連載セミナー ファイナンス 2025 Nov. 49令和 7 年度職員トップセミナー(1)アクセンチュア・アドバンスト・AI センター世界各地にあるアクセンチュアのセンターの中でも、経営に関する AI は、昨年 11 月に完成した「アクセンチュア・アドバンスト・AI センター京都」で開発しております。実際、アクセンチュアのグローバルな経営シミュレーションにおいても、ここで開発された AI を活用しております。センターで実施する AI 体験ツアーでは、議論や交流を通じて AI の可能性を学び、事業変革のヒントを得ることができます。様々な経営者の方々にお越しいただき、経営者と AI がディスカッションを行っております。我々はそのために様々な AI の専門家をこの場に用意しております。例えば、AI の CFO(最高財務責任者)、AI の CIO(最高情報責任者)、AI の CHRO(最高人事責任者)などの AI による CxO、さらに社外取締役のようなファンクションを担う AI も用意しており、経営者とこれらAI の経営専門家が対話する場を提供しております。実は最初にここで AI と対話を行ったのはアクセンチュア自身であり、アクセンチュアの経営概念についての検討を実施いたしました。この AI に社長や経営者と対話させる際には、ポジティブな意見を出す一方で、必ず反対意見も提示するような仕組みを導入しております。社長に対して AIが厳しい意見を述べた際、弊社社長の江川から「人間に言われると感情が入って不快に感じるが、AI に言われると心理的にも受け入れやすい」との感想が述べられました。これまで訪問された多くの経営者からも同様の意見をいただいております。「部下から耳の痛いことを言われると不快に感じることもあるが、AIに言われると比較的冷静に受け止められる」といった点が、実は好評を得ております。しかし、AI の CxO たちはリスクを伴う実際のアクションを取ることはできませんので、判断はやはり人間が行わなければなりません。一方で、例えば現在の市場シェアがどの程度あるのか、損益分岐点を考慮した場合、新規ビジネスに進出するためにはその領域で何パーセントのシェアを取る必要があるのか、といった点については、AI の CFO の方がより正確に算出することが可能です。人間と AI を巧みに組み合わせていくことが重要であると考えております。(2)生成 AI を活用した組織設計我々が提供している中で最も好評な CxO は CHROです。これは、3 年後あるいは 5 年後にその会社がどのような姿であるべきかをシミュレーションするツールです。実際、アクセンチュア自身もグローバルな 3 年後の人員配置プランをこのツールで策定しております。冒頭でお話しさせていただいた「どの職種にどの程度生成 AI のインパクトがあるのか」といったリサーチ情報を AI に学習させております。さらに、我々は世界中で生成 AI のプロジェクトを実施しており、どこで、どの程度、どのような類の仕事が生成 AI によって置き換えられたのか、入れ替わってきたのか、という情報も AI に学習させております。その AI に対して「現在このような組織で、このような仕事を行っており、何人の人員がいて、今後このような計画を持っている」といった情報をインプットすると、AI はあるべき組織の姿を計算してくれます。例えば、こういったタイプの仕事をしている営業職員を抱える組織の場合、生成 AI を徹底的に活用すると、現在の業務は 32%減の人数で遂行可能である、との計算結果が得られるのです。この結論を導き出すにあたり、「積極派」と「保守派」といった複数の考え方を持つ AI エージェントがディスカッションを行いながら、プランを作成しております。「積極派」は、生成 AI の導入をはじめとする DX を積極的に推進し、効率化を徹底的に進めるタイプのエージェントです。一方、「保守派」は、現在会社にどのようなスキルを持つ人材が何人いるのかを把握し、その方々をいかに徹底的に活用するかを考えるエージェントです。このように、相反するタイプの考えを持ったエージェント同士をディスカッションさせながら、会社の組織プランを策定させております。その際、人間が途中で介入できるようにし、後から議論を振り返ることができるような形にしております。アクセンチュアで最初に試した際にも、一度 AI が出したプランに対して、例えば社長が「ここは自分の考えと異なるのだが、どのような議論があったのか」と問いかけた場合、その時の議論を振り返ることができます。
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