財務総合政策研究所

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「世界経済の新たな動きに関する研究会」
第4回会合
2011年2月17日(木) 15:00〜16:30
於: 財務省4階 南434 「国際会議室」

第4回会合テーマ: ブラジル(ラ米)経済における新たな動きと諸問題

議事要旨
◆発表 「ブラジル(ラ米)経済における新たな動きと諸問題」
発表者 桑原 小百合 国際金融情報センター中南米部長
発表資料[511kb,PDF]
     
◆補足説明 : 「ラテンアメリカ諸国の経済政策の推移」
発表者 寺澤 辰麿 前コロンビア大使
発表資料[434kb,PDF]
     

議事要旨

(1) 発表 「ブラジル(ラ米)経済における新たな動きと諸問題」

桑原小百合 国際金融情報センター中南米部長

【主要国の概況】
ブラジルは、ラ米で最も深刻な通貨の過大評価と景気の過熱に直面。
メキシコは、米国経済の回復を受けて輸出主導で順調に回復。課題は外需主導の景気回復の内需主導へのシフト。
アルゼンチンは、2001〜02年の経済危機後に債務削減等を進め、概ね高成長を維持。課題は景気過熱への対応と国際資本市場への復帰。
コロンビアは、治安の改善と開放政策による石油・エネルギー等への投資流入により経済は回復。課題は資金流入と通貨高への対応。アジアとの関係強化を志向。
チリは、安定した政策運営に定評。経済は中国への銅輸出の増加を主因に回復。2010年2月の地震災害から順調な立ち直り。課題は資金流入と通貨高への対応。
ペルーは、鉱業が主産業であり、商品市況高騰の恩恵を享受。マクロ政策における規律の維持、輸出の振興、FTAの拡大等で高成長を実現。
【2003-07年の経済回復】
ラ米では、2003年以降、世界的な景気拡大や商品市況の上昇を背景にブームが継続。90年代半ば以降インフレは終息しており、2000年代には財政収支も改善して公的債務は縮小。また、国際収支も黒字基調となり外貨準備も増加。
その背景として、規律確保のためのルールベースの財政政策の実施、インフレターゲットと柔軟な変動相場制の採用、中央銀行の独立性の確保といった政策面での改革のほか、原油や銅等の国際商品価格の上昇による交易条件の改善、世界的な流動性の高まりの中での資金流入の拡大が挙げられる。
【グローバルな危機の影響と回復過程】
リーマンショック後、金融面では、急激な資金流出により通貨、株価、債券等の資産価格が大幅に下落。また、国際資本市場へのアクセスが難しくなったことによる企業の資金繰りの悪化等が見られた。
実体経済面では輸出が激減。国内で信用収縮が起こり消費者や企業マインドが悪化。2008年第4四半期と2009年第1四半期は軒並みマイナス成長。他の地域との比較ではCIS諸国、中・東欧に次ぐ落ち込み。なお、米国から遠くアジアとの関係が強い南の諸国に比べ、米国に近く経済がオープンである諸国ほど落ち込みが大きく、こうした北低南高という二極分化は回復過程でも見られる。
2009年に入り各種資産の価格が上昇。実体経済も同年後半には回復過程入り。今回の危機のラ米に対する影響は、過去の危機より軽微で、他地域の同等所得水準国と比べても軽微であったとの評価が一般的。
【早期回復の背景】
危機前の状況及び危機後の対応が良かったことが順調な回復に寄与。危機前の状況については、90年代の規制監督体制の改革によりラテンアメリカにおける金融の中心である銀行の健全性が保たれていたこと、また、対外資産負債ポジションにおいて借入や債券等の債務性資金が減少する一方で直接投資や株式投資が増加するとともに、公的部門と民間部門の双方における外貨建債務の減少や脱ドル化の進展といった動きによりバランスシートの改善が進んでいたことが指摘できる。
危機後の対応としては、預金準備率の大胆な引下げ等を実施したほか、潤沢な外貨準備を背景としたドル売り等により迅速な流動性供給を図った。また、一部の国では、米連銀との為替通貨スワップ協定等の活用や公的金融機関による与信拡大等を実施。
マクロ政策のフレームワーク改善により経済の強靭性が高まっていたため、景気の落ち込みに対し、金利引下げや財政出動といったcounter-cyclicalな政策(景気対策)を初めて実施できた。危機後には、ラ米諸国の国際資本市場での資金調達は増加しており、ソブリン・デット・スプレッドも大きく下落している。
【課題】
当面の課題は、過剰な資金流入と通貨高の抑制、過熱している景気のソフトランディング。資金流入が最も加速しているのはブラジルであり、通貨の上昇も最も著しい。資金流入に対する懸念は、何らかのショックで資金流入がストップ、逆流することであり、メキシコ等はそれに備えてIMFから多額の信用枠を得ている。また、ソフトランディングに向けた動きに関しては、ラ米では財政面での危機対応からの転換がやや遅れている。
中長期的な問題は、経済における一次産品への依存、貿易における中国への依存の高まり。また、生産性の向上による潜在成長率の引上げも課題。これらへの対応としては、貿易相手の多様化や生産性向上に向けた教育やインフラへの投資が政策課題。

