財務総合政策研究所

サイトマップ

「世界経済の新たな動きに関する研究会」
第3回会合
2011年1月25日(火) 14:00〜16:00
於: 財務省4階 西456 「第1会議室」

第3回会合テーマ:中国・インド経済における新たな動きと諸問題

議事要旨
◆発表 「中国経済の現状と展望」
発表者 関 志雄 野村資本市場研究所シニアフェロー
発表資料[277kb,PDF]
     
◆発表 「インド経済における新たな動きと諸問題」
発表者 近藤 正規 国際基督教大学上級准教授
発表資料[345kb,PDF]
     
◆補足説明    
発表者 田中 修 財務省財務総合政策研究所次長
発表資料[350kb,PDF]
     

議事要旨

(1) 発表 「中国経済の現状と展望」

関 志雄 野村資本市場研究所シニアフェロー

【景気動向と見通し】
今後の景気を見る上で一番重要なポイントはインフレ動向。中国の成長率とインフレ率には3四半期ほどタイムラグはあるが、きれいな相関関係がある。これによれば、インフレ率は2010年第4四半期にピークを迎えた可能性があり、景気循環の観点からは、今年の前半は低成長・高インフレのスタグフレーションの時期、後半は成長率もインフレ率も低い景気後退期に入ると見る(もっとも中国は景気後退期でも8%程度の成長を維持するのが通例である)。
今年後半には金融緩和の余地が生じ、これを一つのきっかけに、共産党大会が開催される2012年に向けて中国経済は上向くと見る。中国では共産党大会が開催される年、米国では大統領選挙の年に成長率が高まる傾向が見られ、2012年は二大経済大国で同時にブームを迎える可能性がある。
【不動産バブルの行方】
リスク要因は不動産市場の状況である。今後の不動産価格については、調整は避けられないが、高い経済成長が続くこと、不動産購入時のレバレッジが比較的低いことから、中国では日本のような長期の停滞に入る可能性は低いと見る。
ただし、リーマンショック後に急増した地方政府融資プラットフォーム会社の融資残高の約23%は借り手の返済能力または担保に問題があるとされ、政府は2010年6月から本格的にその整理に乗り出しているが、この融資プラットフォームの問題は不動産バブルに関する問題の中でも最も深刻であると見る。
【ルイス転換点の到来】
「一人っ子政策」を採った中国は生産年齢人口の割合が上昇したことを背景に成長を続けてきたが、少子高齢化の進展により2010年から生産年齢人口の割合が低下傾向に転じたために人口のボーナスがペナルティに変わり、10%成長は当たり前という時代はそろそろ終わると見る。
中国にはルイス転換点が到来しており、農村部の過剰労働力は概ね解消されている。今後は雇用の増加は見込めず、高成長を維持するためには政策の優先順位も雇用拡大から生産性向上に大きく転換する必要がある。
生産性向上の鍵は産業の高度化である。今後は労働集約型産業を切り捨て、より付加価値の高い産業を育てる形で高度化が行われることになるが、ルイス転換点が到来した中国は雇用への配慮と言う制約から解放され、産業高度化のペースは加速すると考える。
中国においても成長率の低下は避けられないが、産業高度化の余地は残っており、後発性のメリットを生かす形で先進国より高い成長を続けると見る。

ページTOPへ

(2) 補足説明

田中 修 財務総合政策研究所次長

【中国経済の現状と課題】
2010年の中国経済は資本形成を中心に10.3%の成長となった。物価、住宅価格は高止まりの状態が続いており、金融では、M2、人民元の新規貸出とも抑制目標を超えている。
1月18日開催の国務院全体会議では、インフレ防止という観点から、農業、不動産市場、財政金融政策、経済運営等に関する問題が議論された。
1年間の経済政策の基本方針を決める中央経済工作会議では、5ヵ年計画建議で示された科学的発展や経済発展方式の転換加速に加え、マクロ・コントロールの「有効性」、物価総水準の安定、社会の安定が強調されたほか、財政は「積極」・金融は「穏健(中立〜やや引締め気味)」、地方政府の債務管理の強化、農業における供給重視、新たな消費のホットスポットの育成、投資過熱への警戒といった方針が示された。また、人民元レートの記述が復活し、税財政改革の記述は具体的になっている。
1月14日の預金準備率の0.5%引き上げの背景・意図としては、ホットマネー流入による流動性の過剰、銀行の過剰貸出、インフレ対策、公開市場操作の代替、住宅価格対策、春節前のインフレ期待抑制が挙げられる。
住宅価格の高止まりの要因としては、需給のアンバランス等の不動産市場の構造問題、経済成長と地方財政の不動産業への過度の依存、投資先がない中での過剰流動性の発生、ホットマネーの流入、個人の住宅購買意欲の高まり、経済社会の発展から生じた矛盾の影響があり、今後の住宅価格を巡る注目点としては、過剰流動性のコントロール、実質金利水準、低廉住宅の供給確保による需給関係の調整が挙げられる。

