このページの本文へ移動

4.財政投融資の抜本的改革について

4.対象分野・事業の見直し


 (1)  個別分野についての考え方
      現在、財政投融資が対象としている主な分野については、欧米主要国でも有償資金
    の対象分野とされているものも多いが、今後、有償資金の活用が適切なものであるか
    どうかについて、2.(2)[財政投融資の機能]で述べたような視点をも踏まえて検討
    を行った。検討の結果は次のとおりである。
      21世紀を展望すると、少子・高齢化社会の一層の進展等に対応し、医療・福祉、
    教育等、財政投融資の対象として有償資金の活用が期待される分野が存在することに
    留意する必要がある。
      特殊法人等の整理合理化に関して本年行われた累次の閣議決定については、財政投
    融資編成の中で的確に対応する必要がある。

    1  住  宅
        住宅分野における財政投融資は、基本的に、一般国民による質の高い住宅の取得
      を政策的に支援することを目的とするものである。住宅取得資金は、個人にとって
      金額が大きく生涯設計にも影響するため長期資金が必要となるにもかかわらず個人
      で容易に調達できるとはいえないこと及び個人の自助努力による資産取得を後押し
      することが政策的に求められていることに鑑みれば、住宅分野に有償資金を用いる
      政策手法は、基本的に是認されるべきものと考えられる。
        しかしながら、民業補完の観点から、分譲住宅を直接供給する分野からの撤退、
      住宅金融の対象・要件等の見直しを図ることが適当である。また、現在の住宅金融
      は累次の景気対策により過度に拡大しており、景気対策として設けられた措置は、
      時限措置であり見直す必要があるとの意見があった。
        また、住宅金融は財政による利子補給を伴っており、こうした手法で行われてい
      る以上、コスト分析により将来の国民負担を明確にすべきである。
      さらに、資金調達の多様化等の観点から住宅債権の証券化を検討すべきである。
        なお、住宅は基本的には私的財であり、公的関与が必要となるのは、情報の非対
      称性などのために長期資金を市場レートで借り入れることが困難である場合に限ら
      れ、住宅を対象とする財政投融資はできるだけ限定的に運用すべきであるとの意見
      があった。

    2  中小企業
        中小企業金融は、信用力等の基盤の弱い中小企業が多いことから、民間金融市場
      などでの長期資金へのアクセスが困難であることや中小企業の自助努力を引き出し
      つつその資金調達の円滑化等を図るとの観点から、基本的には財政投融資にふさわ
      しい分野であると考えられる。
        また、民間金融機関による資金供給に関しては、近年、リスク管理を強化する中
      で、いわゆる「貸し渋り」が存在しているという指摘があり、また、好況時に金融
      が逼迫するとどうしても大企業優先に融資が行われ、中小企業には十分な資金供給
      が行われないという指摘もある。
        他方、近年、民間金融機関においても中小企業金融に積極的に取り組んできてい
      るとの指摘がある。
        こうしたことを念頭に、財政投融資の対象としての中小企業金融においては、民
      間金融機関の取組みの実態を踏まえて、民業補完の観点から民間金融機関でも対応
      可能と考えられる優良企業向けの貸付等からは撤退していくべきではないかと考え
      られる。
        なお、中小企業への資金は基本的に私的財であり、公的関与が必要となるのは、
      情報の非対称性などのために長期資金を市場レートで借り入れることが困難である
      場合に限られ、中小企業金融を対象とする財政投融資はできるだけ限定的に運用す
      べきであるとの意見があった。

    3  農林水産業
         農林水産業に対する財政投融資は、土地改良等の公共事業や農林漁業者に対する
      政策金融を通じた生産基盤の整備を対象としているが、基本的に限定的なものであ
      り、いずれも、民間金融市場へのアクセスが困難であることや農林漁業者の自助努
      力を引き出す必要があることから行われているものである。
        しかし、農業への資金投入は、基本的には私的財あるいはクラブ財であって、受
      益者が限られていることに留意すべきである。
        また、財政構造改革の趣旨も踏まえ、事業の重点化・効率化を図る観点から、財
      政投融資の対象事業についても、必要以上の事業展開が行われ、事業のあり方が非
      効率になっているとの批判があるような分野については、コスト分析などの客観的
      な手法を導入することなどにより、思い切った見直しが必要ではないかと考えられ
      る。また、単に生産基盤の規模を拡大するという観点よりも、農業生産性の一層の
      向上を図るという観点から、対象事業を重点化していくべきではないかと考えられ
      る。
        なお、農林水産業分野における政策金融は民間金融機関に対する利子補給だけで
      十分ではないかとの意見があったほか、農林水産業分野に対する公的助成について、
      一般会計歳出のように償還を求めないものだけではなく、有償資金を併せ用い自助
      努力を求めることによって、事業の効率性に対する意識を高めることが、財政支出
      の抑制につながるとの意見もあった。
        また、食糧確保など安全保障から得られる外部性は、米価政策などで既に内部化
      されていると考えられることから、これを財政投融資の対象事業の選定に当たって
      も評価すると二重計算になるので、公的関与が必要となるのは、情報の非対称性な
      どのために長期資金を市場レートで借り入れることが困難である場合に限られ、農
      業を対象とする財政投融資はできるだけ限定的に運用すべきであるとの意見もあっ
      た。

