関税・外国為替等審議会
第47回外国為替等分科会議事録
令和3年1月29日(金)
財務省 国際局
於 財務省第3特別会議室
本庁舎4階
1.開会
2.最近の国際金融情勢について
3.経済のデジタル化がもたらす国際金融上の課題・対応
4.最近の外為法をめぐる状況について
5.閉会
出席者 | |||
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委員 | 伊藤 恵子 | 財務省 | 神田国際局長 |
小川 英治 | 有泉国際局次長 | ||
奥田 英信 | 三村国際局審議官 | ||
河野 真理子 | 土谷国際局審議官 | ||
坂元 龍三 | 岸副財務官 | ||
清水 順子 | 吉田副財務官 | ||
神保 寛子 | 緒方国際機構課長 | ||
杉山 晶子 | 陣田国際局調査課長 | ||
高山 一郎 | 今村国際機構課長 | ||
根本 直子 | 森地域協力課長 | ||
原田 喜美枝 | 野村為替市場課長 | ||
春田 雄一 | 河邑開発政策課長 | ||
山西 健一郎 | 田部開発機関課長 | ||
渡井 理佳子 | 土生外国為替室長 | ||
臨時委員 | 安藤 光代 | 桜田調査課企画官 | |
大野 泉 | 永田投資企画審査室長 | ||
大野 早苗 | 森下国際機構課企画官 | ||
亀坂 安紀子 | 梶山地域協力企画官 | ||
神作 裕之 | 西村資金管理室長 | ||
専門委員 | 井戸 清人 | 棚瀨資金管理専門官 | |
植田健一 | 高橋開発企画官 | ||
林 信光 | 経済産業省 | 風木貿易管理部長 |
午後3時02分開会
○小川分科会長 それでは、ただいまから第47回外国為替等分科会を開催いたします。
委員の皆様方におかれましては、御多用中のところ御出席いただきましてありがとうございます。本日、オンラインでの参加を含め、22名の委員に御参加いただいています。また、本日はゲストスピーカーとして京都大学の岩下先生にもオンラインで御参加いただいております。よろしくお願いいたします。
さて、本日も新型コロナウイルスの感染拡大の防止の観点を踏まえた対応を行うこととしております。御協力のほどよろしくお願いいたします。具体的な留意点などについては陣田課長より説明をお願いいたします。よろしくお願いします。
○陣田調査課長 調査課長の陣田でございます。私からは、会議室参加とオンライン参加のハイブリッド形式となっている関係で、留意点について御説明いたします。
まず、会議室で御参加の皆様におかれましては、オンラインで御参加の委員の方に音声が明瞭に伝わりますよう、まず、マイクをオンにして、できるだけマイクに近づいて御発言いただきますようよろしくお願いいたします。その際、目の前にありますパソコンのミュートについてはそのままミュートでお願いします。また、事務方のカメラのほうにつきましては、発言時以外はオフにさせていただいております。また、オンラインで御参加の委員の皆様におかれましては、御発言時以外はミュートにしていただきますようお願いいたします。また、途中、万一Webexがつながらない等の問題がございましたら、電話会議システムのほうでつなぐようにいたしますので、よろしくお願いいたします。
以上、委員の皆様には大変御不便をおかけしますけれども、御協力のほどよろしくお願いいたします。
○小川分科会長 それでは、本日の議事に入りたいと思います。本日の議題は、「最近の国際金融情勢について」、「経済のデジタル化がもたらす国際金融上の課題・対応」、「最近の外為法をめぐる状況について」の3つです。
まず、1つ目の議題の「最近の国際金融情勢について」につきましては神田局長から御説明を頂き、その後、意見交換の時間を取りたいと思います。それでは、神田局長、よろしくお願いいたします。
○神田国際局長 小川分科会長、ありがとうございます。また、先生方にはお忙しい中お集まりいただきまして誠にありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。では、早速、お手元の「最近の国際金融情勢について」という紙に基づいてやりたいと思いますけれども、ちょっと大部ですので、かなり端折って飛ばしながらやらせていただきます。
まず、2ページ。非常に私どもが悩ましいのは、今は歴史的な変わり目にありまして、デジタル化等の産業革命で社会構造が大きく変容している中、新型コロナ禍がそれを加速しているようなところがあります。クライメートチェンジとか、生命科学やAIといったテクノロジーのコントロールといった人類史的課題に加えて、足元で中国の台頭、あるいはGAFAといった寡占など、これまで当然視していたような民主主義、資本主義・市場経済の常識が壊れていくような事態、そして貧富の格差の拡大、更にもう1つ、IT化によって、こういった問題に取り組まなきゃいけない政策意思決定過程自体が混乱している。言論環境のサイロ化、ポラライゼーションが進み、ポストトゥルース、あるいはフェイクニュースが跋扈するような中、非常に悩んでおりますけれども、逆に、この流動化の中で、新しいよりよい秩序をつくるオポチュニティでもありますので、頑張っていきたいと思っております。
ここにはポピュリズムの台頭等による国際環境の不安定化と書いていますけれども、今回の選挙を否定するような過去にない異常な大統領選、それから、後に出てきますが、欧州でもポピュリズム政党の台頭、特にポーランド、ハンガリーはかなり行くところまで行きつつあって、他方で、中国のウイグル、香港、あるいはロシアの対応とか、あるいは、ここにいらっしゃる先生方が関わっておられた中央アジアでも、御存じのとおり、昨日のキルギスだけではなくて、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、いろんなところで我々が共有しない価値観が支配するようになっている。人権や法の支配に反する強権主義が勢いを増す中で、他方、伝統的な紛争も増えています。ナショナリズムや宗教紛争といった中世的なものが物理的死傷を伴って多発しておりまして、中国・インドで45年ぶりに人が死ぬようなことがありましたし、アフリカで、エチオピアだけではなく至るところで物理的紛争が、また、台湾海峡での緊張というものも非常に厳しいものとなっておりまして、我々はそうした中で頑張っていかなきゃいけないということであります。
3ページ。アメリカ大統領選はそうした中で混乱の象徴であったとともに、何とか踏みとどまったところもあるのですけれども、今後、4ページ、5ページを見ていただければと思うんですが、やっぱり一筋縄ではいかないということは御存じのとおり、上院が50、50で副大統領の票が必要ですし、財政調整措置(リコンシリエーション)の対象とならないものは60必要なので結構大変です。共和党のほうは、結局、2年後に下院選なのでトランプと縁を切れない状態ということが明らかになってしまった一方、民主党のほうは、サンダースのような左派が不満を持つ一方で、我々から見るとちょっとうらやましいところもあるのですが、ブルー・ドッグスといって、財政緊縮派もかなり人数がいて、その中でバイデンさんは挟撃されながらやっていかなきゃいけないわけです。
ただ、4ページにありますように、今挙がっている人たち、今のところ上院のコンファメーションは順調に進んでいて、いずれも非常に経験のある方だし、その下の人たちも実務経験の豊かな人が多いので、そういったところは結構いいのではないかなと思います。5ページに主要政策を並べていて、これはよく言われている大規模投資とか国際協調主義。国際協調主義というのは既に見えていて、後でも言いますけれども、パリ協定への復帰とかWHOへの復帰、そういったことで我々にもビジブルに動いているところがあります。ただ、これもちょっと先のスライドで出てきますけれども、すぐにできるかといったら、さっき言ったような事情でなかなか容易ではなくて、彼も段階を分けていて、まずは1.9兆ドルの新型コロナ対策とか家計・経営支援を中心としたものをやって、これをインピーチメント、シニアアポイントメントとともに、先に終わらせる。その後、第2弾は、インフラ関係をやって、大規模増税みたいなものは更に後回しというようなフェージングを考えていると言われています。
ちょっと飛んで、7ページ。さっき、冒頭でヨーロッパと言いましたが、特にハンガリーとかがかなり激しい動きをしているので心配なんですけれども、ただ、一方通行ではなくて、イタリア、スペインなんかはポピュリズムが少し勢いを落としているようなところがあります。ただ、他方で、ドイツが、御存じのとおり、メルケルさんの後継、与党の候補でメルケルさんみたいな強い者が見当たらないような中でどうなっていくのかと、或いは、フランスで国民連合の支持率が上がっているといったことが心配されているところであります。
8ページ。ブレグジットも年末何とかまとまりましたが、これからブローが効いてくるともいわれています。既にかなり金融関係の取引がシティ・オブ・ロンドンから出たということはありますけど、4つ目のポツにありますように、今まで税関がなかったのができるわけですから、やっぱりこの手続というのは結構大変でありまして、これが今後はどうなっていくのかということはちょっと注目しなきゃいけないと思っております。
9ページからは世界経済のアウトルックでありますけれども、10ページ、11ページ、12ページと見ていただいて、一番分かりやすいのは、特に政策環境と関係するのは雇用で、13ページですが、失業率は、やはり政策でかなり抑え込んでいるようなところがあります。ただ、下のほうのグラフを見ていただければ分かりますように、だんだんと労働移動を止めるような、つまり、休業者を抱えさせると労働移動が進まずポストコロナで生産性を落とすので、オレンジにあるような雇調金というものは撤退して、他方、失業手当みたいなものはある程度ロックダウンの状況に応じて維持したり減らしたりしているようなところがございます。
14ページは直近の国際機関による経済見通しで、ちょうど1月頭に世銀、それから、今週、IMFが出てきたので、それをアップデートしてあります。多少上方修正をしておりまして、2020年は大体マイナス3、4%で、今年はプラス4、5%というところです。ただ、これは明らかに、感染状況との相関関係が強く、つまり、ワクチンのロードアウトがどうなるかといったこと次第です。感染状況が悪いと人為的なソーシャルディスタンスによる経済活動の抑制がある。あるいは、それに対して経済政策がどれだけ発動されるかというようなことになっていて、極めてアンプレディクタブルなところがあります。実際、下に成長見通しと書いていますけれども、足元でも、昨日、アメリカが2020年はマイナス3.5%ということを出している一方で、ちょっと前に、ドイツが今後はどうなるのかということで1.5%下方修正して、2021年は3%ということを政府見通しで出したり、結構、ワクチンの状況なんかを見ながら上がったり下がったりしているようなところがあります。
15ページ、世銀ですけれども、皆さんは大体同じようなことを言っていまして、15ページの4つ目の丸のように、ワクチン供給の遅延と人的資本への投資の減少がダウンサイドリスクで、債務が心配であるとも示しています。
それから、16ページ、IMFのWEOのほう、これも、4つ目のところですけれども、雇用の落ち込みの継続、それから、学校閉鎖による人的資本への悪影響と相まって、経済の供給力に対しての経済的な悪影響、我々はscarsと言っているのですが、特に低教育の労働者、女性、若者への影響が大きいのだということを心配しております。これは貧富の格差の拡大にもつながり、深刻です。
17ページですけれども、今後の政策については、回復が軌道に乗るまでは効果的な政策支援を続けて、経済に継続的な悪影響が残らないようにしなきゃいけないと。そのときに、潜在GDPの増加、強靱・公平な成長、それから、脱炭素といったトランジションの加速といったことをやらなきゃいけないと。緊急的な措置は感染が拡大する場合には継続すべきだけど、抑制が見られれば縮減しなきゃいけないし、労働者の再訓練、デジタル化、グリーン投資など、不平等を解消する政策といったものに取り組まなきゃいけないと言っておるわけであります。
