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【公会計に関する基本的考え方】はじめに、1.公会計制度を巡る状況/財政制度等審議会

                                                                       公会計に関する基本的考え方




はじめに


1.我が国においては、公会計の新たな取組みとして、国の貸借対照表(試案)や特殊法人等の行政コスト計算書の作成、新たな特別会計財務書類の作成などの取組みが進められている。また、地方公共団体においては、東京都の「機能するバランスシート」の取組みなど公会計改革に対する意識が高まっており、諸外国においては、公会計の充実を図る様々な取組みが行われ、行政のマネジメント改革と一体のものとして公会計制度の改革を進めている国が見受けられる。

 このように、公共部門の会計制度である公会計については、内外においてその重要性が認識されるとともに、機能の充実が求められている。

2.上記の状況を踏まえ、公会計基本小委員会は、今後の我が国における公会計のあるべき姿について、公会計の担うべき意義・目的を検証するとともに、公会計として開示すべき情報等に関し総合的な検討を行うことを目的として、平成14年11月の財政制度等審議会において、設置することとされた。

3.公会計基本小委員会は、本年1月の初会合以来、13回にわたる審議を行った。この間、公会計基本小委員会の委員・オブザーバーや、会計学や会計実務に携わる外部の有識者によるプレゼンテーションのほか、地方公共団体による新たな取組みの紹介が行われ、また、海外の政府機関等を対象とした公会計制度の充実に関する取組み状況等について海外調査を行いつつ、審議を進めてきた。


4.今般の報告は、公会計基本小委員会におけるこのような審議の結果について、「公会計に関する基本的考え方」として、とりまとめたものである。我が国における厳しい財政状況に鑑みれば、財政規律の確保を強化するための不断の努力を続けていくことは言うまでもないが、公会計の見直しや政策評価制度の充実により、財政の透明性の向上が図られ、予算の効率化が進むことが期待される。



 

1.公会計制度を巡る状況



(1)現行制度の概要

 我が国の財政活動は、国会の議決に基づく予算を基に実行され、その執行実績として予算に対応した決算が作成される。国の予算は、一般会計予算、特別会計予算等からなり、歳出予算については、組織別、目的別に区分して作成される。決算については、予算の区分に応じて作成される。

 また、国の財政活動に関する報告としては、予算の参考資料として、歳入予算明細書、各省各庁の予定経費要求書、国庫の状況に関する調書、国債及び借入金の状況に関する調書、国有財産の状況に関する調書等が作成され、決算の参考資料として、歳入決算明細書や各省各庁の歳出決算報告書等が作成されている。また、国が行う特定の事業を経理区分する多くの特別会計や政府出資法人においては、財務状況を開示するものとして、貸借対照表、損益計算書等が作成されている。

(注) 予算とは、一会計年度内における歳入、歳出の見積もり、つまり、予定的な総計算であり、国の予算は、議会による行政府に対する財政権(歳出に関する執行権限)の付与である。

 また、決算とは、予算に対する実績、一会計年度における歳入歳出の総計算であり、国の決算は、予算の執行結果を把握し、議会に報告されるものを言う。

(2)現行制度に対する指摘事項

 このように我が国の制度は、予算、決算を中心とし、その内容や国庫の状況等に関する詳細な情報を国会へ報告し、国民に開示することに重点が置かれている。これについては、従来より、主に、民間の企業会計との対比において、次のような指摘が行われている。

・ ストックとしての国の資産・負債に関する情報が不十分であり、国の保有資産の状況や将来にわたる国民負担などの国の財政状況が分かりにくい。

・ 国と特殊法人等とを連結した財務情報が提供されておらず、公共部門の全体像が把握できない。

・ フローの財務情報とストックに関する財務情報の連動がない。予算、決算という現金収支と資産、負債状況との関係の把握が困難である。

・ 予算執行の状況が分かるのみで、当該年度に費用認識すべき行政コスト、事業毎に間接費用を配賦したフルコストや将来の維持管理費用などを加味したライフサイクルコストが明らかにならない。