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(2) 補足説明 「ラテンアメリカ諸国の経済政策の推移」

寺澤辰麿 前コロンビア大使

【第二次世界大戦後〜1970年代】
ラ米では、「先進国に対する発展途上国の交易条件は構造的悪化をたどる」とのプレピッシュ=シンガー命題を踏まえたラテンアメリカ経済委員会(ECLAC)の提言により、輸入代替工業化政策、地域経済統合による市場拡大が推進された。
しかし、多くの国においてポピュリスト政権の下、労働者保護により75年頃から生産性が徐々に低下し、財政赤字の拡大、ハイパーインフレ、軍事クーデター、累積債務危機といった問題が生じ、保護主義的な輸入代替工業化政策は行き詰まりを見せた。
【新自由主義の導入】
多くの国は、債務危機や通貨危機を受け、IMF・世銀から市場メカニズムを利用した生産性の向上と競争力確保を志向する新自由主義の導入を迫られた。具体的には、財政規律の確立、金融・為替の自由化、貿易の自由化等であり、加えて中央銀行の独立性の確保により財政政策の規律が維持されるようになった。
新自由主義政策導入の結果としては、メキシコ、コロンビア、ペルー、ブラジル、チリ等において企業部門の高度化やイノベーションが進む一方、ベネズエラ、ボリビア、エクアドル等では大きな成果は見られず、二極化が生じている。前者の国々は、親米政権の傾向があるのに対し、後者の国々は、反米政権の傾向がある。こうした二極化は、1人当たりGDPと輸出の高度化の相関関係、輸出の高度化の推移にも現れている。

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(3) 質疑応答・自由討議

ラ米の景気回復は主に消費によるものであり、投資はあまり増えていない。投資が増えない理由としては、国内の金利が高く、海外の資金にアクセスできる企業が限られているため、投資資金の利用可能度が低いことが指摘できる。
資源価格が下がれば景気が悪くなる可能性は高く、チリなどにおいて政府系ファンドを設けて景気変動に備えようとの動きもある。
生産性の問題は労働市場の問題。労働市場の改革は行われたものの労働者保護の水準は依然として高い。
ラ米経済が良くなったと言っても最近のこと。90年代に行われた改革も貿易の自由化など初歩的なものであり、潜在成長率を高める労働市場の改革といった本格的な改革は未だ手つかずの状況。ラ米はアジアと違い危機の繰り返しで常に短期的なマクロ安定に注力しなくてはならなかったというマイナスの遺産を抱えている。
ラ米における格差と貧困の問題は分けて考えるべき。貧困率は下がっているが、資産の格差が大きいため所得格差は変わらず存在している。新自由主義の導入により全体としての所得配分の格差は若干広がったかもしれないが、貧困層の底上げが進んだ諸国とそうでない諸国に二極化している。新自由主義政策をとりながら、福祉政策にも力を入れている国があり、貧困率は高いが国民の現状満足度が高いコロンビアのような国がある。
日本とラ米の関係では、資源について再考の必要がある。日本は特定の国に投資が偏るが、正確な情報収集を行い、分散投資を行うべきである。

(以上)

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