あと、財政・金融・労働市場で1本ずつ興味深いというか、我々がそうだなと思うものがありますが、まずは20ページ。金融ではGFSRの直近のものですけれども、3つ目のポツにありますように、市場と実体経済との乖離ということを皆さんは警告をしております。よく聞かれる見方としては、実体経済が極めて悪いのに株がめちゃくちゃに上がっていることには、金融緩和で金がじゃぶじゃぶになっていて、行き先として資本市場になっちゃっているということもありますし、低金利ですから、フィックストインカムよりは株に行くのもあるし、あと、後に出てきますけど、ただ、株価水準というときに、インデックスが、GAFAといった、今、新型コロナでぼろもうけしているところは株価が高くて、そこに引っ張られて、非常に過大に大きく見えているとも指摘されています。実は、レイバーインテンシブなところがかなり沈んでいるといったような格差もある中で見なきゃいけないと言われています。今後のリスクの2つ目にありますように、将来的にはソルベンシーの問題が生じる可能性があるとしておりまして、政策提言の2つ目ですけれども、市場参加者の一方的な期待で過度の安心感が広がっていて、これが急激な市場の修正リスクを高めているのだということを心配しているわけであります。
それから、財政のほうは22ページのFiscal Monitorの直近のものでありますけれども、これは世界中で、メディアのカバーもあってのものですが、23ページにありますように、過去にない歴史上最悪の水準になっているのだと。世界全体で、2021年、124.9%だったGDPの債務。ただ、そういったところで、日本は258.7%で断トツになっているわけであります。
ちょっと戻って22ページですけれども、政策上の優先課題の2つ目のところで、緊急支援は段階的に廃止すべきで、支援は、最も脆弱な家計や生き延びるべき企業、経済構造の変化に対応する労働者に焦点を当てるべき。これからはもっともっとターゲットをしていかなきゃいけないということが我々のコンセンサスになっています。また、一番下にありますように、公的債務残高の急上昇に鑑み、経済回復に向けた短期の需要支援と中期の持続可能性とのバランスを取ることが不可欠ということは当たり前であります。
それから、24、25、26ページの辺は、格差が拡大していることをみんなが心配していて、これは当然、最初に申し上げた、それ自体が非常に悪いことであるだけではなくて、社会不安を呼び起こして、ポピュリズムで危険な状況になるということ、あるいは、合理的な政策が採れなくなるということも含めてなんですけれども、やはり、24ページにありますように、所得格差が拡大していて、これはやっぱり、新型コロナで、ソーシャルディスタンスをやるときに、低所得層はテレワークをやりにくいような職種、あるいは能力であるために、さらに打撃が大きいというようなロジックであります。
25ページのほう、これもよく言われていることですけれども、賃金格差でひどい目に遭っているのは女性とか単純労働、低スキル労働者などで、ますます格差が広がっちゃうということであります。
26ページも、よく言われるOXFAMの、そういう悲惨な状況の中で、資産を持っている人たちはものすごくもうけておると。大富豪の資産というのは、1年以内で4兆ドル近く資産が増えちゃっているというようなものであります。
それから、27、28ページというのは、特に28ページです。OECDが雇用政策でちょっと警鐘を鳴らして、これは各国政府がそうだなと思っている話なんですけども、28ページの頭のところで、当たり前なことなんですが、過度の支援をやると労働意欲の低下するモラルハザード、仕事をしなくてもお金をもらえたら誰も働かなくなるということと、それから、将来性のないゾンビ企業を維持しちゃうことになって、生産性向上や経済回復の妨げになりかねないと。要は、新型コロナ以前から、新しい成長性のある産業に労働のマイグレーションが必要である、あるいは、資本もそちらに移さなきゃいけないのに、むしろ逆のことをして、新型コロナ以前から将来性のないところにリソースを張りつけてしまっていることをやっていては将来がない、大変なことになっちゃうということであります。
29ページからは各国のもので、見ていただければと思うんですが、一言で言うと、アメリカは非常に厳しいけれども、雇用者数のところはそんなに大きな変化がない中で、30ページ、消費がヨーロッパに比べると持ち直しているようなところがあります。これと比べると、32ページのヨーロッパのほうは、ロックダウンを相当に強化しているので小売とかがなかなか厳しい状況になっていて、PMIを見てもサービス業が落ち込んでいるというところであります。
ちょっと戻って31ページですけれども、最初に申し上げたバイデン大統領の第1弾の経済対策で何をやろうとしているかというと、1.9兆ドルの中でコロナ対応が4,000億ドル、家計支援が1兆ドル、コミュニティと中小企業支援が4,400億ドルで、これを今、通そうとしているのですが、これの中で、最低賃金の15ドルまでの引上げというのは共和党は絶対に嫌だと言っているし、コミュニティ支援、特に州・地方政府への支援というのは民主党がずっと絶対やるべきだと言っていたのですけど、共和党はずっと反対していたところなので、こういったところを調整しながら、むしろ何とか早期に第1弾を議会に通せればということで、今、いろんな交渉をしているというふうに言われております。
欧州のほうは、34ページの、ちょっと古いですけれども、欧州復興計画パッケージ、これは非常に頑張っていて、足元で何か止血剤をやるというよりはNext Generation のためにという思想、やっぱり債務を負うわけですから、次の世代に意味のあるものにしなければいけない、それはグリーンとデジタルであろうということで、30%を気候変動分野に投じるとともに、しっかりとその返済財源というものを考えていると。簡単にはまとまりませんけれども、そういった政治姿勢というものは立派なものだと思います。
35ページからは中国であります。中国は主要国で唯一去年はプラス成長で、プラス2.3%になりました。それでも中国共産党が言っていた10年間でGDP倍増というところには届かなかったのですけれども、やはり、厳しいロックダウン、とにかく抑え込んだということでプラス成長になって、このグラフにありますように、だんだんと戻っていっているような形であります。ただ、結構消費は伸び悩んでいる中で、パソコンとかマスクみたいなものの輸出と、それから固定資産投資、特に、公共インフラ投資と、それから、金融緩和による不動産が結構引っ張っているところがあるので、その中身はどうかというところは心配であります。
36ページはいわゆる李克強(指数)で、いろんな統計を見ても、かなり戻っているねというものであります。
37ページは、今の中国の基本的な考え方が昨年10月の5中全会で示されていまして、2035年までに1人当たりGDPを中等発展国水準、2025年までに高所得国家、2035年までにGDPまたは1人当たりGDPを倍増させることは可能だと。つまりアメリカを抜くのだということをかなりアンビシャスに言っている。そのためには、国内・国際の双循環、特に、国内でしっかりと投資や、消費が回るようにしていきたいということを大きく打ち出しております。それが3のところの3つ目のところなんですけど、その2つ上のところも重要でありまして、イノベーションの核心的な地位を堅持し、科学技術の自立・強化を戦略的な支えとするのだと。結局、米中対立、デカップリングみたいなものは続くだろうから、欧米に頼るのではなく、自ら自立したテクノロジーの世界を強化していくのだということを中心に置いております。
次に、マーケットに移ります。41ページからですけれども、ここら辺も一言だけですが、42、43、44ページと、足元はそんなに荒れてはいないのですけれども、ドル安であったりユーロ高であったりという、特に44ページは、ドル安ということがちょっと続いてきたのですけれども、また変わるかもしれませんが、足元はどちらかというと結構コンベンショナルなリスクアペタイト相場で、リスクがオンになる、つまり、ワクチンが大丈夫だとか、わあっと景気対策で成功するのだとなると、米ドルキャッシュがエマージングとかに投資が流れていく。逆に、悲観的になると米ドルキャッシュに戻ってきてドル高になるということと、もう1つは、45ページにありますように、やはり、欧州や日本がかなり長くゼロ金利、マイナス金利になりそうな中、アメリカのほうは緩やかな長期金利の上昇が既に起こっていて、しかも、その期待が織り込まれつつありまして、これがしかも、一定の健全な景気拡大によるインフレ期待が上がることによって名目長期金利が上がるだろうという、どちらかというとかなり健全なものなので、それに基づいて米ドルにアペタイトがあるというような動きというものもかなりあるのだと思われます。
46ページですけれども、株とドル円というのはほとんど相関がなくて、株は何があっても買うのだと。金融緩和で余ったお金が資本市場に流れ込んでしまっていて、どんな材料でも買い上がっていくと。先ほど申し上げた実体経済との乖離があるような状態です。47ページもそれです。
48ページは、さっき申し上げた、インデックスだけを見ていると、そうはいってもちょっとミスリーディングであって、あるいは、新型コロナでもうかっているIT関係のところは株価や、指数によっては時価総額が高くて、そこのところが膨れ上がるので、インデックスのほうもがんと全体の経済以上に伸びるような構造があるというものであります。
しばらく飛んで、後のほうで人民元の話が出てきます。
52ページ、これは中国の外貨準備における通貨別割合なんですけれども、これからしばらく通貨でドルと人民元の資料が続くのですが、中国自身がやはり制裁が嫌だということもあって、8割ぐらいあったのが、6割ぐらいまで米ドルのシェアを外準の中で落としています。
62ページ、ロシアの外準を見ても、米ドルが半分ぐらいあったのが2割ぐらいまで落ちて、人民元が1割ぐらいまで伸びていると。ただ、そうはいっても、国際決済通貨としてのシェアというのは、63ページにありますように、特にSWIFTを通すこと自体を今は忌避してCIPSを通じた人民元決済に移行しようとしているのですけれども、SWIFTベースでも1.65%で、やっぱり、2015年のチャイナショックとその後の資本規制強化で、人民元の流動性、特にレパトリは制限されているような状態ですので、人民元の国際利用は停滞しておるというようなところがあります。
資本取引規制のまだ残っているものは65ページにまとめてあります。
71ページからは一連の国際会議の成果と今後といった話で、G7のほうはイギリス、G20のほうはイタリアの議長下での議論が始まってきているところですけれども、去年のサウジのG20の成果、あと、G7のアメリカ、それを一言だけおさらいしますと、71ページですが、新型コロナに対応するG20のアクションプランというものができて、それをリバイズしてきていると。ヘルスの部分はかなり頑張って、診断・治療・ワクチンの開発・製造・分配、このあたりのところ、特に、UHCの重要性とか特許プールの話、こういったものは日本が主導してやってきたものであります。途上国の債務問題もかなり日本が知的な貢献をしたのですけれども、債務支払猶予イニシアティブを6か月延長して今年の6月まで。それから、より重要なのは、後で出てきますけれども、その後の債務再編を含むような債務措置に係る「共通枠組」というものを承認するとともに、債務の透明性向上のための債務者と、それから、公的・民間の債権者双方の協働の重要性ということをやっています。それから、金融で、グローバル・ステーブルコイン、あるいは、デジタル通貨についての成果を取りまとめていて、あと、国際租税でブループリントが出てきて、これを、ちょっと遅れちゃいましたけれども、今年の半ばまでに解決するということを決めています。これについては後で資料が出てきます。
G7のほうも、途上国の債務問題、それから、中銀デジタル通貨、こういったもので合意をしたわけであります。今度の新しい体制は、引き続きデジタル通貨とかデジタル課税とか、もちろん新型コロナが続いていますから、マクロ経済と、それから、新型コロナ対策みたいなもの、それから、債務問題のフォローアップもありますけど、やっぱり、バイデン政権になったこともあって、クライメートというものが非常にデジタルとともに正面に出てきております。バイデン大統領は、4月22日に気候変動サミットをやると呼びかけています。それから、G7の議長国であるイギリスは、11月1日から12日までCOP26をグラスゴーで主催します。ここが非常に大きな焦点といいますか、ポリティカルなスポットライトを当てられることになると思います。それから、アジェンダになっているわけではないですけども、みんなが結構意識しているのはinequality、非常に格差が広がっている。このまま放っておいたら危ないのではないかという議論。それから、債務、今はしようがないからわあっとspreeをやったわけですけれども、途上国だけではなくて、全ての国でかなり財政が傷んだので、長期的なサステーナビリティーをどうするのかということも今後の議論になる可能性があります。
74ページからはその成果ですけれども、読んでいただいて、特に77ページのあたり、これも非常に、ヘルスは、私はいい結果を皆さんが頑張って出されたのかなと思っております。