・ 事業毎のコストや便益が把握できないため、予算の効率的な執行を図る助けにはならない。


(3)これまでの取組状況

 このような議論が行われる中で、我が国においては、これまで、発生主義等の企業会計の考え方を活用し、国の財政状況等を分かり易く開示することなどを目的として、次のような取組みが進められている。


 
国の貸借対照表(試案)

 我が国の財政事情をよりわかりやすく国民に説明するため、企業会計における貸借対照表の手法を用い、一般会計及び特別会計等を連結した国全体の貸借対照表を平成10年度決算より作成・公表している。

(注) 特殊法人等を連結した貸借対照表は、平成12年度版より作成している。


 
新たな特別会計財務書類

 特別会計の財務内容の透明性の確保等を図る観点から、企業会計の考え方をできるだけ活用した新たな特別会計財務書類作成基準が本年6月にとりまとめられた。この作成基準に基づく新たな財務書類は、全特別会計を対象とし、適時に作成・公表していく予定である。


特殊法人等の行政コスト計算財務書類

 特殊法人及び認可法人が民間企業と同様の活動を行っていると仮定した場合の財務書類を新たに作成し、特殊法人等の業務に関する説明責任の向上を図るため、平成12年度決算より、各対象法人において、行政コスト計算書、民間企業仮定貸借対照表、民間企業仮定損益計算書及びキャッシュ・フロー計算書等からなる行政コスト計算財務書類を作成・公表している。


独立行政法人の財務諸表

 特独立行政法人の財政状態及び運営状況を明らかにするとともに、独立行政法人の業績の評価に資することを目的として、企業会計に準拠した独立行政法人会計基準に基づき、平成13年度決算より、各法人が財務諸表を作成している。


(参考)財政投融資対象機関の政策コスト分析

 財政投融資を活用している事業の実施に伴う将来の国民負担を明らかにする等の観点から、事業の実施に伴い、国(一般会計等)から将来にわたって投入される補助金等の総額の割引現在価値を、各機関が一定の前提に基づいて試算・公表しており、財政投融資改革の一環として平成11年度から実施している。


(4)諸外国の状況

 諸外国においても、近年において、企業会計的手法の活用等により、予算、会計制度の改革を積極的に進めている事例があるが、各国で異なる議会と行政府の関係や予算制度、予算編成の実態の違いを反映して、様々な異なる仕組みが採られていることから、公会計基本小委員会では、諸外国の状況について調査を実施し、審議の参考とした。具体的には、欧州(英、仏、独)、北米(米、加)、大洋州(豪、NZ)の状況について、本年5月の上中旬の期間に各国に赴き、政府機関の関係者等からヒアリング調査等を実施した。

 また、日本公認会計士協会より、国際会計士連盟(IFAC)における公会計制度に関する活動状況について聴取した。

 以上の調査の結果を概観すれば、次の通りである。


 一般的に予算とは、議会から行政府に対する歳出権の付与であり、そのような予算の執行結果を把握し、議会へ報告するものとして決算がある。予算、決算について、多くの国では、現金支出を管理し、明確さを求める観点から現金ベースでの計上が行われている(注)。豪州、ニュージーランドでは、各省庁に裁量が委ねられる一部の歳出項目について、フルコストを把握する観点から発生主義ベースで計算された予算額が議決されており、一般に発生主義予算が行われていると説明されている。また、英国では、発生主義ベースの予算額(資源額)と現金ベースの予算額の両方が議決対象とされ、議会統制の対象とされている。


(注) 米国の予算は、当年度以降将来にわたり現金の支払いを要する取引の総額を歳出権付与の対象とする支出負担確定主義である。


 他方、予算の執行結果や財務の状況を広く開示し、行政の説明責任を果たすための財務報告について、諸外国では、単に予算に対応した決算を示すのみでは十分とはされておらず、発生主義等の企業会計的考え方を取り入れた財務書類を作成するなど、各国で様々な取組みが進められている。


