ファイナンス 2025年11月号 No.720
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連載セミナー ファイナンス 2025 Nov. 51令和 7 年度職員トップセミナー例えば、何らかのマーケティング施策を実施した場合、それが世の中でどのような反応を引き起こすのかをシミュレーションします。マーケティング施策を提案するエージェントと消費者のエージェントが対話しながら、高速で様々なマーケティング施策を考え、それに対してどのような反応を受けるのか、そのフィードバックを受けながらプランを作成していくのです。このように、「このような施策を投じると、その流行はどのように広がっていくのか」という点についても、一定程度シミュレーションが可能となってきております。生成 AI については、便利である一方でリスクも存在すると考えております。まず、サイバーセキュリティの脅威が挙げられます。次に、様々なデータのプライバシー侵害や漏洩リスクもあります。そして現在最も懸念されているのが、ハルシネーション、いわゆる虚偽情報を生成するリスクです。その他にも著作権のリスクが存在するほか、AI を使用する際に大量の CO₂ を排出しているという問題もあります。また、様々なモデルベンダーへの依存といった課題もございます。これらのリスクをどのように回避するか、リスクを十分に踏まえた上でどのように活用していくかを慎重に考えていく必要があります。結局のところ、リスクをきちんと認識した上で、そのリスクを最小化するように AI を活用していくことが重要なのです。まずはリスクを正しく認識することが大事なのかなと思っております。本日は様々な事例についてお話しさせていただきましたが、「何か AI の基盤を導入すれば、それで終わり」ということではないと考えております。様々な AI のツールを整備する必要がありますが、最終的には人の働き方が大きく変わるため、仕事のやり方を抜本的に変えなければ、AI も効果を発揮しません。人と AI が協働する時代だからこそ、従業員の教育が非常に重要になると考えております。アクセンチュアのグローバルのリサーチチームが日本経済のシミュレーションを実施いたしました。「生成 AI が日本の経済にどれだけ貢献するのか」という点について、「アグレッシブ」「慎重」「人間中心」の三つのシナリオで検討しております。「アグレッシブ」は、人間の業務をそのまま生成 AIに置き換えていくシナリオです。これは初期の立ち上がりは良好であるものの、実際にはそこまで成長しないという結果が示されました。「慎重」は、その名の通り、人の仕事を奪わないように AI を活用していくシナリオです。これは最終的には一定の成長を遂げるものの、非常に多くの時間を要するという結果が示されております。「人間中心」は、人の教育を含めて、人間に投資していくシナリオです。これが最も立ち上がりが良く、最終的な効果も最大になるという結果が示されております。やはり、人間が得意なことと生成 AI が得意なことを考慮しつつ、適切に使い分けていくことが重要であると考えます。生成 AI は従来の AI とは異なり、非常に高度な模倣能力を有している点が一つの特徴です。従来の AI は、コミュニケーションやクリエイティブな仕事は難しいと言われてきましたが、ビジネス上のコミュニケーションやクリエイティブの多くの部分は、生成 AI によって相当な程度まで実現可能となっております。今後は AI でできる、できない、ではなく、人間が担当したほうが良い、または人間が行わなければならない部分が、人間の仕事となってくると考えております。それから、実際に AI を適用して成功している組織と、うまくいっていない組織の間には明確な差が生じております。その差はどこにあるかというと、AI に対して不信感を持っている組織では、業務に AI が活用されません。その結果、データが蓄積されず、予測精度も向上しないのです。AI は使わなければ進化しないため、いかに使用しながら進化させるかが重要となります。そのためには、AI に対する信頼が非常に重要であ生成 AI の登場と企業リスク3 パターンの日本経済成長シミュレーション

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