中国との関係で、非常にもめたけど何とか合意に至ったのは、83ページからの債務問題であります。
84ページは、今回延長した債務支払猶予イニシアティブ、つまり、新型コロナで流動性危機に直面する最貧国の公的債務を一時的に猶予する措置で、これを2021年6月まで延長したわけですけれども、ただ、これはモラトリアムで、この先、やっぱり債務の再編が避けられないであろうということを念頭に置きつつ、85ページにありますように、ケース・バイ・ケースで低所得国向けの債務救済を行うに当たっての「共通枠組」を承認しております。これに中国もサインをしたということは結構大事でありまして、具体的には、まずは債務国からの要請で始まる。IMF・世銀のデットサステーナビリティーアナリシスをやって、それから、IMF支援プログラムの諸条件と整合的に判断すると。債務国は、ちゃんと債務に関する必要な情報を提供しなさいよと。債務措置の主要条件は、全ての公的な二国間債権者による公平な負担を確保する、いわゆるフェアバードンシェアリングです。加えて、ほかの全ての公的な二国間債権者及び民間債権者に少なくとも同等程度の措置を求める必要があると。ここが極めて重要でありまして、パリクラブ以外の債権者と、それから、民間債権者がしっかりとフェアバードンを担うことがなければ進まないということと、その前提として、しっかりと情報を出してもらわなきゃいけないということであります。
なぜそういうことを言っているかというと、86ページにありますように、低所得国のデットの構造が完全に変わっちゃっておりまして、右側のほうですけど、債権者別の対外公的債務残高のGDP比を見ますと、パリクラブというのは2.8%で、ノンパリクラブ、中国を中心とした新しいドナー国が19%、それから、コマーシャルが15%というふうになっています。
87ページ、ただ、一例、ザンビアを見ますと、いわゆるパリクラブ的なものは5%ぐらいしかなくて、民間が20%、中国が25%ですので、こういった国のデットサステーナビリティーを確保しようと思ったら、当然民間と、それから、ノントラディショナルなドナーが大宗の貢献をしない限りは成り立たないわけであります。
それから、89ページからはデジタルでありまして、デジタル課税については、御存じのとおりですけども、ブループリントの2本柱を2021年半ばまでにグローバルなコンセンサスに基づく解決策に至るところを目指して、今、頑張っているところであります。
90ページにその2つの柱があって、特に1つ目の柱です。2つ目の大規模多国籍企業への最低税率を導入してタックスヘイブンに対抗するというものですが、1つ目の柱のほうは、アメリカが政府側で嫌がっているのだけど、これを何とかバイデン政権にちゃんと入ってきてもらって、みんなで約束したとおり、今年の半ばまでにまとめられたらいいなというものであります。
それから、デジタル通貨のほうは95ページからですけれども、2つあって、1つは寡占資本、フェイスブックのリブラみたいなものと、もう1つはデジタル人民元で、前者は96ページにあります。名前がディエムに変わり、やり方もバスケット型ではなくて単一通貨でばらばらにやることになりましたが、各国当局、特に、欧州は名前を変えても駄目だよと、やっぱり、全体のシステムにフリーライドしてはいけないので、ちゃんと規制に則るよう厳しく見ますよというふうに言っています。
それから、97ページのほうはデジタル人民元で、特に、下のほうにありますように、プライバシーへのリスク、サイバーセキュリティー・リスク、金融安定性のリスク、こういったものが心配だという声が結構聞かれるところであります。この話というのは、結構やっぱりプライバシーというか、体制の話と関係していて、一応2層構造にはなっているものの、中国人民銀行が人民の取引というものを把握できるようなテクノロジーなものですから、こういうものをどう考えるのかということが一緒になってくると思われます。
この関連で、1つ中国で興味深いのは、104ページなんですけれども、中国はどういう経済協力をやっているのか。皆さん御存じのとおり、102ページの一帯一路、あるいは、103ページの最近のデジタルシルクロードがありますけど、実は体系的な説明はあまりなかったのです。ところが、7年ぶりに国際開発協力白書というものが1月10日に出まして、興味深いです。要は、SDGsを非常に重視していて、これまでかなり批判されてきたことについて改善していますよと、前向きと取れる記述を一生懸命入れていると。ただ、そうはいっても、国、地域ごとの援助額とか債務再編額とかは示されないので、まだまだ情報公開といった点ではよく分からないようなものでありました。
ちょっと脱線しましたけど、107ページ、グローバル・ステーブルコインやCBDCについての基本的な考え方はこの2本のものに尽きます。グローバル・ステーブルコインについては、いかなるグローバル・ステーブルコインのプロジェクトも、適切な設計と適用基準の遵守を通じて法律・規制・監督上の要件に十分に対応するまではサービスを開始すべきではないと。要は、しっかりしたルールを守れていないのだったらやらせないよというものであります。
それから、中銀デジタル通貨のほうについては、透明性、法の支配、健全な経済ガバナンスに対する公的部門の信頼ある長年のコミットメントによって支えられていると。逆に言えば、こういったものがないと、やっぱりやってはいけないですよねと。
それから、最後は時間がありませんので説明はしませんけども、115ページから、今年、恐らくホットな話題になると思われるグリーン関係の資料をつけております。ESG投資をどうやって拡大するのか、実際のネットゼロに向けた取組について、各国でどうやって協調・連携していけるのか、こういったことはこれからの議論ですので、またいずれアップデートをしたいと思っております。
私からの説明は以上でございます。御清聴ありがとうございました。
○小川分科会長 神田局長、どうもありがとうございました。
それでは、意見交換に移りたいと思います。委員の皆様におかれましては、御発言の際は、御臨席の委員の方は従前どおり名札を立てていただきたいと思います。それから、オンラインで御参加の委員の方は、事前に事務局より御案内しましたとおり、御発言の意思をシステム上の「挙手」にて事務局までお知らせいただければと思います。それでは、何か御意見、あるいは質問のある方、よろしくお願いいたします。
それでは、清水委員、お願いします。
○清水委員 御丁寧な御説明をありがとうございました。また、本当に膨大な資料、いろいろ細かいデータをそろえていただきまして、非常に参考になります。
私からは中国についてお伺いしたいと思います。
御説明いただいたとおり、中国は最初に新型コロナが発生した国でありながら、その後の経済の回復は力強くて、昨年唯一プラス成長をした国です。また、もう1つ言えることは、我々先進国が特に新型コロナでの対策で何もできなかった昨年1年間の間に、中国は多方面でも政策をきっちり推し進めてきたと思います。特に金融面においては、国債の含む債券市場規模も既に日本を抜いて世界第2位になっているわけですが、昨年のうちにブルームバーグやMSCI、年後半にはラッセルなど株も債券も主要な国際的インデックスに組み込まれ、海外投資家による中国への本格的な資本流入も始まってきていると思います。先頃のラッセルのワールド・ガバメント・ボンド・インデックス(WGBI)の組入れに関して、GPIFをはじめとした日本の大手年金関係の投資家がどのように取り組んでいくのかについても話題になっています。実際、WGBIは日本勢の買いが多いので、今後ここに中国国債が入るとなると、必然的に中国の債券を購入することになることに対して若干否定的な意見が出ている、というような報道されています。他方、中国は、先ほどおっしゃったように、外貨準備の中で米ドルの比率を下げて、日本の国債を買っているという報道もございました。また、ロシアも含めて、大国が米ドルからその他の通貨にポートフォリオを変更しています。特にロシアに関しては、資料に示されている通り、人民元のシェアが非常に高くなっており、私はこれは、中国の人民元の金融面における国際化がスタートした兆しではないかと考えています。
そこで御質問なのですが、日本が中国の国債に対して、年金、あるいは外貨準備といった正式なところで購入に踏みとどまるといった状況がこのまま続いていくことが果たしていいことなのかどうかということを真剣に考えるべき時期に来ているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。日本がアジアの金融市場において唯一のハードカレンシーとして、債券市場、金融市場がともに成熟していたという時期が終わり、急激に中国にその座を乗っ取られてしまうような可能性のある状況になっても、日本が相変わらず中国に対して若干否定的な態度を取り続けると、アジアの金融市場の中での日本の役割というものが薄れてしまう可能性も高いのではないかと思います。財務省としては、こういった局面を迎えて、どのようなことをより注視した上で中国の国債といったものに向き合っていこうとしているのかということについてのお考えを伺えればと思います。よろしくお願いいたします。
○小川分科会長 時間の関係もありますので、一通り質問を受けて、それからまとめてお答えを頂きたいと思います。
それでは、大野泉委員、お願いします。
○大野(泉)委員 どうもありがとうございます。非常に詳しく、また、直前までのアップ・ツー・デートの情報も頂きましてありがとうございます。
私からは、国際開発金融に関することで、ワクチンと、それから、途上国債務の問題について、コメントと御質問をさせていただきたいと思います。
まず、ワクチンにつきましては、いろいろ詳しく御説明がありましたけども、おっしゃるとおり、今、先進国の中でもワクチンのちゃんとした供給とかといったことが非常に重要になっていますが、やはり、世界全体が本当に健康、安全を守らなければ、結局はCOVIDというものの感染は止められないといったことを考えますと、やはり、非常に脆弱な状況にあります途上国でのワクチンの安定供給といったことが非常に重要になると思うんですね。もちろん、コバックスファシリティーとかに日本も拠出していたりとか、いろんなイニシアティブが出てきているのは非常にすばらしいと思っています。ただ、安全性とか、そのための審査基準とか、あるいは適切な価格、それから、やはり、届けるといった意味では、コールドチェーンとか、あるいは、実際にデリバリーをして、そういったような体制全てがつながっていると思うので、その辺を、やはり国際協調、MDBsと、それからバイの取組をうまい形で結びつけ、あるいはユニセフなども重要な役割を果たしていると思いますので、そうしたところを丁寧に日本がつないでいくといったことをやっていただければと思います。そういったことをしてこそ、やはりUHCというものを日本が掲げているといったことを本当に示せると思いますので、そこは本当に、安全性、審査基準、価格、デリバリーを含めて、ぜひよろしくお願いしたいというふうに思っております。
それから、債務の話なんですが、これは2つありまして、1つは途上国債務と、もう1つは日本自身の話なんですけども、やはり、途上国債務につきましては、今、非常に画期的な合意が中国を含めた非パリクラブの国々との合意が、債務救済についての共通枠組みができたといったお話を伺いました。これにつきましては、実際、非パリクラブの国の今後の具体的な債務救済とかリスケを始めていくときに、どれぐらいの実効的な仕組みがもうできているのか、できそうなのか。やはり、パリクラブではそういった会合というか、そういった仕組みがまだないと思いますので、この合意の後、やはり実際に中国を含めた新興国がそれを実施していかなきゃいけないといったことがあると思うんですけども、その辺の実効性というものをどう考えるか、あるいは、実効性を持たせるために日本が果たし得る役割とか、その辺をどうお考えなのかと思います。やはり、ニューマネーとかを提供できないというような、IMFとか世銀とか国際金融のパリクラブの国とはまた違う状況にあると思いますので、その辺はすごく重要かなと思っております。
それから、もう1つは日本なんですが、あのグラフを拝見して、前から言われていますけども、GDPは二百六十何%ですか。第二次世界大戦の水準をはるかに超えて深刻だと。日本の場合はいろんな意味で経済的な不安定化ということにはなっていませんけれども、やはり、例えば予算編成などでも、今後は中長期的な見通しといったことを、MTEFみたいな、そういった形での枠組みで、当初予算と、それから補正といったことを、全体を包括する形でしっかりした予算というものを組んでいくといった仕組みそのものもつくっていかないと、債務というのは非常に深刻な問題だと思うんですね。ですから、そういった財務省としての仕組みづくりといったこともぜひよろしくお願いしたいというふうに思っております。