 各国別の状況を概観すれば、以下の通りである。


イ)英国では、現金支出の上限額を定める現金ベースの予算額及び発生主義ベースの予算額である使用可能純資源額の両方が議決される。決算書類として、「資源会計報告書」が省庁別に作成され、議会へ提出される。その内容としては、予算に対応する決算として、「資源使用結果報告書」が作成され、発生主義ベースと現金ベースの両方で、予算額と決算額の対比が示され、また、「業務費用計算書」、「貸借対照表」、「キャッシュ・フロー計算書」等が作成されている。政府全体の財務諸表は2005年度以降の作成が予定されている。


ロ)フランスでは、現金ベースでの予算(予算法)が作成され、それに対応した決算(決算法)が作成される。2006年以降は、2001年予算組織法により、予算及び決算については、引き続き、現金ベースで作成するが、決算時の財務報告として、発生主義を基本とした国の貸借対照表及び費用財源計算書の作成が義務付けられている。なお、同法では、省庁別の財務書類作成は規定されていない。


ハ)ドイツでは、予算及び公会計に発生主義を活用しようという動きはなく、企業会計的な財務諸表に類するものも存在しない。


二)米国では、予算は現金での管理を中心とした支出負担確定主義が採られており、単年度の支出のみならず現金ベースで捉えた将来年度に支出される予算も確定的に計上されている。融資プログラムや一部の年金プログラムなど、将来的な負担を前倒しで認識することに役立つ一部の項目で発生主義に基づき計算された額が予算計上される一方、固定資産の取得を発生主義で捉えること等については、予算統制の観点から望ましくないとの議論がある。決算については、議会承認を必要とはしないが、現金ベースの財政収支実績のほか、発生主義ベースの政府全体の連結財務諸表、省庁別の財務諸表等が作成され、議会へ提出されている。


ホ)カナダでは、政府歳出の詳細を示した予算案(「歳出見積」)、議会の歳出予算(「歳出権限付与法」)は現金ベースである。発生主義に基づき財務省が作成する「予算(Budget)」は、国のマクロの歳入、歳出、財政余剰等の全体的水準を示すものであるが、国会の議決対象ではなく、我が国や諸外国の予算書とは異なるものである。議会に提出される決算書では、省庁別の現金ベースに基づく歳出権限の付与額と使用額の対比表等が記載される他、2002年度より、発生主義による中央政府の連結財務諸表が記載される。


へ)オーストラリアでは、歳出予算は省庁別のアウトカム単位で議決されるが、その際、全体の2割程度を占める「省庁裁量項目」(人件費、物件費等)が発生主義ベースにより計上され、残りの8割程度を占める「省庁管理項目」(補助金等)が現金ベースで計上され、それぞれ議決される。

 「省庁裁量項目」については、給与や物件費等の現金支出を伴う項目の他、減価償却費や退職給付引当金等の非現金項目についても、歳出権限付与の対象となり、実際に現金の配賦が行われていた。

 但し、次予算年度(本年7月~)以降、各省に委ねられていた現金管理を財政当局が直接管理するシステムに戻し、キャピタル・チャージも廃止するとともに、減価償却費等の非現金項目に係る現金配賦を停止するなど、政府部内では現金ベースでの管理を強化する方向へ戻る動きもある。

 決算及び財務報告書類については、議会に提出される「年次報告書」で、アウトカム以下の項目についても、予算額と決算額の対比が示されるのに加え、「財務業績報告書」、「貸借対照表」、「キャッシュ・フロー計算書」等の財務諸表(政府連結ベース及び各省庁別)が作成されている。


ト)ニュージーランド(NZ)では、各省庁の歳出予算は7つの項目に分類され、「アウトプット・クラス」や「移転支出」等4項目については発生主義ベースで予算額が計上されるが、「資本拠出」、「政府管理資産(公共事業関係資産や国防資産等)の購入・整備」等の3項目について現金ベースで計上され、それぞれ議決される。「アウトプット・クラス」については、人件費や物件費等の現金支出を伴う項目の他、「省庁管理資産(庁舎、物品等)」に係る減価償却費や退職給付引当金等その他の非現金項目についても、歳出権限付与の対象となり、実際に現金が配賦されている。また、各省庁に対し、8.5%の固定金利で計算されるキャピタル・チャージが課されている。