    4  社会資本
        道路、空港、鉄道建設等の社会資本整備のうち、受益者が特定できる事業やプロ
      ジェクトの大きさや超長期性によりリスクが大きいため市場メカニズムでは最適な
      供給がなされないおそれのある事業は、基本的には財政投融資にふさわしい分野で
      ある。
        しかしながら、上記の分野における社会資本の効率的な整備に当たっては、社会
      経済情勢の変化や技術の進歩を踏まえつつ、規模や期間のリスクが比較的小さく、
      民間でも実施可能と考えられる事業等については財政投融資の対象としないこと等
      により、一層の財政投融資対象の重点化を図るべきではないかと考えられる。
        また、道路については、コスト分析により将来の国民負担を分析、公表すること
      により、道路整備の重点化を図るべきである。同時に、今後の道路建設に当たって
      は、交通量等の見通しの厳格さの確保が必要不可欠である。また、料金プール制に
      より路線ごとの償還確実性が不明確になっており、有料道路事業の将来の償還確実
      性に懸念があるとの意見があった。

    5  環  境
        環境問題は極めて重要な政策課題である。この分野は、外部経済効果のため市場
      メカニズムに任せたのでは適切な資源配分がなされない分野であることから、基本
      的には規制や税制などで対応されるべきである。
        しかしながら、産業廃棄物対策や企業の環境汚染防止対策など特定の環境負荷を
      排出する事業者に適切な費用負担を求め、最終的にそのコストを製品やサービスに
      転嫁することにより回収できる分野については、設備投資のような長期資金が必要
      であり、特定の者に誘因を与える必要がある。
        したがって、そのような分野については、有償資金としての特質に留意しつつ、
      事業者の環境対策に係る投資を促進する政策手段として財政投融資を活用すること
      が適切と考えられる。

    6  産業・技術
        これまで財政投融資は、経済成長のための産業基盤の整備、エネルギー対策、新
      規事業の支援などの分野に貢献してきた。
        しかし、今後は、個別の産業の振興を目的とする融資からは撤退し、例えば、経
      済構造改革の推進に資するもの、情報・通信基盤の整備など、外部経済効果が大き
      く、我が国の経済活力を維持するために戦略的に重要であり、かつ、融資期間等か
      ら民間金融機関によっては対処できないものに限定していくことが適当である。
        また、ベンチャー等新規事業の育成の分野については、我が国においてもベンチ
      ャービジネス向けの民間金融市場が今後発展すると見込まれることから、このよう
      な市場で対応できないものに対する補完に徹すべきであるとの意見があった。

    7  国際協力
        財政投融資は、現在まで、途上国向け等、投融資のリスクが高く、投融資期間が
      長期にわたるために民間ベースの事業対象となりにくい貿易及び直接投資を促進し、
      また、開発途上国の自助努力を支援することにより、その経済発展に貢献してきた。
        しかし、国際協力分野における財政投融資の今後のあり方については、民業補完
      と償還確実性の両方の見地から厳しい検討が必要である。なお、政府開発援助につ
      いては、貸倒れリスクの観点から財政投融資の対象としてふさわしいかどうか精査
      する必要があるのではないかとの意見もあった。
        先進国向けの融資については、貿易摩擦回避、国際的共同開発など政策緊要度の
      高い案件に限るべきである。また開発途上国向けの融資についても、リスク管理を
      厳密に行うとともに、民間ベースでの事業対象となりうる分野について、基本的に
      財政投融資の対象としないことが適当である。