以上です。
○小川分科会長 それでは、根本委員、質問をお願いいたします。
○根本委員 今日は本当に詳細な御説明をありがとうございました。
簡単には2点あるのですけど、1つは、今、大野泉委員がおっしゃったことにも関係しますが、新興国からの資本流出のことで、54ページに当たるのかなと思うんですが、この表を拝見すると、非常に大きな流出が一服しているという感じにも見えるのですが、御説明にもあったように、世界経済の回復期待とかワクチンの期待とか、あと、資源価格の回復とかに支えられているのかもしれませんが、それが楽観的となると、一挙にまた全然違うほうに行かないのかなと。あるいは、欧米での金融政策の若干の変化とかで大きくがらっと変わってしまった場合、これだけ債務が一方で膨らんでいる中で、前例にない問題にならないのか、どのようなお考えで対応を考えていらっしゃるのかということを伺いたかったということが1つです。
あと、少しサイドイシューかもしれませんが、最後に気候変動の話がありまして、G20でも引き続き重要テーマということだったのですが、日本はカーボンネットゼロですか、それの政策とかをきっとアピールされると思うんですが、もう少し国際的なフレームワークに日本の考えを入れていくというようなことがあってもいいのかなと思うんですけど、例えば、トランジションファイナンスみたいな考えが今すごく起きていまして、また、タクソノミーとかTCFDというのは、割とブラウンとグリーンにはっきり分けて、ブラウンはちょっと切捨てというか、そういうふうにつくられているようですが、ある程度エネルギーセクターとか電力セクターとかに脱炭素を少し長期的に促していくみたいな、そういう考えを取り入れてもいいのかなと思っていまして、日本もカナダとかアジアの国とか、そういったところとも協調してそういう考えも提言してはどうかなと思うんですけど、そのあたりはいかがでしょうか。
○小川分科会長 引き続き、亀坂委員、お願いします。
○亀坂委員 ありがとうございます。私からは2点質問をさせていただきたいと思います。
先ほど清水委員、大野泉委員から御発言があったことに関連することなんですけれども、1つは、私は財政審の委員でもありますので、財政のサステーナビリティーというのはどこかで議論を、また改めてということになるのでしょうが、始めないと、新型コロナで財政支出が拡大すると、過去にも、一旦災害があって財政支出を拡大させると元になかなか、支出を削減するということが非常に難しかったと思うので、どこかで話し合う場というものを設けていただいて、そろそろ日本も考えていく必要があるのではないかなという問題意識を持っております。
EUは、34ページのスライドで示していただいたように、コロナ禍の下でも返済財源とかをちゃんと議論されているようなんですが、このような状況下で、もちろん日本として最優先すべきは今日、明日の生活に困っている人ということは重々理解できるのですが、ただ、これは将来的には誰かが負担しなくちゃいけないということになりますので、そろそろ財政の、特に日本の財政のサステーナビリティーについて議論する場というものが必要なのではないかというふうに改めて感じております。
2点目は、関連することだと思うんですけれども、日本や米国の国債の買手が誰なのかということは私も気になっておりまして、気にされている方は多いと思うんですが、米国はバイデン政権の下で非常に大規模な追加経済対策をしているとはいえ、米国債を例えば中国債に変えることというのは非常に気にされていると思うんですね。例えばなんですけれども、日米で新型コロナがある程度収束した後のこととかを国際的に議論するとか、あるいは、コロナ禍の下での財政支出に関して、ある程度為替相場と市中相場は切り離して、日米で国債を相互に保有するとかを例えば議論できないのかなと。株式市場で言うと立会外取引とかがどんどん進んでいますが、そういった為替操作だとか面倒くさい議論なしにもうちょっと、日米でお互いに国債を保有し合うとか、そういったことは考えられないのかなと思っております。
以上です。
○小川分科会長 それでは、春田委員、お願いいたします。
○春田委員 春田でございます。私のほうからはコメントと、少し質問させていただければと思います。
今、コロナ禍の中で、産業構造の転換が進んでいると思っております。とりわけデジタル化の遅れが指摘されており、その中で急速に、テレワークを含めて、日本の中でもデジタル化が進んでいるだろうと。ただ、少し気になるのは、先ほど格差拡大の話がありましたけれども、これによって、産業構造の転換についていける企業とついていけない企業、個人ベースで言うとついていけない人も出てくると考えており、ますます格差が拡大していくのではないのかと懸念しております。この中で非常に重要なのは、今、デジタルリカバリー、グリーンリカバリーと言われるように、やはり、産業構造の転換の中で対応できる人材を育成していくことが非常に重要だと思っていまして、人材育成、人材投資に力を入れていくことが格差拡大を止める1つの有効な手段であると思っているところであります。
それから、先ほど所得再分配の話がありましたけども、格差が拡大する中で、できるだけ所得再分配機能を強化していくということが重要と思っています。今、金融市場において株価が上がってきている状況ですけれども、これは本当に、株を持っているような高所得者がますますもうかるような仕組みになっていまして、これがまた格差拡大にもつながっているのかなと思っています。そういう意味では、金融所得課税の強化を含めた所得再分配機能を強化するような仕組みを考えていかないと、なかなか格差拡大に歯止めが出ないのかなという気がしているところであります。
質問なんですけれども、先ほどの話だと、コロナ禍において財政支出が拡大していると。これは緊急支援ということでは必要なことだと思っていますけれども、先ほども御意見があったとおり、財政再建に向けての道筋、そういったことをやっぱり考えていくことがこれから必要になってくるのではないかと思ってございます。そういった意味でのコメントがあれば頂きたいということが1つです。
それから、もう1つです。デジタル課税の話もございました。デジタル課税の動きについては御説明にあったとおりでございますが、なかなかコロナ禍の中で、どの企業もそうでしょうが、税収が厳しい中でどこかに目を向けていくことになったときに、GAFAのようなIT化の中で非常にもうかっているような企業、これがもうかっているからというわけではないですが、そういった企業に対して、デジタル課税を検討していくことに目を向けないといけないのかなと思ってございます。そういう意味で、デジタル課税についてはやはり一歩踏み込んで、日本として国際的な役割を果たしていかなければならないと思っていますし、そのあたりの考え方を含め、少しコメントを頂ければありがたいと思います。
以上でございます。
○小川分科会長 どうもありがとうございます。
質問は以上ですので、委員から頂きました御質問につきましてお答えを頂きたいと思います。
○神田国際局長 非常に貴重な御意見、あるいはレリバントな御質問を頂きましたが、ちょっと数が多いので一言ずつで、また、必要があれば後ほどさらにフォローしたいと思います。
まず、清水委員からありました中国の関係、これはいろいろ意見があるセンシティブなエリアではあるのですが、基本的には、まずやっぱり、金融面で言うと、まだまだ中国の資本取引の自由が確保されていないところが気になる人が多いと思います。結局、今ある状況というのは、まだまだ規制の安定性、透明性というものが十分ではないのではないかと。特に、資本市場、資本取引そのものではありませんけど、例えば、最近のコーポレートガバナンス的な動きというのは市場経済とはかなり異なった方向になっている。あるいは、最近のアントの話なんかも正直衝撃を受けたようなところがあります。それに加えて、長期的に考えると、中国は新型コロナの制圧に奏功した一方で、やはり、今後の人口減少と高齢化が見込まれる中、しかし、社会保障制度が整っていない。あるいは、香港を魅力がないようにしてしまっているようなこと。それから、やはり、自由に対してこういう行動を取っていることが今後のイノベーションに対してどういう影響を与えるのか、そういったところも気になる人が多いんだと思います。いずれにしても、今、GPIFでも論点の整理を始めたという報道がありますけれども、私どもも絶えず一般論としてはあらゆることを考えるわけでありますが、やはり慎重な考慮が必要なファクターもあるのだろうなというふうに考えております。
それから、大野泉委員のお話ですけれども、全くおっしゃるとおりで、ワクチンは今、ほとんどの国がコバックスを支援しようという、非常にいいコンセンサスができています。結局、どこかに、最貧国にでもクラスターが残っている限り、変異リスクを含め、人類は新型コロナから逃げることができませんし、あるいは、グローバルサプライチェーンも戻ってこないわけですから、これは非常にインセンティブのある正しい国際協調の議論はできているのですが、他方で、やはり残念ながら、国内政治もありますし、実際に医療崩壊の危機の下で、取合いみたいになっているところもありますし、また、もう1つは、逆に、一種の国際プレゼンスの競争みたいなツールになってしまったりして、理想どおりにはいっていないところがあります。特に、バリアントに効くのがどうかという話とか、あるいは副作用の話も出てきているし、それから、限られたパイの取合い、今はヨーロッパとイギリスで、アストラゼネカがああいうふうになっちゃっている。僕らは、確かに国内の人たちにやらなきゃいけない。日本も遅れているほうなんですけれども、そこをしっかり押さえつつも、人類社会に貢献すべく国際的にしっかりと貧しい人たちに行き渡るようにすべきということも言い続けているので、これは続けていきたいと思っております。
それから、非パリクラブの話なんですが、これははっきり言って、これまであまりなかったことなんですね。ノントラディショナルなところからの債務が増えたということは過去からあったのですけども、そこが債務危機になるということはかなり新しい現象で、結局、コモンフレームワークもケース・バイ・ケースでやることになって、1つずつやっていかなきゃいけない。そのときの前提で一番大事なのは、やっぱり透明性。要するに、みんながお互いにどういう債権をもっているのかということが分からないと、公平な分担ができない。1つ言えるのは、中国とか、コマーシャルが大規模債権者であるとすれば、彼らこそ放っておいたら全部吹っ飛ぶわけですから、国際合意を作る、合理的であればインセンティブがあるはずなので、そういうものをしっかりと説きながら、みんなで最も全体のベネフィットが高い、コストが減っていくような債務再編がなさればいいだろうなと思いますが、いずれにしてもこれからの話です。
大野泉委員に加えて亀坂委員、春田委員がおっしゃった、日本の財政が突出して悪いということは当然我々は一番意識していますし、いろんなところで指摘されるところであります。ただ、補正当初というのは、我々の目標も一応PBベースでやっていますので、そこは一応意識をして全体を対象にしているのですけれども、今後どういう議論をするのかということは我々も非常に悩ましいところであります。今の国際的な議論は、日本が突出しているので、それを改めるのもどうかという議論は強いのですけれども、一般論から言うと、新型コロナが続いている間はプリマチュアにウィズドローをしないほうがいいと。しかし、そうはいっても、どんどんターゲッティングをして、本当に困っているバルネラブルなところに絞っていかなきゃいけないし、それから、もともとサステーナブルでないところを守っていたら、さらに生産性が下がって雇用も失われるので、しっかりと、言ってみれば生産要素が将来性のある産業へ移動できるような形でやる。要は、新型コロナ以前から駄目なところを守ることはしないようにしたほうがscar、後遺症は少ないでしょうねと。そして、みんながそういった足元で新型コロナ対策をしないわけにいかないけれども、中長期的なサステーナビリティーも同時に考えながらバランスを取ってやっていかなきゃいけないという中で、日本は一番財政の状況が悪いわけですから、そのバランスの中で、コロナが落ち着けば、債務が発散しないような取組というものをしっかりやらなきゃいけない。ただ、新型コロナのど真ん中でやっても、正直、政治的なフィージビリティーがないので、我々はしっかりと研究と啓蒙をするとともに、必要なときにしっかりと打ち出していくようなことも考えなきゃいけないと思っております。ですから、これは別にコンプライアンスというわけではなくて、しっかりと取り組んでいかなきゃいけない課題であります。
