連載海外 ウォッチャーWAT C H EWAT C H E 38 ファイナンス 2025 Nov.囲である4%±2%の水準に収まっている。このように経済の基盤となる財政・金融・物価環境の安定が、インドのポテンシャルを十分に引き出し、高い経済成長が実現されていると言えるだろう。インドはその独立100 周年となる2047 年に先進国入りする目標(Viksit Bharat 2047)を掲げており、足元の高い成長率を続ける・更に上昇させるべく経済政策の舵取りが行われている。一方、インドの経済成長における課題として、世界銀行は輸出の多様化・グローバルバリューチェーン(GVCs)への参画の必要性を指摘している。貿易についてみれば、インドの貿易額(対 GDP 比)は過去10 年程度で減少しており、他のグローバルサウス諸国よりも低い水準となっている(図 1)。また、GVCsへの参画についても他のグローバルサウス諸国よりも低いと指摘されている。GVCs への参画の形態としては、国境を複数回跨ぐ貿易の中で、(ア)当該国の輸出に占める他国の付加価値の割合によって測られる後方参加、(イ)輸出先国から第三国への輸出に占める当該国の付加価値の割合によって測られる前方参加の2 種類があるが、OECD のデータによれば、インドのGVCs への後方参画は 2010 年代初頭をピークに低下しており、他のグローバルサウス諸国よりも低い(図2-1、2-2)*1。輸出される財は石油精製品、電子機器、医薬品といった高付加価値・非労働集約的な財に集中していることもあり、貿易がもたらすインド国内での雇用創造は限定的となっている(図 3)。これは中間財への高い関税・非関税障壁によりグローバルな市場2024 年度の実質成長率は+6.5%と他のグローバルサウ在インド日本国大使館二等書記官(兼在ブータン日本国大使館) 冨田 駿*1) OECD のデータ上、(1)純粋な後方参加、(2)純粋な前方参加、(3)前方・後方参加の 3 類型に分けられていることから、今回、後方参加については(1)+(3)、前方参加については(2)+(3)により算出している。O R EIGNO R EIGNFFRR14 億人を越える世界最大の人口を持ち、グローバルサウスの中でも極めて順調な成長を見せ、日本・日系企業からの注目度も非常に高いインドだが、その広大さ・多様性も相まって、日本からその経済政策を理解することは必ずしも容易ではない。2023 年 6月の着任から2 年強のインド生活を経た筆者の目線から、インドの経済政策の基盤となっている「Self-Reliant India(自立したインド)」という考え方について解説したい。なお、本稿で示す見解は、筆者の個人的な見解であり、誤りがある場合には筆者個人に責任があると共に、筆者の所属する組織を代表するものではない点、留意されたい。インドはコロナ禍以降順調な経済成長を見せており、スと比べても高い水準となっている。一般政府の債務残高対 GDP 比は82%(2024 年度)と新興国にしてはやや高めの水準であるが、順調な経済成長と歳出改革努力の進捗から財政状況は不安視されていない。また、高まっていた国内公的銀行の不良債権比率は2018 年をピークに徐々に低下しており、健全と言える水準まで低下している(2025 年 3月末時点で 2.8%)。今年に入ってからは、順調な農業生産を背景に物価上昇圧力が緩和されており、インフレ率は概ね中央銀行の物価目標範 1 1 はじめに 2 2 インドの経済状況と課題海外ウォッチャー「Self-Reliant India」に見るインドの成長戦略・経済思想・地経学
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