財務総合政策研究所

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「世界経済の新たな動きに関する研究会」
第1回会合
2010年11月5日(金) 15:00〜17:00
於: 中央合同庁舎4号館12階 「共用1208特別会議室」

第1回会合テーマ: 米国金融危機と世界経済

議事要旨
◆発表 「世界経済・米国経済における新たな動きと諸問題」
発表者 中島厚志 みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミスト
発表資料[750kb,PDF]
     

議事要旨

(1) 発表 「世界経済・米国経済における新たな動きと諸問題」

中島厚志 みずほ総合研究所 専務執行役員チーフエコノミスト

【金融危機後の世界経済】
世界経済の回復は中国を中心としたアジアが際立っている。
米国経済の回復は緩やかであり、消費性向はやや高まっているが住宅価格は弱含みが続いている。金融は平時の状態に戻りつつあるが、住宅ローンのデフォルトリスクは残存。
世界経済は多くの国・地域で足もとの成長率が鈍化。来年にかけて世界的に財政赤字の削減が行われ、その分世界経済は下押しされる。
世界では財政収支の悪化と金融政策の二極化が生じている。先進国ではディスインフレと金融緩和、新興国・資源国ではインフレ懸念が強まり金融引締めに転じている。
大恐慌期に類似する今回の金融危機の中にあって、先進国では財政再建と景気回復の両立を、地道に時間をかけて進めるしかない。
【浮き彫りになった世界経済の課題】
(1) バブル的だった先進国の経済成長
変動相場制移行後の先進国のブーム(好況)は、健全な経済成長と財政金融政策の帰結とは言いがたい。今回の米国の金融危機も、過去の金融と経済のバランスとは違う形で金融セクターが大幅に拡大し、GDP比の債務規模が大恐慌期に匹敵する水準となっていたことに起因。
金融危機対応で先進国の中央銀行が流動性供給を強め、米連銀を中心とした「中央銀行バブル」が発生しつつあると言える。これが行き過ぎると、通貨安競争の再燃、新興国におけるバブルの発生・破裂、世界経済の再失速、金融市場の混乱が生じる惧れがある。
(2) 主要先進国での構造的な需要不足
今回の危機では、世界的に構造的とも言える需要不足が生じている。米国、日本とも需給ギャップは大きく、需要低迷を背景にディスインフレ的な傾向は当面解消されない。
米国は「雇用なき回復」が続くなか雇用者報酬の伸びは低水準で、需要拡大は緩やか。欧州では緊縮財政が需要を下押し。日本では、平均賃金下落が需要低迷の要因。
(3) 市場経済と社会安定のバランス
米国経済の姿は新自由主義的かつサプライサイド的な市場経済重視の経済運営の行き詰まりを示すもの。欧州が追求してきた社会民主主義的福祉レジームも財政面から万全でなかった。日本も含め先進国経済は市場経済と社会安定のバランスの再構築が求められている。
(4) 国際通貨体制の不安定化
ドル相場が低下する一方、世界株指数、商品価格指数は上昇。こうした動きは、基軸通貨であるドルの基準通貨としての役割の揺らぎ、絶対的尺度がなくなるなか、足もとの通貨安競争の回避でのアンカーが見出し難い状況を背景とするもの。
変動相場制のもとでは柔軟な財政金融政策がとりやすいが、各国で物価水準が異なり、自由に資本移動する反面為替調整が進まないなかでは、柔軟な金融政策にも経常収支の不均衡是正にも限界。
【先進国・新興国経済モデルの課題】
(1) 先進国と新興国のデカップリング
当面、世界経済を牽引するのはキャッチアップ型成長モデルが奏功した新興国であるという図式は明確。
グローバルなマネーを引きつける新興国でCPIが上昇する一方、先進国ではディスインフレであり、要素価格の均等化が進展。これにより先進国で所得が下押しされ、新興国にマネーが過度に集まる動きが加速する懸念もある。グローバルな資本移動は再び増え始め、とりわけ中国への外銀与信の伸びが顕著。
(2) 先進国は成長モデル再構築の局面
スウェーデンは、外需と固定資本形成(企業の設備投資)が成長に大きく寄与。社会保障が安定した消費増を生むとともに競争力ある企業が成長を押し上げている。成長要因を見ると、技術進歩ないし生産性の向上が成長を押し上げている割合が日本より大きい。
新興国との差別化は、産業の差別化と人的資源開発が不可欠。競争力を上げることが技術革新、産業差別化に結びつくという方向を目指すには教育が重要。

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(2) 質疑応答、自由討論

現在、マネーは先進国から新興国に流れているが、先進国、とりわけ米国が金融引き締めをして流動性供給を絞れば、世界的にマネーが逆流することになる。
資本輸入規制には一定の効果があるが、効果は短期的であり次第に減殺すると考えられている。成長率の高い新興国に資本が流れるのは普通の動きであり、こうした動きに伴う混乱をいかになくすかが課題。
グローバル・マネーが非常に大きくなったことが変動相場制移行後の世界経済の特徴。経済や為替に対する影響を考えると、グローバル・マネーの縮小はなかなか出来ないことであり、巨大なグローバル・マネーと共存するような世界経済のあり方を考えなくてはならない。
ドルの基準通貨としての役割の揺らぎは今に始まったことではなく、むしろ基準通貨あるいは価値貯蔵としての役割がなくてもドルを交換手段として使い続けているところに問題があり、その解決が国際通貨体制の問題である。
先進国の通貨に対し、エマージングマーケットの為替をいかに段階的に秩序立てて切り上げていくかは世界経済の大きな問題。先進国と新興国の通貨をいかにマネージしていくかがこれからの視点として重要。
先進国の中での政策対応の違いによって先進国の金融証券市場に何らかのテンションが生じる惧れがある。それをどう考えるかも世界経済の先行きを考察するに当たっての一つの視点。
グローバル経済の中で、低廉な労働力を有し、資本や技術の導入などの政策が奏功した国が相対的に浮かび上がっている。ただ、中国をはじめとして今はこうしたキャッチアップ型が有利となっているが、世界的な需給を考えるとそれにも限度がある。出遅れた国が同じキャッチアップ型で急速な発展を遂げるのは簡単ではないだろう。
経済学では人口は重要な要因であり、先進国や発展途上国において、年齢別の構成要因など人口要因がどのような影響力を持つかは面白い課題。
中国などの新興国では、国内における成長格差の問題から政治的な軋轢や社会の不安定化が深刻になる可能性がある。

(以上)

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