 このように、NZでは、いわば各省庁を政府とは独立のエージェンシーとみなす制度の下、政府と各省庁との契約に伴う対価を表示するものとして、上記のように一部の歳出予算について発生主義ベースで計算された予算額を議決する制度が採られている。なお、減価償却の想定外の増加に対処するため、もともと設けられていた広範な事後承認制度を活用している点に留意が必要である(英国も同様)。また、道路等の公共事業関係資産や国防資産は、「省庁管理資産」ではなく「政府管理資産」とされ、その予算額は、「政府管理資産の購入・整備」項目として現金ベースで議決されている。

 議会に提出される「年次報告書」では、各議決項目について、予算額と決算額の対比が示されているのに加え、「財務業績報告書」、「貸借対照表」、「キャッシュ・フロー計算書」等の財務諸表(政府連結ベース及び省庁別)が作成されている。


 諸外国における財務報告を目的とした書類の対象範囲は、各国とも概ね、中央政府及び国の機関を広くその対象とし、連結ベースで開示することが行われているが、一方、民間企業や地方公共団体を連結対象としているものはない。

 なお、英国に関しては、現在、資源会計が省庁別に作成されているが、2005年度より政府全体の会計を作成し、中央政府に加え、郵便局等の公共企業や地方公共団体まで連結対象とする予定である。


 行政の効果的かつ効率的な推進等を目的として、我が国においても「行政機関が行う政策の評価に関する法律」の下、平成14年4月より、各省庁が自ら政策の評価を行う政策評価制度が導入されており、諸外国においても実効性のある政策評価制度の確立に向け、様々な取組みが行われている。

 英国では、大蔵省が各府省に資源配分を行う際に、各府省とサービス達成目標について合意を行う公的サービス合意(PSA)が業績測定システムとして導入されている。

 フランスでは、2006年以降、毎年の予算法にプログラム毎の予算額、目標、評価指標を示す業績評価システムの導入が決まっている。

 ドイツでは、70年代から行われていた連邦予算規則に基づく費用便益調査に加え、96年以降、同規則に基づき費用効果計算(KLR)を行う政策評価が導入されている。

 米国では、93年政府業績評価法(GPRA)により、「戦略計画」、「年次業績計画」、「年次業績報告」の作成が義務付けられ、また、ブッシュ政権下で、「プログラム評価採点ツール」(PARTS)が導入されている。

 カナダでは、各省庁はビジネスプラン(中期業務計画)の作成が義務づけられており、また、計画レポート(RPP)及び業績レポート(DPR)の議会への提出が求められている。

 オーストラリアでは、99年に導入された「発生主義に基づくアウトカム・アウトプット・フレームワーク」(AOOF)の下、各省庁が作成する「ポートフォリオ予算書」においてアウトカム及びアウトプットについて業績目標(「質」・「量」・「価格」等)が設定され、「年次報告書」において、目標と実績との対比が示される。

 NZでは、各省庁が作成する「政策意図説明書」において、中長期的なアウトカム目標やアウトプット・クラスの業績目標(「質」・「量」・「コスト」等)が設定され、「年次報告書」において、目標と実績との対比が示される。

 他方、各国政府関係者からのヒアリング調査では、財務情報や評価制度の充実は、個別の予算効率化には寄与するものの、予算配分の決定やマクロ的な財政規律の確保とは必ずしも結びつかないとの指摘もあった。これは、諸外国、特に、英国、フランス、ドイツでは、厳しい財政規律ルールが所与のものとされ、予算・公会計制度の改革が、財政制約の下で行政を効率化するという観点から進められているためと考えられる。


 なお、各国の会計士協会を会員とする国際会計士連盟(IFAC)においては、世界銀行やアジア開発銀行等の支援の下、各国の公共部門の財務報告に関する会計基準の雛形となる国際公会計基準(IPSAS)作りが進められている。これについては、現時点において、一部の開発途上国や国際機関等において、採用する動きがある。