の支給期間の短縮、あるいは年金給付水準の段階的引下げなど給付適正化を実施し、同時に法人税の減税なども実施し、企業が雇用を増やしやすい環境を整備したところでございます。

この結果、社会保障支出/GDP比でございますが、ドイツを除くEU諸国では2%ポイント以上増加している中で、ドイツは、失業、年金分野を中心といたしまして、社会保障支出/GDP比を減少させております。社会保障以外の支出につきましても、補助金の削減や公務員人件費の削減などにより、概ね2%ポイント程度、対GDP比を抑制しているということでございます。

これらの取組によりまして、2004年から2017年にかけて、財政収支が対GDP比で▲3.7%から1.0%へと改善するとともに、実質成長率が伸び、失業率も10.3%から3.8%と回復しているということでございます。

以上が本日の資料の御説明になりますが、冒頭、申し上げたとおり、財政を巡る様々な角度からの御指摘にもお答えできるようにした結果、大部の資料となっております。本年2月の「委員の意見の整理」にもありましたとおり、諸外国における財政悪化の事例、あるいは、財政健全化に向けた取組事例等のこれまでの蓄積についても紹介に努めた次第でございます。しかし、これをさらにどう取捨選択して、国民の皆様に分かりやすく伝えられるか、どのようなツールを用いてそういったことができるのかというのは、これからの課題であると思っており、委員の皆様方からも御指導いただきたいと思っている次第でございます。

私からの説明は以上になります。

〔 増田分科会長代理 〕 ありがとうございました。

本日は、委員も交代等ございましたし、一度、日本の財政の現状をどう理解するのかということで、皆様方の御意見を頂戴したいと思っております。新しい資料も大分入っていますので、それも踏まえて御意見をいただければと思います。

最後のほうに、MMTの色々な見解が入れてございます。財審としてこういったものについてどう見ていくのか、これも必要な話だろうと思います。

どういう点からでも結構でございますが、御意見いただきたいと思います。

そうしましたら、名札を挙げていただきたいのですが、大槻委員が挙げておりますので、大槻委員から回していくような形にしたいと思います。よろしくお願いいたします。

〔 大槻委員 〕 ありがとうございました。非常に分かりやすい資料で、いろいろな形で私どもも理解しつつ、活用できるような気がいたしました。

2つございまして、1つはコメントでございます。私がお付き合いをさせていただいているような個人の方々については、やはり多分、ホラーストーリーというのは、確かに炎上もしやすく、なかなか通じづらいところだと思いますが、ひょっとしたら、幾ら厳しいと言ったとしても、遠くの話だと全く伝わらず、しかもネガティブな話はどうしても理解したがらないという個人の性格からすると、その真逆で、近くてポジティブな話をする手が何かないかと、改めて資料を見ながら思った次第です。

例えば、今回の消費増税はそれに近いのかもしれないと思っていまして、こういう形で健全化を少し図る方向に行くことが、近い目線で見たときにも、我々、国民に幼児教育無償化などのポジティブなポイントがあるということが見える形だと、比較的理解が得やすいのではないかと思った次第です。ただ、それでもまだ消費増税については、私どももいまだに個人の方々の強い反対の御意見を聞きますので、そこからさらに進めるのかということについて、皆様と何かディスカッションが深められればと思った次第です。

もう1点は、ドイツでございますが、私も海外視察とかに行かせていただいたときに、痛みなくして改革をできた例がほとんどないということで、強いて挙げればドイツということだったかと思いますが、これについて、もし補足的に、なぜ欧州その他の国ではできなかったことが、ドイツについては非常に厳しい痛みを伴わない形で健全化できたのかということを、何か御示唆いただければと思った次第です。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 ありがとうございます。質問に対してのお答えは、この場でできる部分については後ほどまとめてお答えし、場合によっては、次回、資料で提出ということになるかもしれません。よろしくお願いします。

黒川委員、お願いします。

〔 黒川委員 〕 ありがとうございました。大変立派な資料で、私はまだまだ教育者なので、この資料を使って、財審の方針どおり、少しでも市民の方々に御理解いただけるように、あるいは確信を持っていただけるように、何かの機会、授業等で活用させていただきたいと思います。

私は会計学者ですので、9ページ、10ページあたりで、法制・公会計部会の資料ですけれども、これについて少しコメントします。もし反論があれば御示唆いただければと思います。

有形固定資産とかを含める資産について、9ページを見ていただきたいのですが、対応関係があって、売却できないから、金融資産を除いた有形資産みたいなものと負債を差し引いた金額を見るのではなくて、債務残高の総額を見たほうがいいという議論が、本日なされたようです。会計学者からすると、有形固定資産というのは通常は売却を予定されていなくて、耐用年数にわたって使用していくわけですけれども、そのとき減価償却をするので一部ずつ費用になっていく。したがって、バランスシートに載っている有形固定資産はいまだ費用になっていない資産だということで、いずれ費用になるとすると、ここは消えていってしまうのです。消えていってしまうと、負債を返済しないかぎり資産と負債の差額の純資産はマイナスになってしまうわけです。

そこで、有形固定資産の減価償却費に相当する部分について耐用年数を増加させる修繕とか取替えをすると、追加投資で有形固定資産は維持される状態になります。そうすると、今、言った修繕や取替えは歳出としてお金が出ていきます。PBという指標がありますけれども、PBを黒字にしたいために歳出を抑制するということになると、取替えとか、修繕みたいなものは抑制する。こうなると、PBは黒字になっていいわけですけれども、貸借対照表上の有形固定資産の部分について減価償却費だけ減少し、取替の、プラスがないので、資産は減っていき、純資産は減っていくわけです。

ところで、PBが黒字になると返済により債務も減るではないかということで、純資産はまた回復されるわけですけれども、そういったときには資産と負債が両方で減っていく、圧縮されていくという状況が想定されます。でも、先ほども言ったように、インフラ資産は耐用年数にわたって使用するという目的がありますから、だんだん劣化していくような状況も示しているということでありますので、やはり債務残高だけではなくて、資産の中身も見て、いまだ費用になっていない部分、それから原則として売却目的ではないですけれども、耐用年数にわたって使用していくのだと、こういうような見方で有形固定資産の在り方を見ていただきたい。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 ありがとうございました。

神津委員、お願いします。

〔 神津委員 〕 2つ申し上げたいと思います。1つは、やはりこういう財政状況についての認識というのは、財審でかなりの程度、共有してきていることだと思います。これを克服していくためには、従来の取組なり、議論の延長線上では、もう立ち行かないのではないかと思います。やはり従来にないような発想を持って取組を考えていく必要があると思います。

資料の中にもありましたけれども、つい先日、OECDが対日審査報告を出して、日本の財政状況について厳しく指摘をしています。グリア事務総長は、毎年、今の時期、こちらに来られて、私どもとも意見交換会をするのですけれども、日本は、PB黒字化の先送り、2006年の段階で2011年には黒字化すると言ったけれども、それから一体、何回、先送りしているんですかということを言われて、いつも雇用、労働や賃金の問題は私どももいろいろ言うべき材料があるのですが、この問題ばかりはもうぐうの音も出ないという状況であります。