    8  地  方
        地方公共団体向け財政投融資は、民間の資金にはみられない超長期・固定金利の
      資金を建設資金として供給することにより、学校、病院、下水道等地域に密着した
      社会資本の整備に貢献してきた。また、財政投融資資金の地方への配分は、都道府
      県、政令指定都市よりも、民間金融市場へのアクセスが困難で資金調達力の乏しい
      市町村に重点的に向けられている。
        しかし、地方公共団体に財政投融資資金を供給していることが、地方公共団体の
      コスト意識を弱め、その財政赤字の拡大を助長しているのではないかという意見が
      あった。さらに、地方向け財政投融資の配分に当たっては、より地域の自主性を尊
      重した形で行うべきではないかという意見もあった。
        以上のような指摘もあり、また国、地方を通じた財政赤字の縮小が現下の喫緊の
      課題であることに鑑みると、資金調達力の弱い団体には国として引き続き配慮する
      必要があるものの、地方向け財政投融資において、地方公共団体の自主的な財政健
      全化努力を促す観点から、次のような見直しを行う必要がある。
        第一に、地方公共団体の財政運営の自律性を高める観点から、地方公共団体の資
      金調達に占める財政投融資資金の比率を引き下げ、民間金融市場からの自主的な資
      金調達を促すことが適当である。
        第二に、税収補填債等投資的経費以外の分野への配分は、赤字補填の性格を持ち、
      財政投融資資金を投入する対象としてふさわしくないことから、こうした分野への
      資金供給については、地方財政への支援のあり方等を含め、今後再検討を行ってい
      くことが適当である。
        なお、民間市場からの資金調達に関しては、発行条件の多様化等地方債市場がよ
      り競争的になるとともに、地方公共団体の破産や格付制度等の環境整備が重要であ
      るとの意見があった。さらに、我が国においても、米国のようにいわゆるレベニュ
      ー・ボンド(特定プロジェクトの所要資金に充当し、そのプロジェクトの生み出す
      収入だけを償還原資とするように契約上仕組まれている債券)による資金調達を検
      討すべきではないかとの意見もあった。

 (2)  政策金融のあり方
      政府系金融機関については、その見直しが進められているが、政策金融については、
    今後、金融システム改革の進展に伴い、民間金融機関の役割・機能が拡大していく中
    で、民業補完という使命に立ち、2.(2) [財政投融資の機能] で述べたような視点を
    踏まえて、その必要性が薄くなったもの、あるいは民間金融機関が十分対応できるよ
    うになっているものは除外していくという考え方の下に、その不断の見直しを進めて
    いく必要がある。また、仮に現状では民間金融機関と競合していないとしても、民間
    金融市場の今後の発展を阻害してはならず、むしろ、その発展に積極的に貢献するよ
    うな関与の仕方が選択されるべきである。
      具体的には、住宅、中小企業、農業、産業・技術、国際協力等の分野については、
    上で述べたような考え方に沿って、対象分野・事業の見直しを進めていくべきであり、
    21世紀における政策金融の役割を見据えた根本からの議論が重要である。
      その際、民間金融に対する呼び水効果(カウベル効果)を期待する分野については、
    こうした効果が見込めなくなれば、政策金融としてはその分野での役割を終え、民間
    に任せることが必要である。
      さらに、我が国の政策金融が用いている金融的手法についても、時代遅れではない
    かという指摘がある。
      すなわち、現在の我が国の政策金融は、そのほとんどが直接融資の形態をとってお
    り、しかも、融資債権はその融資実施機関が満期の到来まで保有し続けていることが
    通例であるが、近年の金融技術の高度化の下では、融資に伴うリスク(信用リスク、
    金利リスク等)のすべてを政府系金融機関が抱え込む必要はなく、リスクを分別して
    コントロールすべきである、というものである。
      こうした点を克服するためには、例えば、各機関における保証機能の活用や、貸付
    債権の証券化などを進めていくことが必要であると考えられるところであり、各政府
    系金融機関においては、今後、そのような手法の多様化と適切なリスク管理について
    前向きに取り組み、政策金融のスリム化に努めるべきである。そのような試みは、民
    間金融機関との競合を避けることのみならず、長期的には民間金融市場の発展にも資
    するものと考えられる。
      なお、政府系金融機関は、将来、原則として民営化又は廃止することとし、存続さ
    せることが必要と考えられる政策金融機能については、公的保証機関を新たに設立し
    て信用保証制度を活用することにより民間金融機関が代行し、また、住宅金融は民間
    金融機関の住宅ローンに政府保証を付けて債権の証券化を促進すべきであるとの意見
    があった。



[次に進む]

[「財政投融資の抜本的改革について」目次に戻る]