ファイナンス 2025年11月号 No.720
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今年開園 40 周年を迎えた千葉市動物公園の園ファイナンス 2025 Nov. 1長を2019 年から務めている。早稲田大学卒業後、株式会社東芝に入社。まだ市場黎明期にあったパーソナルコンピュータ事業に配属され、営業や事業企画、新規事業の創出、関係会社の役員などを経験してきた。50 代半ばを過ぎ、第 2 のキャリアは全くの異業種、特に地元の文化や経済の発展に繋がるような職に就きたいと漠然と考え始めていた矢先、千葉市が園の再生と事業統括を担う園長を公募するとの報に接した。動物の専門家ではないため躊躇もあったが、家族と訪れた思い出の地であり、生き物や自然などへの興味関心も強かったこと、そして企業で培った経験が活かせるのではないかと考え、応募を決めた。さて就任にあたってまず必要と考えたのが、再生の基本理念や将来ビジョンの策定。「動物園とは何か」はそのための自身への問いかけだった。子供の笑顔や家族の思い出はすぐ浮かんだが、それ以外の記憶や施設の目的については理解が浅いことに気づいた。動物園が王族の動物コレクションを起源とし、近代化の過程で科学的基盤と市民への開放を要件とする博物館機能を担うようになった歴史的経緯を知り、現状認識との大きな乖離を痛感した。動物園の社会的役割として、(1)絶滅を防ぐ「種の保存」、(2)生態解明や飼育技術獲得のための「調査・研究」、(3)「教育・環境教育」、(4)楽しみながら学ぶ場の提供「レクリエーション」の 4 つが挙げられてきたが、一般的に動物園は、子育て支援や娯楽の場といったレクリエーション施設としての認識が高いことは否めず、価値転換が必要だと考えた。そこで当園では、「生物多様性の保全と社会教育の実践」を園の中核機能と位置づけ、その高度化の原動力として(2)と(3)の包括的活動を『アカデミア・アニマリウム(動物をめぐる学術の場)』と称し、2020 年から推進している。科学的基盤の強化と様々な気づきや考える学びにつながる教育プログラムの開発・実践を目指し、研究職と教育普及職も新設。研究件数や講演会など教育関連の取組みは飛躍的に拡大した。2024 年11月には、動物園としては全国でも数少ない『登録博物館』の認定を受け、更なる学術的基盤の充実を図っているところだ。また、動物園界では「Sense Of Wonder(驚きや感動)」という言葉がよく使われるが、加えて地 球 環 境 の 悪 化 や 生 物 多 様 性 の 喪 失に 対する「Sense Of Urgency(危機意識)」も動物園が扱うべき重要な視点だと考えている。動物園を「野生動物を含む自然環境、そして地球を守る事への気づきや学び、更には必要な行動変容に繋がる情報と体験の場を提供する場」と定義し、野生生態の魅力の発信に止まらず、動物や自然をテーマとする文化・文芸・芸術・科学や、命を取り巻く諸課題、地球規模の問題に至るまで積極的に取り上げ、対象世代の拡大も意識した知的探求心と創造的思考を刺激する施策の展開を心がけている。その他、時代に即した価値の創出や新たな顧客体験の提供といった施策展開にも注力しており、IoT や自動運転の活用、AIによる動物生態の可視化や来園動態分析等、企業や教育機関と連携した実証実験なども積極的に進めてきた。こうした活動が評価され、千葉市スマートシティ推進事業におけるリーディングプロジェクト(「スマート動物園」)に位置づけられている。今年 3月には、学習施設「動物科学館」が『生命の森 熱帯雨林』としてリニューアルオープンした。今後は新たなゾーニング構想のもと、動物飼育・展示施設の再整備を計画している。ぜひ動物園の新たな価値の一端を体感頂きたい。千葉市動物公園 園長鏑木 一誠「動物園とは何か」 価値転換を図る千葉市動物公園の取組み巻頭言

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