0連載PRI Open Campus 0-60)円万(与給額月ファイナンス 2025 Nov. 57図表 2:第一子誕生前後の給与推移PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 49(出所)Yoko Okuyama, Takeshi Murooka, Shintaro Yamaguchi, "Unpacking the Child Penalty Using Personnel Data: How Promotion Practices Widen the Gender Pay Gap" (February 2025), CREPEDP-165, University of Tokyo504030201060120第一子誕生からの経過月数男性(子供なし)男性(子供あり)女性(子供なし)女性(子供あり)180ここから少しテクニカルなお話をします。分析の枠組みとしては「イベントスタディ」という考え方を用います。子供が生まれるという出来事を「イベント」と定義し、その後のキャリアの変化を追跡します。このとき、子供が生まれた従業員を「処置群(Treatment Group)」とし、比較対象として「対照群(Control Group)」を設定します。問題は「子供が生まれなかった場合、その人のキャリアはどうなっていたか」を推測する必要があるということです。そのため、結婚しているが子供を持たない従業員を対照群として用います。具体的には、ある年に第一子を出産した人について、その 1 年前の時点で「同じ性別・学歴・生年・婚姻状況」を持つ非常に近いプロファイルの従業員をペアの対象として見つけてきます。結果的に子供を持った人が処置群、持たなかった人が対照群として、この二者のキャリアパスを比較します。分析では、出産 60 か月前から出産後 180 か月まで、広い期間を追跡しています。さらに、個人固定効果、性別年次固定効果、学歴や年齢といったプロファイルを調整することで、処置群と対照群の比較が公平となるようにしています。その結果、出産前における両群の労働時間・人事評価・月収にはほとんど差がないことが確認できました。実際に、図表 2「第一子誕生前後の給与推移」を見てみます。横軸は第一子誕生からの経過月数で、ゼロ地点で子供が誕生しており、その左側は誕生前、右側が誕生後です。女性の結果をみると、処置群のラインが出産直後に大きく下がり、第二子の誕生でも再度下がります。その後、少しずつ回復するものの、完全に差が埋まるわけではありません。これに対し、対照群は、同じタイミングでも給与が緩やかに上昇していきます。また、出産の有無による違いを検証するため、過去 5 年間さかのぼって処置群と対照群を比較してみましたが、出産前の給与に大きな差は見られませんでした。したがって、「キャリアが順調だから子供を持つ(あるいは持たない)」という選択があったとしても、その違いは出産前の給与や労働時間には反映されていないということがわかります。一方、男性の給与推移は女性とは異なり、処置群の給与はマイナスどころかむしろプラスになっています。つまり、男性にとっては「子育てペナルティ」ではなく「子育てプレミアム」が生じているのです。これは主に扶養手当によるものです。子供が生まれると、1 人あたり月額 1 万 5 千円程度の手当が支給されるためです。図表 3~6は、給与項目ごとの変化を分析した「子育てペナルティの詳細」です。横軸は第一子出産からの経過月数で、縦軸は賃金の基準からの乖離を示しています。男性の場合、子供誕生までは変化がないものの、誕生と同時に給与が上がり、第二子・第三子と続けばさらに加算されます。女性の場合は、出産まではほぼ横ばいですが、出産のたびに大きく下がり、回復しても完全には元に戻りません。これは月額給与総額全体を見た結果です。さらに、残業手当・時短控除に注目すると、男性は給与にほとんど変化がない一方で、女性は大きく減少しています。役職・職階手当については、男性は 10 年以上経つと給与が増加するケースがあるのに対し、女性は逆に低下しています。興味深い7.分析手法およびその結果
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