ファイナンス 2025年10月号 No.719
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体制・リソース強化を目指し、東京総会までに成案を得るべく、1 年前に作業部会を設立。日本を含む作業部会のメンバーが月に 1 度ビデコンを重ねてきたものの、結局見方が収斂しなかった。最終的には、当該課題について、最低限度の対応で乗り切ろうとするオプション 1 と、解決のために追加的な対応も包含するオプション 2 の 2 つを準備した。オプション 1 は、各法域の負担が小さく、然程の体制強化は見込まれないもの、オプション 2 は、各法域の負担は大きいものの、しっかりとした体制強化が期待できるものである。東京総会の 1 か月前に、上記提案について事前に全メンバーの見解が問われたところ、日本のほか数法域がオプション 2 を支持するも、結局その 2 倍の法域がオプション 1 を支持。これを眺めた事務局は、なお旗幟を鮮明にしない法域も相応にあったことを理由に、オプション 2 を消すことなく両論の総会上程を決定。なお劣勢が明白な状況下で、総会の場で日本席を担う立場としてどうすべきか。(1)主要法域に対する事前の根回し、(2) 別議題であっても、オプション 2 の支持につながる要素を主張、(3)セッションでの発言順序を戦略的に考慮、という作戦で臨んだ。まず(1)に関して、日本は総会全体の共同議長の立場もあることから、個別案件で目立つ動きが及ぼす影響にも配意しなければならない。他方、議論の帰趨は本番が始まる前に決していることも多い。そこでまず、セッション直前のランチを活用して、意見を同じくする法域と改めて連携を確認した。次に(2)については、多くのセッションで直接・間接に日本支持につながりそうな要素を繰り返し発言し、言わば「場を温める」ことに注力した。「日本の言うことはもっともだ」という議場の雰囲気醸成に努めたのである。そして、最後の(3)は、元々反対派に発言させた後にカウンターを試みる想定であった。ところが、議場で、オプション1支持法域の代表団が急にヒソヒソと相談し始めたのが偶然目に入った。冷や水を浴びせられるのはまずいとすかさず旗を立て、共同議長から発言を認められると、「今日の議論も踏まえれば、やはりオプション 2 が適切ではないか」と口火を切った。少し遅れて旗を立てた先の代表団がオプション1支持を表明したものの、ランチで同盟を約したメンバーがオプション 2 支持と流れを引き戻すと、過去立場を明確にしてこなかった法域を中心に、日本支持の発言が相次ぐことになった。これを眺めたオプション1支持のいくつかのメンバーが、「仕方ないわね」といった表情を浮かべながら、合意のブロック(阻害)まではしないと曖昧な発言をしていたのが印象的であった。事前の見立てでは劣勢であったものの、最終的には、共同議長としての採決の取り方や事務局との連携といった進め方もうまく組み合わさり、大逆転につなげることができた。APG 事務局の幹部らからも後に「我々の将来を決める重要な一歩を日本が決定づけてくれた」と大いに感謝され、意義ある合意形成を主導する好事例となった。実務的に見れば、共同議長やホストの立場は苦労も多いが、それだけの価値があることを痛感した。ファイナンス 2025 Oct. 5議場にて発言を行う山﨑企画官(向かって左)議場にて発言を行う山﨑企画官(向かって左)特集APG年次総会の 東京開催の模様とその成果

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