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財政制度分科会(令和元年11月6日開催)議事録

財政制度等審議会財政制度分科会
議事録

令和元年11月6日
財政制度等審議会


財政制度等審議会財政制度分科会議事次第

令和元年11月6日(水)15:00~17:00
第3特別会議室(本庁舎4階中-412)

1.開会

2.議題

地方財政について

有識者ヒアリング

  • 「NIRAオピニオンペーパーNo.45整合性のある政策議論を
    ~財政の長期検証なき社会保障議論への警鐘~」

    - 小塩隆士 一橋大学経済研究所教授

  • 「人生100年時代を支える財政・社会保障制度へ」

    - 山藤昌志 三菱総合研究所政策・経済研究センター主任研究員

3.閉会

出席者

分科会長代理

増田寛也

井上大臣政務官

宮島大臣政務官

阪田次長

角田次長

宇波次長

阿久澤総務課長

日室司計課長

前田法規課長

斎須給与共済課長

森田調査課長

西山官房参事官

佐藤主計官

渡邉主計官

吉沢主計官

関口主計官

八幡主計官

一松主計官

中澤主計官

中島主計官

岩佐主計官

坂口主計企画官

井上主計企画官

飯塚主計企画官

赤井伸郎

遠藤典子

大槻奈那

黒川行治

神津里季生

佐藤主光

和夫

武田洋子

中空麻奈

宮島香澄

臨時委

宇南山

葛西敬之

河村小百合

木村

進藤孝生

末澤豪謙

竹中ナミ

田近栄治

伊達美和子

田中里沙

土居丈朗

冨田俊基

広瀬道明

堀真奈美

神子田章

村岡彰敏

横田響子


午後3時00分開会

増田分科会長代理それでは、時間が参りましたので、開会したいと思いますが、本日も冒頭でカメラが入りますので、そのままでお待ちをいただきたいと思います。

(報道カメラ入室)

増田分科会長代理ただいまから、財政制度等審議会財政制度分科会を開催いたします。

本日は、講師として、小塩隆士一橋大学経済研究所教授、山藤昌志三菱総合研究所政策・経済研究センター主任研究員にお越しをいただいております。どうもありがとうございます。

本日は、まず前半で地方財政について審議をいただきます。そして、それが終わりました後、小塩様から、NIRA(総合研究開発機構)よりオピニオンペーパーとして公表されております財政の長期検証について、山藤様からは、人生100年時代を支える財政・社会保障制度へと、こういうことでお話をお伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

(報道カメラ退室)

増田分科会長代理本日もペーパーレスで開催しますので、もしパソコンの調子が悪い方はおっしゃっていただければと思います。

それでは、まず地方財政について、吉沢主計官から説明のほうをお願いします。

吉沢主計官地方財政担当の吉沢です。よろしくお願いいたします。

資料1「地方財政」に基づいて、ご説明をしたいと思います。

まず、目次を御覧いただきまして、本日は、地方財政に関する現行制度の枠組みについてご説明しました上で、地方財政上の課題について大きく分けて2点、1つは地方財政計画と実際の地方財政運営とのギャップについて、2点目は公営企業改革に関して、下水道事業に焦点を当てましてご説明したいと思います。

まず、1ページ目を御覧いただければと思いますが、現行の地方交付税総額の算定に当たりましては、地方財政計画におきまして、全ての地方団体の標準的な行政サービスを実施するのに必要な歳出を見積もりまして、一方で、地方税、国庫支出金などの歳入を見積もります。この歳出と歳入のギャップが赤枠の部分でございますが、これに対しまして、国税4税の一定割合であります地方交付税の法定率分を充当することとされておりまして、この法定率分等で不足する財源がある場合には、国と地方の折半で負担する仕組みとなっております。なお、令和元年度予算におきましては、この折半対象財源不足は解消しております。地方交付税につきましては、新経済・財政再生計画におきまして、一般財源の総額について、2018年度の水準を下回らないよう実質的に同水準を確保することとされております。これは、一般財源総額実質同水準ルールと呼んでおりますが、令和3年度まで維持することとされております。

続きまして、2ページ目をお願いいたします。このルールは、平成23年度から導入されておりまして、それ以来、一般財源の総額、グラフの青い棒でございますが、このうち赤い点線を超えた部分は、消費税率引き上げに伴う社会保障の充実ですとか、税源の偏在是正効果に相当する部分でありまして、これらについては上乗せをしておりますが、除いた部分は赤い点線で示されておりますとおり同水準で推移しております。

このルールのもとで、歳出の伸びの抑制や、税収の回復に伴いまして折半対象財源不足が縮小してきておりまして、令和元年度におきましては解消し、特例加算及び臨時財政対策債の新規発行はゼロとなりました。令和2年度におきましても、今年10月の消費税率引き上げの効果が通年度化することなどが見込まれておりまして、この同水準ルールのもとで臨時財政対策債の圧縮につなげていくことが重要と考えております。

続きまして、3ページ目を御覧いただければと思います。地方交付税につきましては、税収や国の制度改正など他律的な要素が大きいということから、毎年夏の概算要求時には、一定の仮定を置いた仮試算という形で地方財政計画、及び地方交付税の要求額が示されております。令和2年度の仮試算におきましては、一般財源総額が対前年度比で1兆円、消費税率引き上げに伴う社会保障の充実等を除きましても5,000億円の増加となっておりまして、一般財源総額実質同水準ルールは遵守されていない形になっております。引き続きこのルールを継続できるよう、内容を精査していくことが必要と考えております。

続きまして、4ページ目からは地方財政の課題の1点目、地方財政計画と実際の地方財政運営とのギャップについてでございます。

4ページ目は歳入面でございますが、地方税収につきましては、決算において地方財政計画に計上しました見込み額から下振れをした場合には、各自治体は減収補塡債を発行しまして、その元利償還金は全額交付税措置されることになっております。一方、税収が上振れをしました場合には、精算が行われず渡し切りになっております。4ページのグラフを御覧いただきますと、過去30年間の計画と決算の推移をお示ししておりますが、アジア通貨危機ですとか、リーマンショックなどの経済危機のもとでは税収が大きく下振れしている時期がありますけれども、中長期的には上振れ傾向にありまして、計画と決算の間には乖離があるということが見てとれるかと思います。

続きまして、5ページ目は歳出面でございます。左側の棒グラフは、最近10年間の地方財政計画におけます歳出と決算における歳出額を比較したものでありまして、赤い数字は計画額が決算額を上回っている数字でございます。決算歳出は、毎年1兆円前後、計画歳出を下回っている状況でございます。

その要因は主に2つあると考えられまして、1つは、右上の表でございますが、地方財政計画では年度途中の追加的な財政需要に対応するための歳出を計上しております。この計上額と実際の主な使用額との間で、毎年平均で2,500億円程度の乖離が生じております。2点目は、国庫補助事業についてでございまして、補助事業の地方負担分を地方財政計画の歳出として計上しておりますが、この事業そのもので毎年度、不用が生じているという状況でございます。これらの追加財政需要の未使用分や国庫補助事業の不用分は、精算が行われず渡し切りになっておりますので、この部分が決算と計画の乖離が生じる要因になっていると考えられます。

続きまして、6ページ目が基金についてでございます。当審議会でもこれまで、地方全体の基金残高が増加傾向にあることや、その背景に計画と決算の乖離がある可能性などを御指摘いただいてきております。今回は、個々の団体ごとの基金残高がどのような水準になっているのかというミクロの観点から、新たに分析をしてみたものです。地方団体におきましては、年度間の財政調整のために財政調整基金を設置しておりまして、その総額は、平成元年度は3.6兆円でございましたが、平成29年度には7.4兆円と増加しております。

左上の表は、総務省において、地方団体が財政調整基金の積み立てをする際の考え方についてアンケートを行ったものです。標準財政規模等の一定割合を積み立てるとしている団体を黄色マーカーで示しておりますが、都道府県で3割弱、市町村で2割強ございます。左下の表は、標準財政規模等の一定割合を積み立てるとしている団体が、どの程度の水準を積み立てればいいと考えているかというアンケートですが、20%以下と回答しております団体が合計すると8割以上になっております。

右側のグラフは、交付団体となっている市町村が保有する財政調整基金残高の標準財政規模に対する割合をとってみたものでございます。約6割の団体でその割合が20%を超えておりまして、20%を超える部分を合計してみますと約1.1兆円になるという状況でございます。基金の残高が増加しておりますのは、将来の景気変動ですとか、社会保障費の増加などへの備えとしまして、自治体が経営判断によって行っているものと考えておりますので、基金を積むこと自体が問題ということではないと思いますが、ただ、マクロ的には少なくとも一般財源が不足している状況でもないということは言えるかと思いますし、財政運営が厳しい団体があるとしましても、ミクロの交付税の配分に問題がないのかといったことは注意深く見ていく必要があるのではないかと考えられます。

7ページ目を御覧いただければと思いますが、いわゆる枠計上経費についてでございます。地方財政計画には、内訳や積算が明らかでない枠計上経費が存在しておりまして、かねてから財審でも、これらの経費につきまして検証可能となるように見える化を進めるべきであるという御指摘をいただいてきました。

こうした御指摘も踏まえまして、本年3月に、ソフトの地方単独事業につきまして総務省より決算内訳が示されました。これは、見える化の観点から非常に重要な一歩であると考えておりまして、評価できるものと考えられます。他方で、計画に計上されております歳出が適正かどうかという観点では、枠計上経費には積算がございませんので、なかなか評価は困難であるという点には留意が必要ですし、評価のためにはこうした取り組みを継続していくことが必要ではないかと考えられます。

3月に示されました決算を見てみますと、これは平成29年度のものでございますが、例えば公立、私立保育所等に係る上乗せ措置ですとか、私立高校助成費などが含まれておりまして、今般の幼児教育や高等教育の無償化が地方財政に与える影響を踏まえる必要がある。このほか、例えば児童への医療費助成など、各自治体において国事業への上乗せ措置が行われているものがございますが、地方財政計画に計上すべき標準的な歳出の範囲としてどこまでが適切かといった点については、引き続きよく検証していくことが必要と考えられます。

それから、8ページを御覧いただきますと、これは自治体の行政の効率化に向けた取り組みに関連しまして、地方の徴税コストについて調べてみたものでございます。

一番左の表は、国と地方の徴税コストの比較をしておりますが、地方税は国税と比べまして、取り扱う税目の違いなど、単純に比較できない面があることには留意が必要でございますけれども、地方の徴税コストは全体として国の1.7倍程度になっております。そのうち、人件費は国と地方でほぼ同程度の水準ですが、システム運営経費等が国の約2.3倍になっていることが高コストの要因になっているのではないかと思われます。

真ん中のグラフは、総務省におきまして泉大津市の税務課の業務量をサンプル調査したものですが、御覧のとおり、入力作業、確認作業、交付、通知作業などの業務負担が多くなっております。

国と地方の比較の中で、システム運営費などに大きな差が生じる要因の一つは、国のシステムは一つである一方で、地方はそれぞれの団体がばらばらのシステムを用いているということがございます。行政効率化に向けまして、総務省においても自治体行政スマートプロジェクトを進めているところでありますけれども、業務の電子化を促進するとともに、各自治体のシステムの標準化、共同化を進めまして、徴税分野を含めて行政コストの縮減を図っていくことが必要と考えられます。