それから、根本委員のエマージングの資本流出入なんですが、これも2つ変数があって、ドル高になると厳しくなっちゃう、返せなくなっちゃうということと、それから、リスクオンになるとアメリカからわあっと資本が戻ってくるようなメカニズムの中で、今後はどうなるのかというのは我々もよく見ています。御存じのとおり、例えばチェンマイとか、ああいうのは日本政府が主導してエマージングがこけないような取組をしていて、最近もチェンマイ・イニシアティブがより機能的に動くような工夫をしたところでありまして、ここはしっかりと念頭に置いてやっていかなきゃいけないと思っております。
それから、ネットゼロに向けた取組の中で、トランジションファイナンスとか、こういったものはもちろん我々はしっかりと議論に参加していきます。やっぱり難しいのは、フィージビリティーが必要なところで、あまり緩い感じだとモラルハザードになって、ものすごい勢い、特にヨーロッパを中心とした流れの中で間に合わない。孤立するどころか、物理的にマーケットを失ってしまうようなところがある一方、本来であればちゃんと対応しなければ自然死をしちゃうということをちゃんと分かってもらわなきゃいけない。そこは規制といろんな支援策を組み合わせてやっていくと。規制というか、ディスインセンティブですね。カーボンプライシングみたいな話もあるわけですけれども、ここはまた非常に国内調整が難しい分野ですが、みんな念頭にはあって、環境省も経産省もそれぞれ委員会を立ち上げて勉強を始めたり、我々もいろんな取組をしていくということだと思います。
それから、亀坂委員の国債の主な買い手、これは残念ながら、今はセントラルバンクなんですね。なので、ちょっと異常な状態なので、しかも、マーケットでもむしろ品薄で買えない状況ではないので、結局これは複雑な問題で、最終的には中銀の金融政策というところもあるのですけれども、大事なのは、大分先になってしまうのかもしれませんが、ノーマライズのプロセスの中でたまったデットというものがどうなっていくのかというようなことが、要するに一番課題として現れてくることなんだろうなと思います。国債の議論のときに、これはまた難しくて、中銀のバランスシートを見ても、これはたしか作ってきましたけど、114ページですが、日本の国家債務だけではなくて、中銀のバランスシートも突出しているので、なかなか同じような議論にならないところがあって、いずれ日本独自の悩みとしても取り組まなきゃいけない部分があるかもしれません。BOJとしては、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくため、この3月の金融政策決定会合を目途にこれまでの政策を点検して公表することをやられると承知しております。
それから、春田委員のデジタル化の人材育成の話というのは全くそうで、実は我々も新型コロナの前はそれを考えていたのです。例えば雇調金の改革なんかも、休業者を持続可能でないところに張りつけるのではなくて、転職をする人の就業支援、転職支援みたいなことを、要するに、能力をつけていくということにシフトしようとしていたのですけども、残念ながら新型コロナが起こっちゃったので、取りあえず抱えてくださいという、むしろそれと逆行する形になってしまったんですね。でも、よく言われる、例えば北欧なんかがどうしてみんな1人当たりGDPが高いのかというのは、やはり、レーバーマーケットが極めてフレキシブルで、とにかく容易に失職するものの、しかし容易に新しい産業に移れると。同じことはできませんけども、恐らく日本が一番欠けている部分がこの労働流動性と企業の新陳代謝で、それがいろいろな既存の企業の温存策のネットワークと相まって日本の生産性を落としてしまっていて、結果的に雇用機会もサステーナブルではない。そして、実質賃金が世界で一番上がらない国の1つになってしまったというところがあるので、新型コロナが落ち着いたらというか、ヨーロッパのように、新型コロナを契機として新しい産業への労働の移動ができたらなと思っているのですが、正直なところ、今のところはできていません。ただ、今回、昨日通していただいた補正予算でいろいろ御批判もあるかもしれませんけれども、足元のコロナ対策だけではなくて、デジタル、クライメートの投資の部分というものを置いているのはそういった問題意識もあるからで、やはり、次の産業構造の変化に対応した雇用を生み出すためには、将来性のあるところに投資しなきゃいけないという強い思いがあるわけであります。
それから、所得の再分配機能ということで、これも全く個人的にそのとおりだと思っていて、ここまで極端に格差が出たこと、特に、一握りの人が何兆円、何十兆円ということはあまり人類の歴史でもなかったので、恐らく一番強力な、しかもフィージビリティーに近いものは、国際課税改革によって、GAFAとかがしっかりと社会に還元していただくということなのかなと思います。しかも、デジタル課税がうまくいかなければ、恐らく国内でも、我々の主権国家の徴税ベースというものはどんどんなくなっていくと。この頃本当によく感じるのは、経済統計がどこまで信頼性があるのかという議論があります。CPIもそうですし、GDPもそうで、多くの部分がデジタルで捕捉できていない。しかも、そもそもマネタイズされないようなサービスが多い。ただのサービスみたいなものをどうやってやるのか。そういった中でどんどんデジタル化を我々が進めているということは、主権国家が実はキャプチャーできてない部分が増えていて、それが非常に表れているものの1つがソブリンによるタックスの世界でありまして、ここをしっかりやらなければ主権国家が成り立たなくなっていくと思われます。それに加えて、もちろん伝統的な国内の所得再分配というのは、バイデンさんも法人税、所得税、金持ち増税をやろうとしていて、うまくいくかは分かりませんけど、そういった議論というものも出てきて、日本も御存じのとおり、数年前に最高税率のバスケットを上げたりして、そういった問題意識は持っているのですが、金持ちが逃避してしまうといったいろんな議論もあって、一筋縄にはいかないところですけれども、ここも強い問題意識を持っているところでございます。
私からは以上です。
○小川分科会長 どうもありがとうございました。
それでは、本日の2つ目の議題、「経済のデジタル化がもたらす国際金融上の課題・対応」に移りたいと思います。
まず、岩下先生から御説明いただきまして、その後、意見交換の時間を取りたいと思います。岩下先生は1984年に日本銀行に入行され、下関支店長、決済機構局参事役、フィンテックセンター長などを歴任され、2017年より京都大学公共政策大学院の教授を務められています。情報セキュリティ、フィンテック、暗号資産などを専門に研究されているほか、金融審議会委員、規制改革推進会議委員を務められています。
それでは、岩下先生、よろしくお願いいたします。
○岩下京都大学教授 どうぞよろしくお願いいたします。京都大学の岩下でございます。私からは、資料を私の今映っている画像の中に織り込んで、こういう形で講演をしたいと思います。この関係で、皆様の右肩にレイアウトというボタンがあると思いますが、これをフォーカスというところにしていただくと、私のこの画面が大きく映ることになると思います。ぜひこちらをフォーカスにして御覧いただければと思います。
それでは、まず、本日頂きましたテーマである「経済のデジタル化がもたらす国際金融上の課題・対応」ということで、ステーブルコイン、CBDC等についてお話をさせていただきたいと思います。
本来、ステーブルコイン、あるいはCBDCといった比較的既存の国際金融のツールに近いものをイメージされて御依頼を頂いたのだと思いますが、これらのものは、実は、暗号資産、典型的にはビットコインですが、こちらの発達、発展とともに注目をされるようになりました。そういう意味では、根が一緒のところから生えているものでございますので、先ほどの神田局長のプレゼン資料にもその3つが並んで書いてあったと思います。このために、今日のお話としては、まず最初に暗号資産の状況をお話しした上で、その後、リブラに代表されるような民間のデジタル通貨、そしてCBDCといったところの最近の動きについてお話をさせていただく、そういう流れでお話をさせていただきたいと思います。
まず最初に、暗号資産相場の変動ということでございますけれども、やはり、昨年の年末から今年の年初にかけて、急激に暗号資産、特にビットコインの相場が上昇したことは、皆様も御存じだと思います。前回、2017年年末のピーク時が2万ドルであったことに対して、今回、2021年の1月に入ってからですけれども、この最高値が実に4万ドルと、前回のピークの2倍を超しているという大変な値上がりをしました。ちなみに、ここから最近はかなり落ちまして、今日の相場は3万3,000ドルぐらいでございます。
まず、ビットコインが国際金融、外国為替といったところとかなり密接な関係を持つようになったというのはいつ頃かということですが、かなり遡るんですね。どういうふうに遡るかというと、今がこの辺でございますけれども、前回のピークはこの辺ですね。さらにもっと遡って、2013年の3月にキプロス危機というものがございました。このときに、キプロスの銀行にたくさんのロシアの方の資金が預金されていました。これをキプロスから何とかロシアに戻したいというふうに預金者の方が考えたようです。当時、たしかキプロスに逃避資金が眠っていて、そのためにユーロ危機の中でそれをバックアップするのは適切かどうかという議論が随分マスコミ等に載っておりましたからね。そのときに、3月に実際にキプロスの銀行が事実上営業を停止して、SWIFT等も止まって国際送金ができなくなったタイミングがございました。このときに、キプロスからロシアに、キプロスの中でたまったユーロをどうやって持ち出すかという議論になったときに、ビットコインを使えばいいではないかということをロシアの方々は考えたようです。その結果、ビットコインを使って実際にキプロスからロシアに送金がされたということらしいのですが、そのときに、ビットコインにそういう用途があるのかということに人々が気がついて、当時、2013年3月の時点では20ドルぐらいだったのが、一気に数日のうちに200ドルぐらいに上がったというのが、最初のビットコインのデビューのような感じでしたね。
その後、中国の方々が、中国の国内でビットコインを買えば、それをインターネット経由で海外に、中国の当局の関与を受けずに送金できるということに気がついて、ビットコインの大ブームが中国で起きました。この結果、このときはたしか1,000ドルぐらいに上がったのだと思います。
その後、ずっと相場は安定していたわけですが、2017年にばあっと上がったわけです。ちなみに、この絵と、もう1つ、この次の絵というのはビットコイン以外の暗号資産も含めた全体の相場なんですけど、これは大体似た絵をしています。似た絵をしていますが、1つの違いは、最近はそんなに高くないんですね。先ほど、ビットコインのほうは2倍に上がったと申し上げましたが、暗号資産全体はたかだか二、三割しか増えていないんですね。もう1つは、2017年の相場上昇のときに、ビットコインは年初はピーク時までに20倍上がったのですけど、暗号資産全体でいくともうちょっと高く、50倍ぐらい上がっています。これはどういうことを意味するかというと、ビットコインというものの暗号資産の中に占めるウエートというのはオレンジ色の部分でございまして、2017年の頭ぐらいまでは暗号資産といえばビットコインでした。この頃は仮想通貨と言っていましたが。ところが、それが2017年に20倍に値上がりしたんですね。1,000ドルから2万ドルです。ところが、そのときに同じタイミングでイーサリアムが上がったんですね。それ以外の暗号通貨もどんどん上がって、結果としてビットコインのウエートが半分以下に減ってしまった。20倍に上がったビットコインのシェアが半分に減るというのは不思議なことなんですが。ビットコインのシェアが一番低いときには30%近くにまで落ちました。それが、今はビットコインだけが復権して、足元のウエートは63%ぐらいに上がってきているという状態にございます。
