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3.地域協力についての提言

(1)マニラ・フレームワークの強化

 今回の通貨危機では、地域の集団的な対応が大きな問題となった。特に、資金協力で、地域の国が広く協力するスキームは、タイ、インドネシア、韓国で重要な役割を果たした。また、伝染効果が広く地域全体に広がったことから、地域の共通の課題として取り組む必要性が認識された。
 この観点から、資金協力の可能性を含みつつ、平常時より地域経済の監視をする目的で構築されたマニラ・フレームワークを強化すること、具体的には、その域内サーベイランスの一層の充実、資金支援スキームの強化についても更に検討することが期待される。また、現在蔵相・中央銀行総裁代理レベルで行われているサーベイランスを蔵相・中央銀行総裁レベルで行うことも検討してはどうか。

(2)域内サーベイランスにおけるIFIsの東京事務所等の活用

(3)IFIsの東京事務所を活用した域内各国への助言

 また、今回の通貨危機を振り返ると、地域共通の問題とともに、国ごとのそれぞれ異なる背景があった。IFIsの東京事務所等を活用した国ごとの特性に応じた助言活動の強化も重要である。

4.先進国・債権者への提言

 先進国は、メキシコやアジアの新興市場において発生した通貨危機に重大な関心を持って対処してきた。メキシコ危機の場合にはアメリカが、タイ危機の場合には日本が、重要な役割を果たして、IMFの支援プログラムに協力した。このような先進国の二国間協力は、地域経済、金融システムの安定を目的とする公共財への支援と捉えることができる。

(1)二国間支援

 IMFの支援を補完する形での先進国の二国間協力、助言は、特にその地域に情報を多く有しており、経済関係も密接な先進国を中心として積極的に行っていく必要がある。その際、金融セクター改革、インフラ整備、企業経営の近代化等制度見直しにおける技術支援、人材育成支援に官民ともに積極的に対応すべきである。

(2)機関投資家等の情報開示

 短期資金の移動については、受入れ国において金融機関の健全性確保のため監視・規制が必要になるが、先進国側でも、機関投資家(銀行、証券会社、保険会社、ミューチュアル・ファンド等)やヘッジ・ファンドの巨額の投資行動には、情報の開示を求めていくことを検討すべきである。巨額のファンドのごくわずかなポートフォリオの変更が、経済規模の小さな資本受入れ国の通貨・資本・金融市場にとっては、大きなショックとなることを考え、影響力を行使した市場操作が起きないように監視する方策を国際的に検討すべきである。

(3)機関投資家等のリスク認識・管理

 他方、債権者、特に機関投資家に対しては、投資先国の情報開示が十分ではなかったことや、金融管理体制が甘いこと等は、市場では十分知られていたことであり、このようなリスク要因を織り込んで投資決定がなされていたと考えられる。すなわち、投資先国の金利が高かった背景には、有利な投資機会があることも一因だが、通貨の下落や信用リスクが高いというリスク・プレミアムもあったはずである。債権者のリスク管理とその責任が改めて問われている。

5.日本への提言

 アジア地域は、日本にとって、政治的、経済的に密接な関係を持っている。他方、各国から見ても、貿易面等において日本のウェイトは高い。地域の安定とその健全な成長は、我が国にとっても極めて重要となっている。今回の通貨危機の経験を踏まえて、我が国としては次のような役割を果たすことが期待されている。その際、日本としては、地域への協力は、支援される側の国益にも、支援する側の国益にもなるとの観点から、自らのイニシアティブで問題の解決に当たるという姿勢が大切であることは言うまでもない。

(1)日本経済の安定的拡大と金融システムの安定

1景気回復への努力

 アジア域内での貿易、投資等のウェイトが高まるにつれ、日本経済の安定的成長及び行きすぎた円安の是正が、アジア各国にとっても一層重要になっている。しかしながら日本経済はバブル経済の崩壊後、いまだその後遺症から抜け切れていない。97年に相次いだ大型金融機関の破たんも、バブル崩壊後に増加した不良債権問題等を背景にしている。こうした中、厳しさを増した家計・企業の景況感が実体経済全般にまで影響を及ぼしており、日本経済は極めて深刻な状況となっている。アジア各国からも日本の景気回復がアジア各国からの輸入増につながるとの期待は大きい。こうした状況の中で、一日も早く力強く景気が回復するよう最大限の努力をしていくべきである。

2金融システムの安定性確保

 また、日本の金融システムの安定性に対する内外の信頼を確保することは、アジア地域の金融市場にも好影響を与えるものである。この点については、98年2月に成立した金融安定化2法により制度的基盤が整備され、現在実施に移されているところであるが、引き続き金融システムの安定化に万全を期することが必要である。

3日本版ビックバン

 金融・資本市場のグローバル化、資本移動の自由化という潮流の中に日本も置かれていることを考えれば、日本の金融システム全体について、市場の利用者の視点に立った抜本的な構造改革を行うことが不可欠となっている。すなわち、個人金融資産のより有利な運用、活力ある仲介活動を通じた魅力あるサービスの提供、次世代を担う成長産業への円滑な資金供給、利用者が安心して取引を行うための枠組みの構築といった面で、真に優れた金融システムを実現することが必要である。こうした観点から、現在推進されている金融システム改革(「日本版ビッグバン」)を更に本格的に進めて行かなくてはならない。そのために法改正を要する事項については、金融システム改革関連法案が現在国会において審議されているところである。法案の早期成立を含め、改革を着実に実行することにより、21世紀において活力ある日本経済の基盤となる金融システムが構築されることを期待する。