2006年に設けた目標を、昨年を入れて4回、先送りしているということで、本日のお話を伺っても、結局、また経済成長が大したことないと先送り必至だというような話です。だから、もう日本全体がこういうことに慣れっこになってしまっている中で、やはり財務省、私ども財審としても、その状況に埋没してはいかんということ、当たり前ですけれども、このことが1点目です。

2点目は、そのことの具体的な取組というのはいろいろ考えていかなければいけないと思いますが、1つは、昨年の財審の議論の中で、やはり若い人を含めた国民世論に対して、いかにきちんと説明をしていくのかという問題意識が共有されたと思います。そして、様々な意見が募られたと思っています。ですから、やはりあの議論を一体どういうようにつなげていくのだろうというところが、私は大事な問題としてあると思いますので、いろいろなアイデアが出て、それをそのまま本当に適用できるかどうかというのは、簡単ではないと思いますけれども、やはり一度、しっかりとこの場で議論をして、1つでも、2つでも具体策につなげていくということがないと、やはりこれも先送りになってしまいかねないと思った次第です。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 小林慶一郎委員、お願いします。

〔 小林(慶)委員 〕 大変包括的なというか、非常に内容が充実した資料だと思いました。去年の審議会でも、意見として言ったかもしれないですけれども、例えば民間の試算を引用するだとか、あるいは海外の事例などをいろいろ入れるというようなことが全部盛り込まれた形になっていて、情報量としても確かにいろいろなところで、学校とか、私のクラスとかでも引用したりして使っていければいいなと思います。

2つコメントがありまして、1つ目は、前回のこの会議でも言いましたけれども、私は、フューチャー・デザインというのをやっていて、市民の人たちに、例えば4人か5人のグループを組ませて、そこで50年後、100年後の将来の世代になったつもりで議論してもらうというようなことをやっているのですけれども、その研究者たちの中でも、財政はテーマとして非常に扱いたい、将来のことを考える上では非常に重要なテーマだと思いますけれども、なかなか一般市民がテーマとするにはやはり難しい。本日の資料を読んでも、五、六人の一般の人たちが1時間、2時間集まって議論するというときに、何をテーマとして話をさせたらいいのだろうかということを考えました。この資料の中の、いろいろな数字とか、データとかをうまく組み合わせることで、あるいは一般家庭だとこういうように見えるんだとか、単なる比喩ではなくて、何かうまく持っていくことで、一般の有権者とか、あるいは市民のレベルで議論できる材料を、これを加工してつくっていけないだろうかと考えました。

もう1つは、財政再建の目標について、結局、何をやれば財政再建が達成されるのかというのは、はっきりは分からないということだと思うのです。ここの印象としては、PBを黒字化するということがまず第1のターゲットだと思いますけれども、債務比率を抑えるには、それ以上に財政黒字を出さなければいけないとかいうこともあるので、何か包括的な絵といいますか、PB黒字化まで持っていけば、こういう条件なら財政再建はできると。債務比率を一定にする、ここまで抑えるためには、さらにこれだけ上積みが必要だとかいう大きな最終的な目標の絵が見えると、こういう資料の理解が進むのではないかというようなことを感じました。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 ありがとうございました。

佐藤委員、お願いします。

〔 佐藤委員 〕 ありがとうございます。

モグラ叩きの感はありますけれども、今年はMMTで、その前はシムズ理論で、さらにその前はヘリコプターマネーで、最近は有形固定資産とか、いろいろな議論が出てきますが、共通項があると思ったのは、実はバランスシートです。まさに有形固定資産もバランスシートの問題、ヘリコプターマネーもバランスシートの合算の問題、MMTも実はバランスシートの話で、誰かの負債は誰かの資産であるという考え方になるのです。

なので、この際だから、バランスシートに対する正しい理解を求める。これは実は、地方レベルではもう既にやっていることで、地方自治体はかなり公会計改革が進んでいるので、実際のバランスシートは、御案内のとおり、そんな単発で見るのは意味がなくて、経年変化で見ないといけません。だから、先ほど出ていたように減価償却という概念が出てくるわけじゃないですか。

本来、なぜバランスシートに有形固定資産を乗せているかと言えば、別に資産だということを言いたいのではなくて、費用の平準化です。毎年毎年、一定費用がここで発生するんですということを見せるためのものであって、正確には資産ではなくて、今後、発生する費用の集計だと理解するほうが正しいと思うのです。その辺りも含めて、少しバランスシートを軸に考えてみるのは手かなという気がしました。

MMTは、実は最後はオーソドックスなISバランスの話で、要するに民間で資金が余っているから国が吸収すればいいではないかという話ですけれども、ただ、民間資金が余っていることが続くことが前提で、それはどうなのかということはやはり問われるかなと。このあたりも反論していく必要があるのかなと思いました。

財政再建については、どう進めるかも大事ですけれども、どう環境を整備していくかということがやはり必要で、もちろんそのための見える化でもありますし、そのための堅実な推計だと思うのです。せめてベースラインケースで考えていきましょうとか。それから、本当は受益と負担の連動、例えば給付が増えれば保険料が上がるんですよとか、水道料金も値段が上がるんですよとか、そういう受益と負担の連動というのも国民にコスト意識を促す一つのやり方ですので、このような環境をどう整備していくかということ、これもやはり議論としてあっていいのかなと思います。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 末澤委員、お願いします。

〔 末澤委員 〕 どうもありがとうございました。大部の御説明で、私も理解が深まったところでございます。

私から、2点お話ししたいと思います。1つは、国債関連です。13ページでは日本銀行の国債保有について書かれているのですが、日米で比較したときに一番違うのは、日本の場合ですと日銀が持っている国債のウエイトが昨年12月段階で43%、一方、米国は同じ基準にすると10.1%、もう4分の1以下です。米国は、今の段階ではもう10%を割っている可能性があります。ですから、今後は約5倍、対GDP比で見ると約10倍となりますけれども、なかなか成長が促進できていない。つまり、単なる金融の問題ではなくて、日本の場合、人口動態や産業育成といいますか、やはり成長戦略がコアの問題であるということが1つです。

もう1つは、先ほどのMMTの話ですが、多分、本日いらっしゃる方は、MMTは大した議論ではないと若干軽く見られている方が多いと思うのですが、私は現実になかなか厳しい。嘗めてはいけないと。どういうことかというと、これはもともと、2月にアメリカで、上院のエドワード・マーキー議員と下院のアレクサンドリア・オカシオ=コルテスがグリーン・ニューディール決議案というものを出して、共同スポンサーに100名が入っています。上院議員11名、下院が残りで、この上院議員の多くが今回の民主党の予備選に出馬している人です。ですからこれは、ほとんどもう民主党の公約になりかけている。

