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財務総合政策研究所

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「世界経済の新たな動きに関する研究会」
第6回会合
2011年5月23日(月) 16:00〜18:00
於: 財務省4階 西456 「第1会議室」

第6回会合テーマ:東アジア(除く中国)・オセアニア経済における新たな動きと諸問題

議事要旨
◆発表 「東アジア経済における新たな動きと諸問題」
発表者 平塚 宏和 みずほ総合研究所アジア調査部長兼中国室長
発表資料[866kb,PDF]
     
◆現地調査報告 (韓国)
報告者 竹森 俊平 慶應義塾大学教授
報告資料[138kb,PDF]
     
◆現地調査報告 (オーストラリア)
報告者 杉本 和行 みずほ総合研究所理事長
吉川聡 財務総合政策研究所総括主任研究官
報告資料[165kb,PDF]
     

議事要旨

(1) 発表 「東アジア経済における新たな動きと諸問題」

平塚 宏和 みずほ総合研究所アジア調査部長兼中国室長

【金融危機後の東アジア経済(現状整理)】
東アジア経済は、危機からの回復過程にある2010年前半に高い成長を遂げたが、同年央以降は徐々にモデレートな成長ペースに移行してきている。足もとでは、一部の国において、日本の震災の影響を受けて生産が弱含む動きが見られる。
東アジアではリーマン・ショック後には資本流出が生じたが、韓国では2009年初め、ASEANでは同年央から資本流入が回復。ただ、足もとでは、資本流入規制の影響などにより資本流入が鈍化する兆しも見られる。
資金流入の回復を映じて、2009年半ば以降、通貨、株価、不動産価格が上昇。ただ、足もとでは、リスクを意識する動きから上昇が落ち着く兆しも見られる。
2009年半ば以降、食品、エネルギー価格の上昇などによりアジア全体でインフレ圧力が高まっている。
【アジアへの資本流入とrepatriationリスク】
2009年以降アジア新興国への資本流入が増加している要因のうち、先進国側の要因は米国を中心とする金融緩和であり、新興国側の要因は高い成長期待がある一方で十分な引き締めが行われていないことである。
アジア諸国では、多くの国で経常収支が黒字であること、対外資産・負債バランスが改善してきていること、外貨準備が潤沢であることから、流動性危機あるいは国際収支危機に至るまでの耐性は高いと見られる。但し、外貨準備が少ないベトナムについては、経常赤字は改善に向かっているが、引き続き注意が必要である。
【アジアにおける不動産バブルのリスク】
アジアの不動産バブルは、ファンダメンタルズ(金利と不動産収益の関係)から見て全面的かつ深刻なものではなく、顕著な問題までには至っていない。中国における住宅価格の上昇は、住宅の大型化や実需に見合う庶民向け住宅の供給不足などによるものであり、バブル的な要因によるものではない。
不動産バブルの懸念がある中国、香港、シンガポールでは、融資規制などによる投機防止策が強化されており、加えて中国では低所得者向け住宅の供給拡大なども実施されていることから、不動産バブルが深刻化する懸念は縮小している。
不動産価格が下落した場合、香港、シンガポールについては、大手銀行の自己資本比率が高く不動産価格のある程度の下落は金融システムにおいて吸収可能と見られる。他方、財政面での対応余地を有する中国は公的資金の投入による対応が見込まれる。ただ、中国については、銀行の監督体制に不安があること、土地神話が健在であることから、バブルが膨張するリスクはある。
【東アジアのインフレ】
インフレは一過性とする見方によれば、食品やエネルギー価格を押し上げている異常気象、中東情勢緊迫化、先進国の金融緩和による投機資金の商品市場への流入といった特殊要因の正常化や、価格上昇を受けたエネルギーや穀物の増産などによりインフレが加速する可能性は小さいとされる。
他方、インフレは持続的とする見方によれば、新興国における持続的な需要の拡大、物価上昇による賃金インフレの加速、人為的な価格抑制により蓄積された歪みの顕在化によってインフレが深刻化する可能性があるとされる。
アジアのインフレリスクは米国の金融緩和や新興国の経済成長など内外の複合的な要因から生じており、今後アジア新興国においてインフレが持続していくリスクは完全にはぬぐい切れない。
【東日本大震災のアジアへの影響】
東日本大震災のアジアへの影響は、自動車産業を中心とするサプライチェーンの混乱による生産面での影響が大きい。こうした状況を受けて、韓国、中国、台湾に対する代替需要が生じる動きが出ている。他方、日本への輸出の減少がアジア諸国に及ぼす影響はそれほど大きくないと見られる。

