連載セミナー3.これからの労働者に問われる 4 択1.業種別の潜在的影響2.生成 AI の進化 46 ファイナンス 2025 Nov.「第二次 AI ブーム」を経て、2000 年頃から始まった「第三次 AI ブーム」では、ディープラーニングが中心でした。その後、途切れることなく生成 AI のブームが到来し、今度こそ本当に、世の中を変革する技術であるとの認識が広がっております。「生成 AI、特にその中でも大規模言語モデル(LLM)が、どれだけ仕事にインパクトを与えるのか」について、アクセンチュアのグローバルリサーチチームが調査を行いました。その結果、「生成 AI によって置き換えられる仕事」と「生成 AI によって大幅に強化される仕事」、すなわち「今後なくなる、もしくは今までとは全く異なる方法で遂行される仕事」の割合は、日本平均で 44%に達することが明らかになりました。これは、ほぼ半数の仕事がこれまでとは異なった方法で行われるか、あるいは自動化されることを意味しております。AI の影響が特に大きい産業としては、証券、保険、銀行などの金融系が上位に並んでおります。金融系の業務は、規則に則った言語タスクが多く、その複雑性にもかかわらず、生成 AI はこれらの業務を相当程度まで遂行可能となってきているため、置き換えが進むと考えられております。影響が最も少ないとされる消費財分野においても、約 3 割の業務が「AI の影響が大」となっております。ホワイトカラーの仕事に関しては、AI による多大な影響があると認識していただく必要があるかと思います。職種別にみると、営業や事務系の業務の約 7 割から 8 割が、AI に置き換えられるか、あるいは異なる形で遂行されるであろうと予測されております。生成 AI の進化は著しく、今年 8 月には GPT-OSS やGPT-5 など、様々な用途により適したモデルが登場いたしました。最初に登場した ChatGPT は「賢い大学生」程度の知識を持つものとされておりましたが、最新の GPT-5 に関しては、分野によっては博士レベルの知識を有しているとも言われております。このように、生成 AI の進化が急速に進展していることから、今年は「AI エージェント元年」とも称されております。人間に代わり様々な業務を遂行する AI エージェントが既に登場しており、異なる役割を持った複数のAI エージェント同士が相互に対話しながら業務を遂行する「マルチエージェント化」の時代が、来年あたりから本格化すると予測しております。さらに、人間を超えた知能を有する ASI(人工超知能)が近い将来に登場することでしょう。今のお話とも関連するのですが、私は特に若い社員に危機感を持っていただきたいと考えており、全社ミーティング等において「これからの労働者は、極論すれば、次の四つのパターンに分類される」と話しております。一つ目は、「AI やロボットを使いこなす『極めて生産性の高い人間』」です。AI やロボットを駆使して「極めて生産性高く働くこと」が当たり前の世界が到来しつつありますので、アクセンチュアの社員には最低限、この水準に達していただかなければならないと話しております。しかしながら、「AI やロボットを使いこなす人間」だけが生き残るわけではありません。逆に、AI リテラシーを特に持たなくとも、人間としての魅力を発揮する方々は多く存在します。二つ目のパターンは、「AI やロボットにない『人間としての魅力を価値とする人間』」です。「人間としての魅力を価値として発揮できるかどうか」が、これまで以上に重要視される時代が訪れると考えております。三つ目は、「AI やロボットを『作る側の人間』」です。私自身もこの三つ目を目指しておりますが、これは単に AI の開発を行う人間を意味するのではなく、組織内で人材を育成する代わりに「AI を育てる」ことも含まれます。今後、企業や組織内で本当に有用な AI を創出することが求められ、そのような AI を作り上げる側の人間が極めて重要な価値を持つと考えております。これら三つのいずれにも該当しない場合、四つ目は、あまり考えたくない選択肢ですが、「AI やロボットより『安い労働力としての人間』」です。四つの選択肢のうち、上記三つのいずれにどのようにして入るかが、これまで以上に問われる時代が到来すると感じております。生成 AI が労働に与える影響
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