9ページ目は、地方財政計画において重点課題対応分という歳出を計上していますが、この経費は平成28年度に、現下の喫緊の重点課題に対応するためということで、当面、計上することとされたものであります。このうち、自治体情報システム構造改革推進事業につきましては、自治体クラウドの推進、それから情報セキュリティ構造改革の推進を目的として計上しておりますが、その後、真ん中のグラフにございますが、自治体クラウドの導入が進展してきておりまして、効率化の効果も生じていると考えられますので、地財計画におきましてもその点について反映していくことが必要である。それから、情報セキュリティ構造改革につきましては、もともとマイナンバーの情報連携が始まる29年7月までの集中的な取り組みを念頭に置いたものでありまして、事業の進捗がピークを過ぎていることなどを踏まえまして、その効果ですとか、必要性の精査が必要ではないかと考えられます。

それから、10ページ目を御覧いただければと思いますが、地方財政計画における歳出効率化効果の反映をめぐる論点でございます。地方交付税における基準財政需要の算定に当たりましては、各地方団体における歳出の効率化を推進するという観点から、民間委託などの業務改革を実施している地方団体の経費水準を反映させる取り組みが行われております。

この取り組みによる歳出効率化分につきましては、ミクロの交付税算定には反映されておりますが、マクロの地方財政計画においては歳出効率化効果と同等の歳出を加算するという考え方のもとで、実質的な高さに影響を与えない取り扱いとなっております。これは、地方公共団体の改革意欲に配慮するということかと思います。こういった必要性はあると思いますけれども、一方で、このような歳出効率化効果の一部は財政健全化に充てていくことが必要かと思われます。仮に、何らかの歳出加算を行う場合には、それが何なのかといった内容や必要性を明らかにしていくことが必要と考えられます。こういった問題意識は、「骨太の方針2019」におきましても記述がなされているところでございます。

続きまして、公営企業改革のうち下水道についてでございますが、11ページを御覧いただければと思います。地方公営企業は、料金収入で経費を賄うことが原則とされております。一方で、繰出基準を満たす一定の経費につきましては、地方公共団体の一般会計などから負担することになっております。これは、地方財政計画におきましても、公営企業繰出金という形で計上されております。

その公益企業繰出金の中で最も大きいのが下水道事業でございまして、下水道の費用負担の基本原則は雨水公費、汚水私費とされております。他方で、左の円グラフを御覧いただきますと、汚水処理に係る費用と財源を示しておりますが、資料のうち使用料で賄われている割合は73%程度ということで、この基本原則が貫徹されているとも言えない状況でございます。

右側の棒グラフは、汚水処理に要する費用を処理区域内の人口別にあらわしたものであります。御覧のとおり、区域内の人口が多いほど汚水処理の費用は低下していきます。経費回収割合を引き上げるための一つの方法は、汚水処理に要する費用そのものを抑制することが考えられます。このためには、規模の経済を働かせることが必要でありまして、広域化、共同化への取り組みを着実に進めていくことが必要と考えられます。

最後、12ページ目でございますが、他方で各団体が汚水処理水費に見合う使用料を設定するインセンティブを働かせるためには、一般会計などからの繰り入れを抑えまして、受益と負担の対応関係を明確化させることが必要かと思われます。公費投入の主なものは、使用料が著しく高くなることを防ぐために設けられているものでありまして、具体的には分流式の下水道に対する支援ということで、環境負荷が小さい分流式の下水道の資本費が高いことを踏まえました普及促進のための公費負担とか、それから高資本費対策といいまして、建設費などが全国平均を上回る事業に対する公費負担でございます。

受益と負担の対応関係を明確化するためには、公費負担は真に必要な範囲に限定していくことが必要かと思われますが、例えば分流式下水道につきましては、真ん中の欄のとおり、現在では多くが分流管になっておりまして、公費負担の対象が全体の9割となっております。高資本費対策に対しましても、8割以上の事業が対象になっているという状況でございます。さらに、公費負担の要件として経営努力を求めるという観点から、使用料単金の月3,000円以上という基準が決められておりますが、この基準は平成18年以降、据え置かれておりまして、右側の折れ線グラフにございますが、現在では使用料の全国平均がこの要件を上回っている状況でございます。

このような状況を踏まえまして、基準外繰出はもちろんですけれども、基準内の繰出につきましても、その基準を見直していくことが必要ではないかと考えられます。

私からは以上でございます。

増田分科会長代理ありがとうございました。

それでは、今の説明について質疑等を行っていきたいと思います。では、初めに赤井委員からお願いしましょうか。よろしくお願いします。

赤井委員ありがとうございます。全体の地方財政計画のところで、幾つかコメントしたいと思います。

まず、1ページのところにありますように、令和元年度の予算では、折半対象財源不足といって、実際に必要な額と国から用意する額との間で、毎年、足りない部分を国と地方で新たに借金をしているわけですけれども、その折半対象財源不足がゼロになったということは素晴らしいことだと思います。消費税率の引上げとか、景気の影響で税収が増えているとかいうこともあると思います。来年度の予算でも、計画としてゼロになるということです。

一方で、臨時財政対策債(臨財債)が3.3兆円から3.4兆円に増えるということで、本来であれば、臨財債の残高がどんどん増えていますから、その残高を減らしていくことが重要ですけれども、増えるということなので、本当に増える必要があるのかというところで見ていかないといけないということです。

参考までに、私、この分野をちょっと研究してきたので、メモを席上に配付させていただいております。最終的に重要な点としては、右側の注意点の下に書いていますけれども、消費税率引上げの効果をきちんと、これまでの臨時財政対策債の元利償還に充てていくということで、ミクロの地方財政健全化法と連携して地方財政ガバナンスを強化していくことが将来の持続的な財政運営には重要だろう。もう一つ、折半対象財源不足のルールの中では圧縮機能が働いているわけですけれども、それ以外のところで、実際、投資的経費とかが膨らんでいるということもあるので、将来の借金を増やすことにならないように、そちらも注意していく必要があるでしょうということです。

財政健全化法の4つの指標について、それぞれの効果を少し言及しております。そういう効果も見きわめながら、将来も持続可能な健全な財政運営を行っていくべきだと思います。

以上です。

増田分科会長代理ありがとうございました。

それでは、土居委員、お願いします。

土居委員まず、資料の4ページに、計画と決算の乖離という話で、これまでの地方財政対策の経緯からすると、決算よりも税収が下振れると、その分を何らかの形で補塡するのだけれども、上振れた場合には精算されず、渡し切りになっているという非対称な状況というのは、何らかの機会を捉えて解消、改めていくべきであると思います。これまでも、財審でこの議論はなされていたわけですが、なかなか、当然ながら折半対象経費がまだ残っているからということはあるのですけれども、先ほど主計官もおっしゃられたように折半対象財源不足が解消されている状況ですし、さらには今の地方一般財源総額実質同水準ルールが2021年度までとされているということですので、次なる局面においては、しっかりとこの非対称な状態を解消するような取り組みが必要ではないかと、私は思っております。

そうはいっても、なかなか難しいということであるにしても、国の特別会計として、交付税及び譲与税配付金特別会計で、これまで借入金によって地方交付税を増額してきたという過去があり、さらに残高が現時点においても30兆円余に及んでいる。かつ、その特会借入金は、ほぼ1年未満の満期のものとして借り換えを続けている。その残高が、先ほど申し上げたように30兆円余あるということです。

確かに低金利の時代はいいのですけれども、金利が上がると、すぐに利払い費がかさんでしまうわけで、これはある種の、地方自治体からすると交付税の先食いという状態になっていますから、そういう状態はやはり地方自治体にとってもよくない。もちろん、国の特別会計でありますから、特別会計における借入金を適切に償還していただくことが極めて重要です。どこまで財審の意見が借入金の返済に反映されるかわかりませんけれども、少なくとも上振れ分を精算するまでいかないということであるならば、上振れた分がそのまま地方歳出になっていいということではなく、せめて交付税の借入金を返済する財源に充てるように繰り入れるとか、そういう工夫をすることが必要なのではないかと、私は思います。

以上です。

増田分科会長代理ありがとうございました。

それでは、河村委員、お願いします。

河村委員ご説明ありがとうございます。

私も、折半対象財源不足が減ってきて、少しずつですが、地方財政全体として健全化する方向に向かっているということは、大変いいことだと思います。臨財債についても、残高を少しずつ縮小させる方向にやっていくということが、やはり非常に重要ではないかと思います。

もう一つ申し上げたいのは、今年の予算編成についてどうのということではなくて、もう少し長い目線で見たときのことを、少しずつ考え始めたほうがいいのではないかということを申し上げたいと思います。地方一般財源総額実質同水準ルール、令和3年度までということでご説明いただいていますけれども、この先をどういうようにやっていくのかということを考えたほうがいいのではないかと思います。

地方交付税、そもそもの制度のところをいろいろ見ますと、総務省が細かく交付税の基準財政需要額を算定していくときに何を見てやっているのかを見ると、住民の数に比例する形になっているものが大半なわけです。当社でも、そういう試算を少ししておりますけれども、これからさらに厳しい人口減少に向き合わざるを得ないことが確実になっている状況ではありますけれども、その人口減少に見合うような形で、交付税の大もとの、そもそものルールに基づいて基準財政需要額を算定していけば、そんなに大きく膨れることもなく、逆に人口に比例するような形で少しずつ抑えていくことができれば、税収が減っているからといって恐れるには足らないということになるのではないかと思います。

さはさりながら、今までは地方一般財源総額実質同水準ルールということでやられてきたわけですし、これがあるからこそ、本日の資料、10ページのところですか、いろいろ歳出を効率化したところに報いるような形でという配慮も必要だとは思いますけれども、これはある意味、効率化したら本当は減るのが普通なのにも関わらず、そのまま横ばいで維持することを許してしまうことにもなりかねないわけです。やはりその一部は財政健全化に充てると主計官もおっしゃられて、本当にそのとおりだと思いますけれども、どういう形でやっていくのがいいのかということをよく考えていったほうがいいのではないかと思います。

歳出効率化であれば、市町村合併を国全体としてかなり熱心に力を入れてやった時期があって、合併の特例の加算もあったわけです。でも、それが実際、本当にどういう効率化につながったのかという検証が、正直言って国全体としてまだできていないのではないか。合併したのは、本当に効率化して地方財政全体を、人口減少を真正面から受けとめながら、それに合わせる形にアジャストしていこうという発想があったのではないかと思うのですが、そうはなっていないのではないか、検証できていないのではないか。基金のお話もありましたけれども、いろいろ検証してみると、どうも合併の交付金を受けたところに随分たくさんあるのではないか。主計官おっしゃられたとおり、基金を積み立てること自体、全く問題ないというか、やはり必要なことではあると思いますけれども、財政規模に対して結構な金額を持っていらっしゃるところもあったりして、歪みもあるかなと。そういったことについて、少し長い目線ということにはなりますが、今後、考えていったほうがいいのではないか。

あわせて、もう一つ、参考資料のほうでお書きいただいていますけれども、東京都への税収の集中が、いろいろな策がこれまで講じられてきているとは思いますけれども、まだ相当残っている状況にあります。それは、地方財政、国全体も含めた財政運営を持続可能なものとしていく中で、こんなにたくさん税収が余って、東京都の基金もものすごく積み上がっていますけれども、やはりそういう状況を放置しておいていいとは思いません。そういったところも含めて、きちんと長い目で見た検討をしていくべきではないかと思います。

