ファイナンス 2025年11月号 No.720
44/76

連載海外 ウォッチャー 40 ファイナンス 2025 Nov.主要紙である Indian Express 紙に寄稿し、この Self-場するストーリーを引用しながら解説している。寄稿文中では、風神の子ハヌマーンが自身の持つものを想起して自信を取り戻したように、インド経済もその内なる力を引き出してグローバルな不確実性に応えようとしている、Self-Reliant は孤立を意味するのではなく、インドでの製造能力を高め、自国の力強さを世界へ発信していくものと理解すべき、世界が壁を作る中で、インドはその能力を高めているのだ、と述べている。このように、自国で内生的に経済成長を追求する考え方が Self-Reliant だと言える。一方、こうした思想が経済政策の中心に据えられる背景としては、中国への巨額の貿易赤字・経済的依存があげられる。インド政府によれば、2024 年度の中国への財輸出は 143 億ドルであるのに対して、中国からの財輸入は 1,135 億ドルであり、992 億ドルもの貿易赤字を計上している。また、当地シンクタンクのGlobal Trade Research Initiative(GTRI)によれば、インドの産業財の輸入の 30% を中国に依存しており、電子機器、機械類、化学製品、鉄鋼等多数の分野での産業財輸入が中国に依存しているほか、中国からの輸入の 87% が資本財・中間財となっており、インドの製造業は中国からの輸入に強く依存していることが示唆されている。こうしたことから、GTRI はインド政府・産業界に対して、多様化された・強靱なサプライチェーンの構築のため、輸入戦略を再評価することを求めている。経済安全保障上のリスクを踏まえ、こうした経済的依存傾向を脱却することも、Self-Reliant という考え方の中に織り込まれた側面だと考えられる。Reliant という考え方について、ヒンドゥー教の聖典の 1 つであり長編叙事詩である『ラーマーヤナ』に登また、Self-Reliant という考え方は、自国製品の利用運動とも結び付いている。モディ首相は 2025 年 8月の独立記念日におけるスピーチや同年 9 月 21 日のスピーチにおいて、Swadeshi という語を用いて、日常生活の一部となっている外国製品を排除し、自国製品を愛用・その価値を宣伝し、例えば自国産製品を用いているのであれば販売店の店舗外に「Swadeshi」といった看板を設置するといった取組により、目に見える形で自国製品の利用を推進する必要がある旨述べている。Swadeshi は、インドの諸語で「自己の所属する地の」「自国の」を意味する語であり、土着の商品の生産・愛用奨励の意味を指している。インドの独立運動期に Swadeshi のスローガンのもと、ベンガル分割への反対闘争の一環として、インド人資本による産業発展・外国商品のボイコットを含むインド国産品の愛用奨励が行われた。また、マハトマ・ガンディーも独立運動期にスワデーシー運動を非暴力抵抗闘争の重要な柱としていた。当地シンクタンクの Observer Research Foundation の Vice President で あ るGautam Chikermane 氏が掲載した、Swadeshi 2.0を テ ー マ に し た エ ッ セ イ で は、 独 立 運 動 期 のSwadeshi 1.0 は政治的自由の獲得が原動力であったのに対して、Swadeshi 2.0 は地政学的不確実性への対抗が原動力となっており、東西の 2 つの覇権国家による敵対的な地政学と攻撃的な行動に対抗することを目的としている、と述べられている。この”Swadeshi”の思想は、Self-Reliant の思想ともつながっており、モ デ ィ 首 相 は 前 述 の 9 月 21 日 の ス ピ ー チ に て、Swadeshi キャンペーンや Self-Reliant キャンペーンにより、インドの製造業を加速させることを全ての州政府に対して求めている。て、インド・モディ首相と中国・習近平国家主席は5 年ぶりに首脳会談を行い、それ以降二国間関係の正常化に向けた取組が続けられている。こうした取組の一環として、この直接投資に対する事前審査制の見直し、例えば、一部のセンシティブではないセクターについての事前審査制の免除が検討されている旨、報道がなされているところ。コラム 1 隣接国からの直接投資に対する事前審査インドは 2020 年より、パンデミックに伴う機会主義的な買収を抑制するため、中国を含め国境を接する国からの直接投資については、全て事前審査制としている。2020 年に発生したインド・中国間の国境衝突を受けたものとされており、こうした点からも経済安全保障上のリスク管理の努力を行っているといえる。一方、2024 年 10 月の BRICS サミットにおい

元のページ  ../index.html#44

このブックを見る