ページTOPへ

(3) 質疑・応答

国際競争力向上により人民元が上昇する一方、ドル体制の揺らぎからドルは下落方向にある。こうした状況において、中国は嫌々でも変動相場制に移っていくしかない。
中国政府は、都市と農村の格差是正のため、?@戸籍の問題への取組みなど、物、人、金の流れを妨げている要因の除去、?A沿海地域の衰退産業の内陸部への移転、?B日本の地方交付税をモデルにした税収の再配分を行っている。2007年以降は内陸部の成長が沿海地域を上回っており、格差拡大に歯止めがかかると期待される。
消費者物価において食品価格のウエイトが大きく、インフレの要因としては穀物需給のアンバランスが挙げられる。農業が災害に弱く、災害がインフレに直結するという問題がある。昨年のインフレの特徴は食料品への投機があったことで、従来と異なるマネー要因により食料品価格が上昇した。
中国政府は投入量拡大ではなく生産性向上を重視するという成長パターンの転換を訴えており、最近は雇用重視より成長パターンの転換を重視する論調が強くなっている。
「一人っ子政策」は緩和されている。そうしたなか、農村部では子供をつくるが、豊かな都市部ではなかなかつくらないという動きも見られる。
中国の今後10年間の潜在成長率は8%と見るが、ルイス転換点を過ぎた中国では実質為替レートの上昇圧力が高くなると見ており、世界経済にとっては、中国発デフレの状況は終り、中国発インフレの状況に変わっていくと考える。
今年の中国の経済運営は、金融政策では過剰流動性をどう制御するかが中心となり、財政政策では経済が急に落ち込まない程度に公共投資が維持されるとともに、消費を刺激するような社会政策的支出が伸びると見る。

ページTOPへ

(4) 発表 「インド経済における新たな動きと諸問題」

近藤 正規 国際基督教大学上級准教授

【マクロ経済状況】
インドは中国とともに高成長を続けているが、1人当たりGDPは中国の3分の1、日本製品の対象となる市場規模も5分の1から10分の1に過ぎず、中国に追いつくにはおよそ15年かかるとされる。
経済危機の影響が少なかった理由は、輸出比率が低かったこと、金融部門の自由化に慎重であったこと、総選挙対策としてのバラマキ等で内需が強かったこと等が挙げられる。他方、経済が急回復したため、財政赤字の削減、インフラ整備の遅れ、海外直接投資の規制緩和、製造業の競争力強化といった構造的な課題が積み残しとなった。
インドの株式市場には海外から多くの資金が流入しており、経済が成長していても国際金融市場の収縮により市場が軟化する場合があり、リーマンショック時の株価下落は予想を超えるものであった。
食糧価格の上昇によるインフレが一番の問題であり、物価の上昇率が5%を超すと政治的に危険水域とされる。食糧価格の上昇の一つの原因は農業部門の供給が需要増加に追いつかないことであるが、今後については国際穀物市場の動向によるところも大きい。
政治的配慮から財政面での出口戦略が取れない状況で、出口戦略はインフレ対策としての政策金利の引上げという形で金融面に頼っている。周波数オークションによる収入で2010年は財政赤字が減少したものの、問題は根本的には解決しておらず、より深刻にならざるを得ない。
インドでは最近汚職が政治問題化しており、今年は特にそれが経済や株式市場へ少なからぬ影響を及ぼすことも考えられる。
【中間層の台頭】
インドにおいて中間層とされる家計所得40万円以上の人口は全人口の13%、約1億5000万人と見られ、この層をどのように取り込むかが日本企業の課題である。
【インフラ整備】
インフラ整備の遅れは深刻。インドのインフラ向け投資はGDPの5%程度と中国の15〜20%を大きく下回っており、インフラ未整備によりインドの成長率は1.5〜2%が犠牲になっている。インフラ整備を巡っては、金融面のミスマッチや汚職の問題等もあり、外資の参入を難しくしている。
【貧困削減】
インドは依然貧困大国であり、人口の80%が1日2ドルの貧困ラインを下回っている。カースト間の格差が広がっているほか、指定部族や指定カーストの貧困削減が遅れている。経済成長の高い州と貧困削減が進んでいる州が必ずしも一致していないという問題もある。
【主な産業の動向】
農業はインフラ整備の遅れなど課題が多く停滞から抜け出せていない。自動車産業はリーマン・ショック後の落ち込みから大きく回復している。リーマン・ショックの影響からいち早く回復したIT産業は高度成長を続けている。多くの雇用を抱える繊維産業は輸出のウエイトが大きく、世界経済危機の影響が大きかった。小売産業は外資への開放が待たれる。

ページTOPへ

(5) 質疑・応答

インドにおいて経済成長を生んでいるのは労働投入や技術進歩よりも、資本投入であると言える。
経済改革を始めて15年ほど経った2003〜04年頃から経済が軌道に乗ってきており、こうした状況はあと10〜20年は続くと見る。
農村部から都市部への人口移動は見られるが、中国のように農民が都市に移って製造業で働くというような発展モデルは見られない。
インドの発展形態は雁行形態のモデルや中心となる産業が第一次産業から第二次、第三次と移るというようなモデルとは異なっている。インド経済は内需が中心であり、国際環境の影響を大きく受けることなく、自立的な経済成長をしていくと考えられる。
政治の行方は国民会議派とインド人民党(BJP)が多数の地方政党を自らの陣営にどれだけ取り込めるかにかかっている。国民の投票パターンは経済的な面の影響を受けるようになっており、国民会議派が勝利したのも貧困者の所得向上を図ることとしたからである。

(以上)

ページTOPへ