連載PRI Open Campus 5. EBPM にとどまらない協働の あり方ことで、日本経済新聞の方から相談を受けて、私もメンバー選定などに協力しました。特定の 1 人の経済学者が様々な時事問題に関して、「経済学的に正しいですか?」と問われると、かなり答えづらいはずです。けれども、自分以外にも 50 人近くが答えて、自信がない回答に関しては、正直に「自信がない」と言えるというスタイルであれば、さほど負担もなく引き受けてくれるかもしれません。そう期待していたのですが、実際に始めてみると予想以上に上手く機能しており、社会に対しても大きなインパクトを生み出せているように感じます。経済学者はインセンティブを重視するので、「フリーライダー」の塊かと思っていたのですが(笑)、意外にも「正しい経済学知を広めるために頑張りましょう」と賛同し、協力してくださる方がたくさんいました。大西)世の中の多くの人は、「この研究者は信用できる」、「この研究者は怪しい」という見分けができないために、「悪貨が良貨を駆逐する」状況が生じているように思うのですが、「エコノミクスパネル」は、1人 1 人の経済学者を前面に出すのではなく、経済学界の集合知を可視化することで、上手くこの状況に対処していると思います。宮本)「エコノミクスパネル」の内容は、日本経済新聞を日々読んでいるような人には良く理解してもらえると思います。ただ一方で、ショート動画や切り抜き動画といった形でしか情報を得ていない人に、どうやって適切な情報を届けるのかは依然として課題です。財務省をはじめ、行政サイドも、情報発信のあり方を工夫していく必要があるのではないでしょうか。安田)数か月前に NHK が、財務省の国債発行チームに密着取材した番組を放映しましたが、財務省の職員が国債を買ってもらうために大変苦労している姿は大きな反響を呼びました。あのような内部を見せるタイプの情報発信は、もっと積極的にやる価値があると思います。財務省職員が「売れっ子 YouTuber」になるのは難しいので、外からメディアを受け入れて取材してもらって、そこに財務省の伝えたいメッセージを載せることができれば良いのではないでしょうか。片野)最近は主計局の課長が「PIVOT」の番組に出演するなど、省内全体でメディア発信のあり方を積極的に変えていこうという空気を感じます。大西)財務省の政策スタンスについては、「結論」の部分しか見えておらず、そこに至る思考のプロセスが伝わっていないために、様々な陰謀論の温床になっているのではないかと思います。その観点では、財務省の職員 1 人 1 人が日頃どういった情報やデータに接していて、実務の現場でどういった苦悩や困り事に直面しているのか、そうした背景の中でどういう議論をして、「結論」につながっているのか、ということをオープンに見てもらえるようにすることも重要かもしれません。大西)最近の経済学は実証分析が隆盛で、霞ヶ関の中でも「経済学=データ分析」、「経済学= EBPM(証拠に基づく政策立案)」というような捉え方がなされているように感じます。他方で、経済学はもっと裾野の広い学問だと思います。例えば、最近の霞ヶ関は、データ分析や因果推論を行って、「効果が確認された政策は実施する」、「効果が確認されない政策は止める」というような、短絡的な議論に終始しがちだと思うのですが、そもそも経済学の基礎的な理論に立ち返って考えてみれば、政府の政策的介入を正当化するためには、そこに市場の失敗があるとか、外部性があるとか、公共財だから政府が供給する、というような理屈をきちんと立てるべきだと思います。そういったPRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 48ファイナンス 2025 Oct. 41座談会の様子
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