ファイナンス 2025 Nov. 43JBIC・JETRO・日本インド商工会は、定期的にグジャラート州ドレラ工業団地の視察ツアーを実施。日系企業が多数ドレラ工業団地を訪れ、半導体エコシステムの構築に向けて現状を理解するとともに、タタ・グループとの意見交換を行っている。写真は本年 7 月に小野啓一駐インド・ブータン日本国特命全権大使が視察ツアーに参加した際のもの。海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー 産のモバイルアプリの開発が急務である旨、プレスリリースにて述べている。また、AI 分野についても自国による AI エコシステムの構築に向けた努力を続けている。2024 年 3 月に India AI Mission を立ち上げて、5 年間で 1,000 億ルピー以上の支出を予定している。こうした予算を使い、3 万 8,000 もの AI 計算用のGPU を確保し、インド政府が認定した研究者やスタートアップのプロジェクトであれば、1 時間 65 ルピーという安価で利用可能な環境を整えた。また、スタートアップによる自国産の基盤 AI モデルの開発を支援しており、2025 年内の自国産大規模言語モデルのローンチを目指している。他にも、自国産の AI モデルの開発を促すため、AIKosh と呼ばれるデータセット・AI モデルのレポジトリをインド政府が作成・公表し、インドのデータへのアクセスの利便性を向上させている。このように、自国産の AI モデルの開発が進む環境を整えつつ、様々なアプリケーションの基盤となる AI モデルの開発には直接の支援を行っている。本稿では、インド経済の状況と課題について触れた上で、インド政府が経済政策の基盤に据える Self-Reliant という考え方について、個別産業セクターで採用されている産業政策も見ながら述べた。上記の個別セクターでの政策に見られるとおり、インドは、国内の規制を通じた保護主義的な政策と、各種の補助金やインセンティブ、インフラ整備を通じた自国の産業振興・投資誘致を戦略的に組み合わせている。このように、海外からの輸入品ではなく国産の製品の需要を喚起する方針をとりつつ、政府による補助スキームにより、海外企業・国内企業問わず重要なセクターへの投資喚起を行うことで、Self-Reliant という考え方を実現するべく、再生エネルギーや半導体、デジタルといった分野での自立性の確保・グローバルバリューチェーンでの付加価値の創造に向けた取組を行っていると総括できる。世界銀行が指摘するように、グローバルバリューチェーンへの参画がインド経済の課題である一方、前述のようなインド政府のアプローチは、世界銀行が示唆するような、関税・非関税障壁を削減することでグローバルな市場から原材料を調達し、労働集約的なセクターでの輸出の多角化を目指すアプローチとは異なるもののように見受けられる。Self-Reliant という考え方のもと、国内産業を保護しつつ海外からの投資も誘致し、インド国内市場の巨大なスケールを活かして内生的に経済・社会を発展させ、インドがグローバルな市場にもたらす付加価値を高めるというアプローチには、これまで順調に経済成長してコラム3 半導体分野での日印の協力インドでの半導体製造については、そのエコシステムの構築に関して日系企業からの関心が高まっている。半導体製造に必要な周辺産業や製造装置について、日系企業の参画する余地が大きいことがその理由として挙げられる。こうした関心も踏まえ、日本インド商工会は半導体委員会を設けてインド内外の日本企業同士での連携を深める取組を進めている。特に、国際協力銀行(JBIC)ニューデリー事務所は同委員会の幹事として、半導体エコシステムの構築に取り組んでいる。また、東京エレクトロンとタタ・エレクトロニクスは、インドに半導体エコシステムを構築するための戦略的パートナーシップを開始する等、企業同士の協力も進んでいる。政府間では、半導体政策対話の下で、政府機関・企業・教育機関が参加する会合を開催し、半導体分野における強□なサプライチェーン、人材、研究開発に関する機会が模索されている。 5 5 終わりに
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