ファイナンス 2026年1月号 No.722
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連載海外 ウォッチャー庶民の台所、ローカル市場。スーパーマーケットよりも安価なので、日本人も良く利用する。*8) 本稿執筆時点(2025 年 12 月 3 日)の S&P、Moodyʼs 及び Fitch の見通し評価。*9) MADANI は、「持続可能性(kemampanan)」「繁栄(kesejahteraan)」「イノベーション(daya cipta)」「尊重(hormat)」「信頼(keyakinan)」*10) World Bank Open Data(2025 年 12 月 3 日時点)*11) 2023 年時点の食料自給率(マレーシア統計局 2024 年 9 月発表)「思いやり(ihsan)」を意味するマレー語から 1 文字ずつ取った造語であり、かつアラビア語で「文明的、包括的社会」という意味を持つ。ゾート地にも外資系有名ホテルがたくさんある。日本からの直行便の豊富さや治安の良さもあり、子連れ家族にとってもホカンスを楽しみやすい国となっている。すクアラルンプールにおいては、日本と比べて安く感じるものはほとんどない。足元のリンギ高の影響もあるのだが、特に外食費は日本とほぼ同じで、ちょっとお洒落なカフェでコーヒーを飲むと一杯15リンギ(約555 円、1リンギ=約37 円)ぐらいはかかるし、お酒に至ってはビール1杯20リンギほど(約740 円、1リンギ=約37 円)と日本よりも高い値段で販売されている。食料自給率も、生活必需品とされているものでも品目によっては低く(牛肉:15.9%、米:56.2%、豚肉:69.6% 等*11)、輸入品を取りそろえるようなスーパーマーケットでは、日本と同等レベルの値段である。ただし、マレーシアは世界で一番お得に5 つ星ホテルに泊まれる国と言われており、クアラルンプールだけではなく、ペナン島、ランカウイ島といったリコラム 3 マレーシアの物価相場約10 年前は、マレーシアはじめ東南アジアは安く遊べる旅行先として人気があったが、現在筆者が暮ら11.6% の増加を見込んでいる*7。また、政府は石油関その甲斐あって、2026 年の SST による歳入は前年比で連歳入への依存度低減への努力もしており、歳入増及び歳入源多様化の一環として、SST の拡充に加え、e インボイスの導入、たばこ・酒等健康リスクが高い製品への物品税の引き上げ、炭素税の導入(2026 年内を予定)等、財政の安定化と持続可能性を追求している。これらの改革努力の結果、国際格付機関もマレーシアの信用格付け見通しを「Stable(安定的)」と継続的に評価しているほか*8、この財政再建へのコミットメントは、ASEAN 議長国としての財政ガバナンスアピールに繋がり、国際社会からの信頼を一層高める要因にもなっている。2025 年のマレーシアは、単なる ASEAN 議長国としての役割を超え、中所得国が直面する課題に対する新たな解決モデルを提示したと言える。それは、国際協調、財政再建、そして投資誘致のための産業高度化という、複数の困難な目標を巧みに連動させながら推進した稀有な例であった。アンワル政権が掲げる一丁目一番地の 10 か年経済指針「マダニ経済政策(Malaysia MADANI)*9」では、年率 5.5% の GDP 成長を持続的に達成し、2030 年までに GDP 世界トップ 30 入り、及び 2030 年までの高所得国入りを視野に入れている。世界銀行が定める高所得国の基準は国民 1 人あたり GNI が 14,005 米ドル(2025 年度基準)であるが、マレーシアは 2024 年時点で 11,670 米ドルに達しており*10、悲願の達成が目前に迫っている。*11しかし、マレーシアは過去 20 年以上にわたり「中所得国の罠」に陥っていると指摘されてきた。その原因は多岐にわたるが、主に労働集約型製造業からの脱却の遅れ、イノベーションへの投資不足による高コスト、そして長年にわたる過度な補助金制度や一部の保護主義的政策が市場競争と生産性向上を阻害してきた点にある。経済が一定の水準に達した後、労働コストの上昇や技術革新の停滞により、これまでの成長モデルが機能しなくなり、先進国への移行が困難になるという典型的な課題に直面していた。脱却の道筋 55 ファイナンス 2026 Jan. 4 4 マレーシアが示す「中所得国の罠」

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