ファイナンス 2025年11月号 No.720
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ファイナンス 2025 Nov. 41海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー 表 1(1) 産業政策全般(2) エネルギーこのように、成長戦略、地経学、インド的思想といった様々な観点の結節点となっている Self-Reliantという考え方について、個別セクターも含む産業政策も見ながら、その特徴について紹介したい。Self-Reliant を実現するため、2021 年度財政演説において、生産連動型補助金(PLI:Production Linked Incentive)を発表し、電子機器、医薬品、バッテリー、太陽光パネルを含む合計 14 分野について、5 年間で約2 兆ルピーの支援を打ち出すことを表明した(対象分野は表 1 のとおり)。みずほリサーチ&テクノロジーズは、PLI 導入以降、特に IT・エレクトロニクス分野で、台湾・韓国・米系企業が増産を進めていると指摘しており、特にスマートフォンは足元でもインドの主要な対米輸出品となっている。このように、大型の補助金を導入することで、投資誘致を進め、インドがグローバルバリューチェーンの中で果たす役割を拡大させようとしている。並行して、インドは「高品質な製品・商品の生産・販売を担保する」ため、強制規格に当たる品質管理令(QCO:Quality Control Order)を広範な分野の個別財について続々と発行している。インド政府はプレスリリースにおいて、国内で高い品質・世界水準の製品を作るというコミットメントだと説明しており、プラサダ商工省閣外大臣も、QCO の徹底を通して、「「メイド・イン・インディア」が世界的に安全・品質・信頼の代名詞となる」ように努めると述べている。この QCO はインド独自の規格であり、ゴヤル商工大臣は QCO について「インド国内で機能する基準であり、その同じ基準が世界の他の地域へ輸出されるのだ」と述べている。一方、インドでの製造を行う日系企業からは、QCO を義務づける通達の発出から適用開始日までの期間が短い一方、認証取得には長期の期間を要することが実態であり、認証取得が間に合わない製品の輸入が不可能になる事態も生じている。日本や東南アジア地域から中間財や資本財をインドに輸入する必要がある日系企業のサプライチェーンに大きな影響があるとして、ビジネス環境上の課題であるとの指摘がなされている。インドはエネルギー分野においても Self-Reliant を掲げており、2047 年までにエネルギー自立を達成すること、2030 年までに電力の半分を非化石燃料エネルギーによってまかなうことを目指している。インドは、現在の主要エネルギー源である化石燃料について、石油の 9 割以上、ガスの 5 割以上、石炭の 2 割以上を海外に依存している。これは慢性的な貿易・経常赤字を生みだすものとして、エネルギー分野での自立を目指している。再生エネルギーの導入を促すため、インド政府は、再生エネルギー電力を政府が設定した価格で電力会社が 一 定 期 間 買 い 取 る 固 定 価 格 買 取 制 度(Feed-In Tariffs)、各州の配電公社や民間配電会社、大口需要家 に 対 す る 再 生 エ ネ ル ギ ー 電 力 の 購 入 義 務 制 度(Renewable Purchase Obligation)を導入している。また、原子力発電についても民間投資を許可するため、2025 年 2 月、インド政府は原子力エネルギー法・原子力賠償責任法の改正を目指すことを発表した。これまで原子力事故が発生した場合、設備供給業者に無限責任を追わせることとなっているため、法改正により、こうした条項を削除することが検討されている旨、報道がなされている。また、再生エネルギーの発電設備についても国産化に向けた努力が進められている。太陽光パネルについては、グローバルにその中・下流のサプライチェーンを中国に依存しているところ、PLIを通じた補助政策によって国産化の奨励を図ると共に、政府が実施する太陽光発電プロジェクト等については、新・再生エネルギー省から認可された企業による太陽光パネルでなけ取組 4 4 Self-Reliant を実現するための

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