もともとの本尊であるバーニー・サンダース氏は、4月10日に国民皆保険法案、Medicare for All Actを出していまして、これはアメリカの大統領選の極めて主要なテーマになってきている。MMT自身は体系だった理論ではないとは思いますけれども、政治的には、民主党が相当これから財政出動を増やして政権を取り返そうというムーブメントになっていますので、来年、場合によっては、民主党が上下両議院と大統領をとるとメインのテーマになる可能性がありまして、これは相当フォローした上で反論を準備していかなければいけない。

逆に、トランプ氏が勝ったら、また減税の追加ということで、米国の財政状況が来年、再来年にかけて一段と悪化することが予想されるので、きちんと注視していく必要があるだろうと考えています。

以上でございます。

〔 増田分科会長代理 〕 武田委員、お願いします。

〔 武田委員 〕 本日は、大変分かりやすく、かつ非常に網羅的な資料を御説明いただきまして、どうもありがとうございます。大変理解は深まったと思います。私は、感想に近いコメントを2点、申し上げたいと思います。

まず、1点目ですけれども、PB黒字化が何度も先送りされてきたという点については、先ほど他の委員からも出ておりましたが、本当に慣れ切っているところがやや怖いとは思います。2020年代前半になってくると、経済的にも、あるいは人口動態的にも、冷静に見て厳しさを増していく局面になると思います。その辺りは、今回こそ、しっかりPB黒字化を実現していくことをどうやったら政治プロセスで、全体としてプランを立て、実行していくことができるのか。そこは、改めて、この審議会でも考えていかなければいけないと思います。

2点目として、将来世代の話が出ました。前回の建議でも、強調された点だと思います。他の委員もおっしゃったように記憶しておりますが、必ずしも現在のシニア世代は、今の財政問題や社会保障の問題を心配していないわけではないのではないかと。つまり、社会保障制度改革は、高齢化が進む中では難しいという議論がありますが、高齢者も当然、自分たちの子供の世代、あるいは、その次の世代のことを考えていらっしゃる方が多いように思います。

といいますのも、我が社で生活者に対してアンケートをとった際にも、それなりに次世代のことを考えている比率が高いという結果が得られておりました。もちろん、いざ改革のメニューが並んだときにどう反応するかという点は、もう一段、深く考える必要はありますが、将来世代に向けてしっかり持続可能性を高めていくことについては理解を得ること。おどろおどろしいシナリオは要らないとしても、その辺りは正面切って、きちんと述べるところは述べていく必要があるのではないかという感想を持ちました。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 伊達委員、お願いします。

〔 伊達委員 〕 ありがとうございます。今回、初めて参加させていただきまして、この平成の30年間、どういうことが起きたかを改めて理解することができました。

これを見ていまして、経営をしている立場からいいますと、どんな理論があろうとも、破綻しているものは破綻しているということを認めるべきかと。数字が成立していない限り、企業は持続できません。国も同じで、どうやって改善していくのか、方法論を見出さない限り、企業は持続できませんので、努力目標のもとに何かやっていますということでは成り立たないということを、冷静に私たちは受け止めなければいけないのではないかと思います。これ自体は、国民もそうでしょうし、その事実をメディアも含めて冷静に受け止められるような環境にしていくことが必要ではないか。

その観点から、今まで財政の健全化ということを言ってきているかと思いますけれども、完全に財政運営の再構築をしていかなければ、間に合わず、目標設定の再構築、キーワードすらも変えていっていただきたいと感じ、大変危機感を持ちました。一方で、そう簡単ではないということも理解しています。

方法論の話と心理論の話というのは、切り分けながら整理していく必要があります。方法論については、今後、いろいろな手法を持ち出してくるということになると思います。一方、心理論につきましては、当然、国民の理解、納得等々になってくると思います。そのような中、今回の資料の最後の62ページ、ドイツの事例になると思いますけれども、このドイツの状況を客観的に先生方がどう評価されているのかということを、まず教えていただきたいと思いました。

この資料を見させていただく限りは、やるべきことをやりながら一つの数字が達成できている参考事例になるのではないかと思っています。特に、右上の年表を見ると分かりやすいかと思いますが、2007年のリーマン・ショックのときに、財政収支が当然悪化している。それは、世界経済全体に起きていることであって、日本も非常に苦しい状況になったという理解があります。

その後、徐々に上がっていくという数字を示していますが、日本につきましては、2011年のあの震災という不幸な出来事がある中で、また景気等々が非常に厳しい状況にあったという認識があります。そのころに、社会保障も含めて大きく手を加えなければいけないという流れが起きていたという記憶があるのですが、2012年、2013年ぐらいから少し景気がよくなった中で、その方向性が緩まってしまったという印象があります。それに対して、ドイツの状況を見ますと、同じ時間の中でやるべきことをやりながら数字が改善していったというのは非常に興味深いことです。

こういったグラフとともに、日本がやってきた事を並べながら差異を比較していきますと、見えてくるものがあると思います。特に、日本社会というのは、何か見えている事例があるとそれを参考にしますし、絶対優位のものよりも比較優位のものによって、自分たち自身の価値観や正当性、立ち位置を理解していく国民性があります。そういう意味では、このドイツの手法をもう少し深く研究しながら、現実的な手法論を示し、国民自体、我々自体も現実の問題を直視する際のフックにできればと思いました。

以上でございます。

〔 増田分科会長代理 〕 田中弥生委員、お願いします。

〔 田中(弥)委員 〕 今年は大分構成を変えられたなと感心して拝聴しておりました。意見を2種類申し上げたいと思います。1つは、海外事情に関するものであり、もう1つは、国民の理解という点であります。

まず、43ページからの海外事情でありますEU・IMF。実際に、構造調整借款の評価だとか、あるいは東欧へのODAの評価を見に行っている人間からすると、こんなきれいな表現ではおさまらないと思っています。ホラーストーリーでも何でもなく、やはり各国にとってみればIMFは管財人の役割を果たしますので、そこで義務教育を有料化しろとか、あるいは公務員の数を半分にしろということは、もう国民が選んだ議会で決議する間もなく、IMFの指示に従わなければいけないということでありまして、やはりこれだけの危機に陥ったときに、国家主権を失うという苦痛を味わうことは、私はもっと厳しく共有するべきではないかと思います。これが1点目であります。

それから、2点目は国民の理解でありますが、我が国は財政民主主義を標榜しているのであれば、やはり納税者、有権者の理解を得るということは必須ですが、その理解も、単に頭で理解するというよりも、腑に落ちないとだめだと思うのです。

国立大学の運営費交付金を1,000億円傾斜配分するということを、前回、ここでも議論して、結果的にそれが実現しましたが、国立大学関係者からかなりの不満の声を直接聞きました。そのときの言い分というのが、もうこれだけぎしぎしと締められてしまっては夢がなくて、夢がないので良い研究もできないし、良い研究者もこれでは生まれないという内容であります。それに加えて、国債をもっと発行すればいいではないか、輪転機を回せばいいではないかと、旧帝大の先生方でも普通におっしゃるということです。