2017年になぜこんなふうに上がったのかという話をします。ビットコイン以外のイーサリアムというものがなぜ上がったのかということなんですけど、イーサリアムの実際の相場のグラフはこちらの折れ線グラフであります。2017年の頭にはたしか10ドルぐらいでしたが、それが一気にほんの数か月で1,000ドルを超える値上がりになりました。これは、なぜここで上がったかというと、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)という、いわば暗号資産を使った錬金術みたいなものができる時期が一時ありまして、2017年から2018年にかけて、ICOによって、実際には全くうつろな、何も実態のないプロジェクトをやるのでお金が欲しいということで、クラウドファンディングみたいな感じでお金を集めて、そのお金を集めたときのあかしとしてトークンというものを渡すのです。そのトークンがどんどん値上がりする。そこで、そこに群がった人たちが大量にそれを購入して、イーサリアムを使ってICOに投資をしたので、イーサリアムの値段も上がった。つまり、イーサリアムがICOのプラットフォームとして非常に注目されて上がったというのが2017年の相場上昇でした。したがって、そのときは、まずイーサリアムが上がり、それに引き連れてビットコインやその他の暗号資産が上がって、ビットコインが2万ドルになったということが前回の経過だったわけですが、今回、ICOは世界的に2018年ぐらいで鎮静化して、今はほとんど行われていません。
今回の相場の上昇は何だったのかというと、これは諸説があるのですが、私が非常に有力だと考えているのはステーブルコイン、今日のテーマの1つであるステーブルコインが出てきましたが、ステーブルコイン、テザーと呼ばれるものは、昨年の1年間で、それまでの40億ドルぐらいから240億ドルに、6倍ぐらいに増えているんですね。この増え方というのはちょっと異常でありまして、このように発行されたステーブルコイン、これは、ステーブルコインというだけあって、相場はほぼ1ドル近辺で動いています。真ん中が1ドルで、高いときには5%ぐらい上がったりしますし、安いときには3%ぐらい下回ったりしますけれども、基本的には1ドルでほぼ安定して取引をされています。ということは、つまり、1コイン1ドルの決済用の通貨を、テザー社という会社が発行しているということになるわけです。ただ、テザー社というのは別に中央銀行でも政府でもありませんので、ドルの預金とか現金に近いようなものを発行してよいのだろうかというようないろいろな議論があります。ちなみに、2019年のニューヨーク州の司法長官、これは、アメリカの場合は州法で暗号資産を規制しておりますので、その司法長官が、テザーの発行というのは、言ってみれば、テザーを発行して投資信託みたいな形でお金を集めて、その資産をディスクロージャーとかをしないままにがんがんに投資を行って、結果として投資が失敗して、テザー社は大きな損失を出しているのではないか。そうすると、1テザーが1ドルだというのも、そのうち化けの皮が剥がれて価値がなくなってしまうのではないか。そうなる前に、こういう発行をしてはいけないという形の警告を司法長官がテザー社と、テザー社と役員が同じ構成になっているビットフィネックス社、これは香港を中心地とする、実体はマルタにあるのかな、暗号通貨の交換業者ですが、これに対して指摘をします。
この指摘を受けてテザー社がこれを発行するのをやめるかと思いきや、そんなことは関係ないという感じで、このタイミングから急激にテザーの発行を急増させるんですね。急増させた結果、発行させたテザーによってビットコインを買って、そのビットコインが値上がりして、またテザーをそれに併せてどんどん発行するという形で、ポンジスキームに近いような形でビットコインが買われました。ただ、一方でビットコインは実際に値上がりしていますので、テザー社自身は現時点では大幅な資産超過だと思いますけども、そういうものが行われている。ただ、これは、一歩間違えると、例えばコロナショック、去年の3月には新型コロナの感染拡大を受けて、ビットコインの相場はそれまでの1万ドルから5,000ドルに落ちましたので、そういうふうに一瞬の間にしてビットコインというのは値下がりをします。今はそれが4万ドルに上がって、今は3万ドルぐらいに下がったというところですけれども、これがいつ下がるかどうかも分からないので、そうすると、一方で固定の負債、もう一方で可変の資産を持っているような人たちは大丈夫なんだろうかということは、ニューヨーク州の司法長官でなくても心配されるところですが、これだけ巨額で投資されたことは、ビットコインの昨年末から大きな値上がりにかなりプラスの寄与をしているだろうと考えられます。
ビットコインとマイニングでちょっとお話ししますと、今、ビットコインというのは全世界で、この時点ですが、1万1,575台のサーバー等から構成されています。そのサーバーの中に324ギガバイトぐらいのブロックチェーンというデータベースが今ありまして、このデータベースの中にビットコインの取引記録が残っているんですね。1個1個のパソコンは大したことがないもので、簡単に中身を書き換えられたりしてしまうのですが、1万1,000台全部を書き換えるのは無理でしょう。これがビットコインのセキュリティーのコアになっています。ちなみに、日本には今現在220台、こういうビットコインのブロックチェーンを記録しているフルノードという端末があることになっています。
これに対してマイニングという行為を行って、次のブロックを生成するということになるわけですが、マイニングをするとき、非常に難しい計算をやる必要があります。典型的には、簡単に言えば、頭の20桁がゼロみたいな、そういう特殊な数字をランダムな計算の中で求めなさいということをやるわけですけども、これの難易度が20桁で固定ではなくて、20桁が21桁、23桁、25桁みたいに難しくなっていくのです。今は過去のレベルに比べると2018年、2019年、2020年とものすごく上がって、過去で一番難しいレベルになっていますので、極めて大量のマイニングマシンが必要になります。マイニングマシンが必要というのはどういうことかというと、大量の電力を消費します。どれぐらい電力を消費するかという推計値がありまして、ケンブリッジ大学の推計によればですけれども、大体100TWh/yということです。1年間に100テラワット時の電力を使っている。これは大体フィリピンとかベルギーとかオランダに匹敵するぐらいの電力をビットコインのマイニングだけで浪費しています。これは別に、この電力自体はビットコインのマイニングには必要なんですけども、何かを生み出すものではなくて、浪費されているものですので、先ほどグリーンファイナンスといったような話があったと思いますが、こういう観点から見てどうかという議論はあると思います。
それから、暗号資産自体というものはいろいろリスクを抱えておりまして、過去に様々なサイバー攻撃がありました。例えば、マウントゴックス事件の480億円とか、コインチェック事件の580億円といったような数字は、皆さんもニュース等でお聞きになったことがあると思います。実は、日本は比較的被害額が多いですが、別に日本だけではなくて、世界の至るところでこの種の犯罪は起きていまして、いろんなところの交換業者が被害に遭っています。ちなみに、今から3年前の2018年1月26日に起こったコインチェック事件においては、NEMという暗号資産がコインチェック社から犯人のアドレスに送金をされたのです。その後はどこに送金されたかというのは、これは別に捜査資料とか、そういうものではなくて、インターネット上で誰でも取れるNEMブロックチェーンエクスプローラーというところで私が取ってきた情報なので、今どこにあるかというのは全部分かるのです。分かるのだったら、この580億円を盗んだ犯人は、もし普通の銀行預金であれば、それを差し押さえて、そこでそういう犯罪自体が解消することができそうな感じがしますよね。ですけれども、この暗号資産の世界ではそういうことはできないということになっています。なぜできないのかというと、暗号資産というものはブロックチェーンによって取引をされている。これに対して採掘業者がやっていることがほぼ唯一存在している真正な記録なんです。ほかの何にも頼らない、このブロックチェーンの中に書いたことだけが真理ですという形の発想になっています。
ちなみに、ビットコインの場合は220台日本にはあると申し上げましたけども、日本でビットコインに投資している投資家の方は350万人おられます。その方々は基本的に何をやっているかというと、取引所に預けているんですね。ですから、取引所が狙われると、そこから480億円とか580億円が盗まれてしまって、こっちに流れてしまう。こっちに流れてしまうと、完全なワイルドウエストというか、法律の規制が効かない世界なので、どこにあるかが分かっても、それを差し押さえに行くことも捕まえに行くこともできないという構造になっています。ちなみに、こういう取引所にビットコインとかを預けて、そこの人たちにそこから先の取引を委ねている。これは350万人のほとんどの人で、Off-chain取引といいます。この人たちは基本的に単なる投資家で、素人の人たちが多いですけれども、これに対して、セミプロとか、あと、マネーロンダリングとかテロ資金とか、そういうことのために使う人たちはOn-Chain取引で、ここに直接書きます。このブロックチェーンに直接書く人たちがいるので、ビットコインとかその他の暗号資産が国際的な取引にも使える。どこかの誰かに管理されているわけでもないと、そういう問題があります。これは細かくは言いませんけれども、暗号資産のOn-Chain取引とOff-Chain取引で、今、日本の国内で主に皆さんがやっていらっしゃるのはOff-Chain取引なので、これでもうかった、もうからないという話をしているわけですが、実際には、もともとOn-Chain取引で、匿名の取引のために使われつつあったものが暗号資産です。匿名の取引のために誰も管理しないシステムとしてつくられたものがビットコインなので、これらのものが国際的に政治体制とか法律とかのルールの違いを乗り越えて各国で使われるということになっているのです。
さて、この辺の動きを見て、フェイスブック社がリブラという構想を提案したのが一昨年、2019年6月のことになります。2019年6月にリブラのホワイトペーパーを出しました。数十億人もの人たちの金融基盤に使われるとされました。結局、国際的に見ると、例えば中国であるとかインドであるとか、あるいはケニアであるとか、そういう国々では国内の決済システムがあります。もちろん日本やヨーロッパやアメリカも国内決済システムがありますから、それらを通じて国内の資金が電子的にも決済できるわけです。しかし、アフリカとか南米とかですと、国内の電子的な決済システムがきちんと整備されていない国があります。そういう国においてスマホなんかを使って決済しようと思うと、グローバルに流通している暗号資産、ビットコインなんかを使うしかないという実態があります。ビットコインは先ほどのように値段が上がったり下がったりします。その他にも、アンダーグラウンドでかなり危ないことに使われているものです。そうではなくて、もうちょっときれいなものをつくろうよということがリブラの提案だったわけです。
ところが、それに対して、フェイスブック社がやるとしても、それ自体がマネーロンダリングであるとか、あるいはテロ資金であるとか、さらに言うと、様々な投資家保護の観点から問題が起こるのではないかということで、それに対するG20のプレスリリースが2019年の10月に出されました。その4日後にフェイスブックのザッカーバーグCEOが公聴会に出席しまして、かなり袋だたきに遭った感じです。私は、これは仕事なので、午前0時から朝の5時までずっと議会のライブストリームを見ていたのですけれども、面白かったのは、議員の方々が大変口々にザッカーバーグを批判して、そのときに、先ほどのG20のプレスリリースを引用するんですね。ところが、アメリカの議員の方々は、G20とおっしゃらずにG7、G7とおっしゃる。なるほど、アメリカの議員の方々はG20というものが存在していることをあまり意識しないで、G7なんだな、まだ彼らの間ではと、そういうふうに感じたわけですが、そのときに割とサンドバック状態で袋だたきにされているザッカーバーグがほぼ唯一反論として返したのは、我々を止めてもいいけれども、我々がやらなければ中国がやっちゃいますよと、そういう中国脅威論だったわけですね。
実際に、同じ月に、中国人民銀行が世界初のデジタル人民元を発行しますということを10月28日に、黄奇帆さん、元重慶市長だそうですが、この方がおっしゃったということで、この記事が載っていました。
次の文章を全部読み上げる気はないですけれども、すごく長く書いてありますので。ただ、ここに書いてあることは、要するに、今の国際的な金融決済システムというのはアメリカの覇権のためにつくられているのではないか。それに対して、主権国家にとって最良の方法は、政府と中央銀行が主権デジタル通貨を発行することなので、アメリカの覇権主義に対応するために、中国はそういう中央銀行デジタル通貨を発行するのだという、随分政治的なプロパガンダなわけです。これを言われると、確かにアメリカはそうなのかもしれませんが、中国がつくったら、今度は中国が覇権主義でそれを使うのではないかという自家撞着した議論かなというふうに思ったところです。
