連載PRI Open Campus図表 1:男女別役職分布(出典)Yoko Okuyama, Takeshi Murooka, Shintaro Yamaguchi, “Unpacking the Child Penalty Using Personnel Data:How Promotion Practices Widen the Gender Pay Gap” (February 2025), CREPEDP-165, University of Tokyo項目残業手当、深夜・休日勤務手当を合算したものです。短時間勤務を選択した場合には、時短控除という形で給与から差し引かれます。この会社は基本的に週 40時間フルタイム勤務を前提としているため、そこから時短分が調整される仕組みになっています。時間関連役職・能力関連職階等に応じた基本給、役職手当またはそれに類するような手当を合算したものです。学歴と年齢に応じて自動的に決まる部分です。金額は比較的小さいですが、独立した項目として区分しました。年齢給資格手当(ボイラー技師等の資格を有するだけで支給)、研修参加手当等多様ですが、金額は小さく、分析上も特に注目すべき特徴はありませんでした。ただし、家族手当・扶養手当は重要で、これらは世帯主が対象であり、ほとんどの場合、男性が受給者となっています。諸手当内容 56 ファイナンス 2025 Nov.響、いわゆる「子育てペナルティ」の分析が可能になっています。多くの企業では給与計算に直接反映されない家族情報は欠落していることが多いのですが、この企業では詳細に記録されており、研究にとって大きな強みとなっています。なお、海外の研究グループと話した際に、プライバシーに対する感覚の違いもあり、本人以外の家族情報を取得できないことから、こうした研究は難しいと聞きました。次に、今回の分析で用いた 27 種類の給与項目について説明します。これらは以下のとおり、大きく 4 つのカテゴリーに整理しました。次に、役職の階層構造についてです。役職は一般社員、主任・班長、係長、管理職(課長以上)の 4 つに分類されています。この企業では飛び級はなく、必ず段階を踏んで昇進します。昇進は上司の推薦をもとに人事部門が決定しますが、基本的にその判断を人事部門で覆すことはありません。また、昇進は総合的な評価によって決まりますが、その中でも人事評価の得点が大きく影響しています。図表 1 のとおり、役職分布を性別で見ると、男女間に顕著な格差があることが分かります。つまり、女性は、管理職はおろか、主任や係長といった役職にもほとんど登用されていないというのがこの企業の特徴です。続いて、分析対象企業における出産後の就業状況についてご説明します。出産時点で在籍している従業員は、原則として一旦復職する前提ですので、出産直後に離職する方はほとんどいません。その後徐々に離職者が出てきますが、10 年経過しても離職率が 1 割程度にとどまっています。10 年間の平均離職率は 1.1%で、出産後に離職する方が非常に少ないという点が大きな特徴です。では、出産後に在籍している従業員はどのような働き方を選択しているのでしょうか。出産前後には、ほとんどの従業員が産休・育休を取得し、おおむね 2 年以内に復帰しています。第二子の出産等で再度取得するケースも見られます。また、出産後に時短勤務を選択する従業員が圧倒的に多く、フルタイム勤務は当初こそ約 50%を占めるものの、復職後に徐々に減少していきます。実際に働いてみて「フルタイム勤務は厳しい」と判断するケースもあるのだと考えられます。ポイントは、出産後の離職者は少なく、多くの女性が時短勤務を選択しているという点です。5. 分析対象企業における職階構造・昇進制度6. 分析対象企業における出産後の 就業状況
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