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(2) 発表「韓国現地調査報告」

竹森 俊平 慶應義塾大学教授

韓国は、国内貯蓄が不十分であるため、借入を増やす場合には対外借入を膨張させる傾向があり、依然として新興国の特徴を保有している。
韓国のような開放経済の小国では、バブル期において金利を上げると対外借入を一層膨張させることになり、バブル抑制にはつながらない。このため、バブルを抑制するためには対外借入を直接抑制する政策が必要になる。現在、韓国では、対外借入を抑制するための資本規制策として、為替先物の取引規制や外国からの借入に対する銀行税などが導入されている。
資本規制を行う場合、金融政策との連携という問題があり、韓国銀行もそうした問題を認識しているようだが実際には行われていない。また、米国との金利差が大きい状況では資本規制だけでバブルを抑制するのは難しいと考えているとのことである。
2008年末に韓国で資本流出が起こった当時、韓国では再びマチュリティ・ミスマッチが生じていたが、米連銀とスワップ協定を締結していたこと、リーマン・ショック後に米連銀が急速に金利を引き下げたため韓国が障害なく利下げ出来たことから、深刻な流動性危機には至らなかった。
現在の資本流入の局面では、米国の金融緩和は韓国にとって好ましくないとも考えられるが、米国(米連銀)に対する批判の声はあまりない。
住宅バブルの崩壊を受けて韓国の小規模銀行である貯蓄銀行の経営が悪化しているが、貯蓄銀行は規模が小さく、対外借入がないことなどから、貯蓄銀行が破綻しても韓国経済全体への影響はそれほど大きくないと見られている。

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(3) 発表「豪州現地調査報告」

杉本 和行 みずほ総合研究所理事長

吉川 聡 財務総合政策研究所総括主任研究官

資源ブームによりリーマン・ショックの影響が軽微であった豪州では、引き続き新興国を中心とする資源需要に支えられて景気は拡大しており、資源ブームが長期間続くとの見込みのもと、景気は今後も拡大が続くと見られている。
資源部門が多くのリソースを引きつけていることなどから、製造業が縮小する一方、鉱業部門とサービス部門が拡大し、サービス部門は経済の70%を占めるに至っている。
鉱業部門に集中する利益を吸収すべく資源税の導入が提案されているが、この新税については議論があり、政治的にも難しく、導入に向けた見通しは不透明である。
資源ブームを受けた供給能力の増強により今後2〜5年に鉱物資源の供給量が大きく増えるなか、鉱物資源の主な輸出先である中国などの新興国の資源需要が減速すれば、供給過剰の問題が生じる恐れがある。
資源開発などの資金を国内貯蓄で賄えない豪州は資金を外資に依存している。外資依存の裏返しとして海外への利子・配当などの支払いが多く、所得収支は恒常的に大幅な赤字であり、経常収支は1974年以来赤字となっている。
中国は豪州の最大の貿易相手国である。また、最近は、鉱業部門を中心に中国からの投資が急増しており、豪州と中国との経済面でのつながりが深まっている。豪州政府は海外からの投資を歓迎する方針だが、中国からの投資の増加を警戒する向きもある。
豪州経済を牽引する鉱物資源の輸出は海外の需要に依存しており、豪州経済の先行きは海外経済の動向から影響を受ける。また、有数の資源国である豪州の鉱物資源の輸出が滞れば、資源価格の上昇などの影響を世界経済に及ぼす可能性がある。
豪州政府は、鉱業部門に牽引され、サービス部門が70%を占める経済をそれほど問題視していない。新興国の成長を豪州の鉱業部門が支え、また、新興国の成長によって豪州経済が引っ張られるという状況において、特に中国との経済面における相互関係、相互依存性が益々高まると見られる。

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(4) 質疑応答・意見交換

韓国の外貨準備は資本流出が起こった2008年末以降は増加しているが、これは為替介入(外国通貨買い)が原因と思われる。また、2010年後半には資本流入規制が行われている。これらによってウォン相場の上昇が抑えられていると見る。
米国ではレポ市場が発達しているが、銀行のモデルが異なることなどから日本や韓国ではたとえ貯蓄があっても必ずしもレポ市場は育たないのではないかと考える。また、韓国のようなボラタイルな(変動し易い)経済においては企業は安全を重視して内部留保に頼るというような傾向もあるのではないかと考える。
国内貯蓄が小さい豪州は投資資金を海外に依存せざるを得ないという事情があり、所得収支、経常収支が赤字になるという構造がある。こうしたなか、コンサバティブ(保守的)な政策スタンスを指向する豪州当局において、財政まで赤字になることは問題であるとの意識は強いと考える。
鉱業部門の拡大をファイナンスする外資は投資の性格を持つものである。投資を歓迎している豪州は、所得収支の赤字は投資に対する配当や分配であるとの考え方に立って、構造的な問題をあまり問題視しないのだと考える。
東アジアのインフレについては、短期的には、食品価格に起因する上昇圧力は一度沈静化すると見る。ただ、一度物価が落ち着いても、労働市場では需給が逼迫しており、長期的な上昇傾向はインフレ圧力として残ることから、いずれかの段階で再びインフレが上昇するリスクを残した状況になると考える。
豪州では、鉱業部門を中心に労働需給が逼迫しており、ホームメイドインフレの懸念は強い。ただ、他方で、世界に先駆けて金融引締めをしており、また、豪ドル高による輸入物価の抑制も考えられる。加えて、生産性の向上のための人件比率の抑制という動きが賃金上昇の抑制に働くとも考えられる。

(以上)

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