4アジア経済回復への寄与

 こうした幅広い経済・金融面の措置は、市場開放を引き続き推進していくこととあいまって、ひいてはアジア経済の回復にも寄与するものである。

(2)国際的・地域的支援への貢献

1IFIsへの働きかけ

 アジア地域のマクロ経済・金融市場監視は、これからますます重要性を増してくる。IMFや世界銀行・ADBのアジア地域への平常時の監視や危機における支援プログラム策定に当たって、アジアの実状を最も良く知りうる立場にある日本の意見がより十分に反映されるよう、IMFや世界銀行・ADBに働きかけていく必要がある。

2域内サーベイランスへの対応等

 タイ支援東京会合、マニラ・フレームワークといった地域的なイニシアティブへの貢献等、日本はアジアの通貨危機に対して大きく貢献してきた(資料20参照)。また、タイ、インドネシア、韓国へのIMF支援パッケージにも、二国間として最大の協力を行ってきた。IMF、世界銀行、ADB、G7、APEC、ASEM、マニラ・フレームワーク等の主要なフォーラム全てに参加する唯一の国として、日本はこれまで以上に積極的な役割が期待されている。
 具体的には、マニラ・フレームワークを中心とするアジア地域の域内サーベイランスの強化への積極的対応、IMF、世界銀行、ADBの東京事務所やADB研究所の活動への積極的支援等を整えるべきである。

3二国間支援等

 円借款、輸銀融資、世界銀行・ADB等の日本特別基金を通じる我が国の支援が引き続き重要である。

・円借款

 緊急時には、各国の状況に即応した円借款の機動的対応(必要に応じ、金額・時期の面を含む)が重要である。緊急時に機動的に対応できるような体制整備、例えば緊急時対応指針の作成等も必要と考える。また、内容の面では、プロジェクト借款の比重を下げる等の対応により、構造調整支援のためのセクター・プログラム・ローン等のノン・プロジェクト借款や中小企業・小農のためのツー・ステップ・ローンを増やすとともに、プロジェクト借款においても、新規プロジェクトの採択よりも、実施中の円借款対象プロジェクトの早期完成に重点を置き、そのために必要に応じて、内貨支援の強化を行うことも考えられる。

・輸銀等

 経済混乱に伴い貿易金融に支障をきたしているアジアの状況にかんがみると、輸銀のツー・ステップ・ローンや貿易保険の活用による金融支援、現地日系企業のアジアにおける投資活動に対する支援(輸銀の投資金融の活用)、貸渋り等により輸入に支障をきたしている本邦企業の輸入円滑化に対する支援(輸銀の輸入金融の活用)等を、財政投融資の適切な活用等により、適時・適切に行うことも有益である。また、輸銀が当該国政府等の発行する債券を保証することができるような仕組みを検討することが必要と考えられる。

・世界銀行・ADB等の日本特別基金

 我が国として、各国の構造改革努力を支援するため、世界銀行・ADB等の日本特別基金を通じた技術支援を強化していく必要がある。支援に当たっては、我が国のイニシアティブを明確にする観点から、あらかじめ優先分野を各MDBに対して示し、重点的な支援を行っていく必要がある。具体的には、金融セクター改革、民間セクター育成、環境、社会的弱者対策を優先分野とすべきである。こうした観点から、世界銀行・ADBによるアジアの金融セクター改革支援に関する日本特別基金を通じた支援を積極的に進めるべきである。また、途上国への民間資金の安定的な流入を促進する観点から、我が国との協調融資につながりやすい案件の発掘を促進することが重要である。

4TA(民間レベルを含む)を通じた支援も引き続き重要である。

・適格者リストの整備

 我が国からの人的貢献についても積極的に対応できるような体制作り、例えば実務経験のある金融専門家へのニーズに対して迅速に対応できるような適格者リストの整備等が期待される。

・世界銀行・ADB等の日本特別基金を通じた支援

 世界銀行・ADB等の日本特別基金を人材育成、研究活動の支援等にも積極的に活用すべきであり、世界銀行経済開発研究所やADB研究所等の活動に対する支援を強化すべきである。

・アジア各国との政策対話

また、マクロ経済政策及び構造政策についての各国との政策対話をより一層強化していくことも有益である。

(3)円の一層の活用に向けての環境整備

1東京市場の環境整備

 今回の通貨危機の1つの要因として「過度のドルへの依存」があったことから、域内各国からもドル・ペッグからの脱却の動きがある。また、円建て取引拡大を望む声も高まっている。危機が収まった後のアジアにおける望ましい通貨体制では、円の役割が高まるべきである。円の一層の活用に向けて、多様な運用ニーズを持つ内外投資家が円資産を運用しやすくするよう、流通市場の一層着実な整備や、税制の在り方の検討を含めた東京市場の健全な環境整備に努めていく必要がある。既に触れた日本版ビッグバンは、こうした資金の運用・調達の両面において真に優れた金融システムの構築を目指すものであり、円の一層の活用に向けての環境整備の観点からも、その着実な実行が望まれる。

2改正外為法の施行

 なお、98年4月1日から金融システム改革のフロントランナーとしての改正外為法が施行され、国境を越える取引の抜本的自由化が実施に移された。例えば、海外預金、ユーロ円債の発行等今まで事前の手続が必要であったものが自由に行うことができるようになり、また、内外の投資家にとってビジネス・チャンスの拡大、より有利な資金調達・運用につながるものである。この改正により、内外の資金の流れは一層スムーズになり、我が国金融・資本市場の活性化ひいては、我が国経済の活性化が期待できる。


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