ちなみに、それ以外の国もいろんな中央銀行デジタル通貨みたいなものをつくっています。例えば、マーシャル諸島というのはドルを使っている国ですが、独自の通貨で、もうちょっと誤解のない名前にしてほしいのですけど、ソブリンというものをつくりますということで、法律までつくっちゃいました。ところがこれはイスラエルの会社が提案したのだと思いますけども、IMFは、そんなものをやったらマネーロンダリングとかいろいろ問題が起こるから駄目だよということを言っています。つまり、今のところ、中国のデジタル人民元というのは、せいぜいアリペイの中央銀行版みたいになっているのですけれども、あれが国際的に使われるかというと、全然そういう気はしないんですね。どうやって使うのだろうかという仕組みが全く見えてこないので。ただ、それがもし仮に国際的に使われるようになるとしても、結局それは、先ほどの国ごとの覇権がどうのという話と絡みますから、中国と親しい国が中国のデータベースを使って使うということになるのかなという感じがいたしますが、それが果たして今の国際通貨体系との間でどうなるのだろうかということはちょっと疑問かと思います。
ただ、こういうことの議論をしていますと、当然、日銀も含めて、日米欧の中央銀行がいろいろとBISと一緒に議論をして、CBDCについてのレポートをまとめました。それを踏まえて日銀もCBDCのレポートを発表しましたが、実は、一番大事なのは、現時点でCBDCを発行する計画はないと認識しているところでありまして、ただ、CBDCをもし仮に発行するのだとすればどうするかということを3段階のフェーズに分けてこれから検討していきますよということを日銀は資料で発表しております。ただ、もし仮にこれをやるとなったら、これは当たり前ですけど、官業による民業の圧迫ですよね。かつ、もし仮にこれをリアルタイムで中央銀行のデータベースでやるとなると、日銀ネットが止まったら日本経済は大変だとよく言いますけど、実際には大本の部分なので、個々の取引は動くのですが、もしみんながこれを使うようになって、それをセンターで処理するようなことをやったら、これが動かなくなったら、その途端に全部が動かなくなっちゃいますから、そういうリスクはとても取れないだろう。もうちょっと遊びを持った構造の骨格にしてやっていかなくちゃいけない。もし仮に、例えば1997年、1998年のような金融危機が起こったら、電子的な取付け騒ぎが起こってしまうのではないか。アンチマネロンとかはどうするのだろうかとか、データが中央銀行に集まっていくと、プライバシーの保護であるとか、データの活用を中央銀行ができないことをどう考えるかとか、そういったことについていろいろ考えなくちゃいけないということが、私が本日申し上げたかったことでした。
若干時間がオーバーしましたことをお許しください。私からは以上でございます。
○小川分科会長 岩下先生、どうもありがとうございました。
それでは、意見交換に移りたいと思います。ただいま岩下先生から発表いただきました内容を踏まえまして、御意見、御質問等がございましたら、先ほどと同じ要領で御発言の意思をお知らせいただければと思います。
植田委員、どうぞ御発言ください。
○植田委員 どうもありがとうございます。大変にまとまった資料で、非常に参考になりました。
私もデジタルカレンシーの件は興味を持って見ているのですけれども、ここで1つ、ちょっとやはり気になるところがありまして、先ほどの1つ前のG20とかG7の取組の説明にもありましたが、民間のステーブルコインに関しては、リブラ等は取りあえずまだ駄目だよというふうに言っているという状況であります。それは非常に意味があるところで、国際金融の世界で言えば、ステーブルコインというのは、例えばいわゆるアルゼンチンの昔のカレンシーボードのような仕組みですので、皆さん御存じのとおり、アルゼンチンのカレンシーボードは結局うそなんだねとポシャったという歴史がありますけれども、そういうような形でフェイスブックだのどこかがやったときに、本当にちゃんと裏づけ資産があるのか、誰がそれをモニターするのかということになってきますと、しかも、一国の中だったら一国の規制当局が見ればいいのでしょうけれども、また例によって、マルタとかバージン諸島とかのいろんな島国でやられて、規制当局がどうやって世界的に規制するのかという話にもなりかねない話なので、なかなか難しい話だと思います。
その一方でしかし、ビットコインのようないわゆるアンステーブルのほうです。裏づけがないと最初から開き直っているコインのほうは、裏づけがないわけなので、規制も何もあったものではなくて、裏づけがないことを分かってみんなは買っているわけですから、規制ができないというか、規制のしようがない状況であります。なおかつ、ビットコインはどんどん買われていまして、結局、確かに価格は乱高下していますけれども、私もちょっと見たところによれば、計量経済学的にフィルタリングをかけて長めの要素だけを取ってきて、短期的には非常に上下するのですが、長めの要素を取ってくると、そんなに言われているほど最近は、最近はまた上がって下がってくるので何が最近かは分からないのですけれども、金とかS&PとかGAFAの株価なんかと比べるとそんなに違いはないのかなと。それなりに納得がいくぐらいの上下幅になってきていますし、ましてや、ペイパルがビットコインをはじめ4つぐらいですか、決済用として認めていますので、場合によっては決済に既に使われていると思うんですけども、どんどんこれから使われていく可能性があって、つまり、ビットコインのようなアンステーブルコインをそもそも規制化するのは難しいですし、どんどんペイパルのような会社が使っていくというふうになってきました。決済でも国際的にも使われつつあるのではないかと。使われてくるのではないかと。そこのところを私は見てみますと、一番ここ一、二年間で起こり得ることなのかなと思っています。その辺のことを1つお聞きしたいということです。
もう1つは、まさにこれは仮定の話で、中国はまだどうするかは分かりませんけど、カンボジアは既にある意味で導入をしているというような状況もあり、今後、中国が導入しないまでも、どこかの小さな国が導入してきたときに、もしくは、もちろん中国は導入したときでもいいのですが、それを日本国内で使うときにどういう対応を。対応することもできないだろうなという気もするのですが、さっき言ったアンステーブルコインへの対応と果たして何か違いが出てくるのだろうかということがよく分かってこないです。もちろん考える意味はあります。というのは、ビットコインみたいなものはある意味で国家主権と別とところにありますので、それは何かのどこかの国の脅威だとか、そういう話にはならないのですけども、これがもちろん、皆さん御存じのとおり、中国だとかという話になってくると、主権絡みのもの、もしくは、シニョレッジのレベニューがどこに行くかなどという話になってくるのでちょっとややこしいのですが、そこの辺は事務局の方にも考えがあればお聞きしたいのですが。仮の話で、例えばウイチャットペイなどというものは日本の百貨店で使えたりするわけですので、それがすぐに、中国人がインバウンドで戻ってくる、戻ってこない、もしくは、オンラインで日本の百貨店から買ってくれるといったら、日本の百貨店とかも喜んで恐らく中国デジタル人民元みたいなものに対応すると思うんですよね、別に放っておけば。そういうことを我々は多分大きな目と小さな目で見ないと。大きな目としては、今後はどうするかということはもっと議論が必要です。小さな目としては、当面はどうやって対応していく方針なのかということを、ちょっと何かお知恵があれば、それから、事務局の中でもし何か考えていらっしゃることがあればお教えいただければと思います。ありがとうございます。
○小川分科会長 質問をまとめて取りたいと思いますので、続きまして、原田委員、お願いいたします。
○原田委員 原田でございます。岩下先生、御説明ありがとうございました。
CBDCに関して、日本の立ち位置といいますか、日本が諸外国と比べてどうなのかというところをちょっとお伺いしたいなというふうに思いました。国際比較で日本はこの面でどういうところにいるのかと。今日御紹介があったのは中国でしたけれども、中国以外の国もデジタル通貨を考えていたりというところがあります。そういうところと比べて日本は十分議論が進んでいるのかどうかといったところをちょっと、諸外国と比較してという形で教えていただければと思いました。
あと、こういう分野は新しい分野ですので、学問横断的な様々な分野の人が議論して詰めていく必要があると思うんですけれども、その辺の議論といいますか、啓蒙といいますか、幅広い意識の共有のような場は日本は十分持たれているのかどうかというところも多少気になりました。
先ほど、最後の御説明のページで、日銀は発行しないと言っていますというふうに一言御説明いただいたところなんですけれども、実験が始まるという段階でありまして、それはどういったことを意図しているのかといったところもちょっと気になるところでありました。植田委員が先ほどおっしゃったように、途上国ですと、民間のデジタルの面が弱いところは、中銀が音頭を取ってやれば民業圧迫にはならないと思うんですけれども、日本はホールセールであるというふうに言っても、民間への影響というものは非常に甚大なものがあるとお考えなのかどうかというところも少し御意見をお伺いできればと思いました。
以上になります。
○小川分科会長 続いて、清水委員、お願いします。
○清水委員 岩下先生、どうもありがとうございました。
岩下先生がおっしゃっていたように、国内の決済システムがそろっていないような新興国、植田委員もカンボジアのことをおっしゃっていましたが、自国通貨に信用がないような国にとっては、デジタル通貨、あるいはCBDCというものは大きな役割を果たすのではないかと私は考えています。特に中国は、アフリカ、中央アジアなども含めた世界中の多くの中央銀行と二国間の通貨スワップも締結しておりますし、そういった中で、中国よりも信用度が低くて、クレジットカードを持てない、あるいは銀行を利用した口座決済ができないような人口が多い国にとって、デジタル人民元の可能性というものはかなり高いのではないかと考えておりますが、岩下先生の御意見を伺えれば幸いです。よろしくお願いいたします。
○小川分科会長 もう1人、大野早苗委員、お願いします。
○大野(早)委員 岩下先生、事務局さんも、大変興味深いお話を頂きましてありがとうございます。
私も原田委員、清水委員の御質問の内容と少し重複するのですけれども、中国がデジタル通貨を今、熱心に取り組んでいるということで、これがどのくらいまで普及していくかということは今後次第というところであるかと思いますが、確かに、金融インフラがあまり発達していないような国では多く需要があるということが考えられるかと思うんですけれども、十分に金融インフラが発達している国、あるいは、銀行システムを非常に重要なセクターというふうに捉えていて、デジタル通貨の発達によって銀行セクターのテリトリーを侵害するというような事態まで発展してくると、それはそれで政府にとっては期待していたことではないという結果が生まれてくることもあり得るかなというふうに思います。そうすると、デジタル通貨をどこまで発達させるかというのは、そのあたりの兼ね合いで制限を加えられてくるというふうなものなのか、あるいは、銀行セクターのテリトリーの侵害というところはあったにしても、そのあたりは無視してどんどん発展させていくというような意図もあり得るのかといったところを、もしお話をお聞かせいただけるのであれば質問させていただければと思います。
以上です。
○小川分科会長 今、4人の委員から御質問がありましたが、岩下先生からお答えを頂ければと思います。よろしくお願いいたします。
○岩下京都大学教授 かしこまりました。