このベースにあるのは、先ほど受益と負担の話がありましたけれども、市場で財やサービスを受益するというのは時間が一致しますけれども、公的な資金に関しては時間のずれがあるのです。このことを、やはりシニアの先生方は理解していらっしゃらないのではないかと思いました。そういう意味では、将来への先送りということについては、ほとんど実感されていないのではないかというようなコメントが出てきてしまうということであります。

ここからソリューションを見つけるのはなかなか難しいのですが、財務省では、我が国の財政を家計に例えたら、ということで、かなり分かりやすくインパクトのある資料を毎年出されていますが、これに加えて、我が国の財政、20年後の財政を家計に例えたらということ、つまり今、18歳で入学した学生たちが、所帯を持って家計を担わなければいけない40歳ぐらいになったときに、どういう財政状況になるのかを家計に例えるような、そんな分かりやすいものを示す必要があるでしょう。

あわせて、財務省でも、学生に対するいろいろな啓蒙活動は少しずつ行ってきましたけれども、もしかすると学生を指導する教員に対しても、そういった情報共有とが必要なのではないかと思いました。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 田中里沙委員、お願いします。

〔 田中(里)委員 〕 日本の財政に関して、例えばあるデータが切り出されて、いわば限定的な真実の情報として誤解を生んでいくこともあるというような御説明をいただきましたが、それは事実としてあると感じています。その際には、事実ではないとの否定に止まらず、新たな提示と丁寧な説明がこれから問われていくと思いました。

また、受益と負担の問題は、社会対それぞれの世代というような感じで捉えている流れが多いと想像しますが、やはり他世代間同士の理解が大切です。ほかの人のことを思うと、思ってもらった側はまた恩返ししたくなるというような気持ちは、当然、皆の中にあると思いますので、そういうような思いの醸成ができればと思った次第です。

深刻な未来の姿を共通の認識にしまして、そこに各人がどのような工夫ができるのか、役割を担えるのかというようなことが議論できればと思うところですけれども、“共有地の悲劇”というところに入ったときの個人の状況を見える化するような、想像してもらえるような情報の出し方、説明の仕方が有益なのかと考えます。

この資料の中に一部、働き者だった漁師のお父さんが失望して自暴自棄になりましたとか、といったストーリー性のあるお話があったわけですけれども、これと共有地の悲劇が何か立体的に重なるようなことが見えてくると、当事者意識といいましょうか、一人一人が自分のこととして考えられる見地に立てるのではないかと思いました。

〔 増田分科会長代理 〕 土居委員、お願いします。

〔 土居委員 〕 消費増税を10月に控える我が国にとって、特に最後の61ページ、62ページのドイツの例というのは非常に重要な示唆を与えるのではないかと思います。ドイツの例をどういうように理解するかということですけれども、もし次回以降、そういうことを示唆する資料があれば、是非出していただきたいのですが、私たちの理解では、シュレーダー政権のもとで、いわゆる労働市場改革に取り組んだ。今も、日本で労働市場改革は必要なわけですけれども、そういう形で産業競争力を高めつつ、2007年1月に19%の付加価値税率を上げるということをやっている。61ページのスライドを見ていただいても分かるように、2007年の実質成長率は3.4%と、消費税率を上げたにもかかわらずプラスの成長率を実現しているという例がドイツにはあるわけです。ここは非常に示唆深いと思います。こういうことがどうして実現したのかというところは、より深掘りすると興味深いと思います。

今後の財政健全化に向けた国民への理解の浸透ということを考えると、私は2点、私自身も反省を含めて必要なのではないかと思うのは、まず30秒で説明できるかどうかということだと思います。例えば、テレビとかで財政出動派と議論をすると、彼らは非常に短時間で簡単に財政健全化なんか要らないと、こういうように一言で言ってしまうのですが、これは乱暴だと、あまり的を射ていないということです。

それに対抗するために、一松課長は非常に丁寧に、長い時間をかけて説明されたので、それぐらい本当は時間が必要なのです。財政健全化の必要性を説明するにはとても時間必要なのですけれども、あいにく国民が待ってくれないという悲しい現実もあるので、もちろん長く説明して聞いてくれる人が納得するというバージョンもこれあり、もう1つ、短時間しか聞いてくれない人には短時間で説得できる、例えば20ページのPBの黒字化がなぜ必要がということで言えば、今を生きている人が恩恵を受ける政策的経費があるのに、それを将来の負担につけ回しているという状態がPBの赤字という状態なんだと。そういう一言で説明して、何かちょっとまずいことをしているのではないかということを言外に感じさせるような説明の仕方も、あわせて必要になってくるのではないかと思います。

なぜ、財政健全化の必要性が国民に理解されないかというもう1つは、的を射ていない責任転嫁が容認されているということです。ほかの人につけ回せば何とかなる、自分は負担しなくていいと思い込んでいる人が多い。例えば、お金持ちに税負担させれば、我々は増税の憂き目なんかに遭わなくていいのではないかと言っているけれども、実は2013年以降、我が国で企画されている所得税改革によって、私の研究によると、上位10%の所得層は1世帯当たり平均、年16万円弱の負担増になっているわけです。だから、それはやっているけれども、それだけではとても財政収支の改善には足らないという話であります。将来世代に負担を回せばいいではないか、日銀に何とかしてもらえばいいのではないかという話も横行しています。

さらには、経済成長しさえすれば税収が増えるから、財政収支は黒字になるのではないかと言っているけれども、実はこの資料の52ページの右下に日本の構造的財政収支が書いてあるわけですけれども、完全雇用GDPが実現してもマイナス3.3%の赤字が残るという計算になっているわけですから、景気がよくなっても財政赤字は解消されないというのが今の財政構造なので、やはりそういうところはしっかり丁寧に、責任転嫁をしても何にも問題は解決できませんということも、あわせて言っていく必要があると思います。

今の日本国民は、金利がゼロで国債が発行できるということで感覚が麻痺しているだけなのではないか。デフレから脱却してプラスの金利がつけば、兆円単位で利払い費が増えるということになりますから、そんなに増やしてまで利払いをするだけの国債発行をするのか、それとも財政健全化をするのか。こういうことがもう少し切実な問題として、国民にも理解できる日が来るのではないか。その日まで説得が必要だと思います。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 冨田委員、お願いします。

〔 冨田委員 〕 ありがとうございます。

平成における時代の過ちを二度と繰り返さないという前回の建議について、どれだけ我々が具体案を出せるかということが、多分、本日の問い掛けだと思います。それに対する答えとして、最初に御指摘あったと思うのは、堅実な経済前提のもとで税収の見通しとかを立てようということです。それはそのとおりですが、これまでも繰り返し、繰り返し当審議会においてそれを言ってまいりました。ただ、お聞きいただけることなく、いつもあらまほしい姿を描いた、高目の成長を前提にした財政の見通しを立て、その見通しを前提にして様々な施策をやってしまうということだったわけです。

やはり今回は、1人当たり生産性という話も出ていまして、生産性の上昇というのは当然、追求すべき課題です。ただ、それが実現してから初めて財政の前提として使うということを重視した考え方を、我々は強く打ち出す必要があると思うのです。成長戦略は大事だけれども、財政を考える場合には、それが実現してからにしましょう。それまではメインシナリオとして例えばベースラインケースを使うということだと思います。

それから、堅実な経済前提について、金利と成長率の関係で、本日も繰り返しお話ございました。平和な時代を考えれば、資本移動が国際的に自由な時代を考えれば、リスクフリーの金利のほうが成長率よりも高いというのが一般的です。だから、今は日本銀行が大量に買って、ドミナントなプレーヤーとして存在しているので、成長率と金利の関係が逆転している。それを前提にした見通しのつくり方、あるいはルールの設定というのは問題だと思うのです。

その問題は、今の財政健全化目標の文章中の赤枠にあると御指摘ありました。それは、まず2025年度にPBを黒字化し、同時に政府債務残高のGDP比を安定的に引き下げるという記述になっています。同時に、というのはやはり問題でして、以前の骨太方針では、その後、安定的に引き下げるという順番になっているのです。だから、その点をやはり重視する必要があろうと思うのです。

それに関係して、ピケティ氏のお話が、本日は時間の都合で御説明なかったのですけれども、資料の中にはございました。r>gという記号のうちrは、我々が議論しているリスクフリーの国債の金利ではないんです。全ての資産についてのリターンです。だから、それはリスク資産も含んでいるので、成長率よりも高い可能性は十分ありますけれども、我々が議論すべきは、rではなしにiというか、リスクフリーの金利です。それと成長率の関係です。

この点に関して、FRBのサンフランシスコ連銀ですけれども、そこの調査で面白いものがあって、return on everything、全てのリターンについて1870年から2015年まで計測した結果が出ていまして、軽く御紹介申し上げますと、wealthのリターン、これはequityとhousingです。それは、平時だけについて、つまり2つの世界大戦の時期を除いての平均でみて8.07%、それから安全資産のリターン、ボンドですけれども、これは3.83%、成長率は2.94%という関係になっていて、理論で考える世界になっていると思うのです。

先ほど、土居委員から30秒でという話がございましたけれども、それはノーフリーランチ、つまり世の中にただのものはないのです。だから、もしMMTの理論をアメリカの民主党が掲げるのであれば、それはバターか、大砲かにおいて、どちらに重点を置くのですかというのが正しい問題提起の仕方なのです。ただ飯ばかりを食っている人が非常に多いかも分からないと、私などは思うのです。

それは、本日のシムズの話が、等号で出てまいります。通常、我々が示すのは、借金は将来の収入でもって返済するわけですから、右辺の方が大きい不等号になっているのです。だから、予算制約がかかっているわけです。ただのものはない、ノーフリーランチということは、予算制約の中で物事を考えなくてはいかんということでして、そういう一番基本的なところを分かりやすく、きちんと伝えていくことが大事なのではないかと思います。

ですからMMTに関して、そんなフリーランチなどないんだよというのは、多分、正しい指摘の仕方だと思います。むしろ、シムズ氏のほうが理屈っぽくなっていて、不等号をつければ、理論的になる。ただ、それを現実にインプリメンテーションできるかどうかというのは非常に難しいです。2%のインフレというのは非常に難しい話です。何兆倍のインフレであれば、そういうこともできるかもしれませんけれども、そういうことを考える必要があろうかと思います。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 中空委員、お願いします。

〔 中空委員 〕 ありがとうございます。

1つ目は日本国債市場についてです。私は、金融市場にいるものとして、やはりこの点を指摘させていただきたく思います。資料の中では14ページから16ページに当てられていました。

今の財政状況で、日本自体がうまくいくのは、基本的には日銀が頑張っているからという話になりますが、日銀が頑張り過ぎた結果、日本国債を誰が買っているかというと、従前保有していた銀行や損保に売ってもらって、日銀や海外が買っているという話になっています。誤解が生じるかもしれないですが、恐れずに言えば、ある意味日本の便益がどんどん海外に流れていると言っても過言ではない状況になってきているということなので、この状況は早く変えなければいけない、このゆがみは是正しなければいけないということだと思います。

16ページにある格付についてもそうです。毎日の生活の中では、日本国債がAAAでも、Aでも全然関係ないので、あまり気にならないところですが、Aクラスの資産というのは海外投資家から見るともうリスクアセット、ということなのです。持っていたらリスクがあるという商品に日本国債がなりつつあるということですし、日本国債の格下げは資金調達コストがあがっていくことでもあります。そのため、格付けについても気を払う必要があるという意見の発信は必要かなと思います。

あと、多くの委員からドイツの話が出ていました。ドイツは確かに財政に関しては優等生ですが、欧州の人たちから見て、ドイツ人は真面目でつまらないという見方が多いように思います。財政再建などできたって全然よくないと言う人たちも結構います。また、ユーロ統合となったことで、ドイツがほかの国のGDPを取ってしまった、経済的には独り勝ちしたということもありますので、その辺りも考慮すべきかと思います。

ただ、私は、ドイツに海外調査に行かせていただいて、2ついい点があったと思っています。1点は、受益と負担のバランスをとるということをドイツは法制化しているという点。政治や選挙などの介在なく、法律でいろいろなことが決まっているというのが一つ目の良い点です。もう1つは、冨田委員もおっしゃいましたが、成長率の見通しのところです。やはりベースケースシナリオは堅実でなければならない。ドイツの予測している数字は、5賢人委員会が出していたり、民間研究所なども含めていろいろな方法で精緻に算出しているので、推計値と実績値がほとんど一緒です。この2点は私たち日本の財政再建の話をするときに学ぶべき点なのではないかと思います。

最後に、やりたいことが多過ぎると、やはり何をやっていいか分からなくなるのが現状ですので、目標の絞り込みが必要かと考えます。財政再建もそう、社会保障もそう、あれもこれもやらなければ、大変だという話になるよりは、せめて「これぐらいの目標は立てて、これはクリアしていこう」というような、ことが必要ではないでしょうか。“見える化”という発言をなさっている委員もいらっしゃいましたが、その辺りを意識して考えていくことが重要かと思います。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 ありがとうございます。

広瀬委員、お願いします。

〔 広瀬委員 〕 大変御丁寧に、そして簡潔に御説明いただきまして、ありがとうございました。

皆様おっしゃるように、当然のことながら、この厳しい財政状況について冷静な危機感を持つと。それを国民的なコンセンサスに持っていくというのは、もう皆様おっしゃるとおり、一番大事なことだと思っております。その上で、では財政再建をどういうように図るかということですけれども、3つしかないと思います。経済成長、財源確保、そして歳出削減。これを一体のものとして、これからも愚直にやっていくしか、なかなか解決は難しいのではないかと思っております。

各論につきましては、本日は3点コメントさせていただきたいと思います。

まず、経済成長ですけれども、やはりどうしても痛みを伴いますから、ある程度の経済成長の中でやっていくということも必要なのではないかと思います。ただ、経済成長をあまりにも過大に期待したり、あるいは将来を過大に見るというのは非常に危険でありますから、この二、三十年の実績もはっきりしているわけですから、そういう面で現実的な見通しの上に立った対応をしていくことが必要なのではないかと思っています。

それから、財源確保ですけれども、これは何といってもこの10月に予定しております消費税の増税、税率の引上げですね。これは、本当に確実に実施していく。現在、政府でいろいろなことを検討していただいておりますけれども、絶対避けなければいけないと思っていますのは、弱い事業者にしわ寄せがないように、その辺りについては、是非これからの政府の検討の中で十分な対応を図っていただきたいと思っております。

3つ目の歳出削減ですけれども、これは本当に痛みを伴いますから非常に難しいわけです。やはり一番大きな塊である社会保障をこれからどうするのかという問題にぶち当たらざるを得ないわけですけれども、その場合もいろいろな関係する政策とのパッケージでやっていく。そういう工夫をしていきながら、社会保障について少しメスを入れていくことが必要なのではないかと思っております。

いずれにしても、これだけ膨大に積み上がったものですから、相当な時間がかかるのは間違いないわけですけれども、一日でも早く第一歩を踏み出すというか、財政再建という軌道に、まだ本当に軌道に乗っているのかどうか疑問のあるところですけれども、早く戻らないような軌道に乗せていくことが非常に大切なのではないかと思っております。

以上でございます。

〔 増田分科会長代理 〕 ありがとうございました。

堀委員からお願いします。

〔 堀委員 〕 本日、初めて参加させていただいております。社会保障審議会等の委員はさせていただいているので、皆様とはひょっとすると見解というか、共有するものとしないものとあるかもしれないのですが、かなり共有するところがあると思いましたのは、平成の時代、もう何度も同じことを繰り返していて、少し慣れてしまっているのではないかというのは、実は社会保障の研究をしている人間も同じことを、要は国家財政とは別の社会保障財政の中でも同じことを20年繰り返していて、これで本当にいいのか。いよいよ団塊世代が後期高齢者になり、私もそうですが、団塊ジュニアの世代が老後を見据えていく時代、今までとは全く違う未来ですので、過去の20年、30年を繰り返している場合ではなく、本当に新しい目線で伝えていかなければいけないことがあると思います。本日の資料は、そういう意味でもとてもよかったと思いますし、財審の皆様が過去を反省しながら未来を変えていきたいという意気込みが伝わったので、とてもよかったと思います。

ただ、人間は、分かっていてもやめられないというところがあると思っておりまして、例えば社会保障の負担の話にしても、負担が必要だということは皆様分かっているけれども、やはり自分は目をつぶりたいと。ここに企業の方いらっしゃいますが、ドイツの例もありますが、ドイツの社会保障があまり負担になっていないのは企業負担がかなり大きいと思うのです。あるいは、私は国民の負担に関しても、先ほどの共有地の悲劇というのは、実は企業も、国民も、あるいは医療とか、介護とかやっている従事者の人たちもそうですし、皆が当事者として共有地の悲劇を起こさないためにはどうすればいいか。おそらくそこをきちんと考えない限り、日本はゆでガエルになってしまうのではないかという危機意識は非常にあります。

学生にも、よくそういう話をしていますが、財政危機なんだよという話をしても、でも子供の医療も無料になってきているし、保育も今度無償になるし、ずっとないないと言っていても、結局、あるのではないかと安直に理解してしまう。だから、受益と負担の構造も、現在ですと分からない、見えにくいですし、やはりそれを見えるようにしていく。ただ、制度設計上、見えにくいところもありますので、実は口で言うほど簡単ではないと思いますが、1つずつ受益と負担のところで見えるようにしていけるといいのではないかとは思っております。

最後になりますが、社会保障の話でいきますと、歳出を削減するか、あるいは歳入を増やすかというところがあるとは思いますが、歳出の中身とか、在り方を見直すという、今まで従来、議論されていなかった視点があると思います。これまでの制度が当然、前提でと考えてしまうと、おそらくその箱の中をどうするかになると思いますが、そもそもの箱の形であるとか、おみこしの形も変えられないのかというところを含めて、本当は考えていくといいのではないかと。ここで議論することではないかもしれませんが、そういうように個人的には思っています。

〔 増田分科会長代理 〕 宮島委員、お願いします。

〔 宮島委員 〕 ありがとうございます。本日の資料は、本当にいろいろ充実していて、大変勉強になる中身ではないかと思います。

まずは公正、公平で皆が信じてくれる共通のデータというのはどうしても必要だと思います。今、データ問題というのは、いろいろ悪いところもありましたけれども、そういうことを置いておいても、そもそも記者たちも内閣府のこの将来見通しを、正直、まともに聞いていないというか、これは政権寄りの数字なんでしょう?、これは都合の良い数字なんでしょう?、というふうに受け取っている感じがあります。これをものすごく楽観的に見るか、こんなのは意味がないと見るか、どちらかに振れてしまって、あまり共通の土台になっていないと思います。実際に財務省も、このように民間のものを出してきて、その先の長期が見えないとか、ちょっと違うよというようなことを言わざるを得ない。

海外の例で言いますと、明らかに第三者の、財政を見て数字をきっちり出す、意見をきっちり出すという組織があるか、あるいは国によっては、これは政府の中ですけれども、大変厳しく財政に対して言っていますねというのがあるか、信頼される見通しや意見を出しているところがあると思います。日本は現状、今の内閣府のデータでは、なかなか一緒に議論ができないし、見通しというものは、そもそも人口動態の見通しも外れましたけれども、一番ひどかったのは出生率の見通しだったと思いますけれども、相変わらず財政の見通しも、皆が信じられるものにはなっていないと思います。

それで、財政の危機を、同じ土台に立った上でなんですけれども、やはり今の状態で厳しいということだと、皆が萎縮してしまうだけなので、先ほども大槻委員などからありましたけれども、明るいところを見る。あるいは、お金をそんなにかけなくても改善できるようなところをできるだけ前に打ち出しながら、その裏で少しずつうまく削るみたいな工夫は必要と思います。やはり厳しい話だけだと、もう国民はついてこない、逃げるだけになってしまうのではないかと思います。

そして、いろいろな形で理解を得るために、今回、地方の公聴会なども計画されていまして、まず、これは素晴らしいと思いますけれども、1つありますのは、やはり一般の方は、話を聞いて勉強しただけでは、消費税を我慢しなければいけないというところまでは行っても、自分たちの国の自分事として考えるというところまでなかなか行かないと思うのです。自分事として考える必要があるというのは、これは国民どころか政権でもそうで、政権はやはり人から押しつけられた改革は受け入れてくれなかったけれども、自分で考えた計画になって初めて前に進もうとしてくれたわけですから、国民がまさにそれを自分事と考えなかったら、上から押しつけられたとしか思わないと思うのです。

一つの例がありまして、ある高校で、霞が関の方が仕掛けられて、時間とか手間はかかっていると思いますけれども、今の日本のいろいろな施策について授業を1時間ずつやって、最後に総理の疑似施政方針演説というのをグループに分けて発表したという試みがありました。それは一部公開されていますが、私は全部読ませてもらったのですが、本当に素晴らしい内容ですし、私が普段、これはこうだよなと思っても、別の声で、でもこれは政治的に通らないよな、そうは言っても無理だよななどと思っている課題が、本当に直球でぼんと書いてあって、やはり素直に今の状況を見るとこう考えるよな、今、17歳、18歳の子が見るとこうなんだなということを非常に感じたことがあります。

こうした授業を全く同じように手間をかけることはできませんが、いろいろな仕掛けの中で、若い人たちに、単に財政はこうなっていて、こうなっていて、こうだよと教えて、そして勇気のある人だけが質問するというような場を提供するのではなくて、自分たちでちゃんと理解して、自分たちはどうあろうかということを考える、自分たちで考えるという場をつくることが非常に大事ではないかと思います。そうでないと、どんどん、どんどん時間が経つにつれて、処方箋はプロの人たちだって書けなくなってきているので、誰にも処方箋が書けないような事態になったら、もう皆逃げるだけになってしまうので、せめて少しでも早く、誰かが処方箋を書けるような時期のうちに、皆が自分事として考えるような仕掛けを立てる必要があるのではないかと思います。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 遠藤委員、お願いします。

〔 遠藤委員 〕 御説明も含めて、ありがとうございます。

PB黒字化の先送りの問題は、委員をしていてもリアリティのないまま、何となく先送りになってしまう。これは問題だと思いながら、それは共有しながら、何でこういうようになってしまったのかというプロセスの分析みたいなものも何もなく時間が過ぎてしまったという印象を、私だけかもしれませんけれども、持っています。

欧州の事例が紹介されていますが、やはりそれはアメリカと同じで、ある種のルールがしっかりとあって、財政の枠がはめられているというところが一番大きくて、それを守らなければならないという規則がない中で、どういうたがをはめていくのかということは極めて難しい問題で、このあたりで財審として提案できるものではないのか。政治的にはリアリティは低いのかもしれませんけれども、そこを感じた次第です。

もう1つ、キーワードとして出てきた社会受容性というか、国民のコンセンサスですけれども、私も、民主党政権の時代から財務省のコンセンサスづくりとか、また、原発でも社会受容性の研究とかをやっているんですけれども、これは実は本当に極めて時間がかかる問題で、難易度は高いと思います。今、先ほど申し上げたような状態の中で必要なのは、もう一方でリーダーシップで、ある種コンセンサスばかりを求めている時間でもないだろうというような印象を一部、持っています。

それはなぜかというと、やはりトレードオフが身についていないので、トレードオフを考えられないからです。特に、自分たちの生活に身近なところになると、誰もが思考停止になってしまうところがありますので、それは、もちろん教え込んでいくということと同時に、やはり誰かが決めていかなくてはいけないということを忘れてはならないと思っています。今、若い世代、世代間格差をなくすということが一番の問題だと思いますけれども、将来の経済成長をちゃんと確保してあげるということ、それは足元の歳出改革と同時に必要であるということも、申し上げておかなくてはいけないと思っています。

そういう意味では、大きな意味での社会保障改革と、あとは経済成長のために何の歳出を行っていくのか。それは、いわゆる国家資本主義が横行していく中で経済競争をしている企業がある中で、財政というものが後ろについていく時代になっています。そういうような経済環境も鑑みながら、長期的な視点もこの財審の中で議論をしていかなくてはならないのかなと思います。ですので、シュレーダーのような方が現れてくれることを切に希望いたします。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 上村委員、お願いします。

〔 上村委員 〕 関西学院大学の上村です。本日から初めて委員になりました。よろしくお願いします。

いろいろお聞きして思ったことですけれども、私も大学で財政学を専攻していますので教えているのですが、やはりなかなか難しいのは、単位が大き過ぎてピンとこないというのが一番の話です。要は一般会計100兆円と言われても、大学生は100兆円なんて見たこともなく、私も見たことないですけれども、1万円とか、2万円とかだとある程度分かる。市民に対して何かプレゼンをするときも、分かるのは2,000万円ぐらいかなという感じです。家を買うときも3,000万円とか、4,000万円で、100兆円と言われても全然分からないです。

そうすると、例えば政治家で身を切る改革をやるから大丈夫だみたいな人が出てくると、公務員の人件費カットとかあったら、社会保障は何とかなるのではないかと思っているような人もいたりして、いや、規模的には全然違いますよと。私はこれを、財政の規模感と言っていますけれども、この感覚をどうやって国民の皆様に分かっていただくのかというところ非常に大事かなと思っています。

そこでキーワードになるのは、例えば消費税率1%当たり2.6兆円ぐらいとか、社会保障給付費は年間2.5兆円ぐらい増えているとか、そういうような一つ一つ数字を感覚的に落としていくことが大事かなと思っています。要は、プレゼンの工夫が必要なのかなということ。

あとは、地方財政の世界だと、今、熊本県庁の方々がSIM熊本カードゲームというものをつくられて、財政シミュレーションのカードゲームが、今、地方公務員レベルでは結構はやっています。そういう自治体シミュレーションによって、財政を自分事として考えようということが、今、ムーブメントになっていますので、そういったものも何か参考になるのかなと思いました。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 河村委員、お願いします。

〔 河村委員 〕 私も、今年度から参加させていただきました。

仕事柄、いろいろな方と財政の話をする機会があって、金融市場の方もいらっしゃるのですけれども、私の場合はごくごく一般の方と話をする機会もあります。そのときに感じるのは、普通の感覚として、ターゲットは1,034兆円の公債等残高、という感覚が、多分、皆、無いのですね。今度、消費増税がある、それは社会保障の給付が自分のところに返ってくるのであれば、そういう見返りがあるのであれば応じてもいいよ的な、この国の財政運営がどうやって回っているのか、これだけの借金を抱えているということがどういう意味を持つのかというところの感覚がやはり乏しい。そういうところの説明をもう少し工夫していってもいいかなと思いました。

本日、IMFのフィスカルモニターの数字があちこちで出てきて、これを見ていますと、IMFも昔はワールド・エコノミック・アウトルックとかだけで言っていたのが、欧州債務危機のときに先進国が財政であれだけ痛い目に遭って、もう本当にみんな懲りたのだと思いますけれども、そのころから出てきたものだと思います。

この中で、指標として、それまではそれこそ財政収支のフローの話と、ストックの債務残高対GDP比とかだけだったのが、フィスカルモニターを出すようになってから、Gloss Financing Requirementという数字を出すようになっていると思います。毎年、幾らの国債を調達しなければ、その国の財務運営を回すことができないのか。ですから、これはある意味、国債の調達、別に新発国債、38兆円とか、40兆円が今年、はければ足りるのではなくて、そんなことは全然なくて、背後で理財局がもっとたくさん借換債も出していらして、150兆円ぐらいあると思いますが、それを出さなければこの国の財政運営は回らない。それが1,034兆円の借金を背負っているという意味だと思いますけれども、そういうところの理解が、なかなか皆、実は知らないというか、消費増税すれば債務残高は減らせるんでしょう?、なんて言われてしまうときもあって、いや、とてもまだそこまで行っていないのではないですかという話もするんですが、是非やはりそういうところの御説明。

ワニの口は、私は2つあると思っていて、先ほど課長が御説明くださった歳出と税収のワニの口も開いていますけれども、毎年の財政の資金繰りを考えたときに幾らお金を借りてこなければいけないか。今、日銀がかなり異例の政策をやっているので、そちらのほうに吸い込まれているようなところもありますけれども、やはり財政運営を回すときの資金繰りが、どれだけ大きなワニの口があいているかということも、あわせて説明していくことがあってもいいかなと思いました。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 木村委員、お願いします。

〔 木村委員 〕 本日は、ありがとうございました。財政が危機的な状況にあるということはよく分かりましたし、健全化を進めるに当たっては、やはり何よりも国民の理解が大切だということもよく分かりました。

ただ、私が思うに、国民の理解を得る状況というのが、むしろかえって難しくなってきているのではないかという気がしております。何と比べるかによりますが、例えば社会保障と税の一体改革が成立したころと比べると幾つか状況が変わっている。1つは海外情勢です。ギリシャ危機みたいな切迫した危機がないと、やはり国民にはなかなか理解されないのではないかというのが1つ。

もう1つは、日銀が異次元緩和を始めてしまったということです。幾ら借金が増えても、日銀が国債をどんどん買ってくれるから、やはり安心なんだという一種の誤解が広がってしまったこと。

三つ目は、一体改革がこの秋、曲がりなりにも完結すること、つまり消費税率が10%に上がるということだと思います。税率10%に上がるというのは、税率が2桁の節目に乗るということですから、国民にとってはそれなりの痛税感が出てくると思います。政府が幾ら景気対策をやるにしても、そういう痛税感が持つ意味は重く、さらに政府として負担増とか歳出削減とか言った場合、国民がどこまでそれを素直に受け入れてくれるのか。国民の生活感覚から言うと、10%まで上がった直後に、本当に受け入れられるかどうかというのは、私はかなり疑問に思っています。そういうところに対して、より説得力ある、なおかつ分かりやすい説明、これはすごく矛盾した話ですけれども、そういうことを進めていく必要がこれからあるのではないかと感じました。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 十河委員、お願いします。

〔 十河委員 〕 今回の資料は大変分かりやすく、今まで拝見していたものに新しいデータが加わったことで、さらなる衝撃を受けたというのが正直なところです。例えば、債務残高/GDP比が日本は最下位であると。ただ、こうしたデータは桁が大き過ぎるだけに、一般の国民からするとはじめは雲を掴むような、漠然とした受け止め方になるとは思います。ですが、地道に発信を続けていくことで理解してもらう、その粘りが大切ではないかと思いました。

特に、若い世代、いわゆるミレニアル世代やY世代、X世代といった次の世代の方々たちは、これからの令和の時代を担っていくわけですから、まずは現状をしっかり伝え、理解を求めながら財政再建を進めていくべきではないでしょうか?その意味でこうした具体的なデータ公表は積極的に行っていくべきと考えます。

また今年来年の景気はさておき、問題は2021年以降で、後期高齢者がぐっと増えるわけです。その時点で手を打つのではなく、今から若い世代の理解を深める発信として、デジタルの活用は欠かせません。そうした点も皆様とともに考えていけたらと思っております。

以上です。

〔 増田分科会長代理 〕 それでは、意見はここまでとさせていただきます。何人かの方からドイツの話がありました。これについて、一松課長からお願いします。

〔 一松調査課長 〕 委員の方々から、もう既にお答えがあったと思っております。

そのほかの要素といたしまして、やはりリーマン・ショック前に失業給付改革、物事が起こる前にそういった改革を実施しておりまして、支出が抑制されたという要素、あるいは高齢化が進む前に改革を実施できた、あるいはパッケージで改革を実施した、そうした中で痛みを伴う施策もやったと。そういう要素があると思っておりますが、より長い目で見ますと、御説明したようなハイパーインフレ、1920年代を経て、その後の政治情勢の大きな変化も経た中で、やはり債務に対する罪の意識というようなもので、国民の中で財政健全化に対する理解が進みました。これは、以前も財審の中で資料が出されたと承知していますけれども、そういった意味で歴史的、文化的背景もあって、国民の財政健全化に対する理解が深い。ドイツでは、財務大臣が「黒字のゼロ」という財政健全化の目標を流行語にして、流行語大賞で第2位をとったということもありますが、それぐらい財政健全化に対する国民の理解があったということだと思っております。

〔 増田分科会長代理 〕 それでは、財政の現状認識についてはここまでとさせていただきます。

最後に残りましたのは、地方公聴会の関係です。

私からまとめて簡潔に御説明いたします。5月13日の13時から大阪で開催をします。地方公聴会の開催は13年ぶり、大阪での開催は15年ぶりということです。

出席予定の方は、会長、私のほかに、関西にいらっしゃる赤井委員、上村委員、角委員、竹中委員にお願いをしております。それから、地元の公共団体として、滋賀県、奈良県、大阪府の知事の方々。関西経済界からは、関経連、商工会議所の会長、会頭氏に御出席をいただきます。財務省からは、うえの副大臣、そして本日御出席の伊佐政務官にお願いしております。

3部構成で、第1部は、榊原会長から財政の状況などについての基調講演。第2部では、知事などに入っていただいて、国民健康保険、国保の各自治体での改革事例などについてお話をいただく予定。そして、第3部で、伊佐政務官にモデレーターを務めていただいて、うえの副大臣にも入っていただいて、財審委員、関西経済界の皆様方とパネルディスカッションを行うということです。

今回、初めての試みで、ユーチューブの財務省公式チャンネル「MOFJapan」で生配信を行う予定です。また、中継が終わった後も視聴できるように、オンデマンドでの配信も予定しております。

マスコミによる取材は、公聴会の冒頭から終了までフルオープンということで、公聴会終了後は記者会見を予定しております。

公聴会の参加者につきましてはインターネットで公募ということで、応募の際に、あわせて財政に関する意見もお寄せいただけるような様式で公募いたします。意見の内容については、会場にて可能な範囲で紹介をする予定です。

委員の皆様にお願いですが、広報に御協力いただけますと幸いです。

地方公聴会の模様については、改めて後日、当分科会に報告をいたします。よろしくお願いします。

以上で、本日の議題は終了とさせていただきます。

また、委員の意見の整理における発信力の強化、昨年の建議にも書かれております。その一環ということになりますが、今回の分科会以降、財務省のツイッターアカウントから、分科会終了後にツイートを行う予定でございます。先ほど申し上げました関西における地方公聴会についても、参加者募集のツイートを行うということでございます。

次回は、4月23日午前10時から予定しておりますのでよろしくお願いします。

本日はこれにて閉会をいたします。どうもありがとうございました。

午後5時40分閉会