以上です。

増田分科会長代理それでは、進藤委員、お願いします。

進藤委員8ページと9ページ、極めて実務的なところですけれども、一言、コメントを申し上げさせていただければと思います。

8ページに、自治体行政スマートプロジェクトの絵が描いてあります。RPAなどと書いてありますが、各自治体での業務というのは、かなり同種、あるいは共通の業務があるのではないかということでありますので、住民記録だとか、戸籍、それから国民健康保険、地方税といった、似ている業務について、やはり誰かがリーダーシップをとって、できれば国の強力な主導、指導のもとに、システムの標準化、共同化を進めていくべきだと思います。これはぜひ、ここに書いてあるとおりお願いしたいと思います。

それから、9ページですけれども、2番目の丸ですけれども、重点課題対応分ということでお金を使ったわけですけれども、情報セキュリティ構造改革の進捗がピークを過ぎていることを踏まえて、本枠の効果や必要性の精査が必要ではないか、効果を精査してもらいたいということが2つ目の意見であります。この種の問題というのは、結構お金をかけてやっても、意外とできた後、稼働率が低いというようなことが結構ある。それから、効果が思ったとおり出ていないなんていうことがあるわけですので、ここをぜひ精査していただきたいと思います。

いずれにせよ、8ページ、9ページのところは、難しい思想の話ではなくて、極めて実務的な事務処理の問題なので、計画的にしっかりやっていけば必ず効果が出ると思いますので、ぜひお願いしたいということであります。

増田分科会長代理ありがとうございました。

佐藤委員、お願いいたします。

佐藤委員ありがとうございます。

今、進藤委員からお話のあった8ページ、9ページからですけれども、まず9ページです。システムの標準化、共同化を進めるに当たっては、その前段階として業務の標準化をやらないといけないので、仕事の仕方です。自治体によって相当違うのです。一つ税を取るにしても、介護保険の認定にしても、いろいろな確認処理の仕方にしても、住民票の発行にしても、自治体によってそれぞれの業務の流れ、業務フローも全く違うので、まず、ここを共通化して、そこに共通のシステムを入れていくということが必要かと思いました。

それから、9ページ、今、どこの自治体も、クラウドとかにシステムを入れかえる時期にあると思うのです。やはりシステムを変える時期に合わせて、広域化なり、共同化を進めていくことが一つの手なので、そこは何らかの工程表があっていいかと思います。

それから、8ページに戻って徴税コストですが、地方の徴税コストが高いのはそのとおりであります。それは、やはりシステムが独自だということと、固定資産税、自動車税などは、結構、徴税コストがかかるのは滞納が多いのです。自治体で広域化して、県が主導になって広域連合をつくって、徴税、滞納整理をやっているところもあるのですが、滞納整理の部分も含めて、もう少し広域化を進めていくということがあっていいかと思いました。

それから、6ページの基金のところですが、2つあって、1つは、今回、財政調整基金を見ていますけれども、特定の目的基金のほうはやはり問題含みでありまして、多分、泉佐野市さんは特定目的のほうに意味なくかなり積み重ねていると思うのです。したがって、特定目的と言いながら、目的が曖昧なものが結構あるのです。東京都もそうです。ですから、特定目的基金の動向も調べてみることが必要かと思いました。

いずれにせよ、財政調整基金もそうですけれども、特に高いところは何で貯めているのかという使途の見通しとか、その辺を明らかにしてもらう。特に、財政力が乏しいところは、交付税があるので、実は多少税収が下がっても、制度的には交付税で面倒を見てもらえるのです。不交付団体とちょっと事情が違いますので、財政調整基金をこんなに持つ理由は何なのか、この辺は現場でヒアリングしてみたほうがいいと思いました。

それから、広域化のところについて何点かですけれども、上下水道です。今、広域化と民間委託の推進、包括的民間委託とか、コンセッションとか、このあたりの普及が上下水道で問われているのですが、その一丁目一番地は料金の適正化です。やはりコストを見える化しないと、住民の間からも、広域化、あるいは民間委託に向けたプレッシャーは起きてこない。例えば、今は経費回収率も低いです。水道もそうです。やはり一般会計からの赤字補塡というのは、基本的には上下水道、あと病院もそうだと思うのですが、こういったところについては今後減らしていく、そういう工程表もつくっていく必要があるかと思いました。

とりあえず以上です。

増田分科会長代理それでは、末澤委員ですね。お願いします。

末澤委員どうもありがとうございます。

通常、地方税収というのは、国税に1年ほど遅行いたします。昨年度の国税は4,000億円ほどの税収増になりましたので、今年の地方の状況はいいだろうと思います。来年度につきましても、消費税の平年度化を考えると、多分、今年、来年の地方税収はそこそこ充実した年度になると思うのです。そういったときでないと、なかなか改革は進まない。

先ほど土居委員もおっしゃっていましたが、決算の実績との上振れ、下振れを見ると、4ページのグラフで見ても、上振れが多いような感じがします。回数としてはですね。これは国税もそうなのですが、四、五十年で分析すると勝率は6割ぐらいあるのです。つまり、上振れのほうが多い。ただし、実績で見ると、総額を合わせると実はマイナスのほうが多い。なぜかというと、景気というのは、好景気、拡張期間のほうが長くて、縮小期間のほうが短い。ですから、結果的にならすと上振れの回数が増えるのです。一方で、ここ50年ぐらいで見ても、大体10年に1回ごと、リーマンショック、金融危機、バブル崩壊、2度のオイルショックとありまして、そこで実はもう10兆円以上の下振れが出て、国の税収の当初予算と決算を比較すると20兆円の下振れになっている。

地方はそこまでは行きませんが、そういう面で見ると、上下の部分というのは最終的にはゼロか、むしろマイナスになっているというのが実績などで、プラスが出るときはバッファーで、先ほど土居委員もおっしゃっていましたが、地方交付税特会の借入金、実は近年は前倒しの償還が進んでいまして、これは極めてよろしいことだと思うのですが、過去は相当先送りが続いた歴史もありますので、余裕があるときにそういう特会の償還等を前倒しでやって、本当に余裕がなくなったときには以前の計画に戻すと、こういった工夫が必要なのではないかと思います。

あと、6ページあたりで基金の話がございまして、このグラフで見ると率の高いところは案外小さい団体が多く、何で余るかというと、効率的にやっていただいている面もある一方、なかなか人が足りなくて、計画が実行できないというケースもあると聞いております。ちょうどこういう話というのは、前回の教育行政のときにもありましたけれども、人口減の中、小学校の規模の縮小で教員の方が相当忙しい。日本全体で見ても、今年だと、多分、日本人人口は50万人減る一方で、東京圏に10万人、人が移動していますから、地方全体で見ると60万人ぐらい減るという格好になると思うのです。東京圏含め外国人が20万人前後入って補完している面もあろうかとは思いますが。

そうすると、各団体の規模は、人口面で見ると地方はどんどん縮小していく。その中でやっていくと効率はよくないので、できれば合併ですし、合併はいろいろ問題があるとすれば広域行政ですね。いろいろなところで、上下水道も含めて広域化することで効率を上げる。その中で、人の余裕等できれば、教育行政と一緒でICT化にもっと力を入れることも可能でしょうし、地方公共団体が必ずしもやらなくてもいいところはアウトソーシング、海外でも相当、民間委託が進んでいますから、統合、広域化、ICT化、アウトソーシングですね。教育行政と一緒だと思いますが、そういったことを推進することで、住民サービスの質を落とさずに財政を健全化していくという工夫は、私はできるのではないかと思っていますので、ご検討いただきたいと思います。

以上でございます。

増田分科会長代理ありがとうございました。

質疑はここまでで、地方財政のほうを終えて、有識者のヒアリングに行きたいと思うのですが、よろしいですか。それでは、地方財政はここまでということで、続いて有識者のヒアリングのほうに移りたいと思います。

先ほど申し上げましたとおり、お二方においでいただいておりますが、初めに小塩様から、NIRAのオピニオンペーパーとして公表されております財政の長期検証について、こちらをプレゼンしていただきたいと思います。続いて山藤様から、「人生100年時代を支える財政・社会保障制度へ」についてプレゼンという形で進めていきたいと思います。なお、質疑はまとめて行いたいと思います。

それでは、小塩様、よろしくお願いします。

小塩講師一橋大学の小塩です。こういう貴重な報告の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。

本日は、NIRAから出しましたオピニオンペーパー、「整合性のある政策論議を」というペーパーの内容を簡単にご説明いたします。これから申し上げますのは、NIRAで長期の財政見通しを出しましたという話では必ずしもなくて、今、世の中にある3つの政府の試算を並べてみたときに、財政についてどういう絵が描けるのか、それから、どういう問題がその裏側で発生しているのかを浮き彫りにすることが目標です。

3つの試算と申しましたが、1つは、内閣府が今年7月に出しました中長期試算です。2番目は、昨年5月に内閣官房と3省庁が合同で出しました社会保障見通し。3番目は、これが一番新しいのですけれども、年金の財政検証です。

真ん中の社会保障見通しは、2040年までをターゲットにしているのですが、2028年から2040年の間は財政についての見通しがありません。それから、年金の財政検証は2058年までをターゲットにしております。2028年までは、内閣府の中長期試算をベースにしているのですが、それ以降は独自に試算を行っており、財政の裏づけがありません。ですから、税、社会保障、マクロ経済についていろいろな指標があるのですが、それぞれの整合性が必ずしもとれていないというのは問題だと思います。

そこで、本日は2つの問題を取り上げたいと思います。1つ目は、そういう政府試算の体系化が十分なされていない場合にどういう問題が起こるのか、特に財政の持続可能性がちゃんと担保されているのか、これをチェックします。2つ目は、少しテクニカルですが、財政の見通しをする場合における歳出の想定についてです。歳出の想定について必ずしも十分なコンセンサスは得られていないと思いますので、その想定を変えたときにどのような問題が起こるのかをチェックします。この2点を考えたいと思います。

まず、説明の都合上、2番目の問題点からご説明いたします。そこで取り上げるのは、内閣府の中長期試算です。ここでの歳出の想定ですが、社会保障以外の歳出については物価上昇率で増加していくように想定しています。そうすると、実質経済成長率分だけ絞られていくということです。これは絞り過ぎではないかという見方も当然あると思いますので、欧州委員会等が想定していますように、非社会保障支出につきましては名目GDP比を一定に置いてみたらどうなるかを考えてみます。それから、社会保障歳出につきましては、医療、介護の単価につきまして、内閣府では物価、賃金上昇率を反映させておりますが、医療、介護それぞれ違ったやり方で推計したらどうかを考えます。年金については、ここには書いていませんけれども、年金は財政検証を使います。

こういう形で、歳出の中身を少し変えてみたらどうなるかをお見せしたのが次のグラフです。中長期試算の、いわゆる成長実現ケースでは、2028年においてプライマリーバランスはGDP比0.5%の黒字になるのですが、歳出の置き方を変える、特に非社会保障支出の伸びを名目GDP成長率に合わせると、プライマリーバランスの黒字は実現できないという形になります。このように、歳出の想定で結果が大きく異なるというのが1番目のポイントです。

2番目のポイントは、問題1ですが、政府が出した各試算の体系が十分でないので、財政の持続可能性があやふやな形になっているという点を指摘させていただきます。そこで一番注目したいのは年金の財政検証です。年金の財政検証はもちろんそれ自体としては完結しているのですが、財政の持続可能性については議論が十分なされていません。そこで、年金の財政検証が想定している経済前提をそのまま採用して、歳出に関しましては先ほど申したような一定の合理的な想定を置いたときに、プライマリーバランスはしっかりと均衡していくのかをまずチェックいたしました。

それがこのグラフですが、年金の財政検証では、年金財政はしっかりとバランスしていくという非常にきれいな絵を描くことができ、年金の持続可能性は確保されているのですけれども、NIRAの試算では、政府のプライマリーバランスは赤字が拡大する形になっています。ここでは、ケースⅠ、Ⅲ、Ⅴというグラフがございますが、これはそれぞれ年金の財政検証のケースに対応したものです。そんなに大きな差はないのですが、社会保障全体の動きに左右されて、プライマリーバランスの赤字は拡大するという形になっています。ですから、年金財政はうまくいくのですが、プライマリーバランスは赤字が膨らむという形になっています。

ここには書いておりませんけれども、4省庁合意の社会保障の見通しを想定しても、これと同じような形の絵が描けます。つまり、プライマリーバランスは長期的に赤字を拡大するという姿を見せます。これが1つ目です。

もう一つは、政府の債務残高がどうなるかということです。ここで注目したいのは、年金の財政検証が想定している経済前提のうち、運用利回りと経済成長率の数字です。運用利回りにつきましては実質で2%から3%、それに対して経済成長率はゼロ%から0.9%となっております。非常に低い成長率なのに、どういうわけか運用利回りは高い。これは年金財政にとっては非常にプラスなのですが、長期金利が経済成長率を上回ると債務残高のGDPに対する比率が上昇していかないか、ということが素朴な疑問として出てきます。しかし、年金の議論ではこういう話は全然出てこないわけです。年金財政がバランスするかどうかが大事なので、政府全体の債務残高はどうなるかというのは議論の枠外になってしまいます。

ところが、長期金利につきましては年金財政検証では想定を置いておりません。ここで、ちょっと無理やりですけれども、長期金利につきましても、今までのGPIFの運用実績を踏まえまして、年金の財政検証が想定している運用利回りから2.1%ポイント差し引いたものを名目の長期金利と置きました。そのときに、果たして政府の残高がしっかりと落ちつくのかが問題点になります。

結果をお示ししたのがこれですが、2028年までは内閣府の成長実現ケースを想定しています。ここでは、金利が成長率を下回りますので落ち着きますが、それ以降は、どんなケースを想定しても、政府の債務残高のGDPに対する比率は上昇傾向を見せることになっていますので、年金はうまく回るのですが、政府債務はどんどん膨らんでいくという絵が描けるということです。

そういうように考えますと、次のようなことが結論として言えるかと思います。まず、テクニカルな問題ではあるのですが、歳出の想定をしっかりと決めておかないと、いかようにでも財政の見通しは描けるということです。これが1つ目です。2つ目は、もっと重要な点ですが、年金の財政検証は、年金は非常に安定的に推移するという非常にきれいな絵を描いているものの、その一方で政府のプライマリーバランスの赤字の拡大、それから政府債務残高の累積を、意図的には想定していないと思うのですが、暗黙のうちに想定しているという非常に深刻な状況になっているということです。ですから、財政、社会保障改革というのは体系的、整合的に議論する必要があると思います。

以上です。ありがとうございました。

増田分科会長代理どうもありがとうございました。

質疑は、まとめて後ほどということにして、続いて三菱総合研究所の山藤様からプレゼンをしていただきたいと思います。それでは、よろしくお願いします。

山藤講師三菱総合研究所の山藤でございます。どうぞよろしくお願いします。

本日は、「人生100年時代を支える財政・社会保障制度へ」と題しまして、健康長寿の延伸が財政・社会保障制度の持続可能性に与える影響を中心に、ご説明をさせていただきたいと思います。

なお、本日の資料でございますけれども、弊社のほうで、先月、リリースをさせていただきました、2050年に向けた中長期の社会経済構造「未来社会構想2050 中長期展望」という冊子からの抜粋の説明という形になってございます。

では、1枚めくっていただきまして、2ページ目でございます。まず、冒頭のページでは、豊かで持続可能な社会を実現するための改革の方向性として、弊社のほうで提案しております3つの柱をご提示させていただいております。第一の柱としては技術活用、こちらはライフサイエンスやデジタル技術を通じた健康寿命の延伸であったり、QOLの向上を指してございます。第二の柱としては地域・就労、こちらは高齢者が社会の支え手として輝くための環境整備の必要性を示してございます。そして、第三の柱は制度改革、こちらは持続可能性を高めるための社会保障制度改革ということでございます。

本日は、健康長寿延伸のインパクト、定量化を通じまして、財政、社会保障制度を持続可能なものとするためには、この3本の柱が必要になってくるというあたりをお示ししたいと思います。

3ページ目でございます。まず、第一の柱、健康寿命でございます。健康長寿は、私たちの人生の質を高める上で極めて重要な要素であって、健康長寿を増進するような技術は今後ともに歩みをとめずに進んでいくべきだと考えてございます。しかし、一方で、国民全体の健康寿命の延伸はどのようにしてもたらされていくのか。そして、それが社会保障や財政の持続可能性も含めて、どのような影響を社会経済に対して及ぼしていくのかというあたりは、データ起点でしっかりと検証していく必要があわせて出てくるだろう、というのが我々の問題意識でございます。

4ページ目でございます。では、現在、政府のほうで公表されている健康寿命がこのような役割を果たせるのかというと、なかなか厳しい状況があるだろうということでございます。現在の健康寿命は、年齢階級別の生存率と健康割合という2つの要素から算出されるサリバン法と言われる算出方法を使っているということでございます。この手法は、計測が容易というメリットがある一方で、健康、不健康をアンケートベースで2分割するあたりで、定義が主観的かつ曖昧になることに加えまして、どのような施策を講ずれば、どのように健康寿命が延伸するのか。あるいは、健康寿命延伸が社会、経済にどのような影響を及ぼしていくのかというあたり、前のページでお示ししたような関係性を明確に示すためには、適切な手法であるとは言えないというデメリットがあるかと考えております。

弊社では、今回、こうしたデメリットを補って、客観的で、アクションオリエンテッドで、かつ費用との紐づけが可能な指標ということで、「0歳時質調整生存年(QALY at birth)」という指標をご提案しているということでございます。

続きまして、5ページ目、我々の健康寿命のモデルでございますけれども、サリバン法と同じく2つの要素から計算されるということでございます。その一つは、ここでお示ししている健康状態分布でございます。サリバン法では、健康状態を健康と不健康という形で大きく2分割していると申し上げましたけれども、こちらのモデルでは、主要な24の疾患別に健康、罹患、死亡という3状態、及び高血圧、糖尿病、認知症の3疾患については、それに重症化というステータスを加えた4状態の間での遷移確率を求めると。これらを合成することで、右側にグラフがございますけれども、ゼロ歳から115歳までの健康状態、疾患への罹患状況分布を推計するということをやってございます。

こちらで重要なところは、右の健康状態分布を求めるに当たって、左にありますような健康状態間の遷移確率というものをベースにすることによって、例えばこの疾患の死亡率がどれだけ下がれば健康寿命がどれだけ上がるのか、というあたりの関係性を定量化することができるということになってございます。

続きまして、もう一つの要素でございますけれども、健康状態別のQOL値ということでございます。QOL値とは、健康度合いをゼロ%から100%であらわした指標で、ゼロ%を死亡状態、100%を完全に健康な状態という形で定義された指標でございます。今回の分析におきましては、各健康状態に適用するQOL値として、日本語版のEQ-5D-5Lという指標を使用しております。こちらは、先行研究から疾患と年齢に対応するQOL値を求めて、各健康状態の分布に適用するということをやってございます。

下のグラフ、左側が主要疾患別QOL値でございます。これに、右側の加齢に応じたQOL値の変化を掛け合わせることによって、年齢別、主要疾患別のQOL値を求めて、先ほどの健康状態分布に適用するというようなことをやってございます。

続いて、7ページ目でございます。以上の2つの構成要素から、健康寿命に当たる0歳児QALYというものを計算してございます。こちらにございますとおり、先ほどの2つの要素を掛け合わせることによって、グラフのオレンジの曲線が描かれると。このオレンジ色の曲線の下の面積が、いわゆるQALYに当たるということです。こうした形で、2015年時点での指標に基づいてQALYを求めた結果が、下の赤い字で書かれているとおり、健康寿命は73.1歳ということで、これは単純に生存率から求めた平均寿命83.2歳から約10歳下回る数字になって出てくるということが、2015年のデータとして確認できております。

こちら、御覧になっていただくとおり、健康寿命の延伸というのは、通常、シニア世代での健康増進というイメージを持っていらっしゃるかと思いますけれども、あらゆる世代、若年層であれ、ミドル層であれ、各世代における健康増進の試みがQALY延伸、健康寿命延伸につながるのだということが1点、挙げられます。もう一つは、死亡率、罹患率を下げるということも重要な要素でございますけれども、それに加えて、罹患したときのQOLを下げない努力をする、あるいは技術でもって解決するというあたり、「病とともに生きる」と書いておりますけれども、そういった視点も重要になってくるだろうということでございます。

続きまして、費用との紐づけということで、今回のモデルの一つのポイントとしては費用との紐づけが可能になってくると。御覧になっていただくとおり、疾患別・年齢区分別の医療給付費、あとは医療種類別で分けた形の医療給付費を今回のモデルに適用するということをやってございます。そうすることによって、年齢別、疾患別、あるいは医療種類、これは入院、入院外、調剤別の1人当たりの医療費、介護費というあたりを定量化できると。これに対して一定のシナリオを設けることによって、2050年に向けた形の医療費はどうなるかというあたりのシミュレーションを実施することが可能になってございます。

9ページ目でございます。将来シナリオの想定ということで、こちらから先、2050年に向けての医療、介護費はどうなるか。このモデルに基づいてシナリオを想定して、試算をするということでございます。

細かなご説明は割愛させていただきますけれども、こちらにあります死亡率から1人当たり医療・介護費を、基本的には過去のデータのトレンドを参考にする形で2050年まで延ばすということ。あと、罹患時QOL値につきましては、先ほど申し上げましたEQ-5D-5Lベースの1レベルのQOL値の向上があることを想定しまして、2050年時点での医療・介護費を試算しております。

試算結果は、続く10ページ目でございます。まず、健康アウトカムの指標はどうなったかというあたりでございますけれども、左側が主要疾患別の粗死亡率の推移ということで、主要な疾患については死亡率、罹患率、下落していくという想定を置いていますので下がっていく。一方で、老衰のほうは、ニュートラルな形で値を置いていますけれども、そうすると、しわ寄せが来る形で老衰による粗死亡率が上がっていくという結果が得られております。

それに対応する平均寿命・健康寿命の試算結果が右側でございます。こちらに基づくと、2050年にかけて、平均寿命は5.3歳の延伸に対して、健康寿命は6.9歳の延伸ということで、相対的にはピンピンコロリの状況が実現できているというような試算結果になってございます。

続きまして、金額ベースの話、医療・介護給付の増加ということでございますけれども、こちらのグラフは公費負担分という形で医療・介護給付の見通しを掲載させていただいております。結果としては、1人当たりのコスト増が非常にはねてくるという結果が反映されてございまして、現状延長ケース、健康寿命延伸ケースそれぞれにおいて、結果的には医療給付、介護給付ともに増加するというような試算結果が得られてございます。

続きまして、第二の柱、地域・就労という部分でございます。先ほどまでの健康寿命のモデルに基づいて健康寿命が延伸するのに対して、就労率がどれだけ上がるか、あるいは、それに伴って税収がどれだけ増加するか、といった点を試算してございます。こちらの試算では、最大限の就労増を見込むという前提がベースになっているのですけれども、まずは潜在的な社会参加率がどれだけ延伸、拡大するかということを試算してございます。

左側のグラフが潜在的な社会参加率の増ということでございますけれども、これに一定の割合を掛けて就労率の増加を見込んでいるということでございます。シニア層が実際にどれぐらい就労を選択するかというあたりは、正直、なかなか見込みがたいところがございますけれども、仮に最大限、就業・所得増が実現した場合には、お示ししているとおり、最大で5.3兆円の税収増につながる可能性があるという試算結果になってございます。

次の13ページ目でございますけれども、弊社の試算における就業・所得増の考え方ということで、ここでは考えらえれる最大の効果を見込んだ数値となっております。横軸では健康寿命延伸に伴う就業人口の増加を見込む一方で、縦軸では既存の就労者も含めて、健康年齢が若返ることに伴う賃金水準のアップを見込みまして、税収増の試算を行っているということでございます。そういった形で、最大限で見込んだ結果が5.3兆円の税収増という形になっております。

続きまして、最後の第三の柱でございます。社会保障制度改革なくして持続性は確保できずということで、これは2050年時点でのプライマリーバランスの収支の変化と、その内訳を書いてございます。第一の柱、健康寿命延伸に伴うネットの支出増、青色の矢印が下にございますけれども、10.7兆円の費用拡大、赤字幅の増加。それに対して、先ほどの5.3兆円の就業・所得増に伴う税収増。それらをネットで考えても、プライマリーバランスの黒字は確保できない、むしろ赤字幅が拡大するという中で、やはり社会保障制度改革が必要になってこようということでございます。

今回の試算における社会保障制度改革につきましては、既に審議会にてご議論いただいている主要なポイントを右下のほうに掲載させていただいておりますけれども、それらを主とした制度改革を足し上げているということで、2050年価格で合計10.6兆円のプラスの効果ということでございますけれども、それを行った上でも持続可能性は十分に確保できないという試算結果を得てございます。

15ページ目でございますけれども、こちらは審議会のほうでご議論いただいていない、スコープから外れているような改革案ということで、一部簡単にご紹介させていただきます。軽度疾病は保険適用免除で公費負担を削減とございますけれども、グラフ左側、現行の自己負担の比率という形で、基本的には年齢ベースで2割、3割、2割、1割という形で負担が来ているものを、右側のイメージでございますけれども、疾病の軽重に応じた形で自己負担比率を変えるというような形に変えた場合、これはグラフに書いておりませんけれども、最大で2.4兆円の効果が2050年価格で得られるということでございます。

このあたり、足元の、まずもって3割の自己負担率を全世代において実現するということが大前提の施策でございますけれども、あえて原理原則にのっとった形の制度改革ということで掲載をさせていただいております。

最後の2ページ、プライマリーバランス及び債務残高のGDP比ということでございますけれども、結果として2025年にかけてプライマリーバランス、これは改革を全て実行、実現されたとしても、赤字を埋めるためには追加的な措置が必要になるというような結果が得られてございます。

続きまして、債務残高の名目GDP比でございます。こちらも、先ほどの改革、第一の柱から第三の柱、全て盛り込んだ形で、2050年にかけての債務残高を計算してございますけれども、金利がゼロ%上昇ケースという一番低い設定でございましても、2050年時点での対GDP比、名目GDPは230%近傍、かつ金利の見通しによっては、さらに発散するような形で拡大していくという試算結果が得られてございます。

非常に雑駁ではございましたけれども、説明は以上でございます。ご清聴ありがとうございました。

増田分科会長代理ありがとうございました。

これから質疑ということにしたいと思います。お二方に共通して聞かれることもあるかと思いますが、どちらか個別の質問ということであれば、小塩様か、山藤様か、どちらへの質問かということをおっしゃっていただいて、それでお話をいただければと思います。

それでは、土居委員からお願いしましょうか。土居委員、お願いします。

土居委員お二方のご説明、どうもありがとうございました。この審議会の議論を活性化する意味で大変重要なご発表だったと思います。

私は、小塩先生のNIRAの推計に関連するところで1点コメント、それから三菱総研の山藤様のご発表に対して1点質問がございます。

1点目は、NIRAの分析は大変重要な議論だと思います。もちろん、政府に整合性のある長期推計がないという問題点は極めて重要な指摘ですけれども、もう一つ、ここから得られる大きな示唆は、今後、2025年までという視野で見たときに、先ほど推計されたように物価上昇率ではなくて、名目GDP比一定という形で社会保障以外の経費を伸ばすというか、そういう形で歳出を計上することになった場合には、財政収支が大幅に悪化するという示唆だったということであります。

これまで、経済・財政再生計画等では、社会保障支出以外、社会保障費以外のものは基本的にはほとんど増やさないと、国の予算ですね。そういう形で予算編成がなされてきたということは、むしろNIRAで推計されたよりもっと低い伸び率に抑え込んでいた、歳出抑制をうまくきかせていたということだった。その対照を見ますと、やはり今後も物価上昇率とか、名目GDP比率を一定にするというような形で歳出を増やしてしまうと、収支を悪化させるということだから、やはりこれまでの歳出改革の目安で置いてきたような形で歳出を抑制することを引き続き継続していくことが重要だという示唆が、私はNIRAのオピニオンペーパーから得られるのではないかと思います。これが、まず1点目のコメント。

2点目は質問ですけれども、山藤様の資料の11ページにあります健康寿命の延伸は医療・介護給付の増加を伴うと、これは極めて重要な示唆だと思います。これまでも、予防医療に努めれば医療費は削減できるのではないかという話に対しては、必ずしもそうではないのではないかという議論も、財審ではさせていただいたところであります。この11ページの現状延長ケースと、健康寿命延伸ケースとの差がどういうところから生じているのか、もう少し詳しくお聞かせいただきたいと思うわけです。10ページの粗死亡率の予測値から類推すると、より長生きするけれども、最後の死因は老衰ということは、必ずしも重篤な病気にはかからないけれども、軽度疾病にかかって、生きている間にはそれなりに医療費が必要になるということかなと思うのですけれども、軽度疾病にはそれなりに医療費がかかって、人生、長く、少しずつ医療費を使っていくというようなことが積もると、11ページのような結果になるのかなと。

そう考えますと、15ページの軽度疾病に対する保険適用という話は、これとリンクして考えると極めて重要なポイントになってきて、これはあくまでも現行の自己負担に対して、軽度疾病の保険免責を加えたらこういう数字になるということではあると思うのですけれども、健康寿命延伸と連動させると、やはり軽度疾病に対する保険適用をどうするのかということもあわせて考えないといけないと思うのですが、どうして増えたのかというところについてお聞かせいただきたいと思います。

増田分科会長代理ありがとうございます。

そうしたら、小塩様に対しては御意見という理解で、山藤様に対しては御質問ということですので、山藤様、お答えいただけますか。

山藤講師ありがとうございます。お答えさせていただきたいと思います。

ページで言うと9ページ、やや細かな字が並んでおりますけれども、将来シナリオの推定というところを御覧になっていただければと思います。左、現状延長ケースと、右、健康寿命延伸ケースのシナリオの違いを書かせていただいております。

まず、健康アウトカムに係る違いというあたりでございますけれども、現状延長ケースにつきましては、基本的に公的な人口推計における出生中位・死亡中位の人口を実現するような形で、疾病別の死亡率、罹患率を調整していくというパラメーターを設定しています。それに対して、健康寿命延伸ケースについては、同じく公的な人口推計でございますけれども、出生中位・死亡低位の人口が実現するような形で、健康アウトカムを調整するというパラメーターを想定しているという形でございます。

一方で、費用に関する想定でございますけれども、一番下、1人当たりの医療・介護費のところでございますけれども、基本的には過去の医療費、介護費、1人当たりの医療費、介護費の増加率の平均値をベースとしてございます。ですので、基本的には過去の推移を延長させる形で医療費、介護費は増える。ただ、現状延長ケースと健康寿命延伸ケースで健康アウトカムに違いが出てくる、当然、健康寿命延伸ケースのほうが健康になるということでございますので、健康アウトカムの増進ぐあいの比率をとりまして、その上昇分だけは価格に転嫁されるであろうと見込んでいるのが健康長寿延伸ケースにおける1人当たりの医療・介護費の想定となってございます。これが違いになってくるということでございます。

この健康アウトカムの違いと、費用に関する想定の違いというあたりを両方で、プラスマイナスが出てくるという話になりますけれども、あわせ見た結果が先ほどの11ページ目の推計結果になってくるということでございます。これは、ダウンサイドとアップサイドと両方の要素がございますけれども、1つは、より健康になることによって患者数が減ったり、あるいはトータル、生涯ベースでは変わらないですけれども、いっときを見た場合には死亡者が減ることも出てくるというあたりは、要介護者につきましても下がる効果がございますので、医療費、介護費を下げるという効果がございます。一方で、先ほど想定させていただいた1人当たりの費用に係る想定を上乗せして考えると、御覧になっていただくような形の、むしろ健康寿命延伸ケースのほうが費用的にはかかってしまうという推計結果、試算結果が得られたということでございます。

ややこしいですけれども、説明は以上になります。

増田分科会長代理ありがとうございました。

それでは、宮島委員、お願いします。

宮島委員ありがとうございます。

まず、小塩先生には質問ですけれども、かねてよりこの審議会でもお話があったように、金利が逆転するところの政府のちゃんとした試算がないこととか、もっと言うと、私たちは取材などをしていて、そもそも政府の中の統計を出す方々の姿勢に信頼性がない部分があると思っております。やはりデータに信頼性がないと、そもそもの財政の議論は全然前に進まないのではないかと思うのですが、小塩先生としては、ちゃんと信頼性を持ってやっていくためには、どういった形、あるいは、どういった方々の研究を、どのような形で束ねるような、組織とか、そういうものが望ましいと思われるかということを伺えればと思います。

あと、山藤様のほうは感想になるのですけれども、昨年、財審でいろいろな議論があって、予防を進めるのはいいけれども、これがあるからといって医療費が減ると思うのはまずいということはお話があったのですけれども、ご研究によりますと、やはり長生きすると増えるということを覚悟しなければいけないのだと思います。

ここで、アウトプットを財審が間違えると、財審が長生きをとめているような形に聞こえかねないので、アウトプットの仕方はすごく気をつけるべきですし、今、進めようとされている予防医療とか、そういうことはQOLの高い、いい老後のためには非常に必要だと思うので、それはしっかりと進めるという姿勢を保った上で、やはり人間、長く生きると、国に対してはそれなりに負担をかけてしまうのだということを国民の方にもわかっていただいて、それは自分がかなり頑張っても、自己責任を超えて長生きするということはそういうことなのだと思っていただいて、国民の方たちにもわりと早い時期から、あるいは高齢者になっても、自分のできる限りにおいての負担の在り方を考えていただければいいのではないかと思いました。

ありがとうございました。

増田分科会長代理ありがとうございました。

後段は、建議等のときの御意見ということで、前段について、小塩様、いかがでしょうか。

小塩講師宮島委員、貴重な御意見、どうもありがとうございます。

私たちも金利が欲しいと思ったのですが、年金の財政検証に金利はないです。なぜないかというと、年金の財政検証に金利は必要でないからです。運用利回りさえあればよいということです。その一方で、財政にとっては、金利は非常に重要な変数です。ですから、こういう試算は、できたら政府から独立してやればいいのですが、それが難しい場合は、やはりいろいろな省庁が、いろいろな角度から数字を持ち寄って議論するということが最低限必要ではないかと思います。特に、社会保障については財政と一緒に議論していただかないと、非常にミスリーディングなことが起こると思います。

それから、本日は金利について大まかな見通しを立てましたが、これが正しいという保証は全くありません。見通しは必ず外れると思います。むしろ必要なのは、いろいろなシナリオを立てて、どういうシナリオだったら今の制度が持続できるのかという、ロバストネスチェックというのもあわせてすることだと思います。

以上です。

増田分科会長代理ありがとうございました。

それでは、赤井委員、お願いします。

赤井委員まず、小塩先生のほうに意見と、山藤様のほうに質問ですけれども、今、まさに議論になったところで、定期的に、あらゆる政府が出している想定を検証するような仕組みとか、もちろん独立機関があればいいですし、そうでなくても、毎年毎年チェックをするというような仕組みづくりを、ぜひ政府のほうでも検討していただきたいと思います。

それから、三菱総研の山藤様のほうですけれども、健康寿命は予防と同じで、将来的には政府の費用がかかるということで、表にも出ていましたけれども、長生きをすると働く人が増えると。80歳で50%と出ていましたかね。それがどこまで実現するかわかりませんけれども、働くといっても、やはり70歳、80歳ぐらいだと消費に比べて所得は少なくなると思いますし、長生きすると消費も増えるわけですから、そういう意味では、例えば若いときから全体を通じて、1年当たりで見たときの消費水準がどのぐらい下がるのか。下がっても長生きできるので、全体としての幸せは増えていると考えないと、寿命がいいとはならないと思うのですけれども、ライフサイクルで見たときに健康寿命でかかる、政府の費用はもちろんかかるわけですけれども、個人でかかる費用と所得の関係みたいなことがもしわかれば教えてください。

以上です。

増田分科会長代理それでは、これは山藤様ですね。お願いします。

山藤講師お答えいたします。

12ページ、第二の柱として書かせていただいている就労の部分でございます。御指摘いただいたとおり、これだけの就業率が実現するかどうかというあたりは、正直、我々もなかなかわからないということです。一つ参考的な情報としてありますのは、高齢者に対する就業意欲に係るアンケートに基づいて、高齢者においては約半数が就労を希望しているという形の材料がございましたので、80代は健康参加率に対して50%が就労を選ぶという想定を置いています。あるいは、2050年においては、約10年若返ると、10年前の就労率にほぼほぼ匹敵する形での就労が実現するのではなかろうかと。ある意味、希望的な観測も含めて、我々のほうで最大限に就労した場合にどうなのだというあたり、これは冒頭に申し上げました、今回「未来社会構想2050」という、2050年にかけて明るい展望を我々としても描きたいという中の一環という形で書かせていただいている部分もございますので、そういったあたりをお含みいただければということでございます。

あと、シニア世代において健康で長生きすると、一方で所得と消費のバランスが崩れてくるのではなかろうかという御指摘がございましたけれども、今回の試算においては、消費状況がどうなるのかという細かな数字、試算は出しておらずに来ておりますので、宿題として捉えていきたいと考えてございます。

ありがとうございます。

増田分科会長代理ありがとうございました。

それでは、大槻委員、どうぞ。

大槻委員小塩先生には一言お礼と感想、それから山藤様に御質問ということでお願いしたいと思います。

小塩先生、ありがとうございました。政府の検証のそのまた検証というインディペンデントな形での御意見をいただく機会、これからも事務方の皆さんにもぜひこういったことを継続的に進めていただければと思った次第です。

そして、山藤様への御質問ですけれども、ちょっと細かくて恐縮ですが、14ページ目にいただいたサマリーのところの、持続性は確保できずというページです。ここで、行政機能のデジタル化という、結構大きな数字を挙げていただいていることの中身をざっくりと教えていただければというのが1点。それから、おそらくこういった数字は、実際に試算されるときにはかなりのレンジで考えられて、その中の中央値として、中央的な試算として置いていらっしゃると思うのですが、レンジはどれぐらいだと思われているのでしょうか。どちら側に寄っているのか、参考までに教えていただければと思います。

よろしくお願いします。

増田分科会長代理それでは、山藤様、お願いします。

山藤講師ありがとうございます。

行政の効率化、行政機能のデジタル化に係るプラスの要素という形で、かなり6.6兆円と大きな金額を見込んでいるということでございます。これは、すみません、先ほどのご説明のほうでは割愛をさせていただいたのですけれども、今回「未来社会構想2050」、原本のほうで将来に向けた社会保障であるとか、財政に対するインパクトというあたりをかなり幅広に試算しているところがございまして、その中の一環として、行政の効率化という項目のもとで、行政機能のデジタル化に係る削減規模というものを試算してございます。

ざっくり申し上げますと、政府の既存の公表数値の、2050年にかけて行政コストの2割程度がデジタル化の効果という規制改革推進会議における想定をベースにして、2050年にかけて2割程度が行政コストの中から削減可能であろうと見込みまして、その結果が2050年の価格において6.6兆円という規模になっているということでございます。

あと、レンジに関する御質問をいただいておりますけれども、これは健康寿命の延伸を含めて、先ほどの小塩先生のお話にもありましたけれども、将来、どう実現するかというあたりは、非常に幅を持って見ないといけないということだと認識してございます。今回の試算においては、いわゆる平均的な姿という形で、特に統計的に幅を持たせる等の措置は講じていないということで、出している数字の中では、今、ご紹介した数字のみになってしまうということでございます。

増田分科会長代理ありがとうございました。

それでは、木村委員、お願いします。

木村委員ご説明ありがとうございました。

小塩先生のご示唆は、特に政府の3試算を整合性に関して分析されて、すごく重要なもので、私も大変勉強になりました。ここでおっしゃっている、年金財政は持続するけれども、プライマリーバランスの赤字が拡大するということで、中央官庁はどうしても自分たちの、言葉はよくないですけれども、都合のいいような解釈で数字とか、指標を出してくる傾向があるので、そうした矛盾を御指摘されたということで、すごく重要だと思います。財政と社会保障は、やはり一体として議論しなければならないということはよくわかっているのですが、こうやって試算を出してくれると、そうした一体の試算の重要性がよりはっきりわかったということで大変勉強になりました。政府が統一して試算したり、外部の独立した機関が試算を出したりするということが、これからの課題になると受けとめています。

それから、山藤様の、健康寿命の延伸は医療、介護、給付の増加を伴うというご示唆も、これまでよくそういうようなことは言われていたのですけれども、そういうことをデータとして裏づけられたということで、非常に貴重な話だと伺いました。そこで、これは私の理解不足かもしれませんので、ちょっと教えてほしいのですけれども、11ページの医療、介護給付の公費負担分の見通しについて、現状延長ケースより健康寿命延伸ケースのほうがかなり増えるのですけれども、それはどういう積算根拠があるのか、簡単にわかりやすく教えていただければと思っています。

以上です。

増田分科会長代理それでは、山藤様、お願いします。

山藤講師ありがとうございます。

基本的には、先ほどご説明させていただいたとおり、1人当たりのコスト増と、健康アウトカムの増進に伴う医療・介護費の削減と、そのあたりがネットで考えてどうなのかという形で試算した結果がこちらになってございます。このあたり、想定を置く際に、基本的には過去の増加率等を参考にして伸ばしているという形になってございますけれども、正直、24疾患区分別という形で、かなり細かに疾患別の結果があらわせるような仕組みになっています。とはいえ、伸ばすときには、各疾患別の過去の推移に対する掛け目を掛けるという形の操作になるのですけれども、今、ざっくり一律の掛け目を掛けざるを得ない。これは、個別の技術、医療技術等がどう進展するのか、それがいつ普及して、どういう効果を発生させるのかというあたりはなかなか見込めないという中で、まずはオーソドックスな試算を出すことが重要だろうということで、させていただいたような試算結果になってございます。

簡単でございますけれども、以上でございます。

増田分科会長代理それでは、末澤委員、お願いします。

末澤委員ありがとうございます。

すみません、もう一度、今のところ、11ページのグラフについてちょっとお伺いしたいのですが、単純化して御質問させていただきますが、現状延長ケースよりも健康寿命延伸ケースのコストが増えるというのは、要は健康寿命を延ばすための施策のコストが増えることによるものか、平均寿命が延びることによって増えることなのか、どちらでしょうか。ないしは、その両方なのでしょうかということを、まず1点、御質問したいのですが。

増田分科会長代理では、山藤様お願いします。

山藤講師ありがとうございます。

結論から申し上げると、両方あるだろうということでございます。健康寿命が延びるということは、基本的には寿命が延びることになりますので、その間、疾患にさらされるリスクもあわせて上がるというような効果も出てくる。このあたりは、健康アウトカム的に罹患率が下がるという効果がある一方で、寿命が長くなった分だけ他の疾患に係るリスクが増えるというバランスも、また出てくるということがある。その中で、疾患のリスクが増えることでコストがアップする効果も出てくるというあたりは追加をさせていただきたいと思います。それと、先ほどおっしゃっていただいた各疾患の治療に係る1人当たりのコストが上がるという形、これは単純に医療費を増加させる効果を持つということでございます。

増田分科会長代理末澤委員、お願いします。

末澤委員すみません、単年度だとコストは増えるのでしょうか、減るのでしょうか。1人当たりという意味です。つまり、寿命が延びる分、期間が延びる一方で、健康寿命を延ばす施策のコストというのは単年度の話なので、減る分もあると思うのですが、ネットでこれは増えるのか、減るのかということです。

 

山藤講師11ページ目の結果は、2050年単年の医療・介護費の状況ということでございます。単年度で切り出してみた場合には、先ほど申し上げた疾患率、罹患率、死亡率が下がるということで、単年で見た場合の死亡者数、患者数は下がる可能性がある。そういうところでは医療費を削減する効果もございます。一方で、その間の1人当たりの医療コストの増加があるということで、そちらは膨らむ。結果、2050年単年の姿は、今、お見せしておりますけれども、結果としては費用が上がるという効果が勝る形で、医療・介護費の金額を上げると。

末澤委員この段階では、平均寿命は相当延びているわけですよね。

山藤講師はい。

末澤委員私、平均寿命が延びることによってコストが増えるのはしようがないと思うのですが、健康寿命を延ばすためのコストが従来よりも余計にかかると、これはまたいろいろ議論の余地はあると思い、そこをちょっとお伺いしました。

あと、お二方にお伺いしたいのですが、どちらの御意見もお伺いすると、どちらかというと歳出は増加圧力がかかりやすい。そうしたときに、いろいろ歳出削減の社会保障制度の見直しもありましたが、例えば15ページでご提案いただいたような内容で、これをぱっと見ると、やはり若年層、現役世代の負担がちょっと大きくなって、わりと高齢者に負担を増やすような姿にも見えると思うのです。そうすると、私は、健康寿命はぜひ延ばすべきだと思うのですが、要は今、若年層の人数がどんどん減る中で、平均寿命が延びることは極めてすばらしいのですが、高齢層が仮に延びていくと、人口ピラミッドのつぼ型がもっと頭でっかちになって、それ自身が財政、また社会保障制度の持続可能性を相当脆弱化させると思うのです。

それで、お二方にお伺いしたいのは、では歳入の増加策として何かご提案があるか。例えば、やはり少子化対策を相当やらないといけないと思うのですが、増税だとどういうものがいいとか、あと自然増を実現する政策があるのか。本当にお時間が短い中でご説明いただければ、お伺いしたいと思います。

増田分科会長代理それでは、この点は小塩様と山藤様とそれぞれ。

小塩講師貴重な御質問ありがとうございます。

今回、私たちNIRAでやった試算では、歳入とか税収は名目GDPに比例的に上昇する、つまり、いわゆる租税弾性値は1という想定を置いております。それでは、なかなか財政健全化が進まないということは当然、言えると思います。その場合、どうしたらいいかということですが、本日、山藤さんのお話にもあったように、健康長寿を延ばすのも重要だと思うのですが、できるだけ健康になった高齢者の方に働いていただくことが重要ではないかと思います。世の中で、支える人が減って、支えられる人が増えているのが高齢化だとしますと、その圧力に対抗するためには、支える人を増やして、支えられる人を減らすことが必要だと思います。もっと具体的に言うと、60歳代後半の就業率をいろいろな方策で高めて、そういう方たちに税金を納めてもらう、あるいは保険料を納めてもらうというような方策が重要ではないかと思っています。

増田分科会長代理それでは、山藤様、お願いします。

山藤講師御質問ありがとうございます。

大きく2つあるかと思っております。1つ目は、小塩先生に御指摘いただいたとおり、健康寿命延伸を果実として就労につなげていただくという形を、これは地域も含めた環境整備をいかに進めるかというあたりも含めて、進めていかないといけないということだと思います。これは、一律、高齢者に働けということでなくて、健康であって働けるのであれば、年齢見合いで見るのではなく、働ける人が働いて、稼ぐ人が稼ぐ。税収については、その分、拡大をするという形の循環に持っていくべきだろうということが我々の立ち位置でございます。

もう一つは、それでもどうしても立ち行かないというあたり、これはプライマリーバランスの関係で16ページ目でもお示ししておりますけれども、そこで足りない場合には消費税率引上げ等の財政措置が必要になってこようと。このあたりは、組み合わせで考えていく必要があるのではなかろうかということでございます。ありがとうございます。

増田分科会長代理ありがとうございました。

それでは、冨田委員、お願いします。

冨田委員ありがとうございます。

小塩先生に質問させていただきます。政府の試算を3つ並べて、試算期間の違いから、それぞれ総合すると問題があるという御指摘でありました。そのときに、長期金利について、長期金利と名目経済成長率は財政の試算において最もクルーシャルな変数なわけです。もちろん、歳出のGDP比もそうですが。その想定ですけれども、運用利回りから2.1%引くと。それから、名目GDPについては、多分、デフレーターを想定されていて、物価上昇率マイナス0.2%と想定されていると思うのですけれども、それでよろしいでしょうか。まず、確認です。

増田分科会長代理小塩様、お願いします。

小塩講師それでいいかどうかちょっと自信がないのですが、とりあえずの根拠は、厚生労働省が経済前提で数字を出しているときに使っているパラメーターを使ったということです。それが正しいかどうか、ちょっとわかりません。

冨田委員その上で御質問したいのは、試算期間の違いもさることながら、結局はその2つの試算が決定的に重要だと考えている変数が違って、全体としての経済像が描けていないところに、私、問題があると思います。年金は、実質賃金が一番クルーシャルな変数であって、あとマイナーですけれども、運用利回り、実質運用利回り、それと既裁定者の年金の毎年の改定のための物価上昇率、この3つは公表しています。

参考として、厚生労働省は実質経済成長率を出している。そのほかにも、参考として利潤率も出しているし、GDP比の総投資比率も出しているので、多分、内部には名目経済成長率も出していると思うのですが、出していただけない。運用利回りも、基本的に運用利回りを考えるときのベースはリスクフリーの国債の金利です。長期金利をベースにして、リスクプレミアムをどれだけとって、分散効果をどれだけ描いているかということで出ているはずなので、多分、持っておられると思うのです。

それはそれとして、私が問題だと思うのは、年金の財政検証においてコブ・ダグラス型の生産関数を置いていることにあると思います。その結果、過去20年間の実質賃金は、年平均でマイナス0.7%です。それが一転、向こう100年間、年平均で、一番低いケースでプラス0.4%、高いケースで1.6%です。実際賃金の上昇率がプラスになるような想定が、やはり年金問題を覆い隠してしまっている。もし、過去20年と同じようにマイナスのトレンドが続くとすれば、あそこに書いてあるような見通しとは全く違った、さらに厳しいものになるのです。50%を保証するということであれば、当然、財政にもそれが波及してくると思います。

何を申し上げたいかというと、財政は主に名目経済成長率と長期金利、年金は今、申し上げた3つの変数で、ばらばらなので、それらの諸変数を全体として検討するというようなことをしないと、今、申し上げたように、深刻な問題を覆い隠すような労働分配率一定、それを前提にすれば実質賃金がプラスになるのは明らかです。私は、それが今回の一番大きな問題、この試算を比較した場合の覆い隠された問題だと思うのですが、その点、専門家の小塩先生、いかがお考えかということをお伺いしたい。

増田分科会長代理それでは、小塩様、お願いします。

小塩講師これは、年金の財政検証が果たしてちゃんとやっているかどうかという、私の今回のプレゼンテーションの枠をちょっと超えてしまうテーマかもしれないですが、冨田委員がおっしゃるように、ちょっと無理があるところです。特に、コブ・ダグラス型の生産関数を想定するということで、経済成長は、人口増加率が低くなっても実質賃金率は高くなる。金利は、現時点ではマクロの想定と一旦切り離したような形で世の中に出ています。となると、一応、マクロ経済という前提はあるものの、本当にそれがしっかりとした前提なのかということは、再検討する必要があると思います。年金は、あくまでもマクロ経済の一部ですので、議論をする場合は、マクロ経済に関する整合的な、あるいは説得力のある将来像を描いた上で年金はどうなるかという議論をしないといけないので、そこはもう少し改善の余地があると思っております。

増田分科会長代理それでは、次、堀委員、お願いします。

堀委員お二方の発表、ありがとうございます。どちらも示唆のあるもので、非常に勉強になりました。

まず、小塩先生に質問です。山藤様の話にも関係するかもしれないのですが、ほかの委員の方もおっしゃっていましたが、年金財政のバランスはとれるけれども、プライマリーバランスで見るときには問題があって、拡大するというのは御指摘のとおりかと思ったのですが、年金以外でも、医療とか、介護とかでも同じように試算をされているのか、もしされていたとしたらどうなのか、後で教えていただければと思います。

それから、山藤様に関しては、健康寿命が主観的なものでKPIとしてなっていないというのは、まさに私自身も思っていることであります。今、政府のほうで、2040年までに3歳以上、健康寿命の延伸をするという目標があげられています。目標を掲げることそのものはよいと思うのですが、目標となる健康寿命の指標が、そもそも科学的にエビデンスがあるものなのか。あるいは、国際的にも比較可能なのかということを考えますと、今の指標に限界があると思います。今回の発表では、国際的に標準化された指標であるQALYであるとか、EQ-5D-5Lを使っていらっしゃるので、研究として見たときには比較が可能なので、そういう意味でも一つの示唆があるものではないかと思っております。

そこで、質問としては、今回、出されたQALY at birthというものがKPIになり得るかどうかということです。それから、この指標を使って長期推計をした結果、給付増になるというのは、医療経済学においても、費用対効果でみると、予防の医療費削減効果は高くないと言われていますので、その結果と一緒かとは思います。かけた費用というのはどこを見ればわかりますでしょうか。例えば健康寿命延伸のためにいろいろな健康診断であるとか、あるいは保険者、自治体の健康増進づくりであるとか、いろいろなものがあると思うのです。それが、最初の因果関係のモデル、この図の中でどういうように反映されているのか、もしわかれば教えていただきたいと思います。

なお、健康寿命の延伸自身は、私は支え手を増やすという意味でも非常に重要だと思っていますので、先ほど宮島委員がおっしゃいましたけれども、打ち出し方によってはちょっと否定的にとられると思うので、そこは気をつけたほうがいいと思います。

以上です。

増田分科会長代理それでは、小塩様と山藤様、それぞれお願いします。

小塩講師御質問ありがとうございます。

今回、年金につきましては財政検証の数字をそのまま使っているのですが、医療、それから介護についてどうかという御質問でした。それにつきましては、非常に単純に、単価を、例えば名目GDP比で伸ばすとか、高齢化の要因をそれに加味するような形で推計しております。これにつきましては、政府は4省庁合意で社会保障の見通しを2040年まで出しており、私たちNIRAとやり方は若干違うのですが、ほとんど同じような将来像を描いております。ですから、本日、プライマリーバランスの変化等々をご説明いたしましたが、それはNIRAが医療や介護について試算した結果ではあるのですが、同時に4省庁合意で出てきた医療や介護の見通しも反映してみたものであると考えていただいて、ほぼ間違いございません。

増田分科会長代理それでは、山藤様、お願いします。

山藤講師ありがとうございます。

御質問いただいた、今回、ご提案したゼロ歳時点のQALYが有効な健康寿命としてのKPIになり得るかという点でございますけれども、疾病別、年齢別という形で比較的細かくメッシュを切った中で、健康寿命を最終的に計算できる枠組みをつくったという意味では、意味があるものだろうと考えてはございます。

ただ、各パラメーターについてのデータの信頼性等は、今、公的に公表されているデータに非常に制限があるということもございますので、例えば冒頭のご説明にもありました死亡率、罹患率、治癒率は、疾患別、あるいは疾患の相関なども勘案した上で、本来であれば遷移確率のマトリックスをつくらないといけないけれども、そういったデータは、今、公表されていないということがございます。今回は、2015年のデータに基づいて、かなり前提条件を置いた上で、各疾患別の遷移確率を年齢別につくるということをやってはございますけれども、これは大いに改善の余地はあろうと考えてございます。その上で、KPIという形で将来的に使うことができればと考えている次第でございます。

あと、費用についての計算でございます。本日8ページ目の費用との紐づけというあたり、これも模式図に近いものでございますので、正確なところをご説明できるか心もとないところもございますけれども、今回、疾病別、年齢別、かつ医療の種類別ということで、入院、入院外、調剤、歯科という形で、かかる医療費は細かく公表されています。先ほど申し上げた状態遷移の確率、これは年齢別に遷移確率を積み重ねるようなことをやっておりますが、そこにそれぞれの医療を張りつけるということをやっていて、パラメーターとして死亡率が下がるであるとか、罹患率が下がるとなると、そこに対応する患者の数であるとか、死亡者の数が変わってくる。それに1人当たりの費用を掛けることで費用が変わってくるというような構造でもって、それを全ての疾患別、年齢区分別に足し上げて医療費を計算しているというような仕組みになってございます。

それから、個別の施策についての効果が、この中にモデルとして盛り込まれているかというと、そうではなくて、今、申し上げたような形の、1人当たりの費用を罹患別、年齢区分別に張りつけたものを合計した結果になっているということでございます。

増田分科会長代理ありがとうございました。

それでは、

田近委員、お願いします。

田近委員ありがとうございました。既にいろいろ議論があるので、手短にします。

小塩先生からですけれども、年金の推計は全体を見ていない、そのとおりだと思うのですけれども、財審としては、やはり中長期試算をベースに議論しているので、小塩先生の本日のご説明で、我々はどういう示唆を得られるのかということで質問させていただきたいのですけれども、小塩先生の4ページ、中長期試算における推定ということで、非社会保障歳出はどうなるか。本日、地方財政で、地方一般財源総額実質同水準ルールということで、ある意味で総額を抑えようと思えば政策的に抑えられる。そうすると、問題は、小塩先生に伺いたいのは、結局、社会保障歳出の中長期試算における過程が非常に重要だと、財政問題を考えるときにはここを注意してほしいということが、小塩先生のメッセージなのかということです。

次の山藤様の説明は、ものすごく興味深く聞かせていただきました。これも手短ですけれども、12ページ、健康寿命が延伸していくと、我々、ずっと女性のM字型カーブというのを見ていたのですけれども、今回、これがすごい印象的で、年齢別の社会参加率が外に膨らんでくる。そして、右側の図を見ると、2015年で60代の就業率が51.1%、2050年になると70歳の人もそれだけ働くと。しかも、税収が5.3兆円と、これなら在職老齢年金制度を容易に廃止できると思いました。

質問は、14ページで、今申し上げた就業・所得増による税収5.3兆円を上回る、左側のブルーですけれども、健康寿命延伸ケースでのネットの支出増が何に起因するのか。既に何人かの方から質問、議論がありましたけれども、9ページ、もう一回確認させていただきたいのですけれども、健康寿命延伸ケースの一番下、つまり1人当たり医療・介護費です。私の理解できた限り、山藤様のやられたことは、要するに健康アウトカムが改善されると、31%改善されるから医療費も31%増えるのではないか。介護費は、さらに増えると。

ただ、医療費について、何年か前にレッド・ヘリング仮説というのがあって、高齢化というのは医療費全体を必ずしも上げるものではない。なぜかというと、高齢化していくと疾病構造が変わって、急性期の病気からそうでないものになってくるので、高齢化が進むと医療費の伸びはそれほど大きくないという議論がされています。ましてや、ここでは健康寿命が延伸するわけですから疾病構造が変わる。そして、寿命も長くなってくるならば、さらに2つの意味で疾病構造が変わるわけで、ここでアウトカムが改善した率だけ医療費が上がるというのが、私にはなかなか理解できなかった。

以上です。

増田分科会長代理ありがとうございます。

それでは、時間との関係があるので、今の御質問にお答えを考えておいていただいて、あと佐藤委員と黒川委員も名札が上がっているので、まとめてお話をいただければと思いますので、佐藤委員、お願いします。

佐藤委員ありがとうございます。

まず、小塩先生のプレゼン、非常に興味深く感じました。そこから得た私のメッセージは、やはり長期試算にもPDCAは要るのかなと。財務省が長期試算を出しました、年金の財政推計が出ましたと、そのままにしておくのではなくて、それらの間の整合性も含めて、やはり何らかの検証が必要で、それを外部の機関がやることが大事です。それは、独立推計機関をつくるというのも一つの考え方ですが、もう一つの考えは、今、自治体がいろいろなところでやっているオープンデータにして、その前提条件も含めてとにかく全部公表して、外部の人間たちに紐づけてもらって、こういう結果を出してもらう。したがって、オープンデータにしていくことが大事かなと。

これが意外と難しいのは、実は外部の別の研究会で財政検証を再試しようとしたらできなかったのです。これは極めて匠の技があるみたいで、試算に匠の技があるというのはよくわからないのですけれども、シミュレーションがなかなかうまく回らないというケースもあったりするので、そこも含めて、やはりデータのオープン化をこれから進めていくというのは一つの考え方かと思いました。

それから、山藤様のプレゼンについて、田近委員と同じような質問になってしまうのですが、ここで問われているのは、健康寿命が延びたら医療費が伸びると考えるのか、健康寿命を延ばすと意外とお金がかかると考えるべきなのかだと思うのです。私の理解する限り、やはり健康寿命を延ばすにはそれ相応のお金がかかりますよね。だとしたら、問われるのは、いかにこれを減らすか。つまり、健康政策の費用対効果をいかに改善するか。財審で言われているのは、別に健康になるなと言っているわけではなくて、今、厚生労働省を中心に進めている予防医療とか、一連の予防政策に果たして効果があるのかどうか。効果があることを前提にいろいろなこと言っているけれども、果たして今の予防政策に効果があるかどうか、そこに疑問を呈しているという言い方が正しいと思うのです。

だとすると、例えば今、行動経済学では、ナッジみたいなものを使って人の生活習慣を変えようと。はっきり言って、ナッジは費用がかかりません。もし人の健康寿命を延ばそうというのであれば、おそらくそれなりに費用対効果の高いやり方があるのではないか。本当は、その辺をもう少し検証したらいいのかなと私は思いました。

以上です。

増田分科会長代理それでは、黒川委員、どうぞ。

黒川委員ありがとうございました。

私は、山藤様に確認をしたいのですけれども、田近委員や佐藤委員と同じところです。11ページのところでコストがすごくかかると。7歳ぐらい健康寿命が延びて、さらに今後寿命も延びるわけです。それで、ある確率のもとで病気をするということになれば、長く生きていれば、それ相当のコスト増。病気をする確率が高い年齢のところで長く生きるわけですから、さらにコストはかかるだろう。

しかし、それを今、ハッピーと考えるかどうかですけれども。そこで14ページを見ていただいて、先ほどから非常に悲観的というか、見方を間違うと危ないぞという議論が出ていたのですけれども、私はハッピーだったと思うのです。それは、10.7兆円増えるというのは、先ほど言ったように当然だろうとは思うのですけれども、これを上回る就業・所得増の税収と、社会保障制度改革10.6兆円があるので、ここだけ見るとプラスで、僕たちは健康でもっと長生きしましょうと、僕はそういうように受けとりました。

そのときに、社会保障制度改革のところが大事で、おそらく我々の今の状況よりも7歳ぐらい健康寿命が延びるということは、例えば後期高齢者が75歳ではなくて82歳になったと思えばいいわけです。そうすると、社会保障制度改革は2割負担ではなくて、今のままで置いたとしても3割負担が延びるだけと、そういうことを自動的にやっていくのだと。だから、ここでは何か新しい社会保障制度改革をやるのではなくて、要するに健康寿命が延びたのですから、自動的に後期高齢者の定義が変わったと、そういうようなことも含めて社会保障制度改革と私は読みましたが、それでよろしいか。

以上です。

増田分科会長代理それでは、お三方から御意見、それから質問等がございましたので、小塩様、山藤様の順番で、御質問に対してお答えと、それから、これが最後になりますので、もしつけ加えることがあれば、それも含めてお願いしたいと思います。

それでは、小塩様、どうぞ。

小塩講師ありがとうございます。

田近委員から御質問がありました。中長期試算で、非社会保障歳出の想定と社会保障歳出の想定の、どちらが重みを持っているのかというご質問でしたが、私たちの計算は同じぐらいのインパクトを持っております。2028年時点で、たしか0.6%ポイントぐらいの差を両方とも説明するということです。

それから、佐藤委員が御指摘されたのですが、やはりこういう試算を客観的に評価する仕組みが必要かと思います。それぞれの省庁において、それぞれの政策にとって重要な変数と、そうでない変数は違ってまいりますので、それらを総合的に見ることが、何らかの形で分担されていることが重要ではないかと思います。

以上です。

増田分科会長代理ありがとうございました。

それでは、山藤様、お願いします。

山藤講師ありがとうございます。

御質問いただきました点にお答えする前に、まず、第一に申し上げたいのは、これは複数の委員の皆様から御指摘いただいたところで、健康寿命延伸自体は価値があるものだと。我々の立場としても、まず、これは価値がある、絶対的に推し進めるものだということがあった上で、いかに持続可能な形で制度を整えていくのかという順番で、健康寿命の増進は、我々としては推し進めていくべきということが大前提の立場となっているということを申し上げたいと思います。

その上で、御質問ですけれども、まず就労に係る部分でございますが、税収増効果5.3兆円という形でかなり大きな金額になっているということはございます。これにつきましては、繰り返しになりますけれども、まずもって最大限の就労に係る効果を見積もってみると、どうなのだという話を数字として出してみないと、社会保障制度改革の議論はなかなか前へ進まないところがあるのではなかろうかということで、あえてここは、あらゆるファクターを盛り込んだ上での、最大の数字をお見せしたということでございます。

もう一つ、年齢が高齢化するにつれて、急性期から慢性期に疾病が移っていくという形で、必ずしも費用は上がらないのではなかろうかというあたりでございますけれども、今回、御指摘いただきました前提条件のところ、アウトカムが31%増えるので、その分がそのまま価格に転嫁されるのはどうなのかというお話ございますが、ここはおっしゃるとおり、今回の試算の前提はかなりラフなものなっていることは否めないと思います。ただ、一方で、過去のこれまでの経緯を見てきたときに、アウトカムの増進、これまで戦後の日本社会において達成された健康アウトカムの増進は、費用増が伴ってきているというあたりは厳然たる事実かと思いますので、まず、このオーソドックスな想定においては、そういった想定を踏襲する形で試算を行った、ということになるのかなと思います。

もう一つ、佐藤委員のほうから御指摘いただいた、費用対効果を考えた上で費用のことも考えていくべきではなかろうかというお話でございますけれども、それもそのとおりでございます。今回、枠組みとしては比較的細かに想定が置けるようになっている中で、先ほど申し上げた比較的ざっくりした試算をしているということでございますけれども、こういったモデルが少しでも効率的な、費用効果の高い形の施策につながるような、一つの助けになればという形でご提示しているところもございます。今回、至らない点が多々あるかと思いますけれども、思いとしては、我々もおっしゃっていただいたとおりの立場であるということでございます。

あと、黒川委員のほうからいただいた、ネットではプラスになってハッピーだと、かつ健康になったということなので、従来の後期高齢者の定義自体も変えていくようなスタンスになろうというのは、御指摘のとおり、我々もそういう立場でございます。原理原則として、小さなリスクについては自助で、大きなリスクについてはみんなで支えるという形、あとは年齢によるということではなくて、健康度合い等々、それぞれのポテンシャルに応じて負担をしていくという形が求められる姿になろうということでございますので、そのあたりについての立場は同じだろうということでございます。

ありがとうございます。

増田分科会長代理どうもありがとうございました。

それでは、ちょうど時間も参りましたので、有識者の方をお招きしてのヒアリング、ここまでとさせていただきます。

小塩様、山藤様、大変有益な示唆をいただきまして、ありがとうございました。

以上で、本日の議題は終了といたしますが、今回の秋の審議における総論、各論の議論は本日で終了となります。したがいまして、以降、建議の作成のほうに移っていきたいと思います。前回の際に、6名の委員の皆様方、起草委員ということでお願い申し上げたわけでございますが、起草委員の皆さん方にたたき台を作成していただきまして、次回以降、それに基づいて審議を行うことといたしたいと思います。6名の委員の先生方、どうぞよろしくお願いをいたします。

それから、次回と申しましたが、具体的には11月15日、午前10時から、建議のたたき台について審議を行うと、こういうことにいたします。

それから、本日の会議の内容については、後ほど記者会見で私からご紹介いたしますので、従来どおり、個々の発言につきましては皆さん方から報道機関にお話しすることのないように、ご注意をいただきたいと思います。

それでは、本日はこれで閉会といたします。どうもありがとうございました。

午後5時00分閉会