まず、植田委員から、アルゼンチンの事例などは確かに興味深いというか、国がやってもそうなんだからという話がありました。今、暗号資産の世界で起こっていることは大変不思議なことで、全く何の信用もないような従業員数人のベンチャー企業が出した、しかも、どの国の法制度にも従っていない、ディスクロージャーを全くしていないような、でも、一見するとドル建ての預金のような、あるいはドル建ての社債のようなものが極めて大量に発行され、それが人々からこぞって買い求められているという異常な事態が起こっているわけですね。それは、じゃあ、果たして長期的に安定的なものなのだろうか。金融のように、本当に人々の経済とか社会の根幹をなすようなものに位置づけてよいのだろうかというと、やっぱりあまりよろしくないように私は思います。その意味では、今、植田委員からの最後のお尋ねにあった、ペイパルがビットコインをということがあります。もっと言うと、今から4年ぐらい前からかな。ビットフライヤーという会社が、例えば、ビックカメラでビットコインが使えますみたいなことをやっていましたね。確かに、ビックカメラの地下の洋酒売場の横に行くとビットコインが使えるコーナーが今でもあると思いますけれども、そこに行くと、ビットフライヤーのお客さんがスマホでビットコインを使って払うみたいなことが一見できるのです。一見できるのですが、実際はビットフライヤーさんに一旦自分が持っているビットコインを売って、その売った円資金で後日ビットフライヤーさんから代金が払われてくるので、別にビックカメラはビットコインを受け取っていないのです。そういう意味では通貨として使われているわけではないのですが、ただ、ビットコインで物が買えるというデモンストレーションには非常に有効だったと思うんですね。同じようなことを多分ほかでもいろいろやろうとしていました。ただ、実際に使う人はほとんどいません。私はビックカメラの有楽町店で一生懸命現場を見ていたのですが、私が見ている間は1人も使っていなかったので、その意味では、そういうことができるよということを演出することは可能です。でも、実際に本当に便利にみんなが使うかというと、今のところ、そういうことを言ったりやったりしている国というのは、もっと便利な現金とかクレジットカードとかキャッシュレス決済とかがあるわけですから、普通はそっちを使いますよね。いろいろ制限のある、かつ、相場が動いて損をするか得をするかが分からないようなビットコインをわざわざ決済のために使う人はあまりいないと思います。それはペイパルがやっても同じことなんですが。
ただ、ペイパルがやる場合にちょっと違うのは、これは先ほどから議論になっているように、日本の国内で円が安定して使われていて、円の決済システムをきちんと使えるのです。アメリカでもヨーロッパでも決済システムが使えます。使える国と、そうではない国があるわけです。典型的にはベネズエラみたいな国です。ベネズエラはハイパーインフレですから、国の中での決済は、例えばレストランで物を食べるときに何で決済をするかというと、仮想通貨、暗号資産で決済するしかなかったという時期が実際にありました。そういう意味では、ローカルのビットコインの利用というのは南米やアフリカで実際にあります。それは、言ってみれば、ペイパルが出てこなくても、草の根的にもう既にどんどん使われています。実際は、ビットコインを使うというのは大変面倒くさいです。面倒くさい行為で、普通のクレジットカードなんかに比べると、例えば秘密鍵で署名をしなくちゃいけませんし、取引が承認されるために何取引も待たなくちゃいけないのですが、そういう面倒くささを払ってでもビットコインを使うという人たちが、今、現に存在しています。それはテロ資金とかマネーロンダリングだけではなくて、ローカルな人たちの利用にもあります。アフリカでも、例えば、エムペサがちゃんと発達しているケニアでは使われないのです。ケニアではそういうふうに使われないのですが、ただ、そういうものがない国、国内の決済システムがない国は残念ながらそういう形になってしまう。ほかに代替手段がないので、一時的にそういう暗号資産が、一見するとグローバルな価値を持っているように見える。もしかしたら価値がなくなっちゃうかもしれない、そういうことに対応しているということだと思うんです。ですから、暗号資産が今、値段が上がっているからそういうふうになっている部分があります。暗号資産が生まれてからこっち、ビットコインは2009年に生まれたわけなので、リーマン・ショックの後ですから、ずっと世界は金融緩和なわけです。だから、そうではない環境がいつ来るかは分かりませんけども、もし来たときには、果たしてそれがそういうふうに続くのだろうかという意味では、誰かを信頼できる主体として持つような銀行預金が決済システムに使われているのとはちょっと訳が違うという感じが私はします。これをデジタルゴールドとなどと言ってもてはやして決済システムの危機管理に備えるなんという話になると、ちょっと後で困ったことになるのではないかという感じがいたします。
その点でいくと、原田委員、清水委員、大野早苗委員のお話にあったような、特に中国とか途上国でどうかという話ですね。これは実は、カンボジアのバコンというものが有名になっています。日本のソラミツという企業がつくって有名になったのですが、ただ、実はなぜカンボジアがこれをやっているかというと、カンボジアでは、民間のドル決済業者がカンボジア通貨を使わずにドルで決済しちゃうのです。そういう電子決済システムをカンボジア中に普及させようとしちゃっているので、カンボジア中央銀行としては、自国通貨を使わせるために、それに匹敵するような電子決済のできるものを提供しなければならないということで、ソラミツと組んでそういうものを提供したという経緯があります。同じようなことをやらなければいけない国はもしかしたらあるかもしれませんが、今のところ、幸い多くの国で、自国通貨のほうが国内では安定して使われている。そういう国が、それなりの規模を持つ、発展した国では多いと思います。なので、太平洋の小国とかカリブ海というような、そういうところでちょっと変わったことをやるということ以外は、そういうものがメインになるということは考えにくいですし、メインになるとすると、結局どこかがセンターになるので、事実上そこが銀行みたいな役割を果たすのです。そこが結局倒産すると駄目なので、せめて銀行規制をするような形をそこに規制しなくちゃいけなくなりますから、本当に銀行がなくても取引ができるビットコインのような形でやるためには、各利用者にものすごくリテラシーが高くないといけないので、それは実際には非常に難しいだろうと思います。
それから、原田委員からお尋ねのあった、日本の状況はどうなのかということですけど、日本は1990年代からこの種の電子マネー、電子現金に関する研究を金融研究所でかなり活発に行っておりましたし、それの法律問題についても様々な検討レポートが法律問題研究会等で公表されています。それらのものの情報の公開は、例えば、現在、日本銀行の決済機構局というところが様々なセミナーを通じて普及を図っているところで、そういう意味では、情報技術の世界と法律の世界、経済の世界の人たちが一緒になってこの分野を研究していますから、研究は進んでいます。研究は進んでいるのですが、ただ一方で、日本は世界でも例を見ない現金の大好きな国民ですので、要するに、現金が使われている国では、中央銀行であれどこであれ、電子的な決済手段を追加的に出しても、そんなに受け入れられないんですね。そのために、日本では今のところは研究にまだとどまっている。だからこそ、日銀は当面発行する予定はないと言っているのかもしれません。これが、例えばスウェーデンのように、国民の現金の使用率が非常に低くて、電子的な決済が非常に普及している国において、中央銀行が果たすべき役割として、例えば、銀行取引のないアンバンクトな人たちに対して決済手段を適用しなくちゃいけないということになると、スウェーデンのイークローナみたいなプロジェクトが出てきます。日本がそういう状況になれば日銀もそういうことを考えなければいけないと思うんですが、今のところ、日本には国内で現金を愛する人たちがおり、また、民間の業者が様々な決済システムを提供していますので、そういう意味からも、あまりそこは、現実の決済手段として提供するニーズはそんなには強くない。ただ、研究はしていく。研究のために実証実験を3回のステージに分けてやるんですよという説明を日銀はしていたというふうに思いました。
以上、若干私見も交えて、日銀の資料をベースにお答えをさせていただきました。
○小川分科会長 岩下先生、どうもありがとうございました。本日はお忙しい中御説明いただきまして、お礼を申し上げます。
それでは、本日の3つ目の議題、「最近の外為法をめぐる状況について」に移ることといたします。
まず、事務局より御説明いただきまして、その後は時間がないので意見交換をする時間は取れないかと思うんですが、陣田課長から御説明を頂きたいと思います。
○陣田調査課長 それでは、資料4を使いまして御説明いたします。改正外為法が適用されまして半年が経過しました。本日は最近の運用状況について御説明させていただきます。
2ページを御覧ください。政府全体の方針としまして、行政手続における押印の廃止、それから、オンライン化の開始が示されております。こうしたことを受けまして、まず、10月に「記名押印又は署名」について廃止しております。これは、ほかの財務省の手続に先駆けまして実施しておるものでございます。それから、12月ですけれども、事前届出に係る手続のオンライン化の開始をしております。これまで、従来、日銀の窓口あるいは郵送によって紙ベースで行われておりましたけれども、これを日銀のシステムを使ってオンラインで届出ができるようにするというものです。こうしたことによりましてリモートで手続が完結するということで、届出者の利便性向上を図っているものです。
それでは、3ページ飛ばしまして、5ページに移りたいと思います。
まず、5ページの事前届出件数につきましては、最初に、2019年度中でございますけれども、8月にサイバーセキュリティー関連業種を事前届出対象に追加しております。これによって、2018年から2019年にかけて3倍に増えておりますけれども、今回、2020年度を見ますと、通年で見ますと2019年度とほぼ同じとなっております。こちらは、外為法改正により、上場会社の株式取得に係る事前届出の閾値を10%から1%に引き下げたこと、役員への就任や指定業種に属する事業の譲渡、廃止等に事前届出に、いわゆる行為時事前届出を導入しておりますが、他方で、事前届出免除制度を導入しておりますので、トータルで見るとほぼ同じトレンドになっております。
それから、6ページを御覧ください。業種別の割合につきまして、2018年度までは武器、航空機等々、それから、インフラが大宗を占めておりましたが、2019年8月にサイバーセキュリティー関連を追加したことによりまして、現在、足元におきまして約67%がサイバーセキュリティー関連となっております。また、7月に追加しました医療関連業種につきましては、その他の内訳ですけれども、約1.5%というふうになっております。今後とも対内直投のトレンドを踏まえながら、関係省庁とも連携しながら適切な投資審査に努めたいと考えております。
私の説明は以上でございます。
○小川分科会長 どうもありがとうございます。
時間が過ぎようとしているのですけれども、この機会に何か御質問とか御意見のある方がいらっしゃいましたら御発言いただきたいと思います。
渡井委員、お願いいたします。
○渡井委員 申し訳ございません。最近の状況についての御説明をありがとうございました。
関連しまして、事前届出該当性リストについて1点お尋ねを申し上げます。
リストは個別の企業の名称を列挙している点で、例えば、アメリカのような、事業に対する規制の形とは異なっているものと思います。結果として、日本の場合には、透明性に優れる一方で、どの企業が機微技術を持っているかが明らかとなる懸念があるように思います。もちろん、リストに掲載されている企業の数は多いので、どの企業が何を持っているかということが明確になっているわけではございませんが、リストをめぐる課題について、財務省のお考えや企業からの御意見など、お差し支えのない範囲でお教えいただければと思いました。
以上でございます。
○小川分科会長 お願いいたします。
○陣田調査課長 御指摘ありがとうございます。銘柄リストにつきましては、産業界と綿密に調整をしながら、適切に対処しながらやっていきたいと思っております。引き続き産業界のほうともよく調整をして、そういう懸念については払拭するようにしてまいりたいと思います。一方で、透明性の観点から、銘柄リストについては定期的に更新したほうがよいのではないかと考えているところでございます。
○渡井委員 ありがとうございました。
○小川分科会長 まだほかに御質問があろうかと思いますが、時間が過ぎておりますので、これで本日の議事を終了させていただきたいと思います。
なお、今回の議事録の作成は私に一任いただければと存じます。その際、発言部分を事前に御覧になりたい委員の方におかれましては、会合終了後にその旨を事務局に御連絡いただくということにいたしまして、御連絡いただきました委員の方には議事録を案の段階で事務局より送付したいと考えております。その後、1週間程度の間に御意見がない場合には御了解いただいたものとして理解させていただきたいと存じますが、よろしいでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
○小川分科会長 どうもありがとうございます。
次回の分科会につきましては、事務局と相談の上、御連絡させていただきたいと思います。
本日は長時間にわたりまして御出席いただきましてありがとうございました。特に岩下先生、御参加いただきましてどうもありがとうございました